(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】共重合体、顔料分散剤、及び顔料分散液
(51)【国際特許分類】
C08F 222/00 20060101AFI20250709BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20250709BHJP
C08F 212/08 20060101ALI20250709BHJP
C08L 35/06 20060101ALI20250709BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250709BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20250709BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20250709BHJP
【FI】
C08F222/00
C08F230/02
C08F212/08
C08L35/06
C08K3/013
C08K5/00
C09D17/00
(21)【出願番号】P 2021096853
(22)【出願日】2021-06-09
【審査請求日】2024-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深澤 甲
(72)【発明者】
【氏名】小久江 侑樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-514864(JP,A)
【文献】特開2014-169398(JP,A)
【文献】特開2009-161621(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109796561(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109265623(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09C 1/00-3/12
C09D 1/00-10/00
C09D 11/00-13/00
C09D 15/00-17/00
C09D 101/00-201/10
C08F 290/00-290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体に由来する構造単位(A)、
下記一般式(1)で表される構造単位(B)、
【化1】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、但し、それらのうちの1つは-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、
M
1は、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。
m1及びm2は、それぞれ独立して、0又は1、
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、-O-、又は-NH-、
または、R
1もしくはR
2とX
1は一緒になって-CON<を表し、
A
1及びA
2は、それぞれ独立して、は炭素原子数2~4のアルキレン基、
n1及びn2は、アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、それぞれ独立して、
20~100の数、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至24の炭化水素基を表す。)
および、
下記一般式(2)で表される単量体に由来する構造単位(C)
【化2】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基、
A
3は炭素原子数2~4のアルキレン基、
pは、アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1~30の数、
qは1または2、
M
2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
を有する共重合体
であって、
前記共重合体の全構造単位における各構造単位の割合が、構造単位(A)が5~30質量%、構造単位(B)が40~85質量%、構造単位(C)が5~30質量%である
共重合体。
【請求項2】
前記構造単位(B)が、不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、下記一般式(3)または(4)で表される化合物とを反応させることにより得られる単量体に由来するものである、請求項1に記載の共重合体。
R
4O-(A
1O)
n1-H (3)
R
4O-(A
1O)
n1-NH
2 (4)
(式中、R
4、A
1、及びn1は、前記と同じ意味を表す。)
【請求項3】
重量平均分子量が10,000以上50,000以下である、請求項1
又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の共重合体を含有する、顔料分散剤。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の共重合体、顔料、及び分散媒を含有する、顔料分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、及びそれを含有する顔料分散剤、並びに顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への取り組みや安全上の理由から、インクや塗料の水性化が進んでいる。しかしながら、無機顔料や有機顔料はいずれも水に対する親和性が低く、水に分散させることは容易ではない。このような背景から、インクや塗料などの顔料分散体組成物において、顔料の分散性を向上させることのできる分散剤が開発されている。
【0003】
顔料用の分散剤としては、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸塩、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物等の高分子分散剤が知られている。これらの高分子分散剤は、立体障害効果により顔料分散体の長期保存安定性に効果を有するが、分子量が大きいため、溶媒の顔料へのぬれ性(湿潤効果)はほとんど得られない。また、高分子分散剤は、分子中の複数の吸着基により一つの分子が複数の粒子に吸着するいわゆる橋架け凝集が起こりやすく、特に顔料が高濃度のとき、顔料粒子の凝集や沈降を引き起こすことがあった。
【0004】
一方、湿潤作用を有する顔料分散剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシエチレントリブロック共重合体、アルコキシポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩等のアニオン界面活性剤等が知られている(特許文献1、2参照)。また、スチレン-無水マレイン酸共重合体にポリアルキレングリコール鎖をグラフト化したくし形共重合体を含む湿潤兼分散剤や、該くし形共重合体と界面活性剤を併用した顔料分散樹脂組成物が知られている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-352861号公報
【文献】特開2005-54128号公報
【文献】特表2010-514864号公報
【文献】国際公開第2015/152042号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非イオン界面活性剤からなる顔料分散剤は、顔料粒子に対する湿潤性を有するため顔料の初期分散性には効果を有するものの、顔料粒子間にはたらく斥力が不十分であり、長期保存下においては顔料粒子の凝集や沈降を引き起こすことがあった。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル塩は、顔料の初期分散性及び長期保存安定性に効果を有するものの、起泡性が高いという問題があった。
一方、特許文献3や特許文献4に記載されているくし形共重合体は、酸化チタンのような親水化処理された顔料粒子への吸着力が弱く、十分な粘度低減効果が得られないという問題があった。
本発明は、上記先行技術の問題点に鑑みなされたものであり、顔料の初期分散性と分散安定性に優れ、かつ低起泡性である共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、顔料分散剤として特定の共重合体を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の[1]~[6]に関するものである。
[1]スチレン系単量体に由来する構造単位(A)、
下記一般式(1)で表される構造単位(B)、
【化1】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、但し、それらのうちの1つは-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、
M
1は、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。
m1及びm2は、それぞれ独立して、0又は1、
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、-O-、又は-NH-、
または、R
1もしくはR
2とX
1は一緒になって-CON<を表し、
A
1及びA
2は、それぞれ独立して、は炭素原子数2~4のアルキレン基、
n1及びn2は、アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、それぞれ独立して、3~100の数、
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至24の炭化水素基を表す。)
および、
下記一般式(2)で表される単量体に由来する構造単位(C)
【化2】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基、
A
3は炭素原子数2~4のアルキレン基、
pは、アルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1~30の数、
qは1または2、
M
2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
を有する共重合体。
[2]前記構造単位(B)が、不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、下記一般式(3)または(4)で表される化合物とを反応させることにより得られる単量体に由来するものである、[1]に記載の共重合体。
R
4O-(A
1O)
n1-H (3)
R
4O-(A
1O)
n1-NH
2 (4)
(式中、R
4、A
1、及びn1は、前記と同じ意味を表す。)
[3]前記共重合体の全構造単位における各構造単位の割合が、構造単位(A)が1~30質量%、構造単位(B)が20~85質量%、構造単位(C)が1~30質量%である、[1]又は[2]に記載の共重合体。
[4]重量平均分子量が10,000以上50,000以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の共重合体を含有する、顔料分散剤。
[6][1]~[4]のいずれかに記載の共重合体、顔料、及び分散媒を含有する、顔料分散液。
【発明の効果】
【0008】
本発明の共重合体やそれを含有する顔料分散剤を用いることで、顔料の初期分散性と分散安定性に優れ、かつ泡立ちの少ない顔料分散液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の共重合体、顔料分散剤、及び顔料分散液について詳述する。
【0010】
<構造単位(A)>
本発明の共重合体は、スチレン系単量体由来の構造単位(A)を有する。
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4-ジメチルスチレン、ハロゲンで核置換されたスチレン、1-ビニルナフタレン、p-メチルスチレン、p-プロピルスチレン、p-シクロヘキシルスチレン、p-ドデシルスチレン等の芳香族ビニル単量体が挙げられる。これらの中でも、スチレン、またはα-メチルスチレンが好ましい。
【0011】
本発明の共重合体の全構造単位中、構造単位(A)の割合は、顔料表面への吸着をより強固にし、また水系顔料分散液の乾燥性を高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、そして、水系顔料分散液の分散安定性の観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0012】
<構造単位(B)>
本発明の共重合体は、一般式(1)で表される構造単位(B)を有する。
【0013】
【化3】
(式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、但し、それらのうちの1つは-(CH
2)
m2-COOM
1、もしくは-(CH
2)
m2-COX
2-(A
2O)
n2-R
5を表し、
M
1は、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。
m1及びm2は、それぞれ独立して、0又は1
X
1及びX
2は、それぞれ独立して、-O-、又は-NH-、
または、R
1もしくはR
2とX
1は一緒になって-CON<を表し、
A
1及びA
2は、それぞれ独立して、は炭素原子数2~4のアルキレン基
n1及びn2は、それぞれ独立して、3~100の数
R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素原子数1乃至24の炭化水素基を表す。)
【0014】
一般式(1)中、A1O及びA2Oは、それぞれ独立して、炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基を示し、具体的には、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が挙げられる。A1O及びA2Oは、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基又はブチレンオキシ基のみから構成されていてもよいし、これら2種以上の基を含んでいてもよい。2種以上の基を含む場合、それらの付加形態はランダム付加、ブロック付加のいずれであってもよい。
n1及びn2は、アルキレンオキシ基の平均付加モル数を示し、3~100の数であるが、顔料粒子間に立体的斥力をもたらし、顔料粒子同士の凝集を抑制する観点から、好ましくは10~80の数、さらに好ましくは20~70の数である。
【0015】
一般式(1)中、R4及びR5は、それぞれ独立して、炭素原子数1~24の炭化水素基を表し、具体的には、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アリール基が挙げられる。これらの中でも、顔料分散液の分散安定性の観点から、炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0016】
構造単位(B)としては、不飽和ジカルボン酸またはその無水物と、下記一般式(3)または(4)で表されるポリオキシアルキレン基を有する化合物とを反応させることにより得られる単量体(b)に由来するものであっても、不飽和ジカルボン酸またはその無水物を他の単量体と共重合した後に一般式(3)または(4)で表される化合物を反応させてグラフト化したものであってもよいが、共重合体の製造容易性の観点から、単量体(b)に由来するものが好ましい。
R4O-(A1O)n1-H (3)
R4O-(A1O)n1-NH2 (4)
(式中、R4、A1、及びn1は、前記と同じ意味を示す。)
【0017】
不飽和ジカルボン酸またはその無水物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0018】
前記単量体(b)としては、例えば、不飽和ジカルボン酸と、前記一般式(3)で表される化合物とのエステル化反応により得られるモノエステルまたはジエステルや、不飽和ジカルボン酸と、一般式(4)で表される化合物とのアミド化またはイミド化反応により得られる化合物が挙げられ、公知の方法により得ることができる。具体的には、メトキシポリエチレングリコールモノマレート、メトキシポリプロピレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレングリコールジマレート、メトキシポリプロピレングリコールジマレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジマレート、メトキシポリエチレングリコールモノイタコネート、メトキシポリプロピレングリコールモノイタコネート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイタコネート、メトキシポリエチレングリコールジイタコネート、メトキシポリプロピレングリコールジイタコネート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジイタコネート、メトキシポリエチレングリコールモノフマレート、メトキシポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールジフマレート、メトキシポリプロピレングリコールジフマレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールジフマレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノアミンと不飽和ジカルボン酸とのアミド化物やイミド化物等が挙げられる。
これらの単量体は、単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
本発明の共重合体の全構造単位中、構造単位(B)の割合は、顔料粒子同士の凝集を抑制して分散安定性を付与する観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、そして、水系顔料分散液の乾燥性や抑泡性の観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0020】
<構造単位(C)>
本発明の共重合体は、一般式(2)で表されるリン酸基を有する単量体(c)に由来する構造単位(C)を有する。
【0021】
【化4】
(式中、R
6は、水素原子またはメチル基、
A
3は炭素原子数2~4のアルキレン基、
pはアルキレンオキサイドの平均付加モル数であって、1~30の数、
qは1または2、
M
2は水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
【0022】
一般式(2)中、A3Oは炭素原子数2~4のアルキレンオキシ基を示し、具体的には、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基及びブチレンオキシ基が挙げられる。A3Oは、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基又はブチレンオキシ基のみから構成されていてもよいし、これら2種以上の基を含んでいてもよいが、低泡性の観点からは、プロピレンオキシ基をアルキレンオキシ基の総質量に基づいて50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上であればより好ましい。2種以上の基を含む場合、それらの付加形態はランダム付加、ブロック付加のいずれであってもよい。
pはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、1~30の数であるが、顔料の分散性の観点から、好ましくは2~20の数、より好ましくは3~10の数である。
【0023】
単量体(c)としては、リン酸モノエステル体(式(2)中のqが1の場合)、リン酸ジエステル体(qが2の場合)、またはそれらの混合物が挙げられる。モノエステル体とジエステル体の混合物を用いる場合、重合時の分子量制御の観点から、モノエステル体の比率が60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。
【0024】
単量体(c)は、公知の方法により製造することができる。例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートにアルキレンオキサイドを付加させた後、得られた付加物に対してリン酸化剤を反応させてリン酸エステル化することにより得ることができる。
【0025】
上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。
【0026】
上記アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらアルキレンオキサイドを反応させることにより、上記一般式(2)における-(A3O)-を形成する。
【0027】
上記リン酸化剤としては、例えば、オルトリン酸、五酸化リン(無水リン酸)、ポリリン酸、オキシ塩化リン等の公知のリン化合物を使用できる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
本発明の共重合体の全構造単位中、構造単位(C)の割合は、顔料の分散性や、低泡性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0029】
<その他の構造単位>
本発明の共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、構造単位(A)、(B)及び(C)以外のその他の構造単位を含んでもよい。
その他の構造単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらの塩、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレートなどの芳香族環を含む(メタ)アクリル酸エステル化合物、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル化合物に由来する構造単位が例示できる。
【0030】
本発明の共重合体の全構成単位中、前記その他の構成単位の割合は、本発明の効果を発現させる観点から、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0031】
<共重合体の製造方法>
本発明の共重合体は、スチレン系単量体(a)、前記単量体(b)及びリン酸エステル系単量体(c)を含む単量体混合物を溶液重合法で重合させる等、公知の方法で得ることができる。溶液重合に用いられる溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;エタノール、2-プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、メトキシプロピルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。溶媒の量は、単量体全量100質量部に対し、好ましくは50質量部以上1000質量部以下である。
【0032】
重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、アゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンペルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤の量は、モノマー全量100モルに対し、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上、更に好ましくは3モル以上であり、そして、好ましくは15モル以下、より好ましくは12モル以下、更に好ましくは9モル以下である。重合反応は、好ましくは窒素雰囲気で行い、反応温度は、好ましくは60℃以上180℃以下、反応時間は、好ましくは0.5時間以上20時間以下である。
【0033】
重合の際には、さらに連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、メルカプトコハク酸等のメルカプタン類;チウラムジスルフィド類;炭化水素類;α-メチルスチレン等の不飽和環状炭化水素化合物;不飽和ヘテロ環状化合物;等が挙げられ、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0034】
<共重合体>
本発明の共重合体において、構造単位(A)、構造単位(B)、及び構造単位(C)の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよいが、共重合体の製造容易性の観点から、好ましくはランダム及びブロックから選ばれる少なくとも1種である。また、水系顔料分散液の分散安定性の観点から、共重合体中の酸基が塩基性化合物により部分中和または完全中和されていることが好ましい。塩基性化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-アミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール等の有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
本発明の共重合体の重量平均分子量は、分散性向上の観点から、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは18,000以上であり、そして、分散性向上及び共重合体の製造容易性の観点から、好ましくは50,000未満であり、より好ましくは40,000以下、更に好ましくは30,000以下である。なお、重量平均分子量の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0036】
<顔料分散剤>
本発明の共重合体は、顔料に優れた初期分散性と分散安定性を付与できることから、顔料分散剤として好適に用いることができる。
本発明の顔料分散剤は、前記共重合体の他に、本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記共重合体製造時の未反応の単量体や副生成物、反応溶媒、水及び有機溶剤を含有していても良い。
【0037】
<顔料分散液>
本発明の顔料分散液は、本発明の共重合体を用いて顔料の粉体、粉体の原鉱石又は粗粒子を水系媒体等の分散媒中に分散させることにより得ることができる。
顔料としては、有機顔料及び無機顔料等が挙げられる。
有機顔料としては、β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系、ピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系、β-オキシナフトエ酸系アニリド系、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、銅フタロシニンブルー、ハロゲン化銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、イソシンドリノン系、キナクリドン系、ジオキサンジン系、ペリノン系及びペリレン系等の多環式又は複素環式化合物等が挙げられる。
無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、アルミナ、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト及びチタンブラック等が挙げられる。
【0038】
分散媒としては、特に限定されるものではなく、水、水とエタノール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒との混合溶液、有機溶媒が挙げられるが、好ましくは水である。
有機溶媒としては、キシレン、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、n-プロパノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、n-ブタノール及びメタノール等が挙げられる。
【0039】
本発明の顔料分散液中の顔料の含有量は、特に規定はないが、通常50~90質量%であり、55~85質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。また、顔料分散液中の本発明の共重合体の含有量は特に規定されないが、顔料100質量部に対して通常0.01~10質量部が好ましく、0.05~5質量部がさらに好ましく、0.05~3質量部が特に好ましい。
【0040】
本発明の顔料分散剤を使用して、顔料分散液を得る方法としては、通常のスラリー化方法が用いられる。例えば本発明の顔料分散剤を溶解した水溶液に顔料を添加して撹拌、混合する方法、顔料に水と本発明の顔料分散剤を加えて撹拌、混合する方法等が挙げられる。撹拌、混合する方法としては、例えば高速ディスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル等一般に用いられる湿式粉砕機を使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、配合量は質量部で示す。
【0042】
<重量平均分子量の測定方法>
本実施例において、重量平均分子量の測定には、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」ともいう)法を用いた。試料をTHF(テトラヒドロフラン)で希釈し、試料の固形分濃度0.05質量%の溶液を調整して試料溶液とし、その20μLを測定に供した。THFを溶離液として、GPC(装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」、検出器:示差屈折計(装置付属)、カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-M×2本、TSKgel SuperMultiporeHZ1000×1本、TSKgel SuperMultiporeHZ2000×1本」、カラム温度:40℃、溶離液流速:1mL/min)により、測定した。標準物質としては、標準ポリスチレン(東ソー株式会社製「PStQuick」)を用いた。
【0043】
[製造例1]
撹拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えたオートクレーブ中にマレイン酸44g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量2,000 東邦化学工業(株)製メトキシPEG2000)756gと、パラトルエンスルホン酸4gとを仕込み、窒素気流下、150℃で15時間撹拌反応した。冷却後、マレイン酸エステル化物(b-1)を得た。
【0044】
[製造例2]
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに代えてポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(EO/PO比率=2.4/1.0、分子量約2,000)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、マレイン酸エステル化物(b-2)を得た。
【0045】
[製造例3]
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに代えて、片末端アミノ化ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノメチルエーテル(ジェファーミンM2070(Huntsman社製))を用いたこと以外は製造例1と同様にして、マレイン酸アミド化物(b-3)を得た。
【0046】
[製造例4]
撹拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えたオートクレーブ中にイタコン酸49g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量2,000 東邦化学工業(株)製メトキシPEG2000)752gと、パラトルエンスルホン酸4gとを仕込み、窒素気流下、150℃で15時間撹拌反応した。冷却後、イタコン酸エステル化物(b-4)を得た。
【0047】
[製造例5]
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに代えてポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(EO/PO比率=2.4/1.0、分子量約2,000)を用いたこと以外は製造例4と同様にして、イタコン酸エステル化物(b-5)を得た。
【0048】
[製造例6]
ポリエチレングリコールモノメチルエーテルに代えて片末端アミノ化ポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノメチルエーテル(ジェファーミンM2070(Huntsman社製))を用いたこと以外は製造例4と同様にして、イタコン酸エステル化物(b-6)を得た。
【0049】
リン酸エステル系単量体(c)としては、次のものを用いた。
・単量体(c-1):メタクリロイルオキシポリオキシプロピレンリン酸エステル
(一般式(2)中、R6:メチル基、A3:プロピレン基、p:5、q:1)
・単量体(c-1):メタクリロイルオキシポリオキシエチレンリン酸エステル
(一般式(2)中 R6:メチル基、A3:エチレン基、p:5、q:1)
【0050】
[実施例1]
撹拌機、温度計、冷却管、窒素ガス導入管を備えた5つ口フラスコに、初期仕込みモノマー液としてスチレン2.7g、マレイン酸エステル化物(b-1)27.8g、アクリル酸ブチル5.1g、ドデシルメルカプタン0.1g及びメトキシプロピルアセテート12.2gを仕込み、窒素気流下80℃まで昇温し、同温度を保ちながら、開始剤液としてアゾビスイソブチロニトリル0.2g及びメトキシプロピルアセテート11.9gの混合液を滴下し、2時間反応させた。
次いで、同温度に保ちながら滴下モノマー液としてメタクリル酸メチル0.4g、リン酸エステル系単量体(c-1)3.7g、ドデシルメルカプタン0.1g、アゾビスイソブチロニトリル0.03g及びメトキシプロピルアセテート35.7gの混合液を滴下し、4時間反応させて、共重合体1の溶液を得た。
【0051】
[実施例2~11、比較例1~7]
「初期仕込み用モノマー」、「開始剤液」及び「滴下用モノマー液」の組成をそれぞれ表1の記載に従って変更したことを除いては、実施例1と同様の方法により、共重合体2~18の溶液を得た。不揮発分、並びに重量平均分子量は、表1に示した通りである。
なお、表中の略号は以下を意味する。
・St:スチレン
・AB:アクリル酸ブチル
・MMA:メタクリル酸メチル
・MAA:メタクリル酸
・PGMEA:メトキシプロピルアセテート
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
・DM:ドデシルメルカプタン
【0052】
(水系顔料分散液の調整方法)
共重合体1の溶液を2.5g(固形分換算で1.0g)と、イオン交換水26.5gを容量50mLガラス容器に入れ、pHが約7となるまで2-ジメチルアミノエタノールを滴下し中和した。中和液を容量200mLのポリプロピレン製容器に入れ、更に二酸化チタン(Ti-Pure R-902 ケマーズ社製)71gも同容器に入れた。
次いで、ホモディスパーにて混合撹拌(2,000rpm×15分)を行い、顔料分散液を得た。
実施例2~11、比較例1~7も同様な工程で顔料分散液を調整した。
【0053】
(泡立ち及び分散性の評価)
泡立ちの評価として、ホモディスパーで混合撹拌した直後の泡高さを測定した。
初期分散性と分散安定性の評価として、得られた顔料分散液の調整直後と50℃で7日間静置後の粘度測定評価を行った。
粘度測定は、ViscoMETER TVB-10、ローターNo.2、30回転、室温(25℃)にて行った。
結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
表1に示すとおり、本発明の共重合体を用いた実施例1~11の顔料分散液は、比較例1~7よりも初期分散性と分散安定性が優れており、また泡立ちも少なかった。