(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-08
(45)【発行日】2025-07-16
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/16 20060101AFI20250709BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20250709BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20250709BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20250709BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20250709BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20250709BHJP
【FI】
C09K3/16 102E
C08J3/20 Z CES
C08K5/103
C08K5/17
C08L23/00
C08L71/02
C09K3/16 103A
C09K3/16 106Z
(21)【出願番号】P 2021146292
(22)【出願日】2021-09-08
【審査請求日】2024-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000221797
【氏名又は名称】東邦化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
(72)【発明者】
【氏名】橋本 徹平
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-007854(JP,A)
【文献】特開2011-162595(JP,A)
【文献】特開2000-313875(JP,A)
【文献】特開2018-203854(JP,A)
【文献】特開2000-351875(JP,A)
【文献】特開平5-239445(JP,A)
【文献】特開平8-020766(JP,A)
【文献】米国特許第6117922(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/16
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)
を含む、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
【請求項2】
前記ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対するグリセリン脂肪酸エステルの含有量が1~50質量%、アルキルジエタノールアミンの含有量が10~50質量%、及びアルキルジエタノールアミンの脂肪酸エステルの含有量が20~80質量%である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
【請求項3】
前記ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対する遊離の脂肪酸の割合が5質量%以下である、請求項1または2に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂に対し、
グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)
を添加混合することを特徴とする、
ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂からなるペレットと、
グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)をドライブレンドしてペレット混合物を得る工程と、
該ペレット混合物を加熱混練する工程を有する、
ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤及びポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂に帯電防止剤を添加して成形品を製造する際に、帯電防止剤をあらかじめベース樹脂の一部と溶融混合してペレット化したマスターバッチが一般的に使用されている。高濃度の帯電防止剤を含むマスターバッチと帯電防止剤を含まない樹脂ペレットを混合することで、樹脂中に帯電防止剤を均一に分散させることができる。しかしながら、マスターバッチは製造コストが高く、またマスターバッチのベース樹脂と成形に用いる樹脂が必ずしも同一でないため、成形品の樹脂物性が低下する場合がある等の欠点がある。
【0003】
このような問題点を解決する手段として、帯電防止剤をマスターバッチと同様の形状にペレット化したものを用いることにより、ハンドリング性とコストダウンを同時に解決する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
特許文献1には、脂肪酸モノグリセライドと、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン及び/又はN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)脂肪酸アミドをそれぞれ別々に造粒して混合する帯電防止剤造粒混合物が開示されている。
特許文献2には、(A)ポリオキシアルキレンアルキルアミンの脂肪酸モノエステルと、(B)高級脂肪酸とを質量比で(A)成分/(B)成分=1/4~4/1の割合で溶融混合して得られる混合物をペレット化したポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許2876183号公報
【文献】特開2002-179849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、帯電防止剤のペレットをポリオレフィン系樹脂と直接混合して成形する場合、通常の混練条件では帯電防止剤が樹脂中に均一に分散せず、十分な効果が得られないことがある。また、本発明者らの検討の結果、混練時間を長くしたり、押出機に投入する前にあらかじめ樹脂ペレットと帯電防止剤のペレットを溶融混合すると、脂肪酸エステル成分とアミン成分が反応して脂肪酸が発生し、成形品の臭気の原因となることが分かった。
【0006】
本発明の目的は、かかる課題を解決すべく、マスターバッチと同等の帯電防止効果を発現し、かつポリオレフィン系樹脂組成物の成形後に臭気が発生しない、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤ペレットおよびそれを用いたポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)
を含む、ポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
[2]前記ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対するグリセリン脂肪酸エステルの含有量が1~50質量%、アルキルジエタノールアミンの含有量が10~50質量%、及びアルキルジエタノールアミンの脂肪酸エステルの含有量が20~80質量%である、[1]に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
[3]前記ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対する遊離の脂肪酸の割合が5質量%以下である、[1]または[2]に記載のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤。
[4]ポリオレフィン系樹脂に対し、
グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)
を添加することを特徴とする、
ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
[5]ポリオレフィン系樹脂からなるペレットと、
グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、
アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、
及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)をドライブレンドしてペレット混合物を得る工程と、
該ペレット混合物を加熱混練する工程を有する、
ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の帯電防止剤ペレットは、ポリオレフィン系樹脂に対し、添加初期から優れた帯電防止性と防曇性を付与することができる。
また、ポリオレフィン系樹脂成形品の透明性や滑り性を損なわず、臭気が発生することもない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤は、グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレット(A)、アルキルジエタノールアミンを主成分とするペレット(B)、及びポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とするペレット(C)を含むことを特徴とする。以下、本発明の構成について詳細に説明する。
【0011】
本発明において、ペレット(A)は、グリセリン脂肪酸エステルを主成分とするペレットである。
【0012】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、又はグリセリンと脂肪酸低級アルキルアルコールエステルとのエステル交換反応等の公知の方法によって得られるエステル化合物であって、好ましくはグリセリンと炭素数8~22の脂肪酸とから得られるモノエステルとジエステルであるが、トリエステルが存在していてもよい。
これらは蒸留したものであってもよいし、未蒸留のまま使用してもよい。
【0013】
炭素数8~22の脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレイン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらの中でも、帯電防止性、ブリード性の観点からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
【0014】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノオレート等が挙げられる。
【0015】
本発明において、「グリセリン脂肪酸エステルを主成分とする」とは、ペレット中のグリセリン脂肪酸エステルの含有量が70質量%以上であることを示し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、99質量%以上であってもよい。
ペレット(A)には、グリセリン脂肪酸エステル以外の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよいが、成形品の臭気を低減する観点から、遊離の脂肪酸の含有量が5質量%以下であれば好ましく、3質量%以下であればより好ましい。
【0016】
本発明において、ペレット(B)は、下記一般式(1)で表されるアルキルジエタノールアミンを主成分とするペレットである。
【化1】
(式中、R
1は炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0017】
アルキルジエタノールアミンとしては、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミンが挙げられ、特にステアリルジエタノールアミンが好ましい。
【0018】
なお、本発明において、「アルキルジエタノールアミンを主成分とする」とは、ペレット中のアルキルジエタノールアミンの含有量が70質量%以上であることを示し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、99質量%以上であってもよい。
【0019】
本発明において、ペレット(C)は、ポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステル(以下、「アミンエステル化合物」ともいう。)を主成分とするペレットである。
【0020】
アミンエステル化合物としては、炭素数8~22の炭化水素基を有するポリオキシエチレン脂肪族アミンと炭素数8~22の脂肪酸とから得られるモノエステルとジエステルが挙げられるが、良好な帯電防止効果を得る観点から、下記の一般式(2)で表されるモノエステルが好ましい。
【化2】
(式中、R
2は炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基、R
3は炭素数7~21のアルキル基又はアルケニル基を示し、p、qはエチレンオキサイドの平均付加モル数であって、p+q=1~10となる数を示す。)
で表わされる化合物である。
【0021】
アミンエステル化合物は、炭素数が8~22のアルキルアミン又はアルケニルアミン1モルに対し、エチレンオキサイドを1~10モル付加させることにより得ることができるポリオキシエチレンアルキルアミン又はポリオキシエチレンアルケニルアミンと、炭素数が8~22の飽和又は不飽和脂肪酸を反応させることにより得ることができる。
ポリオキシエチレンアルキルアミンまたはポリオキシエチレンアルケニルアミンとしては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンミリスチルアミン、ポリオキシエチレンパルミチルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミンが挙げられる。中でも、良好な帯電防止効果を得る観点から、一般式(2)中のp、qが、p+q=2~3のアミン化合物が好ましく、p+q=2のアミン化合物、具体的にはラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミンがより好ましく、特にステアリルジエタノールアミンが好ましい。
炭素数8~22の飽和又は不飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸が挙げられる。
【0022】
アミンエステル化合物として具体的には、ラウリルジエタノールアミンモノステアレート、ミリスチルジエタノールアミンモノオレエート、パルミチルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミンモノラウレート、ステアリルジエタノールアミンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミンモノオレート、ステアリルジエタノールアミンモノベヘネート、オレイルジエタノールアミンモノステアレート等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、一般式(2)で表される化合物を2種以上を混ぜ合わせて使用しても何ら支障はない。
【0023】
アミンエステル化合物の製造方法は特に限定されるものではないが、ポリオキシエチレンアルキルアミンまたはポリオキシエチレンアルケニルアミン1モルに対し通常0.5モル~2.0モルにて仕込んだ脂肪酸とを、190~230℃の温度で脱水反応することによりエステル化する方法、又は、脂肪酸メチルエステルとエステル交換反応による方法などで製造することができる。なお、これらの反応物は未反応のポリオキシエチレンアルキルアミン又はポリオキシエチレンアルケニルアミンを含んでいてもよい。
【0024】
なお、本発明において、「ポリオキシエチレン脂肪族アミンの脂肪酸エステルを主成分とする」とは、ペレット中のアミンエステル化合物の含有量が70質量%以上であることを示し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましく、99質量%以上であってもよい。ペレット(C)には、アミンエステル化合物以外の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよいが、成形品の臭気を低減する観点から、遊離の脂肪酸の含有量が5質量%以下であれば好ましく、3質量%以下であればより好ましい。
【0025】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を構成する各ペレットは、平均粒径が通常2~7mmの粒状体であるが、ハンドリング性や樹脂中に均一に分散させる観点から、平均粒径が3~6mmのペレットであることが好ましい。本発明において、平均粒径とは、ペレットの平均長径と平均短径の合計値を2で除した値である。
ペレットの形状は、球状、半球状、楕円球状、直方体状、円柱状、ストランド状等 定形性を有するものであっても、粉砕等によりチップ状になったものや、フレーク状のもののような不定形のものであってもよく、その形状は特に限定されない。
【0026】
本発明のペレットを得るためのペレット化の方法としては、公知の技術を使用することができる。例えば、冷却ベルト面に溶融した化合物を滴下し、半球状に造粒する方法や、半溶融状態でダイスからヌードル状に押し出し、円柱状に造粒する方法等が使用できる。
半球状にペレット化する装置として、例えばサンドビック社のロートフォーマー造粒機が挙げられる。
【0027】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤は、前記ペレット(A)、ペレット(B)、及びペレット(C)を含む。各ペレットは、帯電防止効果の観点から、ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対するグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%、更に好ましくは10~30質量%、アルキルジエタノールアミンの含有量が、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、及びアミンエステル化合物の含有量が、好ましくは20~80質量%、より好ましくは40~70質量%となるように配合することが好ましい。
また、ポリオレフィン系樹脂組成物の成形後の臭気を低減する観点から、ペレット(A)、ペレット(B)及びペレット(C)の合計質量に対する遊離の脂肪酸の割合が5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明のポリオレフィン系樹脂用帯電防止剤を使用するポリオレフィン系樹脂は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンの単独重合体、前記α-オレフィン同士の共重合体、前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体とα-オレフィンとの共重合体、及びこれらの混合物等である。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン-1、ブテン・エチレン共重合体が挙げられる。これら単独または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0029】
前記α-オレフィンと共重合可能なα-オレフィン以外の単量体としては、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等を挙げることが出来る。
【0030】
ポリオレフィン系樹脂と本発明の帯電防止剤とを加熱混練することにより、ポリオレフィン系樹脂組成物を得ることができる。加熱混練には、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー、一軸押出機及び多軸押出機などの公知の混合機又は押出機を用いることができる。本発明の帯電防止剤を構成する各ペレットは、それぞれ別々にポリオレフィン系樹脂に添加してもよいし、予めドライブレンドしてからポリオレフィン系樹脂に添加することもできる。また、帯電防止剤成分の樹脂への分散を容易にし、加熱混錬時の脂肪酸の発生を抑制して成形品の臭気を低減する観点から、樹脂ペレットと帯電防止剤ペレットを加熱混錬する前にあらかじめドライブレンドしておくことが好ましい。
【0031】
ポリオレフィン系樹脂組成物に含まれる本発明の帯電防止剤の含有量に特に限定はないが、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.5~2質量部、特に好ましくは0.8~1.5質量部である。この範囲内とすると、特に帯電防止性に優れたポリオレフィン系樹脂成形品を提供することができる。
【0032】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で通常ポリオレフィン系樹脂組成物に用いられる各種添加剤を添加することができる。各種添加剤としては、例えば、防曇剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、安定剤、スリップ剤、粘着性付与剤、アンチブロッキング剤などが挙げられる。
【0033】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物は、フィルム、シート、ボトル、フィラメント、射出成形品など、あらゆる成形体に成形することができる。
【0034】
前記ポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなるポリオレフィン系樹脂フィルムの製造方法としては、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が例示できるが、中でも、Tダイを用いて溶融混練して押し出すTダイ法が好ましい。Tダイ法の製法例としては、ポリオレフィン系樹脂のペレットと、本発明の帯電防止剤ペレットを押出機ホッパーに供給し、押出機を例えばシリンダー温度180~240℃、Tダイ温度200~230℃に加熱し、溶融混練して押し出し、20~40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚さ100~500μmの未延伸シートを得る。フィルムに強度やその他の機能を付与する目的に共押出し法や、他のフィルムなどのラミネーションによる多層化もできる。
【0035】
未延伸シートの二軸延伸方法としては、テンター方式による同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。同時二軸延伸の代表例としては、上述の如く得られた未延伸シートを予熱・延伸温度70~90℃、熱固定温度100~150℃のテンターにて面倍率9~16倍に延伸しフィルムを得る。また、逐次二軸延伸の代表例としては、未延伸シートを駆動ロールの回転速度比によって縦方向にロール表面温度50~80℃、延伸倍率1.5~5倍で延伸し、引き続き連続して横方向に延伸温度50~90℃、延伸倍率1.5~8倍、熱固定温度100~150℃の条件下で延伸しフィルムを得る。
【0036】
ポリオレフィン系フィルムの厚みは特に制限なく、用途、要求性能、価格等によって適宜設定すればよい。一般的には、10~100μm程度の厚さを例示できる。さらに、フィルムの印刷性、ラミネート性、コーティング適性等を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸処理等が挙げられ、いずれの方法も用いることができる。これらの中では、簡便さの点からコロナ放電処理が最も好ましいものとして例示できる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に指定のない限り、配合量は質量部で示す。
【0038】
本実施例において、ペレットの平均粒径及び帯電防止剤ペレット中の遊離脂肪酸量の測定は、下記の方法により行った。
<ペレットの平均粒径>
10個以上のペレットの長径及び短径をノギスで測定し、それぞれの平均値を、そのペレットの平均長径又は平均短径とする。算出された平均長径と平均短径の合計値を2で除した値を、そのペレットの個数平均粒径とする。
【0039】
<遊離脂肪酸量の測定方法>
各帯電防止剤ペレットの混合物を、ペレット(A)~(C)の混合比率に対して測定試料中の各成分の比率に偏りが出ないよう、十分量を採取し溶解した後、速やかにガスクロマトグラフィー測定に供した。ガスクロマトグラフィーは、GC-2010Plus(島津製作所)を用いて、下記の条件下で測定した。
(測定条件)
キャピラリーカラム:CP-Sil 8 CB for Amines(J&W Scientific社製)、
移動相:ヘリウム、カラム内流量:1.0mL/分、昇温プログラム:100℃保持1分間→100~320℃(10℃/分昇温)→320℃保持10分間、平衡化時間:1分間、注入口:スプリット注入(スプリット比:100:1)、圧力14.49psi、104mL/分、注入量:2μL、洗浄バイアル:クロロホルム、検出器温度:320℃
【0040】
<帯電防止剤ペレットの製造方法>
(実施例1)
グリセリンモノステアレート(a-1)を配合槽に仕込み、80℃になるまで加熱して液化したのち、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、帯電防止剤ペレット(A-1)を得た。
同様に、ステアリルジエタノールアミン(b-1)とステアリルジエタノールアミンモノステアレート(c-1)をそれぞれ造粒し、ペレット(B-1)とペレット(C-1)を得た。
各ペレットをA-1/B-1/C-1=30/20/50の質量比で混合機にて混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0041】
(実施例2)
実施例1で得た各ペレットをA-1/B-1/C-1=10/20/70の質量比で混合機にて混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0042】
(実施例3)
同様に、グリセリンモノパルミテート(a-2)、パルミチルジエタノールアミン(b-2)、及びパルミチルジエタノールアミンモノステアレート(c-2)をそれぞれ加熱溶融してロートフォーマー造粒設備で造粒し、ペレット(A-2)、ペレット(B-2)及びペレット(C-2)を得た。
各ペレットをA-2/B-2/C-2=30/20/50の質量比で混合機にて混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0043】
(実施例4)
実施例3で得た各ペレットをA-2/B-2/C-2=10/20/70の質量比で混合機にて混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0044】
(比較例1)
ステアリルジエタノールアミンモノステアレート(c-1)とステアリン酸を50/50の質量比で溶融混合し、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、混合物ペレット1を得た。
【0045】
(比較例2)
パルミチルジエタノールアミンモノステアレート(c-2)とパルミチン酸を50/50の質量比で溶融混合し、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、混合物ペレット2を得た。
【0046】
(比較例3)
ステアリルジエタノールアミンモノステアレート(c-1)とステアリン酸を60/40の質量比で溶融混合し、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、混合物ペレット3を得た。
実施例1で得たペレット(A-1)と混合物ペレット3を50/50の質量比で混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0047】
(比較例4)
パルミチルジエタノールアミンモノステアレート(c-2)とパルミチン酸を60/40の質量比で溶融混合し、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、混合物ペレット4を得た。
実施例3で得たペレット(A-2)と混合物ペレット4を50/50の質量比で混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0048】
(比較例5)
実施例1で得たペレット(A-1)とペレット(B-1)を、A-1/B-1=50/50の質量比で混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0049】
(比較例6)
実施例3で得たペレット(A-2)とペレット(B-2)を、A-2/B-2=50/50の質量比で混合し、帯電防止剤ペレットの混合物を得た。
【0050】
(比較例7)
グリセリンモノステアレート、ステアリルジエタノールアミン、及びステアリルジエタノールアミンモノステアレートを30/20/50の質量比で溶融混合し、ロートフォーマー造粒設備で平均粒径が4mmの半球状ペレットを造粒し、混合物ペレット5を得た。
【0051】
<フィルムの製造方法>
前記帯電防止剤ペレットを、メルトフローレート7.5g/10分のポリプロピレン樹脂ペレット100質量部に対し、1質量部の割合で混合した。なお、混合はポリエチレン製の袋に加え手で振り混ぜる方法でドライブレンドすることにより行った。
その後、帯電防止剤ペレットと樹脂ペレットの混合物を押出機に供給し、Tダイ法によって無延伸のフィルム(CPP)を作製した。作製したフィルムを温度25℃、湿度50%の恒温槽に1日または14日保存後、下記基準にて帯電防止性(表面固有抵抗値)および防曇性を評価した。また、成形したフィルムを前記条件にて14日保存後、下記基準にて滑り性(摩擦係数)および透明性(HAZE)を評価した。また、成形したフィルムを前記条件にて1日保存後、下記基準にてフィルムの臭気を評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
(1)帯電防止性(表面固有抵抗値)
作製後のフィルムを25℃、50%RH雰囲気下にて、高抵抗絶縁試験機(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製、ハイレスタUP MCPHT450)を用い、フィルムを主電極と対向電極との間に挟み、JIS-K-6911に従って印加電圧500Vにて表面固有抵抗値を測定した。
【0053】
(2)防曇性
200mlビーカーに水を100ml入れ、作製後のフィルムをビーカーの上において輪ゴムで固定し、恒温機(5℃)にて30分保管する。その後、ビーカーの下に文字を書いた紙を置き、フィルム表面と下に置いた文字がどの程度見えるかを観察した。
5:フィルム表面の濡れている面積が95%以上であり、下の文字が明確に見える。
4:フィルム表面の濡れている面積が50%以上95%未満であり、下の文字が判読できる。
3:フィルム表面の濡れている面積が30%以上50%未満であり、下の文字が滲んで見える。
2:フィルム表面の濡れている面積が10%以上30%未満であり、下の文字が滲んで見える。
1:フィルム表面の濡れている面積が0%以上10%未満であり、文字が見えない。
【0054】
(3)臭気
縦30cm×横30cmにカットしたフィルム50枚分をポリエチレン製袋内に封入し、80℃で24時間保管した後に、内容空気の臭気を官能評価により評価した。臭気の指標は以下の5段階の基準で判定し、臭気確認の参加者10名の中央値を算出して評価結果とした。
5: 臭気が僅かにあるが、不快臭無し。
4: 臭気があるが、不快臭無し。
3: 臭気があって、やや不快に感ずる。
2: 臭気があって、不快に感ずる。
1: 臭気が強く、非常に不快に感じる。
【0055】
(4)透明性(ヘイズ)
JIS K7105に準拠し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、商品名:NDH300A)を用いて、実施例および比較例で得られたフィルムのヘイズを測定した。
【0056】
(5)滑り性(摩擦係数)
滑り性は、以下に示す動摩擦係数の値によって評価した。
作製後のフィルムの動摩擦係数(μd)を摩擦測定機TR-2(東洋精機製)を使用してJISK7125-ISO8295(プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験法)に従って測定する。なお、測定条件は温湿度20℃×45%、R.H.である。
【0057】
【0058】
実施例の結果より、本発明の帯電防止剤を配合した実施例1~4のポリプロピレン樹脂組成物は、いずれも全ての評価項目において優れるものであった。
これに対し、比較例1~4の混合物ペレットでは帯電防止性や防曇性が得られず、また多量の脂肪酸が配合されていることによる強い臭気があった。また、アミンエステル系化合物が配合されていない比較例5、6の帯電防止剤では、帯電防止性や防曇性に劣るものであった。比較例7では、初期の帯電防止性や防曇性に劣るものであった。また、溶融混合時に発生した脂肪酸に由来する臭気があった。