(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-09
(45)【発行日】2025-07-17
(54)【発明の名称】船舶用自動操舵装置
(51)【国際特許分類】
B63H 25/04 20060101AFI20250710BHJP
G05B 11/32 20060101ALI20250710BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20250710BHJP
G05D 109/30 20240101ALN20250710BHJP
【FI】
B63H25/04 D
G05B11/32 F
G05D1/00
G05D109:30
(21)【出願番号】P 2021188170
(22)【出願日】2021-11-18
【審査請求日】2024-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】羽根 冬希
【審査官】澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-64248(JP,A)
【文献】特開2001-18893(JP,A)
【文献】特開平9-207889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00
B63H 25/04
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、
計画航路に基づいて、出発点から到達点までの軌道と、該出発点から該到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む参照軌道を生成する参照軌道生成部と、
前記船舶の位置を前記参照距離に追従させる距離制御と、前記船舶の位置を前記軌道に追従させるとともに前記船舶の方位を前記参照方位に追従させる航路制御とによって、前記船舶を制御する移動制御部と、
前記船舶の位置を保持するように前記船舶を制御する保持制御部と、
前記船舶の位置を通り前記軌道に直交する直交線と前記軌道との交点が前記到達点に達した場合、前記移動制御部による制御から前記保持制御部による制御に切り替える切替部とを備え、
前記距離制御は、前記出発位置から前記交点までの距離である船体距離を前記参照距離に追従させるフィードフォワード制御と、前記参照距離と前記船体距離との距離誤差をゼロに収束させるフィードバック制御とを行うことを特徴とする船舶用自動操舵装置。
【請求項2】
前記参照軌道生成部は、前記参照方位と旋回半径に基づく参照位置と、前記参照軌道と前記推進駆動装置の駆動機モデルと前記船舶の船体モデルとに基づく航路位置との位置関係に基づいて、リーチ量を算出することを特徴とする請求項1に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項3】
前記航路位置は、前記フィードフォワード制御によるフィードフォワード指令を入力した前記駆動機モデル、前記船体モデルに基づいて算出されることを特徴とする請求項2に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項4】
前記航路制御を行う制御器は、前記直交線方向における前記軌道と前記船舶の位置までの距離である航路誤差をフィルタし、積分ゲインを乗じることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の船舶用自動操舵装置。
【請求項5】
前記制御器は、C
t(s)を該制御器、T
yをフィルタ時定数、f
yを航路ゲイン、f
iを前記積分ゲインとして、
【数1】
により表されることを特徴とする請求項4に記載の船舶用自動操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を自動操舵する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、陸、海、空、更には海中を移動する移動体を対象とした自律化が活発に開発されている。自律化された移動体の用途は、運搬、調査、探索、救難など多岐にわたる。自律化された移動体の身近な例としては、室内を自律的に移動して清掃するロボット掃除機が挙げられる。このような自律化された移動体は、指令者が目的や目標地を与えることによって、軌道計画の立案と実施や、姿勢、速度、位置などの制御がコンピュータにより管理、制御される。
【0003】
自律化された船舶である自律船においても、上述した移動体と同様の制御が行われる。自律化船に関する技術は、大別して、離着桟、追尾、回避のいずれかの動作制御に分類される。自律化船に関する制御技術としては、制御対象とする船舶を、出発地における停止状態から移動し、途中で旋回し、そして目的地で停船するように制御する技術が知られている。このような技術は、多くの船舶に適応可能な汎用性をもつことも重要である。
【0004】
周知のとおり、船舶は他の航行体と比べて慣性力が大きく制動力が弱く、低速時における流体からの抵抗力が極めて小さくなる特徴をもつ。そのため、自律化船の基幹要素のひとつとして、船体位置決め制御(SPC:Ship Positioning Control)が挙げられる。SPCは与えられた計画航路、航行速度や旋回条件を実現する参照軌道を計画し、それに船体位置を追従させるものであり、船体位置保持システム(DPS:Dynamic Positioning System)を拡張したものである。
【0005】
DPSを用いずに、任意の船首方位、船体位置が保持されるように船舶を停船させることは難しい。非特許文献1に記載される技術は、DPSを用いて停船制御を実現している。なお、SPCを用いた非特許文献2に記載される技術によれば、参照速度の減速に船速が遅れて追従するために、船舶が到達地を通り越してしまう、という問題が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】田丸人意,萩原秀樹,吉田秀樹,田崎哲夫,宮部宏彰,“海翔丸の自動着桟システムの開発とその性能評価”,日本航海学会論文集,2005,113:157-164
【文献】羽根冬希,“離着桟技術に船体位置決め制御を用いた設計”,日本船舶海洋工学会講演会論文集,2021年3月,(32):1-9
【文献】羽根冬希,“非干渉化と経路順序による船位保持装置の設計”,日本船舶海洋工学会講演会論文集,2020年5月,(30):33-41
【文献】羽根冬希,“方位初期条件および操舵機制約を考慮した参照信号の設計: 船体の変針操縦への適用”,計測自動制御学会論文集,2008年,44(4):333-342
【文献】羽根冬希,“航路保持システムのための保針制御に基づく解析的方法による設計”,日本船舶海洋工学会論文集,2016年6月,23:33-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、船舶を到達地により近接させて停船させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の船舶用自動操舵装置は、surge方向及びsway方向の速度とyaw周りの角速度とを制御可能な推進駆動装置と、船首方位及び船体位置を検出するセンサとを備える船舶を制御する船舶用自動操舵装置であって、計画航路に基づいて、出発点から到達点までの軌道と、該出発点から該到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む参照軌道を生成する参照軌道生成部と、前記船舶の位置を前記参照距離に追従させる距離制御と、前記船舶の位置を前記軌道に追従させるとともに前記船舶の方位を前記参照方位に追従させる航路制御とによって、前記船舶を制御する移動制御部と、前記船舶の位置を保持するように前記船舶を制御する保持制御部と、前記船舶の位置を通り前記軌道に直交する直交線と前記軌道との交点が前記到達点に達した場合、前記移動制御部による制御から前記保持制御部による制御に切り替える切替部とを備え、前記距離制御は、前記出発位置から前記交点までの距離である船体距離を前記参照距離に追従させるフィードフォワード制御と、前記参照距離と前記船体距離との距離誤差をゼロに収束させるフィードバック制御とを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、船舶を到達地により近接させて停船させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】船舶用自動操舵装置を含むシステムの全体構成を示すブロック図である。
【
図3】船体位置決め制御における制御システムの分類を示す図である。
【
図4】船体モデルと駆動機モデルとを含む制御対象を示す図である。
【
図5】船体パラメータT
rの船速特性を示す図である。
【
図9】距離制御部による制御システムの構成を示す図である。
【
図10】参照距離d
Rとフィードフォワード回転λ
FFの時系列を示す図である。
【
図11】航路旋回時の船位見積もりを示す図である。
【
図12】参照位置と航路位置の計算結果を示す図である。
【
図13】潮流がゼロの場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
【
図14】潮流がある場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
(1 船体位置決め制御)
(1.1 船舶用自動操舵装置の構成)
本実施形態に係る船舶用自動操舵装置を含むシステムについて説明する。
図1は、船舶用自動操舵装置を含むシステムの全体構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態における船舶用自動操舵装置1は、推進駆動装置3、センサ類4が備えられた船体2を有する船舶を制御するものである。本実施形態において、推進駆動装置3は、surge方向及びsway方向の速度、yaw周りの角速度を制御可能な駆動装置であり、本実施形態においては、船体2の船首と船尾とに設けられたアジマススラスターとして構成される。
【0014】
センサ類4は、船体2の船首方位を検出するジャイロコンパス、船体2の対水速度を検出する速度計、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの船体位置を検出するGNSSセンサを含む。なお、センサ類4は、船首方位、船体位置をそれぞれ検出可能なセンサを含むものであれば良い。
【0015】
船舶用自動操舵装置1は、参照軌道生成部11と、制御部12とを備える。参照軌道生成部11は、軌道計画部5により出力された計画航路に基づいて参照軌道を生成する。制御部12は、参照軌道生成部11により生成された参照軌道に船体2が追従するように、センサ類4により検出された船首方位、船体位置に基づいて推進駆動装置3に指令を出力して船体速度及び角速度を制御する。
【0016】
(1.2 計画航路)
計画航路について説明する。
図2は、計画航路の形態を示す図である。
【0017】
計画航路は、
図2に示すように、出発点と到達点、前進速度と旋回の条件とを含み、直線と円弧の組み合せにより構成される。
図2において、O-XYは地球固定座標、ψ
planは計画方位、点Aは出発点、点Bは到達点である。また、点C,S,Fのそれぞれは旋回の中心点、開始点、終了点であり、ρ
setは旋回半径、ψ
setは旋回角である。
【0018】
(1.3 船体位置決め制御)
船体位置決め制御について説明する。
図3は、船体位置決め制御における制御システムの分類を示す図である。
【0019】
船舶用自動操舵装置1の制御部12による船体位置決め制御は、
図2に示す計画航路において、点Aから前進速度を加速し、等速時に旋回し、その後に減速して到達点Bに達して船位を保持するように船舶を制御する。
【0020】
船体位置決め制御は、
図3に示すように、移動モード(moving mode)と保持モード(hovering mode)の2つの制御モードを有する。制御部12は、移動モードにおいて距離制御DCと航路制御TCとを実行し、保持モードにおいて静定制御と経路順序制御(非特許文献3参照)とを含む船体位置保持制御DPを実行する。
【0021】
参照軌道は、参照軌道生成部11により計画航路に基づいて生成されるものであり、軌道計画を満足する方位・位置と時間で構成される。具体的には、参照軌道は、出発点から到達点までの軌道と、該出発点から該到達点までのsurge方向距離の時間関数である参照距離と、方位の時間関数である参照方位とを含む。制御部12は、参照軌道の基準は船体位置を通り参照軌道に直交する線と参照軌道との交点である点Hを用いて、参照軌道に沿う船体位置を判断する。
【0022】
制御部12は、移動モードによって、参照軌道において設定された時刻に、この時刻に対応付けられた方位、位置に船首方位、船体位置を追従させ、点Hが点Bに達した場合に、制御モードを移動モードから保持モードに切り替える。更に、制御部12は、保持モードにおいて、点B近傍に位置する、移動モードによる制御における終端点B’と船体位置との誤差を静定制御によって修正し、終端点B’と到達点Bとが異なる場合、経路順序制御により船体位置を終端点B’から到達点Bへ移動させる。なお、終端点B’から到達点Bへの移動は、経路順序制御以外の他の制御則により制御されても良い。非特許文献3によれば、保持応答の過渡現象の大きさは終端点B’と点Bとの距離に比例する。その現象を低減するため、静定制御において、到達点が点Bではなく終端点B’に置換される。
【0023】
(2 制御対象)
制御対象について説明する。
図4は、船体モデルと駆動機モデルとを含む制御対象を示す図である。制御対象は、
図4に示すように、船体モデルと駆動機モデルとから構成される両頭船とする。
【0024】
(2.1 船体モデル)
船体モデルについて説明する。船体モデルは、surge方向を添字u、sway方向を添字v、yaw周りを添字rで表し、
【0025】
【数1】
とする。ここで、sはラプラス演算子、P(s)は伝達関数、U(s)はsurge速度、V(s)はsway速度、R(s)はyaw角速度である。また、Λu(s),Θv(s),Θr(s)は制御入力(指令量)であり、それぞれプロペラ回転数、2つの推力角である。船体モデルの伝達関数は
【0026】
【数2】
である。ここで、T,Kはいずれも船体パラメータで、それぞれ時定数とゲインである。
【0027】
図5には、船体パラメータの船速(対水速度)特性が示される。
図5においては、船体パラメータのうち、T
rのみが示されるが、他の変数{K
r,K
u,T
u,K
v,T
v}も船速に関係するものとする。T
rにおける低速域特性は推進抵抗を無視して、慣性項を主要と仮定したものである。
図5から、船体パラメータは次の船速特性をもつ。
【0028】
1.保持モード域は|u|≦2knで、一定とする。
2.移動モード域はu>2knで、船速に比例する。
【0029】
(2.2 駆動機モデル)
駆動機モデルについて説明する。駆動機のアジマススラスターモデル(以降、ATMと呼称)はそのプロペラ回転数(逆転しない)とその方向とによって推力ベクトルを制御する。回転数と推力角には制限がある。
図4において、2機のATMの回転数λと対水推力Fは
【0030】
【数3】
になる。ここで、添字
f,
aは、それぞれ、船首(fore)、船尾(aft)のATMを表し、λ
0は一定回転数である。
【0031】
指令量と推力角の関係は
【0032】
【数4】
になる。ここで、θ
f,θ
aは、いずれも船の基線に対するATMの推力方向の角度である。このとき、発生する力の等価量は
【0033】
【0034】
よって、ATMの出力は上式にスケールファクタを乗じて、
【0035】
【数6】
になる。ここで、c
θ
vは速度から推力角に単位を変換する係数である。
【0036】
(3 制御システム)
(3.1 制御部の構成)
制御部の構成について説明する。
図6は、制御部の構成を示す図である。
【0037】
図6に示すように、制御部12は、移動モードにおいて距離制御DC及び航路制御TCを行う移動制御部121と、保持モードにおいて船体位置保持制御DPを行う保持制御部122と、切替部123とを備える。切替部123は、船体位置に基づく点Hが点Bに達した場合に、制御主体を移動制御部121から保持制御部122に切り替えることによって、制御システムを移動モードから保持モードへ切り替える。
(3.2 誤差の定義)
(3.2.1 移動モード)
移動モードの誤差は
図7に示すように、船体位置の点P、垂足の点Hと参照位置の点Rから設定する。方位誤差ψ
e、航路誤差y
e、と距離誤差d
eは、
【0038】
【数7】
になる。ここで、ψは船首方位、ψ
Rは参照方位、y
eは点Pと点Hとの距離である。また、
は符号付き2点間距離を表し、P,Hは、それぞれ、点P、点Hのx,yの座標であり、d
Rは出発地から点Rまでの参照距離であり、d
Hは出発地から点Hまでの船体距離である。誤差計算については非特許文献2を参照されたい。
【0039】
(3.2.2 保持モード)
図8は、移動モードから保持モードへの切り替え後の様子を示す。制御モードの切り替えは、上述したように、点Hが到達点Bに達した場合になされ、この際、到達点が点Bから点B’に置換される。この置換は具体的には次式に示す通りである。
【0040】
【数8】
ここで、B’,ψ
B’は、それぞれ、移動モードにおける最終のx,y座標と方位である。
【0041】
添字Kにより示される保持モードの方位誤差ψe
k、船体座標の位置誤差xe
k,ye
kは、
【0042】
【数9】
になる。ここで、Ω
B
E(ψ)は地球座標(添字
E)から船体座標(添字
B)に変換する行列であり、
【0043】
【0044】
(3.3 距離制御)
距離制御DCは軌道追従制御により距離誤差をゼロに収斂させる。軌道追従制御は、参照距離と、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを含む2自由度制御系とにより構成される。フィードフォワード制御は、船体距離を参照距離に追従させ、フィードバック制御は、制御対象との閉ループ系を構成し、距離誤差をゼロに収束させる。
【0045】
(3.3.1 参照距離とフィードフォワード制御)
距離制御部による距離制御DCの構成を
図9に示す。
図9において、RGは参照距離生成器、sはラプラス演算子、C
d
FF(s)はフィードフォワード制御器、C
d
FB(s)はフィードバック制御器、P
x(s)=P
u(s)・s
-1は距離船体モデルである。
【0046】
参照距離生成器は、入力された位置条件から参照距離DR(s)を出力し、フィードフォワード制御器は参照距離DR(s)からフィードフォワード回転ΛFF(s)を出力する。フィードバック制御器は距離誤差De(s)からフィードバック回転ΛFB(s)を出力し、距離制御DCの閉ループを安定化し、外乱DD(s)を除去する。制御量の指令プロペラ回転Λu(s)は次式になる。
【0047】
【0048】
軌道追従制御を用いると、距離誤差De(s)の伝達特性は
【0049】
【数12】
になる。上式より、閉ループ安定性及び外乱除去性はフィードバック制御器C
d
FB(s)に、追従性はフィードフォワード制御器C
d
FF(s)に依存する。
【0050】
フィードフォワード回転ΛFF(s)は、次式になる。
【0051】
【数13】
ここで、フィードフォワード制御器は距離船体モデルの逆特性に相当して
【0052】
【0053】
【0054】
参照距離d
Rとフィードフォワード回転λ
FFは
図10に示すように、距離の軌道条件
【0055】
【数16】
を満足する。ここで、添字
setは設定値を表す。d
Rとλ
FFの関係は
【0056】
【数17】
になる。ここで、aは係数、t
dは参照距離時間である。なお、上式の詳細については非特許文献4を参照されたい。
【0057】
(3.3.2 フィードバック制御)
フィードバック制御器は推定器と状態フィードバックからなり、
【0058】
【数18】
になる。なお、C
d
FB(s)の詳細については非特許文献2を参照されたい。
【0059】
(3.4 航路制御)
航路制御TCは、方位制御と航路誤差制御により航路誤差yeをゼロに収斂させる。航路制御の指令推力角θrは、次式になる。
【0060】
【数19】
ここで、添字
h、添字
tは、それぞれ、方位制御、航路誤差制御を表す。
【0061】
(3.4.1 方位制御)
方位制御HCは方位誤差ψeをゼロに収斂させるものであり、方位の保持と変針の機能をもち、距離制御DCと同一の構成をもつ。したがって、方位制御HCは、距離制御DCにおける距離を方位に置き替えたものとなる。方位制御HCによる制御量の指令推力角Θh(s)は、
【0062】
【数20】
になる。ここで、Θ
FF(s)はフィードフォワード推力角、C
h
FF(s)=(P
ψ(s))
-1はフィードフォワード制御器、C
h
FB(s)はフィードバック制御器、P
ψ(s)=P
r(s)・s
-1は方位船体モデルである。
【0063】
参照方位ψRとフィードフォワード推力角θFFは方位の旋回条件
【0064】
【0065】
【数22】
になる。ここで、bは係数、t
ψは参照方位時間である。
【0066】
(3.4.2 航路誤差制御)
航路誤差制御はsway船体運動との閉ループ系を構成し、航路誤差をゼロに収束させ、潮流成分による誤差を修正する。航路誤差制御器Ct(s)は、航路誤差Ye(s)をフィルタし、制御ゲインを乗じたもので、
【0067】
【数23】
になる。ここで、T
yはフィルタ時定数、f
yは航路ゲイン、f
iは積分ゲインである。積分器の働きによって、船体位置を移動させる外乱成分の影響が補償される。なお、上式の制御ゲインの設定については、非特許文献5を参照されたい。
【0068】
(3.5 リーチ量見積もり)
参照軌道生成部11により実行されるリーチ量見積もりは、航路旋回での変針を開始する位置を決めるもので、旋回中の航路誤差を支配するものであり、WOP(Wheel Over Point)とよばれる。WOPの位置は、
図2における点Sからリーチ量だけ手前になる。リーチ量は参照位置と航路位置から計算する。参照位置x
R,y
Rは
【0069】
【数24】
から求める。ここで,ψ
Rは参照方位,ρ
setは旋回半径である。
【0070】
航路位置は
図11に示すように、軌道計画、駆動機及び船体運動のモデルから求める。軌道計画で設定したフィードフォワード指令を駆動機に入力すると
【0071】
【数25】
になる。ここで、フィードフォワード回転λ
FFは船速を一定状態(設定値u
set)とするものである。
【0072】
船体位置x,yは、船体運動r,u,vを用いて
【0073】
【0074】
参照位置と航路位置を求めた結果を
図12に示す。
図12において、線上のマーカーは10度単位毎の参照方位ψ
Rを示し、移動モードの船体パラメータや旋回条件は、4.1節に後述される値を用いる。
【0075】
リーチ量reachは、
図12におけるψ
R=90度に対応する参照位置と航路位置の最大値との位置関係から
【0076】
【数27】
になる。ただし、reachは船体運動モデルや計算条件に依存する。
【0077】
(3.6 保持モードによる制御)
制御部12は、保持モードにおいて、動作管理によって静定制御と経路順序制御を実施する。静定制御と経路順序制御は、3つの制御器により実施され、3つの制御器は、それぞれ、surge,sway,yawの船体運動との閉ループ安定性と外乱除去性を確保し、距離制御DCのフィードバック制御器Cd
FB(s)と同一の構成をもつ。したがって、3つの制御器のそれぞれは、フィードバック制御器Cd
FB(s)における距離をsurge,sway,yawに置き換えたものとなる。それぞれの船体パラメータは保持モード用の極低速対応を用いる。3つの制御器は、それぞれ、
【0078】
【数28】
になる。ここで、添字
kは保持モードを表し、C
x(s),C
y(s),C
ψ(s)は、それぞれ、surge,sway,yawの制御器である。
【0079】
(4 検証)
本実施形態に係る船舶用自動操舵装置の有効性をシミュレーションによって検証する。
【0080】
(4.1 シミュレーション条件)
シミュレーション条件について説明する。
【0081】
シミュレーションにおいて、計算時間は30分、その前半(18.3分)は移動モード、後半(11.7分)は保持モードによる制御がなされるものとし、刻み時間は0.1sである。シミュレーションにおける外乱成分は、北向き1.0kn、方位周りのオフセットが0.3deg/sの潮流成分とする。
【0082】
シミュレーションにおける船体パラメータを以下の表に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
なお、式(4)~式(6)においては、T3<<|T|のため、T3に相当する係数が省略されている。T3は、参照信号DR(s),ΨR(s)の生成に利用される。
【0086】
シミュレーションにおける計画航路の設定値を以下に示す。
【0087】
【数30】
また、旋回角速度設定値r
set=u
set÷ρ
set=0.172rad/sが用いられる。
【0088】
シミュレーションにおける駆動機の一定回転数はλ0=110rpm、角度制限は45degとする。
【0089】
シミュレーションにおいて、主な制御パラメータは、移動モードと保持モードで共通になり、比例ゲインがKp=1、減衰係数がζ=1÷√2、積分ゲインの減衰係数はζi=0.9である。sway方向指令速度を角度換算する係数はcθ
v=45deg/10knとする。リーチ量は(41)式が用いられる。
【0090】
(4.2 シミュレーション結果)
シミュレーション結果について説明する。
図13~
図18はいずれもシミュレーション結果を示す。
図13、
図14は、それぞれ、潮流がゼロの場合、潮流がある場合における計画航路と船位航跡を示す図である。
図15は、船体運動の応答を示す図である。
図16は、誤差の応答を示す図である。
図17は、指令の応答を示す図である。
図18は、駆動機出力の応答を示す図である。
【0091】
図13に示すように、外乱成分なしの場合、点B’は点Bの半径1m以内に収まる。
図14に示すように、外乱成分ありの場合、航路誤差y
eが外乱成分により生じるが、点B’は点Bの半径10m以内に収まる。また、点B’に至る移動モードにおける船位航跡において、距離誤差d
eは外乱成分なしの場合と同様であり、外乱による誤差が修正されている。一方、航路誤差y
eは外乱成分なしの場合よりも大きくなり、船速の低下に伴って誤差の修正が困難なものとなっている。
【0092】
図15に示すように、surge速度u、sway速度v、yaw角速度rは、外乱成分の影響を受けてバイアスを生じる。
【0093】
図16に示すように、移動モードにおいて、距離誤差d
eに相当するx
eと航路誤差y
eはゼロに収束し、方位誤差ψ
eは斜航角をもつ。斜航角は、潮流成分による項とr
0修正の舵角オフセットによるr,vの発生の項によって変動する。以下の表は十分に静定した場合を示す。
【0094】
【0095】
図17は指令の応答である。
図18は駆動機出力の応答であり、飽和は生じていない。
【0096】
以上のシミュレーションの結果から、本実施形態に係る船舶用自動操舵装置1による制御は適切に動作していることが確認できた。
【0097】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 船舶用自動操舵装置
2 船体
3 推進駆動装置
4 センサ類
11 参照軌道生成部
12 制御部
121 移動制御部
122 保持制御部
123 切替部