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7710393高圧タンクライナの製造方法及び高圧タンクライナの製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-10
(45)【発行日】2025-07-18
(54)【発明の名称】高圧タンクライナの製造方法及び高圧タンクライナの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/20 20060101AFI20250711BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20250711BHJP
【FI】
B29C65/20
F16J12/00 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022033713
(22)【出願日】2022-03-04
(65)【公開番号】P2023128989
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆治
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-145121(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3517279(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/131737(WO,A1)
【文献】特開昭57-170711(JP,A)
【文献】米国特許第5407514(US,A)
【文献】特開2002-86568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のライナ半体を向かい合わせに配置する配置工程と、
前記ライナ半体の端面同士の平行度の調整を行う平行度調整工程と、
前記ライナ半体の端面同士を溶着して前記ライナ半体を一体化する溶着工程と、
を有する高圧タンクライナの製造方法であって、
前記平行度調整工程は、前記ライナ半体の端面に形成されるバリを避けるように平行度調整ジグを前記ライナ半体の端面同士の間に挟み込むことによって行われることを特徴とする高圧タンクライナの製造方法。
【請求項2】
前記ライナ半体は、円筒体で形成され、
前記バリは、前記ライナ半体の内周面と前記ライナ半体の端面とがなす角部を基端として前記ライナ半体の端面同士の間に延出するように形成され、
前記平行度調整ジグは、前記角部よりも前記ライナ半体の径方向外側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンクライナの製造方法。
【請求項3】
前記溶着工程は、前記ライナ半体の端面を加熱して溶融させる溶融工程と、溶融した前記ライナ半体の端面同士が溶着するように前記ライナ半体のそれぞれを支持する支持工程と、
を有し、
前記バリは、溶融工程にて前記ライナ半体の端面とともに溶融して消滅することと特徴とする請求項1に記載の高圧タンクライナの製造方法。
【請求項4】
向かい合わせに配置された一対のライナ半体の端面同士の間に、前記ライナ半体の端面に形成されるバリを避けるように所定荷重にて挟み込ませて前記ライナ半体の端面同士の平行度を調整する平行度調整ジグと、
前記ライナ半体の端面を溶融させるように加熱する加熱手段と、
溶融した前記ライナ半体の端面同士が溶着するように前記ライナ半体のそれぞれを支持する一対の支持ジグと、
を備えることを特徴とする高圧タンクライナの製造装置。
【請求項5】
前記平行度調整ジグは、一対の前記支持ジグにて支持された前記ライナ半体の端面同士の間で所定荷重にて挟み込まれる際に、
一対の前記支持ジグと一方向に並ぶように配置されることを特徴とする請求項4に記載の高圧タンクライナの製造装置。
【請求項6】
平行度調整ジグは、前記ライナ半体の端面同士の平行度を調整する際に、前記ライナ半体に対する位置決め係合部を有していることを特徴とする請求項4に記載の高圧タンクライナの製造装置。
【請求項7】
前記平行度調整ジグは、合成樹脂、エラストマ、又は金属で形成されていることを特徴とする請求項4に記載の高圧タンクライナの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクライナの製造方法及び高圧タンクライナの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ガスを充填するためのいわゆる高圧タンクとしては、合成樹脂からなる円筒状のライナ(高圧タンクライナ)の外側に繊維強化樹脂層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このライナは、射出成形法にて得られた熱可塑性樹脂からなる円筒形状のライナ半体同士を溶着して形成されている。
また、従来のライナの製造方法(例えば、特許文献1参照)においては、ライナ半体同士の溶着工程に先立って、向き合わせたライナ半体の端面同士の平行度を予め設定した範囲内に設定する。具体的には、向き合わせたライナ半体のそれぞれの背面に押圧部材としての支持ジグを仮設置し、その後、支持ジグにてライナ半体のそれぞれを所定荷重で押圧する。接触し合うライナ半体のそれぞれから受ける反力で、ライナ半体の端面同士が所定の平行度を確保するように、支持ジグは、ライナ半体に対して位置決めされる。つまり支持ジグは、ライナ半体に対して密着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
国際公開第2019/131737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のライナの製造に使用されるライナ半体(例えば、特許文献1参照)は、射出成形時に生じたバリがライナ半体同士の溶着面に噛み込んで、溶着品質を低下させる。
また、ライナ半体のバリは、ライナ半体同士の平行度を確保する際に、ライナ半体同士の間に挟み込まれて、ライナ半体の端面同士の平行度が阻害される。そのため、支持ジグは、ライナ半体の端面同士の予め設定すべき平行度を確保できるようにライナ半体に対して位置決めされないことがある。
そこで、ライナ半体同士の溶着工程前に、作業員の手作業や加工ロボットによって予めバリを除去することも考えられる。しかしながら、溶着工程前のバリ除去工程は、ライナの製造工程を煩雑にするだけでなく、溶着面を損傷し、かえって溶着品質を低下させるおそれもある。
【0005】
本発明の課題は、ライナ半体同士の溶着工程前に予めバリの除去工程を設けることなく、ライナ半体同士の良好な溶着品質を実現することができる高圧タンクライナの製造方法及び高圧タンクライナの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決した本発明の高圧タンクライナの製造方法は、一対のライナ半体を向かい合わせに配置する配置工程と、前記ライナ半体の端面同士の平行度の調整を行う平行度調整工程と、前記ライナ半体の端面同士を溶着して前記ライナ半体を一体化する溶着工程と、を有する高圧タンクライナの製造方法であって、前記平行度調整工程は、前記ライナ半体の端面に形成されるバリを避けるように平行度調整ジグを前記ライナ半体の端面同士の間に挟み込むことによって行われることを特徴とする。
【0007】
また、前記課題を解決した本発明の高圧タンクライナの製造装置は、向かい合わせに配置された一対のライナ半体の端面同士の間に、前記ライナ半体の端面に形成されるバリを避けるように所定荷重にて挟み込ませて前記ライナ半体の端面同士の平行度を調整する平行度調整ジグと、前記ライナ半体の端面を溶融させるように加熱する加熱手段と、溶融した前記ライナ半体の端面同士が溶着するように前記ライナ半体のそれぞれを支持する一対の支持ジグと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ライナ半体同士の溶着工程前に予めバリの除去工程を設けることなく、ライナ半体同士の良好な溶着品質を実現することができる高圧タンクライナの製造方法及び高圧タンクライナの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法によって得られる高圧タンクライナを使用した高圧タンクの縦断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造装置の構成説明図である。
図3A図2の製造装置を構成する支持ジグをIIIa方向から見た部分拡大斜視図である。
図3B図2の製造装置を構成する支持ジグをIIIb方向から見た部分拡大斜視図である。
図4A図2の製造装置を構成する平行度調整ジグの全体斜視図である。
図4B図2の製造装置を構成する加熱手段の全体斜視図である。
図5A】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造方法におけるライナ半体の端面同士の平行度調整工程の説明図である。
図5B図5AのVb部の部分拡大図である。
図5C】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造方法におけるライナ半体の端面の加熱工程の説明図である。
図5D図5CのVd部の部分拡大図である。
図5E】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造方法におけるライナ半体同士の溶着工程の説明図である。
図5F図5EのVf部の部分拡大図である。
図5G】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造方法における切削工程の説明図である。
図6】比較例に係る製造方法における平行度調整工程の説明図である。
図7A】本発明の第1変形例に係る製造装置の構成説明図である。
図7B】本発明の第2変形例に係る製造装置の構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(実施形態)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る製造方法にて得られる高圧タンクライナを使用した高圧タンクについて説明する。
【0011】
≪高圧タンク≫
図1は、本発明の実施形態に係る高圧タンク1の縦断面図である。
本実施形態の高圧タンク1は、例えば、燃料電池車に搭載され、燃料電池システムに供給するための水素ガスを貯留するものを想定している。ただし、高圧タンク1は、これに限定されるものではなく、他の高圧ガスについて使用されるものであってもよい。
【0012】
図1に示すように、高圧タンク1は、後に詳しく説明する高圧タンクライナ2(以下、単に「ライナ2」と称することがある)と、このライナ2に連結される口金3と、ライナ2から口金3に亘ってこれらの外側を覆う繊維強化樹脂層4と、を備えている。
【0013】
口金3は、例えば、アルミニウム合金などの金属製材料にて形成されるものを想定している。口金3は、内側に給排孔21を有する円筒状の口金本体18と、この口金本体18の軸方向の一端側に形成されるフランジ部19とを有している。給排孔21は、フランジ部19が形成される一端側で高圧タンク1内に連通する。そして、給排孔21の他端側には、前記の燃料電池システムなどに連通する配管(図示を省略)が接続されることとなる。
【0014】
口金本体18の一端側における給排孔21の内周面には、後記するライナ2の筒状部17に形成されるねじ部17aと噛み合うねじ部21aが形成されている。そして、ライナ2の筒状部17の先端部と給排孔21の内周面との間には、Оリング(図示を省略)が装着されることとなる。
【0015】
また、給排孔21の内部には、金属材料からなる円筒状のカラー22が配置されている。このカラー22は、給排孔21の内周面に支持される一端側からライナ2側に延びて、ライナ2の筒状部17内に嵌入されている。
【0016】
本実施形態での繊維強化樹脂層4は、強化繊維に予めマトリクス樹脂を含侵させたプリプレグをライナ2及び口金3の外周面に巻回した後、このマトリクス樹脂を硬化させて得られるものを想定している。
【0017】
本実施形態での強化繊維としては、複数の炭素繊維フィラメントからなるストランドをさらに複数纏めて形成される帯状のロービング(図示を省略)を想定している。ただし、強化繊維は、これに限定されるものではなく、例えば、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などを使用することもできる。
【0018】
本実施形態でのマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物からなるものを想定している。
なお、繊維強化樹脂層4の形成方法は、前記のプリプレグを使用したものに限定されるものではない。したがって、繊維強化樹脂層4は、例えば、ライナ2に巻回した樹脂未含侵の強化繊維にマトリックス樹脂を含侵しこれを硬化させたものであってもよい。
【0019】
≪高圧タンクライナ≫
次に、本実施形態に係る製造方法によって得られるライナ2(図1参照)について説明する。
ライナ2は、熱可塑性樹脂からなる中空体である。熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
本実施形態のライナ2は、円筒体からなる胴部5と、この胴部5の両端に一体に成形される鏡部6と、を備えている。
【0020】
胴部5は、所定の外径にて形成されて胴部5の軸(Ax)方向の殆どを占める一般部8と、胴部5の軸(Ax)方向の中央部に形成され、一般部8よりも拡径した拡径部9と、を備えて構成されている。
拡径部9は、後に詳しく説明するように、一対のライナ半体31(図2参照)の端部同士を溶着にて接合した接合部36(図5F参照)に切削加工を施して形成したものである。
【0021】
鏡部6は、図1に示すように、胴部5側から軸(Ax)方向外側に離れるほど徐々に縮径するように収斂する扁平の椀状体である。
鏡部6の径方向の中央部は、口金3のフランジ部19の形状に対応するように陥没する陥没部16を有している。
また、陥没部16の中央部には、口金3の給排孔21内に向けて突出するように、前記の筒状部17が形成されている。そして、前記した給排孔21のねじ部21aと噛み合うねじ部17aは、筒状部17の外周面に形成されている。
【0022】
≪高圧タンクライナの製造装置≫
次に、ライナ2(図1参照)の製造装置について説明する。
図2は、本実施形態の製造装置Aの構成説明図である。図2は、製造装置Aの縦断面図である。以下の説明における上下の方向は、製造装置Aの上下方向に一致させた図2の上下方向を基準とする。
【0023】
本実施形態の製造装置Aは、図2に示すように、一対のライナ半体31同士を溶着して一体化するように構成されている。
まず、ライナ半体31について説明すると、ライナ半体31は、後記するフランジ部32(図3A及び図3B参照)を有することを除いて、図1に示すライナ2を軸Ax方向の中央部で2分割した形状と略同じ形状を有している。
ライナ半体31同士は、開口部33(図2参照)側で溶着されることで一体となる。
【0024】
製造装置Aは、図2に示すように、地面等の接地面に配置されるフレーム41と、一対のライナ半体31のうち、上側のライナ半体31を、支持ジグ46を介してフレーム41の上部で支持する上側支持部42aと、下側のライナ半体31を、支持ジグ46を介して昇降機構43に連結して支持する下側支持部42bと、この下側支持部42bを昇降させる昇降機構43と、一対のライナ半体31の端面同士の平行度を所定の範囲内に設定する平行度調整ジグ47と、ライナ半体31を部分的に加熱して溶融する加熱手段40と、加熱手段40の搬送機構45と、を主に備えて構成されている。
【0025】
上側支持部42aの下端には、開口部33を下側に向けたライナ半体31を支持する支持ジグ46が取り付けられている。
下側支持部42bの上端には、開口部33を上側に向けたライナ半体31を支持する支持ジグ46が取り付けられている。
そして、上下一対の支持ジグ46のそれぞれは、次に説明するように、ライナ半体31のフランジ部32(図3A及び図3B参照)を係止するとともに、ライナ半体31の胴部5(図3A及び図3B参照)の外周面に接するように配置される。これにより支持ジグ46は、ライナ半体31を上側支持部42a及び下側支持部42bのそれぞれに支持させることとなる。
【0026】
図3Aは、支持ジグ46をIIIa方向から見た部分拡大斜視図である。図3Bは、製造装置Aを構成する支持ジグ46をIIIb方向から見た部分拡大斜視図である。
図3Aに示すように、上下一対のライナ半体31(図2参照)のうち、上側に配置されるライナ半体31の開口部33側には、フランジ部32と、後に詳しく説明する溶融代35を有する突出端部34とが形成されている。
【0027】
フランジ部32は、ライナ半体31における胴部5よりも径方向外側に張り出すように胴部5に一体に成形された胴部5と同軸の環状体である。
フランジ部32には、周溝32aが形成されている。
この周溝32aは、上方に向けて開口するようにフランジ部32の周方向に沿って延在している。
そして、周溝32aの底面32a1は、平坦面で形成され、同じく平坦面で形成される突出端部34の端面34aと平行になっている。
【0028】
その一方で、上下一対の支持ジグ46のうち、上側の支持ジグ46は、図3Aに示すように、フランジ部32を係止する内爪部46aと、外爪部46bとを有している。
内爪部46aは、ライナ半体31における胴部5の外周面に接するとともに、フランジ部32の周溝32aに嵌入する。
そして、内爪部46aの先端面46a1は、平坦面で形成され、周溝32aの底面32a1と平行になっている。
【0029】
外爪部46bは、内爪部46aの外周側に配置され、フランジ部32の外周面に接するように配置されている。具体的には、外爪部46bは、周溝32aに嵌入した内爪部46aとの間で、フランジ部32における周溝32aの径方向外側の肉部を挟み付けている。
【0030】
図3Bに示すように、下側に配置されるライナ半体31と支持ジグ46とは、図3Aに示した上側に配置されるライナ半体31と支持ジグ46に対して、上下対称構造となるように、配置されている。
つまり、図3Bに示すように、ライナ半体31の開口部33側には、上側のライナ半体31(図3A)と同様に、周溝32aを有するフランジ部32と、溶融代35を有する突出端部34とが形成されている。
【0031】
また、下側の支持ジグ46についても、図3Aに示した上側の支持ジグ46と同様に、フランジ部32の周溝32aに嵌入する内爪部46aと、周溝32aの径方向外側のフランジ部32の肉部をこの内爪部46aとの間で挟み付ける外爪部46bと、を有している。そして、内爪部46aの先端面46a1と、周溝32aの底面32a1と、突出端部34の端面34aとは、平坦面で形成されているとともに、相互に平行になっている。
【0032】
突出端部34は、図3A及び図3Bに示すように、ライナ半体31の開口部33側の端面に一体に成形された胴部5と同軸の環状体である。
突出端部34の外径は、ライナ半体31における胴部5の外径よりも大きく、そしてフランジ部32の外径よりも小さくなるように設定されている。
また、突出端部34の内径は、ライナ半体31の内径と同じになるように設定されている。
そして、ライナ半体31の軸方向Axにおける突出端部34の厚さは、後記するライナ半体31同士の溶着時における溶融代35よりも厚くなっている。
【0033】
次に、製造装置A(図2参照)を構成する平行度調整ジグ47(図2参照)について説明する。
平行度調整ジグ47は、後記の「高圧タンクライナの製造方法」を構成するライナ半体31の加熱工程(図5D参照)に先立って行われる、図3A及び図3Bに示したライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の平行度調整工程(図5B参照)において使用されるジグである。
本実施形態での平行度調整ジグ47は、合成樹脂、エラストマ、又は金属で形成されるものを想定している。
【0034】
この平行度調整ジグ47(図2参照)は、この平行度調整工程(図5B参照)において、ライナ半体31(図2参照)同士の間に挟み込まれる。
図4Aは、平行度調整ジグ47の全体斜視図である。
図4Aに示すように、平行度調整ジグ47は、上下方向のそれぞれに周方向に延びる端面47aを有する環状体で形成されている。
そして、上下の端面47aのそれぞれは、平坦面で形成されているとともに、相互に平行になっている。そして、平行度調整ジグ47の断面は、図示は省略するが、矩形を呈している。
【0035】
これらの上下の端面47aのうち、上側の端面47aは、後記する平行度調整工程(図5B参照)において、図3Aに示す突出端部34の端面34aに接するように配置される。また、下側の端面47aは、後記する平行度調整工程(図5B参照)において、図3Bに示す突出端部34の端面34aに接するように配置される。つまり、図4Aに示す平行度調整ジグ47の内径及び外径は、図3A及び図3Bに示す突出端部34の端面34aの内径及び外径に対応付けて設定されることとなる。具体的には、平行度調整ジグ47の内径は、突出端部34(図3A及び図3B参照)の内径よりも大きく、平行度調整ジグ47の外径は、突出端部34の外径よりも大きくなっている。
ただし、平行度調整ジグ47の内径及び外径は、後記するように、対向し合う突出端部34の端面34a同士の間に延出するバリ48(図5B参照)を避けるように設定される。
なお、本実施形態での平行度調整ジグ47は、平行度調整工程の実施時に、所定の搬送装置によって搬送されるものを想定しているが、作業員が所定位置に搬送するものであってもよい。
【0036】
次に、製造装置A(図2参照)を構成する加熱手段40(図2参照)について説明する。
図2に示すように、製造装置Aは、上側に配置されたライナ半体31を加熱する加熱手段40aと、下側に配置されたライナ半体31を加熱する加熱手段40bと、を備えている。なお、加熱手段40aと加熱手段40bとを区別する必要がない場合には単に「加熱手段40」と称する。
加熱手段40は、加熱源44aと、この加熱源44aを支持するベース部材44bと、を備えている。
本実施形態での加熱手段40は、後記の「高圧タンクライナの製造方法」を構成するライナ半体31の加熱工程(図5D参照)において、突出端部34の端面34aを加熱し、突出端部34の溶融代35(図3A及び図3B参照)を溶融する。
【0037】
図4Bは、加熱手段40の全体斜視図である。
図4Bに示すように、本実施形態での加熱手段40は、平面形状が矩形の板体からなるベース部材44bと、このベース部材44bにリング状に埋め込まれた加熱源44aと、を備えている。
ちなみに、本実施形態での加熱源44aは、電熱線などによるジュール熱を使用するものや遠赤外線による放射熱によるものなどを想定しているがこれに限定されるものではない。
【0038】
そして、図2に示す加熱手段40aの加熱源44aは、ライナ半体31の加熱工程(図5D参照)において、図3Aに示す突出端部34の端面34aに対向するように配置される。
また、図2に示す加熱手段40bの加熱源44aは、ライナ半体31の加熱工程(図5D参照)において、図3Bに示す突出端部34の端面34aに対向するように配置される。
つまり、図2に示す加熱手段40a及び加熱手段40bのそれぞれにおける加熱源44aの内径及び外径は、図3A及び図3Bに示す突出端部34の端面34aの内径及び外径に対応付けて設定されることとなる。
そして、加熱手段40は、搬送機構45によって、ライナ半体31の加熱工程においてはライナ半体31同士の間に配置されるように搬送され、加熱工程以外の後記する工程では、ライナ半体31同士の間から退避するように搬送される。
【0039】
≪高圧タンクライナの製造方法≫
次に、本実施形態の製造装置A(図2参照)の動作について説明しながら、本実施形態の製造方法について説明する。
この製造方法においては、一対のライナ半体31(図2参照)の配置工程と、ライナ半体31における突出端部34の端面34a(図3A及び図3B参照)の平行度調整工程と、ライナ半体31における突出端部34の端面34a(図3A及び図3B参照)の加熱工程と、ライナ半体31(図2参照)同士の溶着工程と、溶着工程で一体化したライナ半体31(図2参照)同士の接合部に切削加工を施す切削工程と、を有している。
【0040】
図5Aは、ライナ半体31同士の平行度調整工程の説明図である。図5Bは、図5AのVb部の部分拡大図である。図5Cは、ライナ半体31における突出端部34の加熱工程の説明図である。図5Dは、図5CのVd部の部分拡大図である。図5Eは、ライナ半体31同士の溶着工程の説明図である。図5Fは、図5EのVf部の部分拡大図である。ただし、図5F中、図5Eの支持ジグ46は作図の便宜上、省略している。図5Gは、溶着工程で一体化したライナ半体31同士の接合部36に切削加工を施す切削工程の説明図である。
【0041】
<ライナ半体の配置工程>
ライナ半体31(図2参照)の配置工程においては、前記のように、一対のライナ半体31が準備される。
本実施形態でのライナ半体31は、射出成形法にて得られたものを想定している。このライナ半体31を成形する金型は、図示は省略するが、例えば、ライナ半体31の鏡部6(図1参照)と胴部5(図1参照)の半分の外側形状を模った固定型と、これらの内側形状を模った可動型と、フランジ部32(図3A及び図3B参照)を模ったストリッパプレート型とで囲まれるキャビティを有している。
【0042】
ライナ半体31は、このような金型内に、加熱溶融した前記の熱可塑性樹脂が射出された後、冷却されて得られる。そして、型開きにより金型から取り出されたライナ半体31には、可動型とストリッパプレート型との境目に対応する部分に、後記するバリ48(図5B参照)が不可避的に形成される。また、このバリ48は、後に詳しく説明するように、金型内に得られるライナ半体31と、可動型とストリッパプレート型の境目との位置関係からライナ半体31における突出端部34(図5B参照)の端面34a(図5B参照)同士の間に延出するように形成される。
そして、この配置工程においては、図3A及び図3B参照に示すように、ライナ半体31は、支持ジグ46に対して仮組みされる。この際、フランジ部32における周溝32aの底面32a1と、支持ジグ46における内爪部46aの先端面46a1との間には、クリアランスCLが形成されている。
【0043】
<ライナ半体同士の平行度調整工程>
次に、平行度調整工程においては、図2に示す平行度調整ジグ47が、下側のライナ半体31上に載置される。その後、下側支持部42bの支持ジグ46に仮組みされた下側のライナ半体31は、平行度調整ジグ47が載置された状態で、昇降機構43によってリフトアップされる。
これにより平行度調整ジグ47は、図5Aに示すように、上側のライナ半体31と、下側のライナ半体31との間に挟み込まれる。
【0044】
そして、図5Bに示すように、昇降機構43(図2参照)の駆動力によって、上側のライナ半体31と下側のライナ半体31とが平行度調整ジグ47に加えた荷重の反力によって、フランジ部32における周溝32aの底面32a1と、支持ジグ46における内爪部46aの先端面46a1との間のクリアランスCL(図3A及び図3B参照)が解消される。つまり、内爪部46aの先端面46a1と周溝32aの底面32a1とは密着する。
【0045】
その一方で、ライナ半体31同士の間には、バリ48が存在する。具体的には、このバリ48は、前記したライナ半体31の内周面31aを形作る可動型と、フランジ部32を形作るストリッパプレート型との境目に形成される。これによりバリ48は、この境目に沿って延びるため、図5Bに示すように、ライナ半体31の内周面31aと、突出端部34の端面34aとがなす角部49からライナ半体31同士の間に向かって延びるように形成される。そして、このバリ48は、ライナ半体31における開口部33の周方向に沿って不定形のリボン状に延びることとなる。
【0046】
これに対して本実施形態での平行度調整ジグ47は、ライナ半体31の開口部33から離れた方向にバリ48を避けるように、ライナ半体31同士の間に配置される。具体的には、平行度調整ジグ47は、上側の支持ジグ46における内爪部46aと、下側の支持ジグ46における内爪部46aとの間で、これらと上下方向に並ぶように配置される。
以上のような平行度調整工程により、平行度調整ジグ47は、バリ48を避けた状態でライナ半体31同士の間に配置され、ライナ半体31と支持ジグ46との間の平行度を予め設定した範囲内に設定する。
【0047】
<ライナ半体の加熱工程>
次に、ライナ半体31における突出端部34(図3A及び図3B参照)の加熱工程について説明する。
図5Cに示すように、ライナ半体31同士の間に、加熱手段40が配置される。
具体的には、図2に示すように、加熱手段40が搬送機構45によってスライド移動されて、下側のライナ半体31の上方に配置される。この際、図示は省略するが、下側の加熱手段40bの加熱源44aと、下側のライナ半体31との間には、後記の所定間隔D(図5D参照)が開けられる。
次いで、加熱手段40と下側のライナ半体31とは、その所定間隔D(図5D参照)を維持した状態で、一対の加熱手段40a,40bは、昇降機構43によって、上方に向けてリフトアップされる。
【0048】
図5Dに示すように、このリフトアップによって、上側のライナ半体31における突出端部34の端面34aは、上側の加熱手段40aの加熱源44aとの間に所定間隔Dを開けて対向する。
下側の加熱手段40bの加熱手段は、前記のように、下側のライナ半体31における突出端部34の端面34aとの間に所定間隔Dを開けて対向する。
【0049】
また、この加熱工程においては、加熱手段40によって、突出端部34の溶融代35が加熱溶融される。
そして、この加熱工程においては、加熱手段40によって、バリ48が溶融されるとともに、バリ48の溶融物は、表面張力によって溶融した溶融代35と一体化されて吸収される。ライナ半体31同士の間のバリ48は消失する。
【0050】
<ライナ半体同士の溶着工程>
次に、ライナ半体31同士の溶着工程について説明する。
この溶着工程においては、図示は省略するが、加熱手段40(図5C)が搬送機構45(図2参照)によって、ライナ半体31同士の間から退避するように移動する。具体的には、図2の初期位置に移動する。
そして、昇降機構43(図2参照)によって、下側のライナ半体31が、図5Cに示す高さからさらに上方に向けてリフトアップされる。
図5Eに示すように、上側のライナ半体31の端部と下側のライナ半体31の端部とが溶着する。
【0051】
具体的には、この溶着工程では、図5Fに示すように、支持ジグ(図面省略)でライナ半体31同士を所定の荷重にて押し付けて、ライナ半体31同士の押圧方向(軸Ax方向)に対して交差する方向に溶融代35(図5D参照)の溶融物35aを流動させる。これによりライナ半体31同士の溶融物35aは、仮想線(二点鎖線)にて示す溶着面36aで互いに溶け合う。そして、溶融物35aが冷却されることで、ライナ半体31同士は、溶着面36aにて一体化して接続される。
なお、このような溶着工程においては、ライナ半体31同士を溶着面36aにて一体化する際に、所定の振動装置によってライナ半体31同士を振動させて、ライナ半体31同士の溶着を促進させることもできる。
【0052】
<切削工程>
次に、一体化したライナ半体31同士の切削工程においては、図5Gに示すように、接合部36におけるフランジ部32(仮想線(二点鎖線)にて示す)がその根元部分32cを残して切削加工により取り除かれる。
そして、残された根元部分32cにて、前記のライナ2における拡径部9が形成される。これにより本実施形態のライナ2(図1参照)の一連の製造工程が終了する。
【0053】
≪作用効果≫
次に、本実施形態のライナ2の製造方法及びこの製造方法を実施するライナ2の製造装置Aの奏する作用効果について説明する。
本実施形態のライナ2の製造方法及び製造装置Aにおいては、ライナ半体31(突出端部34)同士を溶着する前に、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の平行度を調整する。また、この平行度の調整には、図5Bに示したように、ライナ半体31(突出端部34)の端面34aに形成されたバリ48を避けるようにライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の間に、予め平行度調整ジグ47を挟み込むことによって行われる。
【0054】
ここで参照する図6は、比較例に係る製造方法における平行度調整工程の説明図である。
図6に示すように、この比較例に係る製造方法は、本実施形態の製造方法と異なって、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の間には、平行度調整ジグ47(図5B参照)が配置されていない。
つまり、この比較例に係る製造方法の平行度調整工程においては、昇降機構43(図2参照)によって、下側のライナ半体31が白抜き矢印の方向にリフトアップされた場合に、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の間には、バリ48が挟み込まれる。したがって、比較例に係る製造方法では、バリ48によって、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の平行度が阻害される。つまり、フランジ部32における周溝32aの底面32a1と、支持ジグ46における内爪部46aの先端面46a1との間のクリアランスCLが、周溝32aの周方向及び径方向にわたって均一に解消されないことがある。
【0055】
これに対して、本実施形態に係る製造方法及び製造装置Aによれば、図5Bに示すように、バリ48を避けた状態で平行度調整ジグ47が上下のライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の間に挟み込まれて、バリ48に干渉されることなく平行度を確保することができる。
また、本実施形態に係る製造方法及び製造装置Aによれば、従来と異なって、バリ48がライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の間に挟み込まれることがないので、ライナ半体31(突出端部34)の端面34aがバリ48によって傷付け合うことを防止する。また、この際、平行度調整ジグ47は、バリ48を避けて配置されるので、当然にバリ48を端面34aとの間に挟み込むこともない。
【0056】
また、本実施形態での製造方法及び製造装置Aにおいては、ライナ半体31(突出端部34)の端面34aの内周側にバリ48が形成されているところ、平行度調整ジグ47は、角部49よりもライナ半体31の径方向外側に配置されている。
このような製造方法及び製造装置Aによれば、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の平行度調整工程において、より確実にバリ48の干渉を防止することができる。したがって、平行度調整工程おけるライナ半体31に対する平行度調整ジグ47の位置ずれをより確実に防止することができる。
【0057】
また、本実施形態での製造方法においては、バリ48は、溶融工程にてライナ半体31の端面とともに溶融して消滅する。
本願発明によれば、ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の溶着工程において、バリ48の干渉は完全に解消される。
【0058】
また、本実施形態での製造方法及び製造装置Aにおいては、一対の支持ジグ46と平行度調整ジグ47とは、一方向(本実施形態では上下方向)に並ぶように配置される。
このような製造方法及び製造装置Aによれば、平行度調整工程において、平行度調整ジグ47からライナ半体31(突出端部34)を介しての支持ジグ46への反力は、より効率よく伝達される。フランジ部32における周溝32aの底面32a1と、支持ジグ46における内爪部46aの先端面46a1との間のクリアランスCLは、より効率よく解消される。ライナ半体31(突出端部34)の端面34a同士の平行度は、より確実に予め設定した所定の範囲内となる。
【0059】
また、本実施形態での製造方法及び製造装置Aにおいては、前記平行度調整ジグ47は、合成樹脂、エラストマ、又は金属で形成されているものを想定している。
合成樹脂やエラストマからなる平行度調整ジグ47は、平行度調整工程において、ライナ半体31に過度の応力が発生することを防止することができる。
また、金属からなる平行度調整ジグ47は、耐久性が向上するとともに、ライナ半体31(突出端部34)の端面34aに対する位置決め精度が向上する。
【0060】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
図7Aは、本発明の第1変形例に係る製造装置Aの構成説明図である。図7Aは、前記実施形態の製造装置Aを示す図5Bに対応する図である。
図7Aに示すように、第1変形例に係る製造装置Aの平行度調整ジグ47は、フランジ部32と突出端部34との段差部に嵌り込むことで、ライナ半体31に対する相対的な位置決めを行う位置決め係合部47bを有している。
このような第1変形例に係る製造装置Aによれば、平行度調整工程におけるライナ半体31に対する平行度調整ジグ47のずれを、より効果的に防止することができる。
【0061】
図7Bは、本発明の第2変形例に係る製造装置Aの構成説明図である。図7Bは、前記実施形態の製造装置Aを示す図5Bに対応する図である。
前記実施形態の製造装置Aは、図5Bに示すように、ライナ半体31(突出端部34)の端面34aに形成されるバリ48の位置を考慮して、平行度調整ジグ47は、突出端部34の外周側に寄せて配置されている。
一方、可動型に対するストリッパプレート型の型割り位置を変更した場合を考慮すると、図7Bに示すように、バリ48が突出端部34の外周側に形成されることも考えられる。
【0062】
すなわち、第2変形例に係る製造装置Aにおいては、図7Bに示すように、平行度調整ジグ47は、バリ48を避けるように、突出端部34の内周側に寄せて配置されている。なお、図7B中、符号47bは、突出端部34の内周側の角部に嵌り込んでライナ半体31に対する相対的な位置決めを行う位置決め係合部である。
【符号の説明】
【0063】
1 高圧タンク
2 高圧タンクライナ
4 繊維強化樹脂層
5 胴部
8 胴部の一般部
9 胴部の拡径部
31 ライナ半体
31a ライナ半体の内周面
32 ライナ半体のフランジ部
33 ライナ半体の開口部
34 ライナ半体の突出端部
34a ライナ半体(突出端部)の端面
36 フランジ部同士の接合部
40 加熱手段
40a 加熱手段
40b 加熱手段
43 昇降機構
45 加熱手段の搬送機構
46 支持ジグ
47 平行度調整ジグ
47b 位置決め係合部
48 バリ
49 ライナ半体の内周面とライナ半体(突出端部)の端面とがなす角部
A 高圧タンクライナの製造装置
Ax 高圧タンクライナの軸
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7A
図7B