IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツウマの特許一覧 ▶ 積丹町の特許一覧

特許7711906海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法
<>
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図1
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図2
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図3
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図4
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図5
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図6
  • 特許-海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20250715BHJP
【FI】
A01G33/02 101F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024227915
(22)【出願日】2024-12-24
【審査請求日】2024-12-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000137672
【氏名又は名称】株式会社ミツウマ
(73)【特許権者】
【識別番号】524474774
【氏名又は名称】積丹町
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】水鳥 純雄
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-076197(JP,U)
【文献】特開2005-088221(JP,A)
【文献】特開2011-121788(JP,A)
【文献】特開平08-154511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻に施肥するための海藻用施肥材であって、
加硫されていない生ゴムと、
海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末と、を含有し、
シート状またはヒモ状に形成されている、海藻用施肥材。
【請求項2】
フルボ酸鉄水溶液が含浸されたバーク堆肥をさらに含有する、請求項1に記載の海藻用施肥材。
【請求項3】
前記殻粉末は、ウニ殻の粉末である、請求項1に記載の海藻用施肥材。
【請求項4】
海藻の種苗が保持された養殖用ロープを有し、
前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、
前記養殖用ロープには、前記種苗の近傍位置に請求項1から請求項3のいずれかに記載の海藻用施肥材が筒状に巻き付けて固定されている、海藻の養殖施設。
【請求項5】
記養殖用ロープに巻き付けられた前記海藻用施肥材の端部には、
前記生ゴムと前記殻粉末とを含有し、前記海藻用施肥材よりも前記殻粉末の含有率が少ない接着用シートが介在されて固定されている、請求項に記載の海藻の養殖施設。
【請求項6】
海藻に施肥するための海藻用施肥材の製造方法であって、
オープンロール機によって加硫されていない生ゴムを素練りする生ゴム素練り工程と、
素練りした前記生ゴムに海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末を投入して混練する殻粉末混練工程と、
混練した前記生ゴムおよび前記殻粉末をシート状またはヒモ状に成形する海藻用施肥材成形工程と、
を有する、海藻用施肥材の製造方法。
【請求項7】
前記殻粉末混練工程では、フルボ酸鉄水溶液が含浸されたバーク堆肥をさらに投入して混練する、請求項に記載の海藻用施肥材の製造方法。
【請求項8】
海藻の種苗が保持された養殖用ロープを用いた海藻の養殖方法であって、
前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、
前記養殖用ロープにおける前記種苗の近傍位置に、請求項1から請求項3のいずれかに記載の海藻用施肥材を筒状に巻き付けた後、その端部を圧着して固定する海藻用施肥材固定工程を有する、海藻の養殖方法。
【請求項9】
記海藻用施肥材固定工程では、前記生ゴムと前記殻粉末とを含有し、前記海藻用施肥材よりも前記殻粉末の含有率が少ない接着用シートを前記海藻用施肥材の端部に介在させて圧着する、請求項に記載の海藻の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウニ殻等の殻粉末を用いた海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンブ等の海藻を養殖する技術が提案されている。例えば、特開2004-33174号公報には、こんぶ科植物の胞子を有するロープを海中に垂直に設置することにより、こんぶ科植物を養殖する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-33174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を含め、従来の養殖方法では、海藻の生育に必要な栄養分が不足しがちである。そこで、近年では、窒素やリン等の栄養分を含むウニ殻をラテックス(ゴムノキの樹液)と混合し、その混合液を上述したようなロープに染みこませたり、前記混合液を乾燥させたものを肥料として海底に設置する等の試みもなされている。
【0005】
しかしながら、養殖に用いるロープは、一度混合液を染み込ませるとラテックスが固化するため、再度染み込ませることができない。このため、後から栄養分を追肥できない上、一度使用したロープは再利用もできず、使い捨てになってしまうという問題がある。また、ナイロンロープのような強度の高いロープには、混合液が染み込み難いため、強度が低い綿ロープを使わざるを得ないという問題もある。さらに、混合液に使用されるラテックスや綿ロープは原価が高いため、コストが嵩むという問題もある。また、混合液を乾燥させただけでは脆くて崩れ易く、取り扱いにくいという問題もある。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うことができる海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る海藻用施肥材は、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うという課題を解決するために、海藻に施肥するための海藻用施肥材であって、生ゴムと、海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末と、を含有し、シート状またはヒモ状に形成されている。
【0008】
また、本発明の一態様として、廃棄物であるウニ殻を有効利用するとともに、海藻の外敵となるウニから保護するという課題を解決するために、前記殻粉末は、ウニ殻の粉末であってもよい。
【0009】
さらに、本発明の一態様として、海藻の生育を促進するという課題を解決するために、フルボ酸鉄をさらに含有してもよい。
【0010】
本発明に係る海藻の養殖施設は、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うという課題を解決するために、海藻の種苗が保持された養殖用ロープを有し、前記養殖用ロープには、前記種苗の近傍位置に上述したいずれかの態様の海藻用施肥材が固定されている。
【0011】
また、本発明の一態様として、海藻用施肥材の形状に応じて適切に養殖用ロープに固定するという課題を解決するために、前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、前記海藻用施肥材は、前記養殖用ロープに対して筒状に巻き付けて固定され、前記海藻用施肥材がヒモ状に形成されている場合、前記海藻用施肥材は、前記養殖用ロープに対して螺旋状に巻き付けて固定され、または前記養殖用ロープの網目に挟み込んで固定されてもよい。
【0012】
さらに、本発明の一態様として、シート状の海藻用施肥材を圧着し易くするという課題を解決するために、前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、前記養殖用ロープに巻き付けられた前記海藻用施肥材の端部には、前記生ゴムと前記殻粉末とを含有し、前記海藻用施肥材よりも前記殻粉末の含有率が少ない接着用シートが介在されて固定されていてもよい。
【0013】
本発明に係る海藻用施肥材の製造方法は、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行える海藻用施肥材を製造するという課題を解決するために、海藻に施肥するための海藻用施肥材の製造方法であって、オープンロール機によって生ゴムを素練りする生ゴム素練り工程と、素練りした前記生ゴムに海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末を投入して混練する殻粉末混練工程と、混練した前記生ゴムおよび前記殻粉末をシート状またはヒモ状に成形する海藻用施肥材成形工程と、を有する。
【0014】
また、本発明の一態様として、海藻の生育を促進するという課題を解決するために、前記殻粉末混練工程では、フルボ酸鉄をさらに投入して混練してもよい。
【0015】
本発明に係る海藻の養殖方法は、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うという課題を解決するために、海藻の種苗が保持された養殖用ロープを用いた海藻の養殖方法であって、前記養殖用ロープにおける前記種苗の近傍位置に、上述したいずれかの態様の海藻用施肥材を固定する海藻用施肥材固定工程を有する。
【0016】
また、本発明の一態様として、海藻用施肥材の形状に応じて適切に養殖用ロープに固定するという課題を解決するために、前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、前記海藻用施肥材固定工程では、前記養殖用ロープに前記海藻用施肥材を筒状に巻き付けた後、その端部を圧着して固定し、前記海藻用施肥材がヒモ状に形成されている場合、前記海藻用施肥材固定工程では、前記養殖用ロープに前記海藻用施肥材を螺旋状に巻き付けて固定され、または前記養殖用ロープの網目に前記海藻用施肥材を挟み込んで固定してもよい。
【0017】
さらに、本発明の一態様として、シート状の海藻用施肥材を圧着し易くするという課題を解決するために、前記海藻用施肥材がシート状に形成されている場合、前記海藻用施肥材固定工程では、前記生ゴムと前記殻粉末とを含有し、前記海藻用施肥材よりも前記殻粉末の含有率が少ない接着用シートを前記海藻用施肥材の端部に介在させて圧着してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る海藻用施肥材の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2】本発明に係る海藻の養殖方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図3】本発明に係る海藻の養殖施設の一実施形態(幹綱直付け方式)を示す図である。
図4図3のX部分拡大図であって、(a)シート状の海藻用施肥材を使用した場合、および(b)ヒモ状の海藻用施肥材を使用した場合の図である。
図5】本発明に係る海藻の養殖施設の一実施形態(枝綱付け方式)を示す図である。
図6図5のY部分拡大図であって、(a)シート状の海藻用施肥材を使用した場合、および(b)ヒモ状の海藻用施肥材を使用した場合の図である。
図7図4におけるA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る海藻用施肥材およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材の製造方法ならびに海藻の養殖方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0021】
[1]海藻用施肥材
本実施形態の海藻用施肥材1は、海藻に施肥するためのものであり、主として、生ゴムと、海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末と、フルボ酸鉄とを含有し、シート状またはヒモ状に形成されている。
【0022】
本発明において、海藻とは、コンブやワカメ等のように、海で生育する全ての藻類を含むものであり、本実施形態ではコンブを対象とする。また、生ゴムとは、ラテックス(ゴムノキの樹液)を集めて精製し凝固乾燥させたものであり、加硫していないものである。さらに、海洋生物の殻とは、ウニ等の殻や棘、ホタテ等の貝殻およびイカ等の軟甲のように、海藻の栄養分となる窒素やリン等を含むものであり、本実施形態ではウニ殻を使用している。
【0023】
また、本発明において、シート状とは、薄くて平たい形状をいうものとし、例えば、幅100mm×長さ210mm×厚さ2.5mm等の寸法にすることができる。また、ヒモ状とは、リボンやライン等のように細長い形状をいうものとし、使用形態に合わせて任意の長さにすることができる。ただし、海藻用施肥材1のサイズは、後述する養殖用ロープに保持させ易いサイズであれば限定されるものではない。
【0024】
また、本実施形態において、フルボ酸鉄は、樹皮を発酵させて得られるバーク堆肥と、金だわし(スチールウール)とを熱湯に入れて煮詰めることによりフルボ酸鉄水溶液とし、これをバーク堆肥に染み込ませて乾燥させることにより生成した。
【0025】
[2]海藻用施肥材の製造方法
つぎに、本実施形態の海藻用施肥材1の製造方法について、図1を用いて説明する。まず、オープンロール機に生ゴムの塊を投入して素練りする(ステップS1:生ゴム素練り工程)。これにより、生ゴムが滑らかで柔らかくなるため、殻粉末を混ぜ合わせやすくなる。なお、オープンロール機は、二つの大きなローラを互いに向かい合う方向に回転させ、そのローラ間で材料を挟み込みながら練る機械である。
【0026】
つぎに、生ゴム素練り工程で素練りした生ゴムが滑らかになったところで、当該生ゴムに殻粉末を投入し、オープンロール機によって混練する(ステップS2:殻粉末混練工程)。これにより、海藻の栄養分となる窒素やリン等が、生ゴムと殻粉末との混練物に含有されるとともに、当該混練物の強度が向上するため、低温や水中等の環境下においても圧着し易くなる一方、圧着後は剥離し難くなる。
【0027】
また、本実施形態では、上述した殻粉末混練工程において、殻粉末に加えて、フルボ酸鉄としてのバーク堆肥を投入して混練する。これにより、海藻の生育を促進するフルボ酸鉄も混練物に含有されることとなる。なお、殻粉末およびバーク堆肥(フルボ酸鉄)の投入順序はどちらを先にしてもよく、同時でもよい。
【0028】
最後に、混練した生ゴムおよび殻粉末の混練物をシート状またはヒモ状に成形する(ステップS3:海藻用施肥材成形工程)。このとき、原料として混練された生ゴムが、液状のラテックスと比較して、混練物を丈夫で崩れ難くするため取り扱いが容易になる上、成形もし易くする。また、シート状またはヒモ状に成形することで変形し易くなるため、養殖用ロープに簡単に保持させられ、海藻に対して効果的に栄養分の施肥や追肥を行うことができる海藻用施肥材1が製造される。
【0029】
[3]海藻の養殖施設および養殖方法
つぎに、本実施形態の海藻の養殖施設10および養殖方法について説明する。まず、図2に示すように、養殖用ロープ11を備えた養殖施設10を海中に設置する(ステップS11:養殖施設設置工程)。養殖施設10としては、主として、図3に示すように、海中に略水平方向に張られた幹綱111を養殖用ロープ11とし、これに直接、海藻の種苗を保持させる幹綱直付け方式と、図5に示すように、幹綱111から海中に垂下された枝綱112を養殖用ロープ11とし、これに海藻の種苗を保持させる枝綱付け方式とがある。
【0030】
いずれの方式の養殖施設10においても、幹綱111の両端部は、アンカーボルト12によって海底に固定され、幹綱111の中央部には、複数個のフロート13が結び付けられている。これにより、幹綱111は海底から所定の深さ位置で浮遊する状態を保持する。
【0031】
また、幹綱直付け方式では、図4(a)に示すように、短い種苗糸14を幹綱111の網目に挟み込んで保持させる場合と、図4(b)に示すように、長い種苗糸14を幹綱111に螺旋状に巻き付け、その両端を幹綱111の網目に挟み込んで保持させる場合とがある。
【0032】
一方、枝綱付け方式では、図6(a)に示すように、短い種苗糸14を枝綱112の網目に挟み込んで保持させる場合と、図6(b)に示すように、長い種苗糸14を枝綱112に螺旋状に巻き付け、その両端を枝綱112の網目に挟み込んで保持させる場合とがある。
【0033】
なお、養殖用ロープ11は、幹綱111や枝綱112に限定されるものではなく、1本のロープの下端部に重りをつけて沈めたようなものでもよい。また、養殖用ロープ11に海藻の種苗を保持させる方法は、種苗糸14を挟み込んだり、巻き付ける方法に限定されるものではなく、海藻の種苗が養殖用ロープ11から外れにくい状態で保持されるものであればよい。
【0034】
つづいて、海中に設置された養殖用ロープ11における種苗の近傍位置に海藻用施肥材1を固定する(ステップS12:海藻用施肥材固定工程)。具体的には、養殖用ロープ11である幹綱111や枝綱112の網目に種苗糸14が挟み込まれている場合、図4(a)および図6(a)に示すように、種苗糸14の近傍位置にシート状の海藻用施肥材1を養殖用ロープ11に対して筒状に巻き付けて固定する。
【0035】
具体的には、海藻用施肥材1を養殖用ロープ11に巻き付けた後、その端部を圧着ペンチや手を用いて下層の海藻用施肥材1に強く押し付ける。これにより、海藻用施肥材1同士が簡単に圧着されて養殖用ロープ11に固定されるため、海藻用施肥材1を備えた海藻の養殖施設10が完成する。なお、本実施形態では、図7に示すように、養殖用ロープ11に対して海藻用施肥シート1を約2周分巻き付けているが、これに限定されるものではなく、必要な施肥量に応じて適宜、巻き数を増減してもよい。
【0036】
また、本実施形態では、図7に示すように、上述した海藻用施肥材固定工程において、シート状の海藻用施肥材1を使用する場合、海藻用施肥材1を圧着し易くするための接着用シート2を海藻用施肥材1の端部に介在させて圧着している。本実施形態において、接着用シート2は、生ゴムと殻粉末とを含有し、海藻用施肥材1と同様の製造方法によって製造されるものであるが、海藻用施肥材1よりも殻粉末の含有率が少ないものである。
【0037】
例えば、海藻用施肥材1における殻粉末の含有率を80%とし、接着用シート2における殻粉末の含有率を50%とすることができる。これにより、殻粉末の含有率が少ない接着用シート2は、海藻用施肥材1よりも粘性が高くなるため接着効果が得られ、適切な含有率に設定することにより海藻用施肥材1を強固に接着することができる。なお、海藻用施肥材1および接着用シート2における殻粉末の含有率は、上記数値に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0038】
一方、養殖用ロープ11である幹綱111や枝綱112に種苗糸14が螺旋状に巻き付けられている場合、図4(b)および図6(b)に示すように、種苗糸14と重なり合うようにヒモ状の海藻用施肥材1を養殖用ロープ11に対して螺旋状に巻き付けて固定する。あるいは、ヒモ状の海藻用施肥材1を短く切って複数本とし、所定の間隔を隔てて養殖用ロープ11の網目に挟み込んで固定してもよい。
【0039】
以上のように、本発明において、種苗の近傍位置とは、種苗から短い距離の範囲内のみならず、種苗と接触する状態を含むものである。
【0040】
なお、海藻用施肥材1が自然分解により小さくなったり、荒波によって養殖用ロープ11から外れてしまった場合等には、養殖用ロープ11に海藻用施肥材1を追肥する(ステップS13:海藻用施肥材追肥工程)。具体的には、船で養殖用ロープ11に近づいた後、手繰り寄せて海藻用施肥材1を巻き付けたり、養殖用ロープ11の網目に挟み込むだけで追肥が完了する。このため、養殖用ロープ11を陸揚げして作業する必要がなく、追肥したいときに追肥したい分だけ追肥したい箇所に手軽に追肥が可能となる。
【0041】
[4]作用・効果
つぎに、本発明に係る海藻用施肥材1およびこれを備えた海藻の養殖施設10、海藻用施肥材1の製造方法ならびに海藻の養殖方法の作用について説明する。
【0042】
以上のように、養殖用ロープ11における種苗の近傍位置に固定された海藻用施肥材1は、加硫されていない生ゴムを原料としているため、海中で徐々に自然分解され、殻粉末の栄養分を長期に渡って周囲に溶出する。このため、海藻用施肥材1を備えた養殖施設10では、養殖用ロープ11に保持された海藻の種苗が、近傍の海藻用施肥材1から溶出された栄養分を安定的に吸収し、健全かつ大きく生長する。
【0043】
また、海藻用施肥材1に用いる生ゴムは、従来使用されているラテックス等と比較して原価が安い。さらに、海藻用施肥材1は、養殖用ロープ11に巻き付けて圧着したり、網目に挟み込むだけで簡単に固定される。したがって、海藻用施肥材1は、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥を行う。その上、海藻用施肥材1は、従来のように養殖用ロープ11に染み込ませたりする必要がないため、高強度で安価なナイロンロープ等を使用でき、養殖用ロープ11の高強度化や再利用が可能となる。
【0044】
また、海藻用施肥材1に含有される殻粉末は、海藻用施肥材1の強度を向上し、低温や水中等の環境下においても圧着し易くするとともに、圧着後は剥離し難くする。さらに、本実施形態では、海藻用施肥材1よりも殻粉末の含有率が低い接着用シート2が、高い粘性を有するため、海藻用施肥材1を巻き付けて固定する際、これを介在させることで海藻用施肥材1の端部が簡単かつ強固に圧着する。
【0045】
また、本実施形態では、殻粉末としてウニ殻の殻粉末を利用するため、廃棄物であるウニ殻が有効利用されるとともに、海藻の外敵となるウニから保護する効果も期待できる。さらに、海藻用施肥材1に含有されるフルボ酸鉄は、海藻が窒素を取り込む際や光合成を行う際に利用されるため、海藻の生育をより促進する。
【0046】
以上のような本発明に係る海藻用施肥材1およびこれを備えた海藻の養殖施設10、海藻用施肥材1の製造方法ならびに海藻の養殖方法によれば、以下のような効果を奏する。
1.海藻用施肥材1により、海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープ11の高強度化や再利用も行うことができる。
2.ウニ殻の粉末を殻粉末とすることにより、廃棄物であるウニ殻を有効利用するとともに、海藻の外敵となるウニから保護することができる。
3.海藻用施肥材1にフルボ酸鉄を含有させることにより、海藻の生育を促進することができる。
4.シート状またはヒモ状のような海藻用施肥材1の形状に応じて適切に養殖用ロープに固定することができる。
5.シート状の海藻用施肥材1を巻き付けて固定する場合、海藻用施肥材1の端部に接着用シート2を介在させることにより、海藻用施肥材1を圧着し易くすることができる。
6.自然由来の原料のみで海藻用施肥材1を製造できるため、環境に悪影響を及ぼすことなく、海藻に対して施肥や追肥することができる。
【0047】
なお、本発明に係る海藻用施肥材1およびこれを備えた海藻の養殖施設10、海藻用施肥材1の製造方法ならびに海藻の養殖方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 海藻用施肥材
2 接着用シート
10 養殖施設
11 養殖用ロープ
111 幹綱
112 枝綱
12 アンカーボルト
13 フロート
14 種苗糸
【要約】
【課題】海藻に対して簡単かつ安価に施肥や追肥ができる上、養殖用ロープの高強度化や再利用も行うことができる海藻用施肥材料およびこれを備えた海藻の養殖施設、海藻用施肥材料の製造方法ならびに海藻の養殖方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る海藻用施肥材料1は、海藻に施肥するための海藻用施肥材料1であって、生ゴムと、海洋生物の殻を粉末状にした殻粉末と、を含有し、シート状またはヒモ状に形成されている。前記殻粉末はウニ殻の粉末であってもよく、フルボ酸鉄をさらに含有していてもよい。
【選択図】 図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7