(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】ポリエステル混繊交絡糸、編物および編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20250715BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20250715BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20250715BHJP
D04B 1/20 20060101ALI20250715BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G1/02 B
D02G3/04
D04B1/20
(21)【出願番号】P 2021051343
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219255
【氏名又は名称】東レ・テキスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】松木 洋介
(72)【発明者】
【氏名】三輪 和人
【審査官】野村 裕亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-308074(JP,A)
【文献】特開平09-188934(JP,A)
【文献】特開2019-077973(JP,A)
【文献】特開2007-247113(JP,A)
【文献】特開2004-183142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G,D02J,D04B,D01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸を構成するポリエステル糸条aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの糸長差が2%以上
10%以下であり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの交絡部の数とポリエステル糸条aのみが独立して有する交絡部の数の比が1:3~1:20であるポリエステル混繊交絡糸。
【請求項2】
前記ポリエステル糸条
aがサイドバイサイド型複合によるコンジュゲート繊維である請求項1に記載のポリエステル混繊交絡糸。
【請求項3】
前記ポリエステル糸条
aおよびポリエステル糸条
bの少なくとも一方が0.2~5重量%の無機酸化物を含有する請求項1または2に記載のポリエステル混繊交絡糸。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれかに記載のポリエステル混繊交絡糸を30質量%以上含む編物。
【請求項5】
請求項4に記載の編物を製造する方法であって、芯糸を構成するポリエステル糸条Aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条Bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率がポリエステル糸条Aよりも2%以上低く、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比が1:3~1:20であるポリエステル混繊交絡糸
原糸を用いて製編し、熱処理する、編物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率が2%以下である請求項
5に記載の
編物の製造方法。
【請求項7】
ポリエステル糸条Aおよびポリエステル糸条Bの単繊維繊度が1dtex以上である請求項
5または6に記載の
編物の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエステル混繊交絡糸原糸が、ポリエステル糸条Aがポリエステル糸条Bにまとわりつくように交絡しているものである請求項5~7のいずれかに記載の編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル混繊交絡糸及びそれを用いた編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ストレッチ性とふくらみ感を兼ね備えた布帛として、捲縮糸と非捲縮糸を混繊交絡した混繊糸を用い、ストレッチ性とふくらみ感を兼ね備えた布帛が検討されている。具体的には、捲縮糸として高捲縮タイプやサイドバイサイド型の複合原糸として用いることでストレッチ性を付与し、非捲縮糸として低収縮タイプや自発伸長タイプの複合原糸を用いた混繊交絡糸に熱処理を施し、その収縮差により収縮の低い糸条を織編物の表面に浮き出させることで、ふくらみ感を付与することができる。そしてその混繊糸を用いて製織し、熱処理を施すことにより、ストレッチ性とふくらみ感を兼ね備えた布帛を製造する検討がなされている。
【0003】
例えば、仮撚加工を施した捲縮糸と熱処理を施して低収縮タイプとした非捲縮糸を混繊することで捲縮糸の持つふくらみ感、ストレッチ性と非捲縮糸の持つ表面タッチに加えて双方の相乗効果による繊細な表面感を得られる混繊交絡糸が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1の提案では、捲縮糸の持つふくらみ感が強いため、ストレッチ性とふくらみ感は得られても、非捲縮糸の表面タッチには乏しいものであった。
【0006】
本発明は、前記の課題を解決し、捲縮糸のストレッチ性を維持しながらふくらみを抑え、生地にした際にフカツキが軽減されて非捲縮糸の表面タッチを十分に感じることができ、立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いを有する編物を与えることができるポリエステル混繊交絡糸及びそれを用いた編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、一般的な混繊交絡糸を構成するための捲縮糸と非捲縮糸の交絡点のみならず、芯糸を構成する捲縮糸に独立して交絡点を付与することで、捲縮糸のストレッチ性を維持しながらふくらみを抑えることができ、生地にした際にフカツキが軽減されて非捲縮糸の表面タッチを十分に感じることができ、且つ捲縮糸と非捲縮糸の交絡部間のピッチを一般的な混繊交絡糸よりも広くすることで、非捲縮糸の自由度が増して織物に比べて組織間の拘束力が弱い編物で立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いが得られることを新たに見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、芯糸を構成するポリエステル糸条Aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条Bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率がポリエステル糸条Aよりも2%以上低く、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比が1:3~1:20であるポリエステル混繊交絡糸である。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、前記のポリエステル混繊交絡糸は、前記ポリエステル糸条Aがサイドバイサイド型複合によるコンジュゲート繊維である。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記のポリエステル混繊交絡糸は、前記ポリエステル糸条Aおよびポリエステル糸条Bの少なくとも一方が0.2~5重量%の無機酸化物酸化チタンを含有する。
【0011】
本発明の好ましい態様によれば、前記のポリエステル混繊交絡糸は、前記ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率が2%以下である。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、前記のポリエステル混繊交絡糸は、ポリエステル糸条Aおよびポリエステル糸条Bの単繊維繊度が1dtex以上である。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記のポリエステル混繊交絡糸は、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの糸長差が2%以上ある。
【0014】
本発明の編物は、前記ポリエステル混繊交絡糸を30質量%以上用いて製編みしてなる編物である。
【0015】
又、本発明のポリエステル混繊交絡糸は、芯糸を構成するポリエステル糸条aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの糸長差が2%以上であり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの交絡部の数とポリエステル糸条aのみに独立して入る交絡部の数の比が1:3~1:20であるポリエステル混繊交絡糸である。
【0016】
本発明の編物は、前記ポリエステル混繊交絡糸を30質量%以上含む編物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、混繊交絡糸を構成するための捲縮糸と非捲縮糸との交絡点だけでなく、芯糸を構成する捲縮糸に独立した交絡点を付与することで、捲縮糸のストレッチ性を維持しながらふくらみを抑えることでき、それにより生地にした際にフカツキが軽減されて非捲縮糸の表面タッチが十分に感じることのできる編物を与えることができる。且つ捲縮糸と非捲縮糸との交絡部間のピッチを一般的な混繊交絡糸よりも広くし、非捲縮糸を低沸収タイプにすることで、非捲縮糸の自由度が増して、織物に比べて組織間の拘束力が弱い編物において、従来の編物にはなかった立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いを感じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明のポリエステル混繊交絡糸の好ましい製造方法の一態様を説明するための概念図である。
【
図2】
図2は本発明のポリエステル混繊交絡糸の糸形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、芯糸を構成するポリエステル糸条Aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条Bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条Bの沸騰収縮率がポリエステル糸条Aよりも2%以上低く、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比が1:3~1:20である。
【0020】
ポリエステル糸条Aが仮撚捲縮糸であるとは、ポリエステル糸条Aが仮撚加工により捲縮が発現している捲縮糸であることを示し、鞘糸を構成するポリエステル糸条Bがマルチフィラメントのフラットヤーンであるとは、ポリエステル糸条Bが仮撚加工されていない、仮撚捲縮を有さないマルチフィラメントの非捲縮糸であることを示す。以下、仮撚捲縮糸を捲縮糸、フラットヤーンを非捲縮糸と称する場合もある。なお、編物等布帛に含まれるポリエステル混繊交絡糸は、解編みなどにより分解糸にすると、編等に起因する捲縮を有する場合があるが、編みに起因する捲縮については考慮に含めないのものとする。
【0021】
ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率がポリエステル糸条Aよりも2%以上低くなることで芯糸と鞘糸の収縮差により、糸長差が発現して鞘糸の非捲縮糸が編物表面に浮き出て綿調の風合いを与えることができる。沸騰水収縮率の差が2%未満になると芯糸と鞘糸の収縮差が十分ではなく、糸長差が小さいため非捲縮糸が編物表面に浮き出ず合繊調の風合いが強くなる。好ましい沸騰水収縮率の差としては、2.5%以上である。上限としては、編地の耐摩耗性の観点から5%以下であることが好ましい。
【0022】
ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比が1:3~1:20であることで、編物のストレッチ性は維持したままフカツキ感を防止することができ、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数をポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数よりも少なくすることで交絡部間ピッチが広がり、非捲縮糸であるポリエステル糸条Bの自由度が増すことになる。その結果、編物としたときに立体感のあるシボ調の表面感を与えることができる。ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数がポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数に近づき、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数を1とした場合、ポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数が3未満になると、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部間ピッチが狭まり、狙いとするシボ調の表面感が十分に発現しない。一方、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数がポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数よりも大きく減少し、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数を1とした場合、ポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数が20を超えると、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部間ピッチがより広がり、シボ調の表面感は得られるものの長さのあるシボが発現するためナチュラルな表面感から人口的な表面感となり、且つ生地の耐摩耗性が低下する。好ましい交絡部の数の比は、1:3~1:15である。ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部の数の絶対値の好ましい範囲は、5個/m以上35個/m以下である。
【0023】
図2は本発明のポリエステル混繊交絡糸の糸形態を説明するための図である。芯糸を構
成するポリエステル糸条A21が仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条B22がマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条
Aがポリエステル糸条Bに絡みつく、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部23とポリエステル糸条Aの単繊維のみが絡みつき、ポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部24の2種類の交絡部を有することが分かる。
【0024】
本発明のポリエステル混繊交絡糸のポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bとの交絡部とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部を形成する方法としては、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bを混繊交絡する工程でインターレースノズルを用いて同時に交絡部を付与する方法が好ましく挙げられる。捲縮糸と非捲縮糸を混繊する場合、非捲縮糸は捲縮を有さないため、非捲縮糸を極端にオーバーフィードしない場合、捲縮糸に比べて単繊維に自由度が少ない。そのような状態で、ノズルからのエアー噴出時に単繊維が開繊すると、開繊した単繊維の膨らみの両端の単繊維同士は絡みにくい。そのため、一般的な混繊交絡糸を製造する場合には、糸を弛ませてノズルに供給して混繊交絡処理を行う。捲縮糸と非捲縮糸の単繊維同士が十分に絡まり合うことで布帛製造工程における工程通過性が向上し、交絡部の単繊維同士の絡まりが解ける交絡抜けを防止しながら混繊交絡をおこなうのが通常である。
【0025】
一方、本発明のポリエステル混繊交絡糸は、捲縮糸と非捲縮糸の混繊状態に着目して、インターレースノズルに捲縮糸は弛ませ、非捲縮糸はほとんど弛ませずに供給することで、捲縮糸には一般的な交絡処理が施され、非捲縮糸は交絡が付与されにくいものの、捲縮糸の単繊維が自由度を増して絡み合う際に非捲縮糸を巻き込み混繊交絡処理が施されるようになる。その結果、捲縮糸であるポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部と、ポリエステル糸条Aとポリ非捲縮糸であるエステル糸条Bとの交絡部が形成され、捲縮糸であるポリエステル糸条Aに独立して入る交絡部の数よりも捲縮糸であるポリエステル糸条Aと非捲縮糸であるポリエステル糸条Bが混繊して入る交絡部の数の方が少なくなり、捲縮糸に独立して入る交絡部間のピッチより、捲縮糸と非捲縮糸との交絡部間のピッチの方が広いものとなる。交絡処理時に単繊維の自由度の高い捲縮糸に独立して入る交絡部の交絡強度は、一般的な交絡処理を施した捲縮糸と同等の交絡強度を有するが、捲縮糸と非捲縮糸が混繊して入る交絡部の交絡強度は、捲縮糸が非捲縮糸にまとわりつくように絡み混繊交絡処理が施されているため、一般的な混繊交絡糸に比べて交絡強度が低く、織物に用いる場合は準備工程や製織工程でかかる張力で混繊した交絡部が解けて部分的にシボ調の表面感が変化して目的の表面感や風合いが得にくくなるため、比較的工程張力の低い編物に用いることが好ましく、丸編地に用いることがより好ましい。
【0026】
混繊交絡処理を行うノズルの種類としては、特に種類を限定しないが、立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いを両立させるためには、インターレースノズルを使用することが好ましい。
【0027】
本発明のポリエステル混繊交絡糸において、ポリエステル糸条Aは、通常マルチフィラメントの形態を有し、単独成分から構成される繊維、いわゆる単独繊維、2以上の成分で構成されるコンジュゲート繊維であってもよい。2以上の成分で構成されるコンジュゲート繊維である場合には、サイドバイサイド型複合によるコンジュゲート繊維であることが好ましい。サイドバイサイド型複合によるコンジュゲート繊維を用いることで仮撚捲縮に付随してコンジュゲート繊維のコイル状捲縮によりストレッチ性とストレッチバック性が良好な編物を得ることができる。コイル状捲縮は、紡糸後の延伸と熱により2成分のポリマー間の内部歪の差によって発現すると考えられ、コンジュゲート繊維がリラックス状態で熱を受けた時に潜在捲縮が発現して捲縮の顕在化が起こる。サイドバイサイド型複合によるコンジュゲート繊維としては、粘度の異なる2種類のポリエステル系ポリマーからなるものであって、ポリマーの品種は、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレートあるいはポリブチレンテレフタレートから選ぶことができる。
【0028】
芯糸を構成するポリエステル糸条Aが単独繊維である場合には、ポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメントであることが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル混繊交絡糸において、ポリエステル糸条Bは、がポリエステル糸条B中に0.2~5重量%の酸化チタンを含有し、沸騰水収縮率が2%以下であることが好ましい。
【0030】
ポリエステル糸条Bの沸騰水収縮率を2%以下とすることで、後加工時等の熱処理を経たることによりポリエステル糸条Aとの収縮差により糸長差が発現してポリエステル糸条Bの非捲縮糸が編物表面に浮き出て綿調の風合いを与えることができる。一般的な非捲縮糸の沸騰水収縮率は5~10%程度であり、一般的な捲縮糸の沸騰水収縮率は4~8%程度となる。捲縮糸は仮撚工程にて熱セットを加えるため非捲縮糸に比べて沸騰水収縮率が下がる傾向にある。一般的に流通する非捲縮糸を使用しては、捲縮糸との収縮差による糸長差が十分に得られない。そのため、本発明においては、元糸として高配向未延伸糸を用い、延伸による全延伸糸化と高温熱処理を施すことで低沸収化することにより製造することができる。より好ましい沸騰水収縮率は、1.5%以下である。
【0031】
鞘糸を構成するポリエステル糸条Bとしては、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント、ポリエチレンテレフタレートに5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルを共重合した共重合ポリエステル等のカチオン可染ポリエステル等のマルチフィラメントが好ましく挙げられる。
【0032】
ポリエステル混繊交絡糸に用いられるポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの断面形状は、特には限定しないが、用途等に応じて任意の形状とすることができ、円形、三角、扁平、Y型、星形、楔形、多葉型、ダルマ型が好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル混繊交絡糸において、ポリエステル糸条A、Bは、それぞれ、ポリエステル糸条Aもしくはポリエステル糸条B中に0.2~5重量%の無機酸化物を含有することが好ましい。
【0034】
上記無機酸化物としては、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが好ましく挙げられるが、なかでも酸化チタンを用いることがより好ましい。
【0035】
これら無機酸化物は、一般に繊維に含有させるのに用いられる通常のものを使用することができる。
【0036】
ポリエステル糸条A、Bが上記無機酸化物を含有することで単糸フィラメント側面に無機酸化物の粒子からくる凹凸で、摩擦が低くなるためソフトな肌触りを得ることができる。また、無機酸化物の粒子を繊維内部に含有することで編地での防透性や紫外線遮蔽効果が向上する。無機酸化物の含有量が0.2重量%以上であることで、ソフトな肌触りと防透性や紫外線遮蔽効果が得られ、無機酸化物の含有量が多くなるとソフトな肌触りと防透性や紫外線遮蔽効果が一段と向上する。5重量%以下とすることで原糸配向が不安定になりすぎず、製糸性と紡糸工程以降の高次工程における操業性は良好であり、単糸フィラメント側面に発現する無機酸化物の粒子が多すぎることにより、各高次工程において糸に接触するガイドや機械部品の摩耗が進み交換周期が著しく短くなるということも生じにくいため好ましい。より好ましい無機酸化物の含有量は、0.3~3.5重量%である。
【0037】
本発明のポリエステル混繊交絡糸においては、ポリエステル糸条Aおよびポリエステル糸条Bの単繊維繊度が1dtex以上であることが好ましい。
【0038】
上記範囲とすることで、編物に対し適度なコシと、立体感のあるシボ調の表面感や生地に触れた際の凹凸感や反発感、綿調の風合いが感じられる編物が得られる点で好ましい。ポリエステル糸条Aのより好ましい単繊維繊度の範囲は、反発感向上の点から1.1dtex以上である。上限としては風合い硬化の点から9.6dtex以下であることが好ましく、4.8dtex以下であることがより好ましい。ポリエステル糸条Bの単繊維繊度は立体感のあるシボ調の表面感向上の点から2.2dtex以上であることがより好ましい。上限としては、風合硬化の点から8.3dtex以下であることが好ましく、5.6dtex以下であることがより好ましい。
【0039】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、ストレッチ性とシボ調の表面感を有することから用途を限らず一般衣料全般に使用することができ、ポリエステル混繊交絡糸の総繊度が30~350dtexとすることが好ましく、50~300dtexとすることがより好ましい。
【0040】
また、製編前のポリエステル混繊交絡糸の伸度は17%以上であることが好ましい。伸度が17%未満になると製編時の高次加工工程における工程通過性に問題が起こりやすくなる。より好ましくは18%以上50%以下である。伸度が50%以下とすることで、高次加工工程で加わる加工張力によりポリエステル複合仮撚糸中の糸条が延伸されて、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部が解けて部分的にシボ調の表面感が変化して目的のシボ調表面感や風合いが得にくくなるという現象を抑制することができる。
【0041】
本発明のポリエステル混繊交絡糸の製造方法は、本発明で規定するポリエステル混繊交絡糸が得られる限り制限はないが、ポリエステル糸条Aとするための元糸Aに仮撚を施した仮撚糸と、ポリエステル糸条Bとするための元糸Bに延伸を施した延伸糸とを混繊交絡する方法が好ましく挙げられる。このようなポリエステル糸条A、Bの元糸としては、ポリエステルの高配向未延伸糸が好ましく用いられる。このような、高配向未延伸糸の、好ましい伸度はそれぞれ100%以上180%以下であり、より好ましい伸度は120%以上160%以下である。元糸が十分な伸度を有することで捲縮糸では、延伸性・熱セット性が向上し、仮撚時に良好な生産効率が得られ、非捲縮糸では、延伸倍率、熱セット温度の調整幅が広がり、市販される延伸糸に比べて低沸収かつ柔らかな風合いの糸が得られる。
【0042】
ポリエステル混繊交絡糸に用いられるポリエステル糸条Aの元糸とポリエステル糸条Bの元糸はそれぞれ引っ張り強度が1.3cN/dtex以上であることが好ましい。引っ張り強度を1.3cN/dtex以上とすることにより、一般衣料全般に適応することが可能となる。より好ましくは1.5cN/dtex以上である。
【0043】
本発明のポリエステル混繊交絡糸の好ましい製造方法としては、ポリエステル糸条A、ポリエステル糸条Bの元糸となる、上記ポリエステルの高配向未延伸糸を用い、ポリエステル糸条A用の元糸に対しては仮撚捲縮加工を施し、ポリエステル糸条B用の元糸に対しては、延伸、熱処理による低沸騰水収縮率化を施したのち、それぞれの糸を混繊交絡するが、その際、ポリエステル糸条Bについては、オーバーフィードしすぎて弛ませすぎることがないよう、留意することが好ましい。好ましいオーバーフィード率については、本発明で規定するポリエスエル混繊交絡糸が得られる限り制限はなく、前記したように、交絡点の数とオーバーフィードの状態を鑑み、各糸条を弛ませる程度を適宜調整すればよい。
【0044】
かくして得られる本発明のポリエステル混繊交絡糸は、収縮発現後の混繊交絡糸、例えば製編後、後加工をして製品とする際、後加工時の熱処理等の熱履歴を経ることで、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの収縮差により糸長差が発生する。収縮後のポリエステル糸条A、Bは、既に収縮前の沸騰水収縮率は有していないので、便宜上、収縮後のポリエステル糸条A、Bをそれぞれ、ポリエステル糸条a、bと称するものとする。製品とした後、編物中に含まれるポリエステル混繊交絡糸のポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの糸長差として2%以上あることが好ましい。糸長差は芯糸と鞘糸の沸騰水収縮率差や混繊フィード率差、混繊交絡状態に影響を受け、糸長差が大きいほど嵩高でふくらみのある生地が得られるが、糸長差が大き過ぎてもフカツキによる風合い低下やスナッキング・ピリングなどの生地物性低下を招くため適度な設計が求められる。ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの糸長差が2%以上となることで、鞘糸を構成するポリエステル糸条bが編物表面に浮きでるため、適度なシボ調の表面感と綿調風合いが得られる。より好ましい糸長差は、3%以上である。上限としては、フカツキによる風合い低下や生地物性低下の点から10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、混繊交絡糸を構成するための捲縮糸と非捲縮糸の交絡点だけでなく、芯糸を構成する捲縮糸に独立して交絡点を付与し、且つ捲縮糸と非捲縮糸の交絡部間のピッチを一般的な混繊交絡糸よりも広くし、非捲縮糸を低沸収タイプにすることで、立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いを有する編物とすることができる。
【0046】
なかでも編物の30質量%以上に上記ポリエステル混繊交絡糸を含む編物とすることが好ましい。本発明においては前記ポリエステル混繊交絡糸を30%以上編物に用いることで立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いがより一層顕著に発揮することができる。好ましい編物への混繊交絡糸の混率は50質量%以上である。上限としては特に制限はないが、100質量%とすることで、嵩立体感のあるシボ調の表面感と綿調風合いをより一層顕著に感じる編物が得られる。
【0047】
上記編物に用い得るその他の繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、レーヨン、綿、麻、ウール等が好ましく挙げられる。
【0048】
本発明の編物を構成する組織については特に限定しない。その組織は使用される用途によって丸編地の天竺組織、インターロック組織、スムース組織、経編み地のハーフ組織、サテン組織、ジャカード組織やそれらの変化組織などいずれであっても構わない。
【0049】
本発明の編物は、起毛加工を施すことも可能である。起毛加工を施すことでシボ調の表面感を有する凹凸部の凸部の単繊維が切れて、繊維長手方向と垂直方向に立ち上がるため、立体的なシボ調の表面感がより一層強調される。起毛加工の種類は問わず、一般的な編物の起毛加工として挙げられる、針布起毛加工やバフ起毛加工を施すことができる。
【0050】
本発明のポリエステル混繊交絡糸を用いた編物は起毛加工などの物理加工の他に減量加工等の風合い調整を目的とした加工や撥水加工や吸水加工、帯電防止加工、消臭加工、撥油加工、制菌加工、抗ウィルス加工、柔軟加工などの機能加工を施すことができる。
【0051】
本発明のポリエステル混繊交絡糸は、上述のとおり編物等の製品化の際、後加工等による熱履歴により収縮が発現し、糸長差が発現する。よって、例えば製品である編物からポリエステル混繊交絡糸など、糸長差発現後のポリエステル混繊交絡糸は、芯糸を構成するポリエステル糸条aが仮撚捲縮糸であり、鞘糸を構成するポリエステル糸条bがマルチフィラメントのフラットヤーンであり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの糸長差が2%以上であり、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの交絡部の数とポリエステル糸条aのみに独立して入る交絡部の数の比が1:3~1:20であるポリエステル混繊交絡糸となる。
【実施例】
【0052】
[糸条の繊度]
混繊交絡糸を検尺機(円周1.125m)で80回巻取り輪状にし、重量Wを測定した。下記の式より糸条の繊度を算出した。
糸条の繊度(dtex)=W×100×1.111
[糸条の伸度]
JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法(2010)に準じて測定した。
【0053】
つかみ間隔は200mm、引っ張り速度は200mm/分として、引っ張り試験機((株)島津製作所製)で荷重-伸長曲線を求め、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度とした。
【0054】
[糸条の単繊維繊度]
ポリエステル混繊交絡糸10cmを採取し、鞘糸を構成するポリエステル糸条の単繊維1本と芯糸を構成するポリエステル糸条の単繊維1本を抜き取る。芯糸鞘糸それぞれの単繊維を長手方向に1cm間隔でカットして5本ずつ用意し、断面を走査型電子顕微鏡S-3400N((株)日立製作所製)で観察して、繊維直径を5点測定し、その5点の平均繊維直径をμとした。繊維比重をρ とし、次の式より単繊維繊度を算出した。繊維比重はポリエステルの比重1.38を使用した。
単繊維繊度(dtex)=ρμ2/141.6
総繊度(dtex)=単繊維繊度(dtex)×H
[糸条の引っ張り強度、伸度]
JIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法(2010)に準じて測定した。
【0055】
つかみ間隔は200mm、引っ張り速度は200mm/分として、引っ張り試験機((株)島津製作所製)で荷重-伸長曲線を求め、破断時の荷重値を初期繊度で割り、それを引っ張り強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度とした。
【0056】
[糸条の沸騰水収縮率差]
混繊交絡糸を構成する捲縮糸と非捲縮糸を、交絡混繊を施さずに別々に巻取った以外は、各実施例、比較例に記載したのと同じように操作した。別々に巻き取ったそれぞれの糸を検尺機(円周1.125m)で10回巻取り輪状にし、測定板の上部にセットして、捲縮糸には繊度(D)の1/10gの荷重をかけて30秒後の長さL1を測定し、非捲縮糸には繊度(D)の1/30gの荷重をかけて30秒後の長さL2を測定した。次に測定後の糸が乱れないように、ガーゼに包み、100℃の沸騰水の中に入れ、30分間処理した後にガーゼから糸を取り出し常温乾燥させる。乾燥した糸を測定板の上部にセットして、熱処理前と同等の荷重を捲縮糸、非捲縮糸にかけて30秒後の長さL3、L4を測定し次に式より捲縮糸の沸騰水収縮率L5と非捲縮糸の沸騰水収縮率L6を算出し、両糸の沸騰水収縮率の差より沸騰水収縮率差を算出した。
捲縮糸の沸騰水収縮率L5(%)=(L1-L3)/L1
非捲縮糸の沸騰水収縮率L6(%)=(L2-L4)/L2
沸騰水収縮率差(%)=L5(%)-L6(%)
[ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比]
染色、仕上げ加工を経た編物より、混繊交絡糸1mを3本採取し、デジタルマイクロスコープVHX-500((株)キーエンス製)を用いて、混繊交絡糸の端より混繊糸を構成する捲縮糸と非捲縮糸の交絡部の数と捲縮糸のみに独立して入る交絡部の数を測定し、1m当たりの捲縮糸と非捲縮糸の交絡部の平均個数Aと捲縮糸のみに独立して入る交絡部の平均個数Bを算出した。平均個数Aと平均個数Bで交絡部数の比をとり、平均個数Aを1とした場合の平均個数Bの比を求めて交絡部の数の比とした。
【0057】
捲縮糸と非捲縮糸の交絡部、捲縮糸のみに独立して入る交絡部の区別は下記のとおり行ない、
捲縮糸と非捲縮糸の交絡部が密に存在し、捲縮糸のみに独立して入る交絡部が峻別できず、捲縮糸のみに独立して入る交絡部が特定できない場合は、なしとして判断した。
【0058】
捲縮糸と非捲縮糸の交絡部:捲縮糸の単繊維が非捲縮糸の糸条に絡みつく部分、および捲縮糸の糸条に非捲縮糸の単繊維が絡みつく部分等捲縮糸の少なくとも一部と非捲縮糸の少なくとも一部の間で絡まりが観察される場合。捲縮糸と非捲縮糸の交絡部とした。
【0059】
捲縮糸のみに独立して入る交絡部:捲縮糸の単繊維同士が絡みつき、収束する部分であって、非捲縮糸との間での絡まりが観察されない場合、捲縮糸のみに独立して入る交絡部とした。
【0060】
混繊交絡し、製編みする前のポリエステル混繊交絡糸についても同様に試料を採取し、ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部の数とポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部の数の比を測定したが、編物より採取して測定したポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの交絡部の数とポリエステル糸条aのみに独立して入る交絡部の数の比と実質的な差違がないことを確認したので、以下では編物から採取した試料で測定したポリエステル糸条aとポリエステル糸条bの交絡部の数とポリエステル糸条aのみに独立して入る交絡部の数の比の値を表中交絡部の数の比として記載した。
【0061】
[編物を構成する混繊交絡糸の糸長差]
染色、仕上げ加工を経た編物を5cm四方に切り取り、経方向または緯方向からポリエステル混繊交絡糸を1本採取した。採取した混繊交絡糸を分解し、鞘糸を構成するポリエステル糸条の単繊維5本と芯糸を構成するポリエステル糸条の単繊維5本を抜き取った。起毛処理した編物の場合、可能な場合は起毛前の編物で評価した。なお、起毛前の編物で評価出来ない場合は、起毛処理等により単繊維切れを伴う編物から試料を採取する。その場合は、評価可能(芯糸、鞘糸それぞれから糸切れをしていない単繊維5本の抜き取りが可能)なポリエステル混繊交絡糸が見いだされるまでポリステル混繊交絡糸を採取し、それを用いる。評価可能なポリエステル混繊交絡糸を見いだせない場合は、染色・仕上げ加工を経た編物を3cm四方に切り取り、同様に評価可能なポリエステル混繊交絡糸が見いだされるまでポリエステル混繊交絡糸を採取し、それを用いる。
【0062】
抜き取った単繊維をガラス板にのせ、グリセリンを微量滴下し、織編構造から形成されるクリンプを伸ばして単繊維繊度(d)の1/30g初期荷重を付与し糸長を測定した。鞘糸を構成するポリエステル糸条の単繊維5本の平均糸長をL1、芯糸を構成するポリエステル糸条の単繊維5本の平均糸長をL2とし、次の式より糸長差を算出した。
糸長差( % )=〔( L1 - L2 ) / L 2 〕×1 0 0
[編物を構成する混繊交絡糸の単繊維繊度、総繊度]
染色、仕上げ加工を経た編物の経方向または緯方向から一定間隔(編物ベースで5cm採取)のポリエステル混繊交絡糸を1本採取した。採取したポリエステル混繊交絡糸を分解し、鞘糸を構成するポリエステル糸条bの単繊維1本と芯糸を構成するポリエステル糸条aの単繊維1本を抜き取った。芯糸鞘糸それぞれの単繊維を長手方向に1cm間隔でカットして5本ずつ用意し、断面を走査型電子顕微鏡S-3400N((株)日立製作所製)で観察して、繊維直径を5点測定し、その5点の平均繊維直径をμとした。繊維比重をρ とし、次の式より単繊維繊度を算出した。次に織編物よりポリエステル混繊交絡糸1本を抜き出し、鞘糸を構成するポリエステル糸条bと芯糸を構成するポリエステル糸条aの単繊維本数Hを数え、次の式より総繊度を算出する。繊維比重はポリエステルの比重1.38を使用する。
単繊維繊度(dtex)=ρμ2/141.6
総繊度(dtex)=単繊維繊度(dtex)×H
[布帛の表面感、風合い]
布帛の表面感、風合いそれぞれの評価について、目視によって熟練者10名により、次の4段階判定法で評価した。◎および○を合格とした。
【0063】
布帛の表面感
◎ : シボ調および立体的な表面感が際立つ。
○ : シボ調および立体的な表面感を有する。
△ : シボ調および立体的な表面感を有しているように見える。
× : シボ調および立体的ではない均一な表面感を有する。
【0064】
風合い(綿調タッチ)
◎ : 毛羽のような滑らかな強いヌメリを感じる。
○ : 毛羽のような滑らかなヌメリを感じる。
△ : 毛羽のような滑らかなヌメリがあるように感じる。
× : 毛羽のような滑らかなヌメリを感じられない。ふかつきを感じる。
【0065】
[ストレッチ性評価]
ストレッチ性の評価について、熟練者10名により、次の4段階判定法で評価した。◎、○を合格とした。
◎ : 編物の引張時に伸びと強い反発感があると感じる。
○ : 編物の引張時に伸びと反発感があると感じる。
△ : 編物の引張時に伸びと反発感があるように感じる。
× : 編物の引張時に伸びと反発感が感じられない。
【0066】
[実施例1]
紡糸速度3500m/minで製造した130dtex36fのポリエステル(PET)高配向未延伸糸である元糸A(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度2.35cN/dtex、伸度154.1%)と紡糸速度3500m/minで製造した130dtex36fのポリエステル(PET)高配向未延伸糸Bである元糸B(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度2.35cN/dtex、伸度154.1%)を
図1の製造工程に従い、表1の条件で延伸・仮撚・交絡混繊を行い、総繊度157dtex72f(伸度24.3%)の混繊交絡糸を得た。
【0067】
図1は本発明の混繊交絡糸の好ましい製造方法の一例を示す概念図である。また、実施例1では
図1に記載の製造工程、かつ表1に記載の延伸・仮撚・交絡混繊条件で製造した。まず、糸条Aのポリエステル高配向未延伸糸である元糸A1は、ガイド2を通り、第一フィードローラー3で送り出され、ヒーター4とツイスター5を介して、第一フィードローラー3と第二フィードローラー6との間で仮撚加工を行い、仮撚糸7として送り出される。一方、糸条Bのポリエステル高配向未延伸糸である元糸B8は、ガイド9を通り、第三フィードローラー10で送り出され、ヒーター11を介して、第三フィードローラー10と第四フィードローラー12との間で延伸熱セット加工を行い、延伸糸13として送り出される。前記仮撚糸7、延伸糸13を送り出した各フィードローラーと第五フィードローラー15との間で、仮撚糸7と延伸糸13はインターレースノズル14で混繊交絡され、ポリエステル混繊交絡糸16として送り出され、巻取りローラー17で巻き取られる。第一フィードローラー3と第二フィードローラー6間の延伸倍率は1.70倍、ヒーター4の温度は190℃、ツイスター5の種類はフリクションタイプ、第三フィードローラー10と第四フィードローラー12間の延伸倍率は1.68倍、ヒーター11の温度は200℃、第二フィードローラーと第五フィードローラー間のフィード率は3.3%、第四フィードローラーと第五フィードローラー間のフィード率は0.3%、インターレースノズル14のエアー圧力は0.25MPaの条件で製造した。
【0068】
仮撚糸7の沸騰水収縮率は5.5%、延伸糸13の沸騰水収縮率は1.8%となり、沸騰水収縮率差は3.7%となった。得られたポリエステル混繊交絡糸をウェル38本/2.54cm、コース50本/2.54cmとして天竺丸編地を作製した。次いで、得られた編物に、常法に従い液流リラックス処理を施し、分散染料Navy Blue SGLを用いて、130℃の温度で30分間染色し、常法に従い仕上げセットを施した。仕上げセット温度は170℃で実施した。得られた編物から分解した混繊交絡糸の交絡部の数の比は1:8であり、糸長差は2.8%、ポリエステル糸条aの単繊維繊度は2.2dtex、ポリエステル糸条bの単繊維繊度は2.2dtexであった。得られた編物は、シボ調および立体的な表面感を有し、毛羽のような滑らかなヌメリを感じる風合いがあり、編物の引張時に伸びと反発感があると感じるストレッチ性が得られた。
【0069】
[実施例2]
紡糸速度3300m/minで製造した132dtex48fのサイドバイサイド型ポリエステル高配向未延伸糸である元糸A(酸化チタン含有量0.1重量%、引っ張り強度2.38cN/dtex、伸度145.7%)と紡糸速度3500m/minで製造した130dtex36fのポリエステル(PET)高配向未延伸糸である元糸B(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度2.35cN/dtex、伸度154.1%)を
図1の製造工程に従い、表1の条件で延伸・仮撚・交絡混繊を行い、総繊度161dtex84f(伸度26.6%)の混繊交絡糸を得た。仮撚糸7の沸騰水収縮率は6.1%、延伸糸13の沸騰水収縮率は1.8%となり、沸騰水収縮率差は4.3%となった。得られたポリエステル混繊交絡糸をウェル38本/2.54cm、コース50本/2.54cmとして天竺丸編地を作製し、実施例1と同様の条件で加工工程を通し、実施例1と同様の方法で物性を評価した。得られた編物から分解したポリエステル混繊交絡糸の交絡部の数の比は1:7であり、糸長差は3.6%、ポリエステル糸条aの単繊維繊度は1.7dtex、ポリエステル糸条bの単繊維繊度は2.3dtexであった。得られた編物は、シボ調および立体的な表面感が際立ち、毛羽のような滑らかな強いヌメリを感じる風合いがあり、編物の引張時に伸びと強い反発感があると感じるストレッチ性が得られた。
【0070】
[比較例1]
紡糸速度3500m/minで製造した130dtex36fのポリエステル(PET)高配向未延伸糸条A(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度2.35cN/dtex、伸度154.1%)と紡糸速度3500m/minで製造した130dtex36fのポリエステル(PET)高配向未延伸糸条B(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度2.35cN/dtex、伸度154.1%)を
図1の製造工程に従い、表1の条件で延伸・仮撚・交絡混繊を行い、総繊度158dtex72f(伸度23.9%)の混繊交絡糸を得た。仮撚糸7の沸騰水収縮率は5.5%、延伸糸13の沸騰水収縮率は1.8%となり、沸騰水収縮率差は3.7%となった。得られたポリエステル混繊交絡糸をウェル38本/2.54cm、コース50本/2.54cmとして天竺丸編地を作製し、実施例1と同様の条件で加工工程を通し、実施例1と同様の方法で物性を評価した。得られた編物から分解した混繊交絡糸は、糸条bに独立して入る交絡がなく、ポリエステル糸条aとポリエステル糸条bとの交絡部のみが確認でき、交絡部の数の比に表すことができない、糸長差は1.8%、ポリエステル糸条aの単繊維繊度は2.2dtex、ポリエステル糸条bの単繊維繊度は2.2dtexであった。得られた編物は、シボ調および立体的ではない均一な表面感を有し、毛羽のような滑らかなヌメリを感じられず、ふかつきのある風合いがあり、編物の引張時に伸びと反発感があるように感じるストレッチ性となった。
【0071】
[比較例2]
紡糸速度3300m/minで製造した132dtex48fのサイドバイサイド型ポリエステル高配向未延伸糸条A(酸化チタン含有量0.1重量%、引っ張り強度2.38cN/dtex、伸度145.7%)と紡糸速度800m/minで紡糸した未延伸糸を延伸して製造した84dtex36fのポリエステル延伸糸条A(酸化チタン含有量3.0重量%、引っ張り強度4.10cN/dtex、伸度38.0%)を
図1の製造工程に従い、表1の条件で仮撚加工を行い、総繊度164dtex84f(伸度26.8%)の混繊交絡糸を得た。仮撚糸7の沸騰水収縮率は5.5%、延伸糸13の沸騰水収縮率は8.9%となり、沸騰水収縮率差は-3.4%となった。得られたポリエステル混繊交絡糸をウェル38本/2.54cm、コース50本/2.54cmとして天竺丸編地を作製し、実施例2と同様の条件で加工工程を通し、実施例2と同様の方法で物性を評価した。得られた編物から分解した混繊交絡糸の交絡部の数の比は1:7であり、糸長差は-1.7%、ポリエステル糸条aの単繊維繊度は1.7dtex、ポリエステル糸条bの単繊維繊度は2.5dtexであった。得られた編物は、シボ調および立体的ではない均一な表面感を有し、毛羽のような滑らかなヌメリを感じられず、ふかつきのある風合いがあり、編物の引張時に伸びと反発感があると感じるストレッチ性となった。
【0072】
【0073】
【符号の説明】
【0074】
1:元糸A
2:ガイド
3:第一フィードローラー
4:ヒーター
5:ツイスター
6:第二フィードローラー
7:仮撚糸
8:元糸B
9:ガイド
10:第三フィードローラー
11:ヒーター
12:第四フィードローラー
13:延伸糸
14:インターレースノズル
15:第五フィードローラー
16:ポリエステル混繊交絡糸
17:巻取りローラー
21:ポリエステル糸条A
22:ポリエステル糸条B
23:ポリエステル糸条Aとポリエステル糸条Bの交絡部
24:ポリエステル糸条Aのみが独立して有する交絡部