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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/138 20060101AFI20250715BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20250715BHJP
   B60T 8/176 20060101ALI20250715BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20250715BHJP
【FI】
B60T13/138 A
B60T17/22 Z
B60T8/176 Z
B60T13/74 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021163603
(22)【出願日】2021-10-04
(65)【公開番号】P2023054633
(43)【公開日】2023-04-14
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮崎 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】大竹 毅
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151210(JP,A)
【文献】特開2021-037939(JP,A)
【文献】特開平05-065061(JP,A)
【文献】特開2003-104196(JP,A)
【文献】特開平04-252766(JP,A)
【文献】特開平11-048945(JP,A)
【文献】特開2016-043788(JP,A)
【文献】特表平11-512055(JP,A)
【文献】特開平05-060157(JP,A)
【文献】特開2016-068882(JP,A)
【文献】特開平08-026099(JP,A)
【文献】特開2001-158336(JP,A)
【文献】特開2004-359169(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110803149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/138-13/20
B60T 17/18 -17/22
B60T 8/176-8/1769
B60T 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ホイールシリンダの液圧室の液圧により前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキの各々に対応してそれぞれ設けられた電動シリンダ装置と、複数の前記電動シリンダ装置の各々に対応してそれぞれ設けられた電源とを含む液圧ブレーキシステムであって、
前記複数の電動シリンダ装置が、それぞれ、ハウジングと、前記ハウジングに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンと、駆動源としての電動モータと、前記電動モータの回転を前記ピストンの直線移動に変換する直線回転運動変換装置と、前記ピストンの前方に設けられ、前記液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室に接続された容積変化室とを含み、
前記電動シリンダ装置が4つ以上設けられるとともに、前記電源が4つ以上設けられ、
前記4つ以上の電動シリンダ装置の各々が、それぞれ、4つ以上の前記液圧ブレーキの各々に1対1に対応して設けられ、
前記4つ以上の電動シリンダ装置の各々の下流側に、ソレノイドへの電圧の印加により作動させられる電磁弁が設けられておらず、
前記4つ以上の電動シリンダ装置が、互いに液圧的に独立であり、
当該液圧ブレーキシステムが、
運転者によるブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させて4つ以上の前記ホイールシリンダのうちの1つ以上に液圧を供給可能なマニュアル液圧源を含まないが、
運転者によって操作可能なブレーキ操作部材の操作状態を検出する操作状態検出装置と、
前記車両の周辺の情報を取得する周辺情報取得装置と、
4つ以上の前記車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪の回転速度を検出する車輪速度検出装置と、
前記4つ以上の電動シリンダ装置の各々の前記電動モータへの供給電流をそれぞれ制御することにより前記4つ以上の液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室の液圧をそれぞれ制御する液圧制御装置と
を含み、
前記液圧制御装置が、
(a)前記周辺情報取得装置によって取得された前記車両の周辺の情報と、前記操作状態検出装置によって検出された前記ブレーキ操作部材の操作状態との少なくとも一方に基づいて決まる目標液圧に、前記4つ以上のホイールシリンダの各々の液圧がそれぞれ近づくように、4つ以上の前記電動モータの各々への供給電流をそれぞれ制御し、かつ、
4つ以上の前記車輪速度検出装置によって検出された前記4つ以上の車輪の各々の車輪速度に基づいて取得された前記4つ以上の車輪の各々のスリップ状態が、それぞれ、路面の摩擦係数で決まる適正な範囲内にあるように、前記4つ以上の電動モータの各々への供給電流をそれぞれ制御する手段と、
(b)前記4つ以上の電動シリンダ装置の各々の異常の有無を検出する異常検出部を含み、前記異常検出部によって前記4つ以上の電動シリンダ装置のうちの1つ以上が異常であると検出された場合に、前記異常であると検出された前記1つ以上の電動シリンダ装置を停止させ、前記4つ以上の電動シリンダ装置から前記異常であると検出された前記1つ以上の電動シリンダ装置を除いた1つ以上の電動シリンダ装置を制御する手段とを含む液圧ブレーキシステム。
【請求項2】
前記4つ以上の電動シリンダ装置の各々が、それぞれ、前記ホイールシリンダの液圧室から戻された作動液を収容するリザーバを含む請求項1に記載の液圧ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に液圧による制動力を加える液圧ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダを含まないで、複数の液圧ブレーキと、複数の液圧ブレーキのホイールシリンダにそれぞれ接続された圧力発生装置とを含む液圧ブレーキシステムが記載されている。しかし、特許文献1に、圧力発生装置の構造は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-26099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、マスタシリンダを含まない新しい構造の液圧ブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る液圧ブレーキシステムは、複数の車輪にそれぞれ設けられた液圧ブレーキと、複数の液圧ブレーキのうちの1つ以上ずつのホイールシリンダに、それぞれ、接続された電動シリンダ装置とを含むものである。本液圧ブレーキシステムに含まれる複数の電動シリンダ装置は、それぞれ、ハウジングと、ハウジングに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンと、駆動源としての電動モータと、電動モータの回転とピストンの直線移動との間の変換を行う直線回転運動変換装置と、ピストンの前方に設けられ、1つ以上の液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室に接続された容積変化室とを含むものである。このように、複数の液圧ブレーキと、複数の電動シリンダ装置とを含む本発明に係る液圧ブレーキシステムは、特許文献1には記載されていない。本発明に係る液圧ブレーキシステムは新規なものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施例に係る液圧ブレーキシステムの全体を概念的に表す図である。
図2】上記液圧ブレーキシステムの電動シリンダ装置の分解側面図である。
図3】上記液圧ブレーキシステムが搭載された車両を示す図である。
図4】上記液圧ブレーキシステムが搭載された別の車両を示す図である。
図5】上記液圧ブレーキシステムが搭載されたさらに別の車両を示す図である。
図6】上記液圧ブレーキシステムが搭載されたさらに別の車両を示す図である。
図7】上記液圧ブレーキシステムの運転支援ECUに記憶された通常時ブレーキ制御プログラムを表すフローチャートである。
図8】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUに記憶されたモータ制御プログラムを表すフローチャートである。
図9】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECUに記載されたスリップ抑制制御プログラムを表すフローチャートである。
図10】上記液圧ブレーキECUに記憶された異常時ブレーキ制御プログラムを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である液圧ブレーキシステムを、図面に基づいて説明する。
【実施例
【0008】
本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、運転者によるブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル液圧源(例えば、マスタシリンダ)を含まないものである。
【0009】
本液圧ブレーキシステムは、図3に示すように、車両の前後左右に位置する4つの車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に設けられた液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRと、液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRの各々に1対1に対応して接続された電動シリンダ装置12FL,12FR,12RL,12RRとを含む。以下、車輪位置を表す添え字FL,FR,RL,RR,F,Rは、総称する場合、車輪位置に関係なく説明する場合等には、省略する場合がある。
【0010】
本実施例において、図1に示すように、液圧ブレーキ10は、それぞれ、車輪Wと一体的に回転可能に設けられたブレーキ回転体20の両側に位置する一対の摩擦係合部材としての摩擦パッド21,22と、摩擦パッド21,22をブレーキ回転体20に押し付ける押付装置23とを含む。押付装置23は、非回転部材に車輪の回転軸線Nと平行な方向(以下、回転軸線方向と称する)に移動可能に保持されたキャリパ24と、キャリパ24に設けられたホイールシリンダ25とを含む。ホイールシリンダ25は、キャリパ24に形成されたシリンダボアに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストン(以下、ホイール側ピストンと称する)27と、ホイール側ピストン27の後方に設けられた液圧室26とを含む。また、キャリパ24には、ピストンシール28が取り付けられる。
【0011】
ホイールシリンダ25の液圧室26に液圧が供給されることにより、ホイール側ピストン27が前進させられるとともにキャリパ24が回転軸線方向に移動させられる。一対の摩擦パッド21,22が液圧室26の液圧Pに応じた押付力Fpによりブレーキ回転体20に押し付けられ、摩擦係合させられる。それにより、車輪の回転が抑制される。また、液圧室26の液圧Pが増加・減少させられることにより、押付力Fpが増加・減少させられる。
【0012】
電動シリンダ装置12は、ハウジング40と、ハウジング40に液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンとしてのピストン部材(以下、電動ピストン部材と称する)42と、駆動源としての電動モータ44と、電動モータ44の回転と電動ピストン部材42の直線移動との間の変換を行う直線回転運動変換装置(以下、単に直動変換装置と略称する)48と、リザーバ50とを含む。電動ピストン部材42はハウジング40に電動ピストン部材42の軸線Mの周りに回転不能かつ軸線Mと平行な方向に移動可能に保持される。
【0013】
リザーバ50は、液圧ブレーキ10において使用される作動液を収容するものであり、摩擦パッド21,22の摩耗や加圧による弾性変形での消費液量変化、作動液が漏れだした後であっても、一定の制動を可能とするための作動液を収容するものである。また、リザーバ50においては、電動シリンダ装置12に接続された液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25から戻された作動液が収容される。
【0014】
本実施例において、電動ピストン部材42は、ピストン部47と、ピストン部47と一体的に移動可能に嵌合されたピストンロッド(以下、単にロッドと称する)部46とから構成されたものである。なお、ピストン部47とロッド部46とは一体的に製造されたものであってもよい。本実施例において、特許請求の範囲に記載のピストンは、ピストン部47に対応すると考えたり、電動ピストン部材42に対応すると考えたりすること等ができる。
【0015】
ハウジング40は、電動モータ44が収容された第1ハウジングとしての後側ハウジング40rと、有底筒状を成す第2ハウジングとしての前側ハウジング40fと、前側ハウジング40fと後側ハウジング40rとの間に位置する中間ハウジング40mとを含む。これら後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、互いに分解可能とされている。
【0016】
電動モータ44は、ロッド部46の外周側に、電動ピストン部材42と同軸上に設けられる。また、電動モータ44は、主として後側ハウジング40rに収容され、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに保持されたステータとしての複数のコイル52と、コイル52の内周側に位置し、複数の磁石Zを備えた概して筒状を成したロータ54とを含む。ロータ54は、後側ハウジング40rと中間ハウジング40mとに、軸線Mと平行な方向に隔てて設けられた一対のベアリング56,57を介して回転可能に保持される。なお、ロータ54において、磁石Zは外周面に設けても、内部に埋め込んでもよい。
【0017】
また、直動変換装置48は、ロータ54の内周部とロッド部46の外周部との間に設けられる。直動変換装置48は、本実施例において、ボールねじ機構を備えたものであり、ロッド部46の外周部に設けられた雄ねじ部62と、ロータ54の内周部に設けられた雌ねじ部63と、これら雄ねじ部62と雌ねじ部63との間に介在させられた複数のボール64とを含む。
【0018】
前側ハウジング40fにはシリンダボアが形成され、シリンダボアに電動ピストン部材42が、シール部材66を介して液密かつ摺動可能に保持され、前側ハウジング40fのシリンダボアの電動ピストン部材42の前方が容積変化室67とされる。また、電動ピストン部材42と前側ハウジング40fの底部との間にはリターンスプリング68が設けられる。リターンスプリング68により電動ピストン部材42には後退方向に弾性力が付与される。
【0019】
前側ハウジング40f(ハウジング40の容積変化室67を囲む部分である)の軸線Mと平行な方向に隔たった部分に前側ポート70と後側ポート72とが設けられる。前側ポート70には、液通路74を介してホイールシリンダ25の液圧室26が直接接続され、後側ポート72には、リザーバ50が接続される。後側ポート72はアイドルポートと称することができる。
【0020】
前側ポート70は常に開状態にあり、容積変化室67とホイールシリンダ25の液圧室26とは液通路74を介して常に連通状態にある。本実施例において、液通路74に、電磁弁等は設けられていない。
【0021】
後側ポート72は、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合に、開状態にあるが、電動ピストン部材42の前進により閉状態に切り換えられ、容積変化室67に液圧が発生させられる。電動ピストン部材42の後退端位置は、電動ピストン部材42がハウジング40に設けられた図示しないストッパに当接する位置である。
【0022】
また、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42のピストン部47の直径D(図2参照)が小さく、電動ピストン部材42の最大ストロークLが大きい。電動ピストン部材42の最大ストロークLは、例えば、電動ピストン部材42が後退端位置にある場合のピストン部47の前端面と前側ハウジング40fの底面との間の長さLであると考えることができる。また、最大ストロークLであるフルストロークには、電動ピストン部材42の後退端位置からアイドルポート72は塞がれるまでのストロークであるアイドルストロークLpが含まれる。
【0023】
例えば、マニュアル液圧源としてのマスタシリンダにおいて、加圧ピストンには運転者によって操作可能なブレーキペダルが連結され、加圧ピストンはブレーキペダルの踏込み操作に伴って前進させられる。一方、ブレーキペダルは、運転者によって踏み込まれるため、ブレーキペダルの最大ストロークは人間工学等に基づいて決まり、加圧ピストンの最大ストロークもブレーキペダルの最大ストロークで決まる。そのため、マスタシリンダの加圧ピストンの最大ストロークは、50mmより小さいのが普通である。
【0024】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42はブレーキ操作部材の操作によって移動させられるのではなく、電動モータ44によって移動させられる。そのため、人間工学等の制約がなく、最大ストロークを大きくすることができる。そして、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくできるため、電動ピストン部材42の直径D(受圧面積SA)が小さくても、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給することが可能となる。換言すれば、ホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給するために、電動ピストン部材42の最大ストロークを大きくすることにより、ピストン部47の受圧面積SA(直径D)を小さくすることができるのである。
【0025】
このように、電動ピストン部材42の受圧面積SAを小さくすることにより、液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25のホイール側ピストン27の受圧面積SWを電動ピストン部材42の受圧面積SAで割った値(以下、受圧面積の比率と略称する)SW/SAを大きくすることができる。そのため、ホイールシリンダ25において要求される押付力Fpが同じ場合に、直動変換装置48のロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることができ、その分、電動モータ44における消費電力の低減を図ることができる。
【0026】
以下、詳細に説明する。
(a)受圧面積の比率SW/SAを大きくし、ロッド部46に加えられる軸力Fsを小さくすることにより、電動モータ44のギヤ比(例えば、「電動モータ44の回転数/ロッド部46の回転数」と表すことができる)を小さくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすることができる。
【0027】
仮に、ロッド部46に加えられる軸力Fsが大きい場合には、電動モータ44と直動変換装置48との間に減速機を設け、減速比を大きくすることが考えられる。一方、減速機においては、インボリュート歯車が用いられるのが普通であるが、インボリュート歯車はかみ合い時に歯と歯が滑りながら力を伝達する。また、減速機のギヤのスラスト荷重や軸間の押し引きによる摩擦により回転抵抗が生じ、減速機におけるエネルギ消費量が大きくなる。このように、減速比を大きくして、減速機における効率が大きく低下した場合には、電動モータ44の伝達効率(例えば、「ピストン部47に伝達されるエネルギ/電動モータ44に供給されるエネルギ」で表すことができる)が大きく低下する。
【0028】
それに対して、本実施例においては、軸力Fsが小さくされるため、減速比を小さくしたり、減速機をなくしたり、電動モータ44の出力を小さくしたりすること等ができ、その分、電動モータ44の伝達効率を高くすることができるのである。なお、図1,2には、電動シリンダ装置12に減速機が設けられていない場合を記載した。
【0029】
(b)ロッド部46に加えられる軸力Fsが小さくされるため、直動変換装置48のロッド部46の直径を小さくすることができる。そのため、直動変換装置48の減速比(例えば、「送り速度/リード×直動変換装置48の入力回転数」で表すことができる)の低下を抑制しつつリード角を大きくすることができ、電動モータ44の伝達効率を高くすることが可能となる。
【0030】
仮に、軸力Fsが大きい場合には、ボールねじ機構のボール64を大きくして、ロッド部46の直径を大きくする必要がある。リード角が同じである場合には、ロッド部46の直径を大きくすると、リードが増加するため、直動変換装置48の減速比が低下する。そのため、電動モータ44のギヤ比を大きくしたり、電動モータ44の出力を大きくしたりする必要がある。また、リード角を小さくすれば、直動変換装置48の減速比が大きくなるため、電動モータ44のギヤ比を小さくすることができるが、リード角を小さくしたことに起因して、電動モータ44の伝達効率が低下する。
【0031】
それに対して、本実施例に係る電動シリンダ装置12においては、軸力Fsを小さくすることができるため、ロッド部46の直径を小さくすることができ、直動変換装置48の減速比の低下を抑制しつつ、リード角を大きくすることができる。そのため、電動モータ44の伝達効率を高くすることができる。
換言すると、電動シリンダ装置12における直動変換装置48の位置が、直動変換装置48に加えられる軸力Fsができる限り小さくなるように設計される。例えば、電動シリンダ装置12において、電動モータ44、直動変換装置48、ピストン部47が直列に配置され、ピストン部47の前方の容積可変室67に液圧ブレーキ10が接続されるが、本液圧ブレーキシステムにおいては、受圧面積の比率が大きくされているため、容積変化室67の液圧に対して摩擦パッド21,22のブレーキ回転体20への押付力を大きくすることができる。そのため、ピストン部47の上流、電動モータ44または減速機の下流側に直動変換装置48を配置したのである。
【0032】
(c)電動ピストン部材42のストロークが大きく、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さが大きくされるが、電動シリンダ装置12のハウジング40におけるアイドルポート72の位置は、前側ハウジング40fに形成されたシリンダボアの長さの大小によらず同じである。そのため、電動ピストン部材42の最大ストロークLに対するアイドルストロークLpの比率(Lp/L)は、最大ストロークLが長くなると小さくなる。その結果、電動モータ44の伝達効率が高くなる。
以上のことから、電動モータ44の伝達効率を高くして、電動モータ44の消費電力を低減することができるのである。
【0033】
また、電動モータ44のギヤ比を小さくすることが可能となるため、減速機が不要となったり、減速機の小形化を図ったりことができ、電動シリンダ装置12の小形化、軽量化を図ることができる。さらに、電動シリンダ装置12における部品点数を削減することができる。
【0034】
また、直動変換装置48において、リード角θを大きくできるため、正逆効率、すなわち、正効率(ホイールシリンダ圧/軸力)、逆効率(軸力/ホイールシリンダ圧)を大きくすることができる。
【0035】
以上、直動変換装置48がボールねじ機構である場合について説明したが、直動変換装置48は台形ねじ機構を含むものとすることができ、台形ねじ機構を含む場合においても上述の場合と同様の効果、すなわち、電動モータ44の伝達効率を高くして、消費電力の低減を図ることができる。
特に、台形ねじ機構においては、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力の低減を図るため、潤滑剤としてのグリスの役割が大きい。一般的に、摩擦力は、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する面圧が大きい場合は小さい場合より大きくなる。また、面圧が設定値より小さい場合には、グリスにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間に良好な潤滑効果が得られるが、面圧が設定値以上になると、温度が高くなり、グリスの粘度が低くなり、潤滑効果が低下する。その結果、雄ねじ部と雌ねじ部との間に作用する摩擦力が大きくなり、雄ねじ部や雌ねじ部が削れる等(この状態をグリス切れと称する場合がある)の問題がある。
一方、ロッド部46の直径を大きくすることにより、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摺動面積を大きくし、これらの間に作用する面圧を小さくすることにより、摩擦力を小さくすることができるが、電動シリンダ装置12が大型化したり、直動変換装置48の減速比が変わったりする等の別の問題が生じる。
【0036】
それに対して、本実施例においては、ロッド部36に加えられる軸力Fsを小さくできるため、面圧を小さくすることができ、グリスの粘度の低下を抑制し、雄ねじ部と雌ねじ部との間の摩擦力の低減を良好に図ることができる。また、グリスの過熱を抑制することにより、グリスの劣化を抑制することもできる。さらに、一般的に、リード角が小さいと、グリス切れが生じ易いが、リード角を大きくできるため、グリス切れが生じ難くなり、より一層、摩擦力の低減を図ることができる。
【0037】
なお、直動変換装置48がボールねじ機構を含む場合において、ボールねじ機構において、ボール64と、雄ねじ部62および雌ねじ部63との間の摺動抵抗の低下を図るためにグリスが用いられるが、その場合においても、上述のように、軸力Fsの低下により同様の効果を奏することができる。
【0038】
一方、本電動シリンダ装置12は、図2に示すように、容易に分解可能とされている。具体的には、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fは、結合装置によって結合される。結合装置は、例えば、軸線方向に延びた複数のねじ部材80とねじ部材80に螺合するナット部材82とを含むものとすることができる。
【0039】
また、後側ハウジング40r、中間ハウジング40m、前側ハウジング40fの内部には、ベアリング56,57、電動モータ44(コイル52、ロータ54)、ロッド部46、ピストン部47、シール部材66、ボール64等が、それぞれ、容易に分離可能に組み付けられる。そのため、ナット部材82を外すことにより、電動シリンダ装置12を前側ハウジング40f、中間ハウジング40m、後側ハウジング40rに分離することが可能となり、電動シリンダ装置12の各構成要素を取り外すことが可能となる。
【0040】
電動シリンダ装置12はキャリパ24に設けられるのではなく、キャリパ24から伸び出した液通路74に設けられる。一方、車輪Wの回転を抑制する電動ブレーキの電動アクチュエータをキャリパ24に設ける場合には、電動アクチュエータに泥や水が掛からないようにするために、電動アクチュエータを密閉したり、ユニット化したりする必要がある。それに対して、本電動シリンダ装置12については、電動ブレーキの電動アクチュエータに比較して、泥や水等が掛かり難いため、ユニット化したり、ハウジングを密閉したりする必要性が低くなる。
また、本実施例において、電動シリンダ装置12の下流側に電磁弁が設けられていない。そのため、電動シリンダ装置12を分解する場合に、電磁弁のオリフィス部に異物等が侵入して、電磁弁に不具合が生じるおそれがない。
その結果、電動シリンダ装置12を容易に分解可能な構造とすることが可能となり、構成部品の各々について個別にメンテナンスを図ることが可能となる。例えば、複数の構成部品のうちの1つに不具合が生じた場合に電動シリンダ装置12全体を交換する必要がなくなり、その不具合が生じた1つの構成部品について交換等することができる。その結果、ユーザにとって車両の維持費の低減を図ることが可能となり、廃棄物の低減を図ることができる。また、電動シリンダ装置12は、車輪の近傍に設けられるため、メンテナンス作業が容易になる。
【0041】
図1,3に示すように、電動シリンダ装置12の各々には、1対1に対応してそれぞれコンピュータを主体とする制御部としてのブレーキECU86が設けられる。電動シリンダ装置12は、それぞれ、ブレーキECU86によって制御される。ブレーキECU86は、インバータ等の駆動回路88を含み、駆動回路88の制御により、電動モータ44への供給電流を制御して、電動モータ44の作動を制御する。
また、ブレーキECU86には、電動シリンダ装置12の構成要素である液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度検出装置としての車輪速度センサ100、液圧センサ102等が接続される。
【0042】
液面高さセンサ90は、リザーバ50に収容された作動液の液面の位置(液面高さ)を検出するものである。液面高さセンサ90は、例えば、液面高さを、光学的、磁気的、静電容量、超音波、圧力等を利用して検出するものとすることができる。また、接触式または非接触式に検出するものとしたり、フロートを利用して検出するものとしたりすること等ができる。
ストロークセンサ92は、電動ピストン部材42のストロークを検出するものであり、例えば、ロッド部46またはピストン部47のハウジング40に対する相対位置を検出することによりストロークを検出するものとすることができる。
回転数センサ94は、電動モータ44の回転数を検出するものである。また、電動モータ44の回転数に基づけば、電動ピストン部材42のストロークを取得することができる。
【0043】
車輪速度センサ100は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪Wの回転速度を検出するものである。4つの車輪速度センサ100の検出値に基づいて車両の走行速度が取得されたり、各車輪Wの各々のスリップ状態がそれぞれ取得されたりする。
【0044】
液圧センサ102は、前後左右に位置する各車輪Wの各々に設けられた液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25の液圧室26の液圧(以下、単に液圧ブレーキ10の液圧またはホイールシリンダ25の液圧と称する場合がある)を検出するものである。液圧センサ102は液通路74に設けられることが多い。
【0045】
また、図3に示すように、電動シリンダ装置12の各々には、それぞれ、1対1に対応して電源Vが設けられる。電源Vは、例えば、イオンリチウムバッテリとしたり、キャパシタとしたりすること等ができる。電動シリンダ装置12、すなわち、ブレーキECU86、駆動回路88、液面高さセンサ90、ストロークセンサ92、回転数センサ94、車輪速度センサ100、液圧センサ102等は、個別の、換言すると、電動シリンダ装置専用の電源Vにより作動可能とされているのである。
【0046】
また、ブレーキECU86(前後左右の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々に設けられたブレーキECU86FL,86FR,86RL,86RRの各々)には、CAN(Controller Area Network)95等の車体通信網を介してコンピュータを主体とする運転支援ECU96が接続される。本実施例においては、運転支援ECU96とブレーキECU86の各々との間で、それぞれ、CAN95を介して通信が行われるとともに、4つのブレーキECU86の間で、互いに通信が行われる。運転支援ECU96は、電動シリンダ装置12の各々に制動要求を出力したり、要求制動力を取得して出力したりするものである。運転支援ECU96には、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等が接続される。
【0047】
操作状態検出装置104は、運転者によって操作可能な図示しないブレーキ操作部材の操作状態(例えば、ストローク、操作力)を検出するものである。
周辺情報取得装置106は、カメラ、レーダ装置等を含み、車両である自車両の周辺に位置する物体、自車両の周辺の道路の区画線、道路の湾曲形状等を取得し、物体と自車両との相対位置関係を取得するものである。
【0048】
以上のように構成された液圧ブレーキシステムにおいて、運転支援ECU96において、操作状態検出装置104によって検出されたブレーキ操作部材の操作状態、周辺情報取得装置106によって取得された周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて制動要求が有るか否かが判定される。そして、制動要求がある場合には、それらブレーキ操作部材の操作状態、周辺の物体と自車両との相対位置関係等に基づいて要求制動力が取得され、それぞれ、電動シリンダ装置12(ブレーキECU86)に供給される。
【0049】
ブレーキECU86においては、要求制動力に基づいて、液圧ブレーキ10の目標液圧がそれぞれ取得され、それぞれ、液圧センサ102の検出値である実液圧が目標液圧に近づくように、電動モータ44への供給電流が制御され、電動ピストン部材42が前進・後退させられる。
電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が前進させられることにより、容積変化室67の容積が小さくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26に作動液が供給され、液圧が高くなる。電動シリンダ装置12において電動ピストン部材42が後退させられることにより、容積変化室67の容積が大きくなり、ホイールシリンダ25の液圧室26から作動液が流出させられ、液圧が低くなる。ホイールシリンダ25の液圧が目標液圧に近づくように、電動ピストン部材42が前進・後退させられるのであり、電動モータ44への供給電流が制御される。
【0050】
制動要求がなくなった場合には、電動シリンダ装置12において、電動ピストン部材42が戻される。それにより、アイドルポート72が開き、液圧室26がリザーバ50に連通させられる。電動ピストン部材42は、ストッパに当接するまで戻される。ホイールシリンダ25において、ピストンシール28によりホイール側ピストン27が戻され、摩擦パッド21,22がブレーキ回転体20から離間させられる。液圧ブレーキ10が非作動状態となる。
【0051】
また、車輪Wのスリップが過大になると、スリップ抑制制御が行われる。スリップ抑制制御においては、電動モータ44への供給電流の制御により、電動ピストン部材42を後退、前進させることにより、ホイールシリンダ25の液圧室26の液圧を減少、増加させて、車輪Wのスリップ率を路面の摩擦係数で決まる適正な大きさとする。
【0052】
図7のフローチャートで表される通常時ブレーキ制御プログラムは、運転支援ECU96において予め定められたサイクルタイム毎に実行される。ここで、通常時とは、電動シリンダ装置12等において異常が検出されない場合をいう。
ステップ1(以下、単にS1と略称する。他のステップについても同様とする)において、操作状態検出装置104によって検出されたブレーキ操作部材の操作状態を取得し、S2において、周辺情報取得装置106によって取得された自車両と周辺物体との相対位置関係を表す情報等を取得し、S3において、これらに基づいて、制動要求があるか否かが判定される。制動中においては、制動要求が有ると判定される。判定がYESである場合には、S4において要求制動力が取得され、S5において、それに対応する車輪WのブレーキECU86に供給される。
【0053】
図8のフローチャートで表されるモータ制御プログラムは、ブレーキECU86において予め定められたサイクルタイム毎に実行される。
S11において要求制動力に応じて目標液圧Ptが取得されるとともに、液圧センサ102の測定値である実液圧Psが取得される。S12において、目標液圧Ptが0であるか否かが判定される。要求制動力が取得されない場合には、目標液圧Ptは0であると判定される。
判定がNOである場合には、S13において、目標液圧Ptが実液圧Psに対して大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S14において、電動モータ44の制御により、電動ピストン部材42がリターンスプリング68の弾性力に抗して前進させられる。それにより、容積変化室67の容積が減少し、ホイールシリンダ25の液圧が高くなる。
【0054】
それに対して、S13の判定がNOである場合には、S15において、目標液圧Ptに対して実液圧Psが大きいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S16において、電動モータ44の制御により、電動ピストン部材42が後退させられる。容積変化室67の容積が増加し、ホイールシリンダ25の液圧が低くなる。
【0055】
目標液圧Ptと実液圧Psとの差が小さく、ほぼ同じである場合には、S17において、電動ピストン部材42の位置が保持され、液圧が保持される。S12の判定がYESであり、目標液圧Ptが0である場合には、電動モータ44の制御により、電動ピストン部材42が後退端まで後退させられる。
【0056】
また、ブレーキECU86の各々において、スリップ抑制制御プログラムが実行される。
S21において、それぞれの車輪Wのスリップ率が取得される。スリップ率は、車体速度と、車輪速度とに基づいて取得されるが、車体速度は、例えば、ブレーキECU86FL,96FR,96RL,96RRの間の通信により取得することができる。例えば、各ブレーキECU86は、それぞれ、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度VwaとCAN95を介して受信した車輪速度Vwb,Vwc,Vwdとに基づいて車体速度Vhを取得する。そして、この車体速度Vhと、自らに接続された車輪速度センサ100によって検出された車輪速度Vwaとに基づいて車輪Wのスリップ状態を取得することができる。車体速度Vhは車輪速度Vwに比較して、変化が緩やかであるため、CAN95を介して受信した情報に基づいて取得した値を用いることができるのである。
【0057】
S22において、スリップ抑制制御中であるか否かが判定され、判定がNOである場合には、S23において、例えば、スリップ率が過大であること等を含む開始条件が成立するか否かが判定される。判定がYESである場合には、S24において、スリップ抑制制御が開始される。次に、本プログラムが実行される場合において、スリップ抑制制御中であるため、S25において、スリップ率が抑制されたこと等を含む終了条件が成立したか否かが判定される。判定がNOである場合には、S26において、スリップ抑制制御が継続して行われる。スリップ率が抑制されるよう目標液圧が取得され、実液圧が目標液圧に近づくように電動モータ44が制御されるのである。S2,22,25,26を繰り返し実行するうちに、S25の判定がYESになると、スリップ抑制制御が終了される。
【0058】
このように、本実施例においては、ブレーキECU86の各々において、車輪Wのスリップ状態に基づいて目標液圧が取得される等、別個独立に、スリップ抑制制御が行われる。しかし、スリップ抑制制御が別個独立に行われるようにすることは不可欠ではなく、運転支援ECU96において、要求制動力が取得されて、各ブレーキECU86に供給されるようにすることもできる。
【0059】
また、本実施例においては、電動シリンダ装置12の各々の異常の有無の検出が行われる。
例えば、上述のように、ブレーキECU86の各々が、それぞれ、取得した車体速度VhaをCAN95に出力し、ブレーキECU86の各々において、例えば、4つの車体速度(Vha,Vhb,Vhc,Vhd)に基づいて、これらのうち異常値があるか否かが判定される。4つの車体速度(Vha,Vhb,Vhc,Vhd)のうち、これらの平均的な値<Vh>に対して著しく異なる値がある場合に、その値を異常値として、その異常値を取得したブレーキECU86が異常であると判定されるようにすることができる。そして、各ブレーキECU86における判定結果の各々に基づいて、異常であるブレーキECU86が多数決等により最終的に決定される。最終的に異常であるブレーキECU86、すなわち、異常である電動シリンダ装置12の決定は、運転支援ECU96において行われるようにしたり、複数のブレーキECU86のうちの1つにおいて行われるようにしたりすること等ができる。
また、運転支援ECU96において、ブレーキECU86の各々において取得された車体速度(Vha,Vhb,Vhc,Vhd)を受信し、それら4つの車体速度(Vha,Vhb,Vhc,Vhd)に基づいて、異常値を検出し、異常値を出力したブレーキECU86が異常であると判定されるようにすることもできる。
【0060】
なお、電動シリンダ装置12の各々の異常の有無が、液圧センサ102によって検出された液圧である実液圧と目標液圧との偏差に基づいて検出されるようにしたり、液圧センサ102によって検出された液圧と、回転数センサ94の検出値に基づいて取得された電動ピストン部材42のストロークとの関係に基づいて検出されるようにしたりすること等ができる等、電動シリンダ装置12の異常の有無の検出方法は問わない。
【0061】
そして、4つの電動シリンダ装置12のうちの少なくとも1つが異常であると検出された場合には、その異常であると検出された電動シリンダ装置12が停止させられ、正常な電動シリンダ装置12が作動させられる。
図9に、異常時ブレーキ制御プログラムを表すフローチャートの一例を示す。S31において、電動シリンダ装置12の各々の異常の有無が検出され、S32において、電動シリンダ装置12のうちの少なくとも1つが異常であるか否かが判定される。判定がNOである場合には、S33において、通常の電動シリンダ装置12の制御が行われる。上述のように、図7のフローチャートで表される通常時ブレーキ制御プログラムの実行に従って制御される(例えば、周辺の物体と自車両との相対位置関係、ブレーキ操作部材の操作状態等に基づいて決まる目標液圧に、液圧センサ102によって検出された液圧が近づくように、それぞれ、電動モータ44が制御される)のである。また、S32の判定がYESである場合には、S34,35において、異常である電動シリンダ装置12が停止させられ、正常である電動シリンダ装置12が制御される。例えば、左後輪WRLの電動シリンダ装置12RLが異常であると検出された場合には、左後輪WRLの電動シリンダ装置12RLが停止させられ、正常である3つの電動シリンダ装置、左前輪WFL、右前輪WFR、右後輪WRRの電動シリンダ装置12FL、12FR、12RRが作動させられる。例えば、これら電動シリンダ装置12FL,12FR,12RRは、左後輪WRLの電動シリンダ装置12の停止に起因して生じる車両のヨーレイトが抑制されるように制御されるようにすることが望ましい。また、図示しない回生制動装置による回生制動力の制御により、ヨーレイトが抑制されるようにすることもできる。
【0062】
このように、本実施例において、車両である第1車両に4つの電動シリンダ装置12が設けられているため、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部に異常が生じても、残りの電動シリンダ装置12の作動によりホイールシリンダ25に液圧を発生させることが可能となり、本液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。また、4つの電動シリンダ装置12のうちの一部が失陥した場合に、ブレーキ操作部材が操作されなくても、液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができる。このように、本実施例に係る液圧ブレーキシステムは、フェールオペレータブルのシステムである。
【0063】
例えば、第1車両が自動運転車両である場合においては、電動シリンダ装置12の一部において不具合が生じたことを運転者が感じることができず、失陥してしまったり、車のオーナがメンテナンスを怠っていた等により電動シリンダ装置12の一部が失陥してしまったりする場合等がある。それらの場合であっても、本液圧ブレーキシステムを継続して作動させることができるのである。
【0064】
しかも、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応して電源Vが設けられるため、4つの電源Vのうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電源Vに対応する電動シリンダ装置12を作動させることができるのである。
【0065】
同様に、電動シリンダ装置12の各々に1対1に対応してブレーキECU86が設けられるため、4つのブレーキECU86のうちの1つが失陥した場合であっても、残りの電動シリンダ装置12を作動させることができる。なお、運転支援ECU96、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106等についても、冗長に構成することができる。
【0066】
以上のように、液圧ブレーキシステムの構成要素の一部に異常が生じても、他の構成要素により、継続して作動させ得る液圧ブレーキシステムをフェールオペレータブルな液圧ブレーキシステムと称するが、その場合に、故障が生じる確率等から、液圧ブレーキシステムは、3つ以上の互いに独立した液圧源(例えば、電動シリンダ装置12を含む)を備えていることが要求される。それに対して、本実施例においては、液圧ブレーキシステムには4つの液圧源としての電動シリンダ装置12が含まれるため、当該液圧ブレーキシステムはフェールオペレータブルであると言えるのである。
【0067】
また、本実施例に係る液圧ブレーキシステムにおいては、ホイールシリンダ25の各々に対応して電動シリンダ装置12が設けられ、電動シリンダ装置12の各々における消費電力が低減される。そのため、車両に搭載される電動モータ44の個数は増えるが、車両全体における消費電力の増加を抑制できるため、第1車両に4つの電動モータ44を搭載することが可能となるのである。
【0068】
例えば、車両重量が3.5t~8tの車両(第1車両の一例)においては、車両を停止させるために大きな制動力が必要となり、前後左右の4つの車輪Wに設けられたホイールシリンダの各々において多くの作動液量が要求される。そのため、従来の液圧ブレーキシステムにおいて、マスタシリンダや電動ブースタ等を大形化しなければならない等の問題があった。
【0069】
それに対して、本実施例に係る液圧ブレーキシステムにおいては、ホイールシリンダ25の各々に対応して電動シリンダ装置12が設けられる。換言すれば、1つのホイールシリンダ25において要求される量の作動液を供給するためには、電動シリンダ装置12の各々を大形のものとする必要がないのである。また、前述のように、電動ピストン部材42のストロークを大きくし(例えば、50mm以上)、ピストン部47の受圧面積を小さくする(例えば、30mm以下)ことができる。そのため、受圧面積の比率を大きくすることができ、直動変換装置48に加えられる軸力を小さくすることができるため、電動モータ44の消費電力を低減することができる。そのため、第1車両に設けられた図示しないバッテリを大型化することなく、4個の電動モータ44を設けることができるのである。
【0070】
また、第1車両が商用車である場合には、マスタシリンダ、電動ブースタ、1つ以上の電磁弁を含む電磁弁装置等の液圧ブレーキシステムの構成要素の失陥を未然に防ぐために、通常、構成要素を定期的に交換する等が行われていた。特に、電磁弁装置等は、電磁弁の各々を個別に交換して組付けることが困難であるため、電磁弁装置全体(ユニット単位)で交換される場合があった。そのため、メンテナンスに要する費用が高額になり、多量の廃棄物が出される等の問題があった。
【0071】
それに対して、本実施例においては、電動シリンダ装置12の各々の全体を定期交換するのではなく、分解して、異常が生じた部品を容易に交換することができる。例えば、シール部材66等のゴム製の部材は、他の金属製の部材より劣化し易いが、シール部材66だけを交換することができるのである。その結果、メンテナンスに要する費用を低減することができ、廃棄物を低減し、資源の有効利用を図ることができる。
【0072】
また、車両が大きく、液圧ブレーキ10の容量が大きい場合には、効き始めの液圧が高く、ホイール側ピストン27の直径が大きい為、効き始めまでに多量の作動液を供給する必要がある。一方、電動シリンダ12の電動ピストン部材42の直径を小さくすると、効き初めまでの電動ピストン部材42のストロークが長くなり、効き遅れが生じる。それに対して、電動モータ44には弱め界磁という手法が有り、弱め磁界という手法により、効き始めまでの弱い反力時に電動モータ44に規定回転数よりも多めの電流を供給するにより、電動モータ44の回転数を大きくし、電動ピストン部材42の前進速度を大きくすることにより、ストロークを直ちに大きくする事が可能となり作動遅れを抑制することが出来る。
また、電動シリンダ装置12が、作動開始時にホイールシリンダ25に大きな流量で供給可能な構造(フィルアップ構造と称する)を有する場合であっても、同様に、効き始めまでの電動ピストン部材42の前進速度を大きくすることができ、作動遅れを抑制することができる。
【0073】
以上のように、本実施例においては、車輪速度センサ100、液圧センサ102、操作状態検出装置104、周辺情報取得装置106、運転支援ECU96、ブレーキECU86等により液圧制御装置が構成される。液圧制御装置のうちの図10のフローチャートで表される異常時ブレーキ制御プログラムのS31を記憶する部分、実行する部分等により異常検出部が構成される。
【0074】
なお、運転支援ECU96と各ブレーキECU86との間の情報の送受信、役割分担等については、上記実施例におけるそれに限らず、任意に設定することができる。
【0075】
また、当該液圧ブレーキシステムが搭載された車両は、自動運転車両であっても、バイワイヤのマニュアル運転車両(操作状態検出装置104によってブレーキ操作部材の操作状態が検出され、それに基づいて電動シリンダ装置12が制御される車両)であっても、マニュアル運転状態と自動運転状態とが切換え可能な車両であってもよい。さらに、4つ以上の車輪を備えた車両に適用することもできる。
【0076】
また、上記実施例においては、電動シリンダ装置12が第1車両に搭載される場合について説明したが、第1車両より重量が小さい第2車両に搭載することができる。本液圧ブレーキシステムにおいて、図4に示すように、第2車両が備える前後左右の各車輪の液圧ブレーキ10のうち、左右前輪WFL,WFRの液圧ブレーキ10FL,10FRには、それぞれ、液通路74FL,74FRを介して1対1に対応して、電動シリンダ装置12FL,12FRが設けられ、左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRには、共通に1つの電動シリンダ装置12Rが設けられる。左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRのホイールシリンダ25同士が液通路74Rによって接続され、この液通路74Rに電動シリンダ装置12Rが設けられるのである。また、電動シリンダ装置12FL,12FR,12Rの各々に1対1に対応してそれぞれ電源VFL,VFR,VRが設けられるとともに、ブレーキECU86FL,86FR,86Rが設けられる。
【0077】
また、スリップ抑制制御(例えば、アンチロック制御、後輪WRL,WRRが駆動輪である場合のトラクション制御等)において、電動シリンダ装置12Rは、左右後輪WRL,WRRのうちの車輪速度の小さい方、換言すれば、スリップ率の大きい方に基づいて、同様に、ホイールシリンダ25RL,25RRの液圧が増加、減少させられる。このようなスリップ抑制制御をローセレクト制御と称する。
このように、第2車両に搭載された液圧ブレーキシステムは、3つの電動シリンダ装置12を含むものであるため、フェールオペレータブルなものであると言える。
【0078】
また、電動シリンダ装置12は、図5に示すように、第2車両より重量の小さい第3車両に搭載することもできる。本液圧ブレーキシステムにおいて、左右前輪WFL,WFRの各々の液圧ブレーキ10FL,10FRに、共通して1つの電動シリンダ装置12Fが設けられ、左右後輪WRL,WRRの液圧ブレーキ10RL,10RRに、共通して1つの電動シリンダ装置12Rが設けられる。具体的には、左右前輪WFL,WFRに設けられた液圧ブレーキ10FL,10FRのホイールシリンダ25は、それぞれ、液通路74FL,74FRを介して前輪側電磁弁等装置200Fに接続されるとともに、前輪側電磁弁等装置200Fに電動シリンダ装置12Fが接続される。また、左右後輪WRL,WRRに設けられた液圧ブレーキ10RL,10RRのホイールシリンダ25は、それぞれ、液通路74RL,74RRを介して後輪側電磁弁等装置200Rに接続されるとともに、後輪側電磁弁等装置200Rには電動シリンダ装置12Rが接続される。
【0079】
本実施例において、前輪側電磁弁等装置200Fと後輪側電磁弁等装置200Rとは、液圧的に互いに独立なものであり、前輪側電磁弁等装置200F、後輪側電磁弁等装置200Rのうちの一方に生じた異常による影響が他方に及ばない構造を成す。また、前輪側電磁弁等装置200F、後輪側電磁弁等装置200R等によって電磁弁等装置200が構成されるが、電磁弁等装置200には液圧発生装置203等が含まれる。液圧発生装置203は、例えば、前輪側電磁弁等装置200F、後輪側電磁弁等装置200Rにそれぞれ設けられたポンプと、これらポンプを駆動する共通の電動モータとを含むものとすることができる。電動シリンダ装置12F,12Rに、それぞれ、電源VF,VRが個別に1対1に設けられ、電磁弁等装置200には電源VEが設けられる。同様に、電動シリンダ装置12F,12Rの各々に、それぞれ、コンピュータを主体とするブレーキECU86F,86Rが1対1に設けられ、電磁弁等装置200には電磁弁ECU202が1対1に設けられる。
【0080】
このように、本液圧ブレーキシステムは、2つの電動シリンダ装置12F,12Rと、1つ以上の液圧発生装置203とを含む、前後2系統式のフェールオペレータブルなものである。
【0081】
さらに、電動シリンダ装置12は、図6に示すように、第3車両より重量が小さい第4車両に搭載することができる。本液圧ブレーキシステムにおいて、前後左右の各車輪WFL,WFR,WRL,WRRの各々の液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRに共通に1つの電動シリンダ装置12Aが設けられる。1つの電動シリンダ装置12Aは電磁弁等装置210に接続され、電磁弁等装置210に4つの液圧ブレーキ10FL,10FR,10RL,10RRのホイールシリンダ25がそれぞれ液通路74FL,74FR,74RL,74RRを介して接続される。電動シリンダ装置12Aにより発生させられた液圧が、電磁弁等装置210を介して4つの液圧ブレーキ10のホイールシリンダ25に供給されるのであり、電磁弁等装置210の制御により4つのホイールシリンダ25の液圧が個別に制御される。電動シリンダ装置12、電磁弁等装置210の各々には、それぞれ、電源VA,VEが設けられるとともに、ブレーキECU86A、電磁弁ECU212が設けられる。
【0082】
また、図6に示す第4車両が、マニュアル運転可能な車両である場合にはマニュアル式液圧源(例えば、マスタシリンダ)220を電動シリンダ装置12と並行して設けることができる。例えば、電磁弁等装置210に、マニュアル式液圧源220と、電動シリンダ装置12との両方が接続されるようにするのである。その場合において、電動シリンダ装置12が失陥した場合に、ブレーキ操作部材222の操作によりマニュアル式液圧源220に液圧が発生し、ホイールシリンダ25に供給されることにより、液圧ブレーキ10に液圧を発生させることができる。
このように、本液圧ブレーキシステムにおいては、電動シリンダ装置12の失陥時に、電動シリンダ装置12を停止させ、運転者によるブレーキ操作部材222のマニュアル操作によって車両を停止させることができるのである。なお、このような液圧ブレーキシステムを、フェールセーフ(異常時に、電動シリンダ装置12の作動を停止させて、マニュアル操作により車両を停止させることをいう)可能なシステムであると称することができる。
【0083】
このように、第1車両、第2車両、第3車両、第4車両等のように重量が異なる車両に、搭載する個数を変えることにより、同じ電動シリンダ装置12を用いることができる。換言すれば、第1車両、第2車両、第3車両、第4車両の各々に要求される制動力を、共通する1つ以上の電動シリンダ装置12によって加えることができる。電動シリンダ装置12を多種類の車両に共通に用いることが可能となり、全体として、コストダウンを図ることができる。特に、少量生産の車両に適用することにより、より一層、コストダウンを図ることができる。
例えば、それぞれ車両の大きさに従い、販売台数が大きく違い、販売台数の少ない車両だけで専用部品を開発すると開発費や型費などが少ない台数で案分される事になり、部品コストが高騰するが、販売台数が多い車も、少ない車も同じ電動シリンダ12を使っていれば、個数の違いこそあれ、一つ一つの電動シリンダ12のコストが抑えられ、結果全体でのコストを抑制できる。
さらに、それぞれ自動運転の有無や稼働台数の違い等により電動シリンダ12の個数を変える事で、フェールオペレータブルにも、フェールセーフにも変える事が可能でそれぞれ専用に開発する必要が無い為、新たなコスト増加要因を抑える事が可能となる。
【0084】
また、電動シリンダ装置12は、構造は同じで、諸元を変更等することにより、多種類の車両に共通に適用することが可能となる。同じ構造、すなわち、新たな構造上の設計をすることなく、多種類の車両に共通に適用することができるのである。換言すると、本明細書において、電動シリンダ装置12を共通に用いるとは、「構造が同じ電動シリンダ装置12を用いる」の意味であり、電動モータ44の能力、電動ピストン部材42、シリンダボア等の形状等の諸元については問わない。
【0085】
例えば、車両の大きさ、車種等によって、電動モータ44のコイルの巻き数、コイル径を変更することにより、軸力の大きさを調整することができる。また、接続されるホイールシリンダ25の容量等により電動ピストン部材42の最大ストローク等を変更することができる。
【0086】
このように、電動シリンダ装置12の諸元を変更するにより、例えば、多種類の車両において、液圧ブレーキ10と電動シリンダ装置12とを1対1に対応して設けるようにすることができるのである。
【0087】
また、電動シリンダ装置12は、ホイールシリンダ25に直接接続したり、電磁弁等装置に接続したりすることができる。
さらに、電動シリンダ装置12は、ホイールシリンダ25と1対1に設けたり、多対1に設けたりすること等が可能であり、電動シリンダ装置12の個数を要求制動力に応じて設計することができる。また、電動シリンダ装置12は、車輪Wに設けられた液圧ブレーキのホイールシリンダから伸び出した液通路に接続して設けることができるため、搭載位置等を比較的自由に決めることができる。さらに、電動シリンダ装置12の各々における電動ピストン部材42のストローク、電動ピストン部材42の直径等も要求制動力に応じて設計可能である。このように、電動シリンダ装置12は、汎用性の高いものであり、使いやすいものである。また、汎用性が高いため、電動シリンダ装置12またはその構成要素のリサイクルが可能となり、資源の有効利用を図ることができる。
【0088】
また、電動シリンダ装置12の構造は問わない。電動モータ44をロッド部46と同軸上に設けることは不可欠ではなく、平行となる状態で設けることができる。
さらに、電動モータ44とロッド部46との間に減速機を設けることもできる。
【0089】
さらに、上記実施例において、液圧制御装置が、運転支援ECU96、ブレーキECU86(、電磁弁ECU202,210)等を含むものであったが、液圧制御装置は、1つのECUを含むものとすることができる等、液圧制御装置の構造は問わない。
【0090】
また、上記実施例において、本液圧ブレーキシステムにおいて、ホイールシリンダ25の液圧が周辺の状況やブレーキ操作部材の操作状態に基づいて決まる目標液圧に近づくような制御、スリップ抑制制御が行われる場合について説明したが、それら制御に限定されず、前後制動力配分制御等種々の制御を行うことができる。
【0091】
その他、液圧ブレーキ10は、ディスクブレーキでもドラムブレーキでもよい等本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0092】
10:液圧ブレーキ 12:電動シリンダ装置 25:ホイールシリンダ 26:液圧室 27:ホイール側ピストン 40:ハウジング 40f:前側ハウジング 40r:後側ハウジング 42:電動ピストン部材 44:電動モータ 48:直動変換装置 50:リザーバ 80:ねじ部材 82:ナット部材 86:ブレーキECU 96:運転支援ECU V:電源
【特許請求可能な発明】
【0093】
(1)車両の複数の車輪の各々に設けられ、それぞれ、ホイールシリンダの液圧室の液圧により前記車輪の回転を抑制する液圧ブレーキと、
複数の前記液圧ブレーキのうちの1つ以上ずつに対応してそれぞれ設けられた電動シリンダ装置と
を含む液圧ブレーキシステムであって、
複数の前記電動シリンダ装置が、それぞれ、ハウジングと、前記ハウジングに液密かつ摺動可能に嵌合されたピストンと、駆動源としての電動モータと、前記電動モータの回転と前記ピストンの直線移動との間で変換を行う直線回転運動変換装置と、前記ピストンの前方に設けられ、前記1つ以上の前記液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室に接続された容積変化室とを含む液圧ブレーキシステム。
【0094】
液圧ブレーキと電動シリンダ装置とは、1対1に対応する状態で設けても、2対1に対応する状態で設けてもよいが、本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいては、複数の電動シリンダ装置が含まれる。
【0095】
(2)前記複数の電動シリンダ装置が、それぞれ、前記1つ以上のホイールシリンダの液圧室から戻された作動液を収容するリザーバを含む(1)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0096】
(3)前記複数の電動シリンダ装置の各々において、
前記ハウジングの前記容積変化室を囲む部分に、互いに前記ピストンの軸線方向に離れて2つのポートが設けられ、
前記リザーバが、前記2つのポートのうち、前記ピストンが後退する方向である後方に位置する後側ポートに接続され、
前記後側ポートが、前記ピストンが後退端位置にある場合に、開状態にあるが、前記ピストンの前進に伴って閉状態に切り換えられる(2)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0097】
ポートは、容積変化室に向かって開口して設けられる。
【0098】
(4)前記2つのポートのうち、前記ピストンが前進する方向である前方に位置する前側ポートに、前記1つ以上の液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室が直接接続された(3)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0099】
前側ポートは、常に、開状態にあり、容積変化室とホイールシリンダとを連通させる。また、容積変化室とホイールシリンダとは液通路を介して接続されるが、液通路には電磁弁等が設けられる場合と設けられない場合とがある。
【0100】
(5)当該液圧ブレーキシステムが、複数の電源を含み、
前記複数の電源の各々と、前記複数の電動シリンダ装置の各々とが、それぞれ、1対1に対応して設けられた(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0101】
複数の電源は、互いに、別個独立のものとすることが望ましい。
【0102】
(6)当該液圧ブレーキシステムが、複数のコンピュータを主体とする制御部を含み、
前記複数の制御部の各々と、前記複数の電動シリンダ装置の各々とが、それぞれ、1対1に対応して設けられた(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0103】
(7)前記複数の電動シリンダ装置の各々が、それぞれ、前記複数の液圧ブレーキに1対1に対応して設けられた(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0104】
(8)当該液圧ブレーキシステムが、前記複数の電動シリンダ装置として3つ以上の電動シリンダ装置を含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0105】
例えば、前記車両が、前記複数の車輪として4つの車輪を含み、
前記液圧ブレーキが、それぞれ、前記4つの車輪にそれぞれ設けられ、
前記複数の電動シリンダ装置としての3つ以上の電動シリンダ装置のうちの1つが、4つの前記液圧ブレーキのうちの1つまたは2つに対応して設けられ、
前記3つ以上の電動シリンダ装置から前記1つの電動シリンダ装置を除いた2つ以上の電動シリンダ装置が、それぞれ、前記4つの液圧ブレーキから前記1つの電動シリンダ装置に接続された前記1つまたは2つの液圧ブレーキを除いた3つまたは2つの液圧ブレーキに、それぞれ、1対1に対応して設けられた液圧ブレーキシステムとすることができる。
【0106】
(9)当該液圧ブレーキシステムが、前記複数の電動シリンダ装置として2つの電動シリンダと、前記電動シリンダ装置とは別の構造を成す1つ以上の液圧発生装置とを含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0107】
液圧発生装置は、例えば、ポンプ装置等の動力式液圧発生装置(マニュアル液圧発生装置ではないものをいう)とすることができる。液圧ブレーキシステムに設けられる液圧発生装置は、1つであっても、2つであってもよい。
【0108】
例えば、前記車両が、前後左右に位置する4つの車輪を含み、
前記液圧ブレーキが、それぞれ、前後左右に位置する4つの車輪にそれぞれ対応して設けられ、
前記複数の電動シリンダ装置としての2つの電動シリンダ装置の各々が、それぞれ、前記4つの車輪のうちの2つずつの車輪に設けられた液圧ブレーキに1対2に対応して設けられ、
前記2つの電動シリンダ装置のうちの一方と、それに対応して設けられた2つの液圧ブレーキとの間に、1つ以上の電磁弁である第1電磁弁が設けられ、前記2つの電動シリンダ装置のうちの他方と、それに対応して設けられた2つの液圧ブレーキとの間に、前記第1電磁弁とは異なる1つ以上の第2電磁弁が設けられた液圧ブレーキシステムとすることができる。
上記実施例において、1つ以上の第1電磁弁等により前輪側電磁弁等装置と後輪側電磁弁等装置との一方が構成され、1つ以上の第2電磁弁等により前輪側電磁弁等装置と後輪側電磁弁等装置との他方が構成される。
【0109】
(10)当該液圧ブレーキシステムが、前記複数の電動シリンダ装置の各々の前記電動モータへの供給電流をそれぞれ制御することにより前記複数の液圧ブレーキのホイールシリンダの液圧室の液圧をそれぞれ制御する液圧制御装置を含み、
前記液圧制御装置が、前記複数の電動シリンダ装置の各々において、前記電動モータへの供給電流を制御することにより、前記ピストンを前進・後退させて、前記容積変化室の容積を減少・増加させることにより、前記複数のホイールシリンダの液圧室の液圧を増加・減少させるものである(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0110】
(11)当該液圧ブレーキシステムが、
前記車両の周辺の情報を取得する周辺情報取得装置と、
前記複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪の回転速度を検出する車輪速度検出装置と
を含み、
前記液圧制御装置が、
少なくとも前記周辺情報取得装置によって取得された前記車両の周辺の情報に基づいて決まる目標液圧に、前記複数のホイールシリンダの各々の液圧がそれぞれ近づくように、複数の前記電動モータへの供給電流をそれぞれ制御し、かつ、
複数の前記車輪速度検出装置によって検出された複数の車輪の各々の車輪速度に基づいて取得された前記複数の車輪の各々のスリップ状態が、路面の摩擦係数で決まる適正な範囲内にあるように、前記複数の電動モータへの供給電流をそれぞれ制御する(10)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0111】
(12)当該液圧ブレーキシステムが、
運転者によって操作可能なブレーキ操作部材の操作状態を検出する操作状態検出装置と、
前記車両の周辺の情報を取得する周辺情報取得装置と、
前記複数の車輪の各々に対応して設けられ、それぞれ、車輪の回転速度を検出する車輪速度検出装置と
を含み、
前記液圧制御装置が、
前記周辺情報取得装置によって取得された前記車両の周辺の情報と、前記操作状態検出装置によって検出された前記ブレーキ操作部材の操作状態との少なくとも一方に基づいて決まる目標液圧に、前記複数のホイールシリンダの各々の液圧がそれぞれ近づくように、複数の前記電動モータへの供給電流をそれぞれ制御し、かつ、
複数の前記車輪速度検出装置によって検出された複数の車輪の各々の車輪速度に基づいて取得された前記複数の車輪の各々のスリップ状態が、路面の摩擦係数で決まる適正な範囲内にあるように、前記複数の電動モータへの供給電流をそれぞれ制御する(10)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0112】
車両が自動運転車であり、運転車によって操作可能なブレーキ操作部材を含まない場合には、目標液圧は周辺情報取得装置によって取得された周辺の情報に基づいて決定されるが、車両がブレーキ操作部材を含む場合には、ブレーキ操作部材の操作状態も考慮して目標液圧が取得される。例えば、ブレーキ操作状態と周辺の情報との少なくとも一方に基づいて目標液圧が取得されるようにすることができる。
【0113】
(12)前記液圧制御装置が、前記複数の電動シリンダ装置の各々の異常の有無を検出する異常検出部を含み、前記異常検出部によって前記複数の電動シリンダ装置のうちの1つ以上が異常であると検出された場合に、前記異常であると検出された前記1つ以上の電動シリンダ装置を停止させ、前記複数の電動シリンダ装置から前記異常であると検出された前記1つ以上の電動シリンダ装置を除いた1つ以上の電動シリンダ装置を制御するものである(10)項または(11)項に記載の液圧ブレーキシステム。
【0114】
本項に記載の液圧ブレーキシステムにおいて、複数の電動シリンダ装置から異常であると検出された1つ以上の電動シリンダ装置を除いた1つ以上の電動シリンダ装置の各々は、互いに独立した状態で、それぞれ、制御されるようにすることができる。
【0115】
(13)前記ハウジングが、前記電動モータを収容する第1ハウジングと、前記ピストンが液密かつ摺動可能に嵌合された第2ハウジングとを含み、
前記第1ハウジングと前記第2ハウジングとが、分離可能に組付けられた(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0116】
第1ハウジングと第2ハウジングとは、例えば、ねじ部材とナット部材とを含む結合装置によって結合されるようにすることができる。そのため、ナット部材を外すことにより、ハウジングを、第1ハウジングと第2ハウジングとを分離して、それぞれ、電動モータ、ピストン、直線回転運動変換装置等を取り外すことができる。第1ハウジングが後側ハウジング40r、第2ハウジングが前側ハウジング40fに対応する。第1ハウジング40rと第2ハウジング40fとは、例えば、ねじ部材80とナット部材82とを含む結合装置によって結合される。
【0117】
また、第2ハウジングにはシリンダボアが設けられるが、シリンダボアは細長い形状とすることができ、例えば、直径と長さとの比率(直径/長さ)を0.6より小さくすることができる。
【0118】
(14)当該液圧ブレーキシステムが、運転者によるブレーキ操作部材の操作に起因して液圧を発生させるマニュアル液圧源と、ポンプ装置を備え、ポンプ装置の作動に起因して液圧を発生させるポンプ式液圧源とを含まないものである(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
【0119】
電動シリンダ装置には、マニュアル液圧源、ポンプ式液圧源等は接続されていない。
【0120】
(15)前記電動シリンダ装置と前記液圧ブレーキとの間に、ソレノイドへの電圧の印加により作動させられる電磁弁が設けられていない(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の液圧ブレーキシステム。
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8
図9
図10