(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】巻上機の電磁ディスクブレーキ装置及びその組み立て方法
(51)【国際特許分類】
F16D 55/28 20060101AFI20250715BHJP
F16D 65/22 20060101ALI20250715BHJP
F16D 121/16 20120101ALN20250715BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20250715BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/22
F16D121:16
F16D121:22
(21)【出願番号】P 2022067867
(22)【出願日】2022-04-15
【審査請求日】2024-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 治彦
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280375(JP,A)
【文献】特開2019-142611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 55/28
F16D 65/22
F16D 121/16
F16D 121/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周に同軸状に設けられ、当該回転軸に追従して回転するとともに、外周面に前記回転軸の軸方向に沿うスプラインを有するハブと、
前記ハブの前記スプラインに噛み合うことで前記ハブと一体に回転するとともに、前記回転軸の軸方向に移動可能に前記ハブに支持されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う一方の側に配置され、前記ブレーキディスクを受け止める摩擦プレートと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う他方の側に配置され、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートに押し付ける方向に弾性的に付勢されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから遠ざかる方向に吸引する電磁石と、を備え、
前記ブレーキディスクが前記摩擦プレートと前記アーマチュアとの間で前記回転軸の軸方向に移動可能な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置であって、
前記ブレーキディスクは、前記摩擦プレート側の面に、前記回転軸方向に掘り下げられたばね座繰りを有し、
前記ばね座繰りに挿入されたディスク押しばねと、
前記ハブに固定されて前記ディスク押しばねに当接可能なばね押えプレートをさらに備え、
前記ディスク押しばねは、前記ばね押さえプレートを受けることにより、前記アーマチュアが前記電磁石に吸引された時に、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートから遠ざかる方向に付勢する
ものであり、
前記ばね座繰りは、前記回転軸を中心とする環状であり、
前記ディスク押しばねは、前記ばね座繰りの径に対応する径を有するOリングであることを特徴とする巻上機の電磁ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
回転軸の外周に同軸状に設けられ、当該回転軸に追従して回転するとともに、外周面に前記回転軸の軸方向に沿うスプラインを有するハブと、
前記ハブの前記スプラインに噛み合うことで前記ハブと一体に回転するとともに、前記回転軸の軸方向に移動可能に前記ハブに支持されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う一方の側に配置され、前記ブレーキディスクを受け止める摩擦プレートと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う他方の側に配置され、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートに押し付ける方向に弾性的に付勢されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから遠ざかる方向に吸引する電磁石と、を備え、
前記ブレーキディスクが前記摩擦プレートと前記アーマチュアとの間で前記回転軸の軸方向に移動可能な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置であって、
前記ブレーキディスクは、前記摩擦プレート側の面に、前記回転軸方向に掘り下げられたばね座繰りを有し、
前記ばね座繰りに挿入されたディスク押しばねと、
前記ハブに固定されて前記ディスク押しばねに当接可能なばね押えプレートをさらに備え、
前記ディスク押しばねは、前記ばね押さえプレートを受けることにより、前記アーマチュアが前記電磁石に吸引された時に、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートから遠ざかる方向に付勢するものであり、
前記摩擦プレートは、前記ばね座繰りを露出する開口部を有し、
前記開口部を被覆して、若しくは前記開口部にかけ渡して前記摩擦プレートに固定されるプレートであって、前記回転軸の状態を検知するエンコーダを取り付け可能なエンコーダ取付プレートをさらに備えたことを特徴とす
る巻上機の電磁ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
回転軸の外周に同軸状に設けられ、当該回転軸に追従して回転するとともに、外周面に前記回転軸の軸方向に沿うスプラインを有するハブと、
前記ハブの前記スプラインに噛み合うことで前記ハブと一体に回転するとともに、前記回転軸の軸方向に移動可能に前記ハブに支持されたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う一方の側に配置され、前記ブレーキディスクを受け止める摩擦プレートと、
前記ブレーキディスクの移動方向に沿う他方の側に配置され、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートに押し付ける方向に弾性的に付勢されたアーマチュアと、
前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから遠ざかる方向に吸引する電磁石と、を備え、
前記ブレーキディスクが前記摩擦プレートと前記アーマチュアとの間で前記回転軸の軸方向に移動可能な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の組み立て方法であって、
前記アーマチュア、前記ブレーキディスク及び前記摩擦プレートを組付けた後、前記摩擦プレートに設けた開口部を介し、前記ブレーキディスクの前記摩擦プレート側の面に設けたばね座繰りにディスク押しばねを挿入する工程と、
前記ディスク押しばねに当接可能なばね押さえプレートを前記ハブに固定する工程と、
前記ばね押さえプレートを前記ハブに固定する工程の後、前記摩擦プレートにエンコーダ取付プレートを固定する工程と、
前記エンコーダ取付プレートにエンコーダを取り付ける工程と
を含むことを特徴とする巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の組み立て方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機の電磁ディスクブレーキ装置及びその組み立て方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機のブレーキディスクを押す装置が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「ハブの外周部に、ブレーキディスクと摩擦プレートとの間に介在された弾性体を設け、当該弾性体は、ブレーキディスクが押し付けられた時に圧縮されるとともに、アーマチュアが電磁石に吸引された時に、ブレーキディスクを摩擦プレートから遠ざかる方向に弾性的に付勢する。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1には、ハブの外周に設置した弾性体でブレーキディスクを押すブレーキ装置が記載されている。しかし、ハブの外周は、ブレーキディスクから見ると回転軸に近い位置であり、この位置の弾性力でブレーキディスク全体を摩擦プレートから離すのは容易ではない。また、弾性体をOリングとし、Oリングの径方向の弾性力でハブに取り付ける構成では、Oリングをハブに固定する弾性力の方向とブレーキディスクに対して付勢すべき弾性力の方向とが直交する。このため、Oリングの取り付けの工程が困難となる問題と、ブレーキディスクに付勢する弾性力の調整が困難となる問題がある。
本発明の目的は、ブレーキディスクを効果的に摩擦プレートから離隔させることができ、かつ組み立ての容易な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置及びその組み立て方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の一つは、回転軸の外周に同軸状に設けられ、当該回転軸に追従して回転するとともに、外周面に前記回転軸の軸方向に沿うスプラインを有するハブと、前記ハブの前記スプラインに噛み合うことで前記ハブと一体に回転するとともに、前記回転軸の軸方向に移動可能に前記ハブに支持されたブレーキディスクと、前記ブレーキディスクの移動方向に沿う一方の側に配置され、前記ブレーキディスクを受け止める摩擦プレートと、前記ブレーキディスクの移動方向に沿う他方の側に配置され、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートに押し付ける方向に弾性的に付勢されたアーマチュアと、前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから遠ざかる方向に吸引する電磁石と、を備え、前記ブレーキディスクが前記摩擦プレートと前記アーマチュアとの間で前記回転軸の軸方向に移動可能な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置であって、前記ブレーキディスクは、前記摩擦プレート側の面に、前記回転軸方向に掘り下げられたばね座繰りを有し、前記ばね座繰りに挿入されたディスク押しばねと、前記ハブに固定されて前記ディスク押しばねに当接可能なばね押えプレートをさらに備え、前記ディスク押しばねは、前記ばね押さえプレートを受けることにより、前記アーマチュアが前記電磁石に吸引された時に、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートから遠ざかる方向に付勢する。
また、代表的な本発明の巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の組み立て方法の一つは、回転軸の外周に同軸状に設けられ、当該回転軸に追従して回転するとともに、外周面に前記回転軸の軸方向に沿うスプラインを有するハブと、前記ハブの前記スプラインに噛み合うことで前記ハブと一体に回転するとともに、前記回転軸の軸方向に移動可能に前記ハブに支持されたブレーキディスクと、前記ブレーキディスクの移動方向に沿う一方の側に配置され、前記ブレーキディスクを受け止める摩擦プレートと、前記ブレーキディスクの移動方向に沿う他方の側に配置され、前記ブレーキディスクを前記摩擦プレートに押し付ける方向に弾性的に付勢されたアーマチュアと、前記アーマチュアを前記ブレーキディスクから遠ざかる方向に吸引する電磁石と、を備え、前記ブレーキディスクが前記摩擦プレートと前記アーマチュアとの間で前記回転軸の軸方向に移動可能な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の組み立て方法であって、前記アーマチュア、前記ブレーキディスク及び前記摩擦プレートを組付けた後、前記摩擦プレートに設けた開口部を介し、前記ブレーキディスクの前記摩擦プレート側の面に設けたばね座繰りにディスク押しばねを挿入する工程と、前記ディスク押しばねに当接可能なばね押さえプレートを前記ハブに固定する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ブレーキディスクを効果的に摩擦プレートから離隔させることができ、かつ組み立ての容易な巻上機の電磁ディスクブレーキ装置及びその組み立て方法を提供できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るブレーキ装置の要部を示す破断側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の一実施例を
図1に沿って説明する。
図1は本発明の1実施形態に係る巻上機の電磁ディスクブレーキ装置の制動状態の要部を示す破断側面図である。回転軸1に追従して回転するとともに、外周面にスプライン3を有するハブ2と、ハブ2のスプライン3に噛み合いハブ2と一体に回転し、回転軸1の軸方向に移動可能なブレーキディスク4と、ブレーキディスク4の移動方向に配置された摩擦プレート5と、ブレーキディスク4を摩擦プレート5に押し付けるアーマチュア6と、アーマチュア6をブレーキディスク4から遠ざかる方向に吸引する電磁石7を備える。ブレーキディスク4には、ディスク押しばね8を挿入できるばね座繰り9を設けている。
さらに、アーマチュア6は制動ばね10に押されており、ロッド11に調整ナット12を締め込むことにより
図1の制動状態に組み込むことができる。
上記の状態にてばね押さえプレート13を取り付けることにより、ディスク押しばね8がばね押さえプレート13を受ける構造となって、アーマチュア6が電磁石7に吸引された時に、ブレーキディスク4を摩擦プレート5から遠ざかる方向に付勢する。
また、ばね押さえプレート13からエンコーダ14を取付できるように、エンコーダ取付プレート15を設けた。
【0010】
ここで、ばね座繰り9は、ブレーキディスク4の摩擦プレート5側の面を、回転軸方向に掘り下げることで形成されている。
ディスク押しばね8は、ばね座繰り9に対して回転軸方向に挿入される。そして、ばね押さえプレート13は、ハブ2に固定されて、ディスク押しばね8に当接する。その当接方向は、回転軸方向のアーマチュア6側である。
すなわち、ディスク押しばね8を挿入する方向、ばね押さえプレート13がディスク押しばね8を固定する方向、ばね押さえプレート13の固定方向、ディスク押しばね8がブレーキディスク4を押す方向は、すべて、回転軸方向のアーマチュア6側で一致する。
【0011】
さらに、ばね座繰り9は、ハブ2ではなく、ブレーキディスク4の摩擦プレート5側の面に設けられる。このため、ハブ2よりもブレーキディスク4の外周側にディスク押しばね8を配置することができ、ブレーキディスク4の全体を効果的かつ均一に付勢できる。
【0012】
一例として、ばね座繰り9は、回転軸を中心とする環状であり、ディスク押しばね8は、ばね座繰り9と略同一の径を有するOリングである。Oリングは、ハブ2に取り付ける構成に比して径の大きいものを用いることができ、ブレーキディスク4の全体を容易に押すことができる。また、Oリングの固定は、Oリングの弾性力ではなく、ばね押さえプレート13によって行われるため、Oリングの弾性力はブレーキディスク4に対する付勢の観点のみで決定することができる。この結果、ブレーキディスク4に対する付勢の調整が容易となる。
【0013】
他の例として、ばね座繰り9は、回転軸を中心とする所定の周の上に複数設け、ディスク押しばね8は、複数のばね座繰り9にそれぞれ挿入されるコイルばねであってもよい。コイルばねを採用することで、ブレーキディスク4に対する付勢の調整を精密に行うことができる。ばね座繰り9及びディスク押しばね8の数は任意であるが、その配置は回転対称とする。例えば3つのばね座繰り9及びディスク押しばね8を回転対称に配置すれば、安定性の点から好適である。
【0014】
次に、摩擦プレート5とエンコーダ取付プレート15について説明する。
摩擦プレート5は、ばね座繰り9を露出する開口部を有する。
エンコーダ取付プレート15は、摩擦プレート5の開口部を被覆して、若しくは開口部にかけ渡して摩擦プレート5に固定されるプレートであって、回転軸の状態を検知するエンコーダ14を取り付け可能である。
【0015】
このように、摩擦プレート5に開口部を設け、開口部にエンコーダ取付プレート15を取り付けるようにしたことで、アーマチュア6、ブレーキディスク4及び摩擦プレート5を組付けた後で、ディスク押しばね8を挿入する工程と、ばね押さえプレート13をハブ2に固定する工程とを行うことができる。その後、さらに、摩擦プレート5にエンコーダ取付プレート15を固定する工程と、エンコーダ取付プレート15にエンコーダ14を取り付ける工程とを行えばよい。
【0016】
特に、ロッド11に調整ナット12を締め込んで、制動ばね10の付勢を発生させた後で、ディスク押しばね8の挿入以降の工程を行うことができる点は、組み立てを容易にする。既に説明したように、ディスク押しばね8を挿入する方向、ばね押さえプレート13がディスク押しばね8を固定する方向、ばね押さえプレート13の固定方向、ディスク押しばね8がブレーキディスク4を押す方向が、全て一致する点も組み立て性の向上に寄与している。また、ロッド11に調整ナット12を締め込んだ状態のまま、エンコーダ取付プレート15を取り外して開口部を露出し、ばね押さえプレート13やディスク押しばね8の検査や交換が可能であるため、メンテナンス性が向上する。
【0017】
摩擦プレート5の開口部の形状及び大きさは、任意に決定することができる。形状については、回転対称とすることが好適である。開口部を大きくすれば、ばね座繰り9及びディスク押しばね8を、より外周側に配置することができ、ブレーキディスク4をさらに効果的に付勢できる。
【0018】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0019】
1:回転軸、2:ハブ、3:スプライン、4:ブレーキディスク、5:摩擦プレート、6:アーマチュア、7:電磁石、8:ディスク押しばね、9:ばね座繰り、10:制動ばね、11:ロッド、12:調整ナット、13:ばね押さえプレート、14:エンコーダ、15:エンコーダ取付プレート