(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-14
(45)【発行日】2025-07-23
(54)【発明の名称】連続積分フィルタによる複数のコントローラビームの高速強度安定化
(51)【国際特許分類】
G02F 1/11 20060101AFI20250715BHJP
G06N 10/40 20220101ALI20250715BHJP
【FI】
G02F1/11 502
G06N10/40
(21)【出願番号】P 2022510852
(86)(22)【出願日】2020-08-18
(86)【国際出願番号】 US2020046826
(87)【国際公開番号】W WO2021034843
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-05-25
(32)【優先日】2019-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ミツラヒ ジョナサン アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ピセンティ ニール
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/014589(WO,A1)
【文献】特開2010-054938(JP,A)
【文献】THOM, J. et al.,Intensity stabilisation of optical pulse sequences for coherent control of laser-driven qubits,APPLIED PHYSICS B,2018年05月03日,Vol. 124,pp. 90-1 - 90-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
B82Y 5/00-99/00
G06N 10/40
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラップイオンシステムにおいてレーザビームの強度を安定化させるための方法であって、
レーザビームの線形アレイを、トラップ内のイオンの線形アレイのそれぞれのイオンに印加するステップと、
前記レーザビームの印加に応答して、前記
それぞれのイオンに対して並列測定を行うステップであって、前記並列測定は、
前記線形アレイ内の前記それぞれのイオンの各イオンに対する複数の別々の測定を含み、各イオンに対する前記複数の測定の各々が、前記イオンの明状態または暗状態のいずれかを示す、ステップと、
前記それぞれのイオンに対する前記複数の別々の測定に基づいて、各イオンにおける前記それぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するステップと、
前記並列測定により特定された揺らぎに応答して、前記レーザビームのうちの1つ以上の前記強度を調整するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
特定のイオンに対する前記複数の別々の測定のそれぞれが、前記それぞれのレーザビームに対するそのイオンの応答の測定である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記並列測定を行うステップは、前記それぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するために、前記イオンのそれぞれに対する前記複数の別々の測定値の積分を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
特定のイオンに関する前記複数の別々の測定のそれぞれについて、
前記イオンを量子状態│0>に準備するステップであって、それぞれのレーザビームは、前記レーザビームの前記強度が正しく、│0>と│1>との量子状態の間で前記イオンのラビフロッピングを駆動する周波数である場合、│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせを生成する固定期間tの間、そのイオンに印加される、ステップと、
前記それぞれのレーザビームの印加に対する前記イオンの応答を「1」又は「0」のいずれかとして、測定するステップであって、「1」は前記イオンの
前記明状態を示し、「0」は前記イオンの
前記暗状態を示す、ステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固定期間tは、π/2の奇数倍であるレーザビームパルスを駆動するように設定され、π/2の大きな奇数倍は、π/2の小さな奇数倍よりも強度の変動に敏感である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記固定期間tは、9π/2のレーザビームパルスを駆動するように設定される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記レーザビームのうちの1つ以上の前記強度を調整するステップは、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)のそれぞれのチャネルに印加される無線周波(RF)信号を用いて前記レーザビームのそれぞれを制御するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
RF信号を用いて前記レーザビームのそれぞれを制御するステップは、前記それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、前記RF信号の振幅を調整するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
RF信号を用いて前記レーザビームのそれぞれを制御するステップは、前記それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、前記RF信号の振幅に対応する第一のデジタル数Aを、前記複数の別々の測定のフィードバックループの利得に対応する第二のデジタル数Bに基づいて、調整するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第一のデジタル数Aの最上位ビット(MSB)は、それぞれの前記RF信号の振幅の物理的な値を代表するビットである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
各レーザビームは、前記それぞれのイオンの位置で約1μm~1.5μmの直径を有し、
イオンの前記線形アレイの前記イオンは、約5μmの距離で互いに分離されている、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が前記トラップイオンシステムの実験サイクルの終了時に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が前記トラップイオンシステムの実験サイクルの間に実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が1ミリ秒未満で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
トラップイオンシステムにおいてレーザビームの強度を安定化させるためのシステムであって、
トラップ内のイオンの線形アレイのそれぞれのイオンにレーザビームの線形アレイを印加するように構成されたレーザ源と、
前記レーザビームが印加されたことに応答して、
前記それぞれのイオンに対して並列測定を行うように構成された撮像システムであって、前記並列測定は、
前記線形アレイ内の前記それぞれのイオンの各イオンに対する複数の別々の測定を含み、各イオンに対する前記複数の測定の各々が、前記イオンの明状態または暗状態のいずれかを示し、さらに、前記それぞれのイオンに対する前記複数の別々の測定に基づいて、各イオンにおける前記それぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するように構成された、撮像システムと、
前記並列測定から特定される揺らぎに応答して、前記レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するように構成された光学コントローラと、
を備える、システム。
【請求項16】
特定のイオンに対する前記複数の別々の測定のそれぞれが、前記それぞれのレーザビームに対するそのイオンの応答の測定である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記光学コントローラは、前記それぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するために、前記イオンのそれぞれに対する前記複数の別々の測定の積分フィルタリングを行うようにさらに構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
特定のイオンに対する前記複数の別々の測定のそれぞれについて、
前記光学コントローラは、前記イオンを量子状態│0>に準備するように構成され、前記それぞれのレーザビームは、前記レーザビームの前記強度が正しく、│0>と│1>との量子状態の間で前記イオンのラビフロッピングを駆動する周波数である場合、│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせを生成する固定期間tの間、そのイオンに印加され、
前記撮像システムは、前記それぞれのレーザビームの印加に対する前記イオンの応答を「1」又は「0」のいずれかとして、測定するように構成され、「1」は前記イオンの
前記明状態を示し、「0」は前記イオンの
前記暗状態を示す、
請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記固定期間tは、π/2の奇数倍であるレーザビームパルスを駆動するように設定され、π/2の大きな奇数倍は、π/2の小さな奇数倍よりも強度の変動に敏感である、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記固定期間tは、9π/2のレーザビームパルスを駆動するように設定される、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記光学コントローラは、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)のそれぞれのチャネルに印加される無線周波(RF)信号を用いて前記レーザビームのそれぞれを制御するようにさらに構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記光学コントローラは、前記それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、前記RF信号の振幅を調整するようにさらに構成される、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記光学コントローラは、前記それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、前記RF信号の振幅に対応する第一のデジタル数Aを、前記複数の別々の測定のフィードバックループの利得に対応する第二のデジタル数Bで、調整するようにさらに構成される、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記第一のデジタル数Aの最上位ビット(MSB)は、それぞれの前記RF信号の振幅の物理的な値を代表するビットである、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
各レーザビームは、前記それぞれのイオンの位置で約1μm~1.5μmの直径を有し、
イオンの前記線形アレイの前記イオンは、約5μmの距離で互いに分離されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項26】
前記撮像システムは、前記並列測定を前記トラップイオンシステムの実験サイクルの終了時に実行するように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項27】
前記撮像システムは、前記並列測定を前記トラップイオンシステムの実験サイクルの間に実行するように構成される、請求項15に記載のシステム。
【請求項28】
前記撮像システムは、前記並列測定を1ミリ秒未満で実行するように構成される、請求項15に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年8月17日に出願された「Fast Intensity Stabilization of Multiple Controller Beams with Continuous Integrating Filter」と題する米国非仮特許出願第16/995,642号、及び2019年8月19日に出願された「Fast Intensity Stabilization of Multiple Controller Beams with Continuous Integrating Filter」と題する米国仮特許出願第62/888,668号の優先権主張し、両出願の内容は、参照により全体として組み込まれる。
【0002】
本開示の側面は、一般に、レーザビーム強度の安定化に関し、より具体的には、連続積分を伴う複数のコントローラビームの高速安定化に関する。
【背景技術】
【0003】
トラップイオン量子コンピュータ又は量子情報処理(QIP)システムにおいて、レーザビームの線形アレイは、イオンの線形アレイ上に下向きに集束される。各レーザビームは、そのイオンの何らかの制御を提供するために、それぞれのイオンに強く集束される。レーザビームの直径はイオン位置で1マイクロメートル(μm)から1.5μmで、イオン間の距離は約5μmであり得る。
【0004】
量子コンピュータ又はQIPシステムが適切に動作するためには、各イオン上の各レーザビームの光の強度が一定であることが重要である。レーザビームの強度を変化させる原因は様々であり、例えば、レーザビーム又はイオンが移動して、イオン位置での強度が低下したり、レーザビーム自体のパワーが変化したりする場合がある。いくつかの例では、イオンを保持するトラップの変化により、レーザビームの強度が異なるスポットにイオンが移動することがある。レーザビーム又はイオンが数十~数百ナノメートル単位で変化すると、システムの性能に深刻な影響を与える可能性がある。レーザビームにかかる気圧の変化により、焦点(レーザビームの最狭部、理想的にはイオンの位置)で破壊的な干渉が起こり、レーザビームの強度が低下することがある。したがって、レーザビーム強度を経時的に監視し、安定化させることが重要である。
【0005】
一つの解決策は、レーザビームのパワーをフォトダイオードで監視し、測定値をフィードバックして、レーザビームを制御する音響光学変調器(AOM)に印加される無線周波(RF)信号の振幅を調整し、レーザビームのパワーを安定化させることである。レーザビームの強度は、単位面積当たりのパワーの量を指す場合があり、したがって、レーザビームに関する用語「強度」及び「パワー」は、本開示において互換的に使用される場合がある。しかしながら、レーザパワーをフォトダイオードでモニターする技術は、レーザビームのポインティング揺らぎ、イオン位置揺らぎ、又は気圧揺らぎによる強度変化を補正することはできない。さらに、フォトダイオードの位置でレーザのパワーを安定化させるだけで、フォトダイオードの後で、レーザビームのそれぞれのイオンに近いレーザビームの経路で誘発される揺らぎは考慮されない。
【0006】
したがって、よりイオンに近いところでより正確に測定できる技術を用いることが望ましい。そのための一つの方法は、イオン自体でレーザビームの強度又はパワーを実際に測定し、それらの測定値を使用してレーザビームの強度を制御することである。レーザビームの強度は、イオンの反応を見ながら、ある範囲でスキャンして、定期的に較正することができる。スキャンから最適な強度ポイントを選択する前に、スキャンの結果をフィッティングする必要がある。レーザビーム強度は、次の較正が行われるまでは、最適なポイントの値に設定される。このプロセスは、通常、非常に遅く、1回の較正に30秒~1分を要するため、10分ごとに1回の頻度で実行することはできない。この10分間隔よりも速いタイムスケールで揺らいでいるノイズは相当量あり、上記のようなタイプの較正プロセスでは、そのいずれをも補正することもできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザビームが制御されているイオンにおいて又はその近傍で測定を行うことを可能にしながら、イオンに印加されるレーザビームの強度又はパワーのより速い安定化又は制御を達成することができる新たな技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下では、1つ以上の態様の簡略化された発明の概要を提示し、そのような態様の基本的な理解を提供する。この概要は、全ての企図された態様の広範な概観ではなく、全ての態様の主要又は重要な要素を識別することも、任意の又は全ての態様の範囲を線引きすることも意図するものでもない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして、1つ以上の態様のいくつかの概念を簡略化された形式で提示することである。
【0009】
トラップイオンシステムにおける本開示の一態様において、レーザビームの強度を安定化させるための方法が記載され、この方法は、レーザビームの線形アレイを、トラップ内のイオンの線形アレイのそれぞれのイオンに印加するステップと、レーザビームの印加に応答して、イオンに対して並列測定を行うステップであって、並列測定は、各イオンでのそれぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するために、イオンのそれぞれに対する複数の別々の測定を含む、ステップと、並列測定により特定された揺らぎに応答して、レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するステップと、を含む。
【0010】
本開示の別の態様において、トラップイオンシステムにおいてレーザビームの強度を安定化させるためのシステムが記載され、このシステムは、レーザビームの線形アレイを、トラップ内のイオンの線形アレイのそれぞれのイオンに印加するように構成されたレーザ源と、レーザビームが印加されたことに応答して、イオンの並列測定を行うように構成された撮像システムであって、並列測定は、各イオンにおけるそれぞれのレーザビームの強度の揺らぎを特定するための、イオンのそれぞれに対する複数の別々の測定を含む、撮像システムと、並列測定から特定される揺らぎに応答して、レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するように構成された光学コントローラと、を含む。
【0011】
上記および関連する目的を達成するために、1つ以上の態様は、以下に完全に説明され、特に特許請求の範囲において指摘される特徴から構成される。以下の説明および添付の図面は、その1つ以上の側面の特定の例示的な特徴を詳細に示すものである。しかしながら、これらの特徴は、様々な側面の原理が採用され得る様々な方法のうちのわずかな一部を示すものであり、本説明は、全てのそのような側面およびそれらの等価物を含むことを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
開示される態様は、以下で添付の図面と併せて説明する。これらの図面は、開示される態様を限定するためではなく、例示するために提供される。同様の符号は、同様の要素を示す。
【0013】
【
図1】本開示の態様に従って、線形結晶である原子イオンのトラップの図を示す。
【
図2A】本開示の態様に従うラマンビーム形状の一例を示すダイアグラムである。
【
図2B】本開示の態様に従って、レーザビーム又はイオン位置の揺らぎがイオンでの強度揺らぎをもたらす例を説明するダイアグラムである。
【
図3】本開示の態様に従って、マルチキュービット制御のためのマルチチャネル音響光学変調器(AOM)の一例を示すダイアグラムである。
【
図4】本開示の態様に従って、パルス面積に応じたイオン輝度を示すダイアグラムである。
【
図5A】本開示の態様に従う量子情報処理(QIP)システムの一例を示すブロック図である。
【
図5B】本開示の態様に従う光学コントローラの一例を示すブロック図である。
【
図6】本開示の態様に従う方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、様々な構成の説明として意図されるもので、本明細書で説明される概念が実施され得る唯一の構成を表すことを意図していない。詳細な説明は、様々な概念の完全な理解を提供する目的で、特定の詳細を含む。しかしながら、これらの概念は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることは、当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を曖昧にしないようにするために、周知のコンポーネントがブロック図の形式で示される。
【0015】
本開示の目的は、レーザビーム強度を経時的に可能な限り頻繁に安定化させるために、実験サイクルの終了時に(例えば、数ミリ秒ごとに)それぞれのレーザビームに対する個々のイオンの応答を測定する高速実験を実行することである。これらの高速較正又は安定化技術を実行することにより、現在の定期的な較正で使用されている10分間隔よりも速いタイムスケールでの揺らぎを補償することが可能である。場合によっては、いくつかの実験サイクルのそれぞれの後に測定を行うことができる。これらの測定結果は、必要に応じて、適切な場合、AOM(例えば、マルチチャネルAOM)内のチャネルを駆動するRF振幅を介して、レーザビームのそれぞれの強度を増加又は減少させるために使用されてもよい。システムは、全てのイオンの応答を別々に検出するように構成され、全てのイオンに全てのレーザビームを駆動する別々のAOMチャネルが存在するので、全てのレーザビーム強度を並列で(例えば、同時に、同一時に)測定し、較正又は安定化することができる。したがって、本開示によって、多くの測定を行い、それらの測定結果をフィードバックして、多くのレーザビーム上の強度を並列で制御することが可能になる。さらに、測定に起因するショットノイズを回避するために、本開示は、そのようなノイズをフィルタリングする技術を説明し、その一例には、ショットノイズを除去するために積分フィルタを使用することが含まれる。
【0016】
トラップイオン量子コンピュータ、トラップイオンシステム、又はQIPシステムにおいて、各イオンの個別アドレス指定能力は、イオンを使用して実装される特定の量子ゲート又は実験によって要求されるように、位相、周波数、および/又は振幅、および/又は偏光をも制御するために必要とされ得る。いくつかのトラップイオンシステムは、例えば、32個の個別に制御されるイオンを有するが、この数は、より少ない数か、より多い数となるように、場合によっては100個以上のイオンとなるように動的に調整することができる。各イオンに個別に対処するこの同じ能力は、レーザビーム強度の高速較正又は安定化を実行するために本明細書で提案する実験のような各イオンにおいて独立した測定を実行するためにも有用であり得る。個々のイオン制御をサポートするシステムにおいて、単一のグローバルレーザビームは、イオンチェーン(例えば、イオントラップ内のイオンのチェーン又は線形配置、例えば、
図1を参照)内の全てのイオンに印加又は提供することができ、イオンを制御しつつ、量子ゲート、実験又は測定が実施又は実装されるべきそれらのイオンに対して個々のレーザビームを適用又は提供することができる。これらの対向伝搬光ビームは、ラマン光学ビーム又は単にラマンビームと呼ばれ、典型的には、非常に高い中心周波数(例えば、850THz)を有するレーザビームである。しかしながら、これらのレーザビームは、ビートノートを生成する明確な周波数差(例えば、12.6GHz)を有し、これが量子ビットの周波数として使用される。RF信号は、レーザビームによって生成されるビートノートの周波数又は位相を制御するために使用され、ビートノートは、その後、イオンチェーン内の量子ビット(例えば、原子又はイオンキュービット)を駆動するために使用される。本開示で使用する場合、「原子イオン」、「原子」および「イオン」という用語は、結晶、線状、又は同様の配置又は構成を形成するためにトラップに閉じ込められるべき、又は実際に閉じ込められている粒子を表すために交換可能に使用され得る。この種の制御は、従来、ビートノートの周波数又は位相を調整する手段として単一のグローバルレーザビームを使用することによって実装されてきたが、このアプローチにはいくつかの制限があり、したがって、個々のレーザビームを使用してイオンを制御するシステムが好ましい。
【0017】
したがって、トラップイオンの状態はラマン遷移を利用して、制御することができ、そこで、2つのラマンレーザビームのビートノートを使用して、内部の量子ビットをコヒーレントに駆動することができる。量子コンピュータ又はQIPシステムにおいて、個々のトラップイオンを制御する場合、アドレス指定レーザビームのアレイが生成され、1つのトラップイオンに対して、1つのレーザビームが生成される。マルチチャネルAOMを使用することにより、アレイ内のアドレス指定レーザビームのそれぞれは、例えば、トラップイオンによって収集されるあらゆる系統誤差を個別に補正する能力、又はイオンに対して測定を実行する能力を有するように制御することができる。本明細書では、個々のトラップイオンを制御するためにマルチチャネルAOMを参照するが、本開示はそのように限定する必要はなく、マルチチャネルAOMは、複数の単一チャネルAOM又は複数の小型マルチチャネルAOMを用いて実装されてもよいことが理解されよう。多数の任意波形発生器(AWG)又は直接デジタル合成器(DDS)が、マルチチャネルAOMと共に使用されてもよく、各AWG/DDSは、それぞれのアドレス指定レーザビームについてAOMのチャネルを独立して制御する。
【0018】
上述したアプローチに関連して、
図1は、線形RFポールトラップなどの線形RFトラップ(線形結晶100は図示しない真空チャンバ内にあり得る)を使用して、線形又は一次元配列、例えば線形結晶110の複数のトラップ原子イオン106a~106dを示すダイアグラム100である。線形結晶110は、例えば、イオンチェーンと呼ばれることもある。
図1に示す例では、トラップは、線形結晶110内に閉じ込められ、ほぼ静止状態になるようにレーザ冷却された複数の原子イッテルビウムイオン(例えば、
171Yb
+イオン)をトラップするための電極を含んでもよい。本明細書に記載された技術は、イッテルビウムイオン以外の広範囲の原子イオンに適用可能であり、したがって、本開示は、イッテルビウムイオンの使用に限定される必要はないことが理解されよう。トラップされる原子イオンの数は、設定可能であり、より多くの原子イオン、又はより少ない原子イオンがトラップされてもよい。一例では、トラップされ得るイオンの数は、N個であり、ここで、N>1であり、Nは、100と同じかそれ以上の数であり、いくつかの実施態様では、上述のようにN=32を有する。原子は、
171Yb
+の共鳴に同調したレーザ(光)放射で照射され、原子イオンの蛍光がカメラに結像される。この例では、原子イオンは、蛍光によって示され得るように、互いに約5マイクロメートル(μm)だけ離れている。原子イオンの分離は、外部からの閉じ込め力とクーロン反発との間のバランスによって決定される。原子イオン106a~106dは、計算又は実験のためにトラップされてもよいが、原子イオン106a~106dは、それぞれのレーザビームの測定を行って、それらのレーザビームの強度を安定させるために、本明細書に記載されるように使用されてもよい。
【0019】
図2Aは、ラマンビーム幾何学形状の一例を示すダイアグラム200を示す。ダイアグラム200には、個々のレーザビーム210(例えば、各原子イオンに1つ)と、原子イオン又はキュービットの線形アレイを有する線形結晶110のような線形結晶又はチェーンに向けられたグローバルレーザビーム220が存在する。本明細書に記載の測定技術は、少なくともそれぞれのイオンの観点から、個々のレーザビーム210のそれぞれの強度が安定するように、レーザビーム210の強度を制御するために使用され得る。同じ方向に伝搬又は進行するレーザビームは、共伝搬レーザビームと呼ばれることがあり、異なる方向又は反対方向に伝搬又は進行するレーザビームは、それぞれ非共伝搬又は逆伝搬レーザビームと呼ばれることがある。レーザビーム210(共伝搬する)は、それぞれの原子イオンに対して集束又は個別にアドレス指定されたレーザビームであり、グローバルレーザビーム220(図示のように、レーザビーム210に対して逆伝搬する)は、グローバルビームであり得る。これは、典型的には、全てのイオンをカバーする幅の広い楕円形のスポットに焦点を合わせている。本明細書で使用する場合、「レーザビーム」、「光学ビーム」、「ビーム」、「レーザ」、「光フィールド」、及び「フィールド」という用語は、互換的に使用されることがある。さらに、「原子」、「原子イオン」、及び「イオン」という用語も、互換的に使用されることがある。
【0020】
図2Bは、レーザビーム又はイオン位置の揺らぎがイオンでの強度揺らぎをもたらす例を説明するダイアグラム200bである。この例では、レーザビーム210(例えば、個々のアドレス指定レーザビーム)は、イオン106(実線)の場所又は位置で集束される。レーザビーム210の集光部分の直径230は、約1μm~1.5μmである.ダイアグラム200bの右側の強度プロファイル240は、イオン106が強度プロファイル240の最高点に整列していることを示す。
【0021】
イオン106の位置の変化又はレーザビーム210の位置の変化(破線)は、イオン106が強度プロファイル240と整列する場所を変え、その結果、イオン106によって見られるレーザビーム210の強度が低くなるであろう。
【0022】
本明細書に記載された技術は、レーザビーム210の強度を変更することによって、これらのタイプの揺らぎを補正するために使用され、ここで、イオン106が経時的に安定な又は一定なレーザビーム強度を見るために、強度は増加又は減少されてもよい。
【0023】
図3は、複数の測定のための連続的な積分で複数のコントローラレーザビームを高速安定化することを目的として、測定を実行するのに使用され得るトラップイオン量子コンピュータ又はQIPシステムの一部を示すダイアグラム300を示す。
図3のダイアグラム300に示すように、4つのイオン106a~106dが線形結晶110にトラップされて示されているが、線形結晶110は、より少ないか、又はより多くのイオンを有していてもよく、それぞれのレーザビーム強度を安定化するためのイオンのフルセット又は任意のサブセットを測定することが可能であり得る。また、ダイアグラム300には、マルチチャネルAOM330、波形発生器350a~350d、撮像システム360、安定化測定コントローラ370、及びマルチチャネルAOMコントローラ380が示されている。一実施例では、AOM330は、トランスデューサに印加されるそれぞれの個々のアドレス指定レーザビーム210a~210dの1つ以上の特性(例えば、強度)を調整するために、AOM330に音響波を局所的に印加するトランスデューサ312a~312d(例えば、圧電トランスデューサ)を並列配置で有するマルチチャネルブラッグセルであってもよい。これらのレーザビーム210a~210dは、イオン106a~106dの動作及び測定の側面を制御するので、コントローラレーザビーム又は単にコントローラビームとも呼ばれることがある。さらに、レーザビーム210a~210dは、線形結晶110内のイオン106a~106dの線形配置に一致するように用いられる線形配置であるため、レーザビームの線形アレイと呼ばれることもある。AOM330は、イオン106a~106d及びそれぞれのレーザビーム210a~210dのそれぞれと共に使用するための異なるチャネル(例えば、別個のトランスデューサ)を含んでもよい。この例では、4つのチャネルがトランスデューサ312a~312dを有することが示されており、これらは、それぞれの波形発生器350a~350dによって制御され得る。波形発生器350a~350dは、任意波形発生器(AWG)及び/又はダイレクトデジタルシンセサイザー(DDS)、又は他のタイプの信号発生デバイスであってよい。
【0024】
操作中、いくつかの実施態様では、グローバルレーザビーム220は、第一の方向からイオン106a~106dに提供されてもよい。レーザビーム210a~210dは、第二の方向からイオン106a~106dの一部又は全部を別々に又は個別に照明するように提供されてもよい。量子操作の間、例えば、照明されるイオンは、量子操作又はアルゴリズムの一部であるシーケンスの現在のステージで実装されている量子ゲートに依存する。較正又は安定化の間、照射されるイオンは、較正又は安定化のために、どのレーザビーム強度が測定されているかに依存する。ダイアグラム300に示す例では、レーザビーム210aは、イオン106aに照射又は集光されてもよく、レーザビーム210bは、イオン106bに照射又は集光されてもよく、レーザビーム210cは、イオン106cに照射又は集光されてもよく、レーザビーム210dは、イオン106dに照射又は集光されてもよい。いくつかの例では、線形結晶110内のいくつかのイオンは、いずれのレーザビームによっても照明されず、レーザビーム強度安定化測定は、照射されるこれらのイオンのみを用いて並列で実行されてもよい。他の実施態様では、線形結晶110内の全てのイオンを照射して、それら全てのイオンに対してレーザビーム強度安定化測定を並列で行うことが有利であり得る。
【0025】
図2Aのダイアグラム200a及び
図3のダイアグラム300は、一方向にグローバルレーザビーム220を使用し、別の方向に個々のアドレス指定レーザビーム210のセットを使用するが、代わりに、2セット、つまり、一方向に1セット、別の方向に1セット(例えば、トラップの異なる角度又は反対側で)の個々のアドレス指定レーザビームを使用できることも理解されよう。
【0026】
引き続き、
図3を参照すると、特定の実施態様では、レーザビーム210a~210dのそれぞれの特定の特性は、AOM330によって個別に変調され得る。例えば、波形発生器350aは、AOM330のチャネルの1つにおけるトランスデューサ312aに音響波を発生させて、トランスデューサ312aに入射するレーザビーム210aの特性(例えば、周波数、振幅、及び/又は位相)を制御するRF信号の発生及び/又は制御を行ってもよい。レーザビーム210aの周波数を制御することによって、その周波数とグローバルレーザビーム220の周波数との差を利用して、今度はイオン106aの状態を制御するビートノートを生成してもよい。波形発生器350aは、RF信号を動的に変化させて、レーザビーム312aの特性を経時的に変化させてもよい。例えば、RF信号の振幅は、イオン106aに印加されるレーザビーム210aの強度及び/又はパワーを制御するために使用されてもよく、波形発生器350aは、実行されている計算又は実験の種類に基づいて強度を変えるためにRF信号の振幅を動的に調整又は変化させることができてもよい。また、この機能は、レーザビーム210aの強度を安定化させるために使用されてもよい。
【0027】
上述と同様のアプローチは、波形発生器350b~350d、トランスデューサ312b~312d、及びレーザビーム210b~210dに関しても、実施されてもよい。換言すれば、AOM330内のそれぞれのチャネル(例えば、それぞれのトランスデューサ)に印加されるRF信号の振幅を制御することによって、レーザビーム210b~210dのそれぞれの強度を個別にかつ動的に制御してもよい。
【0028】
また、
図3のダイアグラム300には、レーザビーム210a~210dの線形アレイとイオン106a~106dのそれぞれの線形アレイとの間の相互作用の効果を撮像して、分析するように構成された撮像システム360が示されている。撮像システム360は、レーザビーム210a~210dの高速安定化のために行われる測定の一部として使用されてもよい。例えば、撮像システム360は、イオン106a~106dのそれぞれの輝度(又はその欠如)を検出し、例えば、暗状態のイオンには「0」の値を、明状態のイオンには「1」の値を割り当てるために使用されてもよい。
【0029】
また、
図3のダイアグラム300は、安定化測定コントローラ370も示し、これは、レーザビーム強度を経時的にできるだけ頻繁に安定させるために、実験サイクルの終了時に(例えば、数ミリ秒ごとに)、それぞれのレーザビームに対する個々のイオンの応答を測定するために使用される高速実験を制御するように構成され得る。安定化測定コントローラ370は、測定のスケジューリング(例えば、いつ、どのくらいの時間、測定を行うか)、行うべき測定(例えば、どのイオンについて、いくつの測定を行うか、及び測定を行うためにイオンをどのように準備するか)、及び測定の処理(例えば、レーザビームの強度に対する調整が必要かどうかを決定する)の1つ以上を制御するように構成され得る。安定化測定コントローラ370は、また、波形発生器350a~350dによって生成されているRF信号の調整を必要に応じて制御するために、マルチチャネルAOMコントローラ380に命令を生成するように構成されてもよく、これらの信号は、次いで、AOM330内のチャネルに印加されてレーザビーム210a~210dの強度を修正する。一例では、安定化測定コントローラ370は、イオン106a~106dにおけるレーザビーム強度の任意の揺らぎのより正確な表現を得るために、測定結果を経時的に積分(例えば、連続的に積分)するように構成された積分フィルタ375を含んでもよい。積分フィルタ375は、特定のイオンについてのあまりにも多くの測定が所望のレーザビーム強度よりも低いことを示すとき、安定化測定コントローラ370が、それぞれの波形発生器のRF信号の振幅を調整することによって、それぞれのレーザビームの強度を増加させるようにマルチチャネルAOMコントローラ380に指示を提供するように、閾値を設定するのに有効に使用することができる。同様に、特定のイオンについてのあまりにも多くの測定が所望のレーザビーム強度よりも高いことを示すとき、安定化測定コントローラ370は、AOM330のそれぞれのチャネルに印加されるRF信号の振幅を調整することによって、それぞれのレーザビームの強度を減少させるようにマルチチャネルAOMコントローラ380に指示を提供する。
【0030】
いくつかの実施態様では、安定化測定コントローラ370及び/又は積分フィルタ375の機能の一部又は全部は、マルチチャネルAOMコントローラ380、撮像システム360のパーツとして、又は撮像システム360の一部及びマルチチャネルAOMコントローラ380の一部として実装されてもよい。
【0031】
図3のダイアグラム300に示すトラップイオン量子コンピュータ又はQIPシステムは、量子計算及び実験を行うだけでなく、複数のコントローラレーザビーム(例えば、レーザビーム210a~210d)を高速安定化させるための実験又は測定も連続積分で行うのにも、十分に柔軟である。すなわち、このシステムは、1つ以上の連続する実験サイクルの終了時に、レーザビーム210a~210bの線形アレイに対するイオン106a~106dの線形アレイの応答を測定する高速実験を行うことができ、その測定結果は、AOM330を駆動するRF信号の振幅を調整することによって、レーザビーム強度を増減するために使用される。システムは、各イオンの応答を別々に検出することができ、各イオンに対応するレーザビームを駆動するAOM330に別々のチャネルがあるので、レーザビーム強度の全てを並列で測定することができ、及び/又は調整することができる。
【0032】
提案された一つのアプローチは、測定されるそれぞれについて(例えば、各イオンについて)、以下のように進行することができる。最初に、測定されるべきチェーンの各イオンは、量子状態│0>に準備される。次いで、│0>と│1>の量子状態の間でラビフロップするように周波数を設定し、測定する各イオンのそれぞれのレーザビームを一定時間tだけ点灯させる。レーザビームのそれぞれのオンとなる期間tは、レーザビームのパワー又は強度が適切であれば、それぞれのイオンが│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせに駆動されるように設定されている。次に、各イオンの状態が「0」又は「1」として測定される。ここで、「1」はイオンの明状態を示し、「0」はイオンの暗状態を示す。このアプローチの詳細については、以下でさらに詳しく説明する。
【0033】
ラビフロップ又はラビサイクルは、振動場の存在下での2準位量子系の周期的な挙動である。例えば、原子又はイオンは、レーザビームによって照射されると、レーザビームから周期的に光子を吸収し、ある準位に移動した後、光子を再放出し、別の準位に戻るということがある。この挙動はラビ振動と呼ばれるものに反映され、第一の量子状態(例えば、量子状態│0>)にある2準位量子システムが第二の量子状態(例えば、量子状態│1>)に至る確率を表している。ラビ周期の持続時間とその逆数は、レーザビームのラビ周波数と呼ばれる。
【0034】
図4は、ラビフロッピングの一例によるダイアグラム400を示し、このダイアグラムは、レーザビームの強度と時間tに比例するパルス面積(横軸)に応じたイオン輝度(縦軸)を示している。ダイアグラム400は、レーザビーム(例えば、レーザビーム210a~210dのいずれか)の強度の走査として示している。パルス面積、すなわち、ダイアグラム400の横軸は、強度(I)及びレーザビームが印加される一定時間tに比例するパラメータである。イオン輝度、すなわち、ダイアグラム400の縦軸は、例えば、撮像システム360によって検出され得、sin(k・I・t)に相当する振動的又は正弦波的挙動である。ここで、kは比例係数で、I及びtは上述した通りである。
【0035】
上述したように、行われる測定のそれぞれについて提案されたアプローチは、初期量子状態、例えば、量子状態│0>でイオンを準備し、量子状態│0>と│1>との間のラビフロップを駆動するレーザビームを印加する時間量tを設定することを含んでいる。強度が適切に選択され、それぞれのイオンが│0>量子状態と│1>量子状態との等しい重ね合わせに駆動される場合、動作点(黒い点で示す)は、イオン輝度の50%レベル(又は垂直スケールでは0.5)になる。なぜなら、その強度でそのイオンについて暗状態(「0」)と同じ数の明状態(「1」)の測定が存在することになるからである。測定が、暗状態(例えば、撮像システム360によってイオンについて検出された「0」)よりも明状態(例えば、撮像システム360によってイオンについて検出された「1」)が多いことを示し始めると、動作点(黒い点)は、曲線(白い点)の上に移動して、より高いイオン輝度を有するようになる。この場合、較正又は安定化操作は、レーザビームの強度を変更するAOM330内のチャネルを制御するRF信号の振幅を減少させることを必要とする場合がある。測定が、明状態(例えば、撮像システム360によってイオンについて検出された「1」)よりも暗状態(例えば、撮像システム360によってイオンについて検出された「0」)が多いことを示し始めると、動作点(黒い点)は、曲線(白い点)の下に移動して、より低いイオン輝度を有するようになる。この場合、較正又は安定化操作は、レーザビームの強度を変更するAOM330内のチャネルを制御するRF信号の振幅を増加させることを必要とする場合がある。
【0036】
ダイアグラム400に示す例では、各レーザビームがオンにされる持続時間は、レーザビームの強度が正しく、黒い点がイオン輝度範囲(0.0~1.0)の中央にあることによって示されるように、イオンが時間の明状態(例えば、│1>量子状態)50%で測定されるように設定される。この特定の場合、時間tは、9π/2のパルスを駆動するように設定されているが(例えば、パルス面積はk・I・t)、π/2の奇数倍でも動作する。π/2の奇数倍でなくても、パルスを駆動するように時間tを設定することは可能であるが、π/2の奇数倍を使用すると、強度揺らぎに対する感度が最大になり得る。強度が増加又は減少した場合、パルス面積も同じように変化し、黒い点はラビフロップを表す正弦曲線を上下に移動する可能性がある。つまり、イオンがその時間の明状態50%で測定された場合から離れる。小さな強度揺らぎ(例えば、黒い点についての小さな変化)については、この応答は、ほぼ線形である。提案するアプローチが提供する柔軟性のもう一つの側面は、パルスのπ/2の大きな奇数倍がπ/2の小さな奇数倍よりも強度揺らぎに対して敏感なことである。これにより、レーザビームの強度を調整する際に、最適なパルスを選択して使用することができる。
【0037】
特定のイオンで行われた測定のそれぞれが「0」又は「1」のいずれかを返すので、これらの測定には、大きなショットノイズが含まれする可能性がある。したがって、これらの測定を1つ(又は複数)の積分フィルタに通して、いくつかの個別の測定を積分し、強度揺らぎをよりよく特定できるようにすることが有用である。連続的な積分によってショットノイズの低減を達成するための一実施態様は、以下の通りであり得る。
【0038】
図3のダイアグラム300に関連して上述したように、レーザビーム(例えば、レーザビーム210a~210d)の強度は、AOM330内のそれぞれのチャネル/トランスデューサを介してレーザビームのそれぞれを変調するRF信号の振幅を制御することによって制御されてもよい。マルチチャネルAOMコントローラ380、又は安定化測定コントローラ370とマルチチャネルAOMコントローラ380との組み合わせは、波形発生器350a~350dによって生成されるRF信号の振幅を制御するための命令を提供するために使用されてもよい。
【0039】
一実施態様では、各RF信号の振幅は、16ビットの数(又はあるMビットの数)により物理的に決定されてもよい。このデジタル数は、RF信号の適切な振幅、したがって、適切なレーザビーム強度を生成するために波形発生器350a~350dに提供される物理数又は物理ビットと呼ばれることがある。一例では、マルチチャネルAOMコントローラ380は、波形発生器350a~350dのそれぞれに、そのそれぞれの物理数(例えば、16ビットの数)、すなわち、波形発生器350a~350dのそれぞれによって生成されるべきRF信号の振幅を代表するデジタル数を提供してもよい。異なるRF信号の振幅のためのデジタル数は、安定化測定コントローラ370によってマルチチャネルAOMコントローラ380に提供されてもよい。しかしながら、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又は特定用途向け集積回路(ASIC)によって実装され得る安定化測定コントローラ370の内部では、各RF信号、したがって各イオンiに対する振幅は、代わりに、32ビットの数(又はある2Mビットの数)、A
iに基づいて決定することが可能である。一般に、A
iは、2Mビットの数に限定される必要はなく、任意の(M+N)ビットの数(MとNはともに整数)であってもよい。A
iの16個の最下位ビット(LSB)は、出力のために切り捨てられるので、それぞれのRF信号の振幅に影響を与えない(すなわち、A
iの16個のMSBは物理ビットで、A
iの16個のLSBは非物理ビットである)。安定化測定コントローラ370は、各イオンiに対して、第二のデジタル数B
iを決定する。これは、測定値のフィードバックループの利得であり、16ビット以下である。第二のデジタル数B
iは、ある意味で、積分フィルタ375によって実行される積分フィルタリングの結果を表しており、複数の測定がそれぞれのRF信号の振幅を増加又は減少させる必要があるかどうかを決定するために行われる。一例では、A
iは、32ビットの数の形態のイオンiに対する振幅であり、これは、ベース振幅A
0と、1未満であるフィードバック利得の比例係数K(例えば、1未満の積分ゲイン)とに基づくことができる。本明細書で説明する例では、第二のデジタル数B
iが16ビットであるとき、比例係数は、1/16に等しくなり得る。積分演算は、第二のデジタル数B
iを提供する。この形式では、S(t)は一連の「1」と「0」によって決まり、例えば、時間tの測定値が「1」であれば、S(t)=1であり、時間tの測定値が「0」であれば、S(t)=-1である。比例係数は、安定化システムの調整可能なパラメータであり、B
iの値によって調整可能なものである。積分される数値は「1」と「0」であるから、積分は、単に積分される数値の和である。全体として、積分期間中に「1」の数が「0」の数より16サンプル以上多い場合、振幅A
iを一方向に調整し、
図4のラビフロッピング図に示すように、強度を曲線の下に導き、黒い点に戻す。また、積分期間中に「0」の数が「1」の数より16サンプル以上多い場合、振幅A
iを逆方向に調整し、
図4のラビフロッピング図に示すように、強度を曲線の上に導き、黒い点に戻す。
【0040】
換言すれば、イオンiに関する各測定後、測定値が「0」(例えば、暗状態の測定)であれば、イオンiに関するデジタル数Aiの値をAi+Biの値に置き換え、測定値が「1」(例えば、明状態の測定)、イオンiのデジタル数Aiの値をAi-Biの値に置き換える。これは、各イオンiで使用されるレーザビームの強度を制御するために使用されるRF信号の振幅を調整するために行われる。Biは、Aiの16個のLSBに追加されるので、Biにおける単一の測定は、Aiの上位16個のMSBに影響を与えない。すなわち、これは、Aiの非物理ビットにのみ影響するので、物理振幅に対して影響しない。イオンが「0」と「1」の等しい重ね合わせの状態にある場合、統計的に「0」の測定と「1」の測定が同数存在し、物理振幅は(Biが十分に小さい場合)ほぼ一定に保たれる。すなわち、「0」の測定値と「1」の測定値が同数の場合、例えば、積分フィルタ375で処理される測定値は、0又はそれに近い値に積分される。しかしながら、イオンの重ね合わせがアンバランスである場合(例えば、「0」の測定と「1」の測定が同数でない場合)、積分フィルタ375は、最終的に、それぞれのレーザビームのパワー又は強度を安定させるような方向に、Aiの物理ビットを押し出す。この場合、「0」より「1」が有意に多いとき、又は「1」より「0」が有意に多いとき、Biの値は、Aiの値をAi+Biの値又はAi-Biの値で置き換えるときよりも、十分に大きくなることがある。これは、Aiの物理ビット、したがって、それぞれのRF信号の物理振幅に影響を与える。
【0041】
以上のように、この処理は、全てのレーザビームに対して並列で行うことができる。さらに、測定を並列で行うことができるため、これらの測定とそのフィードバック安定化メカニズムには1ミリ秒未満(<1ms)しか要せず、したがって、実験サイクル間でインターリーブし、数ミリ秒ごとに実行することができる。これにより、現在実現可能なものよりも、遅いドリフトと速いタイムスケールの揺らぎの両方をキャンセルできる比較的高速なフィードバックループが提供される。さらに、本明細書に記載されたフィードバック安定化機構は、積分フィルタに関連して説明されてきたが、フィードバック安定化機構はそれほど限定されず、積分フィルタが特定の実装である、より複雑なフィルタ機能により一般的に適用できることが理解されよう。
【0042】
図5Aは、本開示の態様に従ったQIPシステム500の一例を示すブロック図である。QIPシステム500は、量子コンピューティングシステム、コンピュータ装置、トラップイオンシステム、トラップイオン量子コンピュータなどとも呼ばれることがある。一態様において、QIPシステム500は、量子計算及び量子実験を実行するように構成されてもよい。さらに、QIPシステム500は、各個別のイオンに関連するレーザビーム強度を経時的にできるだけ頻繁に安定させるために、実験サイクルの終了時に(例えば、数ミリ秒ごとに)、それぞれのレーザビームに対する個別イオンの応答を測定する高速実験を実行するように構成されていてもよい。この安定化手順は、複数のレーザビーム及びそれらに関連するイオンに対して、並行して実行されてもよい。
【0043】
QIPシステム500は、原子種(例えば、中性原子のフラックス)を、イオントラップ570を有するチャンバ550に提供するソース560を含むことができ、イオントラップ570は、光学コントローラ520(例えば、
図5B参照)によって一旦イオン化(例えば、光電離)した原子種をトラップする。イオントラップ570は、
図1及び
図3のダイアグラム100及び300にそれぞれ関連して上述した線形結晶110のような線形アレイにイオンをトラップするために使用されてもよい。光学コントローラ520内の光源530は、1つ以上のレーザ源(例えば、光学ビーム又はレーザビームの源)を含んでもよく、レーザ源は、原子種のイオン化、原子イオンの制御のために、光学コントローラ520内の撮像システム540で動作する画像処理アルゴリズムによって監視して、追跡することができる原子イオンの蛍光のために、及び/又はレーザビーム強度安定化に関連して本開示で説明した光学制御機能を行うために使用できる。光源530は、例えば、
図3のダイアグラム300に関連して上述したレーザビーム210a~201dなどのレーザビームの線形アレイを制御及び生成するように構成されてもよい。一態様では、光源530は、光学コントローラ520とは別個に実装されてもよい。
【0044】
撮像システム540は、イオントラップに提供されている間、又はイオントラップ570に提供された後に、原子イオンを監視するための高分解能撮像装置(例えば、CCDカメラ)を含んでもよい。一態様では、撮像システム540は、光学コントローラ520とは別個に実装することができるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出し、識別し、ラベル付けするための蛍光の使用は、光学コントローラ520と調整する必要がある場合もある。撮像システム540は、
図3のダイアグラム300に関連して上述した撮像システム360の例であり得る。したがって、撮像システム540は、光源530によって生成されたレーザビームの線形アレイと、イオントラップ570にトラップされたイオンのそれぞれの線形アレイとの間の相互作用の影響を撮像して、分析するように構成され得る。
【0045】
QIPシステム500は、またアルゴリズムコンポーネント510も含むことができ、アルゴリズムコンポーネント510は、QIPシステム500の他の部分(図示せず)とともに操作して、単一量子ビット演算又はマルチ量子ビット演算(例えば、2量子ビット演算)のスタック又は組み合わせのシーケンス、及び拡張量子計算を含む量子アルゴリズム又は量子演算を実行することができる。そのように、アルゴリズムコンポーネント510は、量子アルゴリズム又は量子演算の実装を有効にするために、QIPシステム500の様々なコンポーネント(例えば、光学コントローラ520)に命令を提供することができる。
【0046】
図5Bは、光学コントローラ520の少なくとも一部を示す。この例では、光学コントローラ520は、光源530及び撮像システム540を含んでもよい。点線で示すように、光源530及び撮像システム540の一方又は両方は、任意選択で、光学コントローラ520とは別個に実装され得るが、それと通信可能である。
【0047】
撮像システム540は、CCD541(又は同様のイメージャ又はカメラ)と、CCD541によって取り込まれた情報を処理するための画像処理アルゴリズムコンポーネント542とを含んでもよい。撮像システム540は、レーザビーム強度の高速較正又は高速安定化のために、本明細書に記載された測定の結果を検出するために使用されてもよい。光源530は、AWG(又はDDS)532a~532d及びレーザ534a~534dを含んでもよく、これらは、イオントラップ570内のイオンを制御するために使用されてもよい。AWG532a~532dは、
図3のダイアグラム300に関連して上述した波形発生器350a~350dの例であってもよく、レーザ534a~534dは、同じくダイアグラム300に示されるレーザビーム210a~210dの線形アレイを生成するために使用されてもよい。また、光源530は、グローバルラマンレーザビーム220放出し、制御するためのグローバル変調器535及びグローバルレーザ536を含んでもよい。
【0048】
光学コントローラ520は、マルチチャネルAOM538の動作を制御するように構成されたマルチチャネルAOMコントローラ537を含んでもよく、これらはそれぞれ、上述のマルチチャネルAOMコントローラ380及びマルチチャネルAOM330に対応する。マルチチャネルAOM538は、複数のチャネルを有する単一のAOMデバイス、単一のチャネルを有する複数のAOMデバイス、あるいは複数及び/又は単一のチャネルを有する複数のAOMデバイスを用いて実装されてもよい。
【0049】
光学コントローラ520は、上述した安定化測定コントローラ370に対応し得る安定化測定コントローラ539をさらに含んでもよい。安定化測定コントローラ539は、積分フィルタ(図示せず)を含んでもよい。積分フィルタ、又は積分器は、その出力信号がその入力信号の時間積分である装置又はコンポーネントである。すなわち、積分フィルタは、定義された時間にわたって入力量を蓄積し、代表的な出力を生成する。積分フィルタは、本明細書に記載されるレーザビーム強度安定化の一部として行われる複数の測定によって生じるショットノイズの影響をフィルタリングするために使用されてもよい。積分フィルタは、上述した積分フィルタ375の一例であってもよい。
【0050】
光学コントローラ520のコンポーネント又はサブコンポーネントのうちの1つ以上が、光学コントローラ520とは別に実装されてもよいことが理解されよう。さらに、光学コントローラ520のコンポーネント又はサブコンポーネントの1つ以上は、1つ以上の集積回路(例えば、FPGA、ASIC、中央処理装置、マイクロプロセッサ)の一部として実装されてもよい。一例では、マルチチャネルAOMコントローラ537及び安定化測定コントローラ539は、同じ集積回路上の単一のコンポーネントとして、又は異なる集積回路内の別々のコンポーネントとして実装されてもよい。同じ集積回路にある場合、マルチチャネルAOMコントローラ537及び安定化測定コントローラ539は、内部32ビットの数Aiを使用してもよく、Aiの16個のMSBは物理ビットで、Aiの16個のLSBは非物理ビットであり、Aiの16個のLSBは出力用に切り捨てられてもよい。
【0051】
図6を参照すると、これは、トラップイオンシステムにおけるレーザビームの強度安定化のための方法600である。一態様において、方法600の機能は、トラップイオンシステム又はQIPシステム500などのQIPシステム及びそのコンポーネント(例えば、光学コントローラ520及びそのコンポーネント又はサブコンポーネント)の1つ以上のコンポーネントによって実行されてもよい。
【0052】
610において、方法600は、トラップ(例えば、イオントラップ570)内のイオン(例えば、イオン106a~106d)の線形アレイ内のそれぞれのイオンにレーザビームの線形アレイ(例えば、レーザビーム210a~210d)を印加するステップを含む。
【0053】
620において、方法600は、レーザビームが印加されることに応答して、イオンに対して(例えば、撮像システム360によって)並列測定を行うステップを含み、並列測定は、各イオンでのそれぞれのレーザビームの強度揺らぎを特定するためにイオンのそれぞれに対する複数の別々の測定を含む。例えば、測定は、レーザビームの印加に続いて(例えば、直後に)実行されてもよい。
【0054】
630において、方法600は、並列測定から特定される揺らぎに応答して、(例えば、安定化測定コントローラ370、マルチチャネルAOMコントローラ380、及び/又は波形発生器350a~350dによって)レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するステップを含む。
【0055】
方法600は、一般に、パルスレーザビームを印加し、イオン状態を並列で測定し、測定値に基づいてレーザビーム出力を更新し得るシーケンスに相当する。このようなシーケンスは、複数回繰り返され得る。
【0056】
方法600の一態様では、特定のイオンでの複数の別々の測定のそれぞれは、それぞれのレーザビームに対するそのイオンの応答の測定である。
【0057】
方法600の一態様では、並列測定を行うステップは、それぞれのレーザビームの強度揺らぎを特定するために、イオンのそれぞれに対する複数の別々の測定の積分フィルタリング(例えば、積分フィルタ375による)を行うことを含む。
【0058】
方法600の一態様では、レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するステップは、マルチチャネルAOM(例えば、マルチチャネルAOM330)内のそれぞれのチャネルに印加されるRF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御することを含む。RF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御することは、それぞれのレーザビームの強度揺らぎの特定に応答して、RF信号の振幅を調整することを含む。
【0059】
方法600の別の態様では、特定のイオンに対する複数の別々の測定のそれぞれについて、方法600は、イオンを量子状態│0>で準備するステップであって、それぞれのレーザビームは、レーザビームの強度が正しく、│0>と│1>との量子状態の間でイオンのラビフロッピング(例えば、
図4を参照)を駆動する周波数である場合、│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせを生成する固定期間tの間、そのイオンに印加される、ステップと、それぞれのレーザビームの印加に対するイオンの応答を「1」又は「0」のいずれかとして、(例えば、撮像システム360によって)測定するステップとを含み、ここで「1」はイオンの明状態を示し、「0」はイオンの暗状態を示す。固定期間tは、π/2の奇数倍であるレーザビームパルスを駆動するように設定されてもよく、π/2の大きな奇数倍は、π/2の小さな奇数倍よりも、強度の揺らぎに敏感である。さらに、固定期間tは、9π/2のレーザビームパルスを駆動するように設定されてもよい。
【0060】
方法600の別の態様では、各レーザビームは、それぞれのイオンの位置で約1μm~1.5μmの直径を有し、イオンの線形アレイのイオンは、約5μmの距離で互いに分離されている。
【0061】
方法600の別の態様では、方法600は、トラップイオンシステム(例えば、QIPシステム500)の実験サイクルの終了時に実行されてもよく、またトラップイオンシステムの連続した実験サイクルの間に実行されてもよい。全体として、方法600は、1ミリ秒未満で実行されてもよく、これは、並列で実行されない既存の方法よりも実質的に高速である。
【0062】
方法600の一態様では、RF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御するステップは、それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、RF信号の振幅に対応する第一のデジタル数Aを、複数の別々の測定のフィードバックループの利得に対応する第二のデジタル数Bに基づいて、調整するステップを含む。第一のデジタル数Aの最上位ビット(MSB)は、それぞれのRF信号の振幅の物理的な値を代表するビットである。
【0063】
方法600の別の態様では、測定のそれぞれは、最初に、量子状態│0>で測定されるチェーンの各イオンを準備するステップを含んでもよい。次に、測定される各イオンのそれぞれのレーザビームは、│0>と│1>との量子状態間のラビフロッピングを駆動するように設定された周波数で、固定期間長tだけオンとされる。レーザビームのそれぞれのオンとなる期間tは、レーザビームのパワー又は強度が適切であれば、それぞれのイオンが│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせに駆動されるように設定されている。次いで、各イオンの状態が「0」又は「1」として測定される。ここで、「1」はイオンの明状態を示し、「0」はイオンの暗状態を示す。
【0064】
一般に、上述の
図1~
図6に関連して本明細書に記載された技術は、トラップイオンシステムにおいてレーザビームの強度を安定化させるためのシステムを用いて実施され得る。このシステムは、レーザビームの線形アレイをトラップ内のイオンのそれぞれのイオンに印加するように構成されたレーザ源と、レーザビームが印加されている間に、イオンに対する並列測定を行うように構成された撮像システムであって、並列測定が、各イオンでのそれぞれのレーザビームの強度における揺らぎを特定するためにイオンのそれぞれに対する複数の別々の測定を含む、撮像システムと、並列測定から特定される揺らぎに応答してレーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するように構成された光学コントローラと、を含んでもよい。
【0065】
図1~
図6に関連して説明したシステムの別の態様では、特定のイオンに対する複数の別々の測定のそれぞれは、それぞれのレーザビームに対するそのイオンの応答の測定である。特定のイオンに対する複数の別々の測定のそれぞれについて、光学コントローラは、イオンを量子状態│0>で準備するように構成され、それぞれのレーザビームは、レーザビームの強度が正しく、│0>と│1>との量子状態の間でイオンのラビフロッピングを駆動する周波数である場合、│0>と│1>との量子状態の等しい重ね合わせを生成する固定期間tの間、そのイオンに印加され、撮像システムは、それぞれのレーザビームの印加に対するイオンの応答を「1」又は「0」のいずれかとして、測定するように構成され、ここで、「1」はイオンの明状態を示し、「0」はイオンの暗状態を示す。固定期間tは、π/2の奇数倍であるレーザビームパルスを駆動するように設定されてもよく、π/2の大きな奇数倍は、π/2の小さな奇数倍よりも、強度の揺らぎに敏感である。固定期間tは、9π/2のレーザビームパルスを駆動するように設定されてもよい。
【0066】
図1~
図6に関連して説明したシステムの別の態様では、光学コントローラは、それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎを特定するために、イオンのそれぞれに関する複数の別々の測定の積分フィルタリングを行うようにさらに構成される。レーザビームのうちの1つ以上の強度を調整するように構成された光学コントローラは、マルチチャネルAOM内のそれぞれのチャネルに印加されるRF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御するようにさらに構成される。RF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御するように構成された光学コントローラは、それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、RF信号の振幅を調整するようにさらに構成される。RF信号を用いてレーザビームのそれぞれを制御するように構成された光学コントローラは、それぞれのレーザビームにおける強度の揺らぎの特定に応答して、RF信号の振幅に対応する第一のデジタル数Aを、複数の別々の測定値のフィードバックループの利得に対応する第二のデジタル数Bで、調整するようにさらに構成される。第一のデジタル数AのMSBは、それぞれのRF信号の振幅の物理的な値を代表するビットである。
【0067】
図1~
図6に関連して説明したシステムの別の態様では、それぞれのレーザビームは、それぞれのイオンの位置で約1μm~1.5μmの直径を有し、イオンの線形アレイのイオンは、約5μmの距離で互いに分離されている。
【0068】
図1~
図6に関連して説明したシステムの別の態様では、撮像システムは、トラップイオンシステムでの実験サイクルの終了時に並列測定を実行するように構成される。撮像システムは、トラップイオンシステムでの実験サイクルの間に並列測定を実行するように構成される。撮像システムは、1ミリ秒未満で並列測定を実行するように構成される。
【0069】
本開示の以上の説明は、当業者が本開示を実行又は使用することができるように提供される。本開示の様々な修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義された共通の原理は、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく他の変形例に適用することができる。さらに、記載された態様の要素は単数形で記載又は請求されていることもあるが、単数形への限定が明示されない限り、複数形も企図される。さらに、任意の側面の全部又は一部は、特記されていない限り、他の側面の全部又は一部と共に利用され得る。したがって、本開示は、本明細書に記載された例および設計に限定されるものではなく、本明細書に開示された原理および新規な特徴と一致する最も広い範囲を与えるものである。