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特許7712558ラミネート型電池、及びラミネート型電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-15
(45)【発行日】2025-07-24
(54)【発明の名称】ラミネート型電池、及びラミネート型電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/105 20210101AFI20250716BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20250716BHJP
   H01M 50/169 20210101ALI20250716BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20250716BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/133
H01M50/169
H01M10/0562
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022190795
(22)【出願日】2022-11-29
(65)【公開番号】P2024078316
(43)【公開日】2024-06-10
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿下 健一
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-210707(JP,A)
【文献】特開2007-273606(JP,A)
【文献】特開2001-325925(JP,A)
【文献】国際公開第2001/056093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/171
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層を備える電極体と、
前記電極体を覆う一枚のラミネートシートと、を有し、
前記電極体を覆う前記一枚のラミネートシートの一端側と他端側とが融着された融着部を有し、
前記融着部は、前記電極体側に近い領域の厚みが前記電極体側より遠い領域の厚みより薄い段差部を有し、
前記電極体の外周長Lと、前記電極体を覆う前記ラミネートシートの内周長LS1との比率(LS1/L)が、1.00以上1.05以下である、ラミネート型電池。
【請求項2】
前記比率(LS1/L)が1.00である、請求項1に記載のラミネート型電池。
【請求項3】
前記段差部において、前記電極体側に近い領域におけるもっとも厚い箇所での厚みt1と、前記電極体側より遠い領域におけるもっとも薄い箇所での厚みt2との差(t1-t2)が10μm以上150μm以下である、請求項1又は請求項2に記載のラミネート型電池。
【請求項4】
固体電解質層を備える電極体と、
前記電極体を覆う一枚のラミネートシートと、を有し、
前記電極体を覆う前記一枚のラミネートシートの一端側と他端側とが融着された融着部を有するラミネート型電池の製造方法であって、
前記融着部は、位置をずらして行われる2回以上の融着工程により形成され、
1回目の融着工程では、2回目の融着工程で融着する領域よりも前記電極体側から遠い領域を融着し、
2回目の融着工程では、前記1回目の融着工程で融着する領域よりも前記電極体側に近い領域を融着し、前記1回目の融着工程での融着後且つ前記2回目の融着工程での融着前の前記ラミネートシートの内周長LS0から、前記1回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部から前記2回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部までの長さLの2倍の値を引いた長さと、前記電極体の外周長Lとの比率((LS0-2×L)/L)が、1.00以上1.05以下となるよう、前記2回目の融着工程での融着を行う、ラミネート型電池の製造方法。
【請求項5】
前記2回目の融着工程を経た後の前記融着部が、前記電極体側に近い領域の厚みが前記電極体側より遠い領域の厚みより薄い段差部を有し、
前記段差部において、前記電極体側に近い領域におけるもっとも厚い箇所での厚みt1と、前記電極体側より遠い領域におけるもっとも薄い箇所での厚みt2との差(t1-t2)が10μm以上150μm以下である、請求項4に記載のラミネート型電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラミネート型電池、及びラミネート型電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池は、通常、正極集電体、正極活物質層、電解質層、負極活物質層および負極集電体を有する電極体を備える。電極体は、例えば、外装材に囲まれた内部空間に封止される。特許文献1には、電極組立体と、電極組立体の外部を囲む外装材と、上記外装材を密封する第1および第2カバーとを含み、第1電極端子および第2電極端子が、それぞれ第1カバーおよび第2カバーを介して外部に引き出されたリチウムポリマー二次電池が開示されている。また、特許文献1には、外装材として、ラミネートフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-108623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から、電極をラミネートシートによってラミネートするラミネート装置では、様々なサイズの電極、つまりサイズにばらつきがある電極をラミネートすることが行われている。しかし、サイズが小さい電極をラミネートする際にラミネートシートと電極とを精度良く密着させることができず、ラミネートシートに余剰部分(つまりたるみ)が生じて、その余剰部分にシワが発生することがあった。ラミネートシートのシワが発生した部分では、傷や破れが生じることがあり、構造耐久性が低下しやすい。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ラミネートシートにおけるシワの発生が抑制されたラミネート型電池、および該ラミネート型電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>
電極体と、
前記電極体を覆うラミネートシートと、を有し、
前記電極体を覆う前記ラミネートシートの一端側と他端側とが融着された融着部を有し、
前記融着部は、前記電極体側に近い領域の厚みが前記電極体側より遠い領域の厚みより薄い段差部を有し、
前記電極体の外周長Lと、前記電極体を覆う前記ラミネートシートの内周長LS1との比率(LS1/L)が、1.00以上1.05以下である、ラミネート型電池。
<2>
前記比率(LS1/L)が1.00である、<1>に記載のラミネート型電池。
<3>
前記段差部において、前記電極体側に近い領域におけるもっとも厚い箇所での厚みt1と、前記電極体側より遠い領域におけるもっとも薄い箇所での厚みt2との差(t1-t2)が10μm以上150μm以下である、<1>又は<2>に記載のラミネート型電池。
<4>
電極体と、
前記電極体を覆うラミネートシートと、を有し、
前記電極体を覆う前記ラミネートシートの一端側と他端側とが融着された融着部を有するラミネート型電池の製造方法であって、
前記融着部は、位置をずらして行われる2回以上の融着工程により形成され、
1回目の融着工程では、2回目の融着工程で融着する領域よりも前記電極体側から遠い領域を融着し、
2回目の融着工程では、前記1回目の融着工程で融着する領域よりも前記電極体側に近い領域を融着し、前記1回目の融着工程での融着後且つ前記2回目の融着工程での融着前の前記ラミネートシートの内周長LS0から、前記1回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部から前記2回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部までの長さLの2倍の値を引いた長さと、前記電極体の外周長Lとの比率((LS0-2×L)/L)が、1.00以上1.05以下となるよう、前記2回目の融着工程での融着を行う、ラミネート型電池の製造方法。
<5>
前記2回目の融着工程を経た後の前記融着部が、前記電極体側に近い領域の厚みが前記電極体側より遠い領域の厚みより薄い段差部を有し、
前記段差部において、前記電極体側に近い領域におけるもっとも厚い箇所での厚みt1と、前記電極体側より遠い領域におけるもっとも薄い箇所での厚みt2との差(t1-t2)が10μm以上150μm以下である、<4>に記載のラミネート型電池の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ラミネートシートにおけるシワの発生が抑制されたラミネート型電池、および該ラミネート型電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
図2】本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
図3】本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
図4】本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
図5】本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
図6】本開示の実施形態に係るラミネート型電池が製造される際の融着部を拡大して示す概略断面図であり、(A)は1回目の融着工程が行われる前の融着部を示す拡大断面図、(B)は1回目の融着工程が行われ且つ2回目の融着工程が行われる前の融着部を示す拡大断面図、(C)は2回目の融着工程が行われた後の融着部を示す拡大断面図である。
図7】固体電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示におけるラミネート型電池及びその製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0010】
<ラミネート型電池の製造方法>
まず、本開示に係るラミネート型電池の製造方法について図面を用いて説明する。
図1図5は、本開示の実施形態に係るラミネート型電池の製造方法の各工程を示す概略断面図である。
【0011】
・準備工程
まず、図1に示すように、1枚のラミネートシート2を折り畳むようにして電極体4を覆い、さらにラミネートシート2の一端側と他端側とを重ね合わせる。その後、下記に示す1回目の融着工程及び2回目の融着工程により、位置をずらして2回の融着を行うことで、図5に示すように、ラミネートシート2の一端側と他端側とが融着された融着部20を形成する。
【0012】
・1回目の融着工程
1回目の融着工程では、ラミネートシート2の一端側と他端側とが重ね合わされた領域のうち、2回目の融着工程で融着される領域よりも電極体4側から遠い領域を融着する。つまり、図1に示すように、1回目の融着領域の片側に接するように融着部材6Bを配置し、その逆側から融着部材6Aを矢印A方向に移動させることで、図2に示すように1回目の融着領域を融着部材6A及び6Bにより挟み込む。その後、融着部材6A及び6Bによってラミネートシート2に対し加熱及び加圧を施すことで、1回目の融着領域を融着する。
【0013】
こうして、1回目の融着工程により、2回目の融着工程で融着される領域よりも電極体4側から遠い領域のみを先に融着することで、最終的にラミネートシート2の一端側と他端側とが融着された融着部20となる領域のうち、先端側の領域を固定する。
【0014】
・2回目の融着工程
次いで、2回目の融着工程では、図3に示すように、1回目の融着工程で融着された領域よりも電極体4側に近い領域を融着する。図3に示すように、2回目の融着領域の片側に融着部材6Dを当て、その逆側から融着部材6Cを矢印B方向に移動させることで、図4に示すように、2回目の融着領域を融着部材6C及び6Dにより挟み込む。その後、融着部材6C及び6Dによってラミネートシート2に対し加熱及び加圧を施すことで、2回目の融着領域を融着する。
【0015】
なお2回目の融着工程では、1回目の融着工程での融着後且つ2回目の融着工程での融着前のラミネートシート2の内周長LS0から、1回目の融着工程で融着される領域の電極体4側の端部から2回目の融着工程で融着される領域の電極体4側の端部までの長さLの2倍の値を引いた長さと、電極体4の外周長Lとの比率((LS0-2×L)/L)が、1.00以上1.05以下となるよう、融着を行う。
ここで、1回目の融着工程での融着後且つ2回目の融着工程での融着前のラミネートシートの内周長LS0とは、ラミネートシートの電極体側の面において1回目の融着工程で融着された領域を除く部分の最短距離の長さ(一枚のラミネートシートを電極体に捲き回す方向における長さ)を指す。また、1回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部から2回目の融着工程で融着される領域の電極体側の端部までの長さLとは、最終的に融着部となる領域のうち1回目の融着工程で融着されていない領域の長さ(電極体から融着部が延びる方向の長さ)を指す。また、電極体の外周長Lとは、一枚のラミネートシートを捲き回す方向における4つの面の最短距離の合計長さを指す。
【0016】
2回目の融着工程において、ラミネートシート2における2回目の融着領域を融着部材6C及び6Dにより挟み込む前までは、図3に示すように、電極体4とラミネートシート2との間に隙間8が存在する。しかし、1回目の融着工程により最終的に融着部となる領域の先端側を固定した状態で、1回目の融着領域よりも電極体4側に近い領域を融着部材6C及び6Dによって挟み込むことで、電極体4を覆う領域のラミネートシート2が2回目の融着領域の方向に引っ張られる。これにより、図4に示すように、電極体4とラミネートシート2とを密着させることができ、電極体4とラミネートシート2との間の隙間8が解消される。
なお、1回目の融着工程での融着後且つ2回目の融着工程での融着前のラミネートシート2の内周長LS0から、2回目の融着工程で融着する領域のうち1回目の融着工程で融着されていない領域の長さLの2倍の値を引いた長さと、電極体4の外周長Lとの比率((LS0-2×L)/L)が、1.00以上1.05以下となるよう、2回目の融着を行う。これにより、電極体4を覆う領域のラミネートシート2を2回目の融着領域の方向に向けて十分に引っ張り込むことができ、電極体4とラミネートシート2との間の隙間8を良好に解消させることができる。その結果、製造された電池において、電極体4の外周長Lと、電極体4を覆うラミネートシート2の内周長LS1との比率(LS1/L)を1.00以上1.05以下の範囲に制御することができる。
【0017】
このように上記に示す1回目及び2回目の融着工程によって電極体4をラミネートシート2によりラミネートすることで、図5に示すように、電極体4とラミネートシート2とが良好に密着したラミネート型電池10が得られる。
【0018】
従来から、電極をラミネートシートによってラミネートするラミネート装置では、様々なサイズの電極、つまりサイズにばらつきがある電極をラミネートすることが行われている。しかし、サイズが小さい電極をラミネートする際にラミネートシートと電極とを精度良く密着させることができず、ラミネートシートに余剰部分(つまりたるみ)が生じて、その余剰部分にシワが発生することがあった。ラミネートシートのシワが発生した部分では、傷や破れが生じることがあり、構造耐久性が低下しやすい。
【0019】
これに対し、本開示に係るラミネート型電池の製造方法によれば、電極体とラミネートシートとが良好に密着したラミネート型電池が得られる。そのため、ラミネートシートにおけるシワの発生が抑制され、高い構造耐久性を得ることができる。
【0020】
なお、本開示においては、図3及び図4に示すように、2回目の融着工程で融着する領域は1回目の融着領域と一部が重複してもよい。また、2回目の融着領域と1回目の融着領域とが重複していない態様であってもよいが、その場合1回目の融着領域の電極側の端部の位置と2回目の融着領域の電極と反対側の端部の位置とが一致することが好ましい。
また、2回目の融着工程で用いる融着部材6C及び6Dには、1回目の融着工程で用いる融着部材6A及び6Bと同じ部材を使用してもよい。
【0021】
<ラミネート型電池>
次いで、本開示に係るラミネート型電池について図面を用いて説明する。
図6は、本開示の実施形態に係るラミネート型電池が製造される際の融着部を示す概略断面図であり、(A)は1回目の融着工程が行われる前の融着部を拡大して示す拡大断面図、(B)は1回目の融着工程が行われ且つ2回目の融着工程が行われる前の融着部を示す拡大断面図、(C)は2回目の融着工程が行われた後の融着部を示す拡大断面図である。
【0022】
本開示の実施形態に係るラミネート型電池は、図6(C)に示すように、融着部20においてラミネートシートの一端側2Aと他端側2Bとが融着されている。そして、融着部20は、電極体側(図6における左側)に近い領域の厚みNが、電極体側より遠い領域の厚みMより薄い段差部を有する。この段差部は、図6(A)に示すように一端側2Aと他端側2Bとが重ね合わされたラミネートシートにおける1回目の融着領域X1に対して1回目の融着を施し、次いで、図6(B)に示すようにラミネートシートにおける2回目の融着領域X2に対して2回目の融着を施すことで形成される。つまり、1回目の融着領域X1と2回目の融着領域X2とが重複する領域よりも、電極体側より遠い領域の厚みMが厚くなり、2回目の融着領域X2の厚みNは、厚みMよりも薄くなる。なお、厚みMよりもさらに電極体側より遠い領域の厚みLは、厚みMよりも薄くなる。以上の通り、融着部20が、電極体側に近い領域の厚みNが電極体側より遠い領域の厚みMより薄い段差部を有するということは、融着部の形成が位置をずらして行われる2回以上の融着工程により行われ、且つ1回目の融着工程では2回目の融着工程で融着する領域よりも電極体側から遠い領域が融着され、2回目の融着工程では、1回目の融着工程で融着する領域よりも電極体側に近い領域が融着されることで、形成されていることを表す。
【0023】
そして、本開示の実施形態に係るラミネート型電池は、電極体の外周長Lと、電極体を覆うラミネートシートの内周長LS1との比率(LS1/L)が、1.0以上1.05以下である。換言すると、図5に示すように、電極体4とラミネートシート2とが良好に密着され、電極体4とラミネートシート2との間の隙間8が低減されていることを表す。
電極体の外周長Lとは、一枚のラミネートシートを捲き回す方向における4つの面の最短距離の合計長さを指す。
電極体を覆うラミネートシートの内周長LS1とは、電極体と接する面における一枚のラミネートシートを電極体に捲き回す方向での長さを指す。なお、内周長LS1には、ラミネートシートが電極体との間に隙間を有している場合や、さらに該隙間を有する部分にシワが生じている場合には、隙間部分におけるラミネートシートの内周側の面の長さや、シワが生じている部分におけるラミネートシートの内周側の面の長さも含む。
【0024】
このように、融着部に、電極体側に近い領域の厚みNが電極体側より遠い領域の厚みMより薄い段差部を有し、且つ比率(LS1/L)が上記範囲に制御された本開示の実施形態に係るラミネート型電池は、ラミネートシートにおけるシワの発生が抑制され、高い構造耐久性を得ることができる。
【0025】
なお、比率(LS1/L)は、さらに1.0以上1.03以下であることがより好ましく、1.0であること(つまり電極体の外周長Lと、電極体を覆うラミネートシートの内周長LS1とが等しいこと)がさらに好ましい。
【0026】
段差部における段差の大きさは、電極体側に近い領域におけるもっとも厚い箇所での厚みt1と、電極体側より遠い領域におけるもっとも薄い箇所での厚みt2との差(t1-t2)の下限値が10μm以上であることが好ましく、上限値がラミネートフィルムの2枚分の厚み(溶着部ではない箇所での厚み)の50%以下であることが好ましい。さらに、差(t1-t2)は10μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0027】
<電池の部材>
次いで、本開示に係るラミネート型電池を構成する各部材について説明する。
【0028】
(1)電極体
電極体は、通常、正極集電体、正極活物質層、電解質層、負極活物質層および負極集電体を、厚さ方向において、この順に有する。
【0029】
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質層は、導電材、電解質およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。正極活物質の形状は、例えば粒子状である。正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。また、正極活物質として硫黄(S)を用いてもよい。
【0030】
正極活物質として、リチウム複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム複合酸化物は、F,Cl,N,S,Br及びIよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、空間群R-3m、Immm、及びP63-mmc(P63mc、P6/mmcともいう。)より選ばれる少なくとも1つの空間群に属する結晶構造を有してもよい。また、リチウム複合酸化物は、遷移金属、酸素、及びリチウムの主たる配列がO2型構造であってもよい。
【0031】
R-3mに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、LiMeαβ(MeはMn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si及びPからなる群より選択される少なくとも一種を表し、Xは、F、Cl、N、S、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種を表し、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.0、1≦α<2、0<β≦1を満たす。)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
Immmに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Lix1 (1.5≦x1≦2.3を満たし、MはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、Aは少なくとも酸素を含み、Aに占める酸素の比率は85原子%以上である。)で表される複合酸化物(具体的な例としてLiNiO)、Lix11A 1-x21B x22-y (0≦x2≦0.5、0≦y≦0.3であり、x2及びyの少なくとも一方は0でなく、M1AはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、M1BはAl,Mg,Sc,Ti,Cr,V,Zn,Ga,Zr,Mo,Nb,Ta及びWよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、A2はF,Cl,Br,S及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられる。
【0033】
P63-mmcに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、M1M2(M1はアルカリ金属(Na及びKの少なくとも一種が好ましい)を表し、M2は遷移金属(Mn,Ni,Co及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい)を表し、x+yは0<x+y≦2を満たす。)で表される複合酸化物が挙げられる。
【0034】
O2型構造を有するリチウム複合酸化物としては、例えば、Li[Liα(MnCo1-α]O(0.5<x<1.1、0.1<α<0.33、0.17<a<0.93、0.03<b<0.50、0.04<c<0.33であり、MはNi、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W及びBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられ、具体的な例としてLi0.744[Li0.145Mn0.625Co0.115Ni0.115]O等が挙げられる。
【0035】
また、正極は、正極活物質に加え、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及びハロゲン化物固体電解質からなる固体電解質群より選ばれる固体電解質を含むことが好ましく、正極活物質の表面の少なくとも一部が、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、又はハロゲン化物固体電解質で被覆されている態様がより好ましい。正極活物質の表面の少なくとも一部を被覆するハロゲン化物固体電解質としては、Li6-(4-x)b(Ti1-xAl(0<x<1、0<b≦1.5)〔LTAF電解質〕が好ましい。
【0036】
導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質であってもよい。固体電解質は、ゲル電解質等の有機固体電解質であってもよく、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質等の無機固体電解質であってもよい。また、液体電解質(電解液)は、例えば、LiPF等の支持塩と、カーボネート系溶媒等の溶媒とを含有する。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。
【0037】
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質層は、導電材、電解質およびバインダーの少なくとも一つをさらに含有していてもよい。負極活物質としては、例えば、Li、Si等の金属活物質、グラファイト等のカーボン活物質、LiTi12等の酸化物活物質が挙げられる。負極活物質の形状は、例えば、粒子状、箔状である。導電材、電解質およびバインダーについては、上述した内容と同様である。
【0038】
電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に配置され、少なくとも電解質を含有する。電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質であってもよい。電解質層としては、固体電解質層であることが好ましい。電解質層は、セパレータを有していてもよい。
【0039】
固体電解質として、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及びハロゲン化物固体電解質からなる固体電解質群より選ばれる少なくとも1つの固体電解質種を含むことが好ましい。
【0040】
硫化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有することが好ましく、更には例えばLi元素、A元素、及びS元素を含有することが好ましい。A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。硫化物固体電解質は、O及びハロゲン元素の少なくとも一方を更に含有してもよい。ハロゲン元素(X)としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されず、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有してもよい。
Li4-xGe1-x (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
【0041】
酸化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましく、例えば、Li、Q元素(Qは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W及びSの少なくとも一種を表す。)、及びOを含有してもよい。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、LiLaZr12、Li7-xLa(Zr2-xNb)O12(0≦x≦2)、LiLaNb12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO、(Li、La)NbO、(Li、Sr)(Ta、Zr)O等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO、Li(Al、Ga)(PO等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、LiPO、LIPON(LiPOのOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、LiBO、LiBOのOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
【0042】
ハロゲン化物固体電解質として、Li、M及びXを含む固体電解質(MはTi、Al及びYの少なくとも1つを表し、XはF,Cl又はBrを表す。)が好適である。具体的には、Li6-3z(XはCl又はBrを表し、zは0<z<2を満たす。)、Li6-(4-x)b(Ti1-xAl(0<x<1、0<b≦1.5)が好ましい。Li6-3zの中でも、リチウムイオン伝導度に優れる点で、LiYX(XはCl又はBr表す。)がより好ましく、更にはLiYClが好ましい。また、Li6-(4-x)b(Ti1-xAl(0<x<1、0<b≦1.5)は、例えば、硫化物固体電解質の酸化分解を抑える等の観点から、硫化物固体電解質等の固体電解質とともに含まれることが好ましい。
【0043】
正極集電体は、正極活物質層の集電を行う。正極集電体は、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられ、アルミニウム合金箔又はアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム合金箔及びアルミニウム箔は、粉末を用いて製造されてもよい。正極集電体の形状は、例えば、箔状、メッシュ状である。正極集電体は、正極集電端子と接続するための正極タブを有していてもよい。
【0044】
負極集電体は、負極活物質層の集電を行う。負極集電体の材料としては、例えば、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば箔状、メッシュ状が挙げられる。負極集電体は、負極集電端子と接続するための負極タブを有していてもよい。
【0045】
本開示における電極体は、例えば側面部材を有していてもよい。側面部材は、電極体の側面部に配置される。側面部材は、電極体の側面部に配置される部材であれば特に限定されないが、集電端子であることが好ましい。集電端子とは、少なくとも一部に集電部を有する端子をいう。集電部は、例えば、電極体におけるタブと電気的に接続されている。集電端子は、全体が集電部であってもよく、一部が集電部であってもよい。また、側面部材は、集電機能を有しない外装部材であってもよい。
【0046】
側面部材の材料としては、例えば、SUS等の金属が挙げられる。また、側面部材は表面におけるラミネートフィルムと接する面に被覆樹脂層を有する態様が挙げられる。被覆樹脂層の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂が挙げられる。被覆樹脂層の厚さは、例えば40μm以上150μm以下である。
【0047】
(2)ラミネートシート
本開示におけるラミネートシートは、例えばラミネートフィルムが挙げられる。ラミネートフィルムは、樹脂層および金属層を有する構造を少なくとも有し、例えば金属層の一方の表面(融着部を形成する内面側)に融着樹脂層(熱融着層)を備えた構造を有する。また、ラミネートフィルムは、融着樹脂層(熱融着層)、金属層および保護樹脂層を、厚さ方向に沿って、この順に有していてもよい。融着樹脂層(熱融着層)の材料としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂が挙げられる。金属層の材料としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼が挙げられる。保護樹脂層の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンが挙げられる。融着樹脂層(熱融着層)の厚さは、例えば40μm以上100μm以下である。金属層の厚さは、例えば30μm以上60μm以下である。保護樹脂層の厚さは、例えば20μm以上60μm以下である。ラミネートフィルム全体の厚さは、例えば70μm以上、220μm以下である。
【0048】
(3)電池
本開示における電池は、典型的にはリチウムイオン二次電池であり、固体電池が好ましい。固体電池には、電解質として無機系固体電解質を用いたいわゆる全固体電池が含まれる。
【0049】
固体電池の構造は、正極/固体電解質層/負極の積層構造を有する。
正極は、正極活物質層と集電体とを有し、負極は、負極活物質層と集電体とを有する。
固体電解質層は、単層構造でもよいし、2層以上の多層構造でもよい。
固体電池は、例えば、図7に示す断面構造を有していてもよく、固体電解質層Bは図7のように2層構造でもよい。図7は、固体電池の一例を示す概略断面図である。図7に示す固体電池は、負極集電体113及び負極活物質層Aを含む負極と、固体電解質層Bと、正極集電体115及び正極活物質層Cを含む正極と、を有している。負極活物質層Aは、負極活物質101、導電助剤105及びバインダー109を含む。正極活物質層Cは、被覆正極活物質103、導電助剤107及びバインダー111を含み、被覆正極活物質103は、正極活物質の表面がLTAF電解質又はLiNbO電解質で被覆されている。
また、固体電池は、正極/固体電解質層/負極の積層構造の積層端面(側面)を樹脂で封止して構成されていてもよい。電極の集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
【0050】
電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、HEV、PHEVまたはBEVの駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0051】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0052】
2 ラミネートシート
2A ラミネートシートの一端側
2B ラミネートシートの他端側
4 電極体
6A、6B 融着部材
8 隙間
10 ラミネート型電池
20 融着部
101 負極活物質
103 被覆正極活物質
105、107 導電助剤
109、111 バインダー
113 負極集電体
115 正極集電体
A 負極活物質層
B 固体電解質層
C 正極活物質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7