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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-17
(45)【発行日】2025-07-28
(54)【発明の名称】アミロイド線維検出プローブ
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20250718BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20250718BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250718BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20250718BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20250718BHJP
   A61P 25/28 20060101ALN20250718BHJP
   A61P 25/16 20060101ALN20250718BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
A61K31/69
A61P43/00
G01N33/533
G01N33/53 D
A61P25/28
A61P25/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023079529
(22)【出願日】2023-05-12
(65)【公開番号】P2024163697
(43)【公開日】2024-11-22
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】白木 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 一正
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-066619(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164172(WO,A1)
【文献】特表2019-536743(JP,A)
【文献】Jounal of the American Chemical Society,2009年,131(42),15257-15261
【文献】Bioorganic Chemistry,2021年,115,105167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
A61K
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2)式から(8)式、(10)式から(14)式で表される化合物
【化101】
【化102】
【化103】
【化104】
【化105】
【化106】
【化107】
【化108】
【化109】
【化110】
【化111】
【化112】
【請求項2】
(4)式、(5)式、(6)式、(10)式、および(14)式で示された化合物を少なくとも1種含むアミロイドβアミロイド繊維に結合するアミロイド線維検出プローブ。
【化114】
【化115】
【化116】
【化117】
【化118】
【請求項3】
前記アミロイド線維検出プローブ中の少なくとも1つの炭素が同位体修飾されている請求項に記載されたアミロイド線維検出プローブ。
【請求項4】
(3)式、(4)式、(7)式および(8)式で示された化合物を少なくとも1種含むαシヌクレインアミロイド繊維に結合するアミロイド線維検出プローブ。
【化119】
【化120】
【化121】
【化122】
【請求項5】
請求項乃至4の何れか一の請求項に記載されたアミロイド線維検出プローブを含む中性子線治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体内のアミロイド線維を体外から検出および観測するためのプローブ化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な種類のタンパク質に由来する不溶性アミロイド線維を原因とする疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病等30種以上が報告されている。しかし、これらの病気の詳細な病理学的メカニズムはまだ判っていない。
【0003】
治療の1つ方法として、抗体を用いた方法が考えられている。例えば、ベータ-アミロイド(Aβ)ペプチドの凝集形態に対して選択的に結合するヒトモノクロナール抗体としてアデュカヌマブ(BIIB037)が知られており、このようなモノクロナール抗体の投与方法を特定することでアミロイド班(アミロイド線維)を減少させることができるという報告もある(特許文献1)。
【0004】
一方、アミロイド線維の検出方法としては、チオフラビン蛍光法、Congo Redを用いた染色、FSBを用いた染色、及びアミロイド線維を認識する抗体を用いたELISAといった方法が示されている(特許文献2)。
【0005】
また、in vivoでアミロイド線維の沈着を検出する方法としては、(99)式で示される化合物中の炭素原子に放射標識した化合物を、ガンマ線画像法、磁気共鳴画像法または磁気共鳴分光法によって検出する方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
【化1】
【0007】
[式中、
は、水素、-OH、-NO2、-CN、-COOR、-OCH2OR、C1~C6アルキル、C2~C6アルケニル、C2~C6アルキニル、C1~C6アルコキシまたはハロであり、ここで、Rの原子の1つ以上は、放射標識した原子であってよく;
Rは、C~Cアルキルであり、ここで、炭素原子の1つ以上は、放射標識した原子であってよく;
は、水素、非放射性ハロまたは放射性ハロであり;
は、水素、C~Cアルキル、C~CアルケニルまたはC~Cアルキニルであり;
は、水素、C~Cアルキル、C~CアルケニルまたはC~Cアルキニルであり、ここで、Rが水素または非放射性ハロである場合、そのアルキル、アルケニルまたはアルキニルは、放射性炭素を含んでいるか、あるいは放射性ハロで置換されており;
但し、Rが水素または-OHであり、Rが水素であり、Rが-11CHである場合、RはC~Cアルキル、C~CアルケニルまたはC~Cアルキニルであり;
さらに、Rが水素であり、Rが水素であり、Rが-CHCHCH 18Fである場合、RはC~Cアルキル、C~CアルケニルまたはC~Cアルキニルである]の化合物、またはその化合物の薬学的に許容される塩、水和物、溶媒和物もしくはプロドラッグ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2023-11002号公報
【文献】特開2020-188700号公報
【文献】特表2006-522104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
体内で生成したアミロイド線維をin vivoで観測することはアミロイド線維に係る病気に対しては、まず必要な技術である。その点特許文献2の方法は、一定の効果を示すものである。しかし、ガンマ線画像法等は装置自体が巨大となる。より簡便な装置であってもin vivoでアミロイド線維の観察ができるものがあれば、診断の際に非常に貢献すると考えられる。また、観察と同時に治療の一環を担うことができれば、さらに効果的であるといえる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、新規クルクミン誘導体を提供するものであり、そのクルクミン誘導体を有するアミロイド線維に選択的に結合し、赤外線によって発光することで、アミロイド線維を観察できるプローブを提供するものである。
【0011】
具体的に本発明に係る化合物は、(2)式から(8)式、(10)式から(14)式で表される構造を有することを特徴とする。
【0012】
【化2】
【0013】
【化3】
【0014】
【化4】
【0015】
【化5】
【0016】
【化6】
【0017】
【化7】
【0018】
【化8】
【0019】
【化9】
【0020】
【化10】
【0021】
【化11】
【0022】
【化12】
【0023】
【化13】
【0024】
また、本発明に係るアミロイドβアミロイド線維に結合するアミロイド線維検出プローブは、(4)式、(5)式、(6)式、(10)式、および(14)式で示されたクルクミン誘導体を少なくとも1種含む。
【0025】
また、本発明に係るαシヌクレインアミロイド線維に結合するアミロイド線維検出プローブは、(3)式、(4)式、(7)式および(8)式で示されたクルクミン誘導体を少なくとも1種含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、アミロイド線維に選択的に結合し、赤外線によって発光するので、皮膚を通してもその発光を検出することができる。したがって、赤外線発光装置と赤外線カメラによってアミロイド線維の分布や量を容易に推測することができる。また、近赤外での発光を継続することでアミロイド線維自体を崩壊させる可能性もある。
【0027】
また、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、比較的容易に構造中に13CあるいはFを含ませることができるので、核磁気共鳴装置(MRI装置)により高解像度にアミロイド線維を断層撮影することもできる。
【0028】
また、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、構造中にホウ素を含有させるので、結合したアミロイド線維に対して中性子線捕捉療法ができ、アミロイド線維を分解できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係るクルクミン類似体の生合成の概念を示す図である。
図2】クルクミン類似体を生合成する際の前駆物質を示す図である。
図3】本発明に係るBF2化されたアクルクミン類似体の構造を示す図である。
図4】本発明に係るBF2化されたアクルクミン類似体の構造を示す図である。
図5】本発明に係るBF2化されたアクルクミン類似体の構造を示す図である。
図6】アミロイド線維検出プローブの蛍光発光特性を示す図である。
図7】アミロイドβアミロイド線維に結合している様子を示す図である。
図8】BF2化されたアクルクミン類似体のうちアミロイドβアミロイド線維に結合するものを選別する様子を示すSDS-PAGEの写真である。
図9】BF2化されたアクルクミン類似体のうちシヌクレインアミロイド線維に結合するものを選別する様子を示すNative-PAGEの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明に係るアミロイド線維検出プローブについて図面および実施例を示し説明を行う。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態および一実施例を例示するものであり、本発明が以下の説明に限定されるものではない。以下の説明は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変することができる。
【0031】
本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、クルクミンから得られる誘導体であり一般には(100)式の構造を有している。
【0032】
【化14】
【0033】
配位の番号はクルクミンの基本骨格の番号を示している。1位を中心として左右のベンゼン環に結合する官能基をRp1および官能基Rp2とした。それぞれの官能基に特に制限はなく、官能基をRp1および官能基Rp2はそれぞれ複数の官能基であってもよい。また、官能基をRp1および官能基Rp2が同じであることを妨げない。以後、説明のために1位の位置を中心として右側を右サイト、左側を左サイトと呼ぶ。
【0034】
本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、この構造を有するものの中で、赤外域での蛍光発光を有し、アミロイド線維への結合力を有するものである。これらのアミロイド線維検出プローブは生合成によって作製した。生合成は、大腸菌にクルクミン合成経路に係る酵素遺伝子を導入し、それを誘導体の材料となる前駆物質を含む培地で培養することで合成させる。このようにすると、官能基の異なる誘導体を容易に得ることができる。また、特定の炭素を安定同位体に置き換える。
【0035】
図1に生合成の概略を示す。クルクミンを合成する酵素遺伝子(4CL、DCS、CURS1)を導入したプラスミドを大腸菌に導入する。導入された大腸菌を「mut-ecoil」とした。この大腸菌をクルクミンの前駆物質となる2種の化合物(それぞれ前駆物質P1、前駆物質P2とする。)を含む培地中で培養する。この2種の前駆物質は、フェニルプロピオン酸に官能基が結合したもので、図1では、Rp1およびRp2とした。この官能基に特に制限はない。
【0036】
大腸菌mut-ecoliは、これらの前駆物質からクルクミン類似体を合成する。この際、前駆物質同士の区別はないので、前駆物質P1が左右のサイトに使われた物(homo-P1)、前駆物質P1およびP2が左右のサイトに使われた物(hetero-P1_P2)、前駆物質P2が左右のサイトに使われた物(homo-P2)の3種の類似体を得ることができる。
【0037】
例えば、前駆物質P1および前駆物質P2を共に(100)式のヒドロキシメトキシフェニルプロピオン酸にすれば、合成される3種は共にクルクミンとなる。
【0038】
【化15】
【0039】
このようにして得られたクルクミン誘導体は、ケトエノール互変異性によって、(101)式のようにケト型とエノール型で互変異する。
【0040】
【化16】
【0041】
そこで、2位と2’位の酸素原子同士をジフルオロボロンで結合させる。これを「BF2化」と呼ぶ。結果、(102)式のようにBF2化されたクルクミンが生成される。
【0042】
【化17】
【0043】
BF2化されたクルクミンは(102)式で示した互変異がなくなり、安定した構造で存在するBF2化されたクルクミンは、蛍光発光の特性を有する。そして、左右のサイトのベンゼン環に結合させる官能基を変えることで赤外帯域での蛍光発光を観測に十分な強度まで高めることができる。
【0044】
さらに、左右のサイトのベンゼン環へ結合させる官能基を調整することで、アミロイド線維へ特異的な結合力を付与することができる。
【0045】
また、培養の際の培地に13Cグルコースを混入させることで、1位(100式参照)の炭素を安定同位体に修飾することもできる。13Cがあれば、MRIでイメージングすることができ、脳内のアミロイド線維の詳細な撮影が可能である。また、BF2化されているので、骨格内にFを有する。したがって、Fをつかった核磁気共鳴のイメージングも可能である。
【0046】
このように、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、クルクミン誘導体からなり、赤外域での蛍光発光能を有するので、皮膚下数cmの存在を赤外線カメラなどで観察することができる。
【0047】
また、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、BF2化したために、骨格内にホウ素を含む。ホウ素クラスターが中性子線捕捉療法に使われるが、ホウ素クラスターをいかにして標的に届けるかが課題となっている。しかし、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、アミロイド線維に結合する上に、ホウ素を骨格中に有している。したがって、赤外域での蛍光発光によってアミロイド線維の位置を特定すると同時に中性子線照射の標的とすることができ、中性子線捕捉療法用組成物として用いることができる。
【実施例
【0048】
以下の手順でクルクミン類似体を産生および精製した。大腸菌BL21(DE3)にクルクミン合成経路の3つの酵素遺伝子4CL、DCS、CURS1をプラスミドで導入した。
【0049】
TB培地で37℃で1晩振盪培養後、培養温度を27℃に下げイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG、終濃度1mM)を添加し、さらに1晩振盪培養した。10mg/mLになるようにDMSOに溶解した前駆物質を培地の1/1000量添加しさらに24時間培養した。菌体を遠心で回収し、PBS(-)で溶解後-30℃で保存した。培養上清は4℃で保存した。
【0050】
菌体から脂溶性代謝物をBligh&Dyer法で抽出後、吹付け乾燥した。メタノールで溶解しTLCでクルクミン類似体の存在を確認後シリカカラム(10mL)を用いて精製した。溶出フラクションを1mLずつ回収し、すみやかに乾燥した。メタノールで懸濁後、TLCによりクルクミン類似体の存在するフラクションを同定し回収した。この時点で吸光スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した。
【0051】
培養上清に含まれる脂溶性物質をC18 sep-pakカラムを用いた固相抽出により溶出した後、吹付け乾燥し、メタノールで懸濁した。その後、菌体由来のクルクミン類似体同様シリカカラムで精製した。
【0052】
用いた前駆物質を図2に示す。用いた前駆体物質は8つであり、前駆体物質-8、前駆体物質-13、前駆体物質-14、前駆体物質-15、前駆体物質-18、前駆体物質-22、前駆体物質ferulate、前駆体物質coumalateである。前駆体物質ferulateおよび前駆体物質coumalateはそれぞれヒドロキシメトキシフェニルプロピオン酸と、メトキシフェニルプロピオン酸である。これらを用いてクルクミン類似体を産生した。表1に使用した前駆物質(それぞれ第1前駆物質、第2前駆物質とした。)とクルクミン類似体のサンプル名およびサンプル番号を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
なお、curu8およびcuru9は同一物質で産生日が異なるものである。また、curu14とcuru15は大腸菌の中(ppt)と外(上澄み中:sup)から得たものであって、同一物質であった。
【0055】
<クルクミン類似体のBF2修飾>
表1のクルクミン類似体をガラスバイアルに移し、スターラーバーを入れた後に完全に乾燥した後に密閉した。N2を充満したシリンジをバイアルに刺し、バイアル内の酸素、水蒸気をN2で置き換えた。前日よりモレキュラーシーブにより脱水したジクロロメタン(DCM)250μLをスターラーで撹拌しながらバイアルに注入しクルクミン類似体を完全に溶解した。DCMと1:1で混合した三ふっ化ほう素ジエチルエーテル錯体を250μLをスターラーで撹拌しながらゆっくりと加え室温で2時間以上放置した。
【0056】
反応後乾燥およびジエチルエーテルによる洗浄を繰り返し、未反応の三ふっ化ほう素ジエチルエーテル錯体を取り除いた。完全に乾燥した後、メタノールで懸濁しPFTEフィルターでろ過後4℃で保存した。この時点で吸光スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した。BF2化したクルクミン類似体を表2に示す。また、それぞれの化合物の構造を図3から図5示す。また、化合物1~化合物15の構造はそれぞれ(1)式~(15)式で表されている。なお、化合物1はクルクミンそのものであり、(103)式と同じものである。
【0057】
【表2】
【0058】
<発光特性>
BF2化されたクルクミン類似体はBF2化される前と比較して発光特性が変化する。特に赤外領域での発光が高くなる。図6には、化合物1(クルクミン)とcuru1(BF2化されるまえのクルクミン自体)の場合の発光特性を示す。図6(a)はcuru1、図6(b)は化合物1である。
【0059】
それぞれのグラフを参照して、横軸は励起光波長(nm)であり、縦軸は発光強度(無単位)である。また、励起光波長毎に発光した蛍光の波長を棒グラフの上に縦の数字で示した。
【0060】
波長635nmで励起した場合、BF2化していないcuru1はほとんど蛍光発光していないが、BF2化したクルクミン類似体である化合物1では、700nmという赤外領域で蛍光発光が確認された。これは他の化合物2乃至15においても同様に、赤外領域で蛍光発光を確認できた。
【0061】
<アミロイド線維への結合>
アミロイドβの産生機構は以下のように考えられている。アミロイドβはアミロイド前駆タンパク質(APP)からプロテアーゼによって切断されることにより産生される。APPがαセクレターゼで切断されるとアミロイドβはつくられない。一方、βセクレターゼ(図左側→)で切断されるとその後γセクレターゼで切断され、アミロイドβが産生される。γセクレターゼの構成要素がプレセニリン(PS2)で、γセクレターゼ活性を調節している。
【0062】
今回家族性アルツハイマー病患者で見つかったAPPの変異体とPS2の変異体を細胞に共発現し、アミロイドβの産生を確認した。なお、APPを発現しないとアミロイドβは産生されなかったことを確認している。
【0063】
図7には、その例を示す。図7(a)は、APPの変異体とPS2の変異体を共発現させた細胞の抽出物を電気泳動し、抗アミロイドβ抗体(図中では「anti-Aβ」と記した。)で標識したものである。アミロイドβオリゴマーがおよそ40kDaあたりに確認された。
【0064】
細胞の抽出物に化合物10(hetero-13-14-BF2)を接触させ、SDS-PAGEした結果が図7(b)である。縦軸は質量(kDa)であり、横軸はサンプル種を示す。APP/PS2抽出物10μLに対して、化合物10をそれぞれ0,2、4、6、8μMの濃度で接触させたところ、電気泳動と同じ質量箇所に濃度依存的に発光が確認された。以上の事から、化合物10はアミロイドβに結合していることが確認できた。
【0065】
図8は、その他の化合物で同様の実験を行った結果を示す。SDS-PAGEの結果、化合物4、化合物5、化合物6、化合物10、化合物14、化合物15(なお、化合物14と化合物15は同一物質)は、アミロイドβに対して結合能を有することが認められた。
【0066】
図9はパーキンソン病の原因と考えられているαシヌクレインアミロイド線維に対する各化合物の結合を見たNative-PAGEの結果である。これを見ると化合物3、化合物4、化合物7、化合物8、化合物9(なお、化合物8と化合物9は同一物質)がαシヌクレインアミロイド線維に対して結合しているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係るアミロイド線維検出プローブは、アミロイド線維に特異的に結合し、体内で赤外光を発光するため、体外からそれを非侵襲で観測できるるので、アミロイド線維の検出に大いに有効である。また、本発明に係るアミロイド線維検出プローブは構造中に構造中に13C,Fで修飾することが出来、核磁気共鳴イメージング等での検出も可能である。さらに構造中にホウ素を有するので、中性子線捕捉療法用組成物としても利用することができ、中性子線でアミロイド線維を破壊できる可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9