(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-18
(45)【発行日】2025-07-29
(54)【発明の名称】ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤、並びに、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物、ポリエステル系樹脂フィルム、及び積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20250722BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20250722BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20250722BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250722BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20250722BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K5/42
C08J3/20 Z CFD
B32B27/36
C09K3/00 R
(21)【出願番号】P 2024231979
(22)【出願日】2024-12-27
【審査請求日】2025-01-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 佑典
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2023-0032027(KR,A)
【文献】特開2009-096833(JP,A)
【文献】特開2010-032609(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113550022(CN,A)
【文献】特公昭49-035331(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される有機スルホン酸塩を含有するポリエステル系樹脂フィルム用改質剤であって、
前記有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径0μm超75μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以下であり、粒子径75μm超150μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以上であ
り、粒子径150μm超1000μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は79.6質量%以上95質量%以下であることを特徴とするポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
【化1】
(一般式(1)において、Xはベンゼンから3個の水素原子を除いた残基であり、R
1
とR
2
は水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であり、Mはアルカリ金属原子又はホスホニウム化合物である。)
【請求項2】
前記有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径1000μm超の前記有機スルホン酸塩の含有割合が10質量%以下である請求項1に記載のポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
【請求項3】
前記一般式(1)のR
1とR
2が水素原子であり、Mがテトラブチルホスホニウムである請求項
1に記載のポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂100質量部に対し、請求項1又は2に記載のポリエステル系樹脂フィルム用改質剤を0.01~12質量部混合することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルム用組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の製造方法により得られるポリエステル系樹脂フィルム用組成物を含有する成形用組成物を成形することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
2層以上の積層フィルムの製造方法であって、
少なくともどちらか一方の表層として請求項
5に記載の製造方法により得られるポリエステル系樹脂フィルムを積層することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤、並びに、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物、ポリエステル系樹脂フィルム、及び積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系樹脂は、繊維、筐体、フィルム、飲料ボトル及び包装容器などの様々な用途に使用されており、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)は主に包装用の容器やフィルムに用いられている。ポリエステル系樹脂フィルムは、溶融樹脂を金属製の冷却ロール上で固化して成形される。この時、樹脂フィルムが冷却ロールにしっかりと密着しないと、形成された樹脂フィルムにシワや厚みムラが生じ、外観不良となる。そのため、冷却ロールに電流を流したり、ピニングワイヤ電極を設置することにより、冷却ロールや樹脂フィルムに電荷を付与し、樹脂フィルムを冷却ロールに静電気的に密着させる静電密着法が知られている。
【0003】
しかし、このような静電密着法では、製膜速度を高めるために冷却ロールの回転速度を高めると、冷却ロールと樹脂フィルムとの間に空気を巻き込んでフィルム表面に泡状の欠点を生じるため、製膜の高速化には限界がある。そこで、更なる高速化を可能にするため、例えば特許文献1及び特許文献2には、ポリエステルにスルホン酸塩を添加する技術が開示されている。これにより、溶融樹脂の体積抵抗率が低下するため、冷却ロールに到達する直前の溶融樹脂に対して効率的に電荷を付与することができ、製膜速度の大幅な向上が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平7-5765号公報
【文献】特開平11-309771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記技術においては、スルホン酸塩をポリエステル系樹脂へ均一に添加しないと、冷却ロールに対する樹脂フィルムの静電密着性が安定せず、外観不良が生じる。また、スルホン酸塩を均一に添加するために粉末状のスルホン酸塩をポリエステル系樹脂へ添加する場合、その粒子径によっては、作業時にスルホン酸塩の粉塵が生じて作業環境が汚染されたり、スルホン酸塩の流動性が低くなり連続的な供給が不安定になる場合がある。
【0006】
そこで、本開示の技術は、ポリエステル系樹脂フィルムに優れた静電密着性を付与できると共に、ポリエステル系樹脂への添加の作業性が向上したポリエステル系樹脂フィルム用改質剤を提供する。また、それを用いたポリエステル系樹脂フィルム用組成物、ポリエステル系樹脂フィルム、及び積層フィルムの製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記課題を解決するために以下の手段をとる。
[1]
下記一般式(1)で表される有機スルホン酸塩を含有するポリエステル系樹脂フィルム用改質剤であって、前記有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径0μm超75μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以下であり、粒子径75μm超150μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以上であ
り、粒子径150μm超1000μm以下の前記有機スルホン酸塩の含有割合は79.6質量%以上95質量%以下であることを特徴とするポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
【化1】
(一般式(1)において、Xはベンゼンから3個の水素原子を除いた残基であり、R
1
とR
2
は水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であり、Mはアルカリ金属原子又はホスホニウム化合物である。)
[2]前記有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径1000μm超の前記有機スルホン酸塩の含有割合が10質量%以下である[1]のポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
[3]前記一般式(1)のR
1とR
2が水素原子であり、Mがテトラブチルホスホニウムである
[1]又は[2]のポリエステル系樹脂フィルム用改質剤。
[4]ポリエステル系樹脂100質量部に対し、
[1]~[3]のいずれかのポリエステル系樹脂フィルム用改質剤を0.01~12質量部混合することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルム用組成物の製造方法。
[5][4]の製造方法により得られるポリエステル系樹脂フィルム用組成物を含有する成形用組成物を成形することを特徴とするポリエステル系樹脂フィルムの製造方法。
[6]2層以上の積層フィルムの製造方法であって、少なくともどちらか一方の表層として
[5]の製造方法により得られるポリエステル系樹脂フィルムを積層することを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【0008】
なお、本明細書において「A~B」で示した数値範囲はその上限及び下限を含む範囲を表す。つまり、「A~B」は「A以上、B以下」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、ポリエステル系樹脂フィルムに優れた静電密着性を付与できると共に、ポリエステル系樹脂への添加の作業性が向上したポリエステル系樹脂フィルム用改質剤を提供できる。また、それを用いたポリエステル系樹脂フィルム用組成物、ポリエステル系樹脂フィルム、及び積層フィルムの製造方法も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤≫
ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤(以下、「改質剤」ともいう)は、有機スルホン酸塩を含有する粉末状又は粒状の固体である。改質剤をポリエステル系樹脂フィルムに含有させることにより、該フィルムに優れた静電密着性を付与できる。
【0011】
<有機スルホン酸塩>
有機スルホン酸塩としては、後述する構造を有し、ポリエステル系樹脂フィルムの静電密着性を向上できる化合物であればよく、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、有機スルホン酸塩は、ポリエステル系樹脂への添加作業時まで後述する粒子径の含有割合を維持できる必要がある。
【0012】
有機スルホン酸塩
は、下記一般式(1)で表される化合物
である。
【化2】
(一般式(1)において、Xはベンゼンから3個の水素原子を除いた残基であり、R
1とR
2は水素原子又は炭素数1~6の炭化水素基であり、Mはアルカリ金属原子又はホスホニウム化合物である。)
一般式(1)で表される化合物としては、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ビス(メトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、3,5-ビス(エトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ビス(プロポキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、3,5-ビス(ブトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ビス(ペンチルオキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及び3,5-ビス(ヘキシルオキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩等が挙げられる。中でも、有機スルホン酸塩は、一般式(1)においてR
1とR
2が水素原子であり、Mがホスホニウム化合物である3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が特に好ましい。
【0013】
<有機スルホン酸塩の粒子径>
改質剤が含有する有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径150μm超1000μm以下の有機スルホン酸塩の含有割合は79.6質量%以上95質量%以下である。また、粒子径0μm超75μm以下の有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以下であり、2質量%以下であることが好ましい。粒子径0μm超75μm以下の粒子の含有量をこの範囲に調整することにより、ポリエステル系樹脂への改質剤の添加時に発生する粉塵を効果的に抑制し、作業環境の汚染を低減できる。
【0014】
また、改質剤が含有する有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径75μm超150μm以下の有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以上である。粒子径75μm超150μm以下の粒子の含有量をこの範囲に調整することにより、有機スルホン酸塩の流動性が所望のレベルに維持され、フィーダー等を用いた改質剤の連続的な供給を安定して行うことができる。このように、有機スルホン酸塩の粒子径0μm超75μm以下の粒子と粒子径75μm超150μm以下の粒子の含有割合を所定の範囲に調整することにより、改質剤をポリエステル系樹脂へ添加する際の作業性を向上できる。
【0015】
更に、改質剤が含有する有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径1000μm超の有機スルホン酸塩の含有割合は10質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。粒子径1000μm超の粒子の含有量をこの範囲に調整することにより、フィーダー等からの改質剤の流れが均一になり、ポリエステル系樹脂への改質剤の供給を更に安定化できる。なお、有機スルホン酸塩の粒子径は、レーザ回折/散乱法を用いた粒度分布測定装置やJIS Z 8801-1:2019の試験用ふるいを用いて測定可能である。
【0016】
<エタノール不溶分>
改質剤には、有機スルホン酸塩の合成時に生じた不純物等が含まれる場合がある。例えば改質剤がエタノール不溶分を含有する場合、改質剤中のエタノール不溶分は100μg/g以下であることが好ましく、50μg/g以下であることが更に好ましい。エタノール不溶分をこの範囲に調整することにより、エタノール不溶分に起因するポリエステル系樹脂フィルムの透明度の低下、フィルム中の斑点の形成(目視可能な異物の混入)等の外観不良を抑制できる。なお、エタノール不溶分は、例えばJIS K3304:2019の石けん試験方法に準じて測定可能である。
【0017】
<鉄元素>
同様に、改質剤に含有される鉄元素は、50ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。鉄元素の含有量を上記範囲に調整することにより、改質剤が鉄元素に起因する色、例えば赤色に着色されるのを防止できる。
【0018】
≪ポリエステル系樹脂フィルム用組成物≫
次に、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物について説明する。ポリエステル系樹脂フィルム用組成物は、ポリエステル系樹脂と改質剤とを含有するものであり、高濃度の改質剤を含むマスターバッチや、後述するポリエステル系樹脂フィルムの製造工程における中間産物等を含む。なお、改質剤中の有機スルホン酸塩は、ポリエステル系樹脂と溶融混錬する際にポリエステル系樹脂に溶解する。そのため、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物や後述するポリエステル系樹脂フィルムでは、有機スルホン酸塩の粒子径とその含有割合は上述の範囲に維持されていない。
【0019】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル系樹脂としては、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体を基本構成とする樹脂であって、公知のものを用いることができる。多価カルボン酸としては、特に制限はなく、例えばシュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸、1,6-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族又は脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。上記多価カルボン酸としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。一方、多価アルコールとしては、特に制限はなく、例えば1,2-エタンジオール、2,2’-オキシジエタノール、2,2’-(エチレンジオキシ)ジエタノール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイド等の脂肪族又は脂環式ジオール単位、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等が挙げられる。上記多価アルコールとしてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、イソフタル酸を共重合させた酸変性ポリエステル、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合させたグルコール変性ポリエステル(PET-G)等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ポリエステル系樹脂フィルム用組成物は、必要に応じて添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、アンチブロッキング剤、着色防止剤、消臭剤、抗酸化剤、結晶核剤、熱安定剤、難燃剤、滑剤等が挙げられる。添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
なお、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の改質剤の含有量は、特に限定されず、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の種類や改質剤の種類に応じて適宜設定可能である。例えば、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物がマスターバッチである場合、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、改質剤は0.1~12質量部であることが好ましい。一方、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物が樹脂フィルムの製造工程における中間産物である場合、改質剤の含有量は製造工程に応じて任意に変更可能である。ただし、フィルム状に成形する直前のポリエステル系樹脂フィルム用組成物は、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、改質剤を0.01~10質量部含有することが好ましく、0.01~1質量部含有することが更に好ましい。
【0022】
<ポリエステル系樹脂フィルム>
次に、ポリエステル系樹脂フィルムについて説明する。ポリエステル系樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂と改質剤を含有する成形用組成物をフィルム状に成形したものである。ポリエステル系樹脂フィルムは、有機スルホン酸塩を含有することにより、優れた静電密着性を発揮できる。
【0023】
ポリエステル系樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、改質剤を0.01~10質量部含有することが好ましく、0.01~1質量部含有することが更に好ましい。また、ポリエステル系樹脂フィルムの膜厚は特に限定されないが、10~300μmが好ましい。
【0024】
<積層フィルム>
積層フィルムは、2層以上の積層フィルムであって、上述のポリエステル系樹脂フィルムを少なくともどちらか一方の表層として有する。積層フィルムの他の層は、熱可塑性樹脂、接着剤、アンカーコート剤、接着性樹脂等によって形成される。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂として、ポリエステル系樹脂フィルムに含有される材料と同じポリエステル系樹脂を用いることもできる。熱可塑性樹脂には、合目的的に添加剤を含有させることもできる。添加剤としては、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、熱安定剤、中和剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、結晶核剤等が挙げられる。
【0025】
積層フィルムの合計膜厚は特に限定されないが、10~300μmが好ましい。また、積層フィルムにおいて、片側に積層されたポリエステル系樹脂フィルム層の膜厚とポリエステル系樹脂フィルム層以外の他の層の膜厚との比率は、適宜設定可能であるが、5:90~20:60であることが好ましい。
【0026】
≪製造方法≫
次に、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物、ポリエステル系樹脂フィルム、及び積層フィルムの製造方法について説明する。
【0027】
<ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の製造方法>
ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の製造方法は、大きく2つの方法に分けられる。1つ目の方法は、予めポリエステル系樹脂と高濃度の改質剤とを含有するマスターバッチを調製しておき、このマスターバッチを更にポリエステル系樹脂と混合して成形用組成物を製造する方法である。なお、本明細書中における「成形用組成物」とは、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物を含有する組成物であって、フィルムの成形工程に供される組成物を意味する。
【0028】
マスターバッチの製造は従来公知の方法が利用可能であり、特に限定されない。マスターバッチの製造方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂を単軸押出し機や多軸押出し機等の押出し機により溶融状態としたところへ、改質剤をサイドフィード等により押し出し機に添加し、溶融混練しつつ造粒する方法が挙げられる。また、予めポリエステル系樹脂と改質剤とをタンブラーブレンダー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機に投入して混合し、フィーダー等を用いて単軸押出し機や多軸押出し機等の押出し機へ添加し、その混合物を押出し機により溶融混練しつつマスターバッチを造粒する方法が挙げられる。さらには、ポリエステル樹脂を主フィーダー等を用いて、単軸押出し機や多軸押出し機等の押出し機へ添加し、改質剤をサブフィーダー等により、押し出し機に添加し、溶融混錬しつつマスターバッチを造粒することも可能である。
【0029】
マスターバッチを用いた成形用組成物の製造も従来公知の方法が利用可能であり、特に限定されない。例えば上述のマスターバッチの製造方法において、改質剤の代わりにマスターバッチを用いると共に造粒工程を省略することにより、成形用組成物を製造することができる。
【0030】
2つ目の方法は、ポリエステル系樹脂と改質剤とを混合して、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物を含有する成形用組成物を直接製造する方法である。2つ目の方法も従来公知の方法が利用可能であり、特に限定されない。2つ目の方法としては、例えば上述したマスターバッチの製造方法において、造粒工程を省略した方法が挙げられる。
【0031】
ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の製造方法において、ポリエステル系樹脂に対する改質剤の混合割合は、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物の種類や改質剤の種類に応じて適宜設定できる。例えば、ポリエステル系樹脂100質量部に対し、改質剤を0.01~12質量部混合することが好ましい。具体的には、マスターバッチを製造する場合、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、改質剤を0.1~12質量部混合することが好ましい。一方、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物を含有する成形用組成物を直接製造する場合、ポリエステル系樹脂100質量部に対して、改質剤を0.01~10質量部混合することが好ましく、0.01~1質量部混合することが更に好ましい。
【0032】
<ポリエステル系樹脂フィルムの製造方法>
ポリエステル系樹脂フィルムは、溶融状態の成形用組成物を公知の製膜方法によりフィルム状に成形することにより製造される。製膜方法としては、例えば、空冷インフレーション成形、空冷2段インフレーション成形、空冷3段インフレーション成形、水冷インフレーション成形等のインフレーション成形、Tダイとしてストレート・マニホールド型、コート・ハンガー型、これらを組み合わせたもの等を用いたTダイ成形が挙げられる。また、フィルムは延伸してもよく、延伸方法としてはテンター同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法、インフレーション法による二軸延伸法等が挙げられる。
【0033】
<積層フィルムの製造方法>
積層フィルムは、公知の製膜方法により、2層以上の積層フィルムの少なくともどちらか一方の表層としてポリエステル系樹脂フィルムを積層することにより製造される。製膜方法としては、例えば、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出しラミネート法、共押し出し法等が挙げられる。ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出しラミネート法により積層フィルムを製造する場合には、公知のポリウレタン系接着剤、有機チタン系アンカーコート剤、イソシアネート系アンカーコート剤及び接着性樹脂等を使用することができる。共押し出し法による製造では、インフレーション成形及びTダイ成形を用いることができ、未延伸及び延伸方法による延伸のどちらの成形方法を用いることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本開示の構成及び効果をより具体的に説明する。以下の実施例及び比較例において、「部」は質量部を意味する。
【0035】
調製例1
有機スルホン酸塩としての3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩(A-1)をJIS試験用ふるいを用いて、0μm超75μm以下、75μm超150μm以下、150μm超1000μm以下、1000μm超の4種類に分離し、下記表1に記載の割合(質量%)になるようにドライブレンドにて混合し、ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤(K-1)を調製した。
【0036】
調製例2~10
有機スルホン酸塩の種類及び各粒子径の割合を下記表1の通りに変更した以外は、調製例1と同様にして、ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤(K-2~K-6、k-1~k-4)を調製した。
【0037】
【表1】
表1に記載の有機スルホン酸塩と対照物質
A-1:3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩
A-2:3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
A-3:3,5-ビス(メトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩
a-1:ジグリセリンモノステアレート
【0038】
実施例1-1
ポリエステル系樹脂としてポリエチレンテレフタレート(商品名「RAMAPET N-1」、Indorama Ventures Public Company Limited製)95部と、調製例1で得た改質剤(K-1)5部とを、フィーダーを用いて同軸二軸混練押出機へ供給し、250~290℃にて溶融混練し、ストランドダイより押出し、水で急冷し、ストランドを得た。このストランドをペレタイザーでカッティングして、ポリエステル系樹脂フィルム用組成物であるマスターバッチ(N-1)を調製した。
【0039】
実施例1-2~1-6、比較例1-1~1-4
改質剤の種類と配合割合を下記表2の通りに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、マスターバッチ(N-2~N-6、n-1~n-4)を調製した。
【0040】
【0041】
<マスターバッチ(MB)生産性の評価>
マスターバッチを調製する際の生産性を以下の基準に基づき評価した。その評価結果を表2に示す。
[評価基準]
3:有機スルホン酸塩が安定的に供給でき、装置汚染もなく、24時間安定製造が可能であった。
2:有機スルホン酸塩が安定的に供給でき、装置汚染もなく、8時間安定製造が可能であった。
1:有機スルホン酸塩が安定的に供給できない及び/又は装置が汚染され、8時間安定製造ができなかった。
【0042】
実施例2-1
ポリエステル系樹脂としてポリエチレンテレフタレート(商品名「RAMAPET N-1」)99.5部と、マスターバッチ(N-1)0.5部とを、フィーダーを用いて同軸二軸混練押出機へ供給し、260~280℃にて溶融混練した。次いで、マルチマニホールドTダイを用いて、溶融樹脂の供給量及びスクリュー回転速度を調整しつつ、30℃に調温した冷却ロール上に巻き取り、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを110℃で縦3倍、横4倍に延伸した後、235℃で熱処理を施し、室温まで徐冷し、厚さ60μmのポリエステル系樹脂フィルム(F-1)を得た。
【0043】
実施例2-2~2-6、比較例2-1~2-4
マスターバッチの種類及び配合割合、並びに、ポリエステル系樹脂フィルムの二軸延伸処理の有無及び膜厚を下記表3の通りに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、ポリエステル系樹脂フィルム(F-2~F-6、f-1~f-4)を得た。なお、二軸延伸を行わない場合は、実施例2-1における未延伸フィルムを得る工程までを行った。
【0044】
【0045】
<静電密着性の評価>
ポリエステル系樹脂フィルムの製造において、マスターバッチとポリエステル系樹脂との溶融混錬物をフィルム状に押出して、冷却ロール上にキャスティングする際に、押出したフィルムの上部に設置したピニングワイヤー(電圧10KV)で印加し、冷却ロールに密着させた。その際の静電密着性を以下の基準に基づき評価した。その評価結果を表3に示す。
[評価基準]
3:冷却ロールの速度80m/分以上で安定に製膜できる。
2:冷却ロールの速度50m/分以上、80m/分未満で安定に製膜できる。
1:冷却ロールの速度50m/分未満でしか安定に製膜できない。
【0046】
実施例3-1
ポリエステル系樹脂としてポリエチレンテレフタレート(商品名「RAMAPET N-1」)99.5部と、マスターバッチ(N-1)0.5部とを、フィーダーを用いて第1の同軸二軸混練押出機へ供給し、260~280℃にて溶融混練した。一方、ポリエステル系樹脂としてのポリエチレンテレフタレート(商品名「RAMAPET N-1」)のみを第2の同軸二軸混練押出機へ供給し、260~280℃にて溶融混練した。次いで、マルチマニホールドTダイを用いて、溶融樹脂の供給量及びスクリュー回転速度を調整しつつ、第1の同軸二軸混練押出機の溶融樹脂からなる層が両表層に、第2の同軸二軸混練押出機の溶融樹脂からなる層が中間層になるよう共押出しして30℃に調温した冷却ロール上に巻き取り、A層(一方の表層)、B層(中間層)及びA層(他方の表層)の厚さの比が、10:80:10となる積層未延伸フィルムを得た。得られた積層未延伸フィルムを110℃で縦3倍、横4倍に延伸した後、235℃で熱処理を施し、室温まで徐冷し、厚さ60μmの積層フィルムを得た。
【0047】
実施例3-2~3-7、比較例3-1~3-4
A層、B層におけるマスターバッチの種類及び配合割合、並びに、積層フィルムの二軸延伸処理の有無、合計膜厚及びA層とB層の比率を下記表4の通りに変更した以外は、実施例3-1と同様にして、各積層フィルムを得た。なお、各積層フィルムのA層は、表3において対応するポリエステル系樹脂フィルムと同じ原料を同じ成分組成になるよう使用した。また、二軸延伸を行わない場合は、実施例3-1における積層未延伸フィルムを得る工程までを行った。
【0048】
【0049】
<積層フィルムの静電密着性の評価>
積層フィルムの製造において、2種類の溶融樹脂を積層フィルム状に共押出して、冷却ロール上にキャスティングする際に、押出したフィルムの上部に設置したピニングワイヤー(電圧10KV)で印加し、冷却ロールに密着させた。その際の静電密着性を以下の基準に基づき評価した。その評価結果を表4に示す。
[評価基準]
3:冷却ロールの速度80m/分以上で安定に製膜できる。
2:冷却ロールの速度50m/分以上、80m/分未満で安定に製膜できる。
1:冷却ロールの速度50m/分未満でしか安定に製膜できない。
【0050】
実施例1-1~1-6では、マスターバッチの製造においてポリエステル系樹脂への改質剤の添加の作業性が良く、マスターバッチの生産性が良好であった。また、実施例1-1~1-6のマスターバッチを用いて製造した実施例2-1~2-6のポリエステル系樹脂フィルム及び実施例3-1~2-6の積層フィルムは、優れた静電密着性を示した。一方、比較例1-1では、改質剤に含まれる有機スルホン酸塩の粒子径0μm超75μm以下の割合が多すぎたため、ポリエステル系樹脂への改質剤の添加の作業性が劣っており、マスターバッチの生産性が悪かった。比較例1-2及び1-4では、改質剤に含まれる有機スルホン酸塩の粒子径75μm超150μm以下の割合が少なすぎたため、ポリエステル系樹脂への改質剤の添加が安定せず、マスターバッチの生産性が悪かった。ただし、比較例1-1、比較例1-2及び比較例1-4で得られたマスターバッチを用いて製造した比較例2-1、比較例2-2及び比較例2-4のポリエステル系樹脂フィルム並びに比較例3-1、比較例3-2及び比較例3-4の積層フィルムは、良好な静電密着性を示した。比較例1-3では、マスターバッチの生産性は良好であった。しかし、改質剤が有機スルホン酸塩の代わりにジグリセリンモノステアレートを含有するため、比較例1-3で得られたマスターバッチを用いて製造した比較例2-3のポリエステル系樹脂フィルム及び比較例3-3の積層フィルムは、静電密着性が劣っていた。
【要約】
【課題】
ポリエステル系樹脂フィルムに優れた静電密着性を付与できると共に、ポリエステル系樹脂へ安定的に添加でき、作業性が向上したポリエステル系樹脂フィルム用改質剤を提供する。
【解決手段】
ポリエステル系樹脂フィルム用改質剤は有機スルホン酸塩を含有しており、有機スルホン酸塩の全体量を100質量%とすると、粒子径0μm超75μm以下の有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以下であり、粒子径75μm超150μm以下の有機スルホン酸塩の含有割合は5質量%以上である。また、粒子径1000μm超の有機スルホン酸塩の含有割合は10質量%以下であることが好ましい。
【選択図】なし