(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-18
(45)【発行日】2025-07-29
(54)【発明の名称】メタン発酵処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20250722BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20250722BHJP
B01F 33/00 20220101ALI20250722BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
C02F3/28 Z
B01F33/00
(21)【出願番号】P 2024164846
(22)【出願日】2024-09-24
【審査請求日】2024-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】西薗 賢志
(72)【発明者】
【氏名】田中 恒久
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0112431(KR,A)
【文献】国際公開第2021/112440(WO,A1)
【文献】特開2001-070990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F11/00-11/20
C02F3/00-3/34
B01F33/00-33/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下端部が閉口された外筒と、前記外筒の内側に配置され上端部が閉口され下端部が開口された少なくとも一つの内筒と、
前記外筒の内部空間と前記内筒の内部空間を下部で連通し、発酵汚泥を前記外筒と前記内筒との間で流動可能とする下部連通経路と、
前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液面と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液面との間に液位差を形成する液位差形成機構と、
前記外筒と前記内筒の上部に形成される気相空間同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、
を備えたメタン発酵槽を用いるメタン発酵処理方法であって、
前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液位と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液位との間に液位差を設けつつ前記外筒と前記内筒との間で発酵汚泥を流動させる緩速攪拌工程と、
前記外筒と前記内筒に形成される前記気相空間の圧力差を解消することで、緩速攪拌工程で形成した液位差を解除して、緩速攪拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる急速攪拌工程と、
前記急速攪拌工程または前記緩速攪拌工程の後に前記発酵汚泥を静置する静置工程と、
を繰り返す
とともに、
前記緩速攪拌工程と前記急速攪拌工程を含む処理時間に占める前記静置工程の割合が75%以上であるメタン発酵処理方法。
【請求項2】
上下端部が閉口された外筒と、前記外筒の内側に配置され上端部が閉口され下端部が開口された少なくとも一つの内筒と、
前記外筒の内部空間と前記内筒の内部空間を下部で連通し、発酵汚泥を前記外筒と前記内筒との間で流動可能とする下部連通経路と、
前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液面と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液面との間に液位差を形成する液位差形成機構と、
前記外筒と前記内筒の上部に形成される気相空間同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、
を備えたメタン発酵槽を用いるメタン発酵処理方法であって、
前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液位と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液位との間に液位差を設けつつ前記外筒と前記内筒との間で発酵汚泥を流動させる緩速攪拌工程と、
前記外筒と前記内筒に形成される前記気相空間の圧力差を解消することで、緩速攪拌工程で形成した液位差を解除して、緩速攪拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる急速攪拌工程と、
前記急速攪拌工程または前記緩速攪拌工程の後に前記発酵汚泥を静置する静置工程と、
を繰り返すとともに、
前記メタン発酵槽からのバイオガスの発生量に応じて、前記静置工程の時間、前記緩速攪拌工程の時間、前記急速攪拌の時間の少なくとも何れか一つを調整するメタン発酵処理方法。
【請求項3】
前記発酵汚泥の蒸発残留物濃度が5%以上である請求項1または2記載のメタン発酵処理方法。
【請求項4】
前記下部連通経路に対応するように前記発酵槽の底部に攪拌羽根を備えた旋回機構が設けられ、
前記急速攪拌工程において、前記旋回機構により前記発酵汚泥の旋回流が形成される請求項1または2記載のメタン発酵処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、稲わらや麦わらに代表される圃場で収穫した穀類の収穫後に生じる農業廃棄物を原料にして、嫌気性微生物を用いてエネルギー源として利用可能なメタンを主成分とするバイオガスを生成するメタン発酵装置およびメタン発酵処理方法が開示されている。このような農業廃棄物に限らず一般廃棄物に含まれる紙ごみや生ごみなどの有機性廃棄物を原料としてメタン発酵処理を活用した資源循環方法が注目されている。
【0003】
特許文献2には、槽内の液に上昇流および上昇流の外側を下降する下降流を生じさせて液を循環させる第1循環手段と、槽内の液に上昇流の部分を軸とする水平旋回流を生じさせ液を循環させる第2循環手段と、を備えたメタン発酵装置が提案されている。
【0004】
特許文献3には、密閉された槽本体と、該槽本体内に区画形成されて、有機性廃棄物をメタン発酵させる主発酵部と、該主発酵部より上方の槽本体内に区画形成されて、上部にメタンガスの排出口を有し、かつ槽本体内で造粒されたグラニュールを一時貯留する沈殿部と、仕切り筒を介して沈殿部の外周部に区画形成されて、主発酵部から流入されてきたメタン発酵後の消化汚泥をいったん貯留するとともに、該消化汚泥の排出口が形成された消化汚泥貯留部と、該消化汚泥貯留部と、主発酵部に貯留されたスラリーの液面下とを連通する管状のミキシングシャフトと、沈殿部の中央部と主発酵部の中央部とを連通し、かつチューブ途中にはスラリーの供給口が形成されたセンターチューブと、主発酵部内で発生したメタンガスが溜まる該主発酵部の上部と、沈殿部内で発生したメタンガスが溜まる該沈殿部の上部とを連通する連通管に接続された均圧弁と、を備えたメタン発酵槽が提案されている。
【0005】
当該メタン発酵槽は、槽本体をセンターチューブで内側のグラニュール造粒部と外側の主発酵領域に仕切り、発生ガスを用いて主発酵部の液面を加圧し、内側領域との間に水位差を形成した状態で、均圧弁を解放することにより、水位差の解消に伴って発生する発酵液の流動により槽内を攪拌するように構成されている。
【0006】
このように、メタン発酵処理を効率的に進めるためには、菌体を含む汚泥であるメタン発酵汚泥をメタン発酵槽内で滞留させることなく、攪拌混合を促進させる必要がある。
【0007】
そのため、攪拌翼を用いて槽内で発酵液を機械的に攪拌する方法、メタン発酵により生成されたバイオガスを槽内に供給してガスの上昇流を利用して発酵液を攪拌する方法、ポンプを利用して発酵液を槽内で循環させて攪拌する方法、内外に区分した領域間の水位差を利用して発酵液を攪拌する方法などがこれまで提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2023-131221号公報
【文献】特開2002-263693号公報
【文献】特開2000-301116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、攪拌翼を用いて機械的に攪拌する方法は、動力が過大となり、発酵槽の大型化および発酵汚泥の高濃度化に対応するのが困難であるばかりでなく、発酵汚泥に対する攪拌パターンが限られるため槽内で死水域ができる虞があり、一度死水域ができてしまうと、発酵汚泥や原料である処理対象物が堆積して十分な発酵処理が阻害され、メンテナンス時に死水域の清掃が必要になるという問題があった。
【0010】
また、ポンプを利用する方法は、槽内で発酵汚泥を循環させるために発酵槽から発酵汚泥を引抜き、引き抜いた発酵汚泥を槽内に戻す循環ルートを設定する必要があるが、発酵槽が大型化すると槽内の発酵汚泥を均質に攪拌するための効果的な循環ルートの設定が困難であるという問題があった。
【0011】
バイオガスを用いて発酵汚泥を攪拌する方法は、ドラフトチューブにバイオガスを供給して、ドラフトチューブを上昇するバイオガスの動きに伴ってドラフトチューブの内外に生じる循環流により攪拌する方法が例示できるのであるが、発酵槽が大型化すると攪拌範囲が制限されるのでドラフトチューブの設置数を増やす必要があるばかりでなく、発酵汚泥の性状によって循環流の挙動が変動するため、その配置を決定するのが困難であるという問題などがあった。
【0012】
特許文献3に記載されたメタン発酵槽では、内側領域よりも発酵汚泥貯留量の大きな主発酵部内で発生したバイオガスを主発酵部の上方空間に貯留させることにより、主発酵部の水位を内側領域よりも低下させる構造であるため、水位差を形成するために時間を要し、特に発酵汚泥の固形物濃度が高く粘度が高い場合には、バイオガスが発酵液にトラップされて、効率的に液位を低下させることができないという問題があり、撹拌効率の向上という観点で一層の改良の余地があった。
【0013】
本発明の目的は、発酵汚泥の固形物濃度が高い場合でも低動力で発酵液を良好に攪拌でき、発酵効率に優れたメタン発酵処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明によるメタン発酵処理方法の第一の特徴構成は、上下端部が閉口された外筒と、前記外筒の内側に配置され上端部が閉口され下端部が開口された少なくとも一つの内筒と、前記外筒の内部空間と前記内筒の内部空間を下部で連通し、発酵汚泥を前記外筒と前記内筒との間で流動可能とする下部連通経路と、前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液面と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液面との間に液位差を形成する液位差形成機構と、前記外筒と前記内筒の上部に形成される気相空間同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、を備えたメタン発酵槽を用いるメタン発酵処理方法であって、前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液位と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液位との間に液位差を設けつつ前記外筒と前記内筒との間で発酵汚泥を流動させる緩速攪拌工程と、前記外筒と前記内筒に形成される前記気相空間の圧力差を解消することで、緩速攪拌工程で形成した液位差を解除して、緩速攪拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる急速攪拌工程と、前記急速攪拌工程または前記緩速攪拌工程の後に前記発酵汚泥を静置する静置工程と、を繰り返すとともに、前記緩速攪拌工程と前記急速攪拌工程を含む処理時間に占める前記静置工程の割合が75%以上である点にある。
【0015】
液位差形成機構により外部から外筒にバイオガスが供給される外筒加圧により、外筒の上部にバイオガスが貯留される気相空間が拡張されて外筒に貯留される発酵汚泥の液面が内筒に貯留される発酵汚泥の液面より低下して液位差が形成され、液位差の形成に伴って発酵汚泥が下部連通経路を介して外筒から内筒に静的に流動することで発酵汚泥の緩やかな攪拌、すなわち緩速攪拌工程が実行される。このとき、外筒に滞留するメタン発酵液の液中から発生するバイオガスにより加圧するのではなく、外部から供給されるバイオガスにより加圧するため、適切な時間内に適切な液位差を形成することができる。
【0016】
反対に内筒に外部からバイオガスが供給される内筒加圧により、内筒の上部にバイオガスが貯留される気相空間が拡張されて内筒に貯留される発酵汚泥の液面が外筒に貯留される発酵汚泥の液面より低下して液位差が形成され、液位差の形成に伴って発酵汚泥が下部連通経路を介して内筒から外筒に静的に流動することで発酵汚泥の緩やかな攪拌、すなわち緩速攪拌工程が実行される。同様に、内筒に滞留するメタン発酵液の液中から自然発生するバイオガスにより加圧するのではなく、外部から供給されるバイオガスにより強制加圧するため、適切な時間内に適切な液位差を形成することができる。
【0017】
さらに、外筒と内筒の上部に形成される気相空間同士を連通する上部連通経路を閉状態から開状態に切り替えると、前者の場合には発酵汚泥が下部連通経路を介して内筒から外筒に動的に流動し、後者の場合には発酵汚泥が下部連通経路を介して外筒から内筒に動的に流動し、発酵汚泥が急激に攪拌、すなわち急速攪拌工程が実行される。
【0018】
上述した急速攪拌工程または緩速攪拌工程により発酵液中で菌叢と原料および原料の分解生成物である有機酸などが攪拌された後に、発酵汚泥を静置する静置工程を実行することにより、菌叢によるメタン発酵処理が効果的に促進される。そして、急速攪拌工程および緩速攪拌工程と、急速攪拌工程または緩速攪拌工程の後に発酵汚泥を静置する静置工程とを繰り返すことにより、メタン発酵処理が効率的に進むようになる。
【0019】
そして、急速攪拌工程および緩速攪拌工程と、急速攪拌工程または緩速攪拌工程の後に発酵汚泥を静置する静置工程とに要する処理時間を単位周期として、単位周期に占める静置工程の割合を75%以上に設定することにより、良好な発酵効率が実現できる。
【0020】
同第二の特徴構成は、上下端部が閉口された外筒と、前記外筒の内側に配置され上端部が閉口され下端部が開口された少なくとも一つの内筒と、前記外筒の内部空間と前記内筒の内部空間を下部で連通し、発酵汚泥を前記外筒と前記内筒との間で流動可能とする下部連通経路と、前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液面と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液面との間に液位差を形成する液位差形成機構と、前記外筒と前記内筒の上部に形成される気相空間同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、を備えたメタン発酵槽を用いるメタン発酵処理方法であって、前記外筒または前記内筒に外部からバイオガスを供給して、前記外筒に貯留される前記発酵汚泥の液位と前記内筒に貯留される前記発酵汚泥の液位との間に液位差を設けつつ前記外筒と前記内筒との間で発酵汚泥を流動させる緩速攪拌工程と、前記外筒と前記内筒に形成される前記気相空間の圧力差を解消することで、緩速攪拌工程で形成した液位差を解除して、緩速攪拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる急速攪拌工程と、前記急速攪拌工程または前記緩速攪拌工程の後に前記発酵汚泥を静置する静置工程と、を繰り返すとともに、前記メタン発酵槽からのバイオガスの発生量に応じて、前記静置工程の時間、前記緩速攪拌工程の時間、前記急速攪拌の時間の少なくとも何れか一つを調整する点にある。
【0021】
上述の作用に加えて、緩速攪拌工程、急速攪拌工程、静置工程の各時間の何れかを調整可能にすることにより、良好な発酵効率が得られるようになる。目標とする発酵効率に基づいて各時間を適宜調整すればよい。
【0022】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記発酵汚泥の蒸発残留物濃度が5%以上である点にある。
【0023】
蒸発残留物濃度が5%以上の発酵汚泥に対して効果的に発酵処理を促進させることができる。
【0024】
同第四の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記下部連通経路に対応するように前記発酵槽の底部に攪拌羽根を備えた旋回機構が設けられ、前記急速攪拌工程において、前記旋回機構により前記発酵汚泥の旋回流が形成される点にある。
【0025】
旋回機構を備えていない場合には、急速攪拌の際に発酵汚泥が主に筒状体の径方向に移動して、周方向への攪拌力が生じないため攪拌性能が不足する虞がある。しかし、旋回機構を備えることにより、急速攪拌の際に発酵汚泥が径方向および周方向に攪拌されるので、良好な攪拌効果が得られるようになる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した通り、本発明によれば、発酵汚泥の粘度が大きい場合でも低動力で発酵液を良好に攪拌でき、発酵効率に優れたメタン発酵処理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)はメタン発酵槽を含むメタン発酵装置の構成を示す説明図、(b)はメタン発酵槽の平面図
【
図2】メタン発酵処理方法の一態様である第1攪拌工程の説明図
【
図3】メタン発酵処理方法の他の態様である第2攪拌工程の説明図
【
図4】(a)はメタン発酵処理方法の工程の説明図、(b)はメタン発酵処理方法の工程の他の態様を示す説明図、(c)はメタン発酵処理方法の工程のさらに他の態様を示す説明図
【
図5】(a)はメタン発酵槽に備えた攪拌羽根の側面視の説明図、(b)はメタン発酵槽に備えた攪拌羽根の他の態様を示す側面視の説明図、(c)から(f)はメタン発酵槽に備えた攪拌羽根の平面視の形状および配置を示す説明図
【
図6】(a)はメタン発酵槽の他の態様を示す縦断面の説明図、(b)は同横断面の説明図
【
図7】(a)はメタン発酵槽のさらに他の態様を示す縦断面の説明図、(b)は同横断面の説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明のメタン発酵槽およびメタン発酵処理方法を、原料として圃場で発生した米の収穫残渣である稲わらを発酵原料に用いる場合を例に説明する。
【0029】
図1(a),(b)には、本発明によるメタン発酵装置1が例示されている。
図1(a)はメタン発酵槽2の内部構造およびメタン発酵槽2を稼働させるために必要な周辺機器の配置を示す説明図であり、
図1(b)はメタン発酵槽2の内部構造を示す平面視の説明図である。
【0030】
メタン発酵装置1は、メタン発酵槽2と、メタン発酵槽で生じたメタンガス、二酸化炭素などを含むバイオガスを駐留するガスホルダ7、メタン発酵槽2に貯留された発酵液を引抜き、一部を系外に排出して、残部をメタン発酵槽2に循環供給する循環経路9、ガスホルダ7に貯留されたバイオガスをメタン発酵槽2に加圧供給するガス供給管2L、バルブV1,V2、およびブロワBなどを備えている。メタン発酵槽2の周壁には熱媒体が通流する保温ジャケットが設けられ、槽内が発酵に適した約55℃に維持されている。例えば、ガスホルダ7に貯留されたバイオガスを燃料とする燃焼器により生じる熱で加熱される水が熱媒体として利用される。
【0031】
メタン発酵槽2の本体は、上下端部が閉口された外筒3と、外筒3の内側に配置され上端部が閉口され下端部が開口された少なくとも一つの内筒4と、を備えている。この例では、外筒3および内筒4はともに断面が円形状の円筒体であり、外筒3の水平断面積に対する内筒4の水平断面積が0.5に設定されている。後に詳しく説明するが、水平断面積の比率は0.5に限るものではなく、0.3~0.7倍の範囲に設定されていればよく、0.4~0.6倍の範囲に設定されていればさらによい。
【0032】
外筒3および内筒4の形状は円筒体に限るものではなく、断面が楕円形状の楕円筒体や、断面が矩形の矩形筒体であってもよく、それぞれが管体で形成されていればよい。また、管体の水平断面積は高さ方向に沿って同一であることが好ましいが、僅かに異なっていてもよい。例えば、下方より上方が拡がっていてもよいし、逆に狭まっていてもよい。高さ方向に沿って外筒3の水平断面積に対する内筒4の水平断面積の比率が異なる場合には、水平断面積の比率の平均値が0.3~0.7倍の範囲、好ましくは0.4~0.6倍の範囲、さらに好ましくは0.5に設定されていればよい。
【0033】
さらに、外筒3で発生したバイオガスをガスホルダ7に導くバイオガス排出管3Lと、内筒4で発生したバイオガスをガスホルダ7に導くバイオガス排出管4Lを備え、バイオガス排出管3L,4LにバルブV3,V4が配されている。
【0034】
メタン発酵槽2は、外筒3と内筒4の上部に形成される気相空間3s,4s同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能なバルブV5を備えた上部連通経路6を備えるとともに、外筒3の内部空間と内筒4の内部空間を下部で連通し、発酵汚泥を外筒3と内筒4との間で流動可能とする下部連通経路5を備えている。上部連通経路6に備えたバルブV5は、開度を調整することにより通流するガス量を調整する流量調整機構としても機能する。
【0035】
さらに、メタン発酵槽2は、外筒3または内筒4に外部からバイオガスを供給して、外筒3に貯留される発酵汚泥の液面と内筒4に貯留される発酵汚泥の液面との間に液位差を形成する液位差形成機構8を備えている。上述したガス供給管2L、バルブV1,V2、およびブロワBにより液位差形成機構8が構成される。
【0036】
循環経路9は、メタン発酵槽2の下部から発酵汚泥を引抜く引抜き配管9Aと、引抜いた発酵汚泥にメタン発酵原料を加えてメタン発酵槽2に供給する供給配管9Bを備え、引抜き配管9Aには引抜きポンプP2、供給配管9Bには供給ポンプP1を備えている。また、引抜き配管9Aと供給配管9Bを結ぶ経路に原料供給機構10を備えている。原料供給機構10は、原料となる裁断された稲わらと発酵汚泥とを混合する混合器を備えており、さらに希釈水を加えて混合するようにしてもよい。
【0037】
上述したメタン発酵槽2を用いたメタン発酵処理方法について説明する。
メタン発酵処理方法は、
図2に示す第1撹拌工程と、
図3に示す第2撹拌工程を含む。
図2に示すように、第1撹拌工程は、上部連通経路6を閉じた状態で液位差形成機構8により外部からバイオガスを外筒3に供給することにより、外筒3の液位を低下させるとともに内筒4の液位を上昇させて液位差を形成し、その状態で上部連通経路6を開いて液位差を解消させることで発酵汚泥を撹拌する工程をいう。
【0038】
図3に示すように、第2撹拌工程は、上部連通経路6を閉じた状態で液位差形成機構8により外部からバイオガスを内筒4に供給することにより、内筒4の液位を低下させるとともに外筒3の液位を上昇させて液位差を形成し、その状態で上部連通経路6を開いて液位差を解消させることで発酵汚泥を撹拌する工程をいう。「外部」とは、メタン発酵槽2の外部を意味し、本実施形態ではガスホルダ7に貯留されたバイオガスが用いられる。メタン発酵槽2に滞留する発酵液の液中から自然発生するバイオガスにより加圧するのではなく、外部からブロワBを介して供給されるバイオガスにより強制加圧するため、適切な時間内に適切な液位差を形成することができる。
【0039】
図2,3では外筒3および内筒4の天井部に接続されたガス供給管2LからバルブV1,V2を介して選択的にガスが供給されるように構成しているが、其々の発酵液中にバイオガスを供給するようにガス供給管2Lの先端が発酵液中に位置するように配置されていてもよい。
【0040】
液位差が形成される過程で、外筒3と内筒4に貯留された発酵汚泥が下部連通経路5を介して静的に流動する緩速撹拌工程が実行され、液位差が解消される過程で、外筒3と内筒4に貯留された発酵汚泥が下部連通経路5を介して動的に流動する急速撹拌工程が実行される。
【0041】
バイオガスを外筒3に供給する工程を外筒加圧工程といい、バイオガスを内筒4に供給する工程を内筒加圧工程という。外筒3の水平断面積に対する内筒4の水平断面積が0.5に設定され、外筒加圧工程で生じる液位差と内筒加圧工程で生じる液位差が同じである場合には、液位差に相当する発酵液の液量は同等の値、つまり液位差により生じる位置エネルギーは同等の値になり、液位差に起因する撹拌力は同等の値となる。なお、水平断面積の比率は0.5に限るものではなく、上述した範囲であれば特段の問題はない。
【0042】
図4(a)に示すように、メタン発酵処理方法は、緩速撹拌工程と、急速撹拌工程と、静置工程とを所定の順序で繰り返すことにより、効果的にバイオガスを生成する方法である。
上述したように、緩速撹拌工程とは、外筒3または内筒4に外部からバイオガスをブロワB等のバイオガス供給手段により強制的に供給して、外筒3に貯留される発酵汚泥の液位と内筒4に貯留される発酵汚泥の液位との間に液位差を設けつつ外筒3と内筒4との間で発酵汚泥を流動させる撹拌工程をいう。
【0043】
急速撹拌工程とは、外筒と内筒に形成される気相空間の圧力差を解消することで、緩速撹拌工程で形成した液位差を解除して、緩速撹拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる撹拌工程をいう。静置工程とは、急速撹拌工程または緩速撹拌工程の後に発酵汚泥を静置する工程をいう。
【0044】
例えば、メタン発酵槽2の容量が40L程度であれば、緩速撹拌工程に要する時間は数十秒から数分程度、急速撹拌工程に要する時間は0.1秒から1分程度、静置工程に要する時間は30分から1時間程度に設定され、静置工程を含めて第1撹拌工程と第2撹拌工程が交互に繰り返される。良好な発酵効率を得るために、緩速撹拌工程と急速撹拌工程を含む処理時間に占める静置工程の割合は75%以上に設定されていることが好ましい。なお、其々の工程に要する時間は、この値に限るものではなく、目標とする発酵効率に基づいて適宜設定される。
【0045】
静置工程は急速撹拌工程の後に実行される以外に、
図4(b)に示すように、静置工程が急速撹拌工程の後に実行されてもよく、
図4(c)に示すように、緩速撹拌工程および急速撹拌工程の其々の後に静置工程が実行されてもよい。換言すると、メタン発酵処理方法は、第1撹拌工程と第2撹拌工程を繰り返す処理方法であり、第1撹拌工程と第2撹拌工程との間、または、それぞれの工程中(緩速攪拌工程と急速攪拌工程との間)に静置工程を含む処理方法でもある。
【0046】
液位差の開放による発酵液の撹拌である急速撹拌時においては、発酵液全体を強制的に流動させるため、汚泥などの固形分や液中に溶解した有機酸などを強制的に移動および混合させることができる。一方で、緩速撹拌時には、メタン菌などを多く含む汚泥などの固形物は滞留した状態で、有機酸などが溶解した流動性の高い液分が固形分の間を流動することで、メタン菌と有機酸が効率よく接触していると想定される。
【0047】
そのため、緩速撹拌により、下部連通経路5のうち液体が必ず通過する外筒3と内筒4の境界付近の汚泥滞留部に有機酸などが溶解した液を浸透させることにより、効率的にメタン菌と有機酸を接触させることができるようになると想定されるのである。緩速撹拌工程では、ブロワBの風量をコントロール可能にすれば、汚泥と有機酸の接触の程度をコントロールすることができ、バイオガスの発生量を最大化するように調整することができる。例えば、ブロワBをインバータ回路で制御するように構成すればよい。
【0048】
急速撹拌工程では、液の移動速度が緩速撹拌に比べて非常に高く、槽内の発酵液の撹拌効率が高いため、基質を槽内全体に分散させることができる。急速撹拌工程における撹拌力が強い場合にはメタン発酵菌の凝集体を破壊する虞があり、撹拌力が弱い場合には基質の発酵液内の分散が不十分になる虞がある。そのため、上部連通経路6に備えたバルブV5の開度を調整することで、急速撹拌工程における撹拌力を調整可能に構成し、バイオガスの発生量を最大化するように調整することができる。
【0049】
そのため、ブロワBの風量やバルブV5の開度の調整は、静置工程を含めた第1撹拌工程と第2撹拌工程を含む撹拌周期を基準に計測されるバイオガスの発生量に基づいて調整すればよい。つまり、メタン発酵槽2からのバイオガスの発生量に応じて、静置工程の時間、緩速撹拌工程の時間、急速撹拌の時間の少なくとも何れか一つを調整することが好ましい。なお、急速撹拌工程における撹拌力を調整する方法として、バルブV5の開度を調整する他に、緩速撹拌工程で設定する液位差を調整してもよい。
【0050】
循環経路を介した発酵汚泥の発酵槽2への循環供給について、第2撹拌プロセスで内筒4の液位が低下した状態で、発酵汚泥を内筒4の液面より上方から循環供給するように設定することが好ましく、循環経路を介して供給される大きな位置エネルギーを持った発酵汚泥が液面に衝突し、液面に浮遊するスカムや発泡体などが破壊され、スカムの成長を阻止することができるようになる。
【0051】
本発明が適用される発酵汚泥の固形物濃度は高いことが好ましく、蒸発残留物濃度(通常「TS」とも記す。)が5%以上であることが好ましい。メタン発酵汚泥は、蒸発残留物濃度が5%以上になると非ニュートン流体の性質を示す傾向が強くなる。非ニュートン流体はせん断力に応じて粘度が変化する、つまり与えるせん断力が小さいと粘度が高くなるため、ガス攪拌やポンプ攪拌ではせん断力を与えられる範囲が限定的になり、槽内全体を撹拌することができない。しかし、本攪拌方式では、強制的に液位差を作るので、汚泥全体にせん断力を加えることができるため、槽内全体を良好に攪拌することができるようになる。
【0052】
蒸発残留物濃度度が5%未満であれば攪拌羽根を回転させる機械的撹拌でも発酵汚泥を攪拌可能になるが、蒸発残留物濃度度が5%以上になると攪拌羽根とその近傍にしか攪拌作用が及ばず槽全体を攪拌するために過大な攪拌設備が必要となる。また、蒸発残留物濃度が5%以上で上述した水槽撹拌(緩速・急速・静置)を実施すれば、メタン菌と有機酸の接触(緩速)、発酵液の全体攪拌(急速)を有効に作用させて、静置工程を十分に確保しても全体として高効率でメタン発酵処理を実行できる。
【0053】
図5(a)に示すように、メタン発酵槽2には、外筒3の内部空間と内筒4の内部空間を下部で発酵汚泥が流動可能に連通する下部連通経路5に対応して、複数枚の撹拌羽根11Aで構成され、上部に側板を備えていない開放状態の旋回機構11が、外筒3の底部に立設されていることが好ましい。そして、旋回機構11を構成する攪拌羽根11Aの上端が、内筒4の下端との間に間隙が形成されるように配置されていることが好ましい。
【0054】
攪拌羽根11Aを備えていない場合には、急速攪拌の際に発酵汚泥が主に筒状体の径方向に移動して、周方向への攪拌力が生じないため攪拌性能が不足する虞がある。しかし、上述の旋回機構11を備えることにより、急速攪拌の際に発酵汚泥が径方向および周方向に攪拌されるので、良好な攪拌効果が得られるようになる。
【0055】
図5(b)のように、攪拌羽根11Aの高さを下部連通経路5と同等の高さに設定することも可能である。但し、その場合には、発酵汚泥に塊状物が存在する場合に詰まりが生じ、或いは、攪拌羽根11Aの間に発酵汚泥が堆積する虞があるので、発酵汚泥の性状によっては、
図5(a)の態様が好ましく、攪拌羽根11Aの高さが下部連通経路5の高さの40~60%の範囲に設定するのが好ましい。
【0056】
各攪拌羽根11Aの形状は受圧面が外筒3の底面に垂直で平坦な板状体であり、外筒3の径方向に対して同一方向に僅かに傾斜させた姿勢で配置すればよい。
図5(c),(e)に示すように、各攪拌羽根11Aは平面視で内筒4の下端と交差する姿勢で内筒4の内側から外側に延在するように配置されることが好ましが、
図5(d)に示すように、各攪拌羽根11Aは平面視で内筒4の下端より内側に配置されていてもよい。さらに
図5(f)に示すように、各攪拌羽根11Aは受圧面が外筒3の底面に垂直で弧状の板状体であってもよい。
【0057】
図5(c)から(f)に示したように、例えば、上述した急速攪拌工程で発酵汚泥が外筒3側から内筒4側に動的に流動する場合には、旋回機構11により流れが偏向されて、図中一点鎖線で示す左旋回流が形成され、発酵汚泥に対する攪拌効果が高められる。また、発酵汚泥が内筒4側から外筒3側に動的に流動する場合には、旋回機構11により流れが偏向されて、図中二点鎖線で示す右旋回流が形成され、同様に発酵汚泥に対する攪拌効果が高められる。
【0058】
上述した実施形態では、外筒3の内側に同心上に内筒4が配されたメタン発酵槽2を説明したが、
図6(a),(b)に示すように、外筒3の内側に複数の内筒4が均等に分散配置されていてもよい。内筒4の数は4筒に限るものではなく、2筒、3筒、5筒であってもよい。この場合にも、外筒3の水平断面積に対する内筒4の水平断面積の和の比率は0.3~0.7倍の範囲に設定されていればよく、0.4~0.6倍の範囲であればさらに好ましく、0.5であることが最も好ましい。
【0059】
図7(a),(b)には、メタン発酵槽2のさらに他の態様が示されている。メタン発酵槽2の下部空間が連通する下部連通経路5を形成し、上部空間を少なくとも2つの区画に仕切る仕切壁Wと、少なくとも区画の1つに外部からバイオガスを供給して、当該区画に貯留される発酵汚泥の液位とその他の区画に貯留される発酵汚泥の液位との間に液位差を設ける液位差形成機構と、各区画の上部に形成される気相空間同士を連通し、連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、を備え、液位差形成機構は、全ての区画に対してバイオガスを供給可能に構成されている。
【0060】
区画数が2つであれば、左右の区画に対して
図4(a)に示した第1撹拌工程と第2撹拌工程を交互に繰り返すことになる。区画数が4つ以上であれば、任意の複数区画を2グループにグループ化して、グループを単位に第1撹拌工程と第2撹拌工程を交互に繰り返せばよい。グループ化する場合には、隣接する区画が異なるグループになるようにグループ化することが好ましい。
【0061】
上述した実施形態では、米の収穫残渣である稲わらを発酵原料に用いる場合を説明したが、本発明による発酵槽に好適な発酵原料として、麦わらなど、圃場で収穫した穀類の収穫後に生じる農業廃棄物を好適にもちいることができ、農業廃棄物の他に紙ごみや生ごみなどの有機性廃棄物や、下水汚泥や畜産廃棄物などの有機性廃棄物を用いることも可能である。
【0062】
上述した様々な実施形態は、本発明の一例であり、当該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0063】
1:メタン発酵装置
2:メタン発酵槽
2L: ガス供給管
3:外筒
3L:バイオガス排出管
4:内筒
4L:バイオガス排出管
5:下部連通経路
6:上部連通経路
6A:撹拌羽根
6B:電動モータ
6C:回転軸
7:ガスホルダ
8:液位差形成機構
10:原料供給機構(混合器)
11:旋回機構
11A:撹拌羽根
B:ブロワ
V1~V5:バルブ
【要約】
【課題】発酵汚泥の固形物濃度が高い場合でも低動力で発酵液を良好に攪拌でき、発酵効率に優れたメタン発酵処理方法を提供する。
【解決手段】上下端部が閉口された外筒の内側に下端部が開口された内筒を備え、外筒と内筒を下部で連通し発酵汚泥を流動可能とする下部連通経路と、外筒と内筒の上部に形成される気相空間同士を連通するとともに連通状態を開閉切替可能な上部連通経路と、を備えたメタン発酵槽を用いて、外筒または内筒に外部からバイオガスを供給して、外筒と内筒と間で液位差を設けつつ外筒と内筒との間で発酵汚泥を流動させる緩速攪拌工程と、外筒と内筒に形成される気相空間の圧力差を解消することで、緩速攪拌工程で形成した液位差を解除して、緩速攪拌プロセスとは逆向きに発酵汚泥を流動させる急速攪拌工程と、急速攪拌工程または緩速攪拌工程の後に発酵汚泥を静置する静置工程と、を繰り返すメタン発酵処理方法。
【選択図】
図1