IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タンク製造方法 図1
  • 特許-タンク製造方法 図2
  • 特許-タンク製造方法 図3
  • 特許-タンク製造方法 図4
  • 特許-タンク製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】タンク製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/48 20060101AFI20250723BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20250723BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20250723BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20250723BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20250723BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20250723BHJP
【FI】
B29C70/48
B29C39/10
B29C39/24
B29C70/06
F17C1/06
F16J12/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022068287
(22)【出願日】2022-04-18
(65)【公開番号】P2023158441
(43)【公開日】2023-10-30
【審査請求日】2024-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八田 健
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-151750(JP,A)
【文献】特開平04-329112(JP,A)
【文献】特開2021-172023(JP,A)
【文献】特開平04-044823(JP,A)
【文献】特開2021-167076(JP,A)
【文献】特開平06-071680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00-39/24
39/38-41/36
41/46-43/34
43/44-43/48
43/52-43/58
70/00-70/88
F16J 12/00-13/24
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部材と、前記中空部材の外面に形成された繊維層と、を含むタンク部材を金型内に配置する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間に前記繊維層に含浸される第1の樹脂を注入する第1の注入工程であって、前記第1の樹脂は、硬化剤を含む、前記第1の注入工程と、
前記第1の注入工程の後において、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間の圧力がピーク値に達して、前記圧力が前記ピーク値から低下したタイミングで、前記金型の上型を前記金型の下型から所定の距離だけ離す離間工程と、
前記離間工程の後に、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間に塗料を含む第2の樹脂を注入する第2の注入工程と、
前記第2の注入工程の後に、前記下型に対して前記上型を押し付ける押し付け工程と、
を備える、タンク製造方法。
【請求項2】
前記第2の樹脂は、前記第1の樹脂に対する前記第2の樹脂の密着性を高める補強材を含む、請求項1に記載のタンク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、タンクを製造するためのタンク製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、タンク製造方法が開示されている。当該タンク製造方法は、ライナと繊維層とを含むプリフォームを金型に設置する工程と、第1の樹脂組成物を繊維層に供給する工程と、第1の樹脂組成物の供給後に、上型を下型から所定の距離だけ離し、金型を除荷状態に変更する工程と、金型を除荷状態に変更した後に、第2の樹脂組成物を繊維層に供給する工程と、第2の樹脂組成物の供給後に、上型を下型に近づけて、金型を締め付け状態に変更する工程と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-151750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、タンクの完成品の外観品質が低下することを抑制するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示するタンク製造方法は、中空部材と、前記中空部材の外面に形成された繊維層と、を含むタンク部材を金型内に配置する配置工程と、前記配置工程の後に、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間に前記繊維層に含浸される第1の樹脂を注入する第1の注入工程であって、前記第1の樹脂は、硬化剤を含む、前記第1の注入工程と、前記第1の注入工程の後において、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間の圧力がピーク値に達して、前記圧力が前記ピーク値から低下したタイミングで、前記金型の上型を前記金型の下型から所定の距離だけ離す離間工程と、前記離間工程の後に、前記金型の内面と前記タンク部材の外面の間に塗料を含む第2の樹脂を注入する第2の注入工程と、前記第2の注入工程の後に、前記下型に対して前記上型を押し付ける押し付け工程と、を備える。
【0006】
第1の樹脂の硬化が開始する前に第2の樹脂が第1の樹脂に混じると、色むら、ボイド等が第2の樹脂の表面に発生する可能性がある。色むら、ボイド等は、タンクの完成品の外観品質の低下の原因となる。発明者は、金型の内面とタンク部材の外面の間の圧力がピークに達して、当該圧力がピーク値から低下したタイミングが、第1の樹脂の硬化が開始したタイミングであることを発見した。上記の構成によれば、第1の樹脂の硬化が開始したタイミングで、離間工程が実行されて金型の内面とタンク部材の外面の間に第2の樹脂が注入される。第2の樹脂が硬化前の第1の樹脂に混じることが抑制され、タンクの完成品の外観品質が低下することを抑制することができる。
【0007】
前記第2の樹脂は、前記第1の樹脂に対する前記第2の樹脂の密着性を高める補強材を含んでもよい。
【0008】
上記の構成によれば、第1の樹脂に対する第2の樹脂の密着性が向上し、タンクの完成品の外観品質の低下をさらに抑制することができる。
【0009】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タンク製造装置の構成を示す。
図2】タンク製造方法のフローチャート図である。
図3】脱気と一次注入の工程を示す。
図4】リフトアップと二次注入の工程を示す。
図5】第2の樹脂の硬化の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(タンク製造装置2の構成;図1
タンク製造装置2は、樹脂をタンク部材10に含浸させて、燃料電池車用の高圧タンクを製造する装置である。タンク部材10は、高圧タンクの中間品である。タンク部材10は、中空部材12と、繊維層14と、を備える。繊維層14は、中空部材12の外面に繊維を巻き付けることによって形成される。繊維は、例えば、炭素繊維である。
【0012】
タンク製造装置2は、金型26と、硬化剤タンク30と、ポンプ32と、第1の主剤タンク40と、第2の主剤タンク42と、切換え弁44と、ポンプ46と、混合器50と、を備える。金型26は、上型20と下型24とを備える。上型20と下型24が重なることにより、タンク部材10の外形に沿った空間が形成される。上型20の内面には、金型26内の圧力を計測するための圧力センサ22が設けられている。なお、圧力センサ22は、下型24の内面に設けられてもよく、また、複数個の圧力センサ22が、上型20の内面及び下型24の内面のうちの少なくとも一方に設けられてもよい。
【0013】
硬化剤タンク30は、硬化剤を貯蔵する。ポンプ32は、硬化剤タンク30内の硬化剤を混合器50に圧送する。ポンプ32は、硬化剤タンク30と混合器50との間の流路上に設置される。
【0014】
第1の主剤タンク40は、後述する第1の注入工程(図3のS4参照)において金型26に注入される第1の主剤を貯蔵する。第1の主剤は、例えば、エポキシ樹脂である。第1の主剤は、硬化剤と混ざり、両者の化学反応により硬化する。
【0015】
第2の主剤タンク42は、後述する第2の注入工程(図3のS8参照)において金型に注入される第2の主剤を貯蔵する。第2の主剤は、例えば、エポキシ樹脂である。第2の主剤は、塗料と、後述する補強材と、を含む。第2の主剤は、硬化剤と混ざり、両者の化学反応により硬化する。
【0016】
第1の主剤タンク40から延びる流路は、切換え弁44に接続されている。また、第2の主剤タンク42から延びる流路も、切換え弁44に接続されている。切換え弁44の状態は、第1の主剤タンク40から延びる流路がポンプ46に通ずる第1の状態と、第2の主剤タンク42から延びる流路がポンプ46に通ずる第2の状態と、のうちのいずれかに設定される。
【0017】
ポンプ46は、第1の主剤タンク40内の第1の主剤又は第2の主剤タンク42内の第2の主剤を混合器50に圧送する。ポンプ46は、切換え弁44と混合器50との間の経路上に設置される。
【0018】
混合器50は、硬化剤タンク30内の硬化剤を第1の主剤タンク40内の第1の主剤又は第2の主剤タンク42内の第2の主剤と混合する。混合器50は、混合後の材料(例えば第1の主剤と硬化剤の混合物)を金型26に圧送する。
【0019】
(タンク製造方法;図2図4
図2を参照して、タンク製造装置2を制御して高圧タンクを製造するタンク製造方法について説明する。
【0020】
図3は、工程S2及び工程S4を示す。工程S2では、タンク部材10が金型26内に配置され、下型24に対して上型20を押し付ける型締めが実行される。その後、金型26内の空間(即ち金型26の内面とタンク部材10の外面との間の空間)を真空に近づけるための脱気が実行される。なお、各図面では、脱気を実行する装置の図示が省略されている。
【0021】
続く工程S4では、一次注入が実行される。一次注入では、切換え弁44の状態が第1の状態に設定され、硬化剤タンク30内の硬化剤と、第1の主剤タンク40内の第1の主剤と、が混合器50に圧送される。そして、混合後の材料、即ち、第1の主剤と硬化剤との混合物(以下では「第1の混合物」と記載)が金型26内に圧送される。第1の混合物は、金型26の内面とタンク部材10の外面の間を流れる。第1の混合物が硬化しながら、第1の混合物がタンク部材10の繊維層14に含浸する。所定の量の第1の混合物が注入されると一次注入は停止される。
【0022】
図2の右側には、中空部材12内の圧力の推移を示すグラフG1と、金型26内の圧力の推移を示すグラフG2と、が記載されている。グラフG1及びG2について、横軸が時間を示し、縦軸が圧力を示す。
【0023】
タイミングt1は、一次注入が開始したタイミングを示す。グラフG1及びG2が示すように、一次注入の開始とともに、中空部材12内の圧力と金型26内の圧力が上昇する。一次注入では、中空部材12内の圧力と金型26内の圧力との間の差圧が制御される。
【0024】
タイミングt2は、一次注入が停止したタイミングを示す。グラフG2が示すように、一次注入の停止とともに、金型26内の圧力は、一旦低下するものの、再び上昇する。その後、金型26内の圧力は、ピーク値に達して、タイミングt3にて、ピーク値から低下する。金型26内の圧力がピーク値から低下したタイミングt3は、圧力センサ22の測定値の推移を利用して検知される。
【0025】
図4は、工程S6及びS8を示す。工程S6は、金型26内の圧力がピーク値から低下したタイミングt3が検知されることをトリガとして実行される。工程S6では、上型20が下型24からリフトアップされる。具体的には、上型20が下型24から所定の距離だけ離される。これにより、金型26の内面とタンク部材10の外面との間に所定の隙間が形成される。
【0026】
続く工程S8では、二次注入が実行される。二次注入では、切換え弁44の状態が第2の状態に設定され、硬化剤タンク30内の硬化剤と、第2の主剤タンク42内の第2の主剤と、が混合器50に圧送される。そして、混合後の材料、即ち、第2の主剤と硬化剤との混合物(以下では「第2の混合物」と記載)が金型26内に圧送される。第2の混合物は、金型26の内面とタンク部材10の外面の間を流れる。第2の混合物は、第1の混合物の周囲に塗布される。
【0027】
続く工程S10では、下型24に対して上型20を押し付けられる型締めが再び実行される。そして、工程S12では、所定の量の第2の混合物が注入されると二次注入が停止される。
【0028】
なお、図示は省略するが、第2の混合物の硬化の終了後に、タンク部材10が金型26から取り出される。取り出されたタンク部材10の繊維層14には、硬化した第1の混合物が含浸されており、硬化した第1の混合物の周囲には、硬化した第2の混合物が塗装されている。図2のタンク製造方法により、高圧タンクが完成する。
【0029】
発明者は、図2のグラフG2におけるタイミングt3(即ち金型26内の圧力がピーク値から低下したタイミング)が、第1の混合物の硬化が開始したタイミングであることを発見した。例えば、タイミングt3よりも前のタイミングにおいて工程S6及びS8を実行する比較例が想定される。この比較例では、第1の混合物の硬化が開始する前に第2の混合物が金型26に注入される。この場合、第2の混合物が硬化前の第1の樹脂に混じる可能性がある。第2の混合物と第1の混合物が混じると、色むら、ボイド等が第2の混合物の表面に発生した状態で、第2の混合物が硬化する可能性がある。色むら、ボイド等は、完成品である高圧タンクの外観品質の低下の原因となる。
【0030】
本実施例の構成によれば、第1の混合物の硬化が開始したタイミングt3において、リフトアップ及び二次注入が実行される(S6及びS8)。第2の混合物が硬化前の第1の混合物に混じることが抑制され、高圧タンクの外観品質が低下することを抑制することができる。
【0031】
(補強材の効果;図5
第2の主剤は、第1の混合物に対する第2の混合物の密着性を高めるための補強材を含む。補強材は、例えば、ガラスマイクロバルーンである。図5に示すように、工程S8の二次注入において、硬化を開始した第1の混合物100の外面に第2の混合物110が塗布される。ここで、硬化を開始した第1の混合物100の外面には、ボイド102が発生する。第2の混合物110の塗布が進むにつれて、第2の混合物110内の補強材112が、ボイド102内に侵入する。補強材112がボイド102内に侵入した状態において、第2の混合物110が硬化する。ボイド102に対して補強材112がアンカー効果を発揮し、第1の混合物に対する第2の混合物の密着性が高まる。これにより、高圧タンクの外観品質の低下をさらに抑制することができる。
【0032】
また、補強材112の表面には、カーボン、銀等の導電性材料がコーティングされている。これにより、プライマーを別途に塗布することが不要となる。なお、変形例では、補強材112の表面は導電性材料でコーティングされていなくてもよい。
【0033】
(対応関係)
中空部材12、繊維層14、タンク部材10が、それぞれ、「中空部材」、「繊維層」、「タンク部材」の一例である。金型26が、「金型」の一例である。第1の混合物100、第2の混合物110、補強材112が、それぞれ、「第1の樹脂」、「第2の樹脂」、「補強材」の一例である。図2のタンク製造方法が、「タンク製造方法」の一例である。S2、S4、S6、S8、S10が、それぞれ、「配置工程」、「第1の注入工程」、「離間工程」、「第2の注入工程」、「押し付け工程」の一例である。図2のタイミングt3が、「タイミング」の一例である。
【0034】
以下、実施例で示した技術に関する留意点を述べる。第2の混合物110は、補強材112を含まなくてもよい。
【0035】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
2 :タンク製造装置
10 :タンク部材
12 :中空部材
14 :繊維層
20 :上型
22 :圧力センサ
24 :下型
26 :金型
30 :硬化剤タンク
32 :ポンプ
40 :第1の主剤タンク
42 :第2の主剤タンク
44 :切換え弁
46 :ポンプ
50 :混合器
100 :第1の混合物
102 :ボイド
110 :第2の混合物
112 :補強材
G1、G2 :グラフ
t1、t2、t3 :タイミング
図1
図2
図3
図4
図5