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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】ステータの製造方法及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20250101AFI20250723BHJP
   H02K 15/095 20060101ALI20250723BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20250723BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20250723BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20250723BHJP
【FI】
H02K15/04
H02K15/095
B23K9/167 A
B23K9/02 S
B23K9/00 501N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022112543
(22)【出願日】2022-07-13
(65)【公開番号】P2024010934
(43)【公開日】2024-01-25
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康文
(72)【発明者】
【氏名】松尾 烈
(72)【発明者】
【氏名】間部 秀毅
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-350422(JP,A)
【文献】米国特許第04225770(US,A)
【文献】特開2003-219614(JP,A)
【文献】特開2004-328861(JP,A)
【文献】特開2008-154433(JP,A)
【文献】国際公開第2007/124985(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 15/095
B23K 9/167
B23K 9/02
B23K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステータコアの周方向に並べられて配置される複数のコイルの端部に対してTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行うステータの製造方法であって、
前記コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、前記コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する溶接端保持工程と、
前記他の配線に設けられる溶接対象位置とは異なる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する電極端保持工程と、
前記電極クランプを通電させて前記溶接クランプによりクランプされた前記コイル端と前記他の配線をTIG溶接により接合する溶接工程と、
を有するステータの製造方法。
【請求項2】
前記溶接工程の後に前記ステータコアを回転させて、溶接対象としたコイル端に対して前記回転の方向とは逆方向に隣接する次コイル端を、前記回転の前の前記コイル端の位置に移動させる次溶接準備工程を有する請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記溶接クランプは、前記コイル端を前記他の配線側に押しつける第1のクランプ治具と、前記他の配線を前記コイル端側に押しつける第2のクランプ治具と、により前記溶接端保持工程を実施する請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記溶接クランプは、前記コイル端と前記他の配線の位置を固定する第1のクランプ治具と、前記第1のクランプ治具と対向する方向から前記コイル端と前記他の配線の位置を固定する第2のクランプ治具と、により前記溶接端保持工程を実施する請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
環状のステータコアの周方向に並べられて配置される複数のコイルに対してTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行う溶接装置であって、
前記コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、前記コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する溶接クランプ制御部と、
前記他の配線に設けられる溶接対象位置とは異なる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する電極クランプ制御部と、
前記コイル端と前記他の配線とをTIG溶接により接合するトーチを制御するトーチ制御部と、
を有する溶接装置。
【請求項6】
前記ステータコアを回転させて、溶接対象としたコイル端に対して前記回転の方向とは逆方向に隣接する次コイル端を、前記回転の前の前記コイル端の位置に移動させるステータ回転制御部をさらに有する請求項5に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステータの製造方法及び溶接装置に関し、ステータに備えられたセグメントコイルの端部がTIG溶接により接合されるステータの製造方法及びそのTIG溶接を行う溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動力源にモータを利用する電気自動車(ハイブリッド自動車、プラグインハイブリット自動車、電気自動車等)への需要が拡大している。このような電気自動車に搭載されるモータは、ステータ(固定子)とローター(回転子)が用いられる。そしてステータにはセグメントコイルが多数用いられる。ここで、セグメントコイルは、モータの駆動相数が3で有れば、3つの電流経路を構成するように分割される。そして、分割されたセグメントコイルは、電流経路毎に複数のセグメントコイルにより構成される。このとき、1つの電流経路を構成する複数のセグメントコイルは、コイル端をTIG(Tungsten Inert Gas)溶接することで電気的に接続される。そこで、セグメントコイルに対するTIG溶接技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のステータの製造方法は、環状をなし、その軸方向に垂直な主面を有し、前記軸方向に貫通すると共に径方向に延びるスロットが周方向に複数並んで形成されたステータコアと、前記スロットに挿入された複数のセグメント部材であって、各々のセグメント端部が前記主面から突出すると共に、互いに隣り合い互いに溶接される一対の前記セグメント端部がそれぞれセグメント端部対をなし、このセグメント端部対が前記径方向に列をなして複数並んでセグメント端部対群を構成し、このセグメント端部対群が周方向に複数並んで配置されたセグメント部材と、を備えるセグメント挿入済みステータコアのうち、前記セグメント端部対をそれぞれ位置決めするステータの製造方法であって、各々の前記セグメント端部対群に対応して径方向に延びると共に周方向に複数並んで形成された第1端部対群挿入窓を有し、前記第1端部対群挿入窓を構成する第1内周壁が、前記周方向のうち一方の第1周方向に向かって突出すると共に前記径方向に所定間隔で複数並んで配置された第1突出部を有する第1プレートを、前記ステータコアの主面側に配置し、前記セグメント端部対群を前記第1端部対群挿入窓に挿入して、各々の前記セグメント端部の先端側を前記第1プレートから突出させ、各々の前記セグメント端部対群に対応して径方向に延びると共に周方向に複数並んで形成された第2端部対群挿入窓を有し、前記第2端部対群挿入窓を構成する第2内周壁が、前記周方向のうち前記第1 周方向とは反対側の第2周方向に向かって突出すると共に前記径方向に所定間隔で複数並んで配置された第2突出部を有する第2プレートを、前記第1プレート上であって前記ステータコアと反対側に配置し、前記セグメント端部対群を前記第2端部対群挿入窓に挿入して、前記セグメント端部のうち少なくとも溶接される各々の溶接先端部を前記第2プレートから突出させ、前記第1プレートを前記第1周方向へ回転させると共に前記第2 プレートを前記第2周方向へ回転させて、前記第1突出部を前記第1周方向へ移動させ、前記セグメント端部対群を構成する前記セグメント端部対同士の間にそれぞれ差し込むと共に、前記第2突出部を前記第2周方向へ移動させ、前記セグメント端部対群を構成する前記セグメント端部対同士の間にそれぞれ差し込んで、前記セグメント端部対をそれぞれ位置決めする位置決め工程を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-130577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のステータの製造方法では、溶接対象のコイル端部にTIG溶接のための電極を接触させるためにコイル端部の長さを長くしなければならず、ステータの小型化が困難である問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、コイルを含むステータの体積を削減することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるステータの製造方法の一態様は、環状のステータコアの周方向に並べられて配置される複数のコイルの端部に対してTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行うステータの製造方法であって、
前記コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、前記コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する溶接端保持工程と、
前記他の配線に設けられる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する電極端保持工程と、
前記電極クランプを通電させて前記溶接クランプによりクランプされた前記コイル端と前記他の配線をTIG溶接により接合する溶接工程と、
を有する。
【0008】
本発明にかかる溶接装置の一態様は、環状のステータコアの周方向に並べられて配置される複数のコイルに対してTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行う溶接装置であって、前記コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、前記コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する溶接クランプ制御部と、前記他の配線に設けられる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する電極クランプ制御部と、前記コイル端と前記他の配線とをTIG溶接により接合するトーチを制御するトーチ制御部と、
を有する。
【0009】
本発明にかかるステータの製造方法及び溶接装置では、溶接対象のコイル端とは異なる他の位置に電極クランプを接触させた状態でTIG溶接を行うことで、溶接対象のコイル端の長さを短くする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、コイルを含むステータの体積を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1にかかるステータの製造方法におけるクランプ位置を説明する図である。
図2】実施の形態1にかかるステータの製造方法におけるクランプ位置をステータ上面から見た図である。
図3】実施の形態1にかかるステータの製造方法における溶接クランプの第1の例を説明する図である。
図4】実施の形態1にかかるステータの製造方法における溶接クランプの第2の例を説明する図である。
図5】実施の形態1にかかるステータの製造方法の流れを説明するフローチャートである。
図6】実施の形態1にかかる溶接装置の概略を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0013】
実施の形態1
実施の形態1にかかるステータの製造方法は、環状のステータコアの周方向に並べられて配置される複数のコイルに対してTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行う。そして、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接時のコイルの端部(以下、コイル端と称す)のクランプ方法に特徴の1つを有する。そこで、図1に実施の形態1にかかるステータの製造方法におけるクランプ位置を説明する図を示す。
【0014】
なお、ステータに設けられるコイルには、U字形状に形成されたセグメントコイルと、バネ状に形成されたカセットコイルとがある。セグメントコイルは分布巻ステータに用いられ、カセットコイルは集中巻ステータに用いられる。以下の説明では、カセットコイルを有するステータの製造方法及びこのステータに対してTIG溶接を行う溶接装置について説明するが、セグメントコイルに対しても同様にTIG溶接を行うこともできる。
【0015】
また、以下の説明では、第1のカセットコイルの端部となる第1のコイル端と、第2のカセットコイルの端部である第2のコイル端と、を溶接する例について説明する。つまり、以下の説明では、他の配線は、第2のカセットコイルの端部である第2のコイル端である。しかしながら、第1のコイル端の溶接対象の配線は第2のコイル端のみに限られず、バスバー、動力線など、様々な配線を溶接対象することができる。
【0016】
まず、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接端保持工程と、電極端保持工程と、溶接工程と、を少なくとも含む。そして、溶接端保持工程では、コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する。電極保持工程では、他の配線に設けられる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する。溶接工程では、電極クランプを通電させて溶接クランプによりクランプされたコイル端と他の配線をTIG溶接により接合する。
【0017】
ここで、2つのカセットコイルを例とした場合、コイル端は、第1のコイル端となり他の配線は第2のコイル端となり、通電位置は第3のコイル端となる。そこで、これらのコイル端を用いて実施の形態1にかかるステータの製造方法を具体的に言い換えると、以下のようになる。溶接端保持工程では、第1のカセットコイルを構成する配線の一端である第1のコイル端と、第1のカセットコイルに対して1つ以上のカセットコイルを挟んで隣り合う第2のカセットコイルを構成する配線の他端である第2のコイル端と、を溶接クランプで保持する。電極端保持工程では、第2のカセットコイルの第2のコイル端の反対側の端部である第3のコイル端を導電性を有する電極クランプで保持する。溶接工程では、電極クランプを通電させて溶接クランプにより第1のコイル端と前記第2のコイル端をTIG溶接により接合する。
【0018】
以下の説明では、カセットコイル11を第1のカセットコイルとし、カセットコイル12を第2のカセットコイルとする例を説明するが、第1のカセットコイルと第2のカセットコイルは、溶接対象の配線を有する2つのカセットコイルの関係を示すものであり、2つのカセットコイルのいずれを第1のカセットコイルと第2のカセットコイルとしても良い。
【0019】
また、実施の形態1にかかるステータの製造方法は、モータの駆動相数によらず適用可能であるが、以下の説明では、三相駆動のモータに適用されるステータの製造方法について説明する。
【0020】
図1に示す例では、ステータコア10に所定の1相に対応する複数のカセットコイルのうちコイル線が溶接される2つのカセットコイルを示した。より具体的には、図1では、ステータコア10に搭載されるカセットコイルのうち第1のカセットコイル(例えば、カセットコイル11)と第2のカセットコイル(例えば、カセットコイル12)とを示した。また、図1に示す例は、三相駆動モータであるため、同相のカセットコイルが3つおきにステータコア10の周方向に並べられる。
【0021】
図1に示すように、カセットコイル11は、カセットコイル11から突出する第1のコイル端(例えば、コイル端T11)と、カセットコイル12とは反対側においてカセットコイル11に隣接する同相のカセットコイルに向かって伸びるコイル端T12とを有する。また、カセットコイル12は、カセットコイル11側向かってカセットコイル11のコイル端T11の位置まで伸びるコイル端T21と、コイル端T21と反対側の端部であって、カセットコイル11から突出する第3のコイル端(例えば、コイル端T22)と、を有する。
【0022】
そして、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、異なるカセットコイルのコイル端が近接する溶接対象位置にある2つのコイル端を溶接クランプ31、32でクランプする。また、TIG溶接では、溶接する母材に対して電流経路となる電極を接触させる必要がある。実施の形態1にかかるステータの製造方法では、導電性を有する電極クランプにより、溶接対象位置とは異なる位置であって、溶接対象の2つのカセットコイルの一方のカセットコイルのコイル端を保持する。図1に示す例では、カセットコイル12のコイル端T2(例えば、第3のコイル端)を電極クランプ33で保持する。なお、電極クランプ33が保持するコイル端は、カセットコイル12のコイル端T12であっても良い。
【0023】
続いて、実施の形態1にかかるステータの製造方法において設定される、溶接対象のコイル端T11とコイル端T21とをクランプする位置である溶接位置と、電極クランプでコイル端T22をクランプする電極位置と、について説明する。そこで、図2に実施の形態1にかかるステータの製造方法におけるクランプ位置をステータ上面から見た図に示す。
【0024】
実施の形態1にかかるステータの製造方法では、後述する溶接装置1を用いる。そして、溶接装置1は、図2に示すように、ステータを回転させることで、溶接クランプ31、32の可動範囲である溶接位置Aにステータコア10の周方向に並ぶコイル端T11及びコイル端T21を順次移動させる。また溶接装置1では、ステータを回転させることで、電極クランプ33の可動範囲である電極位置Bにステータコア10の周方向に並ぶコイル端T12を順次移動させる。
【0025】
なお、実施の形態1にかかるステータの製造方法は、ステータコア10を固定して、溶接クランプ31、32及び電極クランプ33をステータコア10の周方向に並ぶコイル端の位置に合わせて移動させても良い。
【0026】
続いて、溶接対象となるコイル端T11及びコイル端T21を保持する溶接クランプの形態について説明する。そこで、図3に実施の形態1にかかるステータの製造方法における溶接クランプの第1の例を説明する図を示し、図4に実施の形態1にかかるステータの製造方法における溶接クランプの第2の例を説明する図を示す。なお、クランプ治具の形状を示すため、図3ではクランプ治具の斜視図を示し、図4では、クランプ治具を上面視したときの図と側面視したときの図を示した。
【0027】
図3に示す第1の例は、コイル端T11とコイル端T21の端部の向く方向が同一の方向である場合の溶接クランプ31、32を説明するものである。また、図4に示す第2の例は、コイル端T11とコイル端T21の端部の向く方向が交差する場合の溶接クランプ31、32を説明するものである。図3図4に示すように、溶接対象のコイル端T11及びコイル端T21は、配線同士の導通を防止するための絶縁被膜IC1、IC2が剥がされた状態でクランプされる。溶接クランプ31、32は、この絶縁被膜IC1、IC2が剥がされた部分が接触するようにコイル端T11、T21を保持する。また、図3図4に示すように、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、電極クランプが溶接位置Aとは異なる電極位置Bにある。そのため、実施の形態1にかかる溶接装置1では、絶縁被膜IC1、IC2が剥離されて電流経路となる金属部分の長さを溶接部分として最低限必要な長さに抑制することができる。つまり、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、金属を露出させる長さを決定する際に電極クランプを接触させる長さが不要である。このような事から、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接対象箇所の金属露出範囲を削減してステータの体積を削減することが可能になる。
【0028】
また、図3に示す第1の例では、コイル端T11とコイル端T21とが対向する方向と直交する方向の両側から溶接クランプ31、溶接クランプ32を用いてコイル端T11とコイル端T21が接触するようにクランプする。例えば、溶接クランプ31、32は、側面にテーパー面を有し、溶接クランプ31、32が近づくほどコイル端T11とコイル端T21とが近づくような構成とすることができる。つまり、図3に示すクランプ治具は、第1のコイル端T11と第2のコイル端T21の位置を固定する第1のクランプ治具31と、第1のクランプ治具31と対向する方向から第1のコイル端T11と第2のコイル端T21の位置を固定する第2のクランプ治具32と、を有する。
【0029】
また、図4に示す第2の例では、クランプ治具は、第1のコイル端T11を第2のコイル端T21側に押しつける第1のクランプ治具(例えば、溶接クランプ31)と、第2のコイル端T21を第1のコイル端T11側に押しつける第2のクランプ治具(例えば、溶接クランプ32)と、を有する。図4に示すように、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接クランプ31、32となるクランプ治具は、通電する必要がないためコイル端部のうち絶縁被膜部分を押さえることもできる。
【0030】
ここで、TIG溶接に用いられるクランプの特徴について説明する。まず、溶接クランプ31、32には、クランプ時に溶接対象の2つのコイル端部を接触させる押し圧力を生じさせるため、高い材料強度、或いは、強度を維持可能な形状が要求される。また、電極クランプ33には、高い通電性が要求される一方、被覆されていない金属配線に接触できればよいためクランプ荷重に耐える強度は要求されない。
【0031】
ここで、例えば、実施の形態1にかかるステータの製造方法とは異なり、電極クランプと溶接クランプの機能を1つのクランプ治具で実現しようとした場合、材料選択とクランプ治具の形状に大きな制約がかかる。しかしながら、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接クランプには溶接対象のコイル端T11とコイル端T21を繰り返し保持する機能のみを求め、電極クランプには導電性のみを求めることができる。そのため、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接クランプと電極クランプの形状及び特性を、それぞれに求められる性能に応じて適切に設計できる自由度がある。これにより、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、クランプ治具の体積の削減と耐久性の向上を実現することができる。
【0032】
ここで、実施の形態1にかかるステータの製造方法の流れについて説明する。そこで、図5に実施の形態1にかかるステータの製造方法の流れを説明するフローチャートを示す。
【0033】
図5に示すように、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、まず溶接対象端部(例えば、コイル端T11、T21)を溶接クランプ31、32でクランプする(ステップS1)。次いで、溶接対象の2つのカセットコイルの一方(例えば、カセットコイル12)について、溶接対象端部(コイル端T21)の逆の端部(例えば、コイル端T22)を電極クランプ33でクランプする(ステップS2)。
【0034】
続いて、実施の形態1にっかかる溶接装置1では、電極クランプ33を通電させて溶接クランプ31、32でクランプしたコイル端T11、T21をTIG溶接する(ステップS3)。そして、TIG溶接が完了すると、溶接クランプ31、32及び電極クランプ33を開放することで、クランプ治具をコイル端から離して、コイル端を解放する(ステップS4)。
【0035】
続いて、実施の形態1では、ステップS4の後にステータを回転させて、隣接する溶接対象端部を溶接位置Aに移動させる(ステップS5)。なお、ステップS5では、電極クランプ33がクランプするコイル端も隣接するカセットコイルの第3のコイル端となる。そして、ステータを回転させたあとに溶接位置Aに位置するコイル端を例えば、カメラ等で観察し、既に溶接対象端部が溶接済みであれば溶接工程を完了させ、溶接済みでなければ新たに溶接位置Aに来たコイル端をステップS1~S5に従って溶接する(ステップS6)。
【0036】
ここで、実施の形態1にかかるステータの製造方法で利用する溶接装置について説明する。そこで、図6に実施の形態1にかかる溶接装置1の概略を説明するブロック図を示す。図6に示したブロック図は、溶接装置1の機能ブロック図であり、実際の装置の形状は工場設備の状況等によって変わる。
【0037】
図6に示すように、溶接装置1は、装置制御部41、溶接クランプ制御部42、電極クランプ制御部43、トーチ制御部44、ステータ回転制御部46、溶接クランプ31、32、電極クランプ33、トーチ45を有する。なお、図6では、図示を省略したが、溶接装置1は、ステータにおける溶接の状況、溶接クランプ31、32、トーチ45の位置確認のためにカメラ等の各種センサを用いる。
【0038】
装置制御部41は、図5に示したフローチャートに従って、溶接クランプ制御部42、電極クランプ制御部43、トーチ制御部44、ステータ回転制御部46に動作指示を与える。また、装置制御部41は、溶接位置Aにある溶接対象端部が溶接済みであるか否かの判断をカメラ等のセンサを用いて行う。つまり、図5のステップS6の処理は装置制御部41が行う。
【0039】
溶接クランプ制御部42は、コイルを構成する配線の一端であるコイル端と、前記コイルとは異なる他の配線と、を溶接クランプで保持する。より具体的には、溶接クランプ制御部42は、第1のカセットコイル(例えば、カセットコイル11)を構成する配線の一端である第1のコイル端(例えば、コイル端T11)と、カセットコイル11に対して1つ以上のカセットコイルを挟んで隣り合う第2のカセットコイル(例えば、カセットコイル12)を構成する配線の他端である第2のコイル端(例えば、コイル端T21)と、を溶接クランプ31、32で保持するように、溶接クランプ31、32を制御する。つまり、溶接クランプ制御部42は、図5のステップS1、S4の処理を行う。
【0040】
電極クランプ制御部43は、他の配線に設けられる通電位置を導電性を有する電極クランプで保持する。より具体的には、電極クランプ制御部43は、カセットコイル12のコイル端T21の反対側の端部である第3のコイル端(例えば、コイル端T22)を導電性を有する電極クランプ33で保持するように電極クランプ33を制御する。つまり、電極クランプ制御部43は、図5のステップS2、S4の処理を行う。
【0041】
トーチ制御部44は、コイル端と他の配線とをTIG溶接により接合するトーチを制御する。より具体的には、トーチ制御部44は、溶接対象の母材(コイル端T11、T21において露出した金属)との間にアークを生じさせるトーチの位置及び放電状態を制御する。また、トーチ制御部44は、トーチ45から溶接箇所近傍に噴出させる不活性ガス(例えば、アルゴンガス等)の噴出状態の制御を行う。つまり、トーチ制御部44は、図5のステップS3の処理を行う。なお、ステップS3の電極クランプ33の通電処理は、電極クランプ制御部43により行われる。
【0042】
ステータ回転制御部46は、溶接対象としたコイル端に対してステータの回転の方向とは逆方向に隣接する次コイル端を、回転の前の前記コイル端の位置に移動させる。より具体的には、ステータ回転制御部46は、溶接工程(図5のステップS4)の後にステータコア10を回転させて、カセットコイル11及びカセットコイル12の回転の方向とは逆方向に隣接する第3のカセットコイル及び第4のカセットコイルを、回転の前のカセットコイル11及びカセットコイル12の位置に移動させる。つまり、ステータ回転制御部46は、図5のステップS5の処理を行う。
【0043】
なお、溶接装置1ではステータコア10を回転させる構成としたが、ステータコア10を固定して溶接クランプ31、32、電極クランプ33及びトーチ45を移動させる方法もある。しかしながら、ステータコア10を回転させた方が溶接クランプ31、32、電極クランプ33及びトーチ45の可動範囲を狭く設定できるため、溶接クランプ31、32、電極クランプ33及びトーチ45に関する装置の体積を削減できる。
【0044】
上記説明より、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、電極クランプ33を高い押し圧力が必要な溶接クランプ31、32から離れた位置でカセットコイルに接触させる。これにより、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接対象のコイル端の被覆剥離部分の面積を削減してコイル端の長さを抑制する。そして、コイル端の長さが抑制されることで、実施の形態1にかかるステータの製造方法を用いて完成したステータの体積は小さくなる。
【0045】
また、溶接クランプ31、32がクランプする位置と、電極クランプ33クランプする位置を離れた位置に設定することで、実施の形態1にかかるステータの製造方法では、溶接箇所と電極接触箇所に求められる特性に合わせて自由に溶接クランプと電極クランプとを設計することができる。これにより、実施の形態1にかかるステータの製造方法を用いる事で、各クランプの耐久性の向上と体積の削減を実現することができる。
【0046】
また、実施の形態1にかかる溶接装置1では、溶接箇所の切り替えをステータコア10を回転させることで行う。これにより、実施の形態1にかかる溶接装置1では、装置の小型化と、可動部分の削減による高耐久化を実現する事ができる。
【0047】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 溶接装置
10 ステータコア
11 カセットコイル
12 カセットコイル
31 溶接クランプ
32 溶接クランプ
33 電極クランプ
41 装置制御部
42 溶接クランプ制御部
43 電極クランプ制御部
44 トーチ制御部
45 トーチ
46 ステータ回転制御部
A 溶接位置
B 電極位置
T11 コイル端
T12 コイル端
T21 コイル端
T22 コイル端
図1
図2
図3
図4
図5
図6