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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】ハイブリッド電気車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/12 20160101AFI20250723BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250723BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250723BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20250723BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20250723BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20250723BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250723BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250723BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250723BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20250723BHJP
【FI】
B60W20/12 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/13
G01C21/34
B60L15/20 J
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/13
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022183322
(22)【出願日】2022-11-16
(65)【公開番号】P2024072483
(43)【公開日】2024-05-28
【審査請求日】2024-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 友希
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-108910(JP,A)
【文献】特開2014-151760(JP,A)
【文献】特開2014-213638(JP,A)
【文献】特開2003-111208(JP,A)
【文献】特開2022-112913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0180599(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
G01C 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と1又は複数の電動機の協働によるハイブリッド走行及び発電と、前記内燃機関を作動させずに前記1又は複数の電動機によって行う電気走行と、を実行可能なパワートレーンと、
前記パワートレーンとの間で電力を授受するバッテリと、
第1及び第2走行支援制御を実行する制御装置と、
を備え、
前記第1走行支援制御は、目的地までの経路情報に基づいて前記電気走行と前記ハイブリッド走行とを自動的に切り替えることにより、前記目的地を終点とする終了マージン区間の手前で前記バッテリの残量が閾値以下にまで消費されるように前記残量を管理するものであり、
前記第2走行支援制御は、前記目的地までの計画走行経路上に前記電気走行が推奨される特定区間が含まれる場合、前記特定区間を前記電気走行で走破するために必要な前記残量が前記特定区間への進入前に確保されるように前記電気走行と前記ハイブリッド走行とを切り替えるものであり、
前記終了マージン区間と少なくとも一部が重なる前記特定区間が存在し、かつ前記特定区間の終点が前記目的地より手前の地点である場合、前記第1走行支援制御において、前記制御装置は、前記特定区間と重なることなく前記特定区間の後に続くように前記終了マージン区間を設定する終了マージン区間設定処理を実行し、
前記終了マージン区間設定処理は、前記終了マージン区間設定処理の対象となる処理対象区間を、前記計画走行経路上に含まれる複数の走行区間の中から最終区間を起点に順に遡るように1つずつ選択しながら実行されるものであり、
前記終了マージン区間設定処理は、
前記処理対象区間が前記特定区間に該当するか否かを判定する第1処理と、
前記処理対象区間が前記特定区間に該当しない場合、前記処理対象区間の走行エネルギーから終了マージンを引いて得られる特定走行エネルギーを算出する第2処理と、
算出された前記特定走行エネルギーが0以下である場合、前記処理対象区間の走行エネルギーを0とし、算出された前記特定走行エネルギーによって前記終了マージンを更新し、かつ、前記処理対象区間を前記終了マージン区間に設定する第3処理と、
算出された前記特定走行エネルギーが0より大きい場合、前記処理対象区間の走行エネルギーを、算出された前記特定走行エネルギーとする第4処理と、
を含み、
前記終了マージン区間設定処理は、前記第4処理の後に終了する
ハイブリッド電気車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイブリッド電気車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ハイブリッド車両の制御装置を開示している。この制御装置は、走行経路上のそれぞれの区間の走行負荷に基づいて、区間毎にHV走行区間又はEV走行区間を割り当てるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-213638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド電気車両において、目的地までの走行中の電池残量を管理する走行支援制御として次のような第1及び第2走行支援制御を備えることが考えられる。すなわち、第1走行支援制御は、目的地までの経路情報に基づいて電気走行とハイブリッド走行とを自動的に切り替えることにより、当該目的地を終点とする終了マージン区間の手前で電池残量が閾値以下にまで消費されるように電池残量を管理するものである。一方、第2走行支援制御は、上記目的地までの計画走行経路上に電気走行が推奨される特定区間が含まれる場合、当該特定区間を電気走行によって走破するために必要な電池残量が特定区間への進入前に確保されるように電気走行とハイブリッド走行とを切り替えるものである。
【0005】
上述の第1及び第2走行支援制御が同時に実行されると、目的地の周辺に第2走行支援制御における特定区間が存在するときに、第1及び第2走行支援制御の協調が適切に行われないおそれがある。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、目的地の周辺に上述の特定区間が存在する場合であっても、上述の第1及び第2走行支援制御の協調を適切に行えるようにしたハイブリッド電気車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るハイブリッド電気車両は、パワートレーンと、バッテリと、制御装置と、を備える。パワートレーンは、内燃機関と1又は複数の電動機の協働によるハイブリッド走行及び発電と、内燃機関を作動させずに1又は複数の電動機によって行う電気走行と、を実行可能に構成されている。バッテリは、パワートレーンとの間で電力を授受するように構成されている。制御装置は、第1及び第2走行支援制御を実行するように構成されている。第1走行支援制御は、目的地までの経路情報に基づいて電気走行とハイブリッド走行とを自動的に切り替えることにより、目的地を終点とする終了マージン区間の手前でバッテリの残量が閾値以下にまで消費されるように残量を管理するものである。第2走行支援制御は、目的地までの計画走行経路上に電気走行が推奨される特定区間が含まれる場合、特定区間を電気走行で走破するために必要な残量が特定区間への進入前に確保されるように電気走行とハイブリッド走行とを切り替えるものである。終了マージン区間と少なくとも一部が重なる特定区間が存在する場合、第1走行支援制御において、制御装置は、特定区間と重ならないように終了マージン区間を設定する、又は終了マージン区間を設けない。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、目的地の周辺に上述の特定区間が存在する場合であっても、上述の第1及び第2走行支援制御の協調を適切に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係るハイブリッド電気車両の構成を概略的に示す図である。
図2】第1走行支援制御(制御C1)で用いられる終了マージン区間TSyの基本的な設定方法の一例を説明するための図である。
図3】実施の形態に係る終了マージン区間TSyに関する処理Pの具体例A~Dを説明するための図である。
図4】実施の形態に係る第1走行支援制御に関する処理を示すフローチャートである。
図5】ステップS104の処理(処理P)の具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。
【0011】
1.ハイブリッド電気車両(HEV)の構成例
図1は、実施の形態に係るハイブリッド電気車両1の構成を概略的に示す図である。ハイブリッド電気車両1は、パワートレーン10と、制御装置20と、HMI(Human Machine Interface)装置30と、を備える。制御装置20は、車両制御ECU(Electronic Control Unit)22と、ナビゲーションECU(ナビECU)24と、を含む。
【0012】
パワートレーン10は、内燃機関12と、1又は複数(例えば、2つ)の電動機14と、バッテリ16と、を含み、内燃機関12と電動機14の協働によるハイブリッド走行(HEV走行)及び発電と、内燃機関12を作動させずに電動機14によって行う電気走行(BEV走行)と、を実行可能に構成されている。バッテリ16は、パワートレーン10(より詳細には、電動機14)との間で電力を授受する。具体的には、バッテリ16は、電動機14で生じた電力によって充電され、電動機14で消費される電力により放電される。なお、車両1のハイブリッドシステムの方式は、特に限定されず、例えば、シリーズ・パラレル方式、パラレル方式、又はシリーズ方式である。より詳細には、車両1は、外部充電可能なプラグインハイブリッド電気車両(PHEV)であるが、必ずしも外部充電可能に構成されていなくてもよい。
【0013】
車両制御ECU22は、プロセッサ及び記憶装置を備えている。車両制御ECU22は、車両1に取り付けられたセンサ類26からセンサ信号を取り込むとともに、パワートレーン10に対して操作信号を出力する。記憶装置には、パワートレーン10を制御するための各種の制御プログラムが記憶されている。プロセッサは、制御プログラムを記憶装置から読み出して実行し、これにより、パワートレーン10に関する各種制御が実現される。センサ類26は、車速センサ、及び電池残量センサ等のパワートレーン10の制御に用いられる各種センサを含む。電池残量センサは、バッテリ16の残量(電池残量)を検出する。以下の説明では、電池残量はSOC(State Of Charge)とも称される。
【0014】
ナビECU24は、プロセッサ及び記憶装置を備えている。ナビECU24は、無線通信ネットワークを介して外部システムと互いに通信可能に構成されており、外部システムから様々なデータを取得できる。
【0015】
例えば、ナビECU24は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用して車両1の現在位置を取得する。さらに、ナビECU24は、例えば外部のサーバから地図情報を取得することで、地図上の車両1の現在位置を特定できる。ここでいう地図情報には、BEV走行(すなわち、内燃機関12の非作動)が推奨される特定区域SAに関する情報、及び地理的情報(例えば、速度制限、距離、及び道路種別)が含まれる。特定区域SAは、例えば、内燃機関12の運転を伴う車両1の走行が制限されるローエミッションゾーンである。また、特定区域SAは、例えば、車両1のユーザの自宅周辺の区域であってもよい。ある区域が特定区域SAに該当するか否かは、例えば、時間帯又は交通状況に応じて変化する場合もある。ナビECU24は、交通情報センタから、渋滞情報、規制情報、及び交通事故情報等の各種の交通情報を取得することもできる。ナビECU24は、このような様々な情報を車両1のユーザにHMI装置30を用いて通知することができる。HMI装置30は、例えば、車両1の室内に設けられた出力部及び入力部を含む。出力部は、例えば、ナビゲーションシステムのディスプレイ、又はインストルメントパネルに設置されたメータである表示部を含む。出力部は、スピーカを含んでもよい。入力部は、タッチパネル又はスイッチ類である。
【0016】
ナビECU24は、さらに、HMI装置30を介してユーザによる操作を受け付けることができる。例えば、ユーザがHMI装置30を操作して目的地を入力すると、ナビECU24は、車両1の現在位置から目的地までの計画走行経路PRを作成し、HMI装置30に表示し、経路案内を行う。また、特定区域SAは、例えば、HMI装置30を操作するユーザによって任意に設定されてもよい。
【0017】
また、ナビECU24は、過去の走行データ、及び、地図情報に含まれる路面の種類又は勾配等の情報の少なくとも一方に基づいて、計画走行経路PRの各走行区間TSを走行するのに要する所要走行パワーPW及び区間走行エネルギーEを算出することができる。また、ナビECU24は、各走行区間TSの走行エネルギーEを積算することによって、計画走行経路PRを走破するのに要する所要エネルギーEsumを算出することもできる。付け加えると、ナビECU24は、後述の「特定区間TSx」をBEV走行で走破するために必要とされる所要エネルギーEevを算出することもできる。
【0018】
ナビECU24は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって、車両制御ECU22と通信可能に接続されている。これにより、車両制御ECU22は、前述した計画走行経路PRと計画走行経路PRに関する各種情報とを含む様々な情報(経路情報)をナビECU24から取得できる。ここでいう経路情報は、先読みされる車両前方の経路に関する情報であるので、以下、「先読み情報」とも称される。より具体的には、先読み情報は、計画走行経路PRに沿った各走行区間TSに関する情報を含む。先読み情報は、例えば、上述の地図情報と、交通情報と、区間車速と、所要走行パワーPWと、を含む。
【0019】
2.車両走行制御
制御装置20は、車両走行の支援機能として、「第1走行支援制御」と「第2走行支援制御」とを実行可能に構成されている。
【0020】
2-1.第1走行支援制御
第1走行支援制御(以下、「制御C1」とも称する)は、目的地までの経路情報(先読み情報)に基づいてBEV走行とHEV走行とを自動的に切り替えることにより、当該目的地を終点とする「終了マージン区間TSy」の手前でSOCが所定の閾値以下にまで消費されるようにSOCを管理するものである。
【0021】
より具体的には、制御C1では、例えば、経路情報(先読み情報)に基づいて計画走行経路PRの全体の走行負荷を考慮してSOCが適切に消費されるようにSOCが管理される。このようにSOCを管理するために、制御装置20は、CD(Charge depleting)モードとCS(Charge sustaining)モードとを自動的に切り替えることによって、BEV走行又はHEV走行を自動的に選択する。CDモードは、バッテリ16に充電された電力主体で走行するモードである。CDモードの例は、SOCが枯渇するまでBEV走行のみを行うモード、及び/又は、なるべくBEV走行を行ってSOCが消費されるようにBEV走行とHEV走行とを切り替えるモードである。後者のモードでは、ユーザによって高い車両出力が要求された場合には、BEV走行からHEV走行への切り替えが実行される。一方、CSモードでは、内燃機関12の動力を用いた発電を利用してSOCを目標値に維持しながら、内燃機関12及び電動機14を作動させてHEV走行が行われる。さらに、車両1の走行モードは、CDモード及びCSモードの他に、例えば、充電モードを含む。充電モードは、SOCが枯渇した場合に、SOCを所定の閾値まで回復させるためのHEV走行を行うモードである。
【0022】
2-2.第2走行支援制御
第2走行支援制御(以下、「制御C2」とも称する)は、目的地までの車両1の計画走行経路PR上に「特定区間TSx」が存在する場合に、特定区間TSxをBEV走行で走破するために必要なSOCevが特定区間TSxへの進入前に確保されるようにSOCの管理を行うものである。特定区間TSxとは、上述の特定区域SA(BEV走行が推奨される区域)に含まれる計画走行経路PR上の走行区間TSのことである。必要SOCevは、上述の所要エネルギーEevに対応するSOCの値である。
【0023】
制御C2の実行中には、特定区間TSxへの進入前の走行モードは、例えば、現在のSOCに基づいて次のように切り替えられる。すなわち、現在のSOCが上述の必要SOCevに所定のマージンαを加えた値(=SOCev+α)より多ければ、CDモードが選択される。また、現在のSOCが上記の値(=SOCev+α)以下であって必要SOCevより多ければ、CSモードが選択される。その結果、CSモードが選択された際のSOCが維持されるようにHEV走行が行われる。また、現在のSOCが必要SOCev以下であれば、必要SOCevを確保するために充電モードが選択される。
【0024】
制御C2の実行中には、例えば上述のように走行モードが選択され、その結果として、必要SOCevが特定区間TSxへの進入前に確保されるようにBEV走行とHEV走行とが切り替えられる。
【0025】
3.終了マージン区間TSyの設定
車両走行中に上述の制御C1を利用するユーザは、目的地への到着時にSOCが所定の目標値にまで適切に消費されていること(すなわち、SOCを使い切ること)を期待している。したがって、SOCを余らせた状態で目的地に到着したのでは、当該期待に応えられるとは言えない。そこで、上述の所要エネルギーEsumの予測の誤差に起因するSOCの余りが目的地への到着時に発生することを抑制するために、制御C1では、目的地を終点としつつ目的地付近の1又は複数の走行区間TSが終了マージン区間TSyとして設定される。そして、制御C1では、BEV走行とHEV走行の切り替えの計画(走行計画)の対象から終了マージン区間TSyが除外される。制御C1では、このような終了マージン区間TSyの利用により、目的地の手前でSOCが上記の目標値にまで確実に消費されるように(換言すると、目的地の手前で余裕をもって制御C1を終了させられるように)走行計画が実行されている。
【0026】
図2は、制御C1で用いられる終了マージン区間TSyの基本的な設定方法の一例を説明するための図である。終了マージン区間TSyは、例えば、以下の手順で決定される。すなわち、まず、計画走行経路PRの最終区間TS(f)から順に、区間走行エネルギーEが積算される。図2には、最終区間TS(f)から遡って3つの走行区間TS(すなわち、TS(f)、TS(f-1)、及びTS(f-2))の区間走行エネルギーE(例えば、何れも50Wh)が積算された一例が表されている。ここで、最終区間TS(f)は、目的地を終点とする走行区間である。fは最終区間番号に相当する。
【0027】
終了マージン区間TSyの特定のために、「終了マージンEM」が用いられる。終了マージンEMは、例えば、計画走行経路PRの全体の所要エネルギーEsumの予測の誤差に相当するものであり、例えば事前に決定された値である。図2に示す一例では、終了マージンEMは133Whである。
【0028】
終了マージン区間TSyは、最終区間TS(f)から順に積算される区間走行エネルギーEの積算値Eivが終了マージンEMを超えない走行区間TSまでとなるように設定される。図2に示す例では、最終区間TS(f)から3つ目の走行区間TS(f-2)までの区間走行エネルギーEの積算値Eivは150Whとなり、終了マージンEMを超えてしまう。したがって、図2に示す例では、最終区間TS(f)から2つ目の走行区間TS(f-1)までが終了マージン区間TSyとして設定される。3つ目の走行区間TS(f-2)は終了マージン区間TSyとして設定されない。
【0029】
そして、制御C1では、終了マージン区間TSyとして特定された走行区間TS(n)の走行エネルギーE(n)は、0Whとして更新され、制御C1による走行計画の対象から除外される。より具体的には、終了マージン区間TSyは、CDモードが選択されるBEV走行の区間(BEV走行を優先する区間)の候補から除外され、CSモードが選択されるHEV走行の区間(HEV走行を優先する区間)として特定される。
【0030】
また、上記の積算値Eivが初めて終了マージンEMを超える走行区間Zの区間走行エネルギーEは、最終区間TS(f)から走行区間Zまでの区間走行エネルギーの積算値Eivzから終了マージンEMを引いて得られる値として算出される。図2に示す例では、走行区間Zに相当する3つ目の走行区間TS(f-2)の区間走行エネルギーE(f-2)は、積算値Eivzに相当する150(=50+50+50)Whから、終了マージンEMである133Whを引いて得られる17Whとして更新される。
【0031】
本実施形態のように上述の制御C1と制御C2とを同時に実行する場合、BEV走行とHEV走行の切り替えの計画(走行計画)は、制御C2が制御C1より優先されるように実行される。その理由は、制御C2の特定区間TSxにおけるBEV走行を確実に実現するためである。しかしながら、制御C1及びC2が同時に実行されると、目的地の周辺に特定区間TSxが存在するときに、制御C1及びC2の協調が適切に行われないおそれがある。その理由は、制御C2は目的地の周辺の特定区間TSxのBEV走行のためにSOCを残そうとするのに対し、制御C1は当該特定区間TSxが終了する前にSOCを所定の目標値まで消費させようとする(すなわち、SOCを使い切ろうとする)ためである。
【0032】
上述の課題に鑑み、本実施形態では、制御装置20は、制御C1において次のような「処理P」を実行する。すなわち、処理Pによれば、終了マージン区間TSyと少なくとも一部が重なる特定区間TSxが存在する場合、特定区間TSxと重ならないように終了マージン区間TSyが設定される、又は、終了マージン区間TSyが設定されない。
【0033】
図3は、実施の形態に係る終了マージン区間TSyに関する処理Pの具体例A~Dを説明するための図である。
【0034】
まず、具体例Aでは、図3(A)に示すように、目的地を終点Pex1とする特定区間TSx1が設定されている。特定区間TSx1の始点Psx1は、終了マージン区間TSy1の始点Psy1より手前(すなわち、車両進行方向の後方側)である。上述のように、制御C2からの要求は、特定区間TSx1においてBEV走行を行えるようにSOCを残すことである。一方、制御C1からの要求は、終了マージン区間TSy1より手前の走行区間TSにおいてBEV走行を多く割り当てて、終了マージン区間TSy1の到来前にSOCを使い切ることである。BEV走行とHEV走行の切り替えに関し、このような制御C1からの要求が考慮されると、特定区間TSx1の走行中にSOCが不足し、その結果として、制御C2によってHEV走行への切り替えの要求が出され易くなってしまう。
【0035】
そこで、特定区間TSx1の終点Pex1が目的地である具体例Aでは、制御装置20は、終了マージン区間TSy1を設定しないこととする(処理P)。その結果、制御C1では、終了マージンEMの設定を伴わずに走行計画が行われるようになる。これにより、制御C1からの要求に起因して特定区間TSx1の走行中にSOCが不足することが回避される。このため、制御C1及びC2が同時に実行される場合であっても、特定区間TSx1の走行中にSOCの不足に起因するHEV走行への切り替えの要求が制御C2によって出されにくくすることができる。すなわち、特定区間TSx1においてより確実にBEV走行を行えるようになる。
【0036】
次に、具体例Bでは、図3(B)に示すように、目的地より手前(車両進行方向の後方側)に位置する終点Pex2を有する特定区間TSx2が設定されている。特定区間TSx2の始点Psx2は、終了マージン区間TSy2の始点Psy2より手前である。このような具体例Bでは、制御装置20は、特定区間TSx2の後に続くように終了マージン区間TSy2’を設定する(処理P)。より詳細には、終了マージン区間Tsy2’は、特定区間TSx2より後、かつ、当該特定区間TSx2に隣接するように設定される。換言すると、終了マージン区間TSy2’は、始点Psy2が特定区間TSx2の終点Pex2の直後となるように、さらに換言すると、始点Psy2が特定区間TSx2の終点Pex2と実質的に等しくなるように設定される。
【0037】
処理Pによれば、具体例Bにおいても、終了マージン区間TSy2’が特定区間TSx2と重ならなくなるので、制御C1からの要求に起因して特定区間TSx1の走行中にSOCが不足することが回避される。そのうえで、具体例Bでは、終了マージン区間TSy2の全体が設定されなくなるのではなく、特定区間TSx2の後に残された走行区間TSが、終了マージン区間TSy2’として設定される。これにより、車両1がBEV走行によって特定区間TSx2を走り終えることを可能としつつ、SOCをより確実に使い切るように制御C1における走行計画を立てることが可能となる。
【0038】
次に、具体例Cでは、図3(C)に示すように、具体例Bと同様に、目的地より手前(車両進行方向の後方側)に位置する終点Pex3を有する特定区間TSx3が設定されている。ただし、特定区間TSx3の始点Psx3と終了マージン区間TSy3の始点Psy3とが同じ地点となっている。
【0039】
処理Pによれば、具体例Cにおいても、具体例Bと同様に、特定区間TSx3の後に続くように終了マージン区間TSy3’が設定される。これにより、具体例Bと同様の効果が得られる。
【0040】
次に、具体例Dでは、図3(D)に示すように、具体例Aと同様に、目的地を終点Pex4とする特定区間TSx4が設定されている。ただし、特定区間TSx4の始点Psx4と終了マージン区間TSy4の始点Psy4とが同じ地点となっている。
【0041】
処理Pによれば、具体例Dにおいても、具体例Aと同様に、終了マージン区間TSy4は設定されない。これにより、具体例Dと同様の効果が得られる。
【0042】
具体例A~Cによって例示されたように、本実施形態の処理Pによれば、目的地の周辺に制御C2における特定区間TSxが存在する場合であっても、制御C1及びC2の協調を適切に行えるようになる。
【0043】
図4は、実施の形態に係る第1走行支援制御(制御C1)に関する処理を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1のシステムの起動時に開始され、制御装置20(より詳細には、例えば、車両制御ECU22及びナビECU24の協働)によって実行される。また、図4は、制御C2が実行される状況下で制御C1が実行される場合の処理を示している。
【0044】
ステップS100において、制御装置20は、制御C1の開始条件(換言すると、走行支援の開始条件)が成立するか否かを判定する。具体的には、開始条件は、例えば、制御C1を要求するスイッチがONであること、ユーザからの要求に基づく経路案内が開始されていること、車両1が計画走行経路PR上にあること、SOCが所定の閾値以上であること、及び、車両1に異常が生じていないことを含む。その結果、この判定結果がYesの場合には、処理はステップS102に進む。
【0045】
ステップS102において、制御装置20は、制御C1のために用いられる先読み情報が更新されたか否かを判定する。その結果、先読み情報が更新された場合には、処理はステップS104に進む。一方、先読み情報が更新されていない場合には、処理はステップS120に進む。
【0046】
ステップS104において、制御装置20は、終了マージン区間TSyの設定に関する処理Pを実行する。処理Pによる終了マージン区間TSyの設定/非設定は、上述のように、制御C2における特定区間TSxを考慮して行われる。このようなステップS104の具体的な処理の例は、図5を参照して後述される。
【0047】
次いで、ステップS106において、制御装置20は、現在の先読み情報に基づいて、計画走行経路PR上の各走行区間TS(n)の区間走行エネルギー(消費エネルギー)E(n)、及びその総和(所要エネルギー)Esumを算出する。付け加えると、総和Esumには、ステップS104の処理Pによる終了マージン区間TSyの設定(修正又は廃止)が反映される。
【0048】
次いで、ステップS108において、制御装置20は、ステップS106にて算出された総和Esumが現在のSOCに所定のマージンβを加えて得られる値より大きいか否かを判定する。その結果、この判定結果がYesの場合、つまり、BEV走行のみで目的地まで走破できないと判断できる場合には、処理はステップS110に進む。
【0049】
ステップS110において、制御装置20は、CD優先区間をCD計画区間に割り当てる処理を実行する。具体的には、CD優先区間は、現在の先読み情報に含まれる各走行区間TSの情報と所定の判定基準とに基づいて、優先的にCD計画区間に割り当てられる走行区間TSのことである。CD優先区間は、例えば、渋滞区間及び下り坂区間である。CD計画区間は、制御C1の走行計画によってCDモードが割り当てられる走行区間TSのことである。
【0050】
次いで、ステップS112において、制御装置20は、計画走行経路PR上の走行区間TSのうちでCD優先区間に割り当てられなかった残りの走行区間TSを、走行負荷が低い順に並び替える処理を実行する。そして、ステップS114において、制御装置20は、CD計画区間の総消費エネルギー(すなわち、CD計画区間に含まれる走行区間TSの区間走行エネルギーE(n)の積算値)が現在のSOCを超えない範囲内で、上記の残りの走行区間TSを走行負荷が低いものから順にCD計画区間に割り当てる処理を実行する。なお、CD計画区間に割り当てられなかった走行区間TSには、CDモードが割り当てられる。
【0051】
一方、ステップS108の判定結果がNoの場合、つまり、BEV走行のみで目的地まで走破できると判断できる場合には、処理はステップS116に進む。ステップS116において、制御装置20は、計画走行経路PR上のすべての走行区間TSに対してCDモードを割り当てる。
【0052】
ステップS114又はS116に続くステップS118において、制御装置20は、ステップS104~S116の処理による制御C1の走行計画(BEV走行とHEV走行の切り替えの計画)に沿って走行モードを制御する。
【0053】
次いで、ステップS120において、制御装置20は、制御C1の終了条件が成立するか否かを判定する。具体的には、終了条件は、例えば、経路案内が中止又は終了されたこと、車両1が計画走行経路PR上から外れたこと、電池枯渇が生じたこと、又は、車両1に異常が生じたことを含む。その結果、終了条件が満たされない間は、ステップS102以降の処理が繰り返し実行される。一方、終了条件が満たされると、図4に示す処理が終了する。
【0054】
図5は、ステップS104の処理(処理P)の具体例を示すフローチャートである。ステップS200において、制御装置20は、走行区間TSの番号(区間番号)nのカウントに用いられる記号iを0に設定する。次いで、ステップS202において、制御装置20は、区間番号nを、最終区間番号fから記号iを引いて得られる値(=f-i)に設定する。したがって、このフローチャートの処理の開始後の最初の処理サイクルの対象となる走行区間TSは、最終区間TS(f)である。
【0055】
次いで、ステップS204において、制御装置20は、今回の走行区間TS(n)が制御C2の特定区間TSxに該当するか否かを判定する。その結果、この判定結果がNoの場合、つまり、今回の走行区間TS(n)が特定区間TSxに該当しない場合には、処理はステップS206に進む。
【0056】
ステップS206において、制御装置20は、今回の走行区間TS(n)の走行エネルギーE(n)から終了マージンEMを引いて得られる値を、走行エネルギーEndEとして算出する。そして、ステップS208において、制御装置20は、ステップS206にて算出された走行エネルギーEndEが0以下であるか否かを判定する。
【0057】
ステップS208の判定結果がYesの場合(EndE≦0)には、制御装置20は、ステップS210において、今回の走行区間TS(n)の走行エネルギーE(n)を0とする。次いで、ステップS212において、制御装置20は、終了マージンEMを、最新の走行エネルギーEndEによって更新する。そして、ステップS214において、制御装置20は、今回の走行区間TS(n)を終了マージン区間TSyに設定する。
【0058】
次いで、ステップS216において、制御装置20は、記号iをインクリメントする(i=i+1)。次いで、ステップS218において、制御装置20は、終了マージン設定完了フラグがONであるか否かを判定する。ステップS208の判定結果がYesであることを受けて処理がステップS210~S216に進んでいる間は、終了マージン設定完了フラグはOFFとなる。その結果、ステップS218の判定結果はNoとなり、処理は、ステップS202に戻る。
【0059】
一方、ステップS208の判定結果がNoの場合(EndE>0)には、制御装置20は、ステップS220において、今回の走行区間TS(n)の走行エネルギーE(n)を、ステップS206にて算出された走行エネルギーEndEとする。すなわち、走行区間TS(n)の走行エネルギーE(n)が元々の値から減算される。付け加えると、処理がステップS220に進むのは、目的地の周辺に特定区間TSxが存在しない場合、又は、目的地の周辺の特定区間TSxと終了マージン区間TSy(より詳細には、ステップS212の処理によって更新される前の終了マージンEMに応じた終了マージン区間TSy)とが重ならない場合である。このように処理がステップS220に進んだ場合、走行エネルギーEndEは、終了マージン区間TSyの1つ前の走行区間TSの区間走行エネルギーに該当する。
【0060】
ステップS220に続くステップS222において、制御装置20は、終了マージン設定完了フラグをONに設定する。その結果、ステップS222に続くステップS218の判定結果がYesとなり、図5に示す処理が終了する。すなわち、終了マージン区間TSyの設定に関する処理Pが完了する。
【0061】
一方、ステップS204の判定結果がYesの場合、つまり、今回の走行区間TS(n)が特定区間TSxに該当する場合には、処理はステップS222に進む。その結果、この場合には、今回の走行区間TS(n)を終了マージン区間TSyに設定することなく、終了マージン設定完了フラグがONとされる。
【0062】
付け加えると、目的地の周辺に特定区間TSxが存在する場合において図5に示すフローチャートの初回の処理サイクルにてステップS204の判定結果がYesとなる場合(つまり、最終区間TS(f)が特定区間TSxに含まれている場合)には、上述の具体例A及びD(図3(A)及び3(D)参照)のように、終了マージン区間TSy自体が設けられない。一方、目的地の周辺に特定区間TSxが存在するが図5に示すフローチャートの2番目以降の処理サイクルにてステップS204の判定結果がYesとなる場合(つまり、最終区間(f)が特定区間TSxに含まれていない場合)には、ステップS204の判定結果がYesとなった処理サイクルの走行区間TS(n)は、終了マージン区間TSyの設定対象とされなくなる。このため、このような処理によれば、目的地の周辺に存在する特定区間TSxが最終区間(f)を含んでいない場合において、上述の具体例B及びC(図3(B)及び3(C)参照)のように、終了マージン区間TSyが特定区間TSxと重ならないようにしつつ、特定区間TSxの後に残された走行区間TSを終了マージン区間TSyに設定することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ハイブリッド電気車両、 10 パワートレーン、 12 内燃機関、 14 電動機、 16 バッテリ、 20 制御装置、 26 センサ類、 30 HMI装置
図1
図2
図3
図4
図5