(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20250723BHJP
B60W 30/12 20200101ALI20250723BHJP
B60W 30/165 20200101ALI20250723BHJP
【FI】
G08G1/09 V
B60W30/12
B60W30/165
(21)【出願番号】P 2022199318
(22)【出願日】2022-12-14
【審査請求日】2024-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 達之
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-126907(JP,A)
【文献】特開2022-151008(JP,A)
【文献】特開2020-050086(JP,A)
【文献】国際公開第2020/049722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/09
B60W 30/12
B60W 30/165
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周囲に存在する物標に関する情報及び自車両の走行状態に関する情報を取得する車載センサと、
前記車載センサから取得した情報に基づいて、自車両が走行している走行レーンを認識し、前記走行レーンに沿って自車両が進行するように自車両を制御する第1トレース制御を実行可能であり、前記第1トレース制御を実行中に前記走行レーンを認識できなくなった状況下で自車両の前方を走行している先行車両が存在する場合に、前記先行車両の軌跡に沿って自車両が進行するように自車両を制御する第2トレース制御を実行可能なプロセッサと、
を備えた車両制御装置であって、
前記プロセッサは、
自車両に対して並走している他車両が存在する可能性がある場合に、前記第2トレース制御を実行しない、ように構成され
、且つ、
自車両が混雑区間を走行中であると判定した場合に、自車両に対して並走している他車両が存在する可能性があると判定する、ように構成された、車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両を走行レーンに沿って走行させる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両を走行レーンに沿って走行させる車両制御装置が提案されている(例えば、下記特許文献1を参照。)。特許文献1の車両制御装置は、カメラ及びプロセッサを含む。カメラは、車両の前景を逐次撮影して、画像データを取得する。プロセッサは、画像データを解析して、自車両が走行している走行レーン及び当該走行レーンの幅方向における自車両の位置を認識する。そして、プロセッサは、当該認識結果に基づいて、自車両が走行レーンに沿って走行するように自車両(操舵装置)を制御する。
【0003】
走行レーンを区画する区画線が描画されていない区間(例えば交差点)、区画線が不鮮明である区間、路面に雪が積もっている区間などを、特許文献1の車両制御装置が搭載された車両が走行している状況下では、プロセッサが走行レーンを認識できない場合がある。この場合に、先行車両の軌跡に沿って自車両が進行するように自車両を制御する車両制御装置が提案されている(例えば、下記特許文献2を参照。)。特許文献2の車両制御装置は、走行レーンを認識している場合には、認識した走行レーンに基づいて自車両を制御し、走行レーンを認識していない場合には、先行車両の軌跡に基づいて自車両を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013―097714号公報
【文献】特開2020―050086号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献2に記載の車両制御装置は、先行車両の軌跡に基づいて自車両を制御しているときに先行車両が横位置を変化するように走行した場合、自車両も先行車両と同様に横位置が変化するように、自車両を制御する。この場合、自車両に対して並走している他車両に自車両が接近又は接触する虞がある。例えば、区画線が表示されていない交差点に自車両が進入する際に、特許文献2に記載の車両制御装置は先行車両の軌跡に基づいて自車両の走行を制御する。このとき先行車両が交差点内で横位置を変化させ、交差点を超えた後に今まで走行していた走行レーンに隣接する走行レーンに進入することがある。このような場合に自車両が先行車両に追従すると、最初から隣接レーンを走行している並走車両に自車両が接近又は接触する虞がある。
【0006】
本発明の目的の一つは、自車両の安全性を向上させることができる車両制御装置を提供することである。
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の車両制御装置(1)は、
自車両(V)の周囲に存在する物標に関する情報及び自車両の走行状態に関する情報を取得する車載センサ(20)と、
前記車載センサから取得した情報に基づいて、自車両が走行している走行レーンを認識し、前記走行レーンに沿って自車両が進行するように自車両を制御する第1トレース制御を実行可能であり、前記第1トレース制御を実行中に前記走行レーンを認識できなくなった状況下で自車両の前方を走行している先行車両(V0)が存在する場合に、前記先行車両の軌跡に沿って自車両が進行するように自車両を制御する第2トレース制御を実行可能なプロセッサ(10)と、
を備える。
前記プロセッサは、
自車両に対して並走している他車両が存在する可能性がある場合に、前記第2トレース制御を実行しない、ように構成され、且つ、
自車両が混雑区間を走行中であると判定した場合に、自車両に対して並走している他車両が存在する可能性があると判定する、ように構成される。
【0008】
自車両が混雑区間を走行中である場合、並走他車両が存在する可能性がある。本発明によれば、自車両が混雑区間を走行中である場合(自車両に対して並走している他車両(並走他車両)が存在する可能性がある場合)に、プロセッサは、先行車両の軌跡に沿って自車両が進行するように自車両を制御する第2トレース制御を実行しない。よって、並走他車両が存在する可能性があるときに第2トレース制御を実行することによって自車両が並走他車両に接近或いは接触することを抑制できる。このため自車両の安全性を向上させることができる。
【0009】
本発明の一態様に係る車両制御装置において、
前記プロセッサは、前記車載センサから取得した情報に基づいて、自車両の側方を含む所定の範囲(A)に位置する他車両を検知した場合に、自車両に対して並走している他車両(V1)が存在する可能性があると判定する。
【0010】
車載センサから取得した情報に基づいて、自車両の周囲の所定範囲に位置する他車両を検知した場合、検知した他車両が並走他車両である可能性が極めて高い。プロセッサは、このような場合に第2トレース制御を実行しないため、自車両の安全性を向上させることができる。
【0013】
本発明の他の態様に係る車両制御装置において、
前記プロセッサは、自車両の進行方向の車線数が2車線以上の道路を自車両が走行している場合に、自車両に対して並走している他車両(V1)が存在する可能性があると判定する。
【0014】
自車両の進行方向の車線数が2車線以上である場合、自車線に隣接する車線が存在するので、隣接車線に並走他車両が存在する可能性がある。この場合、プロセッサは、第2トレース制御を実行しないため、自車両の安全性を向上させることができる。
【0015】
本発明の他の態様に係る車両制御装置において、前記プロセッサは、前記走行レーンを認識できなくなった状況下で自車両に対して並走している他車両(V1)が存在する可能性があると判定した場合に、自車両の制御を中止する。
【0016】
これによれば、プロセッサが自車両の走行レーンを認識できなくなった状況下で自車両に対して並走している他車両(V1)が存在する可能性があると判定した場合には、自車両の操作が運転者に委ねられる。このため、走行レーンを認識できない状態のまま車両制御装置が自車両を制御し続けて自車両の安全性が損なわれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両制御装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、自車両の予測軌跡を示す平面図である。
【
図3】
図3は、並走車両の存否に応じて先行車軌跡トレース制御を実行するか否かを決定する機能を実現するためのプログラムのフローチャートである。
【
図4】
図4は、先行車軌跡トレース制御を実行する機能を実現するためのプログラムのフローチャートである。
【
図5】
図4は、走行レーンの混雑度に応じて先行車軌跡トレース制御を実行するか否かを決定する機能を実現するためのプログラムのフローチャートである。
【
図6】
図5は、隣接する走行レーンの存否に応じて先行車軌跡トレース制御を実行するか否かを決定する機能を実現するためのプログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概略)
本発明の一実施形態に係る車両制御装置1は、自動運転機能を備えた車両V(以下、「自車両」と称呼する。)に搭載される。車両制御装置1は、自車両の速度及び舵角を制御する機能を有する。
【0019】
(具体的構成)
図1に示したように、車両制御装置1は、運転支援ECU10、車載センサ20、駆動装置30、制動装置40及びステアリング装置50を備えている。
【0020】
運転支援ECU10は、CPU10a、ROM10b、RAM10c、タイマー10dなどを含む。運転支援ECU10は、CANを介して他のECU(例えば、後述する駆動装置30、制動装置40、ステアリング装置50のECU)に接続されている。
【0021】
車載センサ20は、自車両の周囲に存在する物標に関する情報を取得する周囲センサを含む。車載センサ20は、例えば、周囲センサとしてのミリ波レーダー21、ソナー22及びカメラ23を含む。
【0022】
ミリ波レーダー21は、送受信部と信号処理部とを備えている。送受信部が、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を自車両の前方へ放射し、放射範囲内に位置する立体物にて反射したミリ波(反射波)を受信する。信号処理部は、送受信部がミリ波を放射してから反射波を受信するまでの時間、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰度などに基づいて、自車両と立体物との距離、自車両に対する立体物の相対位置(方向)等を認識し、当該認識結果を運転支援ECU10に送信する。
【0023】
ソナー22は、超音波を間欠的に自車両の周辺領域に放射し、立体物にて反射した超音波(反射波)を受信する。ソナー22は、超音波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて、自車両と立体物との距離、自車両に対する立体物の相対位置(方向)等を認識し、当該認識結果を運転支援ECU10に送信する。
【0024】
カメラ23は、撮像装置及び画像解析装置を含む。撮像装置は、例えば、CCDを内蔵する。撮像装置は、自車両の前部、後部、左側面部及び右側面部に設置されている。撮像装置は、所定のフレームレートで自車両の周辺領域をそれぞれ撮影して、画像データをそれぞれ取得する。各撮像装置は、画像データを画像解析装置に送信する。画像解析装置は、取得した画像データを解析して、その画像から自車両の周囲に存在する物標及び表示を認識する。例えば、画像解析装置は、他車両、ガードレール、ポール、レーンマーク(走行レーンを区画する区画線、縁石、分離帯等)などを認識し、当該認識結果を、運転支援ECU10に送信する。
【0025】
さらに、車載センサ20は、車速センサ24を含む。車速センサ24は、自車両の車輪が所定角度回転するごとに一つのパルス信号(車輪パルス信号)を発生させる車輪速センサを含む。車速センサ24は、車輪速センサから送信されてくる車輪パルス信号の単位時間におけるパルス数を計測し、その計測したパルス数に基づいて各車輪の回転速度(車輪速度)を計算し、各車輪の車輪速度に基づいて自車両の速度(実車速)を演算する。車速センサ24は、当該演算結果を運転支援ECU10に送信する。
【0026】
さらに、車載センサ20は、スイッチ25を含む。スイッチ25は、運転者が車両制御装置1に対し、各種処理を実行することを要求するための操作装置を含む。具体的には、スイッチ25は、後述する車速制御及び舵角制御をそれぞれ実行することを要求するための押しボタン式のスイッチ25a及びスイッチ25bを含む。なお、スイッチ25aがオン状態である場合にのみ、スイッチ25bをオン状態に設定可能である。つまり、スイッチ25aがオフ状態である場合には、スイッチ25bをオン状態にすることができない。
【0027】
駆動装置30は、駆動力を駆動輪に付与する。駆動装置30は、エンジンECU、内燃機関、変速機、駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達機構などを含む。エンジンECUは、他のECU(運転支援ECU10)から目標の駆動力を表す情報(目標値)を取得し、当該情報に基づいて、内燃機関のスロットル弁を駆動して、駆動輪に付与される駆動力を制御する。内燃機関が発生する駆動力は、変速機及び駆動力伝達機構を介して駆動輪に伝達される。また、エンジンECUは、自車両が備える変速機のシフトポジションに関する情報(制御信号)を取得し、当該情報に基づいて、シフトポジションを制御する。
【0028】
なお、車両制御装置1が適用される車両が、ハイブリッド車両(HEV)である場合、エンジンECUは、車両駆動源としての「内燃機関及び電動機」の何れか一方又は両方によって発生する車両の駆動力を制御することができる。また、車両制御装置1が適用される車両が電気車両(BEV)である場合、エンジンECUに代えて、車両駆動源としての「電動機」によって発生する車両の駆動力を制御する電動機ECUを用いればよい。
【0029】
制動装置40は、車輪(ブレーキディスク)に対して制動力を付与する。制動装置40は、ブレーキECU、ブレーキキャリパなどを含む。ブレーキECUは、目標の制動力を表す情報(目標値)を取得し、当該情報に基づいて、ブレーキキャリパを制御して、ブレーキディスクに対して付与される制動力を制御する。
【0030】
ステアリング装置50は、操舵輪(左前輪及び右前輪)の舵角を制御する。ステアリング装置50は、ステアリングECU、ステアリング機構などを含む。ステアリング装置50は、さらに、ステアリング機構を駆動して舵角を変更するアクチュエータを含む。ステアリングECUは、目標の舵角を表す情報(目標値)を取得し、当該情報に基づいてアクチュエータを駆動して、操舵輪の舵角を制御される。
【0031】
(作動)
運転支援ECU10は、スイッチ25aがオン状態である場合に、下記の車速制御を実行する。また、運転支援ECU10はスイッチ25aがオン状態であって且つスイッチ25bがオン状態である場合に、車速制御に加え、下記の舵角制御を実行する。
【0032】
<車速制御>
[定速走行制御]
運転支援ECU10は、車載センサ20から取得した情報に基づいて、自車両の前方に位置する車両であって、自車両と同一方向に進行している車両(先行車両V0)が存在するか否かを判定する。先行車両V0が存在しない場合には、運転支援ECU10は、定速走行制御を実行する。具体的には、運転支援ECU10は、自車両の速度vsが所定の設定速度vd(例えば、燃料消費率が最も低くなる速度)に一致するように、駆動装置30及び制動装置40(以下、「駆動装置等」と称呼する。)を制御する。なお、設定速度vdは変更可能であってもよい。先行車両V0が存在する場合には、運転支援ECU10は、その先行車両V0の速度v0を検知する。そして、運転支援ECU10は、検知した速度v0が所定の高速度vhを超える場合、定速走行制御を実行する。
【0033】
[車間距離保持制御]
一方、運転支援ECU10は、検知した速度v0が所定値vd以下である場合、車間距離保持制御を実行する。具体的には、運転支援ECU10は、車載センサ20から取得した情報に基づいて、先行車両V0と自車両との車間距離Dを検知(実測)する。さらに、運転支援ECU10は、自車両の速度vs、先行車両V0の速度v0などに基づいて、車間距離Dの目標距離Ddを演算する。
【0034】
自車両の速度vsに対する先行車両V0の速度v0(相対速度vr=v0-vs)が「0」より大きい場合、車間距離Dが増大していく。車間距離Dが目標距離Ddより拡大した状態では、運転支援ECU10は、自車両の速度vsが先行車両V0の速度v0より大きくなるように自車両の目標加速度αdを設定する。そして、自車両の加速度α(速度vsの微分値)が目標加速度αdに一致するように、駆動装置等を制御する(加速制御)。これにより、車間距離Dが減少して、目標距離Ddに近づく。そして、車間距離Dが目標距離Ddに一致すると、運転支援ECU10は、自車両の目標加速度αdを「0」に設定する。すなわち、運転支援ECU10は、自車両が先行車両V0と同一の速度で走行するように、駆動装置等を制御する。
【0035】
一方、相対速度vrが「0」より小さい場合、車間距離Dが縮小していく。車間距離Dが目標距離Ddより縮小した状態では、運転支援ECU10は、自車両の速度vsが先行車両の速度v0より小さくなるように自車両の目標加速度αdを設定する。そして、運転支援ECU10は、自車両の加速度αが目標加速度αdに一致するように、駆動装置等を制御する(以下、「減速制御」と称呼する。)。これにより、車間距離Dが増大して、目標距離Ddに近づく。そして、車間距離Dが目標距離Ddに一致すると、運転支援ECU10は、自車両の目標加速度αdを「0」に設定する。
【0036】
目標距離Ddは自車両の速度vs及び先行車両V0の速度v0に相関している。例えば、速度vs及び速度v0が比較的小さい場合の目標距離Ddは、速度vs及び速度v0が比較的大きい場合の目標距離Ddに比べて小さい。速度vs,v0と目標距離Ddとの関係を表すデータベース(テーブル)又は目標距離Ddを算出する演算式を規定するパラメータがROM10bに記憶されている。運転支援ECU10は、上記のデータベース又は演算式に基づいて、目標距離Ddを決定する。
【0037】
なお、上記の定速走行制御及び車間距離保持制御は、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と称呼される場合がある。
【0038】
<舵角制御>
[走行レーントレース制御(第1トレース制御)]
運転支援ECU10は、スイッチ25aがオン状態(上記の定速走行制御又は車間距離保持制御を実行中)であり、且つスイッチ25bがオン状態である場合に、走行レーントレース制御を実行する。この場合、運転支援ECU10は、ミリ波レーダー21、ソナー22及びカメラ23から取得した情報に基づいて、自車両が走行している走行レーンを認識しているか否かを判断する。例えば、運転支援ECU10は、カメラ23から取得した情報に基づいて、走行レーンを区画する左右のレーンマーク(区画線、縁石、分離帯等)を認識しているか否かを判断する。レーンマークを認識している場合、運転支援ECU10は、走行レーンを認識していると判断する。走行レーンを認識していると判断した場合、運転支援ECU10は目標走行ラインLdを演算する。目標走行ラインLdは、
図2に示したように、自車両が走行している走行レーンの右側のレーンマークMR(区画線、縁石、分離帯など)と左側のレーンマークMLとの中央位置にて、レーンマークMR及びレーンマークMLに対して略平行に延びる仮想的なラインである。つぎに、運転支援ECU10は、自車両の前端中央位置CLと目標走行ラインLdとのずれ(走行レーンの幅方向右側又は左側へのずれ(以下、「オフセット値OFS」と称呼する。))を演算する。
【0039】
運転支援ECU10は、オフセット値OFS(絶対値)が閾値OFSthを超えている状況において、オフセット値OFSが減少して「0」に一致するように、自車両の舵角θを制御する。すなわち、運転支援ECU10は、目標舵角θdを設定し、舵角θが目標舵角θdに一致するように、ステアリング装置50を制御する。
【0040】
目標舵角θdは、オフセット値OFS及び自車両の速度vsに相関している。例えば、オフセット値が比較的大きい場合の目標舵角θdは、オフセット値が比較的小さい場合の目標舵角θdよりも大きい。また、速度vsが比較的大きい場合の目標舵角θdは、速度vsが比較的小さい場合の目標舵角θdよりも小さい。目標舵角θdとオフセット値OFS及び速度vsとの関係を表すデータベース(テーブル)又は目標舵角θdを算出する演算式を規定するパラメータがROM10bに記憶されている。運転支援ECU10は、上記のデータベース又は演算式に基づいて、目標舵角θdを決定する。
【0041】
なお、上記の走行レーントレース制御は、レーントレースアシスト(LTA)と称呼される場合がある。
【0042】
[先行車軌跡トレース制御(第2トレース制御)]
例えば、区画線が路面に描画されていない区間(例えば交差点)、区画線が不鮮明である区間、路面に雪が積もっている区間などを、自車両が走行している状況では、運転支援ECU10が、レーンマークMR,MLのうちのいずれか一方又は両方を認識できない場合がある。この場合、運転支援ECU10は、上記の走行レーントレース制御を実行できない。
【0043】
運転支援ECU10は、車間距離保持制御及び走行レーントレース制御を実行中にレーンマークMR,MLのうちのいずれか一方又は両方を認識できなくなった場合、車間距離保持制御を続行しつつ、先行車両V0が通過した領域と同一の領域を自車両が通過するように自車両を制御する。すなわち、運転支援ECU10は、自車両が先行車両V0の軌跡に沿って進行するように駆動装置30、制動装置40及びステアリング装置50を制御する。
【0044】
具体的には、運転支援ECU10は、周囲センサから所定の周期で情報を取得するごとに、下記のようにして、舵角θを修正する。
【0045】
運転支援ECU10は、周囲センサから取得した情報に基づいて、先行車両V0の位置(例えば重心G0の位置P0(自車両の重心Gとの相対位置(方向)))を推定する(
図2を参照。)。なお、運転支援ECU10は、上記の車間距離保持制御を実行しているので、自車両と先行車両V0との距離(車間距離D)が目標距離Ddに保持されている。
【0046】
つぎに、運転支援ECU10は、自車両が現在の舵角θ及び速度vsで進行した場合の予測軌跡T(自車両の重心Gが通過するライン)を演算する。つぎに、運転支援ECU10は、予測軌跡Tと位置P0とのずれΔd(予測軌跡Tと位置P0との最短距離)を演算する。そして、運転支援ECU10は、ずれΔdが「0」になるように舵角θを修正する。すなわち、運転支援ECU10は、位置P0を通る目標軌跡T0を演算し、当該目標軌跡T0に沿って自車両を進行させることができる目標舵角θdを演算する。そして、運転支援ECU10は、舵角θが目標舵角θdに一致するように、ステアリング装置50を制御する。例えば、予測軌跡Tの右側に目標軌跡T0が位置している場合、運転支援ECU10は、自車両が右方へ転舵するように、舵角θを制御する。一方、予測軌跡Tの左側に目標軌跡T0が位置している場合、運転支援ECU10は、自車両が左方へ転舵するように、舵角θを制御する。
【0047】
ただし、運転支援ECU10は、先行車軌跡トレース制御の実行中は、自車両の走行レーンを認識していない。このため、先行車両V0の進行方向が変化し、それに追従するように自車両の進行方向を変化させるように舵角θを制御した場合、自車両に対して並走している他車両(並走他車両)V1に自車両が接近或いは接触する虞がある。このような並走他車両V1への接近或いは接触を防止するために、運転支援ECU10は、並走他車両V1が存在する可能性がある場合、先行車軌跡トレース制御を実行しない。具体的には、運転支援ECU10は、周囲センサから取得した情報に基づいて、自車両の側方領域及びその前後の領域(前側方領域及び後側方領域)からなる領域A(AL,AR)内に、自車両と同方向へ進行している他車両V1を検知するか否かを逐次判定する。運転支援ECU10が領域A内に他車両V1を検知した場合、稀に、それが誤検知である場合もあるが、実際に当該並走他車両が存在している確率は極めて高い。よって、この場合、運転支援ECU10は、並走他車両が存在する可能性があると判断する。
【0048】
なお、「運転支援ECU10が領域A内に他車両V1を検知したこと」は、「並走他車両が存在する可能性がある」という命題Xが「真」になる条件Yの一例に過ぎない。例えば、運転支援ECU10は、先行車軌跡トレース制御によって自車両の進行方向を右方向(又は左方向)に変化させようとしている場合に自車両の右側(又は左側)に位置する領域AR(又はAL)内を並走している他車両V1を検知するか否かを判定する。「領域AR(又はAL)内を並走している他車両V1を検知した」という条件Yが成立した場合、運転支援ECU10は、「並走他車両が存在する可能性がある」と判断する。
【0049】
条件Yが成立した場合、運転支援ECU10は、図示しない表示器、ブザーなどを制御して、舵角制御及び車間距離保持制御を実行不能であることを運転者に報知した後、舵角制御及び車間距離保持制御の実行を終了する。なお、この場合、運転支援ECU10は、定速走行制御を実行してもよいし、車速制御を終了してもよい。
【0050】
つぎに、
図3を参照して、舵角制御を実行するために運転支援ECU10のCPU10a(以下、「CPU」と称呼する。)が実行するプログラムPR1について説明する。
【0051】
スイッチ25a及びスイッチ25bがオン状態である場合に、CPUは、所定の周期でプログラムPR1の実行を開始する。CPUは、ステップ100からプログラムPR1の実行を開始し、ステップ101に進む。
【0052】
CPUは、ステップ101に進むと、車間距離保持制御を実行中であるか否かを判定する。CPUは、車間距離保持制御を実行中である場合(101:Yes)、ステップ102に進む。一方、CPUは、車間距離保持制御を実行していない場合(定速走行制御を実行中(101:No))、ステップ108に進み、プログラムPR1の実行を終了する。
【0053】
CPUは、ステップ102に進むと、「レーンマークML及びレーンマークMRを認識しているか否か」を判定する。CPUはレーンマークML及びレーンマークMRを認識している場合(102:Yes)、自車両の走行レーンを認識していると判断してステップ103に進む。一方、CPUは、レーンマークML及びレーンマークMRのうちのいずれか一方又は両方を認識していない場合(102:No)、自車両の走行レーンを認識していないと判断してステップ104に進む。
【0054】
CPUは、ステップ103に進むと、走行レーントレース制御を実行する。そして、CPUは、ステップ108に進み、プログラムPR1の実行を終了する。
【0055】
CPUは、ステップ104に進むと、自車両の側方、前側方、後側方からなる領域A内に並走他車両V1を検知したか否か、すなわち条件Yが成立したか否かを判断する。領域A内に並走他車両V1を検知していない場合(104:No)、CPUはステップ105に進む。
【0056】
CPUは、ステップ105に進むと、先行車軌跡トレース制御を実行する。
図4は、先行車軌跡トレース制御を実行するためにCPUが実行するプログラムPR2を示す。
図4に示すように、CPUは、ステップ200にて先行車軌跡トレース制御の実行を開始すると、ステップ201に進み、先行車両V0の位置P0を取得(演算)する。そして、CPUは、ステップ202に進む。
【0057】
CPUは、ステップ202に進むと、自車両の予測軌跡Tを取得(演算)する。そして、CPUは、ステップ203に進む。
【0058】
CPUは、ステップ203に進むと、目標舵角θdを取得(演算)する。そして、CPUは、ステップ204に進む。
【0059】
CPUは、ステップ204に進むと、目標舵角θdと現在の舵角θとの差である角度差Δθ(絶対値)が微小な閾値Δθthを超えているか否かを判定する。角度差Δθが閾値Δθthを超えている場合(204:Yes)、CPUは、ステップ205に進む。一方、角度差Δθが閾値Δθth以下である場合(204:No)、CPUは、ステップ206に進み、プログラムPR2の実行を終了する。
【0060】
CPUは、ステップ205に進むと、舵角θを修正する。これにより、舵角θが目標舵角θdに一致するように、ステアリング装置50が制御される。そして、CPUは、ステップ206に進み、プログラムPR2の実行を終了する。
【0061】
また、
図3のステップ104にて、領域A内に並走他車両V1を検知した場合(104:Yes)、CPUはステップ106に進み、表示装置等を制御して、先行車軌跡トレース制御を実行不能であることを運転者に報知する。そして、CPUは、ステップ107に進み、舵角制御を終了する。従って、ステップ104にて領域A内に並走他車両V1を検知していないと判断した場合には、先行車軌跡トレース制御を実行しない。その後、CPUは、ステップ108に進んでプログラムPR1の実行を終了する。なお、CPUがステップ107に進んだとき、舵角制御を実行していない場合には、CPUは、ステップ107をスキップして、ステップ108に進む。
【0062】
(効果)
本実施形態によれば、領域A内に並走他車両が存在する可能性がある場合、具体的には領域A内に並走他車両V1を検知した場合には、先行車軌跡トレース制御が実行されない。このため先行車軌跡トレース制御を実行することによって自車両が当該並走他車両V1に接近又は接触することを抑制できる。このように、車両制御装置1によれば、自車両の安全性を向上させることができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0064】
<変形例1>
車載センサ20は、所定のサーバーコンピュータに無線通信回線を介して接続された通信装置26を含んでもよい。この場合、運転支援ECU10は、当該通信装置26及び無線通信回線を介して、サーバーコンピュータから、自車両が走行している走行レーン及び/又は当該走行レーンに隣接する走行レーンの混雑状況に関する交通情報を受信する。そして、
図5に示したように、運転支援ECU10は、自車両が混雑区間を走行しているか否かを判定する。具体的には、運転支援ECU10は、前記交通情報が表す混雑度(例えば、自車両から前方及び後方のそれぞれ所定の距離だけ離れた領域内に位置する他車両の台数)が閾値を超える場合に、自車両が混雑区間を走行していると判定する。そして、運転支援ECU10は、「自車両が混雑区間を走行している」という条件が成立した場合(ステップ104a:Yes)、並走他車両が存在する可能性があると判定して、プログラムPR1aの実行を終了する。つまり、この場合、運転支援ECU10は、先行車両軌跡トレース制御を実行しない。
【0065】
<変形例2>
車載センサ20は、ナビゲーションシステム27を含んでもよい。運転支援ECU10は、ナビゲーションシステム27から自車両の現在地点及びその周辺の道路の構成(走行レーン数)に関する情報を取得する。そして、運転支援ECU10は、
図6に示したように、同情報に基づいて、「自車両が2車線以上の道路を走行している(隣接レーンが存在する)ことを検知した」という条件Yが成立した場合(ステップ104b:Yes)、並走他車両が存在する可能性があると判定して、プログラムPR1bの実行を終了する。つまり、この場合、運転支援ECU10は、先行車両軌跡トレース制御を実行しない。
【符号の説明】
【0066】
1…車両制御装置、10…運転支援ECU、20…車載センサ、30…駆動装置、40…制動装置、50…ステアリング装置