(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】品質異常要因分析支援システム
(51)【国際特許分類】
B21B 38/00 20060101AFI20250723BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20250723BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20250723BHJP
G05B 23/02 20060101ALN20250723BHJP
【FI】
B21B38/00 F
B21B37/00 300
B21C51/00 P
G05B23/02 301Z
(21)【出願番号】P 2024549733
(86)(22)【出願日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2023025756
(87)【国際公開番号】W WO2025013249
(87)【国際公開日】2025-01-16
【審査請求日】2024-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 真康
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-068595(JP,A)
【文献】特開2013-029916(JP,A)
【文献】特開平10-122917(JP,A)
【文献】特開2000-315111(JP,A)
【文献】特開2000-263113(JP,A)
【文献】特開平08-164409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ保存部と、品質異常要因推定算出部と、表示情報生成部と、を備え、
前記データ保存部は、圧延プラントで製造される製品の製造条件と、前記圧延プラントに設置された設備機器の設定条件と、前記圧延プラントに設置された計測機器から取得される実績データとしての製造時の時系列データを保存する
ように構成され、
品質異常要因推定算出部は、
前記製造時の時系列データから選択される前記製品の製品品質に関わる品質データから品質評価値を算出し、
算出した前記品質評価値が許容範囲を超えた異常な製品または製品群を異常製品とし、前記異常製品の前記許容範囲を超えた品質異常箇所を取得し、
前記品質評価値が前記許容範囲内である正常な製品群に関する前記時系列データ、
前記製造条件および前記設定条件を正常データとして登録し、
前記正常データとして登録された前記時系列データ、または、
前記正常データとして登録された前記製造条件および前記設定条件に基づいて
、機械学習または統計的手法を利用する品質異常要因推定モデルを構築し、
構築した前記品質異常要因推定モデルに基づいて、前記時系列データ、または、前記製造条件および前記設定条件から前記品質異常の要因候補を推定し、推定した前記要因候補の前記品質異常に対する関連度を算出する
ように構成され、
前記表示情報生成部は、前記異常製品の前記品質データと、前記品質異常箇所と、前記時系列データ、または、前記製造条件および前記設定条件と、前記品質異常要因推定算出部で推定および算出した前記要因候補および前記関連度と、を表示部に表示するための情報を生成する
ように構成された、品質異常要因分析支援システム。
【請求項2】
前記表示情報生成部は、前記異常製品の前記製造条件、前記設定条件、前記品質評価値および前記品質異常箇所を一覧表示するための情報を生成する、請求項1に記載の品質異常要因分析支援システム。
【請求項3】
前記表示情報生成部は、前記異常製品の前記品質データのトレンドチャートと、前記品質異常要因推定算出部で推定された前記要因候補のうち前記関連度が最も高い前記要因候補に対応する前記時系列データのトレンドチャートと、各トレンドチャートにおける前記品質異常箇所と、を表示するための情報を生成する、請求項1に記載の品質異常要因分析支援システム。
【請求項4】
前記表示情報生成部は、前記異常製品の前記品質データのトレンドチャートと、前記品質異常要因推定算出部で推定された複数の前記要因候補と、各要因候補の前記関連度と、各要因候補に対応する前記時系列データのトレンドチャートと、各トレンドチャートにおける前記品質異常箇所と、を表示するための情報を生成する、請求項1に記載の品質異常要因分析支援システム。
【請求項5】
前記表示情報生成部は、前記品質データおよび前記品質異常箇所が同じ前記異常製品に対して、前記要因候補としての前記設定条件と、各設定条件の前記品質異常に対する関連度と、を表示するための情報を生成する、請求項1に記載の品質異常要因分析支援システム
。
【請求項6】
前記品質異常要因推定算出部は、前記製品が製造される毎に前記品質異常要因推定モデルを再構築し、再構築した前記品質異常要因推定モデルの予測誤差が再構築前の前記品質異常要因推定モデルの予測誤差よりも小さい場合に前記品質異常要因推定モデルを更新する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の品質異常要因分析支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、品質異常要因分析支援システムに関する。特に、本開示は、圧延プラントで製造された鋼板などの製品が品質異常と判定された際に、品質異常の要因の分析作業を支援する品質異常要因分析支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧延プラントで製造される製品は、顧客からの要求などにより定められた品質管理基準値を満足しない場合、品質異常(品質不良を含む)と判断される。下記特許文献1には、製造プロセス異常判定装置が開示されている。
【0003】
品質異常と判断された製品は、低級材としての販売や、廃却扱いとなり、生産能率の低下を招来する。品質異常が発生した場合、その特徴を判断し、要因を分析調査するとともに、再発を防ぐための操業条件や制御設定の変更のような対策を決定して実施する必要がある。
【0004】
品質異常の特徴判断から、対策を実施するまでの一連の作業は、経験豊富な熟練者により数多くのデータや情報から総合的に判断することが必要であるため、多大な労力と時間が必要であった。下記特許文献2には、品質異常の原因推定システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第6116445号公報
【文献】日本特許第4365536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、製造時の種々の入力情報の条件が近い製品群を見つけ、当該製品群の出力結果の傾向と合っているか否かによって品質異常を事前に検知することができる。また、入力情報の条件が近い製品群の出力結果の代表値などと、対象の製品の入力情報を元に計算された予測結果の差分をもとに、対象の製品に対する予測計算の精度を改善することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献2では、製品個々の製造条件や設定条件に対する品質異常の検出や、その要因分析に特化している。このため、特許文献2では、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかまでは捉えることができなかった。これは、製品は長手方向に長尺であり、時系列データ(実績データ)の情報量が多すぎるため、時系列データを圧縮して品質異常を検出するのが一般的であることに起因する。このため、品質異常が発生すると、品質異常の発生箇所を特定した上で、特定した発生箇所の発生要因を分析する作業が必要であった。
【0008】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものである。本開示は、製品が品質異常と判定された際に、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかを表示すると共にその発生要因を表示することが可能な品質異常要因分析支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の観点は、品質異常要因分析支援システムに関連する。品質異常要因分析支援システムは、データ保存部と、品質異常要因推定算出部と、表示情報生成部と、を備える。データ保存部は、圧延プラントで製造される製品の製造条件と、圧延プラントに設置された設備機器の設定条件と、圧延プラントに設置された計測機器から取得される実績データとしての製造時の時系列データを保存する。品質異常要因推定算出部は、製造時の時系列データから選択される製品の製品品質に関わる品質データから品質評価値を算出する。品質異常要因推定算出部は、算出した品質評価値が許容範囲を超えた異常な製品または製品群を異常製品とし、異常製品の許容範囲を超えた品質異常箇所を取得する。品質異常要因推定算出部は、品質評価値が許容範囲内である正常な製品群に関する時系列データ、製造条件および設定条件を正常データとして登録する。品質異常要因推定算出部は、正常データとして登録された前記時系列データ、または、正常データとして登録された製造条件および設定条件に基づいて、機械学習または統計的手法を利用する品質異常要因推定モデルを構築する。品質異常要因推定算出部は、構築した品質異常要因推定モデルに基づいて、時系列データ、または、製造条件および設定条件から品質異常の要因候補を推定する。品質異常要因推定算出部は、推定した要因候補の品質異常に対する関連度を算出する。表示情報生成部は、異常製品の品質データと、品質異常箇所と、時系列データ、または、製造条件および設定条件と、品質異常要因推定算出部で推定および算出した要因候補および関連度と、を表示部に表示するための情報を生成する。
【0010】
第2の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。表示情報生成部は、異常製品の製造条件、設定条件、品質評価値および品質異常箇所を一覧表示するための情報を生成する。
【0011】
第3の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。表示情報生成部は、異常製品の品質データのトレンドチャートと、品質異常要因推定算出部で推定された要因候補のうち関連度が最も高い要因候補に対応する時系列データのトレンドチャートと、各トレンドチャートにおける品質異常箇所と、を表示するための情報を生成する。
【0012】
第4の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。表示情報生成部は、異常製品の品質データのトレンドチャートと、品質異常要因推定算出部で推定された複数の要因候補と、各要因候補の関連度と、各要因候補に対応する時系列データのトレンドチャートと、各トレンドチャートにおける品質異常箇所と、を表示するための情報を生成する。
【0013】
第5の観点は、第1の観点に加えて、次の特徴を更に有する。表示情報生成部は、品質データおよび品質異常箇所が同じ異常製品に対して、要因候補としての設定条件と、各設定条件の品質異常に対する関連度と、を表示するための情報を生成する。
【0015】
第6の観点は、第1から第5のいずれか1つの観点に加えて、次の特徴を更に有する。品質異常要因推定算出部は、製品が製造される毎に品質異常要因推定モデルを再構築し、再構築した品質異常要因推定モデルの予測誤差が再構築前の品質異常要因推定モデルの予測誤差よりも小さい場合に品質異常要因推定モデルを更新する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、異常製品の品質評価値が許容範囲を超えた品質異常箇所を取得することで、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかを表示することができる。さらに、正常データを用いて品質異常要因推定モデルを構築し、構築した品質異常要因推定モデルを用いて品質異常の要因候補を推定し、推定した要因候補の品質異常に対する関連度を算出することで、関連度の高い時系列データを品質異常の発生要因として表示することができる。従って、製品が品質異常と判定された際に、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかを表示すると共にその発生要因を表示することが可能な品質異常要因分析支援システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1による品質異常要因分析支援システムを適用した圧延プラントの一例を示す概略図である。
【
図2】データ保存部により収集、登録されるデータの構成を示す図である。
【
図3】実施の形態1による品質異常要因分析支援システムの処理フローを示す図である。
【
図4】品質異常要因推定モデルの入出力変数の例を示す図である。
【
図5】品質情報表示機能で生成される情報によりHMI装置に表示される各種画面を示す図である。
【
図6】鋼板情報一覧画面の表示内容を模式的に示す図である。
【
図7】鋼板情報一覧画面にてポップアップ表示される画面の表示内容を模式的に示す図である。
【
図8】品質異常要因推定結果表示画面の表示内容を模式的に示す図である。
【
図9】類似品質異常要因推定分析画面の表示内容を模式的に示す図である。
【
図10】品質異常要因・設定分析表示画面の表示内容を模式的に示す図である。
【
図11】実施の形態2による品質異常要因分析支援システムの処理フローを示す図である。
【
図12】品質異常要因分析支援システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本開示の実施の形態による品質異常要因分析支援システムについて説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による品質異常要因分析支援システム20を適用した圧延プラント1の一例を示す概略図である。
【0020】
圧延プラント1は、例えば、熱間圧延ラインを有する熱間圧延プラントであるが、冷間圧延プラントであってもよい。圧延プラント1は、熱間圧延ラインを構成する主な設備機器として、加熱炉2と、粗圧延機3と、クロップシャー4と、仕上圧延機5と、冷却装置6と、巻取機7が設置されている。圧延プラント1には、圧延設備の間で鋼板Prを搬送するための搬送テーブル(図示省略)が設置されている。これらの圧延設備は、電動機やアクチュエータの電気系により駆動される。
【0021】
加熱炉2は、圧延前の鋼板(スラブ)Prを所定温度(例えば、1200℃)に加熱するように構成されている。粗圧延機3は、少なくとも1基(通常1基~3基)の圧延スタンドを有し、加熱炉2で加熱された鋼板(スラブ)Prを順方向(圧延ラインの上流から下流)、逆方向(圧延ラインの下流から上流)で複数パス圧延する。クロップシャー4は、後述する形状検出器81で測定された形状に基づいて、上下の刃により鋼板Prの先端部または尾端部に存する形状不良部分を切断する。仕上圧延機5は、鋼板Prの圧延方向に並設される例えば7基の圧延スタンドF1~F7を備えるタンデム圧延機である。各圧延スタンドF1~F7は、上下2本のワークロール51と、上下2本のバックアップロール52と、ロール回転用の電動機53を夫々備える。バックアップロール52には圧下装置54が設けられ、圧下装置54により上下のワークロール51間のギャップを調整可能に構成されている。各圧延スタンドF1~F7の圧延荷重は、圧延荷重センサ55により計測される。冷却装置6は、冷却バンクにより鋼板Prに注水することで、鋼板Prを冷却する。冷却された鋼板Prは巻取機7でコイル状に巻き取られる。
【0022】
圧延プラント1の要所には計測機器としての各種センサが設置されている。圧延プラント1の要所とは、例えば、加熱炉2の出側、粗圧延機3の出側、仕上圧延機5の出側、及び巻取機7の入側などである。各種センサは、仕上圧延機5の圧延スタンドF1~F7の間にも設けられ得る。各種センサは、粗圧延機3出側で鋼板Prの形状を測定可能な形状検出器81と、仕上圧延機5の入側で鋼板Prの表面温度を計測する温度計82と、仕上圧延機5の出側で鋼板Prの速度Vaを計測する速度検出器83と、仕上圧延機5の出側で鋼板Prの板厚及び板幅を計測する板厚・板幅計84と、巻取機7の入側で鋼板Prの表面温度を計測する温度計85と、上記圧延荷重センサ55を含む。各種センサは、鋼板Prと各設備機器の状態とを逐次的に計測している。各種センサにより計測された実績データは、制御計算機11に時々刻々送信される。このため、実績データは、時系列データである。
【0023】
圧延プラント1は、階層構造を有する計算機を用いた制御系により運転(操業)されている。計算機は、ネットワークを介して互いに接続された、プロセス制御計算機(以下「制御計算機」という)11と、上位計算機12とを含む。制御計算機11は、ネットワークを介して後述する品質異常要因分析支援システム20に接続されている。制御計算機11は、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)等の制御用コントローラを有する。制御計算機11には、ネットワークを介して、HMI(Human Machine Interface)装置13が接続されている。HMI13に監視対象(圧延設備)のデータを提示し、使用者(管理者を含む)が監視対象装置を監視または操作(制御)できるように構成している。圧延計画の設計者により上位計算機12に圧延計画である熱延命令情報が入力されると、上位計算機12から制御計算機11に熱延命令情報が送られる。熱延命令情報には、目標板厚、目標板幅、目標温度などが含まれる。目標温度には、仕上圧延機5の出側の目標温度(以下「仕上出側温度」という)や巻取機7の入側の目標温度(以下「巻取温度」という)などが含まれる。プロセス制御計算機11は、上位計算機12からの製造条件である熱延命令情報(圧延計画)の入力を受けて、制御対象である各圧延設備の設定値を含む設定データを計算し、計算した設定データを圧延プラント1に送信することで、各種圧延設備の制御を実行する。
【0024】
品質異常要因分析支援システム20は、圧延プラントライン1の各圧延設備と制御計算機12との間で授受するデータ(圧延データ)を収集し、収集した圧延データを利用して品質異常要因分析を支援する情報を計算して使用者(管理者を含む)へ提供する。
【0025】
品質異常要因分析支援システム20は、データ保存部21と、品質異常要因推定算出部22と、表示情報生成部23と、を備える。品質異常要因分析支援システム20の各部21~23の機能は、例えば、後述する
図12に示すプロセッサ20bがメモリ20cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより実現することができる。
【0026】
データ保存部21は、圧延データを収集し、データベースDBに保存する機能を有する。圧延データには、前述の熱延命令情報、設定データおよび実績データが含まれる。品質異常要因推定算出部22は、データ保存部21に保存された圧延データを用いて、製品品質の評価と、評価の結果に基づいた品質異常要因の分析を支援するための情報の算出(計算)を実施する。表示情報生成部23は、品質異常要因推定算出部22の算出結果を、表示部としてのHMI装置13に表示させる。オペレータは、HMI装置13に表示された情報(計算結果)を確認および操作し、分析作業を実施する。
【0027】
図2は、データ保存部21により収集、登録されるデータの構成を示す図である。
図2に示すように、データ保存部21により収集した情報は、例えば、熱延命令情報や設定データのように鋼板Prの1つ1つに割り付いた情報と、実績データのように鋼板Prの圧延に対して時々刻々得られる時系列データと、を含み、これらの情報およびデータは鋼板Prの製造番号(以下「コイルID」という)や加熱炉2からの鋼板Prの抽出時刻などに紐づけて、データベースDBとして保存される。なお、
図1に示す例では、データベースDBが品質異常要因分析支援システム20の内部に設けられているが、品質異常要因分析支援システム20の外部にデータベースDBを設けて、ネットワーク接続により情報およびデータをやりとりしてもよい。
【0028】
次に、品質異常要因推定算出部22における、製品品質の評価および評価結果に基づいた品質異常要因の分析を支援するための情報の計算の手順を、
図3を参照して説明する。
図3は、実施の形態1による品質異常要因分析支援システム20の処理フローを示す図である。
【0029】
品質異常要因推定算出部22は、先ず、前述した時系列データである実績データのうちから選択される、例えば、仕上出側板厚や仕上出側板幅、形状、仕上出側温度、コイラ入側温度といった圧延プラント1で製造される鋼板Prの品質の評価に使用される品質データxiをデータ保存部21(データベースDB)から取得し(ステップS1)、品質評価値を算出する(ステップS2)。これらの品質データxiは、基準値である許容範囲が夫々定められており、この許容範囲に基づいて鋼板Prの品質が評価される。品質評価値は、例えば、下式(1)および(2)により計算される。
【数1】
【数2】
【0030】
ここで、performanceAは、当該鋼板Prの、仕上出側板厚や仕上出側板幅、形状、仕上出側温度、コイラ入側温度などのいずれかの品質評価値を示す。Isは、鋼板長手方向位置に対する品質評価値算出対象開始点を、ILは、鋼板長手方向位置に対する品質評価値算出対象終了点を、夫々示す。鋼板Prの長手方向は、圧延方向や搬送方向に対応する。また、xiは、IsからILまでの点iにおける品質データの値を示す。Toleranceは、仕上出側板厚や仕上出側板幅、形状、仕上出側温度、コイラ入側温度などのいずれかの品質基準値を示す。鋼板Prの長手方向における品質評価値算出対象開始点および終了点は、鋼板Prの長手方向先尾端の非定常変形部を除外(所謂、先尾端カット)した長さとして取られることが多いが、例えば、鋼板Prの長手方向先尾端の非定常変形部を除外した長さを、さらにいくつかに分割して、その区間ごとに品質評価値を算出してもよい。
【0031】
上記ステップS2で算出された品質評価値は、データ保存部21により当該鋼板PrのコイルIDなどと紐づけて保存される(ステップS3)。次に、算出した品質評価値が基準値としての許容範囲を満たすか否かを判断し(ステップS4)、品質評価値が許容範囲を満たしている場合には、その品質の正常データとして、満たさない場合には、その品質の異常データとして、夫々当該鋼板PrのコイルIDなどと紐づけてラベル登録し(ステップS5)、データ保存部21により保存する。品質の異常データのラベルは、必ずしも正常データとの区別として割り振られるのではなく、異常の特徴に応じたラベルとして登録してもよい。例えば、仕上出側板厚が許容範囲を超えた場合に、上限値に比べて厚いか、または下限値に比べて薄いか、さらに、どの程度外れているかといった情報として登録してもよい。また、許容範囲を超えた測定点、即ち、鋼板Prの長手方向の位置や、範囲も同様に登録することで、鋼板Prの長手方向のどの部分(位置)で許容範囲を超えたか特定することができる。このとき、例えば、許容範囲の上限値または下限値からの外れ具合や、許容範囲を超えた測定点の位置や範囲それぞれに対して、予め定められた数値の範囲によって、インデックス(指標)として、ラベルを登録してもよい。
【0032】
対象の品質における正常データとしてラベル登録された鋼板Prの本数が任意の本数NL集まったか否か、即ち、即ち、正常データ群に一定数NL集まったか否かを判別する(ステップS6)。一定数NLを超えた場合、対象の品質に対する品質異常要因推定モデル(以下「モデル」ともいう)を構築し(ステップS7)、構築したモデルをデータ保存部21により保存し(ステップS8)、本ルーチンは一旦終了する。モデル構築後に前述した品質評価値が許容範囲を超えると、上記ステップS4でNOと判別され、ステップS9でYESと判別され、ステップS10に移行する。ステップS10では、対象の品質に対する異常要因を、品質異常要因推定モデルを用いて推定する。即ち、品質異常要因推定モデルにより、品質異常の要因候補が推定され、推定された各要因候補の品質異常との関連度が算出される。対象の品質異常に関連する要因候補と推定された実績データを「関連度」として数値化して、それぞれの実績データの項目と、算出された関連度を、当該鋼板PrのコイルIDなどと紐づけてデータ保存部21により保存する。
【0033】
なお、本実施の形態では、品質異常要因推定モデルの構築は、前述の条件に合致したタイミングのみであり、その後は、後述する実施の形態2で説明するように、品質異常要因分析支援システム20の使用者(管理者を含む)が決める任意のタイミングで実施されることができる。
【0034】
前述した品質異常要因推定モデルは、例えば、機械学習の範疇に入る、オートエンコーダ(AE:Auto Encoder)や、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)、サポートベクター回帰(SVR:Support Vector Regression)などや、統計的手法を活用した手法を用いてよい。ここで、AE、RF、SVRというアルゴリズムは、広く一般に知られているので、以下に簡単に説明する。
【0035】
AEは、ニューラルネットワーク(Neural Network)モデル(以下「NNモデル」という)の一種であり、入力変数と同様の変数を出力するように、正常データとラベル登録されたデータ群(以下「正常データ」という)のみにより学習されたNNモデルを用いて、入力変数と出力変数の乖離から異常を検出する手法である。NNモデルは最も単純な構成では、入力層、中間層、出力層という3層構造であり、中間層を増やしていくこともできる。中間層を多数とることで、深層学習とすることもできる。各層は1つまたは複数のニューロンから構成され、各層のニューロンが重み係数およびバイアス値を持ち、それぞれが結合されている。通常、1つのニューロンには、活性化関数が定義され、入力値のレベルにより出力状態が変わるよう設計されている。
【0036】
RFは、複数の決定木と呼ばれる入力変数の条件により出力が決定されるツリー構造の弱学習器を並列に接続させ、それぞれの出力の多数決や平均を取り最終的な出力を予測する手法である。SVRは、ふたつの集団にデータを分割する境界線、超平面を決定するサポートベクターマシンアルゴリズムを回帰問題に応用した手法である。
【0037】
いずれの手法も、入力変数から出力変数を予測計算するモデルを、学習用に用意したデータ群を用いて構築する必要がある。本実施の形態では、前述した正常データとしてラベル登録された鋼板の時系列データ、または、正常データとしてラベル登録された鋼板の設定データを用いて品質異常要因推定モデルを構築する。
【0038】
図4は、入力変数から出力変数を予測計算するモデルに対する入力変数と出力変数の構成例を
図4に示す。入力変数には、対象の品質データに関連する設定データと品質評価値を用いる場合(ケースC,D)と、対象の品質データに関連する実績データと品質データを用いる場合(ケースA,B)とがある。いずれか一方にて入力変数から出力変数を予測計算するモデルを構築してもよいが、両方を構築してもよい。品質データと、当該品質データに関連する実績データとを用いる場合(ケースA)、出力変数は、入力変数と同様とする。ここで、RFやSVRでは、入力変数を品質データに関連する実績データのみとし(ケースB)、出力変数に品質データをとってもよい。また、鋼板Prの長手方向先尾端の非定常変形部を除外した長さをいくつかに分割した各区間にて異常のラベルを付与している場合は、対象区間を切り出して入力変数とすることができる。
【0039】
入力変数から出力変数を予測計算するモデルは、入力変数と出力変数が一致するように、つまり、入力変数から出力変数を予測計算するモデルの予測誤差が最小となるように構築する。対象の品質データに関連する実績データのみとし、出力変数に対象の品質データとした場合は、実際の対象の品質データと予測された出力変数とが一致するように構築する。いずれの場合も、その誤差を数式(誤差関数)として定義し、それが最小となるように構築(学習)する。この誤差関数は、AEの場合、例えば、以下のように定義してもよい。
【数3】
【数4】
【0040】
ここで、Lは損失関数、hはNNの中間層、gは活性化関数、W
1は中間層第1層のNNの重み係数、RMSEは二乗平均平方根誤差、λは正則化パラメータである。W
1は、入力変数の数j={1,2,…,j}と、中間層第1層のニューロンの数k={1,2,…,k}の行列で定義される。前述のように、AEでは、正常データをよく予測するよう入力変数から出力変数を予測計算するモデルを構築している。即ち、後の検知対象のデータに対して、入力変数と出力変数の乖離があれば、異常と判定することができる。前述した損失関数を用いて、下式(5)および(6)により定義される関連性を示すスコアを利用して、異常判定基準を定義するとともに、後の検知対象のデータの入力変数に対して、異常の検知が可能である。
【数5】
【数6】
【0041】
ここで、γjは、入力変数jに対する関連性を示すスコア、γj’は標準化した関連性を示すスコアである。学習に用いた正常データから算出された関連性を示すスコアγjを用いて、異常判定基準を定義することができる。異常判定基準は、任意の数値とすることができるが、例えば、学習に用いた正常データから算出された関連性を示すスコアを降順に並べた際の上位8
番目とする、などの方法を採ってもよいが、これに限定されない。この異常判定基準からの逸脱を以て品質異常に関連するデータを検出する。AEの場合は、この逸脱具合Abnormalityjを、品質異常要因推定における「関連度」とし、下式(7)のようにとる。
【数7】
【0042】
RFやSVRの場合は、例えば、入力変数と出力変数の二乗平均平方根誤差、または、実際の対象の品質データと予測された出力変数の二乗平均平方根誤差を損失関数として定義して、正常データにおける予測性能を向上させたモデルを構築し、その後に入力されるデータの出力を評価して品質異常に関連するデータを検出してもよい。この場合の品質異常に関連するデータを検出方法として、例えば、シャープレイ値を活用した手法であるSHAP(Shapley Additive Explanation)を用いてもよい。SHAPは、公知の手法であるため、ここでは、詳しく言及せず、簡単に説明する。SHAPは、ゲーム理論における協力ゲームでのプレーヤーの平均限界貢献度(シャープレイ値)を用いて、それぞれの入力変数がどの程度予測結果へ寄与したか表すことができる。今回のように、正常データのみを用いて構築したモデルに異常データを入力すると、異常なデータ項目における寄与が大きくなるため、品質異常要因と推定することができる。
【0043】
異常要因推定モデルに統計的手法を用いた場合は、例えば、前述の正常データにおける対象の品質データに関連する実績データと品質データのデータ項目毎に、代表波形を構築し、後の検知対象のデータに対して、代表波形との類似性を見ることで、品質異常要因を推定することができる。代表波形は、例えば、下式(8)のように、各点の平均値としてもよい。
【数8】
【0044】
ここで、repj,iはデータ項目jにおける代表波形i点目のデータである。代表波形との類似性は、例えば、二乗平均平方根誤差としてもよい。つまり、当該数値が大きい程、類似性が低いと評価することができる。類似性を、AEにおける関連性を示すスコアと同様に扱うことで、関連度を算出して、品質異常要因を推定することができる。
【0045】
いずれの手法においても、入力変数は、データ項目毎に標準化しておくことが望ましい。標準化は、正常データの最大値および最小値により算出してもよいし、平均値と標準偏差から算出してもよい。また、ひとつの鋼板Prであっても、品質データに関連する実績データと品質データのデータ項目毎に測定点数、即ち、計測箇所における鋼板の長さ、が異なる場合が多い。そのため、近似による測定点数の補間や、鋼板の長さについても標準化してもよい。
【0046】
前述した関連度が登録された情報や、当該鋼板Prに付随した実績データなどを用いて、表示情報生成部23にて、品質異常要因の分析を支援する。表示情報生成部23により生成される各種画面を
図5に示す。
図5は、表示情報生成部23で生成される情報によりHMI装置13に表示される各種画面を示す図である。表示情報生成部23では、鋼板情報一覧画面231、品質異常要因推定結果表示画面232、類似品質異常要因推定分析画面233、品質異常要因・設定分析表示画面234を表示するための情報を構成し、これらの画面231~234をHMI装置13に表示する。品質異常要因分析の支援に係るステップを、順を追って説明する。
【0047】
先ず、鋼板情報一覧画面231にて、鋼板のコイルIDや目標板厚など主要な製品情報と、品質評価値などが表示される。
図6は、鋼板情報一覧画面231の表示内容を模式的に示す図である。前述の鋼板PrのコイルIDや目標板厚など主要な製品情報と、品質評価値などは、1行当たり1鋼板Pr(1コイルID)の情報として、テーブル形式で表示される。例えば、コイルID「xxx2」のように、品質評価値が許容範囲を超えた鋼板Prの行は、背景色を変更する等、強調表示してもよい。また、品質評価値が許容範囲を超えた品質項目(例えば品質A「A2」)のセルの色や文字の色を変更する、といった強調表示をしてもよい。本画面231にて、品質評価値が許容範囲を超えた鋼板Prがあるか、また、その品質データを確認することができる。対象のコイルID「xxx2」の鋼板Prの行の、対象の品質のセル(品質A「A2」)を押下することで、
図7に示すような画面231aがポップアップ表示され、当該鋼板Prの品質異常要因推定結果の概要を知ることができる。
図7は、鋼板情報一覧画面231にてポップアップ表示される画面231aの表示内容を模式的に示す図である。ここでは、対象の品質データ「品質A」と、品質異常要因推定の内、関連度の最も上位となった、対象の品質に関連する実績データ「データb」が、トレンドチャートとして表示される。ここで、対象の品質の許容範囲を超えた箇所は、図中に網掛けするように強調表示され、鋼板Prの何処(どの位置)で許容範囲を超えたか確認することができる。本ポップアップ画面231aでは、対象の品質異常要因として、最も関連度が高いデータbのみが表示されているが、本ポップアップ画面231aの下部の詳細表示ボタンを押下することで、
図8に示す品質異常要因推定結果表示画面232へ遷移し、当該鋼板Prの対象の品質に対する品質異常要因推定結果の詳細を確認することができる。
【0048】
図8は、品質異常要因推定結果表示画面232の表示内容を模式的に示す図である。品質異常要因推定結果表示画面232では、前述した鋼板情報一覧画面231にて選択した鋼板Pr(コイルID:xxx2)の対象の品質Aに対する品質異常要因推定結果の詳細を表示する。当該鋼板PrのコイルIDや目標板厚など主要な製品情報と、品質評価値などの一覧と、対象の品質データのトレンドチャートが表示される。対象品質データの品質異常要因推定結果の内、関連度が上位となった、対象の品質Aに関連する実績データが、トレンドチャートとして表示される。関連度が上位となった、対象の品質Aに関連する実績データは、関連度の昇順で表示され、早期に品質異常要因として考えられるデータを確認することができる。また、画面上をスクロールすることで、関連度の低いデータを順に確認することもできる。前述した鋼板情報一覧画面231のポップアップ画面231aと同様に、対象の品質Aの許容範囲を超えた箇所は、図中で網掛けするように強調表示され、鋼板の何処で許容範囲を超えたか確認することができる。関連度の高い実績データと許容範囲を超えた箇所を一目で確認することができるため、使用者が、熱間圧延ラインに長く携わっている熟練者であれば、容易に品質改善の対策にたどり着くことができる。使用者が熟練者ではなくとも、関連性の高いデータが上位に表示されるため、問題点の報告や対策の授受といった次のアクションへ早期に繋げることができる。
【0049】
さらに、品質異常要因推定結果表示画面232の類似分析ボタン232aを押下することで、
図9に示す類似品質異常要因推定分析画面233へ遷移することができる。
図9は、類似品質異常要因推定分析画面233の表示内容を模式的に示す図である。類似品質異常要因推定分析画面233では、「実績データ」のタブボタンが押下されている。類似品質異常要因推定分析画面233では、前述した鋼板情報一覧画面231にて選択された鋼板Prと同様の品質異常の特徴が登録された他の鋼板Prと、品質異常要因推定結果を比較・分析することができる。同様の品質異常の特徴が登録された鋼板の対象の品質データは、同一グラフ中にトレンドチャートとして纏めて表示される。それぞれの鋼板のコイルID(図中、8つのコイルID)も同時に示されており、これを押下することで、当該鋼板Prのトレンドチャートのみが強調表示されるなど、より可視化に特化した機能が付与されてもよい。これと同時に、対象の品質の異常に関連する実績データがトレンドチャートとして一覧表示される。なお、前述した品質異常要因推定結果画面232と同様に、対象の品質データや関連する実績データのトレンドチャートの、対象の品質の許容範囲を超えた箇所(品質異常発生箇所)は、図中で網掛けするように強調表示されるが、該当箇所の範囲を、例えば、最小値や最大値、平均値などにより色分け表示してもよい。また、データb,d,a毎の関連度の分布も同様に一覧表示する。図中では、データ毎の関連度の分布を、鋼板の出現本数の数値としてテーブル形式で表示しているが、その数値の高いものから背景色の濃淡などで強調表示してもよい。あるいは、ヒストグラムチャートとして表示してもよい。
【0050】
類似品質異常要因推定分析画面233の「設定データ」のタブボタンを押下することで、
図10に示す品質異常要因・設定分析表示画面234へ遷移することができる。
図10は、品質異常要因・設定分析表示画面234の表示内容を模式的に示す図である。品質異常要因・設定分析表示画面234では、対象の品質異常に関連する実績データだけでなく、設定データに関する分析も可能である。例えば、要因候補としての設
定値4,7,2,8,5などの設定データに対する関連度を箱ヒゲ図としてチャート表示するなどして、対象の品質異常と設定データに関する分析を支援することを可能とする。
【0051】
こうした、類似した品質異常とその要因推定結果を多数の鋼板Prについて確認することで、当該品質異常が恒常的に発生しているものか否か、常に同じ要因によって発生しているか否か、鋼種や目標板厚の他、関連する設定データなど特定の条件で突発的に発生しているか否か、といった分析を支援することができる。いずれも、鋼板Prの全長に渡るトレンドチャートとして示しているが、鋼板Prの長手方向先尾端の非定常変形部を除外した長さを分割した区間毎に品質評価値を算出してる場合、その対象区間に対応したチャートとしてもよい。また、設定値は圧延前に設定されるため、圧延前に要因候補として推定された設定値を関連度に基づいて分析することで、品質異常の発生を未然に防止することができる。これと、圧延後の時系列データ(実績データ)に基づく品質異常の分析を組み合わせることで、使用者の使い勝手を向上させることができる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態によれば、異常製品の品質評価値が許容範囲を超えた品質異常箇所を取得することで、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかを表示することができる。さらに、正常データを用いて品質異常要因推定モデルを構築し、構築した品質異常要因推定モデルを用いて品質異常の要因候補を推定し、推定した要因候補の品質異常に対する関連度を算出することで、関連度の高い時系列データを品質異常の発生要因として表示することができる。従って、製品が品質異常と判定された際に、製品の長手方向のどの位置で品質異常が発生しているかを表示すると共にその発生要因を表示することが可能な品質異常要因分析支援システムを提供することができる。
【0053】
実施の形態2.
次に、本開示の実施の形態2について、上記実施の形態1との相違点を中心に説明する。上記実施の形態1では、品質異常要因推定モデルの構築は、前述の条件に合致したタイミングや、品質異常要因分析支援システム20の使用者(管理者を含む)の決定する任意のタイミングのみであった。このようなタイミングで品質異常要因推定モデルを構築するだけでは、即ち、当該タイミングでのデータセットだけでは、圧延プラント1の全ての品質異常パターンを網羅することは難しい。
【0054】
本実施の形態は、上記タイミング以降、鋼板Prの圧延が完了したタイミング毎に前述の品質異常要因推定モデルを構築する点に特徴がある。
図11は、実施の形態2による品質異常要因分析支援システムの処理フローを示す図である。
【0055】
図11に示すルーチンは、圧延完了毎に起動される。本ルーチンでは、
図3に示すルーチンと同様に、品質データxiを取得し(ステップS1)、品質評価値を算出する(ステップS2)。その後、品質評価値が基準値である許容範囲を外れたか否か判定する(ステップS4)。ここまでの処理は、実施の形態1と同様である。
【0056】
本実施の形態では、上記ステップS5で当該鋼板Prの品質評価値が許容範囲内であると判定された場合、正常データとしてラベルが登録され(ステップS5)、前回モデル構築した際に使用した正常データに新たに当該鋼板Prのデータを加えて、品質異常要因推定モデルを再構築する(ステップS12)。次に、上記ステップS12で再構築した品質異常要因推定モデルの損失関数から算出された誤差と、前回構築したモデルの損失関数から算出された誤差を比較し(ステップS13)、再構築したモデルの誤差が小さい場合には、再構築した品質異常要因推定モデルを保存する(ステップS14)。
【0057】
本実施の形態によれば、上記実施の形態1で品質異常要因推定モデルを構築した後、圧延完了毎にモデルを再構築することで、品質異常要因推定モデルを更新することができる。こにより、入力変数の再現性、あるいは、対象の品質データの予測性能が向上されるとともに、常に最新の圧延プラント1の状態に合った品質異常要因推定モデルを利用して品質異常要因を推定することが可能となる。また、再構築した品質異常要因推定モデルの予測誤差が、再構築前の現在使用中の品質異常要因推定モデルの予測誤差よりも小さい場合に、品質異常要因推定モデルを更新(データ保存部21に保存)するようにすることで、モデル再構築による精度低下を防止することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、圧延完了毎にモデルを再構築しているが、これに限定されず、再構築のタイミングは使用者が適宜設定することができる。例えば、使用者が品質異常要因推定結果表示画面232を確認した際に違和感を得た場合に、モデルを再構築することもできる。これにより、精度を向上させることができる。
【0059】
図12は、品質異常要因分析支援システム20のハードウェア構成の一例を示す図である。品質異常要因分析支援システム20の上述した各機能は、
図12に示す処理回路により実現することができる。この処理回路20は、専用ハードウェア20aであってもよい。この処理回路は、プロセッサ20b及びメモリ20cを備えていてもよい。この処理回路は、一部が専用ハードウェア20aとして形成され、更にプロセッサ20b及びメモリ20cを備えていてもよい。
図12の例では、処理回路20の一部が専用ハードウェア20aとして形成されるとともに、処理回路20がプロセッサ20b及びメモリ20cをも備えている。処理回路20が、少なくとも1つの専用ハードウェア20aであってもよい。この場合、処理回路20は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路20が、少なくとも1つのプロセッサ20b及び少なくとも1つのメモリ20cを備えてもよい。この場合、品質異常要因分析支援システム20の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ20cに格納される。プロセッサ20bは、メモリ20cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、品質異常要因分析支援システム20の各機能を実現する。プロセッサ20bは、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPとも呼ばれる。メモリ20cは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリ等の記憶装置が該当する。メモリ20cは、データベースDBを兼用することができる。このように、処理回路20は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、品質異常要因分析支援システム20の各機能を実現することができる。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上記実施の形態では、表示情報生成部23で生成した情報をHMI装置13に送信し、HMI装置13で各種画面231,232,233,234を表示するように構成しているが、品質異常要因分析支援システム20の内部に表示部を設け、この表示部に各種画面を表示するように構成してもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数にこの発明が限定されるものではない。また、上述した実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0062】
1…圧延プラント、13…HMI装置(表示部)、20…品質異常要因分析支援システム,処理回路、20a…専用ハードウェア、20b…プロセッサ、20c…メモリ、21…データ保存部、22…品質異常要因推定算出部、23…表示情報生成部、231…鋼板情報一覧画面、232…品質異常要因推定結果表示画面、233…類似品質異常要因推定分析画面、234…品質異常要因・設定分析表示画面