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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】無線端末のディスプレイ用カバー
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/28 20060101AFI20250723BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20250723BHJP
【FI】
H01Q19/28
H01Q1/38
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023536301
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027345
(87)【国際公開番号】W WO2023002612
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小林 英克
(72)【発明者】
【氏名】巴 篤志
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-178208(JP,A)
【文献】国際公開第2021/095789(WO,A1)
【文献】特開2019-186942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 19/28
H01Q 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成された無線端末のディスプレイ上に配置される無線端末のディスプレイ用カバーであって、
前記ディスプレイと重畳するように配置され、比誘電率が1から10の範囲内である透明な誘電体で形成されるシート状の透明部材と、
前記透明部材上に並んで配置され、可視光の透過率が50%以上である複数の導体素子と、を備え、
前記導体素子は、前記導体素子上の任意の二点間を結んで前記導体素子上に形成される線分のうち最も長い最長線分の長さが前記無線端末が無線通信に使用する電波の前記誘電体内における実効波長の長さの0.1倍から0.4倍の範囲内となるように形成され、
前記複数の導体素子は、前記透明部材の厚さ方向に複数並べられた追加導体素子をさらに含む、
無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項2】
前記複数の導体素子は、正面視において多角形に形成された導体素子を含み、
前記最長線分は、前記多角形に形成された導体素子の一辺の長さ、または、前記多角形に形成された導体素子の対角線のうち最も長い線分である、
請求項1に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項3】
前記複数の導体素子は、正面視において円形に形成された導体素子を含み、
前記最長線分は、前記円形に形成された導体素子の直径である、
請求項1または2に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項4】
前記複数の導体素子は、等間隔で配置される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項5】
前記複数の導体素子は、隣り合った導体素子が第1のピッチ間隔で配置される導体素子の組と、隣り合った導体素子が前記第1のピッチ間隔とは異なる第2のピッチ間隔で配置される導体素子の組と、を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項6】
前記複数の導体素子の夫々は、前記誘電体内に設けられる、
請求項1から5のいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項7】
前記複数の導体素子は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(AZO)の群から選択される1以上の金属によって形成される、
請求項1からのいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項8】
前記透明部材には、前記無線端末の側面側に配置される突出部が形成され、
前記突出部には、前記複数の導体素子が配置される、
請求項1からのいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項9】
前記複数の導体素子は、隣り合った導体素子のピッチ間隔が前記実効波長の0.5倍である、
請求項4に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項10】
前記電波はミリ波帯の電波であり、
前記ピッチ間隔は、0.16mmから6.25mmの範囲内である、
請求項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【請求項11】
前記電波はミリ波帯の電波であり、
前記最長線分の長さは、0.032mmから5mmの範囲内である、
請求項1から1のいずれか一項に記載の無線端末のディスプレイ用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末のディスプレイ用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の無線端末が広く利用されている。このような無線端末では、アンテナ性能の向上を図る様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、窓の室内側に設けた金属薄膜において同心円状に金属薄膜を除去することで円状の輪帯を形成し、当該輪帯を透過することで回折した電波が、位相が揃う位置に収束してエネルギー密度が増加するアンテナ装置が記載されている。特許文献2には、各無給電素子が給電素子から見て放射方向に位置するように、誘電体基板に対して固定されるアンテナ装置が記載されている。特許文献3には、第1放射体によって放射された無線信号を放射するために無線機器のカバーに設置される第2放射体を含む無線機器のアンテナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-171122号公報
【文献】特開2017-079340号公報
【文献】特開2017-537515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スマートフォン等の無線端末では、ディスプレイの保護や他者による覗き見防止等のために、ディスプレイ用のカバーが使用されることが多い。近年の無線端末では主放射方向をディスプレイに向けたアンテナモジュールが使用されることもあり、ディスプレイ用のカバーが配置されると、このような無線端末のアンテナ性能が低下する虞がある。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、ディスプレイ上に配置しても無線端末のアンテナ性能の低下を抑制するとともに、ディスプレイの配置された方向を主放射方向とするアンテナの電波を増幅可能な無線端末のディスプレイ用カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のような無線端末のディスプレイ用カバーによって例示される。本無線端末のディスプレイ用カバーは、板状に形成された無線端末のディスプレイ上に配置される無線端末のディスプレイ用カバーである。本無線端末のディスプレイ用カバーは、上記ディスプレイと重畳するように配置され、比誘電率が1から10の範囲内である透明な誘電体で形成されるシート状の透明部材と、上記透明部材上に並んで配置される可視光の透過率が50%以上である複数の導体素子と、を備える。上記導体素子は、上記導体素子上の任意の2点間を結んで上記導体素子上に形成される線分のうち最も長い最長線分の長さが上記無線端末が無線通信に使用する電波の上記誘電体内における実効波長の長さの0.1倍から0.4倍の範囲内となるように形成される。
【発明の効果】
【0008】
本無線端末のディスプレイ用カバーは、ディスプレイ上に配置しても無線端末のアンテナ性能の低下を抑制するとともに、ディスプレイの配置された方向を主放射方向とするアンテナの電波を増幅することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るスマートフォンのディスプレイ用カバーの一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係るディスプレイ用カバーが設けられるスマートフォンを前面側から見た状態の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態に係るディスプレイ用カバーに設けられた導体素子とディスプレイ用カバーのアンテナの位置関係を模式的に示す図である。
図4図4は、第1シミュレーションで用いた各パラメータを説明する第1の図である。
図5図5は、第1シミュレーションで用いた各パラメータを説明する第2の図である。
図6図6は、第2シミュレーションの結果を例示する図である。
図7図7は、第1変形例に係るディスプレイ用カバーの一例を示す図である。
図8図8は、第1変形例における導体素子とパッチアンテナとの位置関係のバリエーションを示す第1の図である。
図9図9は、第1変形例における導体素子とパッチアンテナとの位置関係のバリエーションを示す第2の図である。
図10図10は、第1変形例における導体素子とパッチアンテナとの位置関係のバリエーションを示す第3の図である。
図11図11は、第1変形例における導体素子とパッチアンテナとの位置関係のバリエーションを示す第4の図である。
図12図12は、矩形以外の形状を採用した導体素子の配置を例示する第1の図である。
図13図13は、矩形以外の形状を採用した導体素子の配置を例示する第2の図である。
図14図14は、矩形以外の形状を採用した導体素子の配置を例示する第3の図である。
図15図15は、矩形以外の形状を採用した導体素子の配置を例示する第4の図である。
図16図16は、導体素子の配置パターンを例示する図である。
図17図17は、突出部を備えたディスプレイ用カバーの一例を示す図である。
図18図18は、突出部を備えたディスプレイ用カバーをスマートフォンに取り付けた状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係る無線端末のディスプレイ用カバーは、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係る無線端末のディスプレイ用カバーは、板状に形成された無線端末のディスプレイ上に配置される無線端末のディスプレイ用カバーである。本無線端末のディスプレイ用カバーは、上記ディスプレイと重畳するように配置され、比誘電率が1から10の範囲内である透明な誘電体で形成されるシート状の透明部材と、上記透明部材上に並んで配置される可視光の透過率が50%以上である複数の導体素子と、を備える。上記導体素子は、上記導体素子上の任意の2点間を結んで上記導体素子上に形成される線分のうち最も長い最長線分の長さが上記無線端末が無線通信に使用する電波の上記誘電体内における実効波長の長さの0.1倍から0.4倍の範囲内となるように形成される。
【0011】
このような無線端末のディスプレイ用カバーによれば、主放射方向をディスプレイ側に向けた無線端末のアンテナに対して導体素子を共振器として動作させることができる。そして、本無線端末用カバーでは、複数の導体素子が並んで配置されるため、導体素子をアンテナの近傍に配置させる可能性を可及的に高めることができる。すなわち、本無線端末のディスプレイ用カバーによれば、導体素子を共振器として動作させる可能性を高めることができ、ひいては、導体素子を共振器として動作させることで無線端末のアンテナの動作利得を向上させることもできる。そして、本無線端末のディスプレイ用カバーの導体素子は、可視光の透過率が50%以上である。そのため、ディスプレイ上に本無線端末のディスプレイ用カバーを配置しても、ディスプレイの表示に対するユーザーの違和感を軽減することができる。
【0012】
以下、図面を参照して上記無線端末のディスプレイ用カバーをスマートフォン用ディスプレイカバーに適用した実施形態についてさらに説明する。図1は、実施形態に係るスマートフォンのディスプレイ用カバー100の一例を示す図である。ディスプレイ用カバー100は、スマートフォンのディスプレイ上に配置され、当該ディスプレイを保護する部材である。ディスプレイ用カバー100は、シート状(板状)に形成されたシート部101と、シート部101に配置された4つの導体素子120を備える。なお、図1では、シート部101は矩形に形成されているが、シート部101の形状は保護対象となるスマートフォンのディスプレイの形状に応じて適宜決定すればよい。また、図1では、導体素子120は4つ並べられているが、導体素子120の数が4つに限定されるわけではない。
【0013】
シート部101は、透明なシート状の部材である。ここで「透明」とは、例えば、可視光の透過率が50%以上のことである。シート部101は、例えば、比誘電率が約1~10、厚さが約0.1~0.5mm程度の誘電体で形成される。このような誘電体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、熱可塑性ポリウレタンTPU及び光学ガラスを挙げることができる。
【0014】
シート部101は、ディスプレイ用カバー100が保護対象とするスマートフォンのディスプレイを覆うように当該ディスプレイ上に配置される部材である。シート部101は、ディスプレイ用カバー100が保護対象とするスマートフォンのディスプレイの形状に合わせて略長方形の板状に形成される。シート部101は、例えば、スマートフォンのディスプレイと重畳するように配置されることでディスプレイを保護する。
【0015】
導体素子120は、金属等の導体を薄い板状に加工した透明な素子である。導体素子120は、金属で形成された薄膜ということもできる。導体素子120を形成する金属としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(AZO)等を挙げることができる。導体素子120は、例えば、このような金属を厚さ30nm以下の薄膜としたり、メッシュ状に加工したりすることで、透明とすることができる。
【0016】
導体素子120は、ディスプレイ用カバー100によって保護対象とされるスマートフォンが備える、主放射方向をディスプレイ側に向けたアンテナモジュールに応じた位置に配置される。導体素子120の大きさは、スマートフォンカバー100に収容するスマートフォンが無線通信に使用する電波の波長及びディスプレイ用カバー100のシート部101を形成する誘電体の誘電率に応じて決定される。導体素子120は、例えば、シート部101を形成する誘電体やスマートフォンのガラスや筐体に依る波長短縮を考慮したスマートフォンの電波の実効波長をλとすると、対角線の長さが0.1λから0.4λである板状の多角形、または、直径の長さが0.1λから0.4λである円板である。また、隣り合った導体素子120のピッチ間隔は、0.5λとすることが好ましい。
【0017】
例えば、ディスプレイ用カバー100が保護対象とするスマートフォンがミリ波帯(周波数24から300GHz)の電波を用いて無線通信をする場合、比誘電率1から10の範囲の素材から選択されるシート部101内における実効波長λは、以下の式(1)によって決定できる。
【数1】
【0018】
上記式(1)において、cは光速、fは周波数、εは比誘電率である。式(1)により、実効波長λは0.32mm以上、12.5mm以下となる。そのため、スマートフォンがミリ波帯の電波を用いて無線通信をする場合、導体素子120は、対角線の長さが0.032から5mmの板状の多角形、または、直径の長さが0.032から5mmの円板とすることができる。また、隣り合った導体素子120のピッチ間隔は、0.16から6.25mmの範囲内とすることが好ましい。上記の通り決定される導体素子120の対角線の長さ(または直径)及びピッチ間隔は、導体素子120をアンテナの放射器として動作させるものではなく、共振器として導体素子120を動作させるものである。
【0019】
図2は、実施形態に係るディスプレイ用カバー100が設けられるスマートフォン500を前面側から見た状態の一例を示す図である。スマートフォン500は、全体視矩形の板状に形成される。スマートフォン500の前面にはディスプレイ513が設けられる。スマートフォン500は、ディスプレイ513上にディスプレイ用カバー100が配置されるスマートフォンということができる。
【0020】
図2では、スマートフォン500が実装するアンテナの位置が点線で例示される。スマートフォン500は、5つのミリ波アンテナモジュール501,502,503,504,505を備える。ミリ波アンテナモジュール501,502,503,504,505は、ミリ波帯の電波を用いて無線通信を行うアンテナである。
【0021】
ミリ波アンテナモジュール501,502,503,504,505の夫々は、4つのパッチアンテナ530を有する4素子パッチアレーアンテナである。ミリ波アンテナモジュール501,503は、スマートフォン500の短辺を形成する側面512に電波の送受信の方向が向くように設けられる。ミリ波アンテナモジュール502は、スマートフォン500の長辺を形成する側面511に電波の送受信の方向が向くように設けられる。ミリ波アンテナモジュール504は、スマートフォン500の底面に電波の送受信方向が向くように設けられる。ミリ波アンテナモジュール505は、スマートフォン500のディスプレイ513に電波の送受信方向が向くように設けられる。
【0022】
ディスプレイ用カバー100では、スマートフォン500の電力給電線が接続されるミリ波アンテナモジュール501,502,503,504,505から物理構造的に切り離されたシート部101に導体素子120が配置される。そして、ディスプレイ用カバー100は、ミリ波アンテナモジュール501,502,503,504,505から放射された電波に対して導体素子120が共振器として動作するものである。導体素子120は、スマートフォン500から物理的に接続した給電を受けることなく動作するため、無給電素子ということもできる。
【0023】
図3は、実施形態に係るディスプレイ用カバー100に設けられた導体素子とディスプレイ用カバー100のアンテナの位置関係を模式的に示す図である。図3(A)はミリ波アンテナモジュール505及び導体素子120を側面から見た図、図3(B)はミリ波アンテナモジュール505及び導体素子120を正面から見た図である。図3(B)では、正面視において目視できないミリ波アンテナモジュール505及びミリ波アンテナモジュール505に設けられたパッチアンテナ530を点線で例示する。
【0024】
ディスプレイ用カバー100とスマートフォン500のディスプレイ513とは、例えば、シート部101の裏面に設けられた両面テープ110によって着脱可能に貼り付けられる。ディスプレイ用カバー100のシート部101には、スマートフォン500において主放射方向をディスプレイ513側に向けたミリ波アンテナモジュール505のパッチアンテナ530に応じた位置に複数の導体素子120が並んで配置される。そのため、ディスプレイ用カバー100がスマートフォン500のディスプレイ513上に配置されると、導体素子120の夫々はミリ波アンテナモジュール505に設けられたパッチアンテナ530の夫々によって電波が出射される方向に位置することになる。図3では、導体素子120とパッチアンテナ530とが正面視においてその中心が一致するように重なって配置されているが、導体素子120とパッチアンテナ530とが正面視において互いの中心がずれていてもよい。
【0025】
パッチアンテナ530は実効波長λの電波で共振する。そのため、図3のように、パッチアンテナ530の電波の出射方向付近に位置する導体素子120は、共振器(いわゆるスタックドパッチ)として動作するようになる。導体素子120がスタックドパッチとして動作することで、ディスプレイ用カバー100は、スマートフォン500のミリ波アンテナモジュール505の動作利得を向上させることができる。
【0026】
<シミュレーション>
ディスプレイ用カバー100の効果について、シミュレーションを行って検証したので、以下説明する。
【0027】
(第1シミュレーション)
第1シミュレーションでは、シート部101の厚さ、導体素子120の対角線の長さをパラメータとして変動させ、ディスプレイ用カバー100の効果を検証した。
【0028】
図4及び図5は、第1シミュレーションで用いた各パラメータを説明する図である。図4では、シート部101の厚さt1、両面テープ110の厚さt2、ディスプレイ513の厚さt3、ディスプレイ513とミリ波アンテナモジュール505の間隔t4及びミリ波アンテナモジュール505の基板の厚さt4が例示される。図5では、導体素子120の対角線(最長線分)の長さSが例示される。
【0029】
第1シミュレーションでは、両面テープ110の厚さt2は0.05mmディスプレイ513の厚さt3は0.7mm、ディスプレイ513とミリ波アンテナモジュール505の間隔t4は0.23mm、ミリ波アンテナモジュール505の基板の厚さt4は0.27mmに設定する。また、シート部101の比誘電率は6.8、両面テープ110の比誘電率は3.0、ディスプレイ513の比誘電率は6.8、ミリ波アンテナモジュール505の基板の比誘電率は12.0に設定する。また、第1シミュレーションでは、シート部101の厚さt1は0.1mmから1.0mmの範囲で変動させ、導体素子120の最長線分Sの長さを0.28mmから5.0mmの範囲で変動させる。
【0030】
第1シミュレーションの結果は、以下の表1に例示される。以下の表1では、シート部101の厚さt1及び導体素子120の最長線分Sの長さを変動させたときにおけるパッチアンテナ530の利得(dBi)が例示される。以下の表1では、導体素子120を設けない場合(表1においてSの値が0mmに相当)も例示される。なお、ディスプレイ用カバー100がディスプレイ513に設けられていない状態(シート部101及び導体素子120が無い状態)では、パッチアンテナ530の利得は9.54dBiであった。
【表1】
【0031】
従来から利用されるディスプレイ用保護カバーの厚さは、0.15mm~0.33mmであり、厚さ0.2mm付近のものが多く利用されている。上記表1を参照すると、例えば、t1が0.1mmのときにはSが0.56~3.78mmの範囲において、t1が0.2mmのときにはSが0.56~3.43mmの範囲において、t1が0.3mmのときはSが1.33~3.43mmの範囲において、ディスプレイ用カバー100がディスプレイ513に設けられていない状態やシート部101のみディスプレイ513に設けた場合よりもパッチアンテナ530利得が向上していることが理解できる。なお、t1が0.1mm、Sが3.08mmのときに最大の利得10.69dBiをはっきしたことも上記表1より理解できる。
【0032】
(第2シミュレーション)
第2シミュレーションでは、導体素子120の導電率及び厚さを変動させた場合におけるパッチアンテナ530の利得について検証した。図6は、第2シミュレーションの結果を例示する図である。図6の縦軸はパッチアンテナ530の動作利得を例示し、横軸は導体素子120の導電率を例示する。第2シミュレーションでは、導体素子120の厚さを400nm、40nm、4nm、2.2nm、0.4nm、1.0nmの夫々に設定して、パッチアンテナ530の利得を検証した。なお、図6では、導体素子120を設けない状態のパッチアンテナ530の動作利得を直線Lで例示する。
【0033】
図6を参照すると、導体素子120を設けない場合よりも導体素子120を設けた方が、パッチアンテナ530の動作利得が改善されることが理解できる。ここで、導体素子120の導電率が5.8e+3S/m未満だとパッチアンテナ530の利得を増幅する効果が急激に低下することが理解できる。そのため、導体素子120の導電率は、5.8e+3S/m以上であることが好ましいといえる。また、図6を参照すると、導体素子120の厚さがあまりに薄くなると、パッチアンテナ530を増幅する効果が低下することが理解できる。そのため、導体素子120の厚さは、1nm以上であることが好ましい。
【0034】
<実施形態の作用効果>
スマートフォン500のディスプレイ513上にディスプレイ用カバーを配置すると、ディスプレイ513側に電波の出射方向が向けられたディスプレイ513の動作利得が低下することがある。このような問題は、ミリ波帯の電波を活用する5Gに適合するスマートフォンにおいて顕著に生じるようになる。
【0035】
本実施形態では、ディスプレイ用カバー100に導体素子120を配置し、導体素子120を無給電素子であるスタックドパッチとして動作させることで、ディスプレイ用カバーをスマートフォン500のディスプレイ513上に配置してもスマートフォン500の動作利得低下を抑制することができる。
【0036】
本実施形態では、導体素子120の形状をミリ波帯の電波に対して最適化する。すなわち、矩形に形成される導体素子120の一辺を0.1λから0.4λ(0.032から5mm)とすることで、導体素子120がミリ波帯の電波に対し好適な共振器として動作させることができる。その結果、本実施形態によれば、ディスプレイ用カバー100をディスプレイ513上に配置したスマートフォン500の動作利得向上が期待できる。
【0037】
また、本実施形態では、シート部101においてスマートフォン500のミリ波アンテナモジュール505に対応する位置に導体素子120を配置した。このように導体素子120が配置されることで、ミリ波アンテナモジュール505に設けられたパッチアンテナ530に対して、パッチアンテナ530の動作利得の増幅に好ましい位置に導体素子120が配置されやすくなる。
【0038】
<第1変形例>
図7は、第1変形例に係るディスプレイ用カバー100aの一例を示す図である。実施形態では、導体素子120のピッチ間隔は0.5λg(0.16から6.25mm)とされたが、導体素子120のピッチ間隔が等間隔に限定されるわけではない。図7に例示するように導体素子120は上記の間隔(0.16から6.25mm)内で不均等に設けられてもよい。不均等に設けられた導体素子120のうち、第1のピッチ間隔で配置された導体素子120の組は、「第1のピッチ間隔で配置される導体素子の組」の一例である。不均等に設けられた導体素子120のうち、第2のピッチ間隔で配置された導体素子120の組は、「第2のピッチ間隔で配置される導体素子の組」の一例である。第1のピッチ間隔及び第2のピッチ間隔は、いずもれ0.5λg(0.16から6.25mm)の範囲内から選択されることが好ましい。
【0039】
図8から図11は、第1変形例における導体素子120とパッチアンテナ530との位置関係のバリエーションを示す図である。図8から図11は、ディスプレイ用カバー100aをディスプレイ513上に配置した状態で、導体素子120付近を正面視した図である。なお、図8から図11では、シート部101上に配置される導体素子120の数も変動させている。ディスプレイ用カバー100aでは、ミリ波アンテナモジュール505が存在する蓋然性が高い位置に導体素子120が複数配置される。そのため、配置された複数の導体素子120のいずれかは、ミリ波アンテナモジュール505に設けられたパッチアンテナ530の正面またはその近傍に配置される蓋然性が高い。そのため、第1変形例によっても、ディスプレイ用カバー100aの動作利得向上を期待できる。また、導体素子120の数とパッチアンテナ530の数とは、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0040】
実施形態及び第1変形例では、複数並んで配置した導体素子120間の距離をミリ波帯の電波に対して最適化する。すなわち、導体素子120のピッチ間隔を0.5λ(0.16から6.25mm)とすることで、導体素子120とスマートフォン500のミリ波アンテナモジュール505が備えるパッチアンテナ530との間に位置ずれが生じても、導体素子120をミリ波帯の電波に対し好適な共振器として動作させることができる。
【0041】
<その他の変形>
実施形態では、導体素子120の形状は矩形とされたが、導体素子120の形状は矩形に限定されるわけではない。導体素子120は、円形や矩形以外の多角形であってもよい。図12から図15は、矩形以外の形状を採用した導体素子120の配置を例示する図である。また、図12から図15では、一列ではなく複数列に渡って導体素子120が配置されている。図12では、楕円形に形成された導体素子120が例示される。導体素子120が楕円形の場合、その長径が0.1λから0.4λ(0.032から5mm)とされればよい。また、導体素子120が正円形の場合、その直径が0.1λから0.4λ(0.032から5mm)とされればよい。
【0042】
また、図13は五角形に形成された導体素子120を例示し、図14は長方形に形成された導体素子120を例示する。導体素子120が長方形を含む多角形の場合、その一辺または対角線のうち最も長い線分が0.1λから0.4λ(0.032から5mm)とされればよい。すなわち、導体素子120は、板状に形成されるとともに、その正面視における形状は様々に形成可能である。そして、様々な形状に形成された導体素子120は、導体素子120の任意の2点を結んで導体素子120上に形成される線分のうち、最も長い線分(最長線分とも称する)の長さが、0.1λから0.4λ(0.032から5mm)とされればよい。
【0043】
図15は、様々な形状の導体素子が配置された状態を例示する図である。図15に例示するように、ディスプレイ用カバー100では、円形や楕円形の導体素子120と多角形の導体素子120の夫々が混在して設けられてもよい。すなわち、ディスプレイ用カバー100では、複数の異なる形状の導体素子120が設けられてもよい。また、ディスプレイ用カバー100では、導体素子120が複数列に整列されていてもよい。
【0044】
図16は、導体素子120の配置パターンを例示する図である。図16では、両面テープ110の図示は省略している。図16(A)では、シート部101の外側の表面(ディスプレイ513とは反対側の面)上に導体素子120が配置された状態が例示される。図16(B)では、シート部101の外側の表面をエッチングし、エッチングした部分に導体素子120が配置された状態が例示される。図16(C)では、シート部101の内側の表面(ディスプレイ513側の面)をエッチングし、エッチングした部分に導体素子120が配置された状態が例示される。図16(D)では、3つの導体素子120がシート部101の厚さ方向に並んで配置された状態が例示される。
【0045】
図16(A)から図16(C)に例示するように、導体素子120はシート部101の表面上に設けてもよいし、シート部101の表面をエッチングして(削って)、導体素子120を埋め込んでもよい。また、ディスプレイ用カバー100におけるシート部101の厚さ方向は、ミリ波アンテナモジュール503のパッチアンテナ530が電波を出射する方向と略一致する。そのため、図16(D)に例示するように、シート部101の厚さ方向に導体素子120を並べて配置することで、パッチアンテナ530の動作利得を一層改善することができる。なお、図16(D)では、シート部101の厚さ方向に3つの導体素子120が並んで配置されているが、2つの導体素子120が並んで配置されてもよいし、4つ以上の導体素子120が並んで配置されてもよい。
【0046】
また、ディスプレイ用カバー100は、さらに、スマートフォン500の側面に配置される突出部を備えてもよい。図17は、突出部130を備えたディスプレイ用カバー100bの一例を示す図である。突出部130は、シート部101の長辺からシート部101の短辺方向に突出して形成される。突出部130には、スマートフォン500の側面511に電波の送受信の方向が向くように設けられたミリ波アンテナモジュール502のパッチアンテナ530に対応する位置に導体素子120が配置される。突出部130は、ディスプレイ用カバー100bがスマートフォン500に取り付けられる際に、折り曲げ線131で折り曲げられてスマートフォン500の側面上に配置される。突出部130に配置された導体素子120は、「追加導体素子」の一例である。
【0047】
図18は、突出部130を備えるディスプレイ用カバー100bをスマートフォン500に取り付けた状態を例示する図である。図18では、スマートフォン500のディスプレイ513が上を向いた状態で例示される。ディスプレイ用カバー100がスマートフォン500に取り付けられると、突出部130はスマートフォン500の側面511上に配置される。そして、ミリ波アンテナモジュール502のパッチアンテナ530に対応する位置に突出部130上の導体素子120が設けられることから、ディスプレイ用カバー100bによってミリ波アンテナモジュール502のパッチアンテナ530の動作利得を向上させることができる。
【0048】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0049】
100・・ディスプレイ用カバー
100a・・ディスプレイ用カバー
100b・・ディスプレイ用カバー
101・・シート部
110・・両面テープ
120・・導体素子
130・・突出部
131・・折り曲げ線
500・・スマートフォン
501・・ミリ波アンテナモジュール
502・・ミリ波アンテナモジュール
503・・ミリ波アンテナモジュール
504・・ミリ波アンテナモジュール
505・・ミリ波アンテナモジュール
530・・パッチアンテナ
511・・側面
512・・側面
513・・ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16
図17
図18