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特許7715945全固体電池用正極およびそれを含む全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-22
(45)【発行日】2025-07-30
(54)【発明の名称】全固体電池用正極およびそれを含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250723BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250723BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250723BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250723BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20250723BHJP
   H01B 1/10 20060101ALN20250723BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M4/36 C
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024529665
(86)(22)【出願日】2023-08-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(86)【国際出願番号】 KR2023012627
(87)【国際公開番号】W WO2024101612
(87)【国際公開日】2024-05-16
【審査請求日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】10-2022-0146682
(32)【優先日】2022-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ミョンス・キム
(72)【発明者】
【氏名】テゴン・キム
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-115721(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073214(WO,A1)
【文献】特開2018-078076(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103918110(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0271296(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01B 1/06
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料およびバインダーを含む全固体電池用正極であって、
前記硫化物系固体電解質は、臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質及び臭素(Br)元素を含まない第2硫化物系固体電解質を含み、
前記正極活物質は、リチウムイオンの可逆的な吸蔵及び放出が可能なコア;及び前記コアの表面に形成されたコーティング層を含み、
前記コーティング層は、前記第1硫化物系固体電解質を含む、全固体電池用正極。
【請求項2】
前記第1硫化物系固体電解質は、下記化学式1で表されるものである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
[化学式1]
Li Br
前記式1において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、またはLaであり、Xは、F、Cl、Br、I、Se、Te、またはOであり、0<a≦6、0<b≦6、0<c≦6、0≦d≦6および0<e≦6である。
【請求項3】
前記第2硫化物系固体電解質は、下記化学式2で表されるものである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
[化学式2]
Li
前記式2において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、またはLaであり、Xは、F、Cl、I、Se、Te、またはOであり、0<k≦6、0<l≦6、0<m≦6および0≦n≦6である。
【請求項4】
前記硫化物系固体電解質は、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造である、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項5】
前記第1硫化物系固体電解質は、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質全体100重量部を基準として5ないし25重量部含まれるものである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項6】
前記正極活物質は、前記正極全体100重量部を基準として50重量部ないし95重量部含まれる、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項7】
前記硫化物系固体電解質は、前記正極全体100重量部を基準として5重量部ないし49重量部含まれる、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項8】
前記正極活物質は、コアとコーティング層を含む正極活物質全体100重量部を基準として1重量部ないし20重量部の第1硫化物系固体電解質がコーティングされている、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項9】
前記第1硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1μmないし5μmである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項10】
前記第2硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1μmないし5μmである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項11】
前記正極活物質のコーティング層の厚さは、0.05μmないし0.2μmである、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項12】
正極;負極;および前記正極と負極の間に配置された固体電解質層を含み、前記正極は、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の正極を含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年11月07日付けの韓国特許出願第10-2022-0146682号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、全固体電池用正極及びそれを含む全固体電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、主にモバイル機器やノートパソコンなどの小型分野に適用されてきたが、最近は、その研究方向が蓄電システム(ESS、energy storage system)や電気自動車(EV、Electric vehicle)などの中・大型分野に拡大している。
【0004】
このような中・大型リチウム二次電池の場合、小型とは異なり、動作環境(例えば、温度、衝撃)が過酷であるだけでなく、より多くの電池を使用しなければならないため、優れた性能や適切な価格とともに安全性が確保される必要がある。
【0005】
現在市販されているほとんどのリチウム二次電池は、リチウム塩(Lithium salt)を有機溶剤(flammable organic solvent)に溶かした有機液体電解質を利用しているため、漏液をはじめ、発火や爆発の潜在的な危険性を抱えている。これにより、前記有機液体電解質を代替して固体電解質を利用することが前記安全性問題を克服するための代替案として注目されている。
【0006】
全固体電池は、正極、固体電解質、負極で構成され、全固体電池の固体電解質としては、硫化物や酸化物などが使用できるが、リチウムイオンの伝導性の観点から硫化物系固体電解質が最も期待される材料である。
【0007】
ところで、硫化物系固体電解質を使用する場合、コバルト(cobalt)と硫黄(sulfur)の反応のため、一般的に正極には、コバルト(Co)でコーティングされた正極活物質を使用しない。
【0008】
また、全固体電池の充放電サイクル中に、正極活物質と硫化物系固体電解質との界面で反応が起こり、界面からCo、P、Sなどの成分拡散が起こり、寿命特性が低下するため、その改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国公開特許第10-2010-0120153号公報(2010.11.12)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0076132号公報(2018.07.05)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、全固体電池用正極に、臭素(Br)元素を含む硫化物系固体電解質と臭素元素を含まない硫化物系固体電解質の両方を含み、前記臭素元素を含む硫化物系固体電解質を正極活物質のコーティング層に適用することにより、イオン伝導度及び活物質と固体電解質との界面特性が改善された全固体電池用正極を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、前記全固体電池用正極を適用して、電気化学的特性及び寿命特性が向上した全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料及びバインダーを含む全固体電池用正極であって、前記硫化物系固体電解質は、臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質及び臭素(Br)元素を含まない第2硫化物系固体電解質を含み、前記正極活物質は、リチウムイオンの可逆的な吸蔵及び放出が可能なコア;及び前記コアの表面に形成されたコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記第1硫化物系固体電解質を含むものである、全固体電池用正極を提供する。
【0013】
前記第1硫化物系固体電解質は、下記化学式1で表されるものである。
【0014】
[化学式1]
Li Br
【0015】
前記化学式1において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、またはLaであり、Xは、F、Cl、Br、I、Se、Te、またはOであり、0<a≦6、0<b≦6、0<c≦6、0≦d≦6および0<e≦6である。
【0016】
前記第2硫化物系固体電解質は、下記化学式2で表されるものである。
【0017】
[化学式2]
Li
【0018】
前記式2において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、またはLaであり、Xは、F、Cl、I、Se、Te、またはOであり、0<k≦6、0<l≦6、0<m≦6および0≦n≦6である。
【0019】
前記硫化物系固体電解質は、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造であってもよい。
【0020】
前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質は、95:5ないし5:95の重量比で含有することができる。
【0021】
前記正極活物質は、前記正極全体の100重量部を基準として、50ないし95重量部で含有することができる。
【0022】
前記硫化物系固体電解質は、前記正極全体の100重量部を基準として、5ないし49重量部で含有することができる。
【0023】
前記正極活物質は、コアとコーティング層を含む正極活物質全体の100重量部を基準として1ないし20重量部の第1硫化物系固体電解質がコーティングされていてもよい。
【0024】
前記第1硫化物系固体電解質の平均粒径は0.1ないし5μmである。
【0025】
前記第2硫化物系固体電解質の平均粒径は0.1ないし5μmである。
【0026】
本発明の他の一実施形態は、正極;
負極;そして
前記正極と負極の間に配置された固体電解質層を含み、
前記正極は、前記全固体電池用正極を含むものである、全固体電池を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、全固体電池用正極に正極活物質及び硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質は、臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質及び臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質を同時に含み、前記第1硫化物系固体電解質を正極活物質のコーティング層に適用することにより、全固体電池製造時の加圧工程に対して柔軟な変形特性を維持することができ、正極活物質と固体電解質間の接触面積が増加した結果、優れた界面特性を示すことができる。また、前記全固体電池用正極には、臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質を一緒に含むことにより、正極の分散性を高め、電極の抵抗が改善された結果、全固体電池のイオン伝導度を向上させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1及び図2は、本発明の一実施例による全固体電池用正極断面の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)の画像を示す。
図2図1及び図2は、本発明の一実施例による全固体電池用正極断面の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)の画像を示す。
図3図3は、本発明の一実施例による全固体電池用正極断面の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)の画像を示す。
図4図4は、本発明の一実施例による全固体電池用正極断面のエネルギー分散X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)の分析結果を示す。
図5図5は、本発明の実施例及び比較例による全固体電池において、コスト量による電圧変化を示す。
図6図6は、本発明の実施例及び比較例による全固体電池において、高率特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。これに先立ち、本明細書及び請求の範囲に使用された用語や単語は、通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈されなければならない。したがって、本明細書に記載された実施例に記載された構成は、本発明の最も好ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をすべて代表するものではないので、本出願時点において、これらを置き換えることができる様々な均等物と変形例があることを理解しなければならない。
【0030】
本願明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0031】
本願明細書の全体において、粒子の平均粒径は、例えば、レーザー式粒度分布計を用いて測定したメジアン(median)直径(D50)であってもよい。
【0032】
以下、本発明の一実施例による全固体電池用正極について説明する。
【0033】
本発明は、全固体電池のイオン伝導度を向上させ、全固体電池用正極において、正極活物質と固体電解質との界面特性が改善された全固体電池用正極に関する。
【0034】
通常、全固体電池の場合、一般的なリチウム二次電池とは異なり、液体状態の電解液を使用しないため、固体電解質層に加えて正極活物質層にも固体電解質を含むことになる。
【0035】
この時、安定したイオン伝導度を確保するために、正極活物質層に含まれた正極活物質と固体電解質が効果的に接触して高い有効接触面積を形成することが、全固体電池の充放電容量及び効率向上に対して重要な要因として作用する。このように正極活物質と固体電解質の有効接触面積を向上させるために、全固体電池の製造過程で約500Mpa以上の圧力をかけることになり、前記加圧工程による問題を解決するために、正極活物質に固体電解質のコーティング層を導入してこれを改善する試みがあった。
【0036】
しかし、前記のように正極活物質にコーティング層を導入する場合、正極活物質と固体電解質の有効接触面積が増加して電極の抵抗は減少するが、正極活物質のコーティング層で形成された固体電解質とコーティング層で形成されなく正極活物質層に存在する固体電解質間の接触性が減少し、電池のイオン伝導度が減少するという問題が発生する可能性がある。また、正極活物質をすべて固体電解質でコーティングして正極を製造する場合、正極活物質層に空隙(void)が発生するため、最終的に電池のイオン伝導度及び充放電効率が低下する可能性もある。
【0037】
これに対して、本発明は、前記のような問題点を解決するために、全固体電池用正極が正極及び硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質は、1)臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質と2)臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質の両方を含み、前記第1硫化物系固体電解質は、正極活物質のコーティング層に含まれるようにすることで、全固体電池製造時の加圧工程に対して柔軟な変形特性を維持することができ、正極活物質と固体電解質間の接触面積が増加した結果、優れた界面特性を示し、正極の分散性を高め、電極の抵抗を改善してイオン伝導度及び充放電容量が向上できることを確認し、本発明を完成した。
【0038】
図1及び図2は、本発明の一実施例による全固体電池用正極断面のSEM画像を示す。
【0039】
図1及び図2を参照すると、本発明の一実施例による全固体電池用正極は、正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料及びバインダーを含む全固体電池用正極であって、前記硫化物系固体電解質は、臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質及び臭素(Br)元素を含まない第2硫化物系固体電解質を含み、前記正極活物質は、リチウムイオンの可逆的な吸蔵及び放出が可能なコア;及び前記コアの表面に形成されたコーティング層を含み、前記コーティング層は、前記第1硫化物系固体電解質を含む。
【0040】
前記全固体電池用正極は、臭素(Br)元素を含む第1硫化物系固体電解質及び臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質を同時に含み、前記第1硫化物系固体電解質を正極活物質のコーティング層に適用することにより、全固体電池製造時の加圧工程に対して柔軟な変形特性を維持することができ、正極活物質と固体電解質間の接触面積が増加した結果、優れた界面特性を示すことができる。また、前記全固体電池用正極には、臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質を一緒に含むことにより、正極の分散性を高め、電極の抵抗が改善された結果、全固体電池のイオン伝導度を向上させることができる効果がある。
【0041】
特定の理論に限定されるものではないが、正極活物質コーティング層に含まれる第1硫化物系固体電解質が臭素元素を含むことにより、特定の結晶構造を形成することになり、これにより、正極活物質と固体電解質間の界面での副反応を抑制する効果を示すと理解することができる。したがって、正極活物質表面に前記臭素を必須的に含む硫化物系固体電解質をコーティングし、これを正極に適用する場合、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が減少し、イオン伝導度が増加する効果を示すことができる。
【0042】
また、本発明による全固体電池用正極は、前記臭素を含む第1硫化物系固体電解質に加えて、臭素を含まない第2硫化物系固体電解質を一緒に含む。前記第2硫化物系固体電解質は、外部圧力に対して優れた延性(ductility)を示すことができるので、全固体電池の製造過程の加圧工程または全固体電池の駆動過程で発生する内部圧力の増加にも固体電解質間の接触力を維持することにより、全固体電池のイオン伝導度を向上させることができるようになる。
【0043】
本発明の一実施形態において、前記第1硫化物系固体電解質は、下記化学式1で表されるものであってもよい。
【0044】
[化学式1]
Li Br
【0045】
前記式1において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、WまたはLaであり、Xは、F、Cl、Br、I、Se、Te、またはOであり、0<a≦6、0<b≦6、0<c≦6、0≦d≦6および0<e≦6である。
【0046】
例えば、前記化学式1において、Mは、B、Si、Ge、PまたはNであってもよい。
【0047】
例えば、前記化学式1において、Xは、F、Cl、Br、IまたはOであってもよい。
【0048】
例えば、前記化学式1で表される第1硫化物系固体電解質は、LiS-P-LiBr、 LiS-P-LiCl-LiBr、LiS-SiS-LiBrまたはこれらの組み合わせであってもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、前記第2硫化物系固体電解質は、下記化学式2で表されるものであってもよい。
【0050】
[化学式2]
Li
【0051】
前記式2において、Mは、Sn、Mg、Ba、B、Al、Ga、In、In、Si、Ge、Pb、N、P、As、Sb、Bi、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、WまたはLaであり、Xは、F、Cl、I、Se、TeまたはOであり、0<k≦6、0<l≦6、0<m≦6および0≦n≦6である。
【0052】
例えば、前記化学式2において、Mは、B、Si、Ge、PまたはNであってもよい。
【0053】
例えば、前記化学式2において、Xは、F、Cl、IまたはOであってもよい。
【0054】
例えば、前記化学式2で表される第2硫化物系固体電解質は、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、 LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPOまたはこれらの組み合わせであってもよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、前記硫化物系固体電解質、すなわち、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質は、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶構造を有するものであってもよい。
【0056】
前記硫化物系固体電解質がアルジロダイト型結晶構造を持つことにより、硫化物系固体電解質の純度及び結晶性が高く、安定した界面相を形成し、高いエネルギー密度を持ちながら電位安定性及びイオン伝導度を大幅に向上させることができる。
【0057】
本発明の一実施形態において、前記第1硫化物系固体電解質は、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質全体100重量部を基準として5ないし25重量部で含まれるものであってもよい。例えば、前記第1硫化物系固体電解質は、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質全体100重量部を基準として、5重量部以上、6重量部以上、7重量部以上、8重量部以上、9重量部以上または10重量部以上であってもよく、25重量部以下、20重量部以下、15重量部以下、14重量部以下、13重量部以下、12重量部以下または11重量部以下であってもよい。好ましくは、前記第1硫化物系固体電解質が、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質全体100重量部を基準として7ないし10重量部で含まれることができる。
【0058】
本発明による全固体電池用正極において、前記第1硫化物系固体電解質の含有量の範囲が、全固体電池用正極に含まれる第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の全体100重量部を基準として5重量部未満である場合、正極活物質コーティング層に含まれる第1硫化物系固体電解質の含有量が減少することにより、正極活物質と固体電解質間の界面での副反応の抑制効果が減少し、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が増加して全固体電池のイオン伝導度が減少する可能性がある。前記第1硫化物系固体電解質の含有量の範囲が、全固体電池用正極に含まれる第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の全体100重量部を基準として25重量部を超える場合、前記第1硫化物系固体電解質を含むコーティング層の厚さが過度に増加し、正極活物質がコーティング層の構成成分である第1硫化物系固体電解質に孤立する結果、電極の抵抗が増加するという問題がある。
【0059】
本発明による全固体電池用正極において、前記第2硫化物系固体電解質の含有量の範囲が、全固体電池用正極に含まれる第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の全体100重量部を基準として75重量部未満の場合、正極活物質層に空隙が発生して電極のイオン伝導度が低下する問題があり、95重量部を超える場合、前記第1硫化物系固体電解質の含有量が5重量部未満の場合の問題を逆に持つことができる。
【0060】
したがって、本発明による全固体電池用正極のイオン伝導度及び電位安定性を向上させ、それを含む全固体電池の充放電容量及び寿命特性を安定的に確保するために、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の含有量は前記範囲内で調節することが好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、前記正極全体100重量部を基準として50ないし95重量部で含まれることができる。例えば、前記正極活物質の含有量は、正極全体100重量部を基準として50重量部以上、60重量部以上、70重量部以上、75重量部以上、または80重量部以上であってもよく、95重量部以下、90重量部以下、85重量部以下であってもよい。
【0062】
前記正極活物質の含有量が正極全体100重量部を基準にして50重量部未満の場合、電極の容量及び全体エネルギー密度が低下する問題があり、95重量部を超える場合、正極活物質層内の空隙(void)が多くなり、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が上昇する問題があるため、本発明による全固体電池用正極の場合、前記範囲内で正極活物質の含有量を適切に調整する必要がある。
【0063】
本発明の一実施形態において、前記硫化物系固体電解質は、前記正極全体100重量部を基準として5ないし49重量部で含まれることができる。前記硫化物系固体電解質の含有量は、正極に含まれる第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の含有量の総量を意味し、例えば、正極全体100重量部を基準として、5重量部以上、6重量部以上、7重量部以上、8重量部以上、9重量部以上、10重量部以上、11重量部以上、12重量部以上、13重量部以上、14重量部以上、15重量部以上であることができ、49重量部以下、45重量部以下、40重量部以下、35重量部以下、30重量部以下、25重量部以下、24重量部以下、23重量部以下、22重量部以下、21重量部以下または20重量部以下であることができる。好ましくは、前記硫化物系固体電解質の含有量が、正極全体100重量部を基準として12ないし20重量部で含まれることができる。
【0064】
前記硫化物系固体電解質の含有量が正極全体100重量部を基準にして5重量部未満の場合、正極活物質層内の空隙(void)が多くなり、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が上昇する電極の容量及び全体エネルギー密度が低下する問題があり、49重量部を超える場合、電極の容量及び全体エネルギー密度が低下する問題があるため、本発明による全固体電池用正極の場合、前記範囲内で硫化物系固体電解質、すなわち、前記第1硫化物系固体電解質及び第2硫化物系固体電解質の総含有量を適切に調整する必要がある。
【0065】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、コアとコーティング層を含む正極活物質全体100重量部を基準として1ないし20重量部の第1硫化物系固体電解質がコーティングされていてもよく、例えば、コアとコーティング層を含む正極活物質全体100重量部を基準として1重量部以上、2重量部以上または3重量部以上コーティングされていてもよく、20重量部以下、15重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下または5重量部以下コーティングされていてもよい。
【0066】
本発明の一実施形態において、前記第1硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1ないし5μmであってもよい。例えば、前記第1硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1ないし3μm、0.1ないし2μm、0.1ないし1μm、0.1ないし0.9μm、0.1ないし0.8μm、0.1ないし0.7μm、0.1ないし0.6μmまたは0.1ないし0.5μmであってもよい。
【0067】
前記第1硫化物系固体電解質の平均粒径が0.1μm未満の場合、第1硫化物系固体電解質粒子が容易に飛散してコーティング層の形成が円滑に進行しない問題があり、5μmを超える場合、コーティング層の厚さが過度に増加し、コーティング層が均一に形成されない問題があるため、本発明による全固体電池用正極の前記第1硫化物系固体電解質が前記と同じ範囲の平均粒径を有するように適切に調整することが好ましい。
【0068】
本発明の一実施形態において、前記第2硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1~5μmであってもよい。例えば、前記第2硫化物系固体電解質の平均粒径は、0.1ないし3μm、0.1ないし2μm、0.1ないし1μm、0.1ないし0.9μm、0.1ないし0.8μmまたは0.2ないし0.8μmであってもよい。
【0069】
前記第2硫化物系固体電解質の平均粒径が0.1μm未満である場合、第2硫化物系固体電解質粒子が容易に凝集したり、均一に分散されず、電極内に偏重することがあり、正極活物質と第2硫化物系固体電解質間の有効界面形成が困難になる問題があり、5μmを超える場合、正極活物質層に空隙が発生して電極のイオン伝導度が低下する問題がある可能性があるので、本発明による全固体電池用正極の前記第2硫化物系固体電解質が前記と同じ範囲の平均粒径を持つように適切に調整することが望ましい。
【0070】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質の表面に形成されたコーティング層の厚さは、0.05ないし0.2μmであってもよい。例えば、前記コーティング層の厚さは、0.05μm以上、0.06μm以上、0.07μm以上、0.09μm以上、または0.1μm以上であってもよく、0.2μm以下、0.18μm以下、0.16μm以下、または0.15μm以下であってもよい。
【0071】
前記コーティング層の厚さが0.05μm未満の場合、正極活物質コーティング層に含まれることができる第1硫化物系固体電解質の含有量が減少し、正極活物質と固体電解質間の界面での副反応抑制効果が減少し、正極活物質と固体電解質間の界面抵抗が増加し、全固体電池のイオン伝導度が減少する可能性がある。前記コーティング層の厚さが0.2μmを超える場合、正極活物質がコーティング層の構成成分である第1硫化物系固体電解質に孤立する結果、電極の抵抗が増加するという問題がある。
【0072】
本発明の一実施形態において、前記全固体電池用正極は、導電材料及びバインダーをさらに含むことができる。
【0073】
前記導電材料は、当該電池に化学的変化を引き起こさずに導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人工黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化炭素、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスキー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用できる。前記導電材料は、正極全体100重量部を基準として、約0.01ないし10重量部、または0.01ないし5重量部、または0.01ないし3重量部で含まれることができる。
【0074】
前記バインダーは、前記全固体電池用正極に対する正極活物質、硫化物系固体電解質及び導電材料の密着性などを考慮して追加される成分で、本発明が属する技術分野で電極形成のために使用可能であることが知られている任意の高分子バインダーを特に制限なくすべて使用することができる。
【0075】
このような高分子バインダーの例としては、アクリル系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダーまたはニトリルブタジエンゴム(NBR)などのブタジエンゴム系バインダーなどを挙げることができ、その他にも様々な高分子バインダーを使用できることは勿論である。前記バインダーは、正極全体100重量部を基準として、約0.01ないし10重量部、または0.01ないし5重量部、または0.01ないし3重量部で含まれることができる。
【0076】
本発明の一実施形態による全固体電池用正極は、集電体及び前記集電体の少なくとも一側面に形成された正極活物質層を含むことができ、前記正極活物質層は、前記正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料及びバインダーを含むことができる。
【0077】
前記正極は、当該分野に広く知られている方法に従って製造することができ、特定の製造方法に限定されるものではないが、例えば、前記正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料及びバインダーなどを溶媒中で混合してスラリー状の正極合剤として製造し、この正極合剤を正極集電体に塗布して製造することができる。
【0078】
一方、前記正極活物質の場合、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能なリチウム複合酸化物系物質であれば、特に限定されない。例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄またはこれらの組み合わせの金属;およびリチウム;の複合酸化物のうち1種以上を含むものであってもよい。
【0079】
より具体的な例として、前記正極活物質として、下記化学式のいずれかで表される化合物を使用することができる。Li1-b(前記式において、0.90≦a≦1.8及び0≦b≦0.5である); Li1-b2-c(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、及び0≦c≦0.05である); LiE2-b4-c(前記式において、0≦b≦0.5, 0≦c≦0.05); LiNi1-b-cCoα(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2); LiNi1-b-cCo2-αα(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である); LiNi1-b-cCo2-α(前記式で、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である); LiNi1-b-cMnα(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α≦2である); LiNi1-b-cMn2-α(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である); LiNi1-b-cMn2-α(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である); LiNi(前記式において、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5および0.001≦d≦0.1); LiNiCoMn(前記式で、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5および0≦e≦0.1である); LiNiG(前記式において、0.90≦a≦1.8及び0.001≦b≦0.1である); LiCoG(前記式において、0.90≦a≦1.8及び0.001≦b≦0.1である); LiMnG(前記式において、0.90≦a≦1.8及び0.001≦b≦0.1である); LiMn(前記式において、0.90≦a≦1.8及び0.001≦b≦0.1である); QO ; QS ; LiQS ; V ; LiV ; LiTO ; LiNiVO ; Li(3-f)(PO(0≦f≦2); Li(3-f)Fe(PO(0≦f≦2); 及びLiFePOである。
【0080】
前記化学式において、Aは、Ni、Co、Mnまたはこれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Fe、Mg、Mg、Sr、V、希土類元素またはこれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mnまたはこれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはこれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、Vまたはこれらの組み合わせであり;Qは、Ti、Mo、Mnまたはこれらの組み合わせであり;Tは、Cr、V、Fe、Sc、Yまたはこれらの組み合わせであり;Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cuまたはこれらの組み合わせである。
【0081】
前記硫化物系固体電解質については、先に説明した内容と同様であるため、以下、本発明による全固体電池用正極に含まれる硫化物系固体電解質について、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0082】
前記正極集電体は、一般的に3ないし500μmの厚さにする。このような正極集電体は、当該電池に化学的な変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用できる。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布など様々な形態が可能である。
【0083】
前記正極は、前記正極活物質、硫化物系固体電解質、導電材料及びバインダー以外に、例えばフィラー(filler)、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤などの添加剤をさらに含むことができる。前記フィラー、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤等としては、一般的に全固体二次電池の電極に使用される公知の材料を使用することができる。
【0084】
前記正極の厚さは、例えば70ないし150μmであってもよい。
【0085】
本発明の他の一実施形態は、正極、負極および常時正極と負極の間に配置された固体電解質層を含み、前記正極は、前記全固体電池用正極であることを特徴とする全固体電池を提供する。
【0086】
前記全固体電池に含まれる正極については、前述のとおりであるため、以下では、全固体電池に含まれる負極および固体電解質について詳しく説明する。
【0087】
前記正極と負極の間に配置された固体電解質層は、例えば、硫化物系固体電解質を含むことができる。硫化物系固体電解質は、前記正極に含まれる硫化物系固体電解質と同種または異種であってもよい。
【0088】
硫化物系固体電解質に関する具体的な内容は、前述の正極部分を参照する。
【0089】
固体電解質の弾性率(elastic modulus)、すなわちヤング率(Young’s modulus)は、例えば、35GPa以下、30GPa以下、27GPa以下、25GPa以下、23GPa以下である。固体電解質の弾性率(elastic modulus)、すなわちヤング率(Young’s modulus)は、例えば、10ないし35GPa、15ないし35GPa、15ないし30GPa、または15ないし25GPaである。固体電解質がこの範囲の弾性率を有することにより、固体電解質の加圧及び/又は焼結がより容易に行われる。
【0090】
固体電解質層は、例えば、バインダーをさらに含む。固体電解質層に含まれるバインダーは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)などであるが、これらに限定されず、当該技術分野でバインダーとして使用するものであればいずれも可能である。固体電解質層のバインダーは、正極活物質層と負極活物質層のバインダーと同種または異なる場合がある。
【0091】
次に、全固体電池の負極は、負極集電体および負極活物質層を含むことができる。
【0092】
負極活物質層の厚さは、例えば、正極活物質層の厚さの50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、または5%以下である。負極活物質層の厚さは、例えば、1μmないし20μm、2μmないし10μm、または3μmないし7μmである。負極活物質層の厚さが薄すぎると、負極活物質層と負極集電体の間に形成されるリチウムデンライトが負極活物質層を崩壊させ、全固体電池のサイクル特性が向上しにくい。負極活物質層の厚さが過度に増加すると、全固体電池のエネルギー密度が低下し、負極活物質層による全固体電池の内部抵抗が増加し、全固体電池のサイクル特性が向上しにくい。
【0093】
負極活物質層は、例えばリチウムと合金または化合物を形成する負極活物質を含む。
【0094】
負極活物質層が含む負極活物質は、例えば粒子状を有する。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、または900nm以下である。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、10nmないし4μm以下、10nmないし3μm以下、10nmないし2μm以下、10nmないし1μm以下、または10nmないし900nm以下である。負極活物質がこの範囲の平均粒径を有することにより、充放電時にリチウムの可逆的な吸蔵(absorbing)及び/又は放出(desorbing)がより容易になる。負極活物質の平均粒径は、例えば、レーザー式粒度分布計を使用して測定した体積換算メジアン径(D50)である。
【0095】
負極活物質層が含む負極活物質は、例えば、炭素系負極活物質および金属または半金属負極活物質の中から選択される1つ以上を含む。
【0096】
炭素系負極活物質は、特に無定形炭素(amorphous carbon)である。無定形炭素は、例えばカーボンブラック(carbon black)(CB)、アセチレンブラック(acetylene black)(AB)、ファーネスブラック(furnace black)(FB)、ケッツェンブラック(ketjen black)(KB)、グラフェン(graphene)などであるが、必ずしもこれらに限定されず、当該技術分野で無定形炭素に分類されるものであればすべて可能である。無定形炭素は、結晶性を持たないか、または結晶性が非常に低い炭素で、結晶性炭素または黒鉛系炭素と区別される。
【0097】
金属または半金属負極活物質は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上を含むが、必ずしもこれらに限定されず、当該技術分野でリチウムと合金または化合物を形成する金属負極活物質または半金属負極活物質として使用するものであればいずれも可能である。例えば、ニッケル(Ni)はリチウムと合金を形成しないので、金属負極活物質ではない。
【0098】
負極活物質層は、これらの負極活物質のうち、ある種の負極活物質を含むか、または複数の異なる負極活物質の混合物を含む。例えば、負極活物質層は、無定形炭素のみを含むか、または、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1つ以上を含む。別の態様では、負極活物質層は、無定形炭素と、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の混合物を含む。無定形炭素と銀(Ag)などの混合物の混合比は、重量比として、例えば10:1ないし1:2、5:1ないし1:1、または4:1ないし2:1であるが、必ずしもこの範囲に限定されず、要求される全固体電池の特性に応じて選択される。正極活物質がこのような組成を有することにより、全固体電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0099】
負極活物質層が含む負極活物質は、例えば、無定形炭素からなる第1粒子及び金属または半金属からなる第2粒子の混合物を含む。金属または半金属は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)などを含む。半金属は、半導体でもある。第2粒子の含有量は、混合物の総重量に基づいて8ないし60重量%、10ないし50重量%、15ないし40重量%、または20ないし30重量%である。第2粒子がこの範囲の含有量を有することにより、例えば全固体電池のサイクル特性がさらに向上する。
【0100】
負極活物質層は、例えばバインダーを含む。バインダーは、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどであるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野でバインダーとして使用されるものであればいずれも可能である。バインダーは、単体または複数の異なるバインダーで構成することができる。
【0101】
負極活物質層がバインダーを含むことにより、負極活物質層が負極集電体上に安定化される。また、充放電過程における負極活物質層の体積変化及び/又は相対的な位置の変化にもかかわらず、負極活物質層の亀裂が抑制される。例えば、負極活物質層がバインダーを含まない場合、負極活物質層が負極集電体から容易に分離することが可能である。負極活物質層が負極集電体から離脱した部分は、負極集電体が露出して固体電解質層と接触することにより、短絡が発生する可能性が高くなる。負極活物質層は、例えば負極活物質層を構成する材料が分散されたスラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥して製作される。バインダーを負極活物質層に含めることにより、スラリー中に負極活物質の安定した分散が可能である。例えば、スクリーン印刷法でスラリーを負極集電体上に塗布する場合、スクリーンの目詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による目詰まり)を抑制することが可能である。
【0102】
負極集電体は、例えばリチウムと反応しない、すなわち、合金及び化合物の両方を形成しない材料で構成される。負極集電体を構成する材料は、例えば、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)などであるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野で電極集電体として使用するものであればいずれも可能である。負極集電体は、前記金属のうち1種で構成されていてもよく、2種以上の金属の合金または被覆材料で構成されていてもよい。負極集電体は、例えば、板状または箔状(foil)である。
【0103】
正極活物質層は、従来の全固体電池に使用される添加剤、例えば、フィラー、分散剤、イオン伝導剤などをさらに含むことが可能である。
【0104】
全固体電池は、例えば正極、負極および固体電解質層をそれぞれ製造した後、これらの層を積層することによって製造することができる。
【0105】
本発明は、前記全固体電池を単位電池として含む電池モジュールと、前記電池モジュールを含む電池パック、及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。
【0106】
このとき、前記デバイスの具体例としては、電気的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)などを含む電気自動車;電動自転車(E-bike)、電動スクーター(E-scooter)を含む電動二輪車;電動ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0107】
以下、本発明の具体的な実施例を示す。ただし、以下に記載された実施例は、本発明を具体的に例示または説明するためのものに過ぎず、これによって本発明が限定されるものではない。 また、ここに記載されていない内容は、当業者であれば十分に技術的に推測できるものであるため、その説明を省略する。
【0108】
製造例1:全固体電池用正極の製造
(1) 正極活物質として粒径(D50)が5μmのLiNi0.8Co0.1Mn0.1粉末78 gと第1硫化物系固体電解質として粒径(D50)が0.4μmのLiPSCl0.5Br0.5粉末3.9gを容器に投入し、別途溶媒を使用せずにLab Blender(Waring社)を用いて5,000rpmで1分間混合した(1次混合)。次に、前記混合物を3,000rpmで10分間高せん断ミキシング(NOB-130、Hosokawa Micron社)を行い、前記正極活物質表面に第1硫化物系固体電解質コーティング層が形成された正極活物質複合体を製造した。
【0109】
(2) 前記製造した正極活物質複合体81.9重量部、第2硫化物系固体電解質として LiPSClを15.6重量部、導電材料としてカーボンブラック粉末1.5重量部、及びバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)1重量部を容器に投入し、別途溶媒を使用せずにLab Blender(Waring社)を用いて5,000rpmで1分間混合した(1次混合)。次に、前記混合物に100Nのせん断力を加えて高せん断ミキシング(PBV-0.1L、Irie Shokai社)を行い、正極スラリーに製造した(2次混合)。
【0110】
(3) 前記製造された正極スラリーをTwo roll mill MR-3(Inoue社)を用いてフリースタンディンフィルムに製造した。その後、前記フィルムを厚さ15μmのアルミニウム集電体の一面上に位置させ、加圧して全固体電池用正極を製造した。
【0111】
製造例2:全固体電池用正極の製造
正極スラリーを製造する過程で、第2硫化物系固体電解質としてLiPSClの代わりにLiPSCl0.5Br0.5を使用することを除いて、前記製造例1と同様にして全固体電池を製造した。
【0112】
製造例3:全固体電池用正極の製造
正極活物質複合体を製造する過程で、第1硫化物系固体電解質としてLiPSCl0.5Br0.5の代わりにLiPSClを使用することを除いて、前記製造例1と同様にして全固体電池を製造した。
【0113】
製造例4:全固体電池用正極の製造
正極スラリーを製造する過程で、第1硫化物系固体電解質としてLiPSCl0.5Br0.5の代わりにLiPSClを使用し、第2硫化物系固体電解質としてLiPSClの代わりにLiPSCl0.5Br0.5を使用することを除いて、前記製造例1と同様にして全固体電池を製造した。
【0114】
実施例1:全固体電池の製造
負極として厚さ100μmのリチウム金属を使用し、前記製造例1で製造した正極と負極の間に厚さ50μmのLiS-P固体電解質膜を介在させて5mAh/cm容量を持つジグセル(Jig Cell)を製造した。
【0115】
比較例1: 全固体電池の製造
製造例1で製造した正極を使用する代わりに、製造例2で製造した正極を使用することを除いて、前記実施例1と同様にして、全固体電池を製造した。
【0116】
比較例2:全固体電池の製造
製造例1で製造した正極を使用する代わりに、製造例3で製造した正極を使用することを除いて、前記実施例1と同様にして、全固体電池を製造した。
【0117】
比較例3:全固体電池の製造
製造例1で製造した正極を使用する代わりに、製造例4で製造した正極を使用することを除いて、前記実施例1と同様にして、全固体電池を製造した。
【0118】
評価例1:全固体電池用正極のSEMおよびTEM分析
製造例1に従って製造された全固体電池用正極に対してSEM(Scanning electron microscopy)分析を行い、その結果を図1及び図2に示した。前記SEM分析は、JEOL社のJEM-ARM200F microscopeを用いた。
【0119】
図1を参照すると、製造例1に従って製造された全固体電池用正極の場合、正極活物質表面に臭素を含む第1硫化物系固体電解質のコーティング層が均一に形成されていることが確認できる。
【0120】
また、図2を参照すると、製造例1に従って製造された全固体電池用正極の場合、臭素を含まない第2硫化物系固体電解質が正極活物質の間に密に位置することにより、正極活物質と第2硫化物系固体電解質界面で密接に接触していることが確認できる。
【0121】
評価例2:全固体電池用正極のTEM(Transmission electron microscopy)およびEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)分析
(1) 前記製造例1に従って製造された全固体電池用正極において、正極活物質のコーティング層の形成有無を測定するためにTEM(Transmission electron microscopy)分析を行い、その結果を図3に示した。前記TEM分析は、FEI社のTitan G2 80-200を用いた。
【0122】
図3を参照すると、本発明の製造例1に従って製造された全固体電池用正極の場合、正極活物質の表面に硫化物系固体電解質のコーティング層が均一に形成されていることが確認できる。
【0123】
(2)また、製造例1に従って製造された全固体電池用正極において、正極活物質コーティング層に含まれる第1硫化物系固体電解質の臭素(Br)組成を測定するためにEDX(Energy dispersive X-ray spectroscopy)実験を行い、その結果を図4に示した。EDX測定器は、JEOL社のJSM7900Fを使用して測定した。
【0124】
図4に示すように、製造例1に従って製造された全固体電池用正極の場合、正極活物質表面に形成されたコーティング層に、第1硫化物系固体電解質が臭素リッチな組成で存在することが分かった。
【0125】
評価例3:充放電特性分析
前記実施例1、比較例1ないし比較例3の各全固体電池に対して、充放電特性を以下の充放電試験により評価した。
【0126】
0.1Cの速度(C-rate)で電圧が4.25V(vs. Li)になるまで充電させた後、4.25V(vs. Li)を維持しながら0.05Cの速度でカットオフ(cut-off)した。続いて、放電時に電圧が3.0V(vs. Li)になるまで0.1Cの速度(C-rate)で放電させた(1stサイクル)。その結果を下記図5に示す。
【0127】
図5を参照すると、実施例1による全固体電池の場合、比較例1による全固体電池とほぼ対応するレベルの可逆容量とエネルギー密度を示し、比較例2及び3による全固体電池に比べて高い可逆容量とエネルギー密度を示すことを確認した。
【0128】
評価例4:高率特性分析
前記実施例1、比較例1ないし比較例3の各全固体電池に対して、0.1C、0.2C、0.3C及び0.5Cで3.0~4.25Vの領域で充放電を行った後、それぞれのc-rateによる放電容量の変化を図6に示した。
【0129】
図6を参照すると、実施例1による全固体電池の場合、比較例1ないし比較例3の全固体電池に比べて、イオン伝導度及び活物質と固体電解質との界面特性が改善されることにより、高率特性が向上することが分かる。
【0130】
特に、臭素元素を含まない第2硫化物系固体電解質が正極活物質のコーティング層に形成され、臭素元素を含む第1硫化物系固体電解質が正極活物質コーティング層以外の領域に形成される構成、すなわち、前記実施例1と比較して、第1硫化物系固体電解質と第2硫化物系固体電解質の構成を入れ替えて適用した結果、全固体電池の高率特性が大幅に低下することを確認し、これにより、正極活物質コーティング層に臭素元素を含む硫化物系固体電解質を適用する場合、全固体電池の高率特性が向上することが分かる。
【0131】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、以下の請求範囲に定義されている本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形及び改良形態も本発明の権利範囲に属するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6