(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-23
(45)【発行日】2025-07-31
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子、光学系、接合レンズ、カメラ用交換レンズ、顕微鏡用対物レンズ、及び光学装置
(51)【国際特許分類】
C03C 3/076 20060101AFI20250724BHJP
C03C 3/112 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/064 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/066 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20250724BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20250724BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20250724BHJP
【FI】
C03C3/076
C03C3/112
C03C3/078
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/089
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/097
C03C3/062
C03C3/064
C03C3/066
C03C3/068
C03C3/095
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2023527837
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2022022611
(87)【国際公開番号】W WO2022259974
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021095258
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500267712
【氏名又は名称】光ガラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井口 徳晃
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-092674(JP,A)
【文献】特開平06-107427(JP,A)
【文献】特開2000-247676(JP,A)
【文献】国際公開第2020/246544(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/072523(WO,A1)
【文献】特開2017-088476(JP,A)
【文献】KINDRED, Douglas S, ほか,Applied Optics,1990年10月01日,Vol.28, No.28,p.4036-p.4041
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/076
C03C 3/112
C03C 3/078
C03C 3/083
C03C 3/085
C03C 3/087
C03C 3/089
C03C 3/091
C03C 3/093
C03C 3/097
C03C 3/062
C03C 3/064
C03C 3/066
C03C 3/068
C03C 3/095
G02B 1/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO
2含有率:33
%以上60%
以下、
TiO
2含有率:10
%以上35%
以下、
Na
2O含有率:15
%以上40%
以下、
SiO
2とTiO
2とNa
2Oの総含有率(SiO
2+TiO
2+Na
2O):95.00%以上99%以下
、
SiO
2
とNa
2
OとTiO
2
の総含有率(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)に対するNa
2
O含有率の比(Na
2
O/(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)):0.25以上0.40以下である、光学ガラス。
【請求項2】
質量%で、
SiO
2含有率:33
%以上60%
以下、
TiO
2含有率:10
%以上35%
以下、
Na
2O含有率:15
%以上40%
以下、
SiO
2とNa
2Oの総含有率(SiO
2+Na
2O):76.67%
以上85%
以下、
Na
2
O含有率に対するTiO
2
含有率の比(TiO
2
/Na
2
O):0.77以上1.6以下である、光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、
SiO
2含有率:33
%以上60%
以下、
TiO
2含有率:10
%以上32%
以下、
Na
2O含有率:15
%以上40%
以下、
SiO
2とTiO
2とNa
2Oの総含有率(SiO
2+TiO
2+Na
2O):93.49%以上99%以下
、
SiO
2
とNa
2
OとTiO
2
の総含有率(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)に対するNa
2
O含有率の比(Na
2
O/(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)):0.25以上0.40以下である、光学ガラス。
【請求項4】
SiO
2とNa
2Oの総含有率(SiO
2+Na
2O):55%
以上85%
以下である、請求項1または3に記載の光学ガラス。
【請求項5】
質量%で、
酸化物換算組成のガラス全質量に対するF(フッ素)の質量の外割の含有率:0%
超15%
以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量%で、
Sb
2O
3含有率:0%
以上1%
以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量%で、
B
2O
3含有率:0
%以上10%
以下、
La
2O
3含有率:0
%以上5%
以下、
Gd
2O
3含有率:0
%以上5%
以下、
Y
2O
3含有率:0
%以上5%
以下、
ZrO
2含有率:0
%以上20%
以下、
Nb
2O
5含有率:0
%以上25%
以下、
MgO含有率:0
%以上5%
以下、
Ta
2O
5含有率:0
%以上10%
以下、
ZnO含有率:0
%以上25%
以下、
BaO含有率:0
%以上5%
以下、
CaO含有率:0
%以上5%
以下、
SrO含有率:0
%以上5%
以下、
Al
2O
3含有率:0
%以上5%
以下、
WO
3含有率:0
%以上5%
以下、
Li
2O含有率:0
%以上5%
以下、
K
2O含有率:0
%以上10%未満である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
Na
2O含有率に対するTiO
2含有率の比(TiO
2/Na
2O):0.3
以上1.6
以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項9】
Pb、Asの各元素を実質的に含有しない、
請求項1~8のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項10】
Cd、Fe、Ni、Cr、Mn、Ag、Cu、Mo、Eu、Auの各元素を実質的に含有しない、
請求項1~9のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項11】
Pb、As、Cd、Fe、Ni、Cr、Mn、Ag、Cu、Mo、Eu、Auの各元素の含有率が40ppm未満である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項12】
Na
2O含有率に対するB
2O
3とK
2OとAl
2O
3の総含有率の比((B
2O
3+K
2O+Al
2O
3)/Na
2O)):0
以上0.5
以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項13】
K
2OとAl
2O
3の総含有率(K
2O+Al
2O
3):0
%以上10%
以下である、
請求項1~12のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項14】
MgOとCaOとSrOとBaOの総含有率(MgO+CaO+SrO+BaO):0
%以上10%
以下である、
請求項1~13のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項15】
La
2O
3とGd
2O
3とY
2O
3の総含有率(La
2O
3+Gd
2O
3+Y
2O
3):0
%以上10%
以下である、
請求項1~14のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項16】
Li
2OとNa
2OとK
2Oの総含有率(Li
2O+Na
2O+K
2O):15
%以上40%
以下である、
請求項1~15のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項17】
SiO
2含有率に対するB
2O
3含有率の比(B
2O
3/SiO
2):0
以上0.15
以下である、
請求項1~16のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項18】
SiO
2とNa
2OとTiO
2の総含有率(SiO
2+TiO
2+Na
2O)に対するNa
2O含有率の比(Na
2O/(SiO
2+TiO
2+Na
2O)):0.18
以上0.40
以下である、
請求項1~17のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項19】
d線に対する屈折率(n
d)が、1.58
以上1.71
以下である、
請求項1~18のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項20】
アッベ数(ν
d)が、25
以上42
以下である、
請求項1~19のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項21】
異常分散性(ΔP
g,F)が、0.0060以下である、
請求項1~20のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項22】
部分分散比(P
g,F)が、0.603以下である、
請求項1~21のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項23】
比重(S
g)が、3.10以下である、
請求項1~22のいずれか一項に記載の光学ガラス。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の光学ガラスを用いた、光学素子。
【請求項25】
請求項24に記載の光学素子を含む、光学系。
【請求項26】
請求項25に記載の光学系を含む、カメラ用交換レンズ。
【請求項27】
請求項25に記載の光学系を含む、顕微鏡用対物レンズ。
【請求項28】
請求項25に記載の光学系を含む、光学装置。
【請求項29】
第1のレンズ要素と第2のレンズ要素とを有し、
前記第1のレンズ要素と前記第2のレンズ要素の少なくとも1つは、請求項1~23のいずれか一項に記載の光学ガラスである、接合レンズ。
【請求項30】
請求項29に記載の接合レンズを含む、光学系。
【請求項31】
請求項30に記載の光学系を含む、顕微鏡用対物レンズ。
【請求項32】
請求項30に記載の光学系を含む、カメラ用交換レンズ。
【請求項33】
請求項30に記載の光学系を含む、光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子、光学系、接合レンズ、カメラ用交換レンズ、顕微鏡用対物レンズ、及び光学装置に関する。本発明は2021年6月7日に出願された日本国特許の出願番号2021-095258の優先権を主張し、文献の参照による織り込みが認められる指定国については、その出願に記載された内容は参照により本出願に織り込まれる。
【背景技術】
【0002】
カメラ等の光学装置に用いられる光学素子に使用可能な光学ガラスとして、例えば、特許文献1には、SiO2-B2O3-Nb2O5系の光学ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明に係る第一の態様は、質量%で、SiO2含有率:33%以上60%以下、TiO2含有率:10%以上35%以下、Na2O含有率:15%以上40%以下、SiO2とTiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+TiO2+Na2O):95.00%以上99%以下、SiO
2
とNa
2
OとTiO
2
の総含有率(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)に対するNa
2
O含有率の比(Na
2
O/(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)):0.25以上0.40以下である、光学ガラスである。また、質量%で、SiO2含有率:33%以上60%以下、TiO2含有率:10%以上35%以下、Na2O含有率:15%以上40%以下、SiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+Na2O):76.67%以上85%以下、Na
2
O含有率に対するTiO
2
含有率の比(TiO
2
/Na
2
O):0.77以上1.6以下である、光学ガラスである。また、質量%で、SiO2含有率:33%以上60%以下、TiO2含有率:10%以上32%以下、Na2O含有率:15%以上40%以下、SiO2とTiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+TiO2+Na2O):93.49%以上99%以下、SiO
2
とNa
2
OとTiO
2
の総含有率(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)に対するNa
2
O含有率の比(Na
2
O/(SiO
2
+TiO
2
+Na
2
O)):0.25以上0.40以下である、光学ガラスである。
【0005】
本発明に係る第二の態様は、上述の光学ガラスを用いた、光学素子である。
【0006】
本発明に係る第三の態様は、上述の光学素子を含む、光学系である。
【0007】
本発明に係る第四の態様は、上述の光学素子を含む光学系を含む、カメラ用交換レンズである。
【0008】
本発明に係る第五の態様は、上述の光学素子を含む光学系を含む、顕微鏡用対物レンズである。
【0009】
本発明に係る第六の態様は、上述の光学素子を含む光学系を含む、光学装置である。
【0010】
本発明に係る第七の態様は、第1のレンズ要素と第2のレンズ要素を有し、第1のレンズ要素と第2のレンズ要素の少なくとも1つは、上述の光学ガラスである、接合レンズである。
【0011】
本発明に係る第八の態様は、上述の接合レンズを含む、光学系である。
【0012】
本発明に係る第九の態様は、上述の接合レンズを含む光学系を含む、顕微鏡用対物レンズである。
【0013】
本発明に係る第十の態様は、上述の接合レンズを含む光学系を含む、カメラ用交換レンズである。
【0014】
本発明に係る第十一の態様は、上述の接合レンズを含む光学系を含む、光学装置である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る光学装置を撮像装置とした一例を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る光学装置を撮像装置とした他の例を示す概略図であり、撮像装置の正面図である。
【
図3】本実施形態に係る光学装置を撮像装置とした他の例を示す概略図であり、撮像装置の背面図である。
【
図4】本実施形態に係る多光子顕微鏡の構成の一例の示すブロック図である。
【
図5】本実施形態に係る接合レンズの一例を示す概略図である。
【
図6】各実施例及び各比較例のP
g,Fとν
dをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
本明細書中において、特に断りがない場合は、各成分の含有率は全て酸化物換算組成のガラス全重量に対する質量%(質量百分率)であるものとする。なお、ここでいう酸化物換算組成とは、本実施形態のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩等が熔融時に全て分解されて酸化物に変化すると仮定し、当該酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
また、Q含有率が「0~N%」という表現は、Q成分を含まない場合及び、Q成分が0%を超えてN%以下である場合を含む表現である。
【0019】
また、「耐失透安定性」という表現は、ガラスの失透に対する耐性のことを意味する。ここで「失透」とは、ガラスをガラス転移温度以上に昇温した際、あるいは融液状態から液相温度以下に降温した際に生じる結晶化又は分相等により、ガラスの透明性が失われる現象のことを意味する。
【0020】
本実施形態に係る光学ガラスは、質量%で、SiO2含有率:33~60%、TiO2含有率:10~35%、Na2O含有率:15~40%であり、d線における屈折率ndが1.71以下である光学ガラスである。また、本実施態様に係る光学ガラスは、質量%で、SiO2含有率:33~60%、TiO2含有率:10~35%、Na2O含有率:15~40%、Sb2O3含有率:0%超~1%、であり、d線における屈折率ndが1.71以下である、光学ガラスである。また、本実施態様に係る光学ガラスは、質量%で、SiO2含有率:33~60%、TiO2含有率:10~35%、Na2O含有率:15~40%、SiO2とTiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+TiO2+Na2O):75%以上、SiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+Na2O):55~85%、Na2O含有率に対するTiO2含有率の比(TiO2/Na2O):0.3~1.6である、光学ガラスである。
【0021】
光学装置等の光学系について設計の自由度を高めるべく、高分散でありながら、異常分散性を示す値であるΔPg,Fが小さい光学ガラスが求められている。ΔPg,Fが小さな光学ガラスを作製するには一般に高価なNb2O5成分を多量含有する組成が必要であり、Nb2O5成分を多く含むことで、d線に対する屈折率(nd)を小さい値としたままアッベ数(νd)を小さくすることは困難であった。
【0022】
また、本実施形態に係る光学ガラスは、比重が3.10以下の低比重な光学ガラスとすることもできる。
【0023】
以下、本実施形態に係る光学ガラスの成分を説明する。
【0024】
SiO2は、ガラス骨格を形成し、屈折率を小さい値としたままΔPg,Fを低下させる成分である。この含有率が少なすぎると、ガラスの耐失透安定性が不十分となる。また、この含有率が多すぎると、ガラスの熔融性が低下し、ガラス自体の粘性が増大して成型が困難となる。かかる観点から、SiO2の含有率は、33~60%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは34%であり、より好ましくは36%であり、更に好ましくは47.3%であり、更により好ましくは47.5%である。また、この含有率の上限は、好ましくは58%であり、より好ましくは55%、更に好ましくは54%である。
【0025】
TiO2は、ガラスの屈折率を高め、高分散化させる成分であるが、その含有率が多すぎるとndおよびΔPg,Fを大きく増加させ、透過率も悪化させる成分である。かかる観点から、TiO2の含有率は、10~35%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは11%であり、より好ましくは14%であり、更に好ましくは20%である。また、この含有率の上限は、好ましくは34%であり、より好ましくは32%であり、更に好ましくは29%である。
【0026】
Na2Oは、原料の熔融性を高め、低屈折率高分散としたままΔPg,Fを低下させる成分である。この含有率が多すぎると、化学的耐久性が低下し、耐失透安定性も低下する。かかる観点から、Na2Oの含有率は、15~40%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは17%であり、より好ましくは19%であり、更に好ましくは21%である。また、この含有率の上限は、好ましくは38%であり、より好ましくは37%であり、更に好ましくは36%である。
【0027】
また、本実施形態に係る光学ガラスは、任意成分として、B2O3、La2O3、Gd2O3、Y2O3、ZrO2、Nb2O5、MgO、Ta2O5、ZnO、BaO、CaO、SrO、Al2O3、WO3、Li2O、K2O、及びSb2O3からなる群より選ばれる1種以上を更に含有することができる。
【0028】
さらに、上述した各成分について、より好ましい組み合わせとしては、B2O3含有率:0~10%、La2O3含有率:0~5%、Gd2O3含有率:0~5%、Y2O3含有率:0~5%、ZrO2含有率:0~20%、Nb2O5含有率:0~25%、MgO含有率:0~5%、Ta2O5含有率:0~10%、ZnO含有率:0~25%、BaO含有率:0~5%、CaO含有率:0~5%、SrO含有率:0~5%、Al2O3含有率:0~5%、WO3含有率:0~5%、Li2O含有率:0~5%、K2O含有率:0~10%、Sb2O3含有率:0~1%である。
【0029】
B2O3は、ガラス骨格を形成し、化学的耐久性を向上させる成分である。この含有率が多すぎると、高分散化すると共にΔPg,Fが増大する。かかる観点から、B2O3の含有率は、0~10%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは0%超であり、より好ましくは1%であり、更に好ましくは3%である。また、この含有率の上限は、好ましくは10%未満であり、より好ましくは8%であり、更に好ましくは7%である。
【0030】
La2O3は、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、好ましい態様として、La2O3の含有率は0~5%としてもよい。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%である。
【0031】
Gd2O3は、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、好ましい態様として、Gd2O3の含有率は0~5%としてもよい。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%である。
【0032】
Y2O3は、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、好ましい態様として、Y2O3の含有率は0~5%としてもよい。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%である。
【0033】
ZrO2は、ガラスの屈折率を高め、ΔPg,Fの増加を抑制しながら高分散とする成分であり、この含有率が多すぎると、ガラス原料の熔融性や耐失透安定性が低下する。かかる観点から、ZrO2の含有率は、0~20%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは0%超であり、より好ましくは4%であり、更に好ましくは8%であり、より更に好ましくは10%である。また、この含有率の上限は、好ましくは16%であり、より好ましくは14%であり、更に好ましくは12%である。ZrO2は、SiO2と相互に置換することが可能である。SiO2と置換してZrO2の含有率を増やすと,ΔPg
,Fの増加を抑制しながらガラスを高屈折率化かつ高分散化することが出来る。
【0034】
Nb2O5は、ガラスの屈折率を高め、ΔPg,Fの増加を抑制しながら高分散とする成分であり、この含有率が多すぎると屈折率が増大する。また、耐失透安定性を一層向上させる観点と、原料コストの観点から、Nb2O5の含有率は、0~25%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは0%超であり、より好ましくは5%であり、更に好ましくは8%である。また、この含有率の上限は、好ましくは25%未満であり、より好ましくは23%であり、更に好ましくは20%であり、より更に好ましくは20%未満である。
【0035】
MgOは、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、MgOの含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%である。
【0036】
Ta2O5は、ガラスの屈折率を高め、ΔPg,Fの増加を抑制しながら高分散とする成分である。耐失透安定性を一層向上させる観点と、原料コストの観点から、Ta2O5の含有率は、好ましくは0~10%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%であり、より更に好ましくは2%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは8%であり、更に好ましくは7%であり、より更に好ましくは6%である。Ta2O5は、ZrO2と効果が類似しているため、ZrO2と相互に置換することが可能である。
【0037】
ZnOは、ガラスの屈折率を高め、高分散とする成分であり、この含有率が多すぎると屈折率が増大する。また、耐失透安定性を一層向上させる観点から、ZnOの含有率は、好ましくは0~25%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは5%であり、より更に好ましくは10%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは23%であり、更に好ましくは19%である。
【0038】
BaOは、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、BaOの含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%である。
【0039】
CaOは、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、CaOの含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%である。
【0040】
SrOは、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、SrOの含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%である。
【0041】
Al2O3は、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、Al2O3の含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%である。
【0042】
WO3は、ガラスの恒数調整に有効な成分である。かかる観点から、WO3の含有率は、好ましくは0~5%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは4%である。
【0043】
Li2Oは、ガラスの屈折率を高め、ガラス原料の熔融性を向上させる成分である。この含有率が多すぎると、耐失透安定性が低下するまた、ΔPg,Fが増大する。かかる観点から、Li2Oの含有率は、0~5%である。そして、この含有率の下限は、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.3%であり、更に好ましくは0.5%である。また、この含有率の上限は、好ましくは3.4%であり、より好ましくは2.4%であり、更に好ましくは1.4%である。
【0044】
K2Oは、原料の熔融性を高め、低屈折率高分散としたままΔPg,Fを低下させる成分であるが、その含有率が多すぎると低分散化し、化学耐久性も低下する。かかる観点から、K2Oの含有率は、好ましくは0~10%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.5%であり、より更に好ましくは0.8%である。また、この含有率の上限は、好ましくは5%であり、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%であり、より更に好ましくは2%である。なお、K2Oは、Na2Oと相互に置換することが可能である。
【0045】
Sb2O3は、ガラスを清澄する脱泡剤として機能する成分であるが、その含有率が多すぎると透過率を低下させる。かかる観点から、Sb2O3の含有率は、好ましくは0~1%である。そして、この含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.02%であり、より更に好ましくは0.03%である。また、この含有率の上限は、より好ましくは0.5%であり、更に好ましくは0.2%であり、より更に好ましくは0.1%である。Sb2O3は、SiO2、Na2O、TiO2の少なくとも一種と相互に置換しても良い。上記好ましい範囲内であれば光学恒数を大きく変化させない。
【0046】
屈折率を下げる観点から、上記1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部をフッ化物と置換しても良い。フッ化物に含まれるフッ素(F)はガラスの屈折率を低下させるとともに低分散化させ、ΔPg,Fを増大させる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するF(フッ素)の質量の外割の含有率は、0~15%である。尚、本明細書中において、酸化物換算組成のガラス全質量に対するF(フッ素)の質量の外割の含有率とは、酸化物換算組成の質量とフッ化物のカチオン成分の酸化物換算の質量とフッ素(F)の質量の和に対するフッ素(F)の質量の質量%(質量百分率):フッ素(F)の質量/(酸化物換算組成の質量+フッ化物のカチオン成分の酸化物換算の質量+フッ素(F)の質量)である。換言すると、フッ素(F)以外の全成分の酸化物換算の質量の合計含有率を100%としたとき、フッ素(F)以外の全成分の酸化物換算の質量とフッ素(F)の質量の和に対するフッ素(F)の質量を質量%で表したものである。この含有率の下限は、好ましくは0%超であり、より好ましくは4%であり、更に好ましくは8%である。また、この含有率の上限は、好ましくは13%であり、より好ましくは10%、更に好ましくは9%である。フッ化物は、原料として例えば、K2SiF6、Na2SiF6、ZrF4、AlF3、NaF、CaF2、LaF3等を用いてガラス内にフッ素を含有することができる。また、フッ化物のカチオン成分の酸化物換算の質量とは、例えば原料にK2SiF6を用いたとき、K2SiF6のカチオン成分はK及びSiなので、これら2つの質量をK2OとSiO2に換算した量を指す。
【0047】
その一方で、本実施形態に係る光学ガラスは、As、Pb、Cd等の環境負荷の大きな元素を含有しなくとも所望の光学恒数を実現できる。かかる観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、As、Pb、Cdの各元素は実質的に含有しないことが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る光学ガラスは、透過率が良好であること、蛍光を発しないことが求められている。Fe、Ni、Cr、Mn、Ag、Cu、Mo、Eu、Au等、着色や蛍光の原因となる元素は、原料の調合段階から意図的に加えないことが好ましく、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0049】
なお、本明細書中において「実質的に含有しない」とは、当該成分が、不純物として不可避的に含有される濃度を越えて、ガラス組成物の特性に影響する構成成分として含有されないことを意味する。原料によって不純物として許容されている比率が異なるため、例えば40ppm未満、好ましくは30ppm未満、より好ましくは10ppm未満、より更に好ましくは8ppm未満の含有量であれば、実質的に含有しないとみなす。
【0050】
また、本実施形態に係る光学ガラスは、以下の条件を満たすように任意成分を添加してもよい。
【0051】
ΔPg,Fを増大させない観点から、Na2O含有率に対するB2O3とK2OとAl2O3の総含有率の比((B2O3+K2O+Al2O3)/Na2O))は、好ましくは0~0.5である。そして、この比の下限は、より好ましくは0超であり、更に好ましくは0.10であり、より更に好ましくは0.15である。また、この比の上限は、より好ましくは0.34であり、更に好ましくは0.22であり、より更に好ましくは0.20である。
【0052】
ガラス原料の熔融性と耐失透安定性を一層向上させ、高分散とする観点から、K2OとAl2O3の総含有率(K2O+Al2O3)は、好ましくは0~10%である。そして、この総含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは0.10%であり、より更に好ましくは0.15%である。また、この総含有率の上限は、好ましくは5%であり、より好ましくは4.1%であり、更に好ましくは2.8%であり、より更に好ましくは1.8%である。
【0053】
ガラス原料の熔融性と耐失透安定性を一層向上させ、高分散とする観点から、MgOとCaOとSrOとBaOの総含有率(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは0~10%である。そして、この総含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは1%であり、より更に好ましくは1.4%である。また、この総含有率の上限は、好ましくは5%、より好ましくは3.5%であり、更に好ましくは2%であり、より更に好ましくは1.5%未満である。
【0054】
ガラス原料の熔融性と耐失透性を一層向上させ、高分散とする観点から、La2O3とGd2O3とY2O3の総含有率(La2O3+Gd2O3+Y2O3)は、好ましくは0~10%である。そして、この総含有率の下限は、より好ましくは0%超であり、更に好ましくは1%であり、より更に好ましくは1.5%である。また、この総含有率の上限は、好ましくは5%であり、より好ましくは4%であり、更に好ましくは3%であり、より更に好ましくは2%である。
【0055】
ガラス原料の熔融性と耐失透安定性を一層向上させ、高分散とする観点から、Li2OとNa2OとK2Oの総含有率(Li2O+Na2O+K2O)は、好ましくは15~40%である。そして、この総含有率の下限は、より好ましくは15%であり、更に好ましくは17%であり、より更に好ましくは19%である。また、この総含有率の上限は、より好ましくは35%であり、更に好ましくは32%であり、より更に好ましくは30%である。
【0056】
耐失透安定性を向上させ、ΔPg,Fを小さくする観点から、SiO2含有率に対するB2O3含有率の比(B2O3/SiO2)は、好ましくは0~0.15である。そして、この比の下限は、より好ましくは0超であり、更に好ましくは0.03であり、より更に好ましくは0.05である。また、この比の上限は、より好ましくは0.14であり、更に好ましくは0.13であり、より更に好ましくは0.12である。
【0057】
低屈折率を実現しながら高分散とし、かつ、ΔPg,Fを小さくする観点から、SiO2とTiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+TiO2+Na2O)は、75%以上である。そして、この総含有率の下限は、好ましくは84%であり、より好ましくは90%であり、更に好ましくは94%である。また、この総含有率の上限は、好ましくは99%であり、より好ましくは98%であり、更に好ましくは96%である。
【0058】
高分散とし、かつ、ΔPg,Fを小さくする観点から、SiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+Na2O)の総含有率は、55%~85%である。そして、この総含有率の下限は、好ましくは76%であり、より好ましくは76.5%であり、更に好ましくは77%である。また、この総含有率の上限は、好ましくは80%であり、より好ましくは79.5%であり、更に好ましくは79%である。
【0059】
高分散とし、かつ、ΔPg,Fを小さくする観点から、Na2Oに対するTiO2の比(TiO2/Na2O)は、0.3~1.6である。そして、この比の下限は、好ましくは0.40であり、より好ましくは0.77であり、更に好ましくは0.80である。また、この比の上限は、好ましくは1.0であり、より好ましくは0.97であり、更に好ましくは0.96であり、より更に好ましくは0.94である。
【0060】
低屈折率を実現しながら高分散とし、かつ、ΔPg,Fを小さくする観点から、SiO2とTiO2とNa2Oの総含有率(SiO2+TiO2+Na2O)に対するNa2O含有率の比(Na2O/(SiO2+TiO2+Na2O))は、好ましくは0.18~0.40である。この比の下限は、好ましくは0.19、より好ましくは0.21、更に好ましくは0.23であり、よりさらに好ましくは0.25である。この比の上限は、好ましくは0.39、より好ましくは0.37、更に好ましくは0.35であり、よりさらに好ましくは0.27である。
【0061】
その他必要に応じて清澄、着色、消色や光学恒数値の微調整等の目的で、公知の清澄剤、着色剤および脱泡剤をそれぞれガラス組成に外割で0.5%を上限に適量添加することができる。ここで、外割とは、たとえば清澄剤の場合、清澄剤を除く全ガラス成分の酸化物換算の質量の合計含有率を100%としたとき、清澄剤を除く全ガラス成分の酸化物換算の質量と清澄剤の質量との和に対する清澄剤の質量(清澄剤の質量/(清澄剤を除く全ガラス成分の酸化物換算の質量+清澄剤))を質量%で表したものである。着色剤、脱泡剤の外割の定義についても同様である。脱泡剤としては具体的には酸化スズ(SnO2)である。また、上記成分に限らず、本実施形態に係る光学ガラスの効果が得られる範囲でその他成分を添加することもできる。
【0062】
上述した各成分については、不純物の含有率が少ない高純度品を原料として使用することが好ましい。例えば、SiO2原料、B2O3原料のうち1又は2以上について高純度品を使用することが好ましい。高純度品とは、当該成分を99.85質量%以上含むものである。高純度品の使用によって、不純物の含有率が少なくなる結果、例えば、波長400nm以下の光の内部透過率をより高くできる傾向がある。
【0063】
次に、本実施形態に係る光学ガラスの物性等について説明する。
【0064】
本実施形態に係る光学ガラスのd線に対する屈折率(nd)については、好適例として、1.58を下限、1.71を上限とした、1.58~1.71の範囲であるものが挙げられる。屈折率の下限は、より好ましくは1.60であり、更に好ましくは1.605、より更に好ましくは1.61である。また、屈折率の上限は、より好ましくは1.705であり、更に好ましくは1.70よりさらに好ましくは1.634である。
【0065】
また、本実施形態に係る光学ガラスのアッベ数(νd)については、好適例として、25を下限、42を上限とした、25~42の範囲であるものが挙げられる。アッベ数の下限は、好ましくは28であり、より好ましくは28.5であり、更に好ましくは29である。また、アッベ数の上限は、より好ましくは41であり、更に好ましくは40である。
【0066】
また、本実施形態にかかる光学ガラスのd線に対する屈折率(nd)とアッべ数(νd)は、Vブロック法または最小偏角法で測定したときの値である。
【0067】
さらに、本実施形態に係る光学ガラスの異常分散性を示す値(ΔPg,F)は、好ましくは0.0060以下であり、より好ましくは0.0040以下であり、更に好ましくは0.0020以下である。
【0068】
さらに、本実施形態に係る光学ガラスとしては、屈折率(nd)が、1.58~1.71であり、アッベ数(νd)が、25~42であり、異常分散性を示す値(ΔPg,F)が、0.0060以下である、という各物性を併せ持つことが好ましい。
【0069】
またさらに、本実施形態に係る光学ガラスの部分分散比(Pg,F)は、好ましくは0.603以下であり、より好ましくは0.600以下であり、更に好ましくは0.590以下であり、より更に好ましくは0.585以下である。
【0070】
なお、屈折率、アッベ数、異常分散性を示す値、及び部分分散比は、後述する実施例に記載の方法に準拠して測定することができる。
【0071】
上述したように、本実施形態に係る光学ガラスは、低屈折率(屈折率(nd)が小さいこと)、高分散(アッベ数(νd)が小さいこと)でありながら、異常分散性を示す値(ΔPg,F)を小さくすることができる。またさらに、このような光学ガラスを用いると、例えば、色収差や他の収差が良好に補正された光学系を設計することができる。また、本実施形態に係る光学ガラスは多量のNb2O5を含有せず、原料費が安価であるため、安価に供給することが可能である。
【0072】
本実施形態に係る光学ガラスの比重(Sg)は、好ましくは3.10以下であり、より好ましくは3.08以下であり、更に好ましくは3.06以下であり、より更に好ましくは3.00以下である。本実施形態に係る光学ガラスはこのような低比重とすることもできるため、軽量な光学素子等の材料として好適に使用できる。
【0073】
本実施形態に係る光学ガラスの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。また、製造条件は、適宜好適な条件を選択することができる。例えば、上述した各原料に対応する酸化物、水酸化物、リン酸化合物(リン酸塩、正リン酸等)、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、及びフッ化物等を目標組成となるように調合し、好ましくは1100~1500℃、より好ましくは1340~1400℃にて熔融し、攪拌することで均一化し、泡切れを行った後、金型に流し成型する製造方法等を採用できる。このようにして得られた光学ガラスは、必要に応じてリヒートプレス等を行って所望の形状に加工し、研磨等を施すことで、所望の光学素子とすることができる。
【0074】
そして、同様の観点から、本実施形態に係る光学ガラスの製造方法は、光学ガラスの原料を1340~1400℃で加熱する工程を少なくとも含み、かつ、光学ガラスの原料50gを1340~1400℃の温度で加熱したときの原料50gが融解するまでの時間が、15分未満であることが好ましい。このような融解時間の原料を用いて、1340~1400℃で加熱することで、加熱工程の際に残存するガラス原料がガラス中に混入することもなく、高品質な光学ガラスを歩留まり良く製造することができる。
【0075】
上述した観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、例えば、光学機器が備える光学素子として好適に用いることができる。このような光学素子には、ミラー、レンズ、プリズム、フィルタ等が含まれる。また上記光学素子が用いられる光学系としては、例えば、対物レンズ、集光レンズ、結像レンズ、カメラ用交換レンズ等が挙げられる。そして、これらの光学系は、レンズ交換式カメラ、レンズ非交換式カメラ等の撮像装置、蛍光顕微鏡や多光子顕微鏡等の顕微鏡装置の各種光学装置に好適に使用できる。かかる光学装置は、上述した撮像装置や顕微鏡に限られず、望遠鏡、双眼鏡、レーザー距離計、プロジェクタ等も含まれるが、これらに限られない。以下に、これらの一例を説明する。
【0076】
<撮像装置>
図1は、本実施形態に係る光学装置を撮像装置とした一例を示す斜視図である。撮像装置1はいわゆるデジタル一眼レフカメラ(レンズ交換式カメラ)であり、撮影レンズ103(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。カメラボディ101のレンズマウント(不図示)にレンズ鏡筒102が着脱自在に取り付けられる。そして、該レンズ鏡筒102のレンズ103を通した光が、カメラボディ101の背面側に配置されたマルチチップモジュール106のセンサチップ(固体撮像素子)104上に結像される。このセンサチップ104は、いわゆるCMOSイメージセンサー等のベアチップであり、マルチチップモジュール106は、例えばセンサチップ104がガラス基板105上にベアチップ実装されたCOG(Chip On Glass)タイプのモジュールである。
【0077】
図2及び
図3は、本実施形態に係る光学装置を撮像装置とした他の例を示す概略図である。
図2は、撮像装置CAMの正面図を示し、
図3は、撮像装置CAMの背面図を示す。撮像装置CAMはいわゆるデジタルスチルカメラ(レンズ非交換式カメラ)であり、撮影レンズWL(光学系)は本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。
【0078】
撮像装置CAMは、電源ボタン(不図示)を押すと、撮影レンズWLのシャッタ(不図示)が開放されて、撮影レンズWLで被写体(物体)からの光が集光され、像面に配置された撮像素子に結像される。撮像素子に結像された被写体像は、撮像装置CAMの背後に配置された液晶モニターMに表示される。撮影者は、液晶モニターMを見ながら被写体像の構図を決めた後、レリーズボタンB1を押し下げて被写体像を撮像素子で撮像し、メモリー(不図示)に記録保存する。
【0079】
撮像装置CAMには、被写体が暗い場合に補助光を発光する補助光発光部EF、撮像装置CAMの種々の条件設定等に使用するファンクションボタンB2等が配置されている。
【0080】
このようなデジタルカメラ等に用いられる光学系には、より高い解像度、低い色収差、小型化が求められる。これらを実現するには光学系に分散特性が互いに異なるガラスを用いることが有効である。特に、低分散でありながらより高い部分分散比(Pg,F)を有するガラスの需要は高い。このような観点から、本実施形態に係る光学ガラスは、かかる光学機器の部材として好適である。なお、本実施形態において適用可能な光学機器としては、上述した撮像装置に限らず、例えばプロジェクタ等も挙げられる。光学素子についても、レンズに限らず、例えばプリズム等も挙げられる。
【0081】
<顕微鏡>
図4は、本実施形態に係る多光子顕微鏡2の構成の例を示すブロック図である。多光子顕微鏡2は、対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210を備える。対物レンズ206、集光レンズ208、結像レンズ210のうち少なくとも1つは、本実施形態に係る光学ガラスを母材とする光学素子を備えたものである。以下、多光子顕微鏡2の光学系を中心に説明する。
【0082】
パルスレーザ装置201は、例えば、近赤外波長(約1000nm)であって、パルス幅がフェムト秒単位の(例えば、100フェムト秒の)超短パルス光を射出する。パルスレーザ装置201から射出された直後の超短パルス光は、一般に所定の方向に偏光された直線偏光となっている。
【0083】
パルス分割装置202は、超短パルス光を分割し、超短パルス光の繰り返し周波数を高くして射出する。
【0084】
ビーム調整部203は、パルス分割装置202から入射される超短パルス光のビーム径を、対物レンズ206の瞳径に合わせて調整する機能、試料Sから発せられる光の波長と超短パルス光の波長との軸上の色収差(ピント差)を補正するために超短パルス光の集光及び発散角度を調整する機能、超短パルス光のパルス幅が光学系を通過する間に群速度分散により広がってしまうのを補正するために、逆の群速度分散を超短パルス光に与えるプリチャープ機能(群速度分散補償機能)等を有する。
【0085】
パルスレーザ装置201から射出された超短パルス光は、パルス分割装置202によりその繰り返し周波数が大きくされ、ビーム調整部203により上記した調整が行われる。そして、ビーム調整部203から射出された超短パルス光は、ダイクロイックミラー204によりダイクロイックミラーの方向に反射され、ダイクロイックミラー205を通過し、対物レンズ206により集光されて試料Sに照射される。このとき、走査手段(不図示)を用いることにより、超短パルス光を試料Sの観察面上に走査させてもよい。
【0086】
例えば、試料Sを蛍光観察する場合、試料Sの超短パルス光の被照射領域及びその近傍では、試料Sが染色されている蛍光色素が多光子励起され、赤外波長である超短パルス光より波長が短い蛍光(以下、「観察光」という。)が発せられる。
【0087】
試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた観察光は、対物レンズ206によりコリメートされ、その波長に応じて、ダイクロイックミラー205により反射されたり、あるいは、ダイクロイックミラー205を透過する。
【0088】
ダイクロイックミラー205により反射された観察光は、蛍光検出部207に入射する。蛍光検出部207は、例えば、バリアフィルタ、PMT(photo multiplier tube:光電子増倍管)等により構成され、ダイクロイックミラー205により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部207は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0089】
なお、ダイクロイックミラー205を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部211で検出するようにしてもよい。その場合、観察光は、走査手段(不図示)を通過した後、ダイクロイックミラー204を透過し、集光レンズ208により集光され、対物レンズ206の焦点位置とほぼ共役な位置に設けられているピンホール209を通過し、結像レンズ210を透過して、蛍光検出部211に入射する。
【0090】
蛍光検出部211は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、結像レンズ210により蛍光検出部211の受光面において結像した観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部211は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0091】
なお、ダイクロイックミラー205を光路から外すことにより、試料Sから対物レンズ206の方向に発せられた全ての観察光を蛍光検出部211で検出するようにしてもよい。
【0092】
また、試料Sから対物レンズ206と逆の方向に発せられた観察光は、ダイクロイックミラー212により反射され、蛍光検出部213に入射する。蛍光検出部113は、例えば、バリアフィルタ、PMT等により構成され、ダイクロイックミラー212により反射された観察光を受光し、その光量に応じた電気信号を出力する。また、蛍光検出部213は、超短パルス光が試料Sの観察面において走査されるのに合わせて、試料Sの観察面にわたる観察光を検出する。
【0093】
蛍光検出部207、211、213からそれぞれ出力された電気信号は、例えば、コンピュータ(不図示)に入力され、そのコンピュータは、入力された電気信号に基づいて、観察画像を生成し、生成した観察画像を表示したり、観察画像のデータを記憶したりすることができる。
【0094】
<接合レンズ>
図5は、本実施形態に係る接合レンズの一例を示す概略図である。接合レンズ3は、第1のレンズ要素301と第2のレンズ要素302とを有する複合レンズである。第1のレンズ要素と第2のレンズ要素の少なくとも1つは、本実施形態に係る光学ガラスを用いる。第1のレンズ要素と第2のレンズ要素は、接合部材303を介して接合されている。接合部材303としては、公知の接着剤等を用いることができる。なお、「レンズ要素」とは、単レンズ又は接合レンズを構成する各々のレンズのことを意味する。
【0095】
本実施形態に係る接合レンズは、色収差補正の観点で有用であり、上述した光学素子や光学系や光学装置等に好適に使用できる。そして、接合レンズを含む光学系は、カメラ用交換レンズや光学装置等にとりわけ好適に使用できる。なお、上述の態様では2つのレンズ要素を用いた接合レンズについて説明したが、これに限られず、3つ以上のレンズ要素を用いた接合レンズとしてもよい。3つ以上のレンズ要素を用いた接合レンズとする場合、3つ以上のレンズ要素のうち少なくとも1つが本実施形態に係る光学ガラスを用いて形成されていればよい。
【実施例】
【0096】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
各表は、各実施例及び各比較例に係る光学ガラスについて、各成分の酸化物基準の質量%基準による化学組成、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、比重(Sg)、部分分散比(Pg,F)、異常分散性を示す値(ΔPg,F)、耐失透安定性について示したものである。
【0098】
<光学ガラスの作製>
各実施例及び各比較例に係る光学ガラスは、以下の手順で作製した。まず、各表に記載の化学組成(質量%)となるよう、酸化物、炭酸塩、及び硝酸塩等のガラス原料を熔融後の酸化物重量が100gとなるよう秤量した。次に、秤量した原料を混合して内容量100mL程度の白金坩堝に投入し、1250~1400℃の温度で70分程度熔融させて攪拌均質化した。清澄を行った後、金型等に鋳込んで徐冷し、成型することで各サンプルを得た。実施例19に関しては1300℃で40分程度熔融させてから水に落としてフリットを作製し、そのフリットを1300℃で30分熔融させて攪拌均質化し、金型等に鋳込んで徐冷し、成型することでサンプルを得た。
【0099】
<物性評価>
図6は、各実施例及び各比較例のP
g,Fとν
dをプロットしたグラフである。
【0100】
屈折率(nd)とアッベ数(νd)
各サンプルの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、実施例1~4、6、8はVブロック法を用いて測定及び算出し、実施例5、7、9~19は最小偏角法を用いて測定及び算出した。ndは、587.562nmの光に対するガラスの屈折率を示す。νdは、以下の式(1)より求めた。nC、nF、はそれぞれ波長656.273nm、486.133nmの光に対するガラスの屈折率を示す。
νd=(nd-1)/(nF-nC)・・・(1)
屈折率の値は、小数点以下第6位までとした。
【0101】
比重(Sg)
各サンプルの比重(Sg)は、4℃における同体積の純水に対する質量比をアルキメデス法によって測定した。
【0102】
耐失透安定性
各サンプルの耐失透安定性は、作製したガラスを研磨加工し、失透の有無を目視で確認した。各表の「失透有り」とは、サンプル中に失透部分が観察されたことを意味し、「失透無し」とは、サンプル中に失透部分が観察されなかったことを意味する。
【0103】
部分分散比(Pg,F)
各サンプルの部分分散比(Pg,F)は、主分散(nF-nC)に対する部分分散(ng-nF)の比を示し、以下の式(2)より求めた。ngは、波長435.835nmの光に対するガラスの屈折率を示す。部分分散比(Pg,F)の値は、小数点以下第4位までとした。
Pg,F=(ng-nF)/(nF-nC)・・・(2)
【0104】
異常分散性(ΔPg,F)
各サンプルの異常分散性(ΔPg,F)は、正常分散性を有するガラスとしてF2およびK7の2硝種を基準とした部分分散比標準線からの偏りを示す。すなわち、縦軸を部分分散比(Pg,F)、横軸をアッベ数νdとする座標上で、2硝種を結ぶ直線と、比較対象のガラスの値との縦座標の差分が、部分分散比の偏り、すなわち異常分散性(ΔPg,
F)となる。上記の座標系で、部分分散比の値が、基準となる硝種を結ぶ直線よりも上側に位置する場合にはガラスは正の異常分散性(+ΔPg,F)を示し、下側に位置する場合にはガラスは負の異常分散性(-ΔPg,F)を示す。なお、F2およびK7のアッベ数νdと部分分散比(Pg,F)は以下の通りである。
F2:アッベ数νd=36.33、部分分散比(Pg,F)=0.5834
K7:アッベ数νd=60.47、部分分散比(Pg,F)=0.5429
異常分散性(ΔPg,F)の値は、小数点以下第4位までとした。
ΔPg,F=Pg,F-(-0.0016777×νd+0.6443513)・・・(3)
【0105】
各実施例及び各比較例の光学ガラスについて、各成分の酸化物基準の質量%による組成、F成分の外割の質量%、及び各物性の評価結果を、表1~5に示す。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
比較例1は、作製したガラス中に失透が確認されたため、光学恒数の測定は実施しなかった。
【0112】
以上、本実施例の光学ガラスは、低い屈折率(nd)、小さいアッベ数(νd)、小さいΔPg,F値を有し、耐失透安定性に優れることが確認された。また、低比重であることが確認されており、このことは光学系の軽量化に寄与する。
【符号の説明】
【0113】
1・・・撮像装置、101・・・カメラボディ、102・・・レンズ鏡筒、103・・・レンズ、104・・・センサチップ、105・・・ガラス基板、106・・・マルチチップモジュール、CAM・・・撮像装置(レンズ非交換式カメラ)、WL・・・撮影レンズ、M・・・液晶モニター、EF・・・補助光発光部、B1・・・レリーズボタン、B2・・・ファンクションボタン、2・・・多光子顕微鏡、201・・・パルスレーザ装置、202・・・パルス分割装置、203・・・ビーム調整部、204,205,212・・・ダイクロイックミラー、206・・・対物レンズ、207,211,213・・・蛍光検出部、208・・・集光レンズ、209・・・ピンホール、210・・・結像レンズ、S・・・試料、3・・・接合レンズ、301・・・第1のレンズ要素、302・・・第2のレンズ要素、303・・・接合部材