(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-24
(45)【発行日】2025-08-01
(54)【発明の名称】二酸化炭素を用いた原油回収のためのシリカナノ粒子及び原油回収方法
(51)【国際特許分類】
C09K 8/04 20060101AFI20250725BHJP
C09K 8/58 20060101ALI20250725BHJP
E21B 43/22 20060101ALI20250725BHJP
【FI】
C09K8/04
C09K8/58
E21B43/22 A
(21)【出願番号】P 2021561516
(86)(22)【出願日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2020044098
(87)【国際公開番号】W WO2021107048
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019215612
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509001630
【氏名又は名称】株式会社INPEX
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岡 尚
(72)【発明者】
【氏名】米林 英治
(72)【発明者】
【氏名】宮川 喜洋
(72)【発明者】
【氏名】鷺坂 将伸
(72)【発明者】
【氏名】安部 誠志
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-526887(JP,A)
【文献】国際公開第2018/187563(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/213050(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0291255(US,A1)
【文献】国際公開第2019/054414(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0093462(US,A1)
【文献】国際公開第2018/187550(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/04
C09K 8/58
E21B 43/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油増進回収(EOR)のCO
2フォーム(Foam)攻法における二酸化炭素と水と油とを含む混合物中の泡沫乃至エマルションの安定性を高めるための水性ゾルであって、
動的光散乱法による測定において1~100nmの平均粒子径を有し、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として、分散媒としてpH1.0以上6.0以下の水性溶媒に分散した水性ゾルであり、
前記加水分解基を有するシラン化合物が、
加水分解基を有し且つエポキシ基、該エポキシ基が加水分解された有機基、又はアミノ基を含む第一のシラン化合物と、
加水分解基を有し且つ炭素原子数1~40のアルキル基、炭素原子数6~40の芳香環基、又はそれらの組み合わせを含む有機基を含む第二のシラン化合物を含む、
水性ゾル。
【請求項2】
前記エポキシ基が、グリシジル基、シクロヘキシルエポキシ基、又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の水性ゾル。
【請求項3】
前記表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子において、前記シラン化合物とシリカ粒子が質量比で、0.01~2.00:1.00の割合で含まれる、請求項1又は2に記載の水性ゾル。
【請求項4】
原油増進回収(EOR)のCO
2フォーム(Foam)攻法における二酸化炭素と水と油
とを含む混合物中の泡沫乃至エマルションの安定性を高めるための水性ゾルであって、
動的光散乱法による測定において1~
15nmの平均粒子径を有し、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として、分散媒としてpH1.0以上6.0以下の水性溶媒に分散した水性ゾル
であり、
前記表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子において、前記シラン化合物とシリカ粒子の割合は、質量比で、0.01:1.00~2.00:1.00の割合で含まれる、水性ゾル。
【請求項5】
前記加水分解基を有するシラン化合物が、
加水分解基を有し且つエポキシ基
、該エポキシ基が加水分解された有機基
、又はアミノ基を含むシラン化合物である、請求項
4に記載の水性ゾル。
【請求項6】
前記エポキシ基が、グリシジル基、シクロヘキシルエポキシ基、又はそれらの組み合わせである、請求項
5に記載の水性ゾル。
【請求項7】
前記加水分解基を有するシラン化合物が、更に加水分解基を有する第二のシラン化合物を含む、請求項
4乃至請求項
6のうちいずれか1項に記載の水性ゾル。
【請求項8】
前記加水分解基を有する第二のシラン化合物が、炭素原子数1~40のアルキル基、炭素原子数6~40の芳香環基、又はそれらの組み合わせを含む有機基を含むシラン化合物である、請求項
7に記載の水性ゾル。
【請求項9】
pH6以下で等電点を有していない、請求項1乃至請求項
8のうちいずれか1項に記載の水性ゾル。
【請求項10】
塩化ナトリウムと塩化カルシウムと塩化マグネシウムを主成分として含み、合計の塩分濃度が1万~23万ppmである環境下で、前記水性ゾルをシリカ濃度1.0質量%となる濃度にて80℃で30日間保管した試験の後において、該水性ゾルの動的光散乱法による測定における平均粒子径の値と該試験前の平均粒子径の値との差が200nm以下である、請求項1乃至請求項
9のうちいずれか1項に記載の水性ゾル。
【請求項11】
前記水性ゾルは、
加水分解基を有するシラン化合物によるシリカ粒子の水性媒体中での被覆時のpHが1.0以上6.0以下であり、
pH1.0以上6.0以下で保管した該水性ゾルを、
塩化ナトリウムと塩化カルシウムと塩化マグネシウムを主成分として含み、合計の塩分濃度が1万~23万ppmである環境下で、前記水性ゾルをシリカ濃度1.0質量%となる濃度にて、該環境下でpHが5.0~8.0にて80℃で30日間保管した試験の後において、該水性ゾルの動的光散乱法による測定における平均粒子径の値と該試験前の平均粒子径の値との差が200nm以下である、
請求項1乃至請求項
10のいずれか1項に記載の水性ゾル。
【請求項12】
前記泡沫乃至エマルションが、温度30~120℃、圧力70~400気圧で安定である、請求項1乃至請求項
11のうちいずれか1項に記載の水性ゾル。
【請求項13】
地下の炭化水素含有層から原油を回収する方法であって、
(a)工程:請求項1乃至請求項
12のうちいずれか1項に記載の水性ゾル、水、及び二酸化炭素を、それぞれ又は同時に地下層に圧入する工程、
(b)工程:地下層に掘削された生産井から原油を地上に回収する工程、
を含む原油回収方法。
【請求項14】
前記(a)工程が、前記水性ゾル及び水と、二酸化炭素とを、交互に地下層に圧入する工程である、請求項
13に記載の原油回収方法。
【請求項15】
前記(a)工程の圧入は、温度30~120℃、圧力70~400気圧で為される、請求項
13又は請求項
14に記載の原油回収方法。
【請求項16】
前記地下層が砂岩を含む層である、請求項
13乃至請求項
15のうちいずれか1項に記載の原油回収方法。
【請求項17】
前記地下層が炭酸塩岩を含む層である、請求項
13乃至請求項
15のうちいずれか1項に記載の原油回収方法。
【請求項18】
請求項1乃至請求項
17のうちいずれか1項に記載の、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として含有する水性ゾルの製造方法であって、
未修飾コロイダルシリカの水性ゾルと加水分解基を有するシラン化合物とを、前記シラン化合物と前記水性ゾル中のシリカ粒子が質量比で0.01~2:1.00となる割合で混合し、これをpH1~6で、0.1時間~20時間処理する工程を含む、製造方法。
【請求項19】
前記未修飾コロイダルシリカの水性ゾルと加水分解基を有するシラン化合物とを混合し処理する工程が、50~100℃で実施される、請求項
18に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内陸又は海底油田の油層内に圧入して原油を回収する原油増進回収(“Enhanced Oil Recovery”、以後、“EOR”と略する)攻法のうち、CO2フォーム(Foam)攻法で使用される水性ゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
油層から原油を回収(採取)する方法には、時系列別にそれぞれ異なる回収法が適用される、一次、二次、三次回収(又はEOR(増進回収))という、3段階の方法が適用されている。
一次回収法には、油層の自然の圧力や重力を利用する自噴採油法と、ポンプ等の人工的な採油技術を用いた人工採油法が挙げられ、これらを組み合わせて実施される一次回収の原油回収率は最大で20%程度と言われている。二次回収法には、一次回収法で生産が減退した後、水や天然ガスを圧入して油層圧の回復及び産油量の増加を図る水攻法や油層圧維持法が挙げられる。これら一次、二次回収を合わせても、原油回収率は40%程度とされ、原油の大部分は地下油層に残留した状態にある。そのため、より多くの原油を回収するため、また回収が容易な部分からは既に原油が回収されている油層から、さらなる原油を回収するために、三次回収法、すなわち原油を増進回収する方法(EOR攻法)が提案されている。
【0003】
EOR攻法には、熱攻法、ガス攻法、微生物攻法、ケミカル攻法等がある。この中でガス攻法(ガスミシブル攻法ともいう)とは、圧入ガス(流体)と油との間にミシブル状態(超臨界圧下での混合状態)を作り出して、貯留岩の微細孔隙中に残存する原油の採収率向上を図るものである。ガス攻法は、石油生産の際に出てくる炭化水素ガス、二酸化炭素(CO2)、窒素、燃焼排ガス等が圧入の対象となるため、油層から採取されたガスをそのまま再利用でき、また製油所・発電所等から排出される排気ガス中のCO2を回収して使用できる等、原油採取率を上げながら、資源の有効利用につながることに加え、温室効果ガス削減、すなわち地球温暖化対策にも寄与できる技術として注目されている。
またガス攻法は圧入ガスの流動性が高いため、圧入ガスが油層内の大きな隙間に沿って拡散し、細かい隙間に入りにくい傾向があることから、圧入ガスの流動性を低下させるため、ガスと水を交互に圧入する気液交互圧入法(WAG圧入法:Water Alternating Gas)も実用化されている。
【0004】
上述のガス攻法におけるCO2ガス攻法の次世代技術として、易動度の制御により掃攻効率改善を図るCO2フォーム(Foam)攻法が提案されている。この攻法は、CO2フォーム(Foam)を形成させることにより圧入流体を増粘させ、被置換流体である原油の粘性を相対的に低いものとすることにより易動度を改善し、貯留岩の微細孔隙中に残存する原油掃攻効率の向上を図るものである。
例えばCO2フォーム(Foam)攻法に関して、非特許文献1には市販のシラン変性シリカナノ粒子を、非特許文献2にはナノ粒子表面にリガンドがグラフトされたシリカナノ粒子を、それぞれ用いた技術が開示されている。また特許文献1には、油回収を強化する発泡体として表面改質シリカナノ粒子と窒素ガス等の発泡剤とを含む発泡組成物を含む発泡体が開示されている。さらに特許文献2には、シリカナノ粒子と金属ナノ粒子を含む両親媒性ナノ粒子により安定化されたエマルションで、原油の回収を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-526887号公報
【文献】国際公開第2015/116332号
【非特許文献】
【0006】
【文献】A.U. Rongmo(University of Bergen) et al., ”Performance of Silica Nanoparticles in CO2-Foam for EOR and CCUS at Tough Reservoir Conditions”, Society of Petroleum Engineers (2018) SPE-191318-MS, Society of Petroleum Engineers
【文献】Shehab Alzobaidi(University of Texas at Austin) et al., ”Carbon Dioxide-in-Brine Foams at High Temperatures and Extreme Salinities Stabilized with Silica Nanoparticles”, Energy & Fuels 2017 31 10680-10690
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原油回収において、地下又は海底油層内に圧入された流体(フォーム(Foam)等)は、圧入後数ヶ月経過後に回収されることも少なくない。そのため、数十日から数ヶ月にわたって、100℃前後といった高温下で、また100気圧超の高圧下で、しかも海水又は、ナトリウムイオン、カルシウムイオン及び塩素イオン等を高濃度に含有する塩水に晒される、通常にない過酷な環境下にあっても安定であり、原油回収効果を発揮できる流体への要求がある。
上述したように、EORのCO2フォーム(Foam)攻法において、シリカナノ粒子等を用いた種々の技術が開示されているものの、特に高圧・高温下でのCO2フォーム(Foam)の安定性や、シリカナノ粒子を含むゾル等についての報告はこれまでなされていない。
【0008】
本発明は、内陸又は海底油田の油層内に圧入して原油を回収するEOR攻法のうち、CO2フォーム(Foam)攻法で使用される水性ゾルを対象とするものであり、すなわち、長期間の、並びに、高温・高圧、さらには塩水に対するフォーム(Foam)の安定性を高め、原油回収率の向上を図るための水性ゾルの提供を課題とするものである。
また本発明は、前記水性ゾルを用いた原油回収方法並びに該水性ゾルの製造方法も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、1~100nmの平均粒子径を有し、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として、分散媒としてpH1.0以上6.0以下の水性溶媒にこれを分散した水性ゾルが、長期間の高温・高圧、さらには塩水に対するフォーム(Foam)の安定性を高め、それにより、原油回収率の向上につながることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、第1観点として、原油増進回収(EOR)のCO2フォーム(Foam)攻法における二酸化炭素と水と油とを含む混合物中の泡沫乃至エマルションの安定性を高めるための水性ゾルであって、
動的光散乱法による測定において1~100nmの平均粒子径を有し、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として、分散媒としてpH1.0以上6.0以下の水性溶媒に分散した水性ゾルに関する。
第2観点として、前記加水分解基を有するシラン化合物が、エポキシ基又はそれが加水分解された有機基を含むシラン化合物である、第1観点に記載の水性ゾルに関する。
第3観点として、前記エポキシ基が、グリシジル基、シクロヘキシルエポキシ基、又はそれらの組み合わせである、第2観点に記載の水性ゾルに関する。
第4観点として、前記加水分解基を有するシラン化合物が、アミノ基を含むシラン化合物である、第1観点に記載の水性ゾルに関する。
第5観点として、前記加水分解基を有するシラン化合物が、更に加水分解基を有する第二のシラン化合物を含む、第1観点乃至第4観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第6観点として、前記加水分解基を有する第二のシラン化合物が、炭素原子数1~40のアルキル基、炭素原子数6~40の芳香環基、又はそれらの組み合わせを含む有機基を含むシラン化合物である、第5観点に記載の水性ゾルに関する。
第7観点として、前記表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子において、前記シラン化合物とシリカ粒子が質量比で、0.01~2.00:1.00の割合で含まれる、第1観点乃至第6観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第8観点として、pH6以下で等電点を有していない、第1観点乃至第7観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第9観点として、塩化ナトリウムと塩化カルシウムと塩化マグネシウムを主成分として含み、合計の塩分濃度が1万~23万ppmである環境下で、前記水性ゾルをシリカ濃度1.0質量%となる濃度にて80℃30日間保管した試験の後において、該水性ゾルの動的光散乱法による測定における平均粒子径の値と該試験前の平均粒子径との差が200nm以下である、第1観点乃至第8観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第10観点として、前記水性ゾルは、加水分解基を有するシラン化合物によるシリカ粒子の水性媒体中での被覆時のpHが1.0以上6.0以下であり、pH1.0以上6.0以下で保管した該水性ゾルを、塩化ナトリウムと塩化カルシウムと塩化マグネシウムを主成分として含み、合計の塩分濃度が1万~23万ppmである環境下で、前記水性ゾルをシリカ濃度1.0質量%となる濃度にて、該環境下でpHが5.0~8.0にて80℃で30日間保管した試験の後において、該水性ゾルの動的光散乱法による測定における平均粒子径の値と該試験前の平均粒子径の値との差が200nm以下である、第1観点乃至第9観点のいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第11観点として、前記泡沫乃至エマルションが、温度30~120℃、圧力70~400気圧で安定である、第1観点乃至第10観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾルに関する。
第12観点として、地下の炭化水素含有層から原油を回収する方法であって、
(a)工程:第1観点乃至第11観点のうちいずれか一つに記載の水性ゾル、水、及び二酸化炭素を、それぞれ又は同時に地下層に圧入する工程、
(b)工程:地下層に掘削された生産井から原油を地上に回収する工程
を含む原油回収方法に関する。
第13観点として、前記(a)工程が、前記水性ゾル及び水と、二酸化炭素とを、交互に地下層に圧入する工程である、第12観点に記載の原油回収方法に関する。
第14観点として、前記(a)工程の圧入は、温度30~120℃、圧力70~400気圧で為される、第12観点又は至第13観点に記載の原油回収方法に関する。
第15観点として、前記地下層が砂岩を含む層である、第12観点乃至第14観点のうちいずれか一つに記載の原油回収方法に関する。
第16観点として、前記地下層が炭酸塩岩を含む層である、第12観点乃至第14観点のうちいずれか一つに記載の原油回収方法に関する。
第17観点として、第1観点乃至第11観点のうちいずれか一つに記載の、加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子を分散質として含有する水性ゾルの製造方法であって、未修飾コロイダルシリカの水性ゾルと加水分解基を有するシラン化合物とを、前記シラン化合物と前記水性ゾル中のシリカ粒子が質量比で0.01~2:1.00となる割合で混合し、これをpH1~6で、0.1時間~20時間処理する工程を含む、製造方法に関する。
第18観点として、前記未修飾コロイダルシリカの水性ゾルと加水分解基を有するシラン化合物とを混合し処理する工程が、50~100℃で実施される、第17観点に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性ゾルは、高温(30~120℃)、高圧(70~400気圧)、塩分濃度(1万~23万ppm)で、微細なCO2フォーム(Foam)を長期間安定に形成・維持できる。
そして長期安定性や耐塩性に優れるCO2フォーム(Foam)の形成により、地下層に圧入する流体(CO2フォーム(Foam))の粘性が上昇することで、これまで浸透し難かった孔隙を含め、流体が貯留岩の孔隙に浸透し、これにより、岩石中の原油の掃攻効率が向上し、高回収率で原油を回収できることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1及び実施例2にて調製した水性ゾル(シラン化合物で表面処理された水性シリカゾル)について、pH2からpH10までの各pHにおけるゼータ電位の測定結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1並びに比較例1の水性ゾルを用いた塩水安定性試験(80℃、低塩濃度:3.5万ppm保管)において、動的光散乱法による測定における平均粒子径(DLS平均粒子径:nm)の変化を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1並びに比較例1の水性ゾルを用いた塩水安定性試験(80℃、中塩濃度:17.5万ppm保管)において、動的光散乱法による測定における平均粒子径(DLS平均粒子径:nm)の変化を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1並びに比較例1の水性ゾルを用いた塩水安定性試験(80℃、高塩濃度:22.9万ppm保管)において、動的光散乱法による測定における平均粒子径(DLS平均粒子径:nm)の変化を示す図である。
【
図5】
図5は、起泡性試験に用いた装置の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例1及び実施例2、並びに比較例1の水性ゾルを用いた起泡性試験の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例3及び実施例4、並びに比較例1の水性ゾルを用いた起泡性試験の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1の水性ゾル、及び実施例2の水性ゾルを用いた起泡性試験において、撹拌停止30分後、1日後、3日後、及び7日後の泡沫乃至エマルションの長期安定性試験の結果を示す写真である。
【
図9】
図9は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し、圧力100気圧で形成したW/O型エマルションの光学顕微鏡写真である。
【
図10】
図10は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し圧力100気圧で形成したO/W型エマルションの光学顕微鏡写真である。
【
図11】
図11は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し圧力300気圧で形成した泡沫の光学顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し圧力100気圧で形成したW/O型エマルションの模式図である。
【
図13】
図13は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し圧力100気圧で形成したO/W型エマルションの模式図である。
【
図14】
図14は、実施例1の水性ゾルを用いてシリカ濃度が1.0質量%となる塩水サンプル(塩濃度22.9万ppm)に水溶性色素を添加し、圧力300気圧で形成した泡沫の模式図である。
【
図15】
図15は、原油回収評価に用いた(a)砂岩(Berea Sandstone(BSS))及び(b)炭酸塩岩(Indiana 200md(IN 200md))の外観写真と、表面の形状の観察結果(走査電子顕微鏡写真(倍率500倍))を示す図である。
【
図16】
図16は、炭酸塩岩サンプルにおける空気浸透率と孔隙率の関係を示す図である。
【
図17】
図17は、原油回収評価に用いたコア流動試験装置の配管を示す図である。
【
図18】
図18は、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(シリカ濃度1.0質量%となるように実施例1又は実施例2の水性ゾルを添加した塩水、二酸化炭素)の圧入割合(横軸)に対する、コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量の割合(%)(縦軸)を示す図である。
【
図19】
図19は、炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(シリカ濃度1.0質量%となるように水性ゾルを添加した塩水、二酸化炭素)の圧入割合(横軸)に対する、コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量の割合(%)(縦軸)を示す図である。
【
図20】
図20は、実施例1の水性ゾルの水性ゾルを用いて中塩濃度(17.5万ppm)、シリカ濃度1.0質量%に調製したサンプル(pH6.3)(
図20(a))と、比較例1の水性ゾルを用いて中塩濃度(17.5万ppm)、シリカ濃度1.0質量%に調製したサンプル(pH7.2)(
図20(b))を、80℃で7日間保管した後の状態を示した写真である。
【
図21】
図21は、岩石コア閉塞の有無確認試験に用いた装置の構成を示す図である。
【
図22】
図22は、実施例1の水性ゾルを用いた岩石コア閉塞の有無確認試験において、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(シリカ濃度1.0質量%となるように水性ゾルを添加した中塩濃度保管塩水サンプル、二酸化炭素)の圧入割合(横軸)に対する、圧入差圧(左縦軸)及びコアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された塩水量(水性ゾルを含む)(cc)(右縦軸)を示す図である。
【
図23】
図23は実施例1の水性ゾルを用いた岩石コア閉塞の有無確認試験において、回収流体中の泡沫生成の写真である。
【
図24】
図24は実施例2の水性ゾルを用いた岩石コア閉塞の有無確認試験において、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(シリカ濃度1.0質量%となるように水性ゾルを添加した中塩濃度保管塩水サンプル、二酸化炭素)の圧入を継続した際の圧入時間(横軸)に対する流体圧入圧力(縦軸)を示す図である。
【
図25】
図25は、比較例1の水性ゾルを用いた岩石コア閉塞の有無確認試験において、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(シリカ濃度1.0質量%となるように水性ゾルを添加した中塩濃度保管塩水サンプル、二酸化炭素)の圧入割合(横軸)に対する、圧入差圧(左縦軸)及びコアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された塩水量(水性ゾルを含む)(cc)(右縦軸)を示す図である。
【
図26】
図26は、比較例1の水性ゾルを用いた岩石コアの閉塞の有無の確認試験において、圧入を継続した際の圧入時間(横軸)に対する流体圧入圧力(縦軸)を示した図である。
【
図27】
図27は、比較例1の水性ゾルを用いた岩石コアの閉塞の有無の確認試験の実施後、該試験に用いた装置の配管内の状態(ゼラチン状のシリカ成分の形成)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は原油増進回収(EOR)のCO2フォーム(Foam)攻法における液中の泡沫乃至エマルションの安定性を高めるための水性ゾルに関する。本発明の水性ゾルは、水(塩水、海水等も含む)と二酸化炭素との接触により、さらにはこれらと原油との接触により、泡沫乃至エマルションの形成並びにそれらの安定化に寄与することができる。
本発明において“泡沫”とは、気泡が多数集まった状態“フォーム(Foam)”を意味し、各気泡はおよそ数μmから数百μm程度の径を有する。
またエマルションにおいて、液滴は、一般に0.1μm~数百μm程度の径を有する。
【0014】
<水性ゾル>
一般に、水性ゾルは、水性溶媒を分散媒とし、コロイド粒子を分散質とするコロイド分散系をいい、本発明では特に酸性領域のpHを有する水性媒体(水)を分散媒として、特定の官能基で表面処理されたシリカ粒子を分散質とする水性ゾルを対象とする。すなわち本発明は、加水分解基を有するシラン化合物(以下、単に「シラン化合物」とも称する)で表面の少なくとも一部が被覆されたシリカ粒子(以下、「シラン化合物で表面処理されたシリカ粒子」、「表面処理されたシリカ粒子」とも称する)を分散質とし、pH1.0以上6.0以下の水性溶媒を分散媒とする、水性ゾルを対象とする。
本発明において、「加水分解基を有するシラン化合物で表面の少なくとも一部が被覆された」とは、加水分解基を有するシラン化合物がシリカ粒子表面の少なくとも一部に結合した態様を指し、すなわち該シラン化合物がシリカ粒子の表面全体を覆う態様、該シラン化合物がシリカ粒子の表面の一部を覆う態様、該シラン化合物がシリカ粒子の表面に結合してなる態様を包含するものである。
【0015】
本発明の水性ゾルにおけるシリカ粒子(表面処理されたシリカ粒子)は、動的光散乱法による測定により、平均粒子径(DLS平均粒子径)とともにその分散状態を評価することができる。
DLS平均粒子径は、2次粒子径(分散粒子径)の平均値を表しており、完全に分散している状態のDLS平均粒子径は、平均一次粒子径(窒素ガス吸着法(BET法)又はシアーズ法により測定して得られる比表面積径であり、1次粒子径の平均値を表す)の2倍程度であると言われている。すなわち、DLS平均粒子径を測定することにより、水性ゾル中のコロイド粒子(本発明では表面処理されたシリカ粒子)が分散状態にあるか、又は凝集状態にあるかを判断することができ、DLS平均粒子径が大きくなるほど水性ゾル中のコロイド粒子が凝集状態になっていると判断できる。
本発明において、水性ゾルにおける表面処理されたシリカ粒子の平均粒子径(DLS粒子径)は1~100nmであり、又は1~50nm、又は3~30nm、又は5~15nmとすることができる。DLS平均粒子径が1nmより大きい粒子とすることで、水性ゾル中で粒子が凝集せずより安定となり、また平均粒子径が100nmより小さい粒子とすることにより、地下油田層内に存在する砂岩や炭酸塩岩の孔隙への浸透が容易となり、原油回収率を良好なものとすることができる。
【0016】
また前記水性ゾル中の前記表面処理されたシリカ粒子において、シラン化合物とシリカ粒子の割合は、質量比で、例えば0.01~2.00:1.00の割合、又は0.30~2.00:1.00の割合、又は0.33~2.00:1.00の割合、又は0.33~1.00:1.00の割合である。
水性ゾル中のシリカ粒子1.00部に対する、シラン化合物の質量比を0.01部以上、好ましくは0.30部以上とすることにより、水性ゾルの耐塩性を良好なものとすることが期待できる。ただし同質量比を2.00部より多くしても、それ以上の効果の向上は見込めない。
【0017】
前記水性ゾルにおいて、前記表面処理されたシリカ粒子の濃度(固形分濃度)は、例えば1~40質量%とすることができる。
【0018】
本発明の水性ゾルは、pH6以下、例えばpH1~6の範囲で等電点を有していないことが好ましい。これにより凝集せず安定な水性ゾルであることが期待できる。
【0019】
さて一般に、海水の塩分濃度は約3万ppm~4万ppm、日本の油田やガス田の塩分濃度は約1万ppm~5万ppm、また海外の地層水の塩分濃度(例えばアブダビ炭酸塩岩油田)は約16万ppm等とされている。本発明の水性ゾルは、内陸又は海底油田の油層内に圧入することを鑑みると、およそ1万ppm(1.0質量%に相当)から20万ppmを超える塩分濃度を含有する環境下で耐塩性が高いこと、すなわち、前記環境下で、水性ゾル中のシリカ粒子が凝集せず、ゲル化することなく、分散状態を保つことが望まれる。
本発明においては、例えば、塩化ナトリウムと塩化カルシウムと塩化マグネシウムを主成分として含み、合計の塩分濃度が1万~23万ppmである環境下で、前記水性ゾルをシリカ濃度1.0質量%となる濃度にて、pH5.0~8.0にて80℃で30日間保管してなる耐塩性試験によって、水性ゾルの耐塩性(塩水安定性)を評価することができる。本試験前後において、水性ゾルの動的光散乱法による測定における平均粒子径の変化が小さい場合には、水性ゾル中のシリカ粒子は分散状態を維持していると評価できる。しかし水性ゾルの耐塩性が悪い場合には、耐塩性試験後のDLS平均粒子径は非常に大きくなり、これはゾル中のシリカ粒子の凝集状態を反映したものとなる。
本発明にあっては、上述の耐塩性試験後の動的光散乱法による測定における平均粒子径の値が、試験前の平均粒子径の値に比べて200nm以下の差であれば、耐塩性が良好な水性ゾルであると判断でき、特に試験前後のDLS平均粒子径の差が200nm以下、例えば160nm以下であるものはシリカゾルの変質(凝集・ゲル化)がなく、耐塩性が非常に良好な水性ゾルであると判断できる。
【0020】
本発明の水性ゾル中のシリカ粒子は、温度30~120℃、圧力70~400気圧下で、水と油と二酸化炭素を含む状態で泡沫乃至エマルションの形態を安定に保つことができる。ここで“安定”とは泡沫乃至エマルションの崩壊や分離が生じないことを指し、本発明者らは、静定条件で数時間、泡沫乃至エマルションが形成されているものは数日間安定な泡沫乃至エマルションの状態を保つことを確認した。
なお二酸化炭素は31.1℃、72.8気圧以上の条件では超臨界状態となる。本発明において、岩石孔隙中の油を、シリカ粒子を含む水と油と二酸化炭素が泡沫乃至エマルションの形態として掃攻することとなるが、その時の二酸化炭素は、均一状態の超臨界二酸化炭素であっても、気相、液相の状態の二酸化炭素であってもよい。
【0021】
前記水性ゾルは、加水分解基を有するシラン化合物と(未修飾の)水性シリカゾルとを混合し、後述する加熱処理することで得られる。以下、水性ゾルを構成する水性シリカゾルと、加水分解基を有するシラン化合物について詳述する。
【0022】
〈水性シリカゾル〉
本発明の水性ゾルを構成する水性シリカゾル(未修飾のシリカゾル)は、コロイダルシリカを分散質とする水性シリカゾルであり、水ガラス(ケイ酸ナトリウム水溶液)を原料として公知の方法により製造することができる。
水性シリカゾルの平均粒子径は、分散質であるコロイダルシリカ粒子の平均粒子径を示し、特に断りのない限り、窒素ガス吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径又はシアーズ法粒子径をいう。
窒素ガス吸着法(BET法)により測定して得られる比表面積径(平均粒子径(比表面積径)D(nm))は、窒素ガス吸着法で測定される比表面積S(m2/g)から、D(nm)=2720/Sの式によって与えられる。
シアーズ法粒子径は、文献:G.W.Sears,Anal.Chem.28(12)1981頁,1956年 コロイダルシリカ粒子径の迅速な測定法、に基づいて測定した平均粒子径をいう。詳細には、1.5gのSiO2に相当するコロイダルシリカをpH4からpH9まで滴定するのに必要とした0.1N-NaOHの量からコロイダルシリカの比表面積を求め、これから算出した相当径(比表面積径)である。
本発明において、水性シリカゾル(コロイダルシリカ粒子)の窒素ガス吸着法(BET法)又はシアーズ法による平均粒子径は、例えば1~100nm、又は1~50nm、又は3~30nm、又は5~15nmとすることができる。
【0023】
前記水性シリカゾルは市販品を使用することができる。また水性シリカゾル中のシリカ濃度が5~50質量%のものが一般に市販されており、これは容易に入手できる点で好ましい。
また水性シリカゾルには、アルカリ性水性シリカゾルと酸性水性シリカゾルがあるが、pHが1.0以上6.0以下である酸性の水性シリカゾルを用いることで、耐塩性に優れる(凝集しない)水性ゾルを得られるため好ましい。
市販品の酸性水性シリカゾルとしては、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、同ST-OS、同ST-O(以上、日産化学(株)製)等が挙げられる。
水性ゾルに使用する水性シリカゾルにおけるシリカ(SiO2)濃度としては、例えば1~40質量%とすることができる。
【0024】
〈シラン化合物〉
前記水性シリカゾルの表面処理に用いるシラン化合物は、加水分解基を有するシラン化合物である。加水分解基としては、例えばアルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基等を挙げることができる。
中でも加水分解基としてはメトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基が好ましく、例えば加水分解基としてメトキシ基を有するシラン化合物を用いることが好ましい。
【0025】
前記加水分解基を有するシラン化合物は、加水分解基に加えて、エポキシ基又はそれが加水分解された有機基を含むシラン化合物を用いることができる。前記エポキシ基として、グリシジル基、シクロヘキシルエポキシ基、又はそれらの組み合わせを挙げることができる。なお後述するように、前記加水分解基を有するシラン化合物は、加水分解基に加えて、エポキシ基の代わりに、オキセタン環を有するシラン化合物を用いることができる。
前記エポキシ基を有する(且つ加水分解基を有する)シラン化合物としては、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、1-(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらは1種を用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
また上述したように、エポキシ基を有するシラン化合物の代わりに、オキセタン環を有するシラン化合物を用いることができる。例えば、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリメトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
また、前記加水分解基を有するシラン化合物は、加水分解基に加えて、アミノ基を含むシラン化合物を用いることができる。
前記アミノ基を有する(且つ加水分解基を有する)シラン化合物としては、例えばN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリクロロシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらは1種を用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
また本発明において、前記水性シリカゾルの表面処理に用いるシラン化合物は、前記加水分解基を有するシラン化合物(エポキシ基又はそれが加水分解された有機基を含むシラン化合物、又は、アミノ基を含むシラン化合物)に加えて、更に加水分解基を有する第二のシラン化合物を含むことができる。
加水分解基を有する第二のシラン化合物としては、炭素原子数1~40のアルキル基、炭素原子数6~40の芳香環基、又はそれらの組み合わせを含む有機基を有するシラン化合物を用いることができる。
前記の加水分解基を有し、且つ、炭素原子数1~40のアルキル基を有するシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン等が挙げられ、これらは1種を用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
前記の加水分解基を有し、且つ、炭素原子数6~40の芳香環基を有するシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等を挙げることができる。
前記加水分解基を有する第二のシラン化合物を併用することにより、CO2フォーム(Foam)攻法における液中の泡沫乃至エマルションの安定化効果をより高めることが期待できる。
また加水分解基を有する第二のシラン化合物は、中でも、アミノ基を含有する加水分解基を有するシラン化合物と併用することが好ましい。
本発明において、加水分解基を有し且つエポキシ基若しくはそれが加水分解された有機基を含むシラン化合物又はアミノ基を含むシラン化合物(第一のシラン化合物)を必須として用い、所望により加水分解基を有し且つ炭素原子数1~40のアルキル基、炭素原子数6~40の芳香環基、又はそれらの組み合わせを含む有機基を有するシラン化合物(第二のシラン化合物)とを用いてシリカ粒子の表面を処理(修飾)するが、全シラン化合物中で第一のシラン化合物と第二のシラン化合物の割合はモル比で、1.00:0~3.00、又は1.00:0~1.00の範囲で用いることができる。
【0028】
前記水性シリカゾルの表面処理に用いるシラン化合物としては、中でも、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランとの組み合わせ、3-アミノプロピルトリエトキシシランとフェニルトリメトキシシランとの組み合わせを挙げることができる。
【0029】
なお前記シラン化合物は市販品を使用でき、例えば信越化学工業(株)製の商品名KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、KBE-403(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、KBM-303(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、KBE-903(3-アミノプロピルトリエトキシシラン)、KBM-103(フェニルトリメトキシシラン)等を挙げることができる。
【0030】
本発明では、水性シリカゾルのシリカ粒子の表面を、加水分解基を有するシランで処理(被覆)することにより、その表面に有機官能基を有するシランを結合させたシラン粒子を用いるが、原料の水性シリカゾルのpHと前記加水分解基の組み合わせが耐塩性にとって重要となる。原料に酸性水性シリカゾルを用いる場合は、前記シランの加水分解基はメトキシ基でもエトキシ基でも良好に用いることができる。
原料の水性シリカゾルがアルカリ性の場合には、前記シランの加水分解基はメトキシ基では製造時にゲル化が進行しやすく、エトキシ基では耐塩水性が低い。また、アルカリ性水性シリカゾルを用い、加水分解基としてエトキシ基を有するシランで被覆した場合はその後にpHを酸性にしても耐塩水性が低い。
【0031】
〈表面処理方法(水性ゾルの製造方法)〉
前記シラン化合物で表面処理されたシリカ粒子は、前記水性シリカゾル、好ましくはpHが1.0以上6.0以下の酸性の水性シリカゾルに、前記加水分解基を有するシラン化合物を添加した後、例えば50~100℃で1時間~20時間加熱処理することで、得ることができる。このとき、前記水性シリカゾル中のシリカ粒子(シリカ固形分)に対して、前記加水分解基を有するシラン化合物を、質量比で、例えばシラン化合物:シリカ粒子=0.01~2.00:1.00の割合にて、又は0.30~2.00:1.00の割合、又は0.33~2.00:1.00の割合、又は0.33~1.00:1.00の割合にて添加すればよい。
前記加熱処理温度が50℃未満では、加水分解基の部分加水分解の速度が遅くなり表面処理の効率が悪くなり、一方で100℃より高いと、シリカの乾燥ゲルが生ずるため、好ましくない。
また前記加熱処理時間が1時間未満では、加水分解基を有するシラン化合物の加水分解反応が不十分であり、20時間より長くしても前記シラン化合物の加水分解反応がほとんど飽和状態のため、これ以上加熱時間を長くしなくてもよい。シリカ粒子を被覆するシラン化合物は、加水分解基が完全に加水分解されシロキサン結合でシリカ粒子を被覆する場合や、一部の加水分解基が未反応で残り他の加水分解基が加水分解されシロキサン結合でシリカ粒子を被覆する場合も含む。
前記加水分解基を有するシラン化合物による表面処理(被覆)量、即ちシリカ粒子表面に結合したシラン化合物が、シリカ粒子表面の1nm2あたり、例えば0.01~5個、又は1~5個となることが好適である。
こうして得られたシラン化合物で表面処理されたシリカ粒子を分散質とする水性ゾルは、pH1.0以上pH6.0以下の水性溶媒に分散した水性ゾルとなり、すなわちpH1.0以上pH6.0以下のpHにて保管された水性ゾルである。
【0032】
なお、アルカリ性(pH8以上)の水性シリカゾルを用い、これに加水分解基を有するシラン化合物を加え、上述したものと同様の手順にて表面処理されたシリカ粒子を得ることもできる。しかし、原料としてアルカリ性の水性シリカゾルを用いて得られた、表面処理されたシリカ粒子を水性媒体に分散した水性ゾルは、上述の耐塩性試験後において、動的光散乱法により測定する平均粒子径が大きく増大し、すなわちシリカ粒子が凝集し、安定性が低下しやすいために注意を要する。またアルカリ性下で表面処理されたシリカ粒子を得た場合、これを分散した水性ゾルは水と二酸化炭素と原油代替物(炭化水素(デカン))との混合系において起泡性が低いことが確認されており、二酸化炭素フォーム(Foam)による原油回収では効果を発揮しにくいとみられる。
そして、アルカリ性下でシリカ粒子を表面処理した水性シリカゾル(水性ゾル)を、例えば塩酸を用いて酸性(例えばpH1.0~6.0)にした酸性水性シリカゾル(水性ゾル)は、上述の耐塩性試験後において、動的光散乱法により測定する平均粒子径が増大し、シリカ粒子が凝集し、安定性が低下する。この酸性水性シリカゾルを用いても、水と二酸化炭素と原油代替物(デカン)との混合物系において起泡性が低い。また、流体の流れに寄与する岩石孔隙は数μm以上とされていて、凝集・ゲル化した水性シリカゾルは、岩石コアの掃攻試験において数μmの岩石孔隙を十分に通過することが難しいと考えられる。従って、上述のアルカリ性下にてシラン化合物で表面処理したアルカリ性水性シリカゾル(水性ゾル)や、そのアルカリ性水性シリカゾルを酸性に変えた酸性水性シリカゾル(水性ゾル)は、本発明の原油回収には不向きである。
【0033】
<原油回収方法>
本発明の水性ゾルを用いて、地下の炭化水素含有層から原油を回収する際の手順としては、一例として(a)工程:本発明の水性ゾル、水、及び二酸化炭素を、それぞれ又は同時に地下層に圧入する工程と、(b)工程:地下層に掘削された生産井から原油を地上に回収する工程を含みて、実施することができる。
【0034】
前記(a)工程で圧入する水は、塩素イオンとナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等を含有する塩水であってもよく、また海水(例えば海底油田の油層における使用が想定される場合に海水を使用)であってもよい。これら塩水・海水の塩濃度は特に限定されないが、上述したように概ね1万~23万ppm程度とされる。
【0035】
圧入する際、水性ゾル中の表面処理されたシリカ粒子と、水(又は塩水、海水)の割合は、例えば質量比で1:3~1000程度であり、水(又は塩水、海水)と二酸化炭素の割合は体積比で例えば1:0.01~100程度とすることができる。
圧入圧力は、圧入井から流体の重力による自然圧入圧力以上であり、対象貯留層の初期圧力又は帽岩(キャップロック)の地層破壊圧力のどちらか高い方の圧力以下で行われる事が好ましい。
また圧入工程は、例えば温度30~120℃、圧力70~400気圧で実施され得る。
【0036】
前記(a)工程は、例えば水性ゾル及び水と、二酸化炭素とを、交互に地下層に圧入する工程とすることができる。二酸化炭素は、超臨界二酸化炭素或いは液体二酸化炭素として圧入することができる。
【0037】
また前記(a)工程において、水性ゾルや水には、原油回収に使用する任意成分を添加してもよい。こうした任意成分には、界面活性剤、増粘剤、脱酸素剤、腐食防止剤、防藻剤、殺菌剤、スケール防止剤等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0038】
また原油回収方法の対象となる地下層は特に限定されないが、例えば砂岩を含む層、又は炭酸塩岩を含む層を対象とすることができる。
本発明で、水性ゾルと水と二酸化炭素を地層岩石に圧入する場合、水性ゾル中のシリカ粒子と地層岩石のゼータ電位をマイナス同士、あるいはプラス同士の組み合わせとすることにより、岩石孔隙中でのシリカ粒子の凝集を防ぐことができ、安定なCO2フォーム(Foam)の形成と維持、及びそれに基づく原油回収効率の向上のために好適である。
本発明では地層に圧入された液体二酸化炭素は地下でCO2フォーム(Foam)を形成することにより、水性ゾルと水と二酸化炭素を含む混合物は、その粘度が上昇し、粘度が上昇した流体は岩石孔隙中の油を掃攻するものと考えられる。これらの混合物による流体の粘度は、例えば1cP~100cP、又は1cP~50cPの範囲が好ましい。
【0039】
そして(a)工程に引き続き、(b)工程:地下層に掘削された生産井から原油を地上に回収する工程が実施される。
【実施例】
【0040】
(実施例及び比較例における分析には、以下の装置を用いた。)
・pH:pHメーター(東亜ディーケーケー(株)製)によって測定した。
・粘度:オストワルド粘度計(アズワン(株)製)によって測定した。
・窒素ガス吸着法(BET法)による測定における平均一次粒子径:水性シリカゾルを乾燥して得られたシリカ固形物を粉砕後、これをさらに乾燥して得られたシリカ粉末について、比表面積値測定装置 Monosorb(カンタクローム・インスツルメンツ社製)を用いて得られた比表面積の値を基に算出した。
・動的光散乱法による測定における平均粒子径(DLS平均粒子径):水性ゾルを希釈後に、動的光散乱法粒子径測定装置 ゼータサイザー ナノ(スペクトリス(株)マルバーン・パナリティカル事業部製)によって測定した。
・ゼータ電位:ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)により、水性ゾルを希釈後に0.4M-硫酸を添加してpH2に調整し、その後0.25M-NaOH水溶液を添加してpHを上昇させながら、各pHにおけるゼータ電位を測定した。
・岩石コアサンプルの組成:岩石コアサンプルを粉砕し、波長分散小型蛍光X線分析装置 Supermini200((株)リガク製)を用いて、岩石コアサンプルの組成情報(金属酸化物換算)を得た。
・岩石コアサンプルの形状観察:走査電子顕微鏡 JSM-6010LV(日本電子(株)製)により、岩石コアサンプル表面の形状を観察した。
【0041】
(評価に用いた塩水の塩類組成)
評価に用いた国内油田地層水(塩分濃度:1.4万ppm)、低塩濃度塩水(同:3.5万ppm)、中塩濃度塩水(同:17.5万ppm)、高塩濃度塩水(同:22.9万ppm)の塩類組成を表1に示す。
【0042】
【0043】
実施例1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
500mLのガラス製ナスフラスコに、水性シリカゾル(日産化学(株)製、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、シリカ濃度10.5質量%、平均一次粒子径5nm、pH3.0)300gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら、水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.43部となるように、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)(商品名KBM-403 信越化学工業(株)製)を13.5g投入した。続いて、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを80℃に昇温し、還流しながら80℃で8時間保持した。室温まで冷却後に水性シリカゾルを取り出し、シラン化合物(GPS)で表面処理された水性シリカゾル(以下、実施例1の水性ゾル、シリカ粒子1.00部に対するシラン化合物の質量比=0.43部、シリカ濃度11.0質量%、pH3.1、粘度1.8cP、比重1.06、DLS平均粒子径8.0nm)313.5gを得た。
【0044】
実施例2:3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
500mLのガラス製ナスフラスコに、水性シリカゾル(日産化学(株)製、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、シリカ濃度10.5質量%、平均一次粒子径5nm、pH3.0)300gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら、85%DL-乳酸(Sigma-Aldrich社製)を6.9g投入した。次に、水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.30部となるように、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)(商品名KBE-903 信越化学工業(株)製)を9.5g投入し、容器を密閉して60℃のオーブン中で12時間保持した。続いて、マグネチックスターラーで撹拌しながら、水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.05部となるように、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)(商品名KBM-103 信越化学工業(株)製)を1.7g投入した、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを60℃に昇温し、還流しながら60℃で3時間保持した。室温まで冷却後に水性シリカゾルを取り出し、シラン化合物(APTES+PTMS)で表面処理された水性シリカゾル(以下、実施例2の水性ゾル、シリカ粒子1.00部に対する全シラン化合物の質量比=0.35部、シリカ濃度10.8質量%、pH4.0、粘度1.8cP、比重1.06、DLS平均粒子径13.0nm)318.1gを得た。
【0045】
実施例3:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(EPCHS)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
500mLのガラス製ナスフラスコに水性シリカゾル(日産化学(株)製、スノーテックス(登録商標)ST-OXS、シリカ濃度10.5質量%、平均一次粒子径5nm、pH3.0)300gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.43部となるように、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)(商品名KBM-403 信越化学工業(株)製)を13.5g投入した。続いて、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを80℃に昇温し、還流しながら80℃で8時間保持した。室温まで冷却後、マグネチックスターラーで撹拌しながら水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.22部となるように、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(EPCHS)(商品名KBM-303 信越化学工業(株)製)を7.0g投入した。続いて、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを60℃に昇温し、還流しながら60℃で3時間保持した。室温まで冷却後に水性シリカゾルを取り出し、シラン化合物(GPS+EPCHS)で表面処理された水性シリカゾル(以下、実施例3の水性ゾル、シリカ粒子1.00部に対する全シラン化合物の質量比=0.65部、シリカ濃度11.4質量%、pH3.1、粘度2.2cP、比重1.06、DLS平均粒子径8.9nm)320.5gを得た。
【0046】
実施例4:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(EPCHS)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
500mLのガラス製ナスフラスコに水性シリカゾル(日産化学(株)製、スノーテックス(登録商標)ST-OS、シリカ濃度20.5質量%、平均一次粒子径9nm、pH3.0)300gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.24部となるように、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)(商品名KBM-403 信越化学工業(株)製)を14.6g投入した。続いて、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを80℃に昇温し、還流しながら80℃で8時間保持した。室温まで冷却後、マグネチックスターラーで撹拌しながら水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.25部となるように、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(EPCHS)(商品名KBM-303 信越化学工業(株)製)を15.2g投入した。続いて、水道水を流した冷却管をナスフラスコの上部に設置して、水性シリカゾルを60℃に昇温し、還流しながら60℃で3時間保持した。室温まで冷却後に水性シリカゾルを取り出し、シラン化合物(GPS+EPCHS)で表面処理された水性シリカゾル(以下、実施例4の水性ゾル、シリカ粒子1.00部に対する全シラン化合物の質量比=0.49部、シリカ濃度20.8質量%、pH2.9、粘度3.3cP、比重1.13、DLS平均粒子径18.2nm)329.8gを得た。
【0047】
比較例1:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
市販のナトリウム水ガラス(JIS3号ナトリウム水ガラス:SiO2濃度28.8質量%、Na2O濃度9.5質量%)に水を添加して、シリカ濃度3.8質量%の珪酸ナトリウム水溶液を得た。この珪酸ナトリウム水溶液を水素型強酸性陽イオン交換樹脂(ダウ・ケミカル社製、アンバーライトIR-120B)を充填したカラムに通すことにより、活性珪酸のコロイド水溶液(シリカ濃度3.6質量%、pH3.2)を得た。
内容積3Lのガラス製反応容器に撹拌機、加熱装置等が具備された反応装置に、10%水酸化ナトリウム水溶液11.9gと純水291.7gを仕込み、加熱によって55℃とした後、55℃に保ちながら前記活性珪酸のコロイド水溶液732.0gを2時間かけて連続的に供給した。その後、80℃まで温度を上昇させながら前記活性珪酸のコロイド水溶液1464.4gを4時間かけて連続的に供給した後、80℃で6時間保持し、2500.0gのアルカリ性シリカゾル薄液(シリカ濃度3.1質量%、pH9.7、平均一次粒子径7nm)を得た。次いで、このアルカリ性シリカゾル薄液を、限外濾過装置を用いて濃縮し、アルカリ性の水性シリカゾル(シリカ濃度28質量%、平均一次粒子径7nm、pH9.0、粘度5cP、比重1.2、DLS平均粒子径9.4nm)を得た。
500mLのガラス製ナスフラスコに、このアルカリ性の水性シリカゾル250gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら、HCl水溶液を添加してpH8に調整し、水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.27部となるように、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)(商品名KBE-403 信越化学工業(株)製)を18.9g投入した後、23℃で2時間保持した。この水性シリカゾルを取り出し、シラン化合物(GPTES)で表面処理された水性シリカゾル(以下、比較例1の水性ゾル、シリカ粒子1.00部に対するシラン化合物の質量比=0.27部、シリカ固形分=28質量%、平均一次粒子径7nm、pH8、粘度5cP、比重1.2、DLS平均粒子径19.0nm)269.0gを得た。
【0048】
比較例2:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカ粒子を含む水性ゾルの製造
500mlのガラス製ナスフラスコに、水性シリカゾル(日産化学(株)製、スノーテックス(登録商標)ST-XS、シリカ濃度20.5質量%、平均一次粒子径5nm、pH9.5)300gと撹拌子を投入した後、マグネチックスターラーで撹拌しながら、水性シリカゾル中のシリカ粒子1.00部に対してシラン化合物の質量比が0.43部となるように、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)(商品名KBM-403 信越化学工業(株)製)を26.3g投入した後、23℃で2時間保持した。シラン化合物(GPS)で表面処理された水性シリカゾルは製造工程中で凝集・白濁し、均一な水性シリカゾルを得ることはできなかった。
【0049】
[ゼータ電位測定結果]
実施例1及び実施例2にて調製した水性ゾル(シラン化合物で表面処理された水性シリカゾル)について、pH2からpH10までの各pHにおけるゼータ電位の測定結果を
図1に示す。
図1に示すように、ゼータ電位は実施例1の水性ゾルはpH6以下でマイナス、実施例2の水性ゾルはpH6以下でプラスであり、いずれの水性ゾルもpH6以下で等電点を有していないゾルであった。
【0050】
[塩水安定性試験]
実施例1並びに比較例1の水性ゾルを用い、塩水に対する安定性試験を実施した。
実施例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.43:1(質量比)、pH3.1、DLS平均粒子径8.0nm)の水性ゾル、又は比較例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.27:1(質量比)、pH8、DLS平均粒子径19.0nm)の水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように塩水に添加した。このとき、低塩濃度(塩濃度3.5万ppm)、中塩濃度(塩濃度17.5万ppm)又は高塩濃度(塩濃度22.9万ppm)となるように、塩水安定性試験のサンプルを調製した。
また実施例1のサンプルはNaOH水溶液、比較例1のサンプルはHCl水溶液を添加し、任意のpHに調整した水性ゾルを作製し、塩水安定性試験に使用した。
【0051】
調製した各サンプルを温度80℃で保管し、動的光散乱法による測定における平均粒子径(DLS平均粒子径:nm)の変化を測定した。
得られた結果を
図2及び表2(低塩濃度:3.5万ppm)、
図3及び表3(中塩濃度:17.5万ppm)並びに
図4及び表4(高塩濃度:22.9万ppm)にそれぞれ示す。
なお表2中の「水性ゾル」欄の「実施例1、pH3」のサンプルは、実施例1で得られた水性ゾルをpH3に調整し保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH6.4)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
表2中の「水性ゾル」欄の「実施例1、pH5」のサンプルは、実施例1で得られた水性ゾルをpH5に調整し保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH6.5)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
表2中の「水性ゾル」欄の「実施例1、pH6」のサンプルは、実施例1で得られた水性ゾルをpH6に調整し保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH6.7)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
表2中の「水性ゾル」欄の「実施例1、pH9」のサンプルは、実施例1で得られた水性ゾルをpH9に調整し、保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH7.0)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
表2中の「水性ゾル」欄の「比較例1、pH8」のサンプルは、比較例1で得られた水性ゾルをpH8に調整し、保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH6.9)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
また、表2中の「水性ゾル」欄の「比較例1、pH3」のサンプルは、比較例1で得られた水性ゾルをpH3に調整し、保管した後、低塩濃度(3.5万ppm)の塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%になるように希釈した。その塩水希釈後のサンプル(pH6.4)を80℃で保管時のDLS平均粒子径の変化を示したものである。
同様に、表3及び表4に示すサンプルは、実施例1及び比較例1の水性ゾルのpH(「水性ゾル」欄のpH値参照)を各々調整して保管し、中塩濃度乃至高塩濃度の各塩水で該水性ゾルのシリカ濃度を1.0質量%に希釈してpHが5.0~8.0の範囲(塩水安定性試験サンプルのpH欄参照)になったものである。その塩水希釈後のサンプルを、80℃で30日間保管時のDLS平均粒子径の変化を測定したものである。
図2及び表2(低塩濃度)、
図3及び表3(中塩濃度)及び
図4及び表4(高塩濃度)に示すように、比較例1の水性ゾルと比べて、実施例1のpH3~6の水性ゾルは、80℃で30日間保管後においてもDLS平均粒子径の変化が小さい結果となった。ただし、低塩濃度及び中塩濃度の場合にはpH9、高塩濃度の場合にはpH7以上の水性ゾルを使用すると、実施例1の水性ゾルにおいても平均粒子径の変化が大きく、30日保管後において、保管前のDLS平均粒子径の変化が200nm超となる結果となった。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
[起泡性試験]
実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4、並びに比較例1の水性ゾルを用いて、以下の手順にて
図5に示す装置で起泡性試験を実施した。
表面処理された水性シリカゾル(実施例1~4、比較例1の水性ゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%)を観察窓付きの目視観察用耐圧セル(多摩精器工業(株)製、容積150mL)に入れた後、耐圧セルを加熱して温度100℃とし、二酸化炭素(日本液炭(株)製、純度99.99%以上)を、内部圧力が100気圧、200気圧、又は300気圧になるまで圧入した。撹拌子の回転速度1000~1500rpmで15分間撹拌した後、撹拌を停止して静置し、観察窓から泡沫乃至エマルションの形成状態を観察して評価した。
【0056】
〈起泡性試験1〉
実施例1及び実施例2、並びに比較例1の水性ゾルを用い、原油代替品(n-デカン)を用いた起泡性試験を実施した。
実施例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.43:1(質量比))の水性ゾル、実施例2(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)およびフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.35:1(質量比))の水性ゾル、又は比較例1(シリカ粒子を3-グリシドキシトリエトキシシラン(GPTES)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.27:1(質量比))の水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように塩水に添加し、起泡性試験1の塩水サンプル3種類(塩濃度:22.9万ppm(高塩濃度塩水))を調製した。
これを、(a)起泡性試験1の塩水サンプル:二酸化炭素=50:50(体積比)、あるいは、(b)起泡性試験1の塩水サンプル:二酸化炭素:デカン=20:60:20(体積比)となるように混合し、温度100℃、圧力100気圧、200気圧、又は300気圧にて、撹拌子の回転速度1500rpmにて15分間撹拌した。
各混合物サンプルの撹拌停止直後(0分)及び30分間静置後の観察写真を
図6に示す。
【0057】
図6並びに後述する
図7及び
図8に示す観察写真において、各円内(観察窓)にみられる白濁部分(均一な白色部分)は泡沫乃至エマルションの形成を示し、円内の下側にみられる暗色部分は塩水を示す。また、円内おいて白濁部分に空隙や色ムラが見られる場合、泡沫乃至エマルションの形成が不十分であることを示す。泡沫乃至エマルションが形成されることにより、これらが岩石コア中の孔隙に入り込み、原油の回収に機能することができる。
【0058】
図6(a)に示すように、起泡性試験1の塩水サンプル(
図6中、“塩水”と記載)/二酸化炭素=50/50の体積比で混合したサンプルにおいて、実施例1及び実施例2の水性ゾルを用いたサンプルは高い起泡性を示した。
さらに、
図6(b)に示すように、原油代替品(n-デカン)を用いた起泡性試験:起泡性試験1の塩水サンプル/二酸化炭素/デカン=20/60/20の体積比で混合したサンプルにおいて、実施例1及び実施例2の水性ゾルを用いたサンプルは、高い起泡性を示した。
これらの結果は、実施例1及び実施例2の水性ゾルが、コアサンプル中の孔隙中の原油を掃攻する能力が高いことを示唆する結果であった、
一方比較例にあっては、特に原油代替品を用いた試験(
図6(b))に示すように、15分間撹拌の停止直後(0分)および30分間静置後も円内の上部に空隙や色ムラがみられ、泡沫乃至エマルションの形成が不十分であり、原油掃攻能力に劣ることを示唆する結果となった。
【0059】
〈起泡性試験2〉
実施例3及び実施例4、並びに比較例1の水性ゾルを用いた起泡性試験を実施した。
実施例3(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とエポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン(EPCHS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.65:1(質量比))の水性ゾル、実施例4(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とエポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン(EPCHS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.49:1(質量比))の水性ゾル、又は比較例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.27:1(質量比))の水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように塩水に添加し、起泡性試験2の塩水サンプル3種類(塩濃度:1.4万ppm(国内油田地層水))を調製した。
これを、起泡性試験2の塩水サンプル:二酸化炭素=50:50(体積比)となるように混合し、温度100℃、圧力185気圧又は300気圧、撹拌子の回転速度1000rpm、1250rpm、又は1500rpmにて、15分間撹拌した。
各混合物サンプルの撹拌停止直後、並びに、1500rpmで15分撹拌後に30分間静置した後の観察写真を
図7に示す。
図7に示すように、実施例3及び実施例4の水性ゾルを用いたサンプルは高い起泡性を示し、岩石コアの孔隙中の原油を掃攻する能力が高いことを示唆する結果が得られた。
【0060】
〈起泡性試験3:泡沫乃至エマルションの長期安定性試験〉
実施例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.43:1(質量比))の水性ゾルと、実施例2(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)およびフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.35:1(質量比))の水性ゾルとを、それぞれシリカ濃度が1.0質量%となるように塩水に添加し、起泡性試験3の塩水サンプル2種類(塩濃度:22.9万ppm(高塩濃度塩水))を調製した。
これを、起泡性試験3の塩水サンプル:二酸化炭素:デカン=20:60:20(体積比)となるように混合し、温度100℃、圧力200気圧にて、撹拌子の回転速度1500rpmにて15分間撹拌した。
各混合物サンプルの撹拌を停止して30分間静置後、更に1日静置後、3日静置後、7日静置後の観察写真を
図8に示す。
図8に示すように、実施例1及び実施例2の水性ゾルを用いたサンプルは、7日静置後においても高い起泡性を保ち、形成した泡沫乃至エマルションの長期安定性に優れる結果が得られた。
【0061】
〈泡沫乃至エマルションの観察〉
実施例1(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル、シラン化合物:シリカ粒子=0.43:1(質量比))の水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように添加し、泡沫乃至エマルション観察用の塩水サンプル(塩濃度:22.9万ppm(高塩濃度塩水)、pHは5.2であった。)を調製した。
なお、該泡沫乃至エマルション観察用塩水サンプル中には、下記式(1)で示される水溶性色素(メチルオレンジ)を、塩水中で0.3質量%になるように添加した。
【化1】
これを、泡沫乃至エマルション観察用塩水サンプル:二酸化炭素:デカン=50:30:20(体積比)となるように混合し、温度100℃、圧力100気圧~300気圧で、撹拌子の回転速度1500rpmにて15分間撹拌した。
図5に示す起泡性試験に用いた装置図の目視観察用耐圧セルから、顕微鏡観察用耐圧セル内に撹拌後の試料を移して、泡沫乃至エマルションの状態を光学顕微鏡で観察した。
圧力100気圧で形成されたエマルションの光学顕微鏡写真を
図9と
図10に、圧力300気圧で形成された泡沫の光学顕微鏡写真を
図11に示す。
また、エマルション形成の模式図を
図12と
図13に示し、泡沫形成の模式図を
図14に示す。
図9(模式化した
図12参照)は、デカンが連続相を形成し、図中無色の液滴(二酸化炭素)と暗色の液滴(シリカ粒子を含む水)が共存して分散相となり、これらがW/Oエマルションを形成してなる図である。
図12に示すように、暗色の液滴(シリカ粒子を含む水からなる分散相)は液滴表面のシリカ粒子と、内部の水、そして水中のシリカ粒子とから構成される。
図10(模式化した
図13参照)はシリカ粒子を含む水が連続相を形成し、液滴(二酸化炭素)と液滴(デカン)が共存して分散相となり、O/Wエマルションを形成してなる図である。
図13に示すように、連続相は水と水中のシリカ粒子で形成され、分散相は二酸化炭素又はデカン(液滴)からなり、その表面にシリカ粒子が存在してなる。
また
図11(模式化した
図14参照)は、デカンと二酸化炭素からなる均一相によって泡沫が形成され、その表面にシリカ粒子が存在する分散相と、シリカ粒子を含む水が連続相を形成してなることを示す図である。
【0062】
[岩石コアサンプルの組成並びに形状観察]
後述する原油回収評価に使用する岩石コアサンプルについて、上述の手順にてそれらの組成情報の取得、並びに形状観察を行った。
岩石コアサンプルは、砂岩(SiO
2系)としてBerea Sandstone(Core Lab Instruments社より入手、以下、BSSと称する)、炭酸塩岩(CaCO
3系)としてIndiana 200md(Kocurek社より入手、以下、IN 200mdと称する)を採用した。
各種評価試験において、岩石コアサンプル(砂岩試料又は炭酸塩岩試料)として、油水除去のためトルエン還流抽出洗浄後120℃で1日乾燥、次いで塩分除去のためメタノール還流抽出洗浄後80℃で1日乾燥させた直径1.5インチ×長さ1フィート(直径約3.8cm×長さ30.5cmの円柱状試料を用いた。
得られた各サンプルの組成情報(蛍光X線分析、酸化物換算組成)を表5に示す。また、
図15に、岩石コアサンプルの外観写真と、表面形状の観察結果(走査電子顕微鏡写真(倍率500倍))をそれぞれ示す(
図15(a)砂岩(BSS)、
図15(b)炭酸塩岩(IN 200md))。
【0063】
【0064】
[岩石コアサンプルの孔隙容積及び空気浸透率]
前記岩石コアサンプルについて、孔隙率並びに空気浸透率を測定し、孔隙容積を得た。
孔隙率は、ヘリウムポロシメーター(Core Lab Instruments製)によって測定した。
また空気浸透率は、エアパーミアメーター(Core Lab Instruments製)によって測定した。
砂岩(BSS)については5サンプル、炭酸塩岩(IN 200md)については9サンプルを測定した。得られた結果を表6及び表7に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
なお、後述する原油回収評価に使用する炭酸塩岩サンプル:IN 200mdとして、
図16に示すK(空気浸透率)-Phi(孔隙率)プロットから、低浸透率コアサンプル(□)及び高浸透率コアサンプル(△)を除いた、空気浸透率:150±50md程度の中浸透率岩石コアサンプル(●)を選定して使用した。
【0068】
[岩石コアサンプルを用いた原油回収評価]
図17に示すコア流動試験装置(配管図)により、実施例1で調製した水性ゾルを用い、中東産出原油及び岩石コアサンプル(砂岩(BSS)及び炭酸塩岩(IN 200md))を用いて、地下油層を想定した原油回収評価を以下の手順にて行った。
なお、コア流動試験装置は、
図17に示すように、圧入ポンプ(Schlumberger製)、流体充填用のCO
2ピストンシリンダ、ナノ粒子塩水ピストンシリンダ、原油ピストンシリンダ(以上、VINCI Technologies製)、コアホルダー(VINCI Technologies製)、周圧ポンプ(VINDUM ENGINEERING製)、背圧弁及び背圧ポンプ(VINCI Technologies製)、回収流体の気液分離器原油回収部(VINCI Technologies製)及び遊離ガス量を計測する湿式ガスメーター((株)シナガワ製)、圧力計(VALCOM製)、コア温度、恒温槽温度、遊離ガス温度測定用の測温抵抗体((株)チノー製)、空気恒温槽(須中理化工業(株))から構成され、コアホルダー上流及び下流圧力、コアホルダー周圧(側圧)、背圧弁制御圧力、コア及び恒温槽温度、遊離ガス量及び温度を、データロガー(GRAPHTEC製)を介し、コンピュータで1秒毎に収録した。
【0069】
〈試験例1:砂岩(BSS)を用いた原油回収評価〉
図17に示すコアホルダーにラバースリーブに挿入した砂岩(BSS)コアサンプル(1本)をセットし、砂岩(BSS)コア孔隙内、次にラバースリーブとコアホルダー内壁のアニュラー(周圧(側圧)流体充填環状空間)を真空にして、周圧ポンプからアニュラーに加圧流体を大気圧吸引飽和した後、周圧ポンプで周圧(側圧)を68.0気圧に加圧して砂岩(BSS)コア孔隙内及び外部への漏洩がないことを確認した。背圧弁を背圧ポンプで試験条件である200気圧に設定した。圧入ポンプ2と原油ピストンシリンダを繋ぎ、真空状態の砂岩(BSS)コア孔隙内に原油を導入し、34.0気圧に加圧してポンプを定圧制御した。原油回収評価試験の圧力設定(背圧設定圧力+68.0気圧(1,000psi))の差圧にするため周圧(側圧)を102.0気圧に加圧して原油導入量を記録した。差圧68.0気圧における原油導入量から予め計量したコアホルダー上下流バルブ間のデッドボリュームを差し引き、コア孔隙内の100%原油飽和体積を求め原油回収率を算出する際のコア孔隙容積とした。漏洩確認をしながら周圧(側圧)、コア孔隙内の順に圧力を34.0気圧ずつ増加させ、最終的に試験圧力である周圧(側圧)を268.1気圧、コア孔隙内圧力を200.0気圧に設定した。圧入ポンプ2を定流量制御に設定し、低流量で原油を圧入し背圧弁の作動及び圧力計の信号出力状況を確認した。原油ピストンシリンダの上流バルブを閉じ、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧定圧力制御した。空気恒温槽を室温から10℃ステップで昇温し、試験温度の100℃で安定させた。昇温過程の流体膨張体積は、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧に保持し、コアホルダー内の原油は背圧弁から排出され200気圧に保持され、周圧(側圧)は周圧ポンプで268.1気圧に保持された。
続いて、実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))調製液をナノ粒子塩水ピストンシリンダから、二酸化炭素をCO
2ピストンシリンダから、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、コアホルダー中の原油飽和させた砂岩(BSS)コアサンプルに4フィート/日の流速で圧入した。また比較試験例として二酸化炭素のみを原油飽和させたコアサンプルに4フィート/日の流速で圧入した。なおコアサンプルへの圧入流体の圧入条件は、100℃、背圧制御圧力200気圧、周圧(側圧)268.1気圧とし、コアサンプルの孔隙体積に対して、圧入流体の体積が120%となるまで圧入を実施した。
圧入流体(実施例1の水性ゾル、塩水、二酸化炭素)の砂岩(BSS)コアサンプルへの圧入に伴い、該コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量より原油回収率を算出した。得られた結果を
図18及び表8に示す。
また、実施例2の水性ゾル(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))調製液を用い、同様の手順にて原油回収率評価を行った。得られた結果を
図18及び表8に合わせて示す。
【0070】
図18及び表8は、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(実施例1或いは実施例2の水性ゾル、塩水、二酸化炭素)の圧入割合(流体圧入孔隙体積率(圧入体積/孔隙容積):PV)を横軸とし、コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量の割合(%)を縦軸として示したものである。
図18中、●は実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm)と二酸化炭素を、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、4フィート/日の流速で圧入した結果、◇は実施例2の水性ゾル(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm)と二酸化炭素を、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、4フィート/日の流速で圧入した結果、○は二酸化炭素のみを4フィート/日の流速で圧入した結果を示したものである。
図18及び表8に示すように、砂岩(BSS)コアサンプルの孔隙への流体の圧入割合が1.20(120%)の時点において、実施例1の水性ゾルと塩水と二酸化炭素を圧入した場合には58.5%の原油回収率を示し、実施例2の水性ゾルと塩水と二酸化炭素を圧入した場合には61.6%の原油回収率を示し、一方、二酸化炭素のみを圧入した場合には50.5%の回収率を示した。
【0071】
【0072】
〈試験例2:炭酸塩岩(IN 200md)を用いた原油回収試験〉
図17に示すコアホルダーにラバースリーブに挿入した炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプル(1本)をセットし、炭酸塩岩(IN 200md)コア孔隙内、次にラバースリーブとコアホルダー内壁のアニュラー(周圧(側圧)流体充填環状空間)を真空にして、周圧ポンプからアニュラーに加圧流体を大気圧吸引飽和した後、周圧ポンプで周圧(側圧)を68.0気圧に加圧して炭酸塩岩(IN 200md)コア孔隙内及び外部への漏洩がないことを確認した。背圧弁を背圧ポンプで試験条件である200気圧に設定した。圧入ポンプ2と原油ピストンシリンダを繋ぎ、真空状態の炭酸塩岩(IN 200md)コア孔隙内に原油を導入し、34.0気圧に加圧してポンプを定圧制御した。原油回収評価試験の圧力設定(背圧設定圧力+68.0気圧(1,000psi))の差圧にするため周圧(側圧)を102.0気圧に加圧して原油導入量を記録した。差圧68.0気圧における原油導入量から予め計量したコアホルダー上下流バルブ間のデッドボリュームを差し引き、コア孔隙内の100%原油飽和体積を求め原油回収率を算出する際のコア孔隙容積とした。漏洩確認をしながら周圧(側圧)、コア孔隙内の順に圧力を34.0気圧ずつ増加させ、最終的に試験圧力である周圧(側圧)を268.1気圧、コア孔隙内圧力を200.0気圧に設定した。圧入ポンプ2を定流量制御に設定し、低流量で原油を圧入し背圧弁の作動及び圧力計の信号出力状況を確認した。原油ピストンシリンダの上流バルブを閉じ、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧定圧力制御した。空気恒温槽を室温から10℃ステップで昇温し、試験設定温度の100℃で安定させた。昇温過程の流体膨張体積は、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧に保持し、コアホルダー内の原油は背圧弁から排出され200気圧に保持され、周圧(側圧)は周圧ポンプで268.1気圧に保持した。
続いて、実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度22.9万ppm(高塩濃度塩水))調製液をナノ粒子塩水ピストンシリンダから、二酸化炭素をCO
2ピストンシリンダから、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、コアホルダー中の原油飽和させた炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプルに4フィート/日の流速で圧入した。また比較試験例として二酸化炭素のみを原油飽和させたコアサンプルに4フィート/日の流速で圧入した。なおコアサンプルへの圧入流体の圧入条件は、100℃、背圧制御圧力200気圧、周圧(側圧)268.1気圧とし、コアサンプルの孔隙体積に対して、圧入流体の体積が120%となるまで圧入を実施した。
圧入流体(実施例1の水性ゾル、塩水、二酸化炭素)の炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプルへの圧入に伴い、該コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量より原油回収率を算出した。得られた結果を
図19及び表9に示す。
【0073】
図19及び表9は、炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(実施例1の水性ゾル、塩水、二酸化炭素)の圧入割合(流体圧入孔隙体積率(圧入体積/孔隙容積):PV)を横軸とし、コアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された原油量の割合(%)を縦軸として示したものである。
図19中、●は実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(塩濃度22.9万ppm)と二酸化炭素を、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、4フィート/日の流速で圧入した結果、○は二酸化炭素のみを4フィート/日の流速で圧入した結果を示したものである。
図19及び表9に示すように、炭酸塩岩(IN 200md)コアサンプルの孔隙への流体の圧入割合が1.20(120%)の時点において、実施例1の水性ゾルと塩水と二酸化炭素を圧入した場合には51.4%の原油回収率を示し、一方、二酸化炭素のみを圧入した場合には37.0%の回収率を示した。
【0074】
【0075】
〈試験例3:砂岩(BSS)を用いた水性ゾル(実施例1)の岩石コア孔隙の閉塞の有無確認試験〉
実施例1の水性ゾルを用いて[塩水安定性試験]と同様に中塩濃度(17.5万ppm)、シリカ濃度1.0質量%、pH6.3のサンプルを調製し、80℃で7日間保管した後、該サンプルが岩石コアの孔隙を閉塞するか否かを実験した。
本試験で使用したサンプル(実施例1の水性ゾル使用)を
図20(a)に示す。水性ゾルのシリカ粒子は均一に分散しており、沈降していないことを視認した。
図21に示すコア孔隙閉塞試験装置(配管図)により、上述の通り実施例1の手順にて調製した水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように塩水(中塩濃度(17.5万ppm、pH6.3))に添加し、80℃で7日間保管したサンプルを調製し、該サンプルと蒸留水が飽和されている岩石コアサンプル(砂岩、BSS-4)を用いて、地下油層を想定した岩石コア孔隙の閉塞の有無確認試験を以下の手順にて行った。
なお、コア流動試験装置は、
図21に示すように、圧入ポンプ(Schlumberger製)、流体充填用のCO
2ピストンシリンダ、ナノ粒子塩水ピストンシリンダ、蒸留水ピストンシリンダ(以上、VINCI Technologies製)、コアホルダー(VINCI Technologies製)、周圧ポンプ(VINDUM ENGINEERING製)、背圧弁及び背圧ポンプ(VINCI Technologies製)、回収流体の気液分離器(VINCI Technologies製)及び遊離ガス量を計測する湿式ガスメーター((株)シナガワ製)、圧力計(VALCOM製)、コア温度、恒温槽温度、遊離ガス温度測定用の測温抵抗体((株)チノー製)、空気恒温槽(須中理化工業(株))から構成され、コアホルダー上流及び下流圧力、コアホルダー周圧(側圧)、背圧弁制御圧力、コア及び恒温槽温度、遊離ガス量及び温度を、データロガー(GRAPHTEC製)を介し、コンピュータで1秒毎に収録した。
【0076】
〈試験例3:砂岩(BSS)を用いた水性ゾル(実施例1、実施例2)の岩石コア孔隙閉塞の有無確認試験〉
図21に示すコアホルダーにラバースリーブに挿入した砂岩(BSS)コアサンプル(1本)をセットし、砂岩(BSS)コア孔隙内、次にラバースリーブとコアホルダー内壁のアニュラー(周圧(側圧)流体充填環状空間)を真空にして、周圧ポンプからアニュラーに加圧流体を大気圧吸引飽和した後、周圧ポンプで周圧(側圧)を68.0気圧に加圧して砂岩(BSS)コア孔隙内及び外部への漏洩がないことを確認した。背圧弁を背圧ポンプで試験条件である200気圧に設定した。圧入ポンプ2と蒸留水ピストンシリンダを繋ぎ、真空状態の砂岩(BSS)コア孔隙内に蒸留水を導入し、34.0気圧に加圧してポンプを定圧制御した。閉塞評価試験の圧力設定(背圧設定圧力+68.0気圧(1,000psi))の差圧にするため周圧(側圧)を102.0気圧に加圧して蒸留水導入量を記録した。差圧68.0気圧における蒸留水導入量から予め計量したコアホルダー上下流バルブ間のデッドボリュームを差し引き、コア孔隙内の100%蒸留水飽和体積を求め、圧入割合(流体圧入孔隙体積率(圧入体積/孔隙容積):PV)を算出する際のコア孔隙容積とした。漏洩確認をしながら周圧(側圧)、コア孔隙内の順に圧力を34.0気圧ずつ増加させ、最終的に試験圧力である周圧(側圧)を268.1気圧、コア孔隙内圧力を200.0気圧に設定した。圧入ポンプ2を定流量制御に設定し、低流量で蒸留水を圧入し、背圧弁の作動及び圧力計の信号出力状況を確認した。蒸留水ピストンシリンダの上流バルブを閉じ、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧定圧力制御した。空気恒温槽を室温から10℃ステップで昇温し、試験設定温度の100℃で安定させた。昇温過程の流体膨張体積は、流体充填ピストンシリンダ内部圧力を圧入ポンプ1及び2で200気圧に保持し、コアホルダー内の蒸留水は背圧弁から排出され200気圧に保持され、周圧(側圧)は周圧ポンプで268.1気圧に保持した。
続いて、実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))調製液をナノ粒子塩水ピストンシリンダから、二酸化炭素をCO
2ピストンシリンダから、それぞれ1:1の割合で同時圧入し、コアホルダー中の蒸留水飽和させた砂岩(BSS)コアサンプルに4フィート/日の流速で圧入した。なおコアサンプルへの圧入流体の圧入条件は、100℃、背圧制御圧力200気圧、周圧(側圧)268.1気圧とし、圧入差圧(4フィート/日の流速における流体流動差圧)を計測しながらピストンシリンダに充填した実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))調製液を全量圧入し終わり、ポンプ2のポンプ圧力が圧力上限設定値である234気圧まで上昇して圧入ポンプ2が自動停止するまで圧入を継続した。圧入停止後、背圧弁から流体が流出して差圧が0気圧(砂岩(BSS)コアサンプル上流圧力-下流圧力)まで低下する場合は未閉塞、圧入停止後の差圧がポンプ圧力上限設定値である234気圧(砂岩(BSS)コアサンプル上流圧力-下流圧力)を保持する場合は閉塞と判断する。またコア未閉塞が確認され、塩水調製液をナノ粒子塩水ピストンシリンダから、二酸化炭素をCO
2ピストンシリンダから、それぞれ1:1の割合で同時圧入した際に圧入差圧に上昇が見られた場合、圧入流体の見掛け粘性が高くなっていることが示唆されCO
2フォームが生成されたと判断する。
圧入流体(実施例1の水性ゾル、塩水、二酸化炭素)の砂岩(BSS)コアサンプルへの圧入に伴い、該コアサンプルの孔隙を流動した流体の圧入差圧を計測し、得られた結果を
図22及び表10に示す。
なお、圧入差圧とは、流体が流動しているときの1次側(上流圧)と2次側(下流圧)の圧力の差のことである。流動実験ではコアホルダーに挿入したコア試料の上流と下流で計測された流体が流動しているときの圧力の差をいう(圧入(流動)差圧=上流圧力―下流圧力)。圧入流速が一定時の圧入差圧は、高浸透率コアでは低い差圧を示し、高浸透率コアよりも低浸透率コアでは高い差圧を示す。また同一のコア(浸透率一定)であっても流体圧入流速が高い場合は高い差圧を示し、低い場合は低い差圧を示す。さらに同じ流速で高粘度の流体を圧入した場合は高い差圧を示し、低粘度の流体を圧入した場合は低い差圧を示す。
【0077】
図22は、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(前記実施例1の水性ゾル(シリカ粒子を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))を80℃で7日間保管したサンプル、二酸化炭素)の圧入割合(流体圧入孔隙体積率(圧入体積/孔隙体積):PV)を横軸とし、圧入差圧(左縦軸)とコアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された塩水量(水性ゾルを含む)(cc)(右縦軸)をそれぞれ縦軸として示したものである。
図22中、●は圧入差圧を示し、○は液体回収量を示す。
表10及び
図22に示す通り、圧入差圧の上昇により岩石コア内部で泡沫乃至エマルション生成が示唆され、ポンプ停止直後から上流圧力が下流圧力まで低下して差圧0気圧になったことから「閉塞」しなかったと判断した。
図23に回収流体中の泡沫生成の写真を示す。
また、実施例2の水性ゾル(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル)も同様に砂岩(BSS)を用いたコア閉塞の有無確認試験を行った。得られた結果を
図24及び表11に示す。
図24は、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(前記実施例2の水性ゾル(シリカ粒子を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)とフェニルトリメトキシシラン(PTMS)で表面処理したシリカゾル)を含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))を80℃で7日間保管したサンプル、二酸化炭素)の圧入時間(hour)を横軸とし、圧入差圧を縦軸として示したものである。
表11及び
図24に示す通り、流体圧入開始から徐々に砂岩コアにかかる圧入差圧の上昇が確認された。そして流体圧入開始から5.42時間後に実験操作を終了した事によりポンプ停止による圧入停止となり、その後は砂岩コアにかかる差圧のなだらかな低下が確認された。ポンプ停止直後に差圧0気圧になるまでに、なだらかな圧力の低下が見られるが、これら「軽度の閉塞」は実施上で問題にはならなかった。
【0078】
【0079】
〈試験例4:砂岩(BSS)を用いた水性ゾル(比較例1)の岩石コア孔隙の閉塞の有無確認試験〉
比較例1の水性ゾルを用いて[塩水安定性試験]と同様に中塩濃度(17.5万ppm)シリカ濃度1.0質量%、pH7.2のサンプルを調製し、80℃で7日間保管した後、該サンプルが岩石コアの孔隙を閉塞するか否かを実験した。
本試験で使用したサンプル(比較例1の水性ゾル使用)を
図20(b)に示す。水性ゾルのシリカ粒子は凝集し、沈降していることが視認された。
図21に示すコア孔隙閉塞試験装置(配管図)により、上述の通り比較例1の手順にて調製した水性ゾルを、シリカ濃度が1.0質量%となるように塩水(中塩濃度(17.5万ppm、pH7.2))に添加し、80℃で7日間保管したサンプルを調製し、該サンプルと蒸留水が飽和されている岩石コアサンプル(砂岩、BSS-5)を用いて、地下油層を想定した岩石孔隙の閉塞の有無確認試験を試験例3と同様の手順にて実施した。
【0080】
図25は、砂岩(BSS)コアサンプルの全岩石孔隙容積を1.0とした場合の流体(前記比較例1の水性ゾルを含む塩水(シリカ濃度1.0質量%、塩濃度17.5万ppm(中塩濃度塩水))を80℃で7日間保管したサンプル、二酸化炭素)の圧入割合(流体圧入孔隙体積率(圧入体積/孔隙体積):PV)を横軸とし、圧入差圧(左縦軸)とコアサンプルの孔隙から掃攻(回収)された塩水量(圧入差圧の上昇が計測されず約2から3atmの差圧で推移していることから、水性ゾルのシリカ粒子はナノ粒子塩水ピストンシリンダ内で凝集沈降して塩水のみが圧入されたと推定される)(cc)(右縦軸)をそれぞれ縦軸として示したものである。
図25中、●は圧入差圧を示し、○は液体回収量を示す。
【0081】
【0082】
表12及び
図25に示す通り、岩石コア内部で泡沫乃至エマルションが生成された形跡となる、圧入差圧の上昇は計測されなかった。
この理由は、水性ゾル(比較例1)を含む塩水は充填ピストンシリンダ内部で水性ゾルのシリカ成分の分離・沈殿が起き、比較例1の水性ゾルを含む塩水中のシリカ成分がゼラチン化したため、岩石コアサンプル内部への比較例1の水性ゾルを含む塩水中のシリカ成分の圧入がなされなかったためと判断される。なお、前記「ゼラチン化」とはシリカのゲル化を表現するものである。
その後、さらに圧入を継続したところ、表13(
図26)のような急激な圧力上昇が計測された。
図26は、圧入時間(横軸)に対する流体圧入圧力(縦軸)を示した図である。表13及び
図26に示す結果は、急激な圧力上昇(4.06時間経過後)が確認された段階において、ゼラチン化した水性ゾル(比較例1)のシリカ成分が圧入流体として岩石コアサンプルの空隙内への圧入がなされ始めたものの、直ちに空隙の「閉塞」が発生したと判断される。
【0083】
【0084】
図27に、比較例1の水性ゾルを用いて実施した試験修了後、閉塞試験装置解体時(室温)に視認された、圧入流体用シリンダー内のゼラチン化した水性ゾル(比較例1)中のシリカ成分の写真を示す。
図27に示すように、水性ゾル(比較例1)中のシリカ成分はゼラチン化したことが確認でき、岩石コア内部への圧入が不可であったと判断される。
このようにゼラチン化してしまった場合は、岩石内部への圧入自体が不可能であり、岩石個体の持つ浸透性を全面的に阻害してしまう可能性が高い。ただし、実施例2(
図24、表11)のAPTES系水性ゾル差圧挙動に示すように、浸透性を失わせるに至らない軽度の閉塞であれば、岩石内での置換流体(CO
2やCO
2フォーム)の流路を変更することにより、結果的に置換効率を向上させる可能性を期待できる余地がある。