(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-25
(45)【発行日】2025-08-04
(54)【発明の名称】ALD方法及びALD装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20250728BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20250728BHJP
C23C 16/30 20060101ALN20250728BHJP
【FI】
C23C16/455
H05H1/24
C23C16/30
(21)【出願番号】P 2024558651
(86)(22)【出願日】2023-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2023030873
(87)【国際公開番号】W WO2024105960
(87)【国際公開日】2024-05-23
【審査請求日】2024-11-06
(31)【優先権主張番号】P 2022181826
(32)【優先日】2022-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518130554
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英児
(72)【発明者】
【氏名】坂本 仁志
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/060509(WO,A1)
【文献】特開2016-020417(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0062902(US,A1)
【文献】特表2010-538165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧雰囲気の反応チャンバーに、
前記反応チャンバーの対向する壁部に連通された第1及び第2層流形成管のいずれか一方を介してALDサイクルを実施する第1プリカーサー
を導入し、かつ、前記第1及び第2層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第1プリカーサーの層流を形成し、
前記第1及び第2層流形成管のいずれか一方を介して前記ALDサイクルを実施する第2プリカーサーを導入し、かつ、前記第1及び第2層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第2プリカーサー
の層流を形成し、
前記反応チャンバー内で、前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流とを、被成膜体に交互に接触させて、前記被成膜体に成膜し、
前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流との一方は、
前記反応チャンバー外に設けられた大気圧プラズマ源からの大気圧プラズマ流の層流であり、
前記第1及び第2層流形成管を介して供給・排気される前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きが互いに逆向きであり、または、前記反応チャンバーに導入される向きが所定のタイミングで変更されるALD方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きが互いに逆向きであり、かつ、前記反応チャンバーに導入される向きが所定のタイミングで変更されるALD方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記被成膜体は複数の粉体であり、
前記複数の粉体は、前記反応チャンバーの下方で振動及び/または揺動するステージ上に搭載されて成膜されるALD方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記複数の粉体は、前記反応チャンバーの上方から一又は複数のメッシュを通過して前記反応チャンバーに供給されるALD方法。
【請求項5】
請求項1または2において、
前記被成膜体は板状のシートであるALD方法。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記被成膜体は、第1ロールから送り出され第2ロールに回収される帯状シートであり、
前記帯状シートは、前記第1ロールと前記第2ロールとの間に配置された前記反応チャンバーと向かい合う領域がシフトするように、往動または往復動されるALD方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きが、前記帯状シートの往動または往復動される方向と交差しているALD方法。
【請求項8】
大気に開放された反応チャンバーと、
前記反応チャンバーの対向する壁部に連通された第1及び第2層流形成管と、
第1プリカーサー源と、
第2プリカーサー源と、
排気ポンプと、
第1層流形成管に連結された第1切換バルブと、
第2層流形成管に連結された第2切換バルブと、
前記第1プリカーサー源と前第1切換バルブとの間の配管に設けられた第1開閉バルブと、
前記第1プリカーサー源と前第2切換バルブとの間の配管に設けられた第2開閉バルブと、
前記第2プリカーサー源と前第1切換バルブとの間の配管に設けられた第3開閉バルブと、
前記第2プリカーサー源と前第2切換バルブとの間の配管に設けられた第4開閉バルブと、
前記排気ポンプと前第1切換バルブとの間の配管に設けられた第5開閉バルブと、
前記排気ポンプと前第2切換バルブとの間の配管に設けられた第6開閉バルブと、
被成膜体を保持する保持機構と、
を有し、
前記第1及び第2層流形成管のいずれか一方を介して前記第1プリカーサー源から第1プリカーサーを導入し、かつ、前記第1及び第2層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第1プリカーサーの層流を形成し、
前記第1及び第2層流形成管のいずれか一方を介して前記第2プリカーサー源から第2プリカーサーを導入し、かつ、前記第1及び第2層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第2プリカーサーの層流を形成し、
前記保持機構に保持された前記被成膜体に、前記第1プリカーサーの層流と前記
第2プリカーサーの層流とを交互に接触させて、ALDサイクルを実施して前記被成膜体に成膜し、
前記第1プリカーサー源及び前記第2プリカーサー源の一方は大気圧プラズマ源を含み、前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流との一方は、
前記大気圧プラズマ源からの大気圧プラズマ流の層流であり、
前記第1及び第2層流形成管を介して供給・排気される前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きが互いに逆向きであり、または、前記反応チャンバーに導入される向きが所定のタイミングで変更されるALD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALD(Atomic Layer Deposition)方法及びALD装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者等は、大気圧プラズマ旋回流を用いて粉体に成膜する方法を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉体以外の被成膜体を大気圧雰囲気で成膜できれば、真空設備を要しないことから設備コストやランニングコストを低減できる。
【0005】
本発明は、旋回流を用いずに大気圧雰囲気で、粉体を含む各種成膜体に成膜するALD方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、
大気圧雰囲気の反応チャンバーに、ALDサイクルを実施する第1プリカーサー及び第2プリカーサーをそれぞれ交互に導入し、
前記反応チャンバー内で、前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流とを、被成膜体に交互に接触させて、前記被成膜体に成膜し、
前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流との一方は、大気圧プラズマ流の層流であるALD方法に関する。
【0007】
本発明の一態様(1)によれば、大気圧雰囲気の反応チャンバー内で、第1プリカーサーの層流と前記第1プリカーサーの層流とを被成膜体に交互に接触させることで、ALDサイクルを実施する。それにより、旋回流を用いずに被成膜体に成膜することができる。第1プリカーサーの層流と第2プリカーサーの層流との一方は、大気圧プラズマ流の層流とすることができる。例えば酸化膜を成膜するためのプリカーサーとしてOHラジカルを用いる場合には、酸素及び水素、または水蒸気等を大気圧下でプラズマ化した大気圧プラズマ流の層流とすることができる。
【0008】
(2)本発明の一態様(1)では、前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きを互いに逆向きとしても良い。こうすると、第1プリカーサーと第2プリカーサーとを同一方向から供給する場合に比べて、被成膜体の成膜品質の位置依存性が解消されて面内均一性が向上する。
【0009】
(3)本発明の一態様(1)では、前記第1プリカーサー及び前記第2プリカーサーの少なくとも一方は、前記反応チャンバーに導入される向きが所定のタイミングで変更されてもよい。こうすると、第1プリカーサー及び/または第2プリカーサーを常に同一方向から供給する場合に比べて、被成膜体の成膜品質の位置依存性が解消されて面内均一性が向上する。
【0010】
(4)本発明の一態様(1)では、前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きが互いに逆向きであってもよく、かつ、前記反応チャンバーに導入される向きが所定のタイミングで変更されてもよい。こうすると、第1プリカーサーと第2プリカーサーとを常に同一方向から供給する場合に比べて、被成膜体の成膜品質の位置依存性が解消されて面内均一性がさらに向上する。
【0011】
(5)本発明の一態様(1)~(4)では、前記被成膜体は複数の粉体とすることができる。この場合、前記複数の粉体は、前記反応チャンバーの下方で振動及び/または揺動するステージ上に搭載されて成膜される。こうすると、ステージの振動及び/または揺動により凝集していた粉体が拡散されるので、すべての粉粒に成膜することができる。
【0012】
(6)本発明の一態様(5)では、前記複数の粉体は、前記反応チャンバーの上方から一又は複数のメッシュを通過して前記反応チャンバーに供給されてもよい。こうすると、凝集したクラスター状の粉体を一又は複数のメッシュにより解砕してステージ上に供給することができる。一又は複数のメッシュは、振動例えば横振動させても良い。
【0013】
(7)本発明の一態様(1)~(4)では、前記被成膜体は、粉体以外、例えば板状のシートとすることができる。
【0014】
(8)本発明の一態様(1)~(4)では、前記被成膜体は、第1ロールから送り出され第2ロールに回収される帯状シートとすることができる。この場合、前記帯状シートは、前記第1ロールと前記第2ロールとの間に配置された前記反応チャンバーと向かい合う領域がシフトするように、往動または往復動されても良い。帯状シートの一方向への往動により、帯状シート全体に成膜することができる。帯状シートを往復動させると、いわゆる重ね塗りと同様にして、膜厚を確保することができる。
【0015】
(9)本発明の一態様(8)では、前記第1プリカーサーと前記第2プリカーサーとは、前記反応チャンバーに導入される向きを、前記帯状シートの往動または復動される方向と交差させても良い。つまり、帯状シートをその長手方向に移動させるのに対して、プリカーサーは帯状シートの例えば幅方向と平行な向きで反応チャンバーに導入することができる。こうすると、帯状シートの幅に亘って層流を形成でき、送り移動によって帯状シート全体への成膜が可能な反応チャンバーの容積を小さくすることもできる。
【0016】
(10)本発明の他の態様は、
大気に開放された反応チャンバーと、
前記反応チャンバーの対向する壁部に連通された一対の層流形成管と、
第1プリカーサー源と、
第2プリカーサー源と、
被成膜体を保持する保持機構と、
を有し、
前記一対の層流形成管のいずれか一方を介して前記第1プリカーサー源から第1プリカーサーを導入し、かつ、前記一対の層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第1プリカーサーの層流を形成し、
前記一対の層流形成管のいずれか一方を介して前記第2プリカーサー源から第2プリカーサーを導入し、かつ、前記一対の層流形成管のいずれか他方を介して前記反応チャンバーを排気して、前記反応チャンバー内に前記第2プリカーサーの層流を形成し、
前記保持機構に保持された前記被成膜体に、前記第1プリカーサーの層流と前記第1プリカーサーの層流とを交互に接触させて、ALDサイクルを実施して前記被成膜体に成膜し、
前記第1プリカーサーの層流と前記第2プリカーサーの層流との一方は、大気圧プラズマ流の層流であるALD装置に関する。本発明の他の態様によれば、本発明の一態様(1)の方法を好適に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係るALD装置の概略図である。
【
図2】
図1中の大気圧プラズマ源の概略断面図である。
【
図3】粉体に成膜するALD装置の要部を示す図である。
【
図4】
図3に示す反応チャンバー及びステージの平面図である。
【
図5】粉体への成膜動作を説明するための図である。
【
図6】帯状シートに成膜するALD装置の要部を示す図である。
【
図8】シートに成膜するALD装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施するための異なる実施形態や実施例を提供する。もちろんこれらは単なる例であり、限定的であることを意図するものではない。さらに、本開示では、様々な例において参照番号および/または文字を反復している場合がある。このように反復するのは、簡潔明瞭にするためであり、それ自体が様々な実施形態および/または説明されている構成との間に関係があることを必要とするものではない。さらに、第1の要素が第2の要素に「接続されている」または「連結されている」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素と第2の要素とが互いに直接的に接続または連結されている実施形態を含むとともに、第1の要素と第2の要素とが、その間に介在する1以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または連結されている実施形態も含む。また、第1の要素が第2の要素に対して「移動する」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素及び第2の要素の少なくとも一方が他方に対して移動する相対的な移動の実施形態を含む。
【0019】
1.ALD装置
図1に、ALD装置1の一例が示されている。ALD装置1は、反応チャンバー10と、第1プリカーサー源2と、第2プリカーサー源3と、排気ポンプ4と、配管30~34と、開閉バルブV1~V6と、切換バルブSV1、SV2と、を含むことができる。なお、
図1では、被成膜体を保持する保持機構は図示されていない。
【0020】
反応チャンバー10は、被成膜体(
図3の粉体P、
図6の帯状シートS1、
図8のシートS2等)に成膜するための容器である。反応チャンバー10は、真空容器とする必要はなく、大気圧に開放されている。例えば平面視で矩形の反応チャンバー10の2つの対向する壁部には、層流形成配管33、34の各一端が連結されている。例えば複数の層流形成配管33の一つと、複数の層流形成配管34の対応する一つは、反応チャンバー10内にて開口が向かい合うように配置される。層流形成配管33、34の一方より供給されるガス(プリカーサー)が層流形成配管33、34の他方より排気される。それにより、反応チャンバー内にはガス(プリカーサー)の層流が形成される。
【0021】
複数の層流形成配管33の各他端は合流されて第1切換バルブSV1に連結される。同様に、複数の層流形成配管34の各他端は合流されて第2切換バルブSV2に連結される。第1切換バルブSV1は、第1プリカーサー配管30、第2プリカーサー配管31及び排気管32の一つを選択的に層流形成配管33に連通させる。こうして、層流形成配管33は、第1プリカーサーの供給、第2プリカーサーの供給、または排気に選択的に使用される。同様に、第2切換バルブSV2は、第1プリカーサー配管30、第2プリカーサー配管31及び排気管32の一つを選択的に層流形成配管34に連通させる。こうして、層流形成配管34は、第1プリカーサーの供給、第2プリカーサーの供給、または排気に選択的に使用される。ただし、層流形成配管33から第1プリカーサーまたは第2プリカーサーが供給される時には、層流形成配管34から排気される。あるいは、層流形成配管34から第1プリカーサーまたは第2プリカーサーが供給される時には、層流形成配管33から排気される。
【0022】
第1切換バルブSV1に連結される第1プリカーサー配管30は、開閉バルブV1を介して第1プリカーサー源2と連結される。第2切換バルブSV2に連結される第1プリカーサー配管30は、開閉バルブV2を介して第1プリカーサー源2と連結される。第1切換バルブSV1に連結される第2プリカーサー配管31は、開閉バルブV3を介して第2プリカーサー源3と連結される。第2切換バルブSV2に連結される第2プリカーサー配管31は、開閉バルブV4を介して第2プリカーサー源3と連結される。第1切換バルブSV1に連結される排気管32は、開閉バルブV5を介して排気ポンプ4と連結される。第2切換バルブSV2に連結される排気管32は、開閉バルブV6を介して排気ポンプ4と連結される。
【0023】
第1プリカーサー源2は、反応ガス源2Aと、流量制御器(MFC:Mass Flow Controller)2Bと、大気圧プラズマ源20とを含むことができる。第2プリカーサー源3は、原料ガス源3Aと、流量制御器(MFC)3Bと、を含むことができる。
図2を用いて、大気圧プラズマ源20を含む第1プリカーサー源2について説明する。大気圧プラズマ源20は、例えば、接地される外管21と、外管21内に配置される高電圧電極22とを含む。高電圧電極22には高電圧の交流電源23が接続される。外管21の内表面と、高電圧電極22の外表面とは、誘電体により被覆される。また、外管21に設けられる水路21Aと、高電圧電極22に設けられる水路22Aには、冷却水が供給されても良い。外管21の反応ガス導入ポート20Aには、流量制御器(MFC)2B及び開閉バルブ2Cを介して反応ガス源(第1プリカーサー源)2Aが接続される。外管21の大気圧プラズマ流導出ポート20Bは、反応チャンバー10の大気圧プラズマ流導入ポートに接続される。外管21と高電圧電極22との間に高電圧電界が形成され、反応ガス源2から反応ガスが導入されると、反応ガスを電離させて、大気圧プラズマ流を生成することができる。なお、第2プリカーサー源3も、流量制御器(MFC)3Bの出口側に開閉バルブを設けても良い。
【0024】
2.粉体に成膜するための反応チャンバー、保持機構及びメッシュ
図3は、被成膜体の一例である粉体Pに成膜するための反応チャンバー10A、保持機構40及びメッシュFを示す。反応チャンバー10Aは、
図1の反応チャンバー10と同一機能を有すると共に、枠体11を含む。粉体Pを保持する保持機構40は、枠体11の下面に位置するステージ(底板)41を有する。粉体Pは、ステージ41の上面41Aに載置されて保持される。
図4は枠体11とステージ41との平面図である。枠体11の内部空間(反応空間)11Aは、
図3に示すように枠体11の上縁11Bにて大気に開放されている
【0025】
保持機構40は、枠体11及びステージ41を一体で揺動させる揺動軸42をさらに含むことができる。この場合、保持機構40は揺動機構を備え、揺動機構により枠体11及びステージ41は揺動軸42の廻りに図示A方向に揺動される。揺動機構は、可逆回転または一方向回転を図示A方向の揺動運動に変換する公知の機構を用いることができる。保持機構40は、揺動機構に代えて又は揺動機構に追加して、ステージ41を例えば図示B方向に縦振動させる公知の振動機構を有することができる。揺動機構と振動機構とを併設する場合には、振動機構は、揺動機構による揺動運動中にステージ41を縦振動させることができる。
【0026】
矩形の枠体11の対向二辺に上述の層流形成配管33、34が連結される。
図3及び
図4の例では、層流形成配管33、34は、揺動軸42と直交する方向で連結されているが、揺動軸42と平行な方向で連結されても良い。ステージ41は、枠体11の下面に固定することができる。この場合、枠体11及びステージ41を傾けることで、成膜済の粉体Pを枠体11内から回収部に向けて移動させることができる。ステージ41は、枠体11の下面に対して接離可能に移動させても良い。こうすると、例えば枠体11及びステージ41を傾け、かつ、ステージ41を枠体11の下面から離すことで、枠体11とステージ41との隙間から粉体Pを容易に回収することができる。
【0027】
粉体Pを枠体11内に供給する粉体供給ポート43を、枠体11の上部に設けることができる。粉体供給ポート43から凝集したままのクラスター状の粉体Pが枠体11内に供給することを防止するために、粉体供給ポート43と反応チャンバー10Aとの間にメッシュFをさらに設けることができる。この場合、メッシュFは、例えば駆動シリンダー44とバネ45とを備えた横振機構により横振動されても良い。加えて、メッシュFのほぼ全域に粉体Pを供給するために、粉体供給ポート43を走査移動させても良い。メッシュFは、例えば上側に配置されるほどメッシュ開口が広い複数種類例えば3種類の第1~第3メッシュF1~F3を有していても良い。
【0028】
図5に示すように、粉体供給ポート43から供給される粉体Pは、第1~第3メッシュF1~F3を順次通過することで、凝集していたとしても拡散又は解砕されてステージ41上に供給される。詳細を後述する通り、ステージ41上には第1プリカーサーの層流LPと第2プリカーサーの層流LPとが交互に形成されてALDサイクルが実施され、粉体Pの表面に所定の膜が成膜される。その際に、ステージ41は揺動及び/又は縦振動されるので、分散移動される粉体Pの全表面に成膜することが可能となる。
【0029】
3.帯状シートに成膜するための反応チャンバー及び保持機構
図6及び
図7は、被成膜体の他の例である帯状シートS1に成膜するための反応チャンバー10B及び保持機構50を示す。反応チャンバー10Bは、
図1の反応チャンバー10と同一機能を有すると共に枠体11を含む点で反応チャンバー10Aと共通する。ただし、
図6に示すように反応チャンバー10Bがさらに天井板12を有する点で、反応チャンバー10Aと相違させても良い。天井板12の存在により、反応チャンバー10B内で層流LPを形成維持し易くなる。ただし、天井板12は必須ではない。
【0030】
帯状シートS1の保持機構50は、Roll to Rollシステムとすることができる。Roll to Rollシステム50は、帯状シートS1を、供給ローラー51から供給して回収ローラー52に回収する。Roll to Rollシステム50は、反応チャンバー10Bの下方で帯状シートS1を、
図7の往動方向D1および復動方向D2に移動させるための駆動ローラー53及び従動ローラー54をさらに有することができる。なお、
図6に示す枠体11の空間空間(反応空間)11Aは、枠体11、天井板12及び帯状シートS1で囲まれるが、気密構造とする必要はなく、大気に開放されていてよい。
【0031】
反応チャンバー10Bでも、矩形の枠体11の対向二辺に層流形成配管33、34が連結される。
図6及び
図7の例では、層流形成配管33、34は、帯状シートS1の往動方向D1及復動方向D2びと直交(広義には交差)する方向で連結されているが、方向D1及びD2と平行な方向で連結されても良い。ただし、
図6及び
図7の例の通りとすると、層流LPは帯状シートS1の幅方向に亘って形成するのに、配管33、34の本数は少なくとも各1本あれば足り、本数を多くして反応チャンバー10Bの容積を大きくする必要はない。反応チャンバー10Bの容積を大きくしなくても、帯状シートS1を走査移動すれば、帯状シートS1の全面に成膜することができるからである。また、
図6及び
図7の例の通りとすると、駆動ローラー53及び従動ローラー54等と干渉することなく層流形成配管33、34を容易に配置できる。
【0032】
なお、帯状シートS1と枠体11とは、帯状シートS1が枠体11の下面に対して接離可能となるように相対的に移動させても良い。こうすると、帯状シートS1の走査移動時は、帯状シートS1を枠体11の下面から離すことにより、摩擦を考慮することなく高速に行うことができる。成膜中に帯状シートS1を、
図7の往動方向D1および復動方向D2に間欠移動するときも同様にして、帯状シートS1を枠体11の下面から離すことができる。なお、帯状シートS1と枠体11とは必ずしも接触させる必要がなく、非接触であれば接離移動機構は不要である。
【0033】
4.シートに成膜するための反応チャンバー及び保持機構
図8は、被成膜体であるシートS2に成膜するための反応チャンバー10B及び保持機構60を示す。反応チャンバー10Bは
図6及び
図7に示すものと同じである。ただし、天井板12は必須ではない。保持機構60は、被成膜体のさらに他の例である例えば板状シートS2を載置する載置台61を有する。載置台61は、
図8の図示E1方向に相対的に昇降駆動され、必要により図示E2方向に相対的に水平移動されても良い。載置台61にシートS2が載置された後に、シートS2が枠体11と近接または接触された後に、シートS2に成膜される。この成膜動作中、シートS2を相対的かつ間欠的に水平移動させても良い。水平移動時にシートS2と枠体11との接触を解除しても良い。
【0034】
5.ALD方法
被成膜体(粉体P、帯状シートS1またはシートS2)に成膜するALD方法は、
図9に示す1サイクル(ALDサイクル)をN(Nは2以上の整数)回繰り返すことで実施される。つまり、反応チャンバー10、10Aまたは10B内で、第2プリカーサーの層流、排気又はパージ、第1プリカーサーの層流、排気又はパージの4ステップを行って1サイクル(ALDサイクル)が完結し、これをNサイクル繰り返して成膜が完了する。被成膜対象に成膜される膜の厚さはALDサイクルの数Nに比例する。
【0035】
5.1.第1ステップ(第2プリカーサーの層流)
図9の時刻T
A-T
B間の第1ステップでは、原料ガス源(第2プリカーサー源)3Aからの原料ガスが反応チャンバー10、10Aまたは10Bに供給される。このために、例えば第1切換バルブSV1が第2プリカーサー配管31と連通され、第2切換バルブSV2が排気管32と連結される。さらに開閉バルブV3、V6が開放され、他の開閉バルブV1、V2、V4及びV5は閉鎖される。こうすると、原料ガス源3Aからの原料ガスは、流量制御器3B、バルブV3、第2プリカーサー配管31、第1切換バルブSV1及び層流形成配管33を介して反応チャンバー10、10Aまたは10Bに供給される。反応チャンバー内の原料ガスは、層流形成配管34、第2切換バルブSV2、排気管32及び開閉バルブV6を介して、排気ポンプ4により排気される。層流形成配管33、34を介して供給・排気される原料ガスは、
図3のステージ41、
図6の帯状シートS1または
図8の板状シートS2と平行な層流を反応チャンバー10、10Aまたは10B内で形成する。こうして第2プリカーサーの層流と接触する被成膜体(粉体P、帯状シートS1またはシートS2)の表面には、第2プリカーサーが浸透する。
【0036】
ここで、第1ステップ中に、原料ガスを反応チャンバー10、10Aまたは10Bに導入する方向を切り換えても良い。例えば原料ガスを
図1の左から右に向けて導入した後に、
図1の右から左に向けて導入するように切り換え、その切換を繰り返しても良い。原料ガスを
図1の右から左に向けて導入するには、開閉バルブV3、V6を開から閉に、開閉バルブV4、V5を閉から開に、それぞれ切り換えればよい。こうすると、層流が流れる方向が切り換えられることで、複数の粉体P、帯状シートS1またはシートS2の表面に対する第2プリカーサーの浸透の位置依存性が低減され、成膜の均一性が高まる。
【0037】
5.2.第2ステップ(排気又はパージ)
図9の時刻T
B-T
C間の第2ステップでは、反応チャンバー10、10Aまたは10B内に残留している第2プリカーサーを排気する。なお、第1ステップにおいて、原料ガスを供給しつつ排気しているので、第1ステップ完了後に原料ガスが弊害となるほどに残留していなければ、第2ステップは省略しても良い。あるいは、比較的短期間だけ排気しても良い。排気動作は、切換バルブSV1、SV2の少なくとも一方を層流形成配管33及び/または34を介して反応チャンバー10、10Aまたは10Bと連通させ、開閉バルブV5、V6の少なくとも一方を開放し、他のバルブV1~V4を閉鎖して排気ポンプ4を駆動することで実施される。なお、排気に代えて、反応チャンバー10、10Aまたは10B内に不活性ガスをパージして、残留原料ガスを排出しても良い。
【0038】
5.3.第3ステップ(第1プリカーサーの層流)
図9の時刻T
C-T
D間の第3ステップでは、反応ガス源2(第1プリカーササー源)Aからの反応ガスが流量制御器2Bを介して大気圧プラズマ源20に導入され、大気圧プラズマ流が反応チャンバー10、10Aまたは10Bに供給される。このために、例えば第1切換バルブSV1が第1プリカーサー配管30と連通され、第2切換バルブSV2が排気管32と連結される。さらに開閉バルブV1、V6が開放され、他の開閉バルブV2~V5は閉鎖される。こうすると、大気圧プラズマ流は、バルブV1、第1プリカーサー配管30、第1切換バルブSV1及び層流形成配管33を介して反応チャンバー10、10Aまたは10Bに供給される。反応チャンバー内の大気圧プラズマ流は、層流形成配管34、第2切換バルブSV2、排気管32及び開閉バルブV6を介して、排気ポンプ4により排気される。層流形成配管33、34を介して供給・排気される大気圧プラズマ流は、
図3のステージ41、
図6の帯状シートS1または
図8の板状シートS2と平行な層流を反応チャンバー10、10Aまたは10B内で形成する。こうして、大気圧プラズマ流の層流と接触する被成膜体(粉体P、帯状シートS1またはシートS2)の表面では、第1ステップにより浸透していた第2プリカーサーが、大気圧プラズマ流中の第1プリカーサーと反応することで、所定の膜が形成される。
【0039】
ここで、第3ステップ中に、大気圧プラズマ流を反応チャンバー10、10Aまたは10Bに導入する方向を切り換えても良い。例えば大気圧プラズマ流を
図1の左から右に向けて導入した後に、
図1の右から左に向けて導入するように切り換え、その切換を繰り返しても良い。原料ガスを
図1の右から左に向けて導入するには、開閉バルブV1、V6を開から閉に、開閉バルブV2、V5を閉から開に、それぞれ切り換えればよい。こうすると、大気圧プラズマ流の層流が流れる方向が切り換えられることで、複数の粉体P、帯状シートS1またはシートS2の表面に対する第1プリカーサーの接触の位置依存性が低減され、成膜の均一性が高まる。あるいは、第1ステップでの第2プリカーサーの層流の向きと、第3ステップでの第1プリカーサーの層流の向きとを、逆向きにしても良い。
【0040】
5.4.第4ステップ(排気又はパージ)
図9の時刻T
D-T
E間の第4ステップでは、反応チャンバー10、10Aまたは10B内に残留している第1プリカーサーを排気し、あるいはパージされた不活性ガスに置換する。第2ステップと同様な理由で、排気又はパージは省略しても良いし、比較的短時間だけ行うものでも良い。
【0041】
第1及び第3ステップでは、
図3に示す図示A方向への揺動及び/又はB方向への縦振動、
図7に示す図示D1方向への往動及び/又はD2方向への復動、あるいは
図8に示す図示E2方向への水平移動を実施することができる。これにより、成膜の均一性がさらに高まる。
【0042】
6.成膜の種類
被成膜体は、反応ガスと原料ガスとを選択することで、種々の膜を形成することができる。例えば、被成膜体に酸化膜を形成することができる。この場合、反応ガスとして酸化ガスが用いられる。酸化ガスとして、キャリアガス例えばアルゴンArと水蒸気との混合ガスを挙げることができる。この混合ガスが大気圧プラズマ源20に供給されると、Ar+H2O→Ar*+OH*+H*となり、第1プリカーサーとしてOHラジカル(OH*)を生成できる。これに代えて、酸化ガスとして、キャリアガス例えばアルゴンArと、酸素と、水素との混合ガスを挙げることができる。この混合ガスが大気圧プラズマ源20に供給されると、Ar+O2+H2→Ar*+2OH*となり、OHラジカル(OH*)を生成できる。一方、原料ガス(第2プリカーサー)として例えばТMA(Al(CH3)3)が、例えばArをキャリアガスとして、供給される。こうすると、ТMA(Al(CH3)3)がOHラジカル(OH*)と反応して、酸化アルミニウムAl2O3が生成される。それにより、被成膜体の表面は酸化膜により被覆される。
【0043】
被成膜体に窒化膜を形成することもできる。この場合、反応ガスとして窒化ガスNH3を用いることができる。窒化ガスNH3が大気圧プラズマ源20に供給されると、NHラジカルが生成される。一方、原料ガスとして例えばTDMAS(SiH[N(CH3)2]3)を用いると、NHラジカルとTDMASとの反応により被成膜体上にSiNを成膜することがでる。あるいは、原料ガスとして例えばTDMAT(Ti[N(CH3)2]4)を用いると、NHラジカルとTDMATとの反応により、被成膜体上にTiNを成膜することができる。
【0044】
被成膜体に金属膜を形成することもできる。この場合、反応ガスとして例えばハロゲンガスを用いることができる。ハロゲンが大気圧プラズマ源20に供給されると、例えばClラジカルが生成される。一方、原料ガスとして例えば昇華されたCuClを用いると、CuCl+Cl*→Cu+Cl2↑の反応により、銅Cuを被成膜体上に成膜することができる。
【0045】
なお、本発明は、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上記実施例では層流が流れる方向を所定のタイミングで切り換えたが、これに限定されない。つまり、例えば層流形成配管33をガス導入専用に用い、層流形成配管34を排気専用に用いても良い。また、層流形成配管33、34は、必ずしも複数の平行な管でなくても良く、層流の幅に対応した一つのスリット開口を有するものでも良い。さらに、第1、第2プリカーサー源からガスを例えば0.1MPa以上で圧送して、反応チャンバー10、10A、10B内で層流が維持される限り、必ずしも強制排気を行う必要はなく、自然排気であっても良い。反応チャンバー10、10A、10Bは、平面視で矩形に限らず、2つの対向する壁部に層流形成配管33、34が連通されていれば良い。また、大気圧プラズマは、高電圧電界を用いるものに限らず、例えば高周波やマイクロ波を用いても良い。
【符号の説明】
【0046】
1…ALD装置、2…第1プリカーサー源、2A…反応ガス、2B…流量制御器(MFC)、3…第2プリカーサー源、3A…原料ガス、3B…流量制御器(MFC)、4ポンプ、10、10A、10B…反応チャンバー、11…枠体、11A…内部空間、11B…上縁、12天井板、20…大気圧プラズマ源、20A…反応ガス導入ポート、20B…大気圧プラズマ流導出ポート、21…外管、21A…水路、22…高電圧電極、22A…水路、23…交流電源、30…第1プリカーサー配管、31…第2プリカーサー配管、32…排気管、33、32…層流形成配管、40…保持機構、41…ステージ、42…揺動軸、43…粉体供給ポート、44…往復シリンダー、45…バネ、50…保持機構(Roll to Rollシステム)、51…供給ローラー、52…回収ローラー、53…駆動ローラー、54…従動ローラー、60…保持機構、61…載置台、A…揺動方向、B…縦振動方向、C…横振動方向、D1…往動方向、D2…復動方向、F、F1~F3…メッシュ、LF…層流、P…粉体(被成膜体)、S1…帯状シート(被成膜体)、S2…板状シート(被成膜体)、V1~V6…開閉バルブ、SV1、SV2…切換バルブ