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  • 特許-樹脂成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-25
(45)【発行日】2025-08-04
(54)【発明の名称】樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20250728BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20250728BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20250728BHJP
   B29C 44/58 20060101ALI20250728BHJP
   B29C 44/60 20060101ALI20250728BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/26
B29C44/00 D
B29C44/58
B29C44/60
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021149916
(22)【出願日】2021-09-15
(65)【公開番号】P2023042666
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 仁
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕子
(72)【発明者】
【氏名】佐山 聡
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-067111(JP,A)
【文献】特開2003-314851(JP,A)
【文献】特開平10-122641(JP,A)
【文献】特開2013-169738(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043974(WO,A1)
【文献】特開2007-136899(JP,A)
【文献】特開2005-155437(JP,A)
【文献】特開2004-018846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
39/26-39/36
41/38-41/44
43/36-43/42
43/50
44/00-45/84
49/48-49/56
49/70
51/30-51/40
51/44
67/20
F24F 1/00-1/0033
1/0059-1/008
1/02-1/022
1/028-1/0287
1/032-1/0355
13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1キャビティのいずれかの位置に開口するゲートから溶融樹脂が射出され、
前記第1キャビティから連続する第2キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡した後に凝固し、
前記第1キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡する前に凝固し、
前記第2キャビティにおいて樹脂成形体の本体部が発泡成形され、
前記第1キャビティにおいて前記本体部に設けられるリブ又はボスが非発泡成形される、樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
第1キャビティのいずれかの位置に開口するゲートから溶融樹脂が射出され、
前記第1キャビティから連続する第2キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡した後に凝固し、
前記第1キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡する前に凝固し、
前記溶融樹脂の射出方向に直交する前記第1キャビティの断面の短辺寸法Dと、前記ゲートに接続されるランナーの長さLとが、200×D<Lの関係を持つように設定される、樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の樹脂成形体の製造方法において、
前記溶融樹脂は、超臨界流体を混合させたものである樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、発泡成形された樹脂成形体の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機の室内機には、吹き出される空調空気の上下方向を調整するため、吹出口にルーバーが設けられている。このルーバーは、夏季の冷房時に吹き出す冷気をその片面において案内することで、その反対面において冷却された室内空気の湿気を結露させ、水滴を生じさせる問題がある。
【0003】
そのような水滴を生じさせる問題を解決する従来技術として次のような発明が公知となっている。すなわち、ルーバーに対し、リブや副ルーバーを形成したりそれらの位置関係を工夫したりすることで、周囲の暖気乱流の発生を抑制し、ルーバー上の結露の発生を防止する技術が開示されている。さらに、ルーバーの一部に断熱材を貼付したりルーバーの内部を中空にしたりすることで、断熱性を向上させ、結露の防止を図る技術が開示されている。
【0004】
他方において、化学発泡剤をあらかじめ混合させたり超臨界状態流体をシリンダ内に混入させたりすることで、キャビティ内で樹脂を発泡させる樹脂成形体が、近年、軽量化や断熱性が求められる部材の成形法として広く採用されている。
【0005】
そして、次のような発明が公知となっている。すなわち、非発泡材からなる非発泡部を一次成形した後に発泡部を二次成形し、前記発泡部の射出成形時に金型をコアバックさせて膨張し一体成形させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-122641号公報
【文献】特開2013-040738号公報
【文献】特開2003-314851号公報
【文献】特開2016-003807号公報
【文献】特開2005-155437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ルーバーは、空気調和機の稼働中に空調空気の上下方向の調整で開き角度が変位するだけでなく、非稼働中は吹出口を閉じる機能を果たす。このために、水滴発生の抑制又は防止を主目的としてルーバーの外観形状を改変することは、ルーバーに求められる他の機能を犠牲にするおそれがあり、回避したいところである。
【0008】
また、非発泡材からなる非発泡部を一次成形した後に発泡部を二次成形し、前記発泡部の射出成形時に金型を膨張し一体成形させる上述の技術は、一次側で非発泡部を成形した後に二次側で発泡樹脂を充填するため、その境界部分における結合力が弱くなる。このため、ルーバー、送風機用ファン、パネルのような強度が必要な固定部と軽量化が必要な駆動部を持つ本体を、全体として発泡体にしつつ、この本体の長手方向や幅方向に沿って補強のため設けられるリブ、他部品との締結のために設けられるボスや、回転変位のため本体の一部に設けられる軸や軸受等を非発泡化させることは不可能である。換言すると、ルーバー本体に対し、反りやねじれが無く滑らかなスキン層を持たせさらに断熱性を持たせるため微細で均一な気泡を高圧で導入させることと、非発泡化した部分を設けさせることとの両立は、上述の公知技術で不可能である。
【0009】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、全体として軽量化や断熱性といった発泡成形の利益を享受しつつ、必要な部分のみ強度を持たせる樹脂成形体、空気調和機のルーバー及びこれらの製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に示される樹脂成形体の製造方法は、第1キャビティのいずれかの位置に開口するゲートから溶融樹脂が射出され、前記第1キャビティから連続する第2キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡した後に凝固し、前記第1キャビティに充填された前記溶融樹脂が発泡する前に凝固し、前記第2キャビティにおいて前記樹脂成形体の本体部が発泡成形され、前記第1キャビティにおいて前記本体部に設けられるリブ又はボスが非発泡成形される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態により、全体として軽量化や断熱性といった発泡成形の利益を享受しつつ、必要な部分のみ強度を持たせる樹脂成形体、空気調和機のルーバー及びこれらの製造技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る空気調和機のルーバー(樹脂成形体)の斜視図。
図2】本発明の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法に適用される射出成形機および金型の断面図。
図3】樹脂成形体のキャビティに充填される溶融樹脂の注入位置の説明図。
図4】樹脂成形体のキャビティに溶融樹脂を分配するランナーの説明図。
図5】本発明の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法の工程を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る空気調和機のルーバー10(以下、単に「ルーバー10」という)の斜視図である。空気調和機(図示略)は、冷媒を循環させる冷凍サイクルを利用して、空調対象空間(室内等)に空調空気を供給するものである。この空気調和機の構成のうち空調対象空間に配置される室内機(図示略)は、空調対象空間の滞留空気を吸い込む吸込口及び空調空気を空調対象空間に供給する吹出口が形成されるケーシング(図示略)により骨格が形成されている。
【0014】
そして、このケーシングの内部には、吸込口から滞留空気を吸い込み吹出口から空調空気を吹き出す送風器(図示略)と、このファンから吹出口までの流路に配設され冷媒と熱交換することで滞留空気から空調空気を生成する熱交換器(図示略)と、が収容されている。そして、このケーシングの吹出口には、開口部の長手方向に沿って配置されたルーバー10が、空調空気の吹き出し方向を調節するように回動支持されている。
【0015】
図1に示すように、ルーバー10(樹脂成形体10)は、このルーバー10に付与される荷重を支持するリブ11(第1部材11)と、このリブ11と一体的に成形されるとともに空調空気の吹き出し方向を規定する本体部12(第2部材12)と、を備えている。
【0016】
そして平板状の本体部12は、発泡成形されており、自重、流体抵抗又は外力等により付与された荷重が、リブ11に伝達される。そして、このリブ11は、非発泡成形されており、本体部12から伝達された荷重を、自身(リブ11)を介して外部(例えば、ケーシング)に支持させる。
【0017】
図1においてリブ11の機能は、ケーシング側に設けられた軸体(図示略)がルーバー10を回動支持するため係合する軸受が例示されている。なおリブ11の適用に限定はなく、その他に、回動支持のための軸体や、本体部12の機械的強度を向上させるための補強材等も挙げられる。
【0018】
なお、ルーバー10を構成する樹脂は、ポリプロピレン(PP)や、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)、その他の汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックといった、射出成形用として一般的な熱可塑性樹脂が適用される。
【0019】
ここで、リブ11(第1部材11)の重量低減率Δwと、本体部12(第2部材12)の重量低減率Δwが相対的に異なり、Δw<Δwの関係を持つ。また発泡成形及び非発泡成形を区別する重量低減率の境界値は3%で設定され、Δw<3%<Δwの関係を持つ。つまり、リブ11と本体部12の両方の重量低減率Δw,Δw2が3%未満であれば両者共に非発泡成形とみなされ、リブ11と本体部12の両方の重量低減率Δw,Δw2が3%超過であれば両者共に発泡成形とみなされる。そして、3%と設定された境界値よりも低い重量低減率である領域は非発泡成形とみなされ、この境界値よりも高い重量低減率である領域は発泡成形とみなされる。なおここで、重量低減率とは、気泡が全く含まれていない理想状態である非発泡体の重量に対する差分の比を示す。
【0020】
ところで、ルーバー10(樹脂成形体)の重量低減率は全体において、まばらな分布を持つものである。このため本体部12及びリブ11の各々の80%以上の領域において、境界値で規定される重量低減率が達成されていれば、発泡成形及び非発泡成形の区別ができているとみなす。
【0021】
発泡成形される本体部12は、気泡径の分布の最頻値が30~50μmの範囲であることが望ましいが、溶融樹脂の流動末端部分ではこの上限が75μmもしくは150μmとなることも許容される。
【0022】
このようにルーバー10(樹脂成形体)が成形されることで、発泡成形された本体部12の片面において冷気(空調空気)を案内しても、その反対面との熱伝導が抑制され、滞留空気の湿気の結露が抑制され、水滴発生が防止される。さらに、非発泡成形されたリブ11により、ルーバー10を回動支持する軸受の機械的な強度が確保される。
【0023】
図2は本発明の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法に適用される射出成形機20および金型15の断面図である。この射出成形機20は、発泡剤として窒素、二酸化炭素等の超臨界流体(SCF:Supercritical Fluid)を高圧で大量に溶融樹脂へ溶解させることができる。そして溶融樹脂が金型15に射出されると、ルーバー10(樹脂成形体)を成形するキャビティ30で急激に減圧され、溶解した超臨界流体が気化して気泡が大量に生成する。
【0024】
このように射出成形機20は、超臨界流体の原料ガスである窒素や二酸化炭素を供給するボンベ21と、ブースターポンプ等でこの原料ガスを加圧して超臨界流体を生成し一定の流量で供給する供給部22と、ルーバー10(樹脂成形体)の原料となる樹脂ペレットを投入するホッパー27と、投入された固体の樹脂ペレットを加熱して溶融樹脂にするバレル28と、バレル28の円筒状の内部空洞で回転して溶融樹脂を混錬するスクリュー25と、超臨界流体をバレル28内に注入し溶融樹脂に溶解させる注入部26と、超臨界流体が溶解した溶融樹脂を金型15に射出するノズル29と、を備えている。
【0025】
金型15は、射出成形機20のノズル29に接続する固定型16と、この固定型16に対して移動することで型締めや成形品の取り出しを行う移動型17とからなる分割構造を持つ。これら固定型16及び移動型17が型締めされた状態で、ルーバー10(樹脂成形体)と形状一致した密閉空間であるキャビティ30が形成される。そして固定型16には、ノズル29から射出された溶融樹脂を通過させるスプール35と、このスプール35を通過した溶融樹脂を分岐してキャビティ30に分配するランナー36と、それぞれのランナー36の先端に設けられその口径を絞って開口するキャビティ30への溶融樹脂の流入速度を高める一方向からのゲート37と、を備えている。
【0026】
図3は、樹脂成形体のキャビティ30に充填される溶融樹脂の注入位置(ゲート37の接続位置)の説明図である。なお、図3は、このキャビティ30と形状が一致するルーバー10(樹脂成形体)も表している。図4は樹脂成形体のキャビティ30に溶融樹脂を分配するランナー36の説明図である。
【0027】
ここで、溶融樹脂の射出方向に直交する第1キャビティ31の断面の短辺寸法D(D1,D2,D3)とする。この場合、固定型16(図2)に備えられているランナー36(361,362,363)のそれぞれの長さL(L1,L2,L3)は、200×D<Lの関係を持つように設定される。このような関係を持つことで、重量低減率がΔw<3%<Δwの関係を持つリブ11(第1部材11)と本体部12(第2部材12)において、リブ11の重量低減率Δwをさらに小さくして強度を高め、同時に本体部12の重量低減率Δw2をさらに大きくして軽量化や断熱性を向上させることができる。なお、この断面短辺の長さが第1キャビティ31の断面位置によって異なる場合は、最大をとる位置断面の短辺寸法Dを採用する。
【0028】
図5のフローチャートに基づいて本発明の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法の工程を説明する。このように、平板状の本体部12にリブ11が設けられた樹脂成形体10の製造方法では、リブ11(第1部材11)が形成される第1キャビティ31のいずれかの位置(本体部12との連結箇所も含む)に開口する一方向からのゲート37に溶融樹脂を射出する(S11)。そして、第1キャビティ31から連続する第2キャビティ32に溶融樹脂が充填され、発泡した後に凝固して本体部12(第2部材12)が発泡成形される(S12)。さらに、第1キャビティ31では充填された溶融樹脂が発泡する前に凝固してリブ11が段階的に非発泡成形される(S13,END)。
【0029】
初期段階において、第1キャビティ31に射出された溶融樹脂の大部分は、第1キャビティ31に滞留することなく、第2キャビティ32に充填されていく。第1キャビティ31と対比して容積の大きい第2キャビティ32に流入した溶融樹脂は、急激に減圧され発泡を開始し、体積を増加させながら第2キャビティ32を充填していく。そして、第2キャビティ32に充填された溶融樹脂の発泡体は、金型で冷却され固化して発泡成形され本体部12を形成する。
【0030】
第2キャビティ32における溶融樹脂の発泡体の充填が完了した段階で、第1キャビティ31に滞留する溶融樹脂は、高い圧力を受けたまま発泡することなく金型で冷却され固化し、段階的に非発泡成形されたリブ11を形成する。なお以上の説明において、ルーバー10(樹脂成形体)は、超臨界流体を発泡剤に用いた例を示したが、発泡剤は特に限定されることなく、化学発泡剤を用いることもできる。また樹脂成形体10として、実施形態において空気調和機のルーバーを説明したが、これに限定されることはない。例えば、送風機用ファン、パネルのような強度が必要な固定部と軽量化が必要な駆動部を持つ樹脂成形体にも適用することができる。
【0031】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の樹脂成形体によれば、発泡成形された本体部(第2部材)と段階的に非発泡成形されたリブ(第1部材)とが一体的に成形され、両者を結合するためのネジ等が不要となり、さらに強度(結合力)が大きくなる。そして、全体として軽量化や断熱性といった発泡成形の利益を享受しつつ、必要な部分のみ強度を持たせることが可能となる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
10…ルーバー(樹脂成形体),11…リブ(第1部材),12…本体部(第2部材),15…金型,16…固定型,17…移動型,20…射出成形機,21…ボンベ,22…供給部,25…スクリュー,26…注入部,27…ホッパー,28…バレル,29…ノズル,30…キャビティ,31…第1キャビティ,32…第2キャビティ,35…スプール,36…ランナー,37…ゲート。
図1
図2
図3
図4
図5