(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法及び硫化物固体電解質材料の粉砕方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20250729BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250729BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20250729BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20250729BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20250729BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
H01B1/20 A
C01B25/14
(21)【出願番号】P 2020215281
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 晃弘
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038775(JP,A)
【文献】特開2020-115425(JP,A)
【文献】国際公開第2019/074074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 1/20
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備え、
上記溶媒が炭化水素系溶媒をさらに含有し
、
上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、下記式(2)を満たす硫化物固体電解質の製造方法。
R
1-COO-R
2 ・・・(1)
0.10≦b/(a+b+c)≦0.70 ・・・(2)
式(1)中、R
1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R
2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【請求項2】
硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備え、
上記溶媒が炭化水素系溶媒をさらに含有
し、
上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、下記式(2)を満たす硫化物固体電解質材料の粉砕方法。
R
1-COO-R
2 ・・・(1)
0.10≦b/(a+b+c)≦0.70 ・・・(2)
式(1)中、R
1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R
2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質材料の粉砕方法及び硫化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記リチウムイオン二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、リチウムイオン二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
近年、上記非水電解質として、有機溶媒等の液体に電解質塩が溶解された非水電解液に代えて硫化物固体電解質等の固体電解質を用いる蓄電素子が提案されている。高性能な固体電解質を得るためには、硫化物固体電解質材料を微粒子化する必要がある。硫化物固体電解質材料を微粒子化する方法としては、湿式粉砕を用い、原料を炭化水素系溶媒中で粉砕しつつ反応させる工程を有する硫化物系固体電解質ガラスの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記湿式粉砕は、原料の化合物を均一に混合できることから好ましい。しかしながら、上記従来技術のような湿式粉砕法を用いて硫化物固体電解質材料を粉砕した場合、イオン伝導度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる硫化物固体電解質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る硫化物固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備える。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【0008】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、硫化物固体電解質材料と下記式1で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備える。
R1-COO-R2・・・ (1)
式(1)中、R1及びR2は、非置換の炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【0009】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料の湿式粉砕物である。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面に係る硫化物固体電解質の製造方法によれば、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1の走査電子顕微鏡観察による画像である。
【
図2】
図2は、比較例1の走査電子顕微鏡観察による画像である。
【
図3】
図3は、参考例の走査電子顕微鏡観察による画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本明細書によって開示される硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質材料の粉砕方法及び硫化物固体電解質の概要について説明する。
【0013】
本発明の一側面に係る硫化物固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備える。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【0014】
当該硫化物固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質材料と上記化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備え、上記化合物のR1及びR2の炭素数が上記範囲であることで、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。上記湿式粉砕に用いる溶媒に含まれる化合物は、エステル基を有し、このエステル基に炭素数1以上の1価の炭化水素基であるR1及び炭素数2以上の1価の炭化水素基であるR2が結合されていることで、立体障害により硫化物固体電解質材料との反応性が低くなると考えられる。一方、R1及びR2が炭素数10以下の1価の炭化水素基であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において上記化合物が蒸発しやすくなり、溶媒の除去が容易になる。従って、当該硫化物固体電解質の製造方法は、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。ここで、「湿式粉砕」とは、液体の存在下で機械的に粉砕処理する方法である。
【0015】
当該硫化物固体電解質の製造方法は、上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、下記式(2)及び式(3)を満たすことが好ましい。
0.10≦b/(a+b+c)≦0.90 ・・・(2)
0.10≦c/(a+b+c)≦0.50 ・・・(3)
b/(a+b+c)が上記下限以上であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕をおこなうことができる。b/(a+b+c)が上記上限以下であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において効率良く溶媒を除去することができる。また、c/(a+b+c)が上記下限以上であることで、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。また、一度に多くの硫化物固体電解質材料を湿式粉砕により微細化することができ、生産性が向上する。c/(a+b+c)が上記上限以下であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕することができる。
【0016】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、硫化物固体電解質材料と下記式1で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備える。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【0017】
当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、硫化物固体電解質材料と上記化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備え、上記化合物のR1及びR2の炭素数が上記範囲であることで、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。上記湿式粉砕に用いる溶媒に含まれる化合物は、エステル基を有し、このエステル基に炭素数1以上の1価の炭化水素基であるR1及び炭素数2以上の1価の炭化水素基であるR2が結合されていることで、立体障害により硫化物固体電解質材料との反応性が低くなると考えられる。一方、R1及びR2が炭素数10以下の1価の炭化水素基であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において上記化合物が蒸発しやすくなり、溶媒の除去が容易になる。従って、当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができると推測される。
【0018】
当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、下記式(2)及び式(3)を満たすことが好ましい。
0.10≦b/(a+b+c)≦0.90 ・・・(2)
0.10≦c/(a+b+c)≦0.50 ・・・(3)
b/(a+b+c)が上記下限以上であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕をおこなうことができる。b/(a+b+c)が上記上限以下であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において効率良く溶媒を除去することができる。また、c/(a+b+c)が上記下限以上であることで、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。また、一度に多くの硫化物固体電解質材料を湿式粉砕により微細化することができ、生産性が向上する。c/(a+b+c)が上記上限以下であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕することができる。
【0019】
本発明の他の一側面に係る硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料の湿式粉砕物である。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
【0020】
当該硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料と上記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料の湿式粉砕物であり、上記化合物のR1及びR2の炭素数が上記範囲であることで、イオン伝導性の低下が抑制されている。このような効果が生じる理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。上記湿式粉砕物を得るための砕料の材料である溶媒に含まれる化合物は、エステル基を有し、このエステル基に炭素数1以上の1価の炭化水素基であるR1及び炭素数2以上の1価の炭化水素基であるR2が結合されていることで、立体障害により硫化物固体電解質材料との反応性が低くなると考えられる。一方、R1及びR2が炭素数10以下の1価の炭化水素基であることで、湿式粉砕物からの溶媒の除去が容易になる。従って、当該硫化物固体電解質は、湿式粉砕物である場合においても、イオン伝導性の低下が抑制されると推測される。
【0021】
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質材料の粉砕方法及び硫化物固体電解質について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0022】
<硫化物固体電解質の製造方法>
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕すること(湿式粉砕工程)を備える。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
また、本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記湿式粉砕工程を経る前の硫化物固体電解質材料又は上記湿式粉砕工程を経た後の硫化物固体電解質を加熱すること(加熱工程)を備えることが好ましい。
【0023】
[湿式粉砕工程]
本工程では、硫化物固体電解質材料と上記化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕する。
【0024】
(硫化物固体電解質材料)
硫化物固体電解質材料としては、例えばLi2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmS2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(但し、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP2S12等を挙げることができる。また、上記化合物以外にも、例えばLi2CO3、金属リチウム等のリチウムを含む化合物、P2S3、P2O5、P3N5、単体リン等のリンを含む化合物、Al2S3、MgS、単体硫黄等の硫黄を含む化合物、MgCl2、MgBr2、MgI2、CaCl2、CaBr2、CaI2等のハロゲン化物、MgO、CaO等の酸化物、Mg3N2等の窒化物などを含んでいてもよい。さらに、上記化合物は、上述の元素以外の元素を含む化合物等を含んでいてもよい。これらの化合物等は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
(溶媒)
湿式粉砕工程における上記溶媒は、下記式(1)で表される化合物を含有する。
R1-COO-R2 ・・・(1)
【0026】
上記式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。上記R1及びR2の炭素数が上記下限以上の1価の炭化水素基であることで、立体障害により硫化物材料との反応性が低くなる。一方、R1及びR2の炭素数が10以下の1価の炭化水素基であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において上記化合物が蒸発しやすくなり、溶媒の除去が容易になる。
【0027】
上記R1及びR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。上記R1及びR2としては、親水性の置換基を有していない炭化水素基が好ましく、非置換の炭化水素基がより好ましい。
【0028】
上記化合物は、エステル化合物であり、エステル化合物の具体例としては、例えば酪酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸ブチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0029】
湿式粉砕工程における溶媒としては、上記式(1)で表される化合物以外のその他の溶媒をさらに含有していてもよい。上記その他の溶媒としては、特に限定されないが、例えば炭化水素系溶媒を用いることができる。上記炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、2-メチルヘキサン、デカリン、テトラリン、ベンゼン、キシレン、トルエン等が挙げられる。また、これらを混合して用いることも可能である。これらの中でも、へプタンが好ましい。また、本発明では、溶媒の水分含有量が少ない方が好ましい。具体的には、溶媒の水分含有量は30ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましい。溶媒の水分含有量が上記上限以下であることで、硫化物固体電解質材料のイオン伝導性の低下を抑制できる。
【0030】
当該硫化物固体電解質の製造方法は、上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、b/(a+b+c)の下限としては、0.10が好ましく、0.20がより好ましく、0.30がさらに好ましい。b/(a+b+c)が上記下限以上であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕をおこなうことができる。また、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。一方、b/(a+b+c)の上限としては、0.90が好ましく、0.80がより好ましく、0.70がさらに好ましい。b/(a+b+c)が上記上限以下であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において効率良く溶媒を除去することができる。また、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。さらに、湿式粉砕後の硫化物固体電解質のイオン伝導度の観点から、b/(a+b+c)が0.30以上0.70以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、b/(a+b)の下限としては、0.12が好ましく、0.15がより好ましい。また、b/(a+b)は1.00であってもよい。b/(a+b)が上記下限以上であることで、イオン伝導性の低下の抑制効果がより高い硫化物固体電解質を得ることができる。
【0032】
c/(a+b+c)の下限としては、0.10が好ましく、0.13がより好ましく、0.15がさらに好ましい。c/(a+b+c)が上記下限以上であることで、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。また、一度に多くの硫化物固体電解質材料を湿式粉砕により微細化することができ、生産性が向上する。一方、c/(a+b+c)の上限としては、0.50が好ましく、0.40がより好ましく、0.30がさらに好ましい。c/(a+b+c)が上記上限以下であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕することができる。
【0033】
(湿式粉砕)
当該硫化物固体電解質の製造方法は湿式粉砕することを備える。湿式粉砕することを備えることにより原料の化合物をより均一に混合できる。上記湿式粉砕は、メカニカルミリングにより行うことが好ましい。メカニカルミリングとしては、例えば容器駆動型ミル、媒体撹拌ミル、高速回転粉砕機等によるミリング、ローラーミル、ジェットミル等が挙げられる。容器駆動型ミルとしては、例えば回転ミル、振動ミル、遊星ミル等が挙げられる。媒体撹拌ミルとしては、例えばアトライター、ビーズミル等が挙げられる。高速回転粉砕機によるミリングとしては、例えばハンマーミル、ピンミル等が挙げられる。これらの中でも、容器駆動型ミルが好ましく、特に遊星ミルが好ましい。
【0034】
上記湿式メカニカルミリング後の乾燥温度の上限としては、硫化物固体電解質材料の結晶化温度未満が好ましい。乾燥温度の下限としては、上記式(1)で表される化合物を含有する溶媒を乾燥させることによって除去可能であれば、特に限定されない。また、乾燥時間の上限としては、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。上記乾燥時間を上記上限以下とすることで、微細化した硫化物固体電解質が再凝集することを抑制できる。上記乾燥においては、ホットプレート、乾燥炉、電気炉等を用いることができる。
【0035】
上記湿式粉砕工程後の硫化物固体電解質の平均粒子径としては、例えば、0.10μm以上10μm以下とすることが好ましい。上記硫化物固体電解質の平均粒子径を上記下限以上とすることで、硫化物固体電解質のイオン伝導性の低下を抑制できる。上記硫化物固体電解質の平均粒子径を上記上限以下とすることで、硫化物固体電解質と活物質との接触面積が向上する。「平均粒子径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。また、上記硫化物固体電解質の平均粒子径は、湿式粉砕の条件を制御することにより、調整することが可能である。
【0036】
[加熱工程]
本工程では、上記湿式粉砕工程を経る前の硫化物固体電解質材料又は上記湿式粉砕工程を経た後の硫化物固体電解質を加熱(熱処理)する。これにより、少なくとも一部が結晶化された硫化物固体電解質が得られる。加熱(熱処理)は、減圧雰囲気下で行ってもよく、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。後述するアルジロダイト型硫化物固体電解質のように高温で加熱(熱処理)する硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料に対して上記加熱工程後に上記湿式粉砕工程を行うことで、加熱(熱処理)による硫化物固体電解質の凝集を抑制できる。
【0037】
加熱工程により得られる硫化物固体電解質は、少なくとも一部が結晶構造を有する。上記硫化物固体電解質が有する結晶構造としては、LGPS型、アルジロダイト型、Li7P3S11、HICP(High Ion Conduction Phase:Li、P、S、及び特定元素を含有する硫化物固体電解質が形成するイオン伝導度の高い準安定相)、Thio-LISICON系等が挙げられる。
【0038】
上記加熱工程の加熱温度としては、LGPS型及びアルジロダイト型の場合、350℃以上700℃未満が好ましく、400℃以上600℃以下がより好ましい。Li7P3S11の場合、200℃以上400℃未満が好ましく、250℃以上350℃以下がより好ましい。HICPの場合、100℃以上350℃未満が好ましく、150℃以上300℃以下がより好ましい。Thio-LISICON系の場合、150℃以上350℃未満が好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。加熱温度を上記範囲とすることで、十分に結晶化が進行し、イオン伝導性がより高い硫化物固体電解質を得ることができる。
【0039】
当該硫化物固体電解質の製造方法により製造される硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の下限としては、0.50mS/cmが好ましく、1.0mS/cmがより好ましく、1.5mS/cmがさらに好ましい。上記硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度が上記下限以上であることで、当該硫化物固体電解質を備える蓄電素子の充放電性能をより改善することができる。上記イオン伝導度の上限は、特に限定されず、例えば100mS/cmであってよい。
【0040】
上記硫化物固体電解質のイオン伝導度は、以下の方法で交流インピーダンスを測定して求める。露点-50℃以下のアルゴン雰囲気下で、内径10mmの粉体成型器に試料粉末を120mg投入したのちに、油圧プレスを用いて50MPa以下で一軸加圧成形する。圧力解放後に、試料の上面に集電体としてSUS316L粉末を120mg投入したのちに、再度油圧プレスを用いて50MPa以下で一軸加圧成形する。次に、試料の下面に集電体としてSUS316L粉末を120mg投入したのちに、360MPa、5min一軸加圧成形することによりイオン伝導度測定用ペレットを得る。このイオン伝導度測定用ペレットを宝泉社製HSセル内に挿入して、所定温度下で交流インピーダンス測定を行う。測定条件は、印加電圧振幅20mV、周波数範囲1MHzから100mHz、測定温度25℃とする。
【0041】
当該硫化物固体電解質の製造方法により製造される硫化物固体電解質は、リチウムイオン二次電池等の蓄電素子、特にリチウムイオン蓄電素子の電解質として好適に用いることができる。中でも、全固体電池の電解質として特に好適に用いることができる。なお、上記硫化物固体電解質は、蓄電素子における正極層、隔離層、負極層等のいずれにも用いることができる。
【0042】
当該硫化物固体電解質の製造方法によれば、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。また、微細な粒子の硫化物固体電解質を得ることができる。
【0043】
<硫化物固体電解質材料の粉砕方法>
本発明の一実施形態に係る硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備える。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、硫化物固体電解質材料と上記化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することを備え、上記化合物のR1及びR2の炭素数が上記範囲であることで、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができる。
【0044】
当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法は、上記溶媒から上記化合物を除いた質量をa[g]、上記化合物の質量をb[g]、上記硫化物固体電解質材料の質量をc[g]とするとき、下記式(2)及び式(3)を満たすことが好ましい。
0.10≦b/(a+b+c)≦0.90 ・・・(2)
0.10≦c/(a+b+c)≦0.50 ・・・(3)
b/(a+b+c)が上記下限以上であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕をおこなうことができる。b/(a+b+c)が上記上限以下であることで、湿式粉砕後の乾燥工程において効率良く溶媒を除去することができる。また、c/(a+b+c)が上記下限以上であることで、湿式粉砕後の硫化物固体電解質は、高いイオン伝導度を維持することができる。また、一度に多くの硫化物固体電解質材料を湿式粉砕により微細化することができ、生産性が向上する。c/(a+b+c)が上記上限以下であることで、硫化物固体電解質材料が溶媒中に分散しやすくなるため、効率良く湿式粉砕することができる。
【0045】
当該硫化物固体電解質材料の粉砕方法における湿式粉砕工程の詳細は、硫化物固体電解質の製造方法における湿式粉砕工程と同様である。
【0046】
<硫化物固体電解質>
当該硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料と下記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料の湿式粉砕物である。
R1-COO-R2 ・・・(1)
式(1)中、R1は、炭素数1以上10以下の1価の炭化水素基である。R2は、炭素数2以上10以下の1価の炭化水素基である。
当該硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質材料と上記式(1)で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料の湿式粉砕物であり、上記化合物のR1及びR2の炭素数が上記範囲であることで、イオン伝導性の低下が抑制される。
【0047】
当該硫化物固体電解質における湿式粉砕物の構成は、硫化物固体電解質の製造方法における湿式粉砕工程に記載の内容と同様である。
【0048】
<その他の実施形態>
なお、本発明の硫化物固体電解質の製造方法、硫化物固体電解質材料の粉砕方法及び硫化物固体電解質は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0049】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1から実施例6、比較例1及び比較例2]
(湿式粉砕工程)
Li6PS5Clからなる硫化物固体電解質材料と表1に示す組成の溶媒とを含む砕料を準備した。なお、表1の「―」は、該当する成分を含まないことを表す。
上記砕料を、直径1mmのジルコニアボールが70g入った密閉式の80mLジルコニアポットに投入した。遊星ボールミル(FRITSCH社製、型番Premium line P-7)によって公転回転数200rpmで20時間の湿式メカニカルミリング処理を行った。
【0051】
(加熱工程)
湿式粉砕工程を経た後の硫化物固体電解質をジルコニアポットから取り出し、真空下において、100℃で3時間加熱(乾燥)して溶媒を除去した。
【0052】
[参考例]
湿式粉砕工程を経る前の硫化物固体電解質材料を参考例とした。
【0053】
[評価]
(イオン伝導度)
各実施例及び比較例の製造方法により得られた硫化物固体電解質並びに参考例の硫化物固体電解質材料の25℃におけるイオン伝導度(σ25)を、Bio-Logic社製「VMP-300」を用いて上述の方法で交流インピーダンスを測定し、求めた。測定結果を表1に示す。
【0054】
(イオン伝導度の相対値)
参考例の硫化物固体電解質材料に対する各実施例及び比較例の製造方法により得られた硫化物固体電解質の25℃におけるイオン伝導度の割合(%)をイオン伝導度の相対値として算出した。結果を表1に示す。
【0055】
(硫化物固体電解質の粒子の大きさ評価)
実施例1及び比較例1の製造方法により得られた硫化物固体電解質並びに参考例の硫化物固体電解質材料について、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行った。
図1に実施例1の製造方法により得られた硫化物固体電解質のSEM観察による画像を示し、
図2に比較例1の製造方法により得られた硫化物固体電解質のSEM観察による画像を示し、
図3に参考例の硫化物固体電解質材料のSEM観察による画像を示す。
【0056】
【0057】
表1に示されるように、硫化物固体電解質材料と上記式1で表される化合物を含有する溶媒とを含む砕料を湿式粉砕することにより製造された実施例1から実施例6の硫化物固体電解質は、比較例1及び比較例2と比較すると十分に高いイオン伝導度を有するものであった。また、
図1から
図3に示す実施例1、比較例1及び参考例のSEM観察による画像から、実施例1の製造方法により得られた硫化物固体電解質は参考例の硫化物固体電解質材料と比較すると微細な粒子であり、比較例1の製造方法により得られた硫化物固体電解質と同程度まで微細化されていることがわかる。
【0058】
以上の結果から、当該硫化物固体電解質の製造方法は、湿式粉砕法を用いた場合においても、イオン伝導性の低下が抑制された硫化物固体電解質を得ることができることが示された。従って、当該硫化物固体電解質の製造方法により製造された硫化物固体電解質は、全固体電池等の蓄電素子の硫化物固体電解質として好適に用いることができる。