(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】無機静菌剤
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20250729BHJP
C01B 37/00 20060101ALI20250729BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20250729BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250729BHJP
A01N 59/06 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
C01B37/00
A01N25/08
A01P3/00
A01N59/06 Z
A01N59/16 A
(21)【出願番号】P 2021043714
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2020046082
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】木村(三溝) 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】大橋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】生田目 大輔
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015640(JP,A)
【文献】特開平03-190805(JP,A)
【文献】特開平02-306904(JP,A)
【文献】特開2008-260718(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103798289(CN,A)
【文献】特開2017-023292(JP,A)
【文献】特開2002-187712(JP,A)
【文献】高温学会誌,2009年,35(3),pp.121-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P,B01J,C01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、ジルコニウム、コバルト、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種である静菌性金属とアルミニウムがドープされた多孔質シリカからなる無機静菌剤
。
【請求項2】
マンガン、鉄から選択される少なくとも1種の金属がさらにドープされている請求項
1記載の無機静菌剤
。
【請求項3】
銅、ジルコニウム、コバルト、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種である静菌性金属とアルミニウムがドープされた多孔質シリカの、物品に静菌性を付与するための素材としての
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果の持続性に優れる無機静菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、銀、亜鉛などの金属が、イオンの形態で静菌効果を発揮することは古くから知られており、これらの金属イオンをシリカゲルやゼオライトなどの担体に吸着させてなる無機静菌剤は、繊維製品、皮革製品、建材、木材、塗料、接着剤、プラスチック、フィルム、セラミックス、紙、パルプ、金属加工油、水処理剤、化粧品、文房具、玩具、容器、キャップ、注出具、スパウトなどの我々の身の回りの物品に静菌性を付与するための素材として利用されている(例えば非特許文献1)。しかしながら、こうした無機静菌剤は、担体に吸着させた静菌効果を有する金属イオンが担体から脱離して静菌効果を発揮するため、静菌効果を有する金属イオンの担体への吸着量が次第に減少するに従って、その静菌効果も次第に低下する性質を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松村吉信、銀イオンや銅イオンの抗菌性、化学と教育53巻5号(2005年)、p288-291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、効果の持続性に優れる無機静菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ところで、本発明者らは、各種の金属がドープされた多孔質シリカの研究開発にこれまで精力的に取り組んできており、その成果の1つとして、マンガン、銅、鉄がドープされた多孔質シリカが、硫黄含有臭気に対する優れた消臭効果を発揮することを特開2020-15640号公報で報告している。ここで、「金属がドープされた多孔質シリカ」とは、多孔質シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に金属が化学結合して組み込まれている多孔質シリカを意味する。本発明者らは、金属がドープされた多孔質シリカのさらなる研究開発を進めた結果、静菌性金属がドープされた多孔質シリカが、静菌効果の持続性に優れることを見出した。
【0006】
上記の知見に基づいてなされた本発明の無機静菌剤は、請求項1記載の通り、銅、ジルコニウム、コバルト、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種である静菌性金属とアルミニウムがドープされた多孔質シリカからなる。
また、請求項2記載の無機静菌剤は、請求項1記載の無機静菌剤において、マンガン、鉄から選択される少なくとも1種の金属がさらにドープされている。
また、本発明は、請求項3記載の通り、銅、ジルコニウム、コバルト、銀、亜鉛から選択される少なくとも1種である静菌性金属とアルミニウムがドープされた多孔質シリカの、物品に静菌性を付与するための素材としての使用である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果の持続性に優れる無機静菌剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の無機静菌剤は、静菌性金属がドープされた多孔質シリカからなる。
【0009】
本発明において用いることができる静菌性金属としては、例えば、イオンの形態で静菌効果を発揮する金属であって、多孔質シリカにドープすることができることが知られている、銅、ジルコニウム、コバルトが挙げられる。静菌性金属は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
静菌性金属がドープされた多孔質シリカ中の静菌性金属の含量は、例えば0.01~10wt%、好ましくは0.1~5wt%である。静菌性金属がドープされた多孔質シリカ中の静菌性金属の含量が0.01wt%を下回ると、十分な静菌効果が得られない恐れがある一方、10wt%を超える量の静菌性金属がドープされた多孔質シリカは、製造が困難な恐れがある。
【0011】
多孔質シリカとしては、例えば直径2~50nmの細孔(メソ孔)が規則的に配列したメソポーラスシリカが挙げられる。
【0012】
多孔質シリカの比表面積は、例えば500~2000m2/gであることが、耐久性を維持することができる点において好ましい。
【0013】
静菌性金属がドープされたメソポーラスシリカの製造は、例えば本発明者らが特開2020-15640号公報に記載した自体公知の以下の方法に従って行うことができる。
【0014】
(工程1)
まず、界面活性剤と、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料を、溶媒に溶解し、例えば30~200℃で0.5~10時間攪拌することで、界面活性剤にミセルを形成させる。
【0015】
界面活性剤の溶媒への溶解量は、例えば10~400mmol/L、好ましくは50~150mmol/Lである。或いは、界面活性剤の溶媒への溶解量は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.01~5.0mol、好ましくは0.05~1.0molである。
【0016】
界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤の何れを用いてもよいが、好ましくはアルキルアンモニウム塩などの陽イオン性界面活性剤である。アルキルアンモニウム塩は、炭素数が8以上のアルキル基を有するものが好ましく、工業的な入手の容易さに鑑みると、炭素数が12~18のアルキル基を有するものがより好ましい。アルキルアンモニウム塩の具体例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロマイド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒への溶解量は、後述する工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molである。
【0018】
静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料としては、例えば静菌性金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、オキシ塩化物を用いることができる。静菌性金属が銅の場合は硝酸銅や塩化銅を用いることが好ましい。ジルコニウムの場合はオキシ塩化ジルコニウムを用いることが好ましい。コバルトの場合は硝酸コバルトを用いることが好ましい。静菌性金属をドープするための原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
溶媒としては、例えば水を用いることができる。溶媒は、水と、メタノール、エタノール、ジエチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコールをはじめとする水溶性有機溶媒の混合溶媒であってよい。
【0020】
(工程2)
次に、工程1において得た、界面活性剤がミセルを形成する溶液に、シリカ原料を例えば室温で溶解し、均一になるまで攪拌して、界面活性剤のミセルの表面にシリカ原料を集積させる。シリカ原料の溶液への溶解量は、例えば0.2~1.8mol/Lである。或いは、溶媒として水や水と水溶性有機溶媒の混合溶媒を用いる場合、水1molに対し、例えば0.001~0.05molである。
【0021】
シリカ原料は、脱水縮合することでメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成するものであれば特に限定されない。シリカ原料の具体例としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラ-n-ブトキシシランなどのテトラアルコキシシランや、ケイ酸ナトリウムが挙げられる。好ましくはテトラアルコキシシランであり、より好ましくはテトラエトキシシランである。シリカ原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
(工程3)
次に、界面活性剤のミセルの表面に集積させたシリカ原料を脱水縮合させて、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークを形成させるとともに、無機ネットワーク中に静菌性金属を化学結合させて組み込ませる。シリカ原料の脱水縮合は、例えば、系内に塩基性水溶液を添加してpHを上げた後、室温で1時間以上攪拌することで行わせることができる。塩基性水溶液は、pHが添加直後に8~14となるように添加することが好ましく、9~11となるように添加することがより好ましい。塩基性水溶液の具体例としては、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。塩基性水溶液は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、シリカ原料の脱水縮合は、系内に塩酸水溶液などの酸性水溶液を添加してpHを下げた後、攪拌することで行わせることもできる。
【0023】
(工程4)
最後に、工程3において得た、メソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなり、静菌性金属が化学結合して組み込まれた無機ネットワークを表面に形成させた界面活性剤のミセルを、沈殿物として濾過して回収し、例えば、30~70℃で10~48時間乾燥した後、400~600℃で1~10時間焼成することで、目的とする静菌性金属がドープされたメソポーラスシリカを得る。こうして得た静菌性金属がドープされたメソポーラスシリカは、必要に応じてミキサーやミルで粉砕し、所望する粒径(例えばメディアン径が0.01~100μm)を有するようにしてもよい。
【0024】
なお、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の系内への添加は、上記の工程1において界面活性剤とともに溶媒に溶解する態様に限定されず、工程3におけるシリカ原料が脱水縮合することによるメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワークの形成が完結するまでであれば、工程2や工程3において溶液に溶解する態様であってもよい。
【0025】
例えば以上の方法に従って製造された本発明の無機静菌剤は、静菌効果の持続性に優れる。その理由は必ずしも明らかではないが、後述する実施例に示す通り、本発明の無機静菌剤は、従来から知られている無機静菌剤が、担体に吸着させた静菌効果を有する金属イオンが担体から脱離して静菌効果を発揮するように、多孔質シリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に化学結合して組み込まれた静菌効果を有する金属が無機ネットワークから脱離して静菌効果を発揮するのではなく、静菌効果を有する金属は無機ネットワーク中に化学結合して組み込まれたまま静菌効果を発揮することに関係していると本発明者らは考えている。
【0026】
本発明の無機静菌剤において、多孔質シリカにドープされた静菌性金属が銅の場合、銅がドープされた多孔質シリカは、本発明者らが特開2020-15640号公報で報告したように、硫黄含有臭気に対する優れた消臭効果を発揮するので、消臭効果と静菌効果を兼ね備える。また、多孔質シリカにドープされた静菌性金属がジルコニウムの場合、本発明者らが特開2020-15640号公報で報告したように、ジルコニウムは多孔質シリカの耐久性を高める効果を有するので、ジルコニウムがドープされた多孔質シリカは、耐久性に優れる。
【0027】
また、本発明の無機静菌剤は、静菌性金属以外の金属が多孔質シリカにドープされてもよい。静菌性金属以外の金属の具体例としては、ジルコニウムと同様に、多孔質シリカの耐久性を高める効果を有するアルミニウムが挙げられる。静菌性金属とともにアルミニウムがドープされた多孔質シリカ中のアルミニウムの含量は、例えば0.01~10wt%、好ましくは0.1~5wt%であるが、静菌性金属の含量との合計量が最大で10wt%であることがより好ましい。
【0028】
アルミニウムを静菌性金属とともに多孔質シリカにドープする方法としては、例えば、上述した静菌性金属がドープされたメソポーラスシリカの製造方法において、その原料(例えば塩化アルミニウム)を、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料とともに溶媒や溶液に溶解する方法が挙げられる。アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒や溶液への溶解量は、工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molであるが、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒や溶液への溶解量との合計量が、シリカ原料1molに対し最大で0.5molであることがより好ましい。
【0029】
また、静菌性金属以外の金属として、マンガンや鉄が多孔質シリカにドープされてもよい。本発明者らが特開2020-15640号公報で報告したように、マンガンや鉄が静菌性金属とともに多孔質シリカにドープされることで、硫黄含有臭気に対する優れた消臭効果を発揮する。静菌性金属とともにマンガンや鉄がドープされた多孔質シリカ中のマンガンや鉄の含量は、例えば0.01~10wt%、好ましくは0.1~5wt%であるが、静菌性金属の含量との合計量(アルミニウムが多孔質シリカにドープされる場合にはその含量を含めた合計量)が最大で10wt%であることがより好ましい。
【0030】
マンガンや鉄を静菌性金属とともに多孔質シリカにドープする方法としては、例えば、上述した静菌性金属がドープされたメソポーラスシリカの製造方法において、その原料(例えば塩化マンガンや塩化鉄)を、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料とともに溶媒や溶液に溶解する方法が挙げられる。マンガンや鉄をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒や溶液への溶解量は、工程2において添加するシリカ原料1molに対し、例えば0.001~0.5mol、好ましくは0.01~0.1molであるが、静菌性金属をメソポーラスシリカにドープするための原料の溶媒や溶液への溶解量との合計量(アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料を溶媒や溶液に溶解する場合にはその溶解量を含めた合計量)が、シリカ原料1molに対し最大で0.5molであることがより好ましい。
【0031】
本発明の無機静菌剤は、繊維製品、皮革製品、建材、木材、塗料、接着剤、プラスチック、フィルム、セラミックス、紙、パルプ、金属加工油、水処理剤、化粧品、文房具、玩具、容器、キャップ、注出具、スパウトなどの我々の身の回りの物品に静菌性を付与するための素材として利用することができる。その利用態様は、従来から知られている、静菌効果を有する金属イオンを担体に吸着させた無機静菌剤の利用態様と同じであってよく、例えば、塗料などに配合して物品の表面に塗布する態様や、物品を製造するための材料に配合して物品を製造する態様で利用することで、物品に静菌性を付与することができるとともに、物品が容器などの場合には、物品に封入や充填した内容物に対して静菌効果を発揮することも期待することができる。また、本発明の無機静菌剤は、ペレット状などに成形し、物品と混合して、或いは、それ単独で利用することができる他、水などの分散媒に懸濁させてスラリーの形態で各種の液状物品に配合して利用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0033】
実施例1:静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造とその静菌効果
界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウムを、溶媒としての水に溶解し、100℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却してから、シリカ原料としてのテトラエトキシシランをさらに溶解して均一になるまで攪拌した。次いで、反応液に、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を、添加直後のpHが9となるように添加し、室温で20時間攪拌した。生成した沈殿物を濾過して回収し、50℃で24時間乾燥した後、570℃で5時間焼成することで、目的とする銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカをごくわずかに青みがかった白色粉末として得た。
【0034】
なお、界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、銅をメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化銅、アルミニウムをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化アルミニウム、溶媒としての水のそれぞれの使用量は、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、以下の通りとした。
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド:0.225mol
塩化銅:0.0204mol
塩化アルミニウム:0.0482mol
水:125mol
また、塩基性水溶液としての水酸化ナトリウム水溶液を調製するために、水酸化ナトリウムを、シリカ原料としてのテトラエトキシシラン1molに対し、0.195mol用いた。
【0035】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカは、比表面積が1100m2/g、細孔容積が0.72cm3/g、細孔の直径が2.6nmであった(マイクロトラックベル社製BELSORP MAX II型を用いて多点法で液体窒素温度にて窒素ガスの吸着等温線を測定しBJH計算により算出)。また、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ約50mgを精確に量り取り、4mLの塩酸に溶解した後、塩酸溶液中の銅とアルミニウムの濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Thermo Scientific社製ICP-OES)を用いて測定し、測定結果に基づいて、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカ中の銅の含量とアルミニウムの含量を算出したところ、銅の含量は2.09wt%であり、アルミニウムの含量は2.00wt%であった。メソポーラスシリカに銅とアルミニウムがドープされていることは、X線光電子分光装置(Thermo Scientific社製K-Alpha Surface Analysis)と透過型電子顕微鏡(JEOL社製JEM2010)で確認した。
【0036】
以上の方法で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの静菌効果を、日本薬局方に記載の保存効力試験法に従って評価した。具体的には、この銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを、ミキサーで粉砕してメディアン径を25~31μm程度(レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD-3100)による、以下同じ)としてから、その5gを、250mLのポリプロピレン製ポット(アイボーイPP広口びん:アズワン社製)に、分散媒としての水95gとメディアとしての2mmφのアルミナボール(ニッカトー社製、アルミナ純度:93%、かさ密度:3.6g/cm3)210g(約14000個)とともに入れ、ポットミルで湿式粉砕を8時間行った後、アルミナボールを濾別することで、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを水に懸濁させてなるスラリー(メディアン径が0.50μmの銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを5wt%の含量で含む)を得た。こうして得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを水に懸濁させてなるスラリー10mLに、各種の試験菌液0.1mLを接種し、攪拌後、25℃で28日間静置し、試験開始前後の生菌数を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1から明らかなように、銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカは、各種の菌類に対して静菌効果を発揮することがわかった。なお、上記の銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの含量が5wt%のスラリーは、液中への銅イオンの溶出がほとんどなく、55日間静置した後においても溶出量は10ppmであり(誘導結合プラズマ発光分光分析装置(同上)を用いて測定)、静菌効果を持続して発揮した。
【0039】
銅イオンの、例えば、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)は、それぞれ、400ppm、400ppm、200ppmであることが知られているが、銅イオンのこれらの菌類に対する最小発育阻止濃度に鑑みると、上記の銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの静菌効果は、スラリー中に溶出した銅イオンが静菌効果を発揮することによるものではない。即ち、上記の銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカは、銅がメソポーラスシリカを構成するシロキサン結合からなる無機ネットワーク中に化学結合して組み込まれたまま静菌効果を発揮すると考えられる。このことは、本発明者らを含めた当業者にとって予想外の結果である。スラリー中に溶出した銅イオンが静菌効果を発揮するのではないことは、このスラリーを液状物品に配合しても、液状物品の銅イオンの濃度を高めることがないので、銅イオンを含ませたくない液状物品(例えば銅イオンによるヘアのダメージが懸念される液状のヘアケア化粧品やヘア消臭剤)に静菌効果を付与するのに都合がよい。この観点からは、静菌性金属がドープされた多孔質シリカをその含量が例えば0.1~10wt%となるように分散媒に懸濁させてなるスラリーを想定すると、スラリー中への静菌性金属イオンの溶出量は、スラリーを25℃で55日間静置した場合において、400ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が最も好ましい。
【0040】
実施例2:静菌性金属としてジルコニウムがドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造とその静菌効果
塩化銅のかわりにオキシ塩化ジルコニウムを用いること以外は実施例1と同様にして、静菌性金属としてジルコニウムがドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを得た。その静菌効果は、程度の違いはあるが、実施例1で得た静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカと同様であった。
【0041】
実施例3:静菌性金属としてコバルトがドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカの製造とその静菌効果
塩化銅のかわりに硝酸コバルトを用いること以外は実施例1と同様にして、静菌性金属としてコバルトがドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを得た。その静菌効果は、程度の違いはあるが、実施例1で得た静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカと同様であった。
【0042】
実施例4:静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムとマンガンがドープされたメソポーラスシリカの製造とその静菌効果
マンガンをメソポーラスシリカにドープするための原料としての塩化マンガン0.0204molを、溶媒としての水にさらに溶解すること以外は実施例1と同様にして、静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムとマンガンがドープされたメソポーラスシリカを得た。その静菌効果は、程度の違いはあるが、実施例1で得た静菌性金属として銅がドープされるとともにアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカと同様であった。また、マンガンがドープされたことによる消臭効果が認められた。
【0043】
応用例1:銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを配合した水性塗料の製造
実施例1で得た銅とアルミニウムがドープされたメソポーラスシリカを、その含量が0.5wt%になるように水性塗料に配合することで、静菌効果を発揮する水性塗料を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、効果の持続性に優れる無機静菌剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。