(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20250729BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20250729BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20250729BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20250729BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2021160726
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2024-03-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間 広文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広規
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-243716(JP,A)
【文献】特開2018-205230(JP,A)
【文献】特開2020-046365(JP,A)
【文献】特開平04-215083(JP,A)
【文献】特開2020-205253(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0349330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの特性を推定する推定装置であって、
特性が既知である蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子と、前記放電及び/又は充電を停止したあとの複数点の休止後因子と、に基づいて構築された推定モデルを用い、推定対象である蓄電デバイスの複数点の前記継続時因子及び複数点の前記休止後因子を取得し、取得した前記継続時因子と前記休止後因子とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの特性
として容量を推定する制御部、を備え、
前記制御部は、蓄電デバイスの放電及び/又は充電の開始時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する前記継続時因子と、蓄電デバイスの放電及び/又は充電の停止時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する前記休止後因子と、を説明変数として用い、2点以上6点以下の前記継続時因子と、2点以上6点以下の前記休止後因子と、を説明変数として用
い、放電及び/又は充電の開始時からの推定に用いる最長の経過時間tc
F
を60秒≦tc
F
≦1000秒の範囲、放電及び/又は充電の停止時からの推定に用いる最長の経過時間ts
F
を40秒≦ts
F
≦1260秒の範囲とする、推定装置。
【請求項2】
前記蓄電デバイスの特性は、容
量であ
り、
放電及び/又は充電の開始時からの推定に用いる最長の経過時間tc
F
を60秒≦tc
F
≦300秒の範囲、放電及び/又は充電の停止時からの推定に用いる最長の経過時間ts
F
を40秒≦ts
F
≦300秒の範囲とする、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記継続時因子及び前記休止後因子は、蓄電デバイスの電圧である、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記継続時因子と前記休止後因子とを取得し機械学習によって前記推定モデルを構築する、請求項1~3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記機械学習の手法としてランダムフォレストを用いる、請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記継続時因子と前記休止後因子とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの特性を推定し、前記蓄電デバイスの劣化度を判定する、請求項1~5のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
蓄電デバイスを放電及び/又は充電し、前記継続時因子及び前記休止後因子を測定する測定装置と、
請求項1~6のいずれか1項に記載の推定装置と、を備え、
前記制御部は、前記測定装置から前記蓄電デバイスの前記継続時因子及び前記休止後因子を取得する、推定システム。
【請求項8】
蓄電デバイスの特性を推定する推定方法であって、
特性が既知である蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子と、前記放電及び/又は充電を停止したあとの複数点の休止後因子と、に基づいて構築された推定モデルを用い、推定対象である蓄電デバイスの複数点の前記継続時因子及び複数点の前記休止後因子を取得し、取得した前記継続時因子と前記休止後因子とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの特性
として容量を推定するステップ、を含み、
前記ステップでは、蓄電デバイスの放電及び/又は充電の開始時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する前記継続時因子と、蓄電デバイスの放電及び/又は充電の停止時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する前記休止後因子と、を説明変数として用い、2点以上6点以下の前記継続時因子と、2点以上6点以下の前記休止後因子と、を説明変数として用い
、放電及び/又は充電の開始時からの推定に用いる最長の経過時間tc
F
を60秒≦tc
F
≦1000秒の範囲、放電及び/又は充電の停止時からの推定に用いる最長の経過時間ts
F
を40秒≦ts
F
≦1260秒の範囲とする、推定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の推定方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスの劣化を推定する方法としては、例えば、リチウムイオン二次電池を放電させて、その電圧が下限電圧に到達するまでの時間、電流量、電力量を測定し、この測定値と規定された閾値とを用いて劣化電池を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、蓄電デバイスの劣化の推定方法としては、リチウムイオン二次電池の充電抵抗値と放電抵抗値とを電流センサーと電圧センサーを用いて算出し、充電抵抗値と放電抵抗値との関係値から、劣化電池を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、蓄電デバイスの劣化の推定方法としては、充電および放電後のリチウムイオン二次電池の電圧と電流から内部抵抗を算出し、その内部抵抗を用いて劣化電池を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、蓄電デバイスの劣化の推定方法としては、リチウムイオン二次電池のパルス電流による充電電圧と放電電圧を測定し、充電抵抗値と放電抵抗値との関係値から、劣化電池を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、蓄電デバイスの劣化の推定方法としては、外部抵抗を直列に接続し、外部抵抗に所定の放電電流を一定時間流した時の電圧値から、劣化電池を判定する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-102343号公報
【文献】特開2020-101470号公報
【文献】特開2020-85599号公報
【文献】特開2020-20715号公報
【文献】特開2012-132758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1では、蓄電デバイスを放電させた時の電圧に関してのみ推定に用い、また、放電後、閾値に達した1点のデータのみで特性を推定しており、その推定精度に課題があった。また、特許文献2~4では、蓄電デバイスを充電および放電させた時の電圧と電流とから各抵抗値を求めているが、まだ十分でなく、その推定精度に課題があった。また、特許文献5では、外部抵抗に所定の放電電流を一定時間流した時の電圧値から劣化電池を判定しているが、まだ十分でなく、その推定精度に課題があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの特性を推定することができる新規な推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、放電時及び充電時を含む充放電時の複数点の継続時因子と、この充放電を停止したあとの複数点の休止後因子とを用いた機械学習により蓄電デバイスの特性の推定モデルを構築し、この推定モデルから、特性未知の蓄電デバイスの特性を推定するものとすれば、精度をより高めつつより効率的に蓄電デバイスの特性を推定することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示する推定装置は、
蓄電デバイスの特性を推定する推定装置であって、
特性が既知である蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子と、前記放電及び/又は充電を停止したあとの複数点の休止後因子と、に基づいて構築された推定モデルを用い、推定対象である蓄電デバイスの複数点の前記継続時因子及び複数点の前記休止後因子を取得し、取得した前記継続時因子と前記休止後因子とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの特性を推定する制御部、
を備えたものである。
【0008】
本明細書で開示する推定システムは、
蓄電デバイスを放電及び/又は充電し、前記継続時因子及び前記休止後因子を測定する測定装置と、
上述した推定装置と、を備え、
前記制御部は、前記測定装置から前記蓄電デバイスの前記継続時因子及び前記休止後因子を取得するものである。
【0009】
本明細書で開示する推定方法は、
蓄電デバイスの特性を推定する推定方法であって、
特性が既知である蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子と、前記放電及び/又は充電を停止したあとの複数点の休止後因子と、に基づいて構築された推定モデルを用い、推定対象である蓄電デバイスの複数点の前記継続時因子及び複数点の前記休止後因子を取得し、取得した前記継続時因子と前記休止後因子とを説明変数として用いて前記推定モデルから該蓄電デバイスの特性を推定するステップ、
を含むものである。
【0010】
本明細書で開示するプログラムは、上述した推定方法のステップを1又は複数のコンピュータに実現させるものである。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラムでは、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。本開示がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの主な劣化としては、「正極劣化」、「負極劣化」および「正負極の容量ずれ」の3つの劣化モードが知られており、そのため精度よく劣化度を推定するためには少なくとも説明変数は3つ以上必要となる。一方、劣化度など、蓄電デバイスの特性は、劣化に伴う内部抵抗の変化に現れることから、内部抵抗を反映した充放電時の因子の時間変化と、充放電の停止後の因子の時間変化とから、より効率よく、且つより精度よく推定することができる。このように、本開示では、例えば、比較的評価に時間のかかる容量測定を行わずに、また、蓄電デバイスの残容量SOC(State Of Charge)などを調整することなく、短時間で蓄電デバイスの特性をより精度よく評価することができる。したがって、本開示では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの特性を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】推定モデル構築処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【
図3】劣化判定処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【
図4】判定対象14の診断結果を表す表示画面40の説明図。
【
図5】新品電池と劣化電池の時間に対する電圧の変化の一例の説明図。
【
図6】新品電池のSOC100%での放電時及び放電停止後の電圧変化。
【
図7】新品電池の放電停止後の放電時間tc
F及び電圧Vc
Fとの一例の説明図。
【
図8】説明変数に応じたSOCに対する予測誤差の関係図。
【
図9】説明変数の個数に対するRMSE
CV及びR
CV
2との関係図。
【
図10】10点の説明変数による放電容量の実測値と予測値との関係図。
【
図11】交流インピーダンスのcole-coleプロット。
【
図12】10点の説明変数による抵抗の実測値と予測値との関係図。
【
図13】新品電池のSOC10%での充電時及び充電停止後の電圧変化。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(推定装置)
本明細書で開示する推定装置の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、推定システム10の一例を示す概略説明図である。推定システム10は、例えば、使用済みの蓄電デバイス13を回収する回収施設などに備えられており、蓄電デバイス13の特性を推定するシステムである。この蓄電デバイス13の特性としては、例えば、蓄電デバイス13の容量及び蓄電デバイス13の抵抗のうち1以上が挙げられる。また、蓄電デバイス13の特性には、劣化度が含まれるものとしてもよい。この推定システム10は、回収した蓄電デバイス13の特性を推定して、リユース可能かリサイクルすべきかについての判定を行う。リユース可能な蓄電デバイス13は、再調整されて出荷され、リサイクルすべき蓄電デバイス13は分解などされリサイクルされる。この推定システム10は、測定装置15と、推定装置20とを備えている。推定システム10は、LANやインターネットなどを含むネットワーク12を介して測定装置15と推定装置20との間で情報をやりとりする。
【0014】
蓄電デバイス13は、例えば、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池、空気電池などが挙げられる。このうち、蓄電デバイス13としては、リチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池が好ましい。ここでは、蓄電デバイス13がリチウムイオン二次電池であるものとして主として説明する。蓄電デバイス13は、例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えるものとしてもよい。正極は、正極活物質として、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを含むものとしてもよい。正極活物質は、例えば、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などを用いることができる。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。負極は、負極活物質として炭素材料やリチウムを含む複合酸化物などを含むものとしてもよい。負極活物質は、例えば、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。イオン伝導媒体は、例えば、支持塩を溶解した電解液とすることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6やLiBF4、などのリチウム塩が挙がられる。電解液の溶媒は、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類等が挙げられる。また、イオン伝導媒体は、固体のイオン伝導性ポリマーや、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。固体電解質やこの蓄電デバイス13は、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0015】
測定装置15は、蓄電デバイス13を放電及び又は充電し、そのときの電圧を測定する装置である。この測定装置15は、判定対象14としての蓄電デバイス13を測定温度Tに調節して収容する恒温槽16と、判定対象14に電気的に接続し、定電流を印加するか定電流で放電させる充放電器17とを備える。また、測定装置15は、電流と電圧とから抵抗を求めるものとしてもよい。測定装置15は、測定結果をネットワーク12を介して推定装置20へ出力する。
【0016】
推定装置20は、特性が既知である蓄電デバイスを測定した結果から得られた推定モデルを利用し、劣化度や容量、内部抵抗など特性が不明の判定対象14の因子を測定した結果からこの判定対象14の特性を推定する処理を行う装置である。推定装置20は、制御部21と、記憶部22と、入力装置28と、表示装置29と、を備える。入力装置28は、各種入力を行うマウスやキーボードなどを含む。表示装置29は、画面を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイである。
【0017】
制御部21は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、装置全体を制御する。また、制御部21には、機能ブロックとして、測定装置15から測定結果を取得する取得部と、取得した測定結果と推定モデル35とから蓄電デバイス13の特性を推定する推定部と、容量及び/又は抵抗の推定結果から劣化度を導出する劣化導出部と、得られた劣化度から処理対象14である蓄電デバイス13のリユースの可否を判定する判定部と、を有する。この機能ブロックは、例えば、制御部21が劣化判定プログラム36などを実行することによって実現される。
【0018】
記憶部22は、例えば、HDDなど、大容量の記憶装置として構成されており既知試験結果23や、機械学習プログラム30、許容範囲31、推定モデル35、劣化判定プログラム36などが記憶されている。既知試験結果23は、特性が既知である蓄電デバイス13の測定結果である。この既知試験結果23は、推定モデル35を構築するために用いられるものであり、測定結果として継続時因子25、休止後因子26、劣化度27などが含まれる。継続時因子25は、蓄電デバイスの放電及び/又は充電の開始時から所定時間経過時までの範囲における複数点の因子を含む。この因子は、例えば、蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時の電圧であるものとしてもよいし、抵抗としてもよい。ここでは、この因子が電圧である場合を主として説明する。休止後因子26は、上記蓄電デバイスの放電及び/又は充電を行ったあと、停止時から所定時間経過時までの範囲における複数点の因子を含む。この継続時因子25及び休止後因子26のそれぞれの所定時間は、推定結果が良好になる範囲に経験的に定めるものとしてもよい。蓄電デバイス13の特性は、放電の継続期間に含まれる複数点の因子と放電を停止したあとの休止期間に含まれる複数点の因子との両方を用いて推定するか、充電の継続期間に含まれる複数点の因子と充電を停止したあとの休止期間に含まれる複数点の因子との両方を用いて推定するかの1以上とすると、より精度を高めることができる。なお、説明の便宜のため、以降では、この「放電及び/又は充電」を単に「充放電」とも称する。劣化度27は、例えば、初期の最大放電容量を100%とした場合において、連続又は断続的に使用されたあと、劣化により低減した最大放電容量の割合として定義することができる。あるいは、劣化度27は、初期の抵抗を100%とした場合において、連続又は断続的に使用されたあと、劣化により上昇した抵抗の割合として定義することができる。
【0019】
機械学習プログラム30は、制御部21により実行され、既知試験結果23から機械学習を利用して推定モデル35を構築するプログラムである。例えば、機械学習には、統計分析ソフトRやPython(登録商標)、SQL、Excel(登録商標)などを用いることができ、手法として、線形回帰、カーネルリッジ、サポートベクター、XGBoost、ニューラルネットワーク(nnet)及びランダムフォレスト(RF)のうち1以上を用いることができる。機械学習の手法としては、ランダムフォレストが、特性推定の精度がより高く、好ましい。推定モデル35は、既知試験結果23に含まれる複数点での継続時因子25及び複数点での休止後因子26を説明変数として用いて構築されている。また、この推定モデル35は、複数の劣化プロセスで劣化させた蓄電デバイス13を測定した既知試験結果23に基づいて構築されることが好ましい。蓄電デバイス13は、例えば、「正極劣化」、「負極劣化」および「正負極の容量ずれ」の3つの劣化モードが存在することから、これらをそれぞれ表す劣化プロセスを採用することが好ましい。蓄電デバイス13の劣化プロセスとしては、例えば、高レート充放電サイクル処理や、高温度における充放電サイクル処理、あるいは、高SOC且つ高温度における長期保存処理などが挙げられる。ここで、「高レート」とは、1C以上が好ましく、2C以上がより好ましい。また、「高レート」は、10C以下としてもよい。また、「高温」とは、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以下としてもよい。また、「高SOC」とは、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、100%以下としてもよい。また、「長期保存」とは、2日以上の保存が好ましく、20日以上の保存がより好ましく、300日以下の保存としてもよい。更に、この推定モデル35は、劣化後に、複数点のSOCに調整した蓄電デバイス13を測定した既知試験結果23に基づいて構築されることが好ましい。
【0020】
推定モデル35は、例えば、2点以上6点以下の継続時因子と、2点以上6点以下の休止後因子と、を説明変数として用いることが好ましい。推定精度を考慮すると、説明変数は、3点以上を必要とする。また、説明変数の点数が少ないと、複数の劣化モードを表現しきれないため予測精度は低下する一方、説明変数の点数が多いと、過学習を引き起こすため予測精度は低下する。説明変数は、継続時因子25及び休止後因子26の全体で、4点以上が好ましく、6点以上がより好ましく、8点以上が更に好ましい。また、説明変数は、12点以下が好ましく、11点以下がより好ましく、10点以下としてもよい。また、推定モデル35は、蓄電デバイス13の放電及び/又は充電の開始時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する継続時因子25と、蓄電デバイス13の放電及び/又は充電の停止時からの桁数の異なる複数点を含む経過時間に対応する休止後因子26と、を説明変数として用いることが好ましい。継続時因子25や休止後因子26では、その絶対値を等間隔とした経過時間に対応する因子(電圧)を用いるのに比して、ログスケールで等間隔とした経過時間に対応する因子(電圧)を用いると、推定精度をより高めることができる。例えば、継続時因子25や休止後因子26は、経過時間の「0」の1点、小数点以下二桁に1点、小数点以下一桁に1点、一桁に1点、二桁に1点、三桁に1点などを含むことが好ましい。なお、「ログスケールで等間隔」には、完全な等間隔のほか、マージンがあり、おおよそ等間隔であるものも含むものとする。
【0021】
また、説明変数としては、放電及び/又は充電の開始時の電圧Vc0、推定に用いる放電及び/又は充電を開始してから時間tcFだけ経過したときの電圧VcFとしたときに、時間tが0~tcFの間をn分割し(tc1、tc2、…tcn-1、tcn)、それぞれの時間における因子である電圧Vc1~Vcnと、放電及び/又は充電停止時の電圧Vs0、推定に用いる放電及び/又は充電を停止してから時間tsFだけ経過したときの電圧VsFとしたときに、時間tが、0~tsFの間をm分割し、それぞれの時間における電圧Vs1~Vsmとが用いられるものとしてもよい。このとき、説明変数の個数に関して、上記nは、1≦n≦5であることが好ましく、2≦n≦5がより好ましく、2≦n≦3であることが更に好ましい。また、上記mは、1≦m≦5であることが好ましく、2≦m≦5がより好ましく、2≦m≦3であることが更に好ましい。なお、n=3且つm=3である場合、上記説明変数は、Vc0、Vc1、Vc2、Vc3、VcF、Vs0、Vs1、Vs2、Vs3、VsFの10個となる。また、時間tcFは60秒≦tcF≦1000秒が好ましく、60秒≦tcF≦300がより好ましい。また、時間tsFは40秒≦tsF≦1260秒が好ましく、40秒≦tsF≦300がより好ましい。
【0022】
劣化判定プログラム36は、制御部21により実行され、判定対象14の測定結果と推定モデル35とにより判定対象14の特性を推定し、そのリユースが可能かを判定するプログラムである。この劣化判定プログラム36は、例えば、測定装置15から取得した判定対象である蓄電デバイス13の複数点の継続時因子25と複数点の休止後因子26とを説明変数として用いて、推定モデル35から蓄電デバイスの特性を推定したのち、この推定結果から劣化度を判定する。劣化判定プログラム36では、許容範囲31を用いて劣化度を判定する。許容範囲31は、例えば、リユースを許容できる範囲内に経験的に定められた劣化度の閾値とすることができる。
【0023】
(推定方法)
次に、こうして構成された本実施形態の推定装置20の動作、特に、推定装置20が実行する推定方法について説明する。この推定方法は、例えば、機械学習によって推定モデル35を構築する構築ステップと、推定モデル35から判定対象の蓄電デバイスの特性を推定する推定ステップと、推定結果から劣化度を判定する判定ステップと、を含むものとしてもよい。なお、この推定方法において、既に構築した推定モデル35を用いて、上記構築ステップを省略してもよい。また、蓄電デバイスの特性を取得するのを目的とし、判定ステップを省略してもよい。
【0024】
(構築ステップ)
ここでは、まず、推定モデル35を構築する処理について説明する。この構築処理では、使用者が既知特性の複数の蓄電デバイス13を用意し、測定装置15が蓄電デバイス13の充放電及びその停止後の因子(電圧)を測定し、推定装置20が推定モデル35を構築する。
図2は、推定装置20の制御部21により実行される推定モデル構築処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部22に記憶され使用者の指示に応じて実行される。制御部21は、このルーチンを実行すると、まず、継続時因子及び休止後因子の設定を取得する(S100)。制御部21は、説明変数として用いる継続時因子の時間tc
F及び休止後因子の時間ts
Fの設定値を取得する。例えば、放電及び/又は充電時の時間tc
Fは、0秒、0.01秒、0.2秒、5秒、100秒の5点と、放電及び/又は充電停止後の時間ts
Fは、0秒、1秒、4秒、15秒、60秒の5点としてもよい。
【0025】
次に、制御部21は、特性既知である蓄電デバイス13の放電及び/又は充電を開始したあと、その継続中の時間tc
Fに応じた因子(電圧)の測定結果を測定装置15から取得する(S110)。また、制御部21は、特性既知である蓄電デバイス13の放電及び/又は充電を停止したあとの休止後の時間ts
Fに応じた因子(電圧)の測定結果を測定装置15から取得する(S120)。次に、全ての蓄電デバイス13の継続時因子及び休止後因子の測定結果を取得したか否かを判定し(S130)、全ての測定結果を取得していないときには、S110以降の処理を繰り返し実行する。即ち、次の蓄電デバイス13をセットし、測定装置15で充放電の継続中での電圧と、それを停止したあとの休止時電圧とを測定する処理を繰り返し実行する。一方、全ての測定結果を取得したときには、制御部21は、機械学習により推定モデル35を構築して記憶部22に記憶し(S140)、このルーチンを終了する。劣化した蓄電デバイス13の電圧変化は、その劣化の態様によって特定の関係性を有さず、同程度の容量劣化においても、劣化プロセスの相違によって電圧の時間変化が相違する(後述
図5参照)。ここでは、機械学習を利用して、継続時因子25や休止後因子26から、より正確に蓄電デバイス13の特性を推定することが可能な推定モデル35を構築するのである。また、制御部21は、例えば、推定モデル35の構築には、統計分析ソフトRやPython(登録商標)、SQL、Excel(登録商標)などを用いることができ、手法として、線形回帰、カーネルリッジ、サポートベクター、XGBoost、ニューラルネットワーク(nnet)及びランダムフォレスト(RF)のうち1以上、好ましくは、ランダムフォレストを用いることができる。
【0026】
(推定ステップ)
この推定ステップでは、判定対象である蓄電デバイスの放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子及び放電時及び/又は充電時の停止したあとの複数点の休止後因子を取得し、取得した因子(電圧)を説明変数として用い、推定モデル35から判定対象14の特性(容量や抵抗)を推定する処理を行う。推定モデル35は、上述したように、特性が既知である蓄電デバイス13の放電時及び/又は充電時における複数点の継続時因子と、放電時及び/又は充電時の停止したあとの複数点の休止後因子とに基づいて構築されている。制御部21は、判定対象14の継続時因子25や休止後因子26として、上述した時間tcF、及び時間tsFに応じた因子(電圧)を取得する。
【0027】
(判定ステップ)
この判定ステップでは、上記推定ステップで推定された、蓄電デバイス13の特性の推定結果に基づいて、判定対象である蓄電デバイスの劣化度を取得し、この劣化度を判定する処理を行う。例えば、上記特性を電池容量であるものとすると、判定対象14の電池容量を推定した結果に応じた劣化度を取得し、許容範囲31の範囲内であるか否かに基づいて、この判定対象14を、調整してリユースするか、分解してリサイクルするかを判定する。
【0028】
図3は、制御部21により実行される劣化判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、記憶部22に記憶され、使用者の指示に応じて実行される。使用者は、推定モデル35を構築後、判定対象14を充放電器17へ接続したのち、このルーチンを実行させる。このルーチンを開始すると、推定装置20の制御部21は、まず、継続時因子及び休止後因子の設定を取得する(S200)。制御部21は、S100と同様に、説明変数として用いる継続時因子の時間tc
F及び休止後因子の時間ts
Fの設定値を取得する。次に、制御部21は、特性未知である判定対象14の放電及び/又は充電を開始したあと、その継続中の時間tc
Fに応じた因子(電圧)の測定結果を測定装置15から取得する(S210)。また、制御部21は、特性未知である判定対象14の放電及び/又は充電を停止したあとの休止後の時間ts
Fに応じた因子(電圧)の測定結果を測定装置15から取得する(S220)。充放電時、及びその停止後の継続時因子及び休止後因子を取得すると、制御部21は、この因子を説明変数として用い、推定モデル35から、判定対象14の特性を推定し(S230)、推定結果から劣化度を取得する(S240)。制御部21は、全測定点の説明変数に最も適合する判定対象14の特性を推定モデル35を用いて導出し、その特性に応じた劣化度を導出する。なお、説明変数は、上記推定装置で説明した値を用いることができる。
【0029】
続いて、制御部21は、取得した劣化度が所定の許容範囲内であるか否かを判定する(S250)。この許容範囲は、例えば、判定対象14の蓄電デバイス13が再調整によってリユース可能である下限値に基づいて経験的に設定されているものとする。判定対象14の劣化度が所定の許容範囲内であるときには、制御部21は、リユース可能である旨の表示を出力する(S260)。一方、判定対象14の劣化度が所定の許容範囲外であるときには、制御部21は、リサイクルすべき旨の表示を出力する(S270)。
図4は、判定対象14の診断結果を表す表示画面40の説明図である。
図4に示すように、リサイクル、リユースのほか、調整して再利用するリビルドの判定を行ってもよいし、診断結果として、残存容量や抵抗増加度などの情報を付記してもよい。
【0030】
S260のあと、またはS270のあと、制御部21は、S250の判定結果を記憶すると共に、次の判定対象14の蓄電デバイス13があるか否かを判定する(S280)。次の判定対象14があるときには、制御部21は、S200以降の処理を繰り返し実行する一方、S280で次の判定対象14がないときには、制御部21は、このルーチンを終了する。このように、推定装置20では、蓄電デバイス13の充放電時の継続時因子25と、その停止後の休止後因子26を用い、推定モデル35から判定対象14の特性を推定することにより、その劣化度を導出し、蓄電デバイス13のリユースの可否を判定する。
【0031】
以上説明した本実施形態の推定システム10では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの劣化度を評価することができる。推定システム10がこのような効果を奏する理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの主な劣化としては、「正極劣化」、「負極劣化」および「正負極の容量ずれ」の3つの劣化モードが知られており、そのため精度よく劣化度を推定するためには少なくとも説明変数は3つ以上必要となる。一方、劣化度など、蓄電デバイスの特性は、劣化に伴う内部抵抗の変化に現れることから、内部抵抗を反映した充放電時の電圧などの因子の時間変化と、充放電の停止後の因子の時間変化とから、より効率よく、且つより精度よく推定することができる。このように、推定システム10では、例えば、比較的評価に時間のかかる容量測定を行わずに、また、蓄電デバイスの残容量SOCなどを調整することなく、短時間で蓄電デバイスの特性をより精度よく評価することができる。したがって、推定システム10では、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの特性を推定することができる。
【0032】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
例えば、上述した実施形態では、推定システム10は、測定装置15と推定装置20とを備えるものとしたが、特にこれに限定されず、充放電時の電圧変化を外部から取得するものとして測定装置15を省略してもよい。この推定装置20においても、複数点を含む継続時因子25及び複数点を含む休止後因子26を用い、推定モデル35から判定対象14の特性を推定するため、精度をより高めつつ、より効率的に蓄電デバイスの特性を推定することができる。
【0034】
上述した実施形態では、本開示を推定システム10や推定装置20、推定方法として説明したが、例えば、推定方法を実行するためのプログラムとしてもよい。このプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピュータから別のコンピュータへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを1つのコンピュータに実行させるか又は複数のコンピュータに各ステップを分担して実行させれば、上述した推定方法の各ステップが実行されるため、この推定方法と同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下には、本開示の推定方法及び推定装置を具体的に検討した例を実験例として説明する。なお、実験例3、6~9が本開示の実施例に相当し、実験例1、2が比較例に相当する。
【0036】
劣化した電池の劣化診断の検討として、パナソニック製リチウムイオン電池NCR18650Bを用いた。劣化電池としては、2.5Vから4.2Vの間を20℃で2C充電し0.1C放電を繰り返したもの(20℃-2Cサイクル電池)、60℃で0.5C充電し0.5C放電を繰り返したもの(60℃-0.5Cサイクル電池)、残容量SOC(State Of Charge)を100%(4.2V)に調整した電池を長期保存したもの(60℃保存電池)を用意した。なお、長期保存は、保存期間を20日又は215日とした。各電池に対してアスカ電池社製5V/10A-80CHを用いて、20℃で0.1CのCCCV放電の放電容量を測定し、それを電池容量として劣化度の指標とした。また、各劣化電池に対して、SOCが5%刻みで5~100%の範囲において、それぞれ0.1CでCC放電を30分行い、その後放電を停止し、そのプロセスで得られた電圧を、電池特性としての容量を予測するための因子として説明変数に用いた。
図5は、新品電池と劣化電池の時間に対する電圧の変化の一例である。
図5に示すように、同程度の容量劣化においても、劣化プロセスの相違によって電圧の時間変化が相違することがわかった。
【0037】
図6は、新品電池のSOC=100%での放電時及び放電停止直後の電圧変化の測定結果である。横軸は時間のログスケールで示しており、短時間でも時間に対する電圧の変化は観測できることがわかった。
図7は、新品電池の放電停止後の放電時間tc
F及び電圧Vc
Fとの一例の説明図である。
図7に示すように、診断に用いる放電時間tc
Fとそのときの電圧Vc
Fとをまず定義し、次に放電時間が0~tc
Fの間をn分割し、放電を開始してから時間の短い順にtc
1、tc
2、…、tc
n-1、tc
nと番号を付け、同様に各時間の電圧をVc
1、Vc
2、…、Vc
n-1、Vc
nと番号を付けた。同様に診断に用いる放電停止後の時間ts
Fとその時の電圧Vs
Fとを定義し、放電時間が0~ts
Fの間をm分割し、放電を開始してから時間の短い順にts
1、ts
2、…、ts
m-1、ts
mと番号を付け、各時間の電圧をVs
1、Vs
2、…、Vs
m-1、Vs
mとした。このように定義したVc
1~Vc
n、Vc
Fと放電開始時の電圧Vc
0、Vs
1~Vs
m、Vc
Fと放電停止時の電圧Vs
0を説明変数として、得られたデータベースで機械学習により、容量を予測できるようにした。新品電池7本、20℃-2Cサイクル電池21本、60℃-0.5Cサイクル電池12本、60℃保存電池8本で、SOCを変えた20条件のデータを作成し、960データ点で予測モデルを構築した。
【0038】
電池の容量を推定するために、統計分析ソフトRを用い、機械学習の手法としてランダムフォレストを用い、ハイパーパラメータntree,mtryをそれぞれntree=10000、mtry=8として予測モデルを構築した。容量を予測するための説明変数として放電時の電圧のみ用いた場合(tc
F=100秒、n=28)を実験例1とし、休止後の電圧のみ用いた場合(ts
F=60秒、m=59)を実検例2、両方の電圧を用いた場合(tc
F=100秒、n=28、ts
F=60秒、m=59)を実検例3として、容量の予測結果を比較した結果を表1に示した。ここで、RMSEは、実験値と予測値との平均平方二乗誤差を意味し、RMSEが低いほど予測精度が高いことを意味する。今回は10分割交差検証を行ったことから、10回予測モデルをトレーニングデータにより構築しており、その10回のテストデータの平均のRMSE、すなわちRMSE
CVを表1にまとめた。また、10分割交差検証を行った実験値と予測値との決定係数R
CV
2も表1にまとめた。このR
CV
2は1に近いほど予測精度が高いことを意味する。表1の結果から、放電電圧及び休止後電圧の両方の電圧を用いた方が、RMSE
CVは低くなり、R
CV
2は1に近づくため、予測精度がより高いことがわかった。
図8は、説明変数に応じたSOCに対する予測誤差の関係図である。
図8に示すように、放電時電圧及び停止後電圧には予測をするのが不得意なSOC域が存在するものと推察される。一方、放電時電圧及び停止後電圧の両方を使うものとすると、
図8に示すように、SOCの全域において予測誤差が低下し、それぞれの不得意領域をカバーできるため、予測精度が向上するものと推測された。以後の予測結果は、説明変数に放電時の電圧と休止後の電圧の両方を用いた。
【0039】
【0040】
次に、説明変数の数について検証した。
図9は、説明変数の個数に対するRMSE
CV及びR
CV
2との関係図である。
図9において、説明変数は、tc
F=100秒、ts
F=60秒と固定し、データの分割はログスケールで均等になるように選定した。その結果、説明変数の数としては、10個(n=3、m=3)が、RMSE
CVが極小を示し、R
CV
2は極大を示すことから、最適であることがわかった。説明変数が少ないと、複数の劣化モードを表現しきれないため予測精度は低下する一方、説明変数が多いと、過学習を引き起こすため予測精度は低下するものと推察された。ここで、10個の電圧、即ち、放電開始後0、0.01、0.2、5、100秒の電圧と停止後0、1、4、15、60秒の電圧を説明変数に用いて容量を予測した。
図10は、上記10点の説明変数による放電容量の実測値と予測値との関係図である。
図10には、測定結果の90%が含まれる境界ラインも載せた。
図10に示すように、放電容量の予測値は、おおよそ実測値の90%内に含まれており、高い予測精度で予測できていることがわかった。
【0041】
図11は、パナソニック製リチウムイオン二次電池(LIB)の20℃、SOC50%での交流インピーダンスのcole-coleプロットである。インピーダンスの測定には、ソーラートロン社のCELLTEST-8Tを用いて、測定時の交流電圧振幅は5mVとした。
図11のcole-coleプロットにおいて、縦軸は下の方が数値が大であり、正負極の電荷移動抵抗が二つの円弧として現れたのち、交流インピーダンスの虚部Z”が極大値を取るときの実部Z’を、この電池の特徴的な抵抗R
E20℃、50%と定義し、容量とともに劣化の指標とした。抵抗R
E20℃、50%は、比較的応答が早い抵抗成分からなり、直流抵抗と正負極の電荷移動抵抗とを足し合わせた抵抗の指標となる。
図12は、
図10と同じ説明変数を用いて、20℃、SOC50%での抵抗R
Eを予測した実測値と予測値との関係図である。その結果、RMSE
CVが0.00751Ω、R
CV
2が0.816であり、これらも高い精度で予測できていることがわかり、電池容量と抵抗の2軸の観点で、予測することができることがわかった。
【0042】
次に、劣化電池を診断するための説明変数として、放電時間および休止時間をどの範囲で設定すればよいかを検証した。その結果を表2に示す。診断に用いる時間tcFが60秒、100秒、1000秒との間で比較すると、100秒のRMSECVが低いことから、1000秒>tcF>60秒が望ましいものと推察された。診断時間は短ければ短いほど好ましいことから、望ましくは300秒>tcF>60秒であるものと推察された。診断に用いる時間tsFが40秒、60秒、1260秒で比較すると、60秒のRMSECVが低いため1260秒>tsF>40秒が望ましいものと推察された。診断時間は短ければ短いほど好ましいことから、望ましくは300秒>tsF>40秒が望ましいものと推察された。なお、表2のようにデータの分割は実スケールよりもログスケールで均等になるように選定した方が、予測精度をより高くすることができることがわかった。また、今回は0.1C放電で検証したが、低い電流範囲であれば非線形応答は現れないことから、上述と同様にに予測できるものと推察された。また、機械学習には統計分析ソフトRを用いたが、phthon、matlab、excelなどの環境下でもよく、手法としてランダムフォレスト(RF)を用いたが、線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシーンなどでもよい。
【0043】
【0044】
図13は、新品電池のSOC=10%での充電時及び充電停止直後の電圧変化の測定結果である。ここでは、SOC=10%とした新品電池を用い、0.1CでCC充電を30分行い、その後充電を停止したあとの電圧変化を測定した。
図13に示すように、
図6の測定結果を上下反転したものであることから、上述した放電時と同様に、充電時においても未知の劣化電池の劣化予測を行うことができることがわかった。
【0045】
なお、本明細書で開示した推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラムは、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本明細書で開示した推定装置、推定システム、推定方法及びそのプログラムは、蓄電デバイスの劣化を判定する技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 推定システム、12 ネットワーク、13 蓄電デバイス、14 判定対象、15 測定装置、16 恒温槽、17 充放電器、20 推定装置、21 制御部、22 記憶部、23 既知劣化試験結果、25 継続時因子、26 休止後因子、27 劣化度、28 入力装置、29 表示装置、30 機械学習プログラム、31 許容範囲、35 推定モデル、36 劣化判定プログラム。