(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20250729BHJP
【FI】
G01N21/88 J
(21)【出願番号】P 2022030089
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2024-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】古志 悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 立寛
【審査官】貝沼 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-024696(JP,A)
【文献】特開2001-082928(JP,A)
【文献】特開2021-066563(JP,A)
【文献】特開2008-004318(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136536(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0300734(US,A1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0325245(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/84-G01N21/958
G01B11/00-G01B11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホースと、ブラケットと、前記ホースと前記ブラケットとを接合するクリップの組付け状態を検査する検査方法であって、
撮像手段は、前記組付け状態を撮像し、
特定手段は、前記撮像手段により取得された取得画像から、前記クリップ及び前記ブラケットの夫々の位置及び夫々のサイズを特定し、
演算手段は、前記特定手段により特定された前記クリップ及び前記ブラケットの夫々の位置及び夫々の前記取得画像におけるサイズと、あらかじめ取得された前記クリップと前記ブラケットの実空間におけるサイズとを利用して、前記取得画像中のピクセルと実空間の長さとを対応付けし、
判定手段は、
前記対応付けにより、前記取得画像におけるサイズから算出される検査対象箇所の実空間上における長さを用いて、前記組付け状態の良否判定を行う際に、
前記ホースの断面が円形状であると仮定するとともに、前記取得画像における前記ホースが
楕円の円弧の一部及び直線を組み合わせた形状であるものとして前記ホースの傾きを算出し、算出された前記ホースの傾きを利用して前記クリップに設けられた2つの爪部の開きの角度を算出して、前記爪部の良否判定を行い、また、
前記取得画像において楕円形状である前記ホースの下端部の手前側半周の円弧形状と、前記ブラケットの底部の外周の手前側半周の円弧形状と、に基づいて、前記ブラケットに設けられた突出部が前記ホース内に入り込んだ長さの良否判定を行う、
検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホースとブラケットを接合するクリップの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においてエンジン冷却水や燃料を通すために、ホースとブラケットを組み付けたものが利用される。ここで典型的には、ホースとブラケットの組付には、クリップが用いられる。そして、このホースとブラケットの組付の後に、クリップの組付状態が正常か否かの検査が行われる。
【0003】
特許文献1には、撮像手段により検査箇所の画像を取得して、検査箇所が正常であるか否かを判定する検査方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された検査方法では、撮像手段で撮像された際の対象にかかる画素数(ピクセル数)は取得可能であるが、この画素数が実寸法と対比できないという問題がある。そのため、検査項目によっては判定精度が担保できない場合がある。
【0006】
一方で、ホース、ブラケット、クリップを用いた組付状態が正常か否かの検査を、人による目視検査で行う場合には、検査時間が長くなり、生産性が低下するという問題がある。
本発明は、判定精度を向上させつつ効率良く検査を行う検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる検査方法は、ホースと、ブラケットと、前記ホースと前記ブラケットとを接合するクリップの組付け状態を検査する検査方法であって、撮像手段は、前記組付け状態を撮像し、特定手段は、前記撮像手段により取得された取得画像から、前記クリップ及び前記ブラケットの夫々の位置及び夫々のサイズを特定し、演算手段は、前記特定手段により特定された前記クリップ及び前記ブラケットの夫々の位置及び夫々の前記取得画像におけるサイズと、あらかじめ取得された前記クリップと前記ブラケットの実空間におけるサイズとを利用して、前記取得画像中のピクセルと実空間の長さとを対応付けし、判定手段は、前記対応付けにより、前記取得画像におけるサイズから算出される検査対象箇所の実空間上における長さを用いて、前記組付け状態の良否判定を行う。
これにより、取得画像中のピクセルと検査対象物のサイズとを対応付けた状態で、自動的に良否判断を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
これにより、判定精度を向上させつつ効率よく検査を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】検査装置の構成と検査対象物を示した構成図である。
【
図2】ホースとブラケットとクリップが組付けられた状態の一例を示す図である。
【
図3】検査対象物について上下方向に沿った断面で示した断面図である。
【
図5】クリップが設けられた箇所の水平方向の断面図である。
【
図6】第1の検査項目~第5の検査項目と、規格の一例と、規格外の場合に発生する不具合の例を示した図である。
【
図7】第2の検査項目について検査する手順を示したフローチャートである。
【
図8】ブラケットとクリップの取得画像中のピクセル数と実空間におけるサイズの一例を示した図である。
【
図9】検査対象箇所までのブラケットとクリップのそれぞれの距離の比の一例を示した図である。
【
図10】第4の検査項目について検査する手順を示したフローチャートである。
【
図11】クリップの爪部と楕円部の位置を示した斜視図である。
【
図12】楕円部における楕円形状の算出を示す図である。
【
図13】楕円上にクリップの爪があるものと仮定して爪部の角度を算出する状態を示す図である。
【
図14】爪部の角度の算出について示した図である。
【
図15】第1の検査項目について検査する手順を示したフローチャートである。
【
図16】ホースとブラケットの円弧形状とこれらの位置関係の取得箇所を示す図である。
【
図17】取得画像中に斜めに検査対象物が配される状態を示す図である。
【
図18】第1の中心座標と第2の中心座標とを直線で繋いだ状態を示す図である。
【
図19】射影変換により取得画像から加工画像を作成した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る検査装置と、検査対象について説明する。
図1は、検査装置1と、検査対象である車両2を示した図である。ここで、車両2には、検査対象物であるホース21,ブラケット22,ホース21とブラケット22を接合するクリップ23(
図2参照)が組付けられた状態である。また、ブラケット22は、上面視において円形状の底部22aと、上方への突出部22b(
図3参照)が設けられているものとする。
【0011】
検査装置1は、車両2に検査対象の夫々が組付けられた状態を撮影する撮像手段11と、撮像手段11が取得した取得画像から、ブラケット22と、クリップ23の夫々の位置及び夫々のサイズを特定する特定手段12と、演算手段13と、ブラケット22と、クリップ23の夫々の位置及び夫々のサイズから良否判定を行う判定手段14と、を備える。
【0012】
なお以下では、実空間について、水平方向を幅方向あるいは左右方向、この水平方向に垂直である高さ方向を上下方向と記載する場合がある。また、撮像手段11で取得された画像に対しては、画像上における左右方向を幅、画像上における上下方向を高さと記載する場合がある。
【0013】
図1に示すように、撮像手段11にはカメラを用いることができる。また、特定手段12及び判定手段14には、主記憶装置や補助記憶装置、演算装置等が協働するコンピュータ3を利用することができる。このコンピュータでは、所定のプログラムを実行することにより、特定手段12、演算手段13、及び判定手段14の機能を実現することが可能である。
【0014】
撮像手段11として利用するカメラには、産業用カメラ、防犯用カメラ、webカメラを定置した状態で利用できる。これにより、これらの撮像手段11では、車両2に設けられたホース21,ブラケット22,ホース21とブラケット22を接合するクリップ23を撮影することができる。
【0015】
また撮像手段11には、作業員が手持ちしたスマートフォン等のカメラ付き携帯端末を用いることができる。あるいは、作業員が身に着けたウェアラブルカメラを用いることができる。
【0016】
あるいは撮像手段11には、カメラをロボットハンドに把持させた状態で撮影することができる。この場合、ロボットハンドは、特定手段12や演算手段13、判定手段14を有しているコンピュータ3や、他のコンピュータにより動作制御を行い、検査対象との相対的な位置を調整できる。なお撮像手段11として用いられる撮像方法は、これらに限られず、他の方法であってもよい。
【0017】
なお、撮像手段11による車両2の撮影部位は、任意の箇所とすることができる。例えば、撮像手段11は、車両2の前方上部からボンネット内を撮影することや、車両2の後方上部から車両内を撮影することや、車両2の下方から撮影すること等が可能である。なお、撮像手段11には、静止画像又は動画像の少なくとも一方を取得するものを利用できるが、以下では静止画像を取得するものとして説明する。
【0018】
特定手段12は、撮像手段11により取得された画像から、ブラケット22,クリップ23の位置及びサイズを特定する。
【0019】
例えば、特定手段12は、撮像手段11で取得された取得画像において、ブラケット22の取得画像上の位置座標を(X1,Y1)、幅と高さを(x1,y1)と特定することができる。言い換えると、特定手段12は、取得画像上において、ブラケット22が、座標位置(X1、Y1)から、右方向にx1ピクセルの範囲、下方向にy1ピクセルの範囲にあることを特定することができる。典型的には、x1ピクセル及びy1ピクセルとは、それぞれ数十~数百ピクセルである。
【0020】
同様に、特定手段12は、撮像手段11で取得された取得画像において、クリップ23の画像上の位置座標を(X2,Y2)、左右方向の長さと上下方向の長さを(x2,y2)と特定することができる。言い換えると、特定手段12は、取得画像上において、クリップ23が座標位置(X2、Y2)から、右方向にx2ピクセル、下方向にy2ピクセルの範囲にあることを特定することができる。典型的には、x2ピクセル及びy2ピクセルとは、それぞれ数十~数百ピクセルである。
【0021】
演算手段13は、特定手段12により画像上で特定された座標に基づき、判定手段14が判定を行うための演算を行う。
【0022】
一例として、特定手段12では、クリップ23について、画像上では高さ60ピクセルで表示されていることを特定する。そして演算手段13では、あらかじめクリップ23は上下方向36mmで形成されているというサイズ情報を有しておくことで、画像上における1ピクセルは0.6mmであることを算出することができる。典型的には、このサイズ情報とは、クリップ23のサイズの規格値である。
【0023】
判定手段14は、特定手段12により取得された画像中の対象物の幅や高さのピクセル数や、対象物間のピクセル数を対応させて、良否判定を行う。
【0024】
一例として、特定手段12により特定された、画像上におけるブラケット22の底部22aとクリップ23の間における上下方向のピクセル間隔が6ピクセルであるものとする。ここで、演算手段13の演算により1ピクセルが0.6mmであると判明している場合、画像上の6ピクセルは、実空間における3.6mmとなる。
【0025】
ここで判定手段14では、あらかじめ、ブラケット22の底部22aとクリップ23の高さ方向における間隔が2~7mm以内であれば、ブラケット22とクリップ23の間隔について良品として判定することとする。これにより、判定手段14は、特定手段12で特定されたこれらの間隔が、画像上において6ピクセルであり実空間における3.6mm相当であることから、良品と判定することができる。
【0026】
次に、検査対象であるホース21と、ブラケット22と、クリップ23について
図2~
図5を用いて説明する。さらに、検査装置1を用いてこれらの検査対象に対して行う5つの検査項目の概要について説明する。
【0027】
なお、
図2は、検査対象物であるホース21とブラケット22の突出部22bを接続してクリップ23により締めて組付けた状態の外観を、斜め上方から示した図の一例である。また、
図3はこれらの検査対象物について上下方向に沿った断面で示した断面図の一例であり、
図4はこれらの検査対象物の外観を正面から示した正面図であり、
図5はクリップ23の両先端部である爪部23a,23bの開き状態を示す図であって、クリップ23が設けられた箇所の水平方向の断面を示した断面図である。
【0028】
図2~
図4に示すように、ホース21とブラケット22は、ホース21が上方、ブラケット22が下方となるように配される。また、ホース21とブラケット22の突出部22bは、それぞれ上下方向を軸方向とする円筒形状である。
【0029】
より具体的には
図3に示すように、ブラケット22は、より広径に形成されている他の構成物品の上部に設けられており、突出部22bが上下方向を軸とする円筒状である。一方、ホース21の下部近傍は上下方向を軸とする中空の円筒状であり、ホース21の下部において、ホース21の内部に円筒状のブラケット22が挿入された状態となる。言い換えると、ホース21の下部の内周面と、ブラケット22の突出部22bの外周面と、が対向した状態で当接している。
【0030】
ここで
図3に示すように、ブラケット22の突出部22bがホース21内に入り込むことになるが、この長さが十分でない状態、すなわち入りが浅い状態では、ホース21とブラケット22の突出部22bと、が抜けやすくなる。そのため、ホース21内にブラケット22の突出部22bが入り込んだ長さが十分か否かを、第1の検査項目とする。なお、第1の検査項目にかかる検査対象箇所を、
図3における「A」として示している。
【0031】
また
図2に示すように、ホース21と、ブラケット22の突出部22bと、が内外方向に配されている箇所において、クリップ23が、ホース21の周方向に巻き付けて配されている。
【0032】
すなわちクリップ23は、上下方向に短く、水平方向に長く形成されており、ホース21の端部近傍において、ホース21の外周に沿ってホース21を締めながら巻き付けられる。これにより、クリップ23は、ホース21を内側方向に押圧して、ホース21とブラケット22の突出部22bとを固定することができる。
【0033】
ここで
図3に示すように、クリップ23が配されている位置が適切でない場合、ホース21とブラケット22の突出部22bを十分に固定できず、ホース21がブラケット22の突出部22bから抜けやすくなる。そのため、クリップ23が配されている位置について、ホース21の端部からの距離が所定の距離であるか否かを、第2の検査項目とする。なお、第2の検査項目にかかる検査対象箇所を、
図3の「B」として示している。
【0034】
さらに、
図2及び
図5に示すように、クリップ23は延在方向の両端部に爪部23a,23bが設けられている。クリップ23では、この爪部23a,23bの近傍同士が噛み合うととともに、爪部23a,23bが所定の範囲で開いた状態で、ホース21とブラケット22の突出部22bとを締める。
【0035】
より具体的には、爪部23aと爪部23bの爪の開きが所定の角度以下であると、クリップ23が、ホース21とブラケット22の突出部22bとを締める力が十分ではなくなり、ホース21がブラケット22の突出部22bから抜けやすくなる。そのため、爪部23aと爪部23bとの爪の開きが、例えば30°以上である等の所定の角度以上であるか否かを、第3の検査項目とする。なお、第3の検査項目にかかる検査対象箇所を、
図5の「C」として示している。
【0036】
一方で、爪部23aと爪部23bとの爪の開きが広くなりすぎると、他部品との干渉が発生する場合があり、他の部品等を傷付ける原因となり得る。そのため、爪部23aと爪部23bの爪の開きが、例えば120°以下である等の所定の角度以下であるか否かを、第4の検査項目とする。なお、第4の検査項目にかかる検査対象箇所を、
図5の「D」として示している。
【0037】
また、
図4に示すように、ホース21の外周面と、ブラケット22の底部22aには、それぞれ外周面に互いの位置を合わせるためのペイントマーク21a,22cが付されている。ホース21とブラケット22のペイントマーク21a,22cは、それぞれが合致した位置で接続された場合に、ホース21のねじれが十分に小さくなるように設けられている。
【0038】
言い換えると、これらのペイントマーク同士の位置がずれた状態でホース21とブラケット22と、を接続すると、ホース21のねじれが大きくなり、他の部品等との干渉が発生して傷を付ける原因となり得る。そのため、ホース21のペイントマーク21aと、ブラケット22の底部22aに設けられたペイントマーク22cの相対位置のずれが所定の範囲内であるか否かを、第5の検査項目とする。なお、第5の検査項目にかかる検査対象箇所を、
図4の「E」として示している。
【0039】
ここで、ホース21のペイントマーク21aと、ブラケット22のペイントマーク22cは、ほぼ正面側に付されている。この正面側とは、ホース21にクリップ23が巻かれた状態となったときに爪部23a,23bが配される方向である。すなわち撮像手段11では、爪部23a,23bが十分に映るように撮影範囲に設定すると、ホース21のペイントマーク21aとブラケット22のペイントマーク22cも同時に撮影範囲に含まれる。
【0040】
なお、ブラケット22の底部22aのペイントマーク22cは、例えば底部22aの外周部近傍に付されていてもよく、突出部22b等の他の箇所に付されていても良いが、ホース21とブラケット22が好適に組付けられた状態で、撮像手段11により取得される取得画像上に含まれる位置とする。
【0041】
図6は、第1の検査項目~第5の検査項目と、規格の一例と、規格から外れた状態でホース21、ブラケット22、クリップ23が配された場合の不具合の例をまとめた図である。
【0042】
次に、この第1の検査項目~第5の検査項目のそれぞれに関し、検査装置1を用いて検査する方法の詳細な例を説明する。
【0043】
第1の検査項目~第5の検査項目を行う際において、撮像手段11による検査対象の撮影は、ホース21,ブラケット22,クリップ23が十分に撮影範囲に入る状態で行う。典型的には、撮像手段11は、検査対象物に対して正面側かつ斜め上方からの撮影とする。例えば、撮像手段11は、正面側かつ水平方向から斜め30°程度の斜め上方から撮影対象を撮影する状態とすることができるが、これに限られない。
【0044】
以下では、各検査項目の検査方法の説明を判りやすくするため、第2,第4,第3,第1,第5の検査項目の順に説明する。
【0045】
<第2の検査項目>
最初に、検査装置1を用いた第2の検査項目について説明する。第2の検査項目では、クリップ23が配されている位置について、ホース21の端部からの距離が所定の距離であるか否かを検査する。
【0046】
なお、第1の検査項目~第5の検査項目のうちの複数について、人の目ではなく、検査装置1を用いて行う場合の共通の課題として、撮像手段11により取得した取得画像のピクセルと、実空間での長さと、を一致させることが挙げられる。ここでは第2の検査項目の検査方法の手順を説明するとともに、取得画像のピクセルと実空間での長さの対応をとることについて説明する。
【0047】
図7は、検査装置1を用い、第2の検査項目について検査する手順を示したフローチャートである。なお上述したように、この場合の良品条件の例として、ホース21の端部からクリップ23までの距離が2~7mm以内であると設定することができる。
【0048】
まず作業者は、対象物の規格上のサイズを事前に図面等から確認し、サイズの情報を取得しておく(ステップS71)。
【0049】
ここで、後の工程では撮像手段11により取得された取得画像中のピクセルと実空間の長さとの換算を行うが、検査対象物が1つだけであると画像中のピクセルと実空間の長さとの換算の精度が低くなるため、2つの対象物でこれらの比率を計算する。
【0050】
ここでは、1つ目の対象物はブラケット22、2つ目の対象物はクリップ23とする。具体的には、実空間におけるブラケット22の上下の長さ、及び、クリップ23の上下の長さの情報をあらかじめ取得しておき、利用するものとして説明する。
【0051】
検査装置1では、計測したい検査対象物の検知を行う(ステップS72)。具体的には、撮像手段11により検査対象物の撮影を行い、特定手段12により取得画像上における対象箇所のサイズと位置の特定を行う。このとき撮像手段11は、撮像手段11から検査対象物であるホース21,ブラケット22及びクリップ23までの距離が、極力離れない状態で撮影を行う。例えば、撮像手段11による取得画像中に、ブラケット22の下端からクリップ23の上端までが十分に長く撮像される状態とする。
【0052】
特定手段12により特定される取得画像上における対象箇所のサイズと位置とは、ここでは画像上におけるブラケット22の上下の長さ及び位置、クリップ23の上下の長さ及び位置、ホース21の端部からクリップ23までの長さと位置、である。ここで
図8は、撮像手段11により取得される取得画像を簡略化した図である。
図8に示すように、特定手段12では、取得画像上におけるブラケット22の上下の長さが690ピクセル、クリップ23の上下の長さは70ピクセル、ホース21の端部からクリップ23までの長さが100ピクセルであると特定するとともに、それぞれの位置を特定した状態となる。
【0053】
このとき演算手段13は、この特定手段12によるブラケット22とクリップ23の位置座標の特定により、第2の検査項目の検査対象箇所(
図6の検査内容)であるホース21の端部からクリップ23までの箇所(
図4における「B」)は、ブラケット22に比べてクリップ23の近くに配されており、その距離の比が1:4であることを算出することができる。
【0054】
より具体的な一例として、
図9に示すように、演算手段13では、特定手段12により特定されたクリップ23の上下方向における中央の位置座標(第1の位置座標)と、ブラケット22の上下方向における中央の位置座標(第2の位置座標)と、ホース21の端部からクリップ23の間隔の上下方向における中央の位置座標(第3の位置座標)とを取得しておく。そして、演算手段13では、第1の位置座標と第3の位置座標の上下方向の距離と、第2の位置座標と第3の位置座標の上下方向の距離との差を算出する。これにより、距離の比が1:4であると算出される。
【0055】
次に、演算手段13では、ステップS72おいて特定手段12により特定された検査対象物の位置とサイズの情報を利用して、取得画像中の位置ごとのピクセルと、実空間の長さの比率を算出する(ステップS73)。
【0056】
例えば、演算手段13は、あらかじめ既知であるブラケット22の実空間での規格上の上下の長さが100mm、取得画像内での長さが690ピクセルであることから、1mmは6.9ピクセルに相当していると算出することができる。一方で、演算手段13は、既知であるクリップ23の実空間での規格上での上下の長さが10mm、取得画像内での長さが70ピクセルであることから、1mmは7ピクセルに相当していると算出することができる。
【0057】
そして演算手段13は、ステップS72で算出した距離の比が1:4であることからこの比率を利用し、ホース21の端部からクリップ23の間隔の位置においては、1mmは6.98ピクセルであると算出する。
【0058】
さらに演算手段13は、特定手段12により特定されたホース21の端部からクリップ23の間隔が、取得画像中において100ピクセルであることから、実空間では14.32mmであると算出することができる。
【0059】
最後に、判定手段14では、ステップS73で算出された、実空間におけるホース21の端部からクリップ23の間隔が、良品条件に合致しているか否かを判定する(ステップS74)。ここでは良品であるための条件は2~7mm以内としており、ステップS73においてホース21の端部からクリップ23の間隔が実空間では14.32mmであると算出されていることから、判定手段14では、良品ではない旨の判定を行うことができる。
【0060】
<第4の検査項目>
次に、第4の検査項目、すなわち、クリップ23の爪部23aと爪部23bの爪の開きが所定の角度以下であるか否かについて検査する方法について説明する。
図10は、検査装置1を用い、第4の検査項目の検査の手順を示した図である。
【0061】
図11に示すように、特定手段12は、クリップ23の爪部23a,23b及び楕円部21bの位置及びサイズを特定する(ステップS101)。この特定手段12による各部の特定には、ディープラーニング等のAI学習を利用することができる。
【0062】
ここで楕円部21bとは、上面視の断面ではほぼ円形状であるホース21が、取得画像上において楕円形状に撮像される箇所である。この楕円部21bは、ホース21にクリップ23が巻かれた箇所の上方近傍とする。
【0063】
図12に示すように、演算手段13は、楕円部21bの楕円形状を算出する(ステップS102)。具体的には、演算手段13は、楕円部21bの短径r
xの長さと、長径r
yの長さから、ホース21の斜め方向の傾き具合を算出する。
【0064】
次に、演算手段13は、特定手段12により取得された爪部23a,23bの位置情報を利用し、この楕円上に爪部23a,23bがあるものと仮定する。すなわち、演算手段13は、楕円の中央部からの爪部23a,23bの角度計算を行うことができる位置座標を、楕円上に設定する(ステップS103)。
【0065】
そして
図13に示すように、演算手段13は、ステップS103により設定した、爪部23a,23bの楕円上の位置座標と、三角関数を用いて、楕円の中央部からの角度θ1,θ2を算出する(ステップS104)。
【0066】
ここで、ステップS103及びS104による角度θ1,θ2の算出手順の詳細について説明する。ここで
図14(a)に示すように、楕円上における点P(x,y)を考えると、
【数1】
により表すことができる。ここでr
x,r
yは、ホース21の楕円部21bの検知に合わせて取得できる。
【0067】
一方で、例えば爪部23aの座標P’(x’,y’)は、特定手段12による爪部23a,23bの位置の検知により算出されるが、このとき
図14(b)に示すように、
【数2】
により表すことができる。
【0068】
ここで、θ1+θ2をθ’とすると、
【数3】
により表すことができる。
【0069】
判定手段14は、ステップS103,ステップS104により算出されたθ’が、良品条件に合致しているか否かを判定する(ステップS105)。一例として、判定手段14は、θ’が120°以内であれば、良品であるものとして判定する。
【0070】
<第3の検査項目>
ここで第3の検査項目、すなわち、爪部23aと爪部23bとの爪の開きが所定の角度以上であるか否かを検査する方法については、第4の検査項目と同様の方法で行うことができる。
【0071】
この場合、判定手段14は、
図10に示したステップS105による判定において、ステップS103,ステップS104により算出されたθ’が、良品条件である30°以上であるか否かにより、判定を行うことができる。
【0072】
<第1の検査項目>
次に、第1の検査項目、すなわち、ホース21内にブラケット22の突出部22bが入り込んだ長さが十分か否かを検査する方法について説明する。
図15は、検査装置1を用い、第1の検査項目の検査の手順を示した図である。
【0073】
事前準備として、検査装置1は、検査対象物の位置情報の正解データの作成を行うとともに、作成した正解データを用いて学習を行う。(ステップS151)。
【0074】
具体的には、検査装置1は、あらかじめ撮像手段11で取得した画像と、その画像内に写っているホース21とブラケット22のラベリングを行うことにより、学習のための複数の正解データ、すなわち位置情報のセットづくりを行う。
【0075】
このとき特定手段12では、ラベリングされるもの同士の位置が近接している場合には、最初は、ラベリング範囲が狭くなるようにラベリングを行い、後にラベリングを狭くした分を追加するという手順とすることができる。なお特定手段12では、このように狭い範囲からのラベリングとすることによって、ラベリング精度の向上をはかることができる。特定手段12は、このラベリングを利用して作成される正解データに関して、ホース21やブラケット22の位置の情報及びサイズの情報を、位置情報として含めることができる。
【0076】
そして検査装置1は、この正解データを、ホース21とブラケット22の位置の学習に用いる。以下では、検査装置1は、複数の正解データからホース21とブラケット22の位置情報について十分に学習を行ったものとして説明する。
【0077】
次に、実際の検査対象であるホース21とブラケット22が写った取得画像を用いた処理を行う。
【0078】
撮像手段11は、ホース21とブラケット22が写った画像を取得する。そして、特定手段12は、ホース21とブラケット22の位置検出を行う。具体的には、特定手段12では、ホース21と、ブラケット22の底部22aについて、各物体の位置と種類を特定する(ステップS152)。
【0079】
特に、特定手段12は、取得画像におけるホース21の下端部の円弧形状と、ブラケット22の底部22aの外周の円弧形状について、それぞれ物体検出による特定を行う。
図16は、判定手段14による判定を行うために、特定手段12により特定される2つの円弧形状と、これらの位置関係を示している。
【0080】
ここで、特定手段12では、ステップS151で学習したホース21とブラケット22の位置情報を利用して、ホース21とブラケット22の位置の特定を行うことができる。
【0081】
一例として、特定手段12では、ステップS151において学習されたホース21とブラケット22の位置関係が、ステップS152において取得された画像のホース21とブラケット22の位置関係とほぼ同じであるものとして、物品の位置の特定の処理を行うことができる。すなわち、特定手段12では、ステップS152で取得された取得画像を、ステップS151で正解データを用いて学習した内容と比較し、ホース21とブラケット22の位置を推測して処理を行うことで、S152で取得された画像中のホース21とブラケット22の位置の特定することができる。
【0082】
なお、特定手段12は、このステップS152の処理についてもステップS151と同様に、対象の物体に対して最初に狭い範囲で位置の特定を行い、その後、特定の範囲を広げていくといった手順をとることが可能であるが、これに限られず、特定の手順は自在に変更可能である。
【0083】
ここで、特定手段12により特定された、取得画像におけるホース21の下端部の手前側半周の円弧形状の上下方向のピクセル数をαピクセル、ブラケット22の底部22aの外周の手前側半周の円弧形状の上下方向のピクセル数をβピクセルする。この手前側とは、撮像手段11により撮影が行われる場合に、撮像手段11に近接する側である。
【0084】
さらに、ホース21の下端部の円弧形状として特定された箇所のうち上端部の座標と、ブラケット22の底部22aの外周の円弧形状として特定された箇所のうち下端部の座標と、の上下方向における位置の差をγピクセルとする。
【0085】
演算手段13は、撮像手段11により取得された画像におけるピクセルと、実空間における長さの比率の算出を行う(ステップS153)。この比率の算出は、前述した第2の検査項目のステップS71~ステップS73に示した方法と同様の方法で行うことが可能であり、説明を省略する。
【0086】
演算手段13は、ステップS152で算出した取得画像上のαピクセル、βピクセル及びγピクセルについて、それぞれステップS153で求めた比率により、実空間の長さα’mm,β’mm,γ’mmを算出する(ステップS154)。
【0087】
判定手段14は、ステップS153で算出したγ’mmから、α’mm、β’mmを減算した結果が、良品条件である1mm以内であるか否かを判定する(ステップS155)。
【0088】
<第5の検査項目>
次に、第5の検査項目、すなわち、ホース21のペイントマーク21aと、ブラケット22の底部22aに設けられたペイントマーク22cの相対位置のずれが所定の範囲内か否かを検査する方法について説明する。
【0089】
特定手段12では、撮像手段11により取得された取得画像において、ブラケット22とクリップ23の位置及びサイズと、ペイントマーク21aとペイントマーク22cの座標を取得する。
【0090】
ここで演算手段13は、撮像手段11により取得された取得画像におけるピクセルと、実空間における長さの比率の算出を行う。この比率の算出は、前述した第2の検査項目のステップS71~ステップS73に示した方法と同様の方法で行うことが可能であるため詳細な説明は省略するが、例えば、ブラケット22やクリップ23の位置及びサイズに基づいて、ペイントマーク21a,22cの位置における取得画像上の1ピクセルが実空間の何mmに相当するかを算出することができる。
【0091】
典型的には
図4に示すように、特定手段12では、ペイントマーク21aとペイントマーク22cは、取得画像における、横方向のピクセルのずれを特定する。そして、演算手段13では、特定手段12により特定された横方向のピクセルのずれから、ペイントマーク21a,22cの実空間のずれの距離を算出する。
【0092】
判定手段14は、演算手段13で算出されたペイントマーク21a,22cの実空間におけるずれの距離が、所定の範囲内か否かを判定する。一例として、判定手段14では、ペイントマーク21a,22cの実空間におけるずれの距離が3mm以内であれば、良品として判定することができる。
【0093】
このようにして、検査装置1では、第1の検査項目~第5の検査項目のそれぞれについて検査を行うことができる。なお検査装置1では、第1の検査項目~第5の検査項目は、いずれか1つを実行してもよく、複数を組み合わせて実行してもよい。
【0094】
<取得画像に関する準備の一例>
上記では、検査装置1で第1の検査項目~第5の検査項目の夫々を実行する場合について、撮像手段11により取得される取得画像では、
図2に示すようにブラケット22は取得画像の下方の中央、ホース21は取得画像の上方の中央に配されるように撮影されるものとして説明している。さらに、特定手段12による各検査対象物を特定する際には、取得画像上において横方向の2辺と縦方向の2辺からなる、傾いていない矩形を基準にして行われる。
【0095】
しかしながら
図17に示すように、撮像手段11では、検査対象物が取得画像の対角方向に長く撮影された状態、すなわち、ブラケット22が取得画像の左下、ホースが取得画像の右上に配されるように撮影されることが考えられる。このような場合、
図17に示すように取得画像に対して傾いていない矩形状を基準にして特定手段12による特定処理を行うと、検査対象物として本来特定としたい領域に加えて、余分な領域が含まれた状態を特定してしまう可能性が高くなる。
【0096】
そのため検査装置1では、撮像手段11で撮影された取得画像について画像処理を行い、ブラケット22が取得画像の下方の中央、ホース21は取得画像の上方の中央に配された加工画像の作成を行うことができる。以下に、この加工画像を作成する手順の一例を示す。
【0097】
まず、撮像手段11において取得された取得画像中の検査対象物が
図17に示すように傾いている場合には、特定手段12は2つの検査対象物について、位置とサイズを取得する。ここでは、特定手段12は、ブラケット22の下端の円弧状の領域と、ホース21の下端の円弧状の領域の位置及びサイズを特定する。
【0098】
このとき特定手段12では、取得画像上において横方向の2辺と縦方向の2辺からなる、傾いていない矩形を基準に、これらの領域の位置及びサイズの特定を行う。そのため、特定手段12がブラケット22の下端の円弧状の領域を特定する場合にはこの領域の周辺領域を含んだ状態となり、同様に、ホース21の下端の円弧状の領域を特定する場合にはこの領域の周辺領域を含んだ状態となる。
【0099】
次に、演算手段13は、特定手段12により特定されたブラケット22の下端の円弧状の領域の中心座標(第1の中心座標)を算出する。同様に、演算手段13は、特定手段12により特定されたホース21の下端の円弧状の領域の中心座標(第2の中心座標)を算出する。
【0100】
次に
図18に示すように、演算手段13は、第1の中心座標と第2の中心座標とを直線で繋ぎ、この直線の角度から、取得画像中における検査対象物の傾き角を算出することができる。
【0101】
したがって、演算手段13では、算出した傾き角に基づいて取得画像に対して射影変換を行い、ブラケット22が下方の中央、ホース21が上方の中央に配された加工画像を作成することができる。
【0102】
これにより、撮像手段11により撮影された画像について、第1の検査方法~第5の検査方法の処理を行いやすくなるように、画像内の検査対象物の位置や角度の変換を行うことができる。
【0103】
以上のことから、検査装置1では、第1の検査項目~第5の検査項目について、撮像手段11により取得された取得画像中のピクセルと、検査対象物の実空間における長さとを対応付けた状態で、自動的に良否判断を行うことができる。
【0104】
具体的には、検査装置1では、撮像手段11により組付け状態を撮像し、撮像手段11により取得された取得画像から、特定手段12では、クリップ23及びブラケット22の夫々の位置及び夫々のサイズを特定することができる。そして演算手段13では、特定手段12により特定されたクリップ23及びブラケット22の夫々の位置及び夫々の取得画像におけるサイズと、あらかじめ取得されたクリップ23とブラケット22の実空間における規格サイズとを利用して、取得画像中のピクセルと実空間の長さとを対応付けることができる。さらに判定手段14では、この対応付けにより、取得画像におけるサイズから算出される検査対象箇所の実空間上における長さを用いて、各検査項目における組付け状態の良否判定を行うことができる。
【0105】
このようにして検査装置1では、検査対象物に対して自動的に良否判断を行うことができるため、検査員が目視検査を行う手間と時間を省くことができる。また検査員を配する必要が無くなるため、製造ラインのライン長を短縮できるとともに、ヒューマンエラーの発生を抑制することができる。
【0106】
さらに検査装置1では、取得画像におけるピクセルサイズと、実空間における長さとの対応が判明した状態で良否判断を行うことから、判定精度が向上する。
【0107】
また、第3の検査項目及び第4の検査項目に示したように、撮像手段11により斜め方向からクリップ23の爪部23a,23bを撮影しなければならない状況であっても、爪部23a,23bの開度を判定することができる。
【0108】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。すなわち上記の記載は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされており、当業者であれば、実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0109】
例えば、上記では、特にブラケット22とクリップ23の位置及びサイズに基づいて取得画像におけるピクセルと実空間における長さの対応をとるものとして説明したが、ホース21や、上記では挙げられていない他の検査対象物の取得画像中のピクセルと実空間での長さを対応させてもよい。また、これらのうち3点以上の構成物品を利用して、取得画像におけるピクセルと実空間における長さを対応させてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 検査装置
2 車両
3 コンピュータ
11 撮像手段
12 特定手段
13 演算手段
14 判定手段
21 ホース
22 ブラケット
23 クリップ