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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/00 20160101AFI20250729BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250729BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20250729BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250729BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250729BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250729BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250729BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20250729BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20250729BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20250729BHJP
【FI】
B60W20/00 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/40
B60W10/00 102
B60W10/04
B60L50/16
B60L15/20 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022056769
(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公開番号】P2023148632
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2024-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩八
(72)【発明者】
【氏名】山口 満
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】上浦 響
(72)【発明者】
【氏名】浅田 宗志
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131534(JP,A)
【文献】特開2004-104971(JP,A)
【文献】特開平10-331749(JP,A)
【文献】特開2012-131497(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103962(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
B60L 50/16
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータ、及び前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間に設けられたクラッチ、を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記クラッチが解放した状態で前記エンジンの始動要求がある場合に、前記クラッチをスリップさせて前記モータにより前記エンジンをクランキングして前記エンジンの完爆後に前記クラッチを係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、
前記エンジン始動制御において、前記クラッチの係合前での前記動力伝達経路を介して前記駆動輪に伝達される軸トルクと、前記クラッチの係合後での前記軸トルクとが対応するように、前記エンジン及びモータのそれぞれのトルクを制御するトルク制御部と、を備え
前記トルク制御部は、前記エンジンのフリクショントルク、前記動力伝達経路上の前記モータと前記駆動輪との間に設けられたトランスミッションの負荷トルク、前記エンジンの補機の負荷トルク、及び前記エンジンのアイドル学習トルクの合計値に基づいて、前記軸トルクを算出し、
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆前における前記エンジンのフリクショントルク、前記トランスミッションの負荷トルク、及び前記補機の負荷トルクを、前記モータの回転数を前記エンジンの回転数とみなして算出する、ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆後であって前記クラッチの係合前に、前記エンジンのトルクを増大させつつ前記モータのトルクを低下させる、請求項1のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆後における前記エンジンのフリクショントルク、前記トランスミッションの負荷トルク、及び前記補機の負荷トルクを、前記エンジン回転数に基づいて算出する、請求項1のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータと、動力伝達経路上のエンジンとモータとの間に設けられたクラッチと、を備えたハイブリッド車両が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-060443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クラッチが解放した状態でエンジンの始動要求がある場合には、クラッチをスリップさせてモータによりエンジンをクランキングしてエンジンの完爆後にクラッチを係合させるエンジン始動制御が実行される場合がある。このようなエンジン始動制御において、動力伝達経路を介して駆動輪に伝達される軸トルクが大きく変動すると、ハイブリッド車両にショックが発生するおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、エンジン始動に伴うショックの発生を抑制したハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、エンジン、前記エンジンから駆動輪までの動力伝達経路上に設けられたモータ、及び前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間に設けられたクラッチ、を備えたハイブリッド車両の制御装置において、前記クラッチが解放した状態で前記エンジンの始動要求がある場合に、前記クラッチをスリップさせて前記モータにより前記エンジンをクランキングして前記エンジンの完爆後に前記クラッチを係合させるエンジン始動制御を実行するエンジン始動制御部と、前記エンジン始動制御において、前記クラッチの係合前での前記動力伝達経路を介して前記駆動輪に伝達される軸トルクと、前記クラッチの係合後での前記軸トルクとが対応するように、前記エンジン及びモータのそれぞれのトルクを制御するトルク制御部と、を備えたハイブリッド車両の制御装置によって達成できる。
【0007】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆後であって前記クラッチの係合前に、前記エンジンのトルクを増大させつつ前記モータのトルクを低下させてもよい。
【0008】
前記トルク制御部は、前記エンジンのフリクショントルク、前記動力伝達経路上の前記モータと前記駆動輪との間に設けられたトランスミッションの負荷トルク、前記エンジンの補機の負荷トルク、及び前記エンジンのアイドル学習トルクの合計値に基づいて、前記軸トルクを算出してもよい。
【0009】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆前における前記エンジンのフリクショントルク、前記トランスミッションの負荷トルク、及び前記補機の負荷トルクを、前記モータの回転数を前記エンジンの回転数とみなして算出してもよい。
【0010】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆後における前記エンジンのフリクショントルク、前記トランスミッションの負荷トルク、及び前記補機の負荷トルクを、前記エンジン回転数に基づいて算出してもよい。
【0011】
前記トルク制御部は、前記エンジンの完爆前の前記軸トルクを目標回転数と前記モータの回転数とに基づいて制御し、前記エンジンの完爆後の前記軸トルクを前記目標回転数と前記エンジンの回転数とに基づいて制御してもよい。
【0012】
前記トルク制御部は、前記目標回転数に対して前記モータの回転数が低い場合には、前記目標回転数に対して前記モータの回転数が高い場合よりも前記軸トルクを増大させてもよい。
【0013】
前記トルク制御部は、前記目標回転数に対して前記エンジンの回転数が低い場合には、前記目標回転数に対して前記エンジンの回転数が高い場合よりも前記軸トルクを増大させてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンジン始動に伴うショックの発生を抑制したハイブリッド車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
図2図2は、ECUが実行するエンジン始動制御の一例を示したタイミングチャートである。
図3図3は、ECUが実行するエンジン始動制御の一例を示したフローチャートである。
図4図4は、エンジンフリクショントルク、トランスミッション負荷トルク、及び補機負荷トルクの合計値である合計負荷トルクとエンジン回転数との関係を規定したマップの一例である。
図5図5は、完爆時のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を規定したマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ハイブリッド車両の概略構成]
図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1には、エンジン10から駆動輪13までの動力伝達経路に、K0クラッチ14、モータ15、トランスミッション18が順に設けられている。エンジン10及びモータ15は、ハイブリッド車両1の走行用駆動源として搭載されている。エンジン10は、例えばV型6気筒ガソリンエンジンであるが気筒数はこれに限定されず、直列型のガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。K0クラッチ14、モータ15、及びトランスミッション18は、変速ユニット11内に設けられている。変速ユニット11と左右の駆動輪13とは、プロペラシャフト12a及びディファレンシャル12を介して駆動連結されている。トランスミッション18は、トルクコンバータ19、及び変速機20を備えている。
【0017】
K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、解放状態から油圧の供給を受けてスリップ状態、係合状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を接続する。K0クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて解放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。係合状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が連結しエンジン10とモータ15が同じ回転数となっている状態である。解放状態とは、K0クラッチ14の両係合要素が離れた状態である。スリップ状態とは、エンジン10とモータ15とが所定の回転数差を有してK0クラッチ14の両係合要素が摺接した状態である。
【0018】
モータ15は、インバータ17を介してバッテリ16に接続されている。モータ15は、バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能し、更にエンジン10や駆動輪13からの動力伝達に応じてバッテリ16に充電する回生電力を発電する発電機としても機能する。モータ15とバッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0019】
インバータ17は、後述するECU100によって制御され、バッテリ16からの直流電圧を交流電圧に変換し、またはモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換する。モータ15がトルクを出力する力行運転の場合、インバータ17はバッテリ16の直流電圧を交流電圧に変換してモータ15に供給される電力を調整する。モータ15が発電する回生運転の場合、インバータ17はモータ15からの交流電圧を直流電圧に変換してバッテリ16に供給される回生電力を調整する。
【0020】
トルクコンバータ19は、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手である。変速機20は、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機であるが、これに限定されず無段式の自動変速機であってもよい。変速機20は、動力伝達経路上のモータ15と駆動輪13の間に設けられている。トルクコンバータ19を介して、モータ15と変速機20とが連結されている。トルクコンバータ19には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と変速機20とを直結するロックアップクラッチ19aが設けられている。
【0021】
変速ユニット11には、更にオイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。オイルポンプ21で発生した油圧は、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ19、変速機20、及びロックアップクラッチ19aにそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ19、変速機20、及びロックアップクラッチ19aのそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁とが設けられている。
【0022】
ハイブリッド車両1には、同車両の制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)100が設けられている。ECU100は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU100は制御装置の一例であり、詳しくは後述するエンジン始動制御部及びトルク制御部を機能的に実現する。
【0023】
ECU100は、エンジン10及びモータ15の駆動を制御する。具体的にはECU100は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルクや回転数を制御する。ECU100は、インバータ17を制御してモータ15とバッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15の力行トルク、回生トルク、回転数を制御する。またECU100は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ19a、変速機20の駆動制御を行う。尚、ロックアップクラッチ19aは、車速がロックアップクラッチ19aを解放状態に維持する上限車速以下の場合には解放し、車速が上限車速よりも高い場合には係合する。
【0024】
ECU100には、イグニッションスイッチ71、クランク角センサ72、モータ回転数センサ73、アクセル開度センサ74、車速センサ75、SOCセンサ76、及び水温センサ77からの信号が入力される。クランク角センサ72は、エンジン10のクランクシャフトの回転速度、即ちエンジン回転数を検出する。モータ回転数センサ73は、モータ15の出力軸の回転速度、即ちモータ回転数を検出する。アクセル開度センサ74は、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度を検出する。車速センサ75はハイブリッド車両1の走行速度を検出する。SOCセンサ76は、バッテリ16の充電量を示すSOC(State Of Charge)を検出する。水温センサ77は、エンジン10の冷却水の温度を検出する。
【0025】
ECU100は、モータモード及びハイブリッドモードの何れかの走行モードでハイブリッド車両を走行させる。モータモードでは、ECU100はK0クラッチ14を解放し、モータ15の動力により走行する。ハイブリッドモードでは、ECU100はK0クラッチ14を係合状態に切り替えて少なくともエンジン10の動力により走行する。尚、ハイブリッドモードには、モータ15を力行運転させてエンジン10及びモータ15の双方を動力源として走行するモード、モータ15を回生運転させてエンジン10の動力のみで走行するモード、及びモータ15の運転を停止してエンジン10の動力のみで走行するモードを含む。
【0026】
走行モードの切り替えは、車速やアクセル開度から求められた車両の要求駆動力やバッテリ16のSOCなどに基づいて行われる。例えば、要求駆動力が比較的小さくSOCが比較的高い場合には、燃費を向上させるためにエンジン10を停止したモータモードが選択される。要求駆動力が比較的大きい場合やSOCが比較的低い場合には、エンジン10が駆動したハイブリッドモードが選択される。
【0027】
ECU100は、ハイブリッドモードにおいて所定条件が成立した場合にエンジン10を停止させ、モータモードで所定条件が成立した場合にエンジン10を始動させる間欠運転制御を実行する。ECU100は、所定の条件成立時にエンジン10を始動させるエンジン始動制御を実行する。ECU100が実行するエンジン始動制御は、エンジン始動制御部が実行する処理の一例である。
【0028】
[エンジン始動制御]
図2は、ECU100が実行するエンジン始動制御の一例を示したタイミングチャートである。エンジン回転数[rpm]、モータ回転数[rpm]、K0クラッチ14の状態、エンジントルク[N・m]、モータトルク[N・m]、及び軸トルク[N・m]を示している。軸トルクは、動力伝達経路を介して駆動輪13に伝達されるトルクである。従って、K0クラッチ14が解放状態での軸トルクは、モータ15から駆動輪13に伝達されるトルクである。K0クラッチ14がスリップ状態での軸トルクは、モータ15とK0クラッチ14を介してエンジン10とから駆動輪13に伝達されるトルクである。K0クラッチ14が係合状態での軸トルクは、エンジン10及びモータ15から駆動輪13に伝達されるトルクである。
【0029】
図2は、K0クラッチ14が解放状態でエンジン回転数がゼロであり、モータ回転数が目標回転数に維持され軸トルクが一定に維持された状態で、エンジン10の始動要求がある場合を示している。この状態でエンジン10の始動要求があると、K0クラッチ14がスリップ状態に制御されてモータ15によるクランキングが開始される(時刻t1)。これによりエンジン回転数が増大しつつエンジントルクは負トルクとなり、軸トルクが一定に維持されるようにモータトルクはこのエンジントルクに対応したクランキングトルク分だけ増大する。
【0030】
エンジン10での燃焼が開始されるとエンジン10のトルクは徐々に増大する(時刻t2)。また、この際にはK0クラッチ14はスリップ状態であるため、エンジントルクの増大分は軸トルクには大きくは反映されない。
【0031】
エンジントルクが負トルクから正トルクにまで増大し、軸トルクも増大する。エンジン10が完爆すると、エンジントルクは更に急角度で増大すると共に、モータトルクがクランキングトルク分よりも大きく低下し始める(時刻t3)。尚、エンジン10の増大に伴って軸トルクも一時的に増大するが、完爆直後からモータトルクが低下するため、軸トルクの増大が抑制されている。
【0032】
その後にエンジントルクは、モータトルクよりも増大して燃焼効率等を考慮した所定値に収束する(時刻t4)。モータトルクは、このエンジントルクとバッテリ16の充電要求量とを考慮して、軸トルクが一定となるように、負トルク(回生トルク)に制御される(時刻t5)。
【0033】
以上のように、クランキング開始前や、クランキング開始後であって完爆するまでや、K0クラッチ14の係合後では、軸トルクが一定となるようにエンジントルク及びモータトルクが制御される。即ち、K0クラッチ14の係合前の軸トルクと、K0クラッチ14の係合後の軸トルクとが対応するように、エンジントルク及びモータトルクが制御されている。このようにエンジン始動の際での軸トルクの変動が抑制されている。特に、エンジン10の完爆後であってK0クラッチ14の係合するまで、エンジントルクが増大しつつモータトルクは低下する。これにより、エンジン10の完爆により一時的に軸トルクは増大するものの、軸トルクが過大となることが抑制されている。このようにして、エンジン始動の際のショックの発生を抑制できる。尚、エンジン10の完爆により一時的に軸トルクは増大するが、この場合にはK0クラッチ14はスリップ状態であるためショックの発生が抑制されている。
【0034】
図3は、ECU100が実行するエンジン始動制御の一例を示したフローチャートである。本制御は、イグニッションがオンの状態で所定の周期ごとに繰り返し実行される。ECU100は、エンジン始動制御の実行のための前提条件が成立しているか否かを判定する(ステップS1)。前提条件は、例えばアクセルオフ状態であり、駆動力要求トルクはゼロ以下であり、車速がロックアップクラッチ19aを解放状態に維持する上限車速以下であり、バッテリ16のSOCが上限値未満であることである。ステップS1でNoの場合には本制御は終了する。
【0035】
ステップS1でYesの場合、ECU100はエンジン10の始動要求があるか否かを判定する(ステップS2)。例えばエンジン10の冷却水の温度が所定値以下の場合や、バッテリ16のSOCが所定値以下であり充電要求がある場合に、エンジン10の始動が要求される。ステップS2でNoの場合には本制御は終了する。
【0036】
ステップS2でYesの場合には、ECU100は軸トルクを一定に維持する制御を実行する(ステップS3)。具体的には、軸トルクが一定に維持されるようにモータトルクが制御されるが、詳細は後述する。
【0037】
次にECU100は、油圧制御機構22を制御することによりK0クラッチ14をスリップさせ、モータ15によりエンジン10のクランキングを開始する(ステップS4)。尚、クランキング時でのモータトルクは、予め実験結果により算出されたクランキングトルク分を増大することにより制御してもよいし、目標回転数とモータ回転数との差分を補填するようにモータトルクをフィードバック制御してもよい。
【0038】
次にECU100は、エンジン10の燃焼を開始する(ステップS5)。具体的には、燃料噴射及び点火を開始する。次にECU100は、エンジン10が完爆したか否かを判定する(ステップS6)。完爆とは、クランキングすることなくエンジン10が自立運転可能となった状態である。例えばECU100はエンジン回転数が完爆判定回転数以上の場合には、エンジン10が完爆したと判定し、エンジン回転数が完爆判定回転数未満の場合には、エンジン10は完爆していないと判定する。ステップS6でNoの場合には、再度ステップS6の処理を実行する。
【0039】
ステップS6でYesの場合、ECU100は軸トルクを一定に維持する制御を実行する(ステップS7)。具体的には、軸トルクが一定に維持されるようにエンジントルク及びモータトルクが制御されるが、詳細は後述する。
【0040】
次にECU100は、油圧制御機構22を制御することによりK0クラッチ14を係合させる(ステップS8)。このようにしてエンジン始動制御が完了する。
【0041】
[軸トルク制御]
ステップS3及びS7の軸トルク制御について説明する。ステップS3の軸トルク制御はエンジン10の完爆前に行われ、ステップS7の軸トルク制御はエンジン10の完爆後に行われる。ステップS3及びS7の制御はトルク制御部が実行する処理の一例である。最初に、エンジン10の完爆前の軸トルクの制御について説明する。
【0042】
[完爆前の軸トルク制御]
完爆前の軸トルク制御では、以下の式を満たすようにモータトルクが制御される。
軸トルク=((エンジンフリクショントルク+トランスミッション負荷トルク+補機負荷トルク)+エンジンアイドル学習トルク)×安定化補正係数…(1)
【0043】
エンジンフリクショントルクとは、エンジン10の回転に対して抵抗となる摩擦トルクである。トランスミッション負荷トルクとは、トランスミッション18の回転に対して抵抗となるトルクである。補機負荷トルクは、エンジン10の補機分のトルクであり、補機としては例えばエンジン10の回転に連動して回転する、ラジエータの冷却用のファンである。従って式(1)においてエンジンフリクショントルク、トランスミッション負荷トルク、及び補機負荷トルクは、それぞれ負の値として算出される。
【0044】
エンジンフリクショントルク、トランスミッション負荷トルク、及び補機負荷トルクのそれぞれは、エンジン回転数に応じて変化する。しかしながら、エンジン10の完爆前の停止状態では、当然にエンジン回転数はゼロである。このためECU100は、エンジン回転数に応じた上記のトルクを予め実験結果等に基づいて規定したマップ又は上記のトルクの合計値を規定したマップを参照し、モータ回転数をエンジン回転数とみなして、上記のトルクの合計値を算出する。
【0045】
図4は、エンジンフリクショントルク、トランスミッション負荷トルク、及び補機負荷トルクの合計値である合計負荷トルクとエンジン回転数との関係を規定したマップの一例である。図4のマップでは、エンジン回転数が高いほど、トルクの合計値は負の値として増大するように規定している。ECU100はモータ回転数をエンジン回転数とみなしてこのようなマップを参照して、合計負荷トルクを算出してもよい。尚、合計負荷トルクの算出方法は上記のようなマップを参照することに限定されず、例えばエンジン回転数を引数とする演算式により合計負荷トルクを算出してもよい。この場合も同様に、モータ回転数をエンジン回転数とみなして、完爆前の合計負荷トルクを算出することができる。
【0046】
エンジンアイドル学習トルクとは、エンジン回転数をアイドル回転数に維持するための基準となるアイドルベーストルクに、アイドルフィードバックトルクを加算した値である。アイドルフィードバックトルクとは、アイドルベーストルクをエンジン10が出力している際に、エンジン回転数とアイドル回転数との差分を補填するためのトルクである。また、アイドルフィードバックトルクの大きさが所定値以上の場合に、アイドルベーストルクにアイドルフィードバックトルクを加味した値を新たなエンジンアイドル学習トルクとして更新される。このように更新されたエンジンアイドル学習トルクは、ECU100のメモリに記憶されている。
【0047】
完爆前の安定化補正係数は、以下のように算出される。
安定化補正係数=ベース比例係数×(目標回転数/モータ回転数-1)+1…(2)
【0048】
完爆前の安定化補正係数は、目標回転数に対してモータ回転数がずれた場合に、モータ回転数を早期に目標回転数に収束させるための補正係数である。目標回転数はギア段と車速に応じた値に設定される。ベース比例係数は、モータ回転数の目標回転数への収束の感度強さを示した適合値であり、例えば0.8~1.2程度の間の数値である。例えばベース比例係数が1、目標回転数が800rpm、モータ回転数が目標回転数よりも低い600rpmの場合には、安定化補正係数は1よりも大きい1.33と算出される。これに対して、ベース比例係数と目標回転数とは上記と同じであり、モータ回転数が1000rpmの場合には、安定化補正係数は1よりも小さい0.8と算出される。従って、目標回転数に対してモータ回転数が低い場合には、目標回転数に対してモータ回転数が高い場合よりも軸トルクは大きな値として算出される。
【0049】
ここで、本ハイブリッド車両1に搭載されたエンジン10、トランスミッション18、及び補機と同様のエンジン、トランスミッション、及び補機を備えたエンジン車両を想定する。上記の式(1)から安定化補正係数を除いた式により算出される軸トルクは、本ハイブリッド車両1のモータ回転数と同じ回転数でエンジンが回転してアイドル運転状態であるエンジン車両の軸トルクと同じである。従って、ハイブリッド車両1において走行モードがモータモードの場合においても、上記のような一般的なエンジン車両と同様のクリープ走行を実現することができる。
【0050】
[完爆後の軸トルク制御]
完爆後の軸トルク制御では、ECU100は式(1)でのエンジンフリクショントルク、トランスミッション負荷トルク、及び補機負荷トルクの合計値である合計負荷トルクについて、例えば上述した図4のマップを参照して、エンジン回転数に基づいて算出する。このように、完爆前と完爆後とで同一の式(1)により算出された軸トルクとなるようにエンジントルク及びモータトルクが制御されるため、K0クラッチ14の係合前の軸トルクと係合後の軸トルクとを対応させることができる。
【0051】
但し、完爆後での安定化補正係数に関しては以下のように算出される。
安定化補正係数=ベース比例係数×(目標回転数/エンジン回転数-1)+1…(3)
【0052】
完爆後での安定化補正係数は、モータ回転数の代わりにエンジン回転数を用いる点で上述した完爆前の安定化補正係数と異なっている。このため完爆後での安定化補正係数は、目標回転数に対してエンジン回転数がずれた場合に、エンジン回転数を早期に目標回転数に収束させるための安定化補正係数である。従って、目標回転数に対してエンジン回転数が低い場合には、目標回転数に対してエンジン回転数が高い場合よりも軸トルクは大きな値として算出される。このように完爆後は、エンジン回転数が目標回転数に収束するように軸トルクが制御される。このように、完爆後の安定化補正係数がエンジン回転数を用いる理由は以下による。完爆前のエンジン始動時でのECU100による始動時噴射制御や点火制御の開始タイミングは、始動時でのエンジン回転数が低いため、噴射間隔や点火タイミングの間隔が長く開始タイミングがばらつき、完爆後での目標トルクやエンジン回転数に対してばらつきが発生するおそれがある。このため、完爆後のエンジン回転数を使用して安定化補正係数を算出することにより、K0クラッチ14が係合するまでの目標回転数に対してエンジン回転数をより安定的に同期させることができる。
【0053】
また、完爆後の軸トルク制御では、以下のようにモータトルクが制御される。ECU100は、完爆時でのエンジントルクを完爆前に推定し、完爆直後に、完爆時でのエンジントルクを加味して軸トルクが一定となるようにモータトルクを敏速に低下させる。具体的には、ECU100は図5のマップを参照して、完爆前に完爆時のエンジントルクを推定する。図5は、完爆時のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を規定したマップの一例である。このマップは予め実験結果等に基づいて規定されている。図5に示すように、完爆時のエンジン回転数が高いほど完爆時のエンジントルクは低い値として算出される。完爆時のエンジン回転数は、ステップS6での完爆判定回転数を用いる。従って、ECU100はこのマップと完爆判定回転数とに基づいて、完爆前に完爆時でのエンジントルクを推定することができる。これにより、完爆直後から、少なくとも完爆時のエンジントルク分を相殺するようにモータトルクを早期に低下させることができる。これによっても、軸トルクの変動が抑制されている。
【0054】
また、完爆後の軸トルク制御においてエンジントルクが所定値に収束した場合には、式(1)により算出された完爆後の軸トルクに対するエンジントルクの増大分の負トルクを、モータ15から出力させる。これにより、軸トルクの変動を抑制することができる。尚、完爆後のエンジントルクは、例えば吸入空気量に基づいた公知の方法により算出することができる。
【0055】
上記実施例では、単一のECU100によりハイブリッド車両1を制御する場合を例示したが、これに限定されず、例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECU等の複数のECUによって、上述した制御を実行してもよい。
【0056】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 ハイブリッド車両
10 エンジン
14 K0クラッチ(クラッチ)
15 モータ
16 バッテリ
100 ECU(エンジン始動制御部、トルク制御部)
図1
図2
図3
図4
図5