(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20250729BHJP
【FI】
A01M7/00 E
(21)【出願番号】P 2022128484
(22)【出願日】2022-08-10
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健士
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】出塩 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】井内 啓介
(72)【発明者】
【氏名】谷本 正信
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-008015(JP,A)
【文献】特開平09-212624(JP,A)
【文献】特開2022-094783(JP,A)
【文献】特開平06-000424(JP,A)
【文献】特開2021-153519(JP,A)
【文献】特開2022-041805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0071081(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防除対象物に農薬を散布する車両であって、
前記車両周辺の前記防除対象物を撮影する撮影装置と、
前記防除対象物が撮影されたときの画像に基づいて、前記農薬の散布が必要であるか否かを判断する制御装置と、
前記農薬の散布が必要であると判断された前記防除対象物に対して、前記農薬を散布する散布装置と、
を備えるものであり、
前記撮影装置は、前記車両周辺の前記防除対象物における鉛直方向の最下端から最上端までを撮影する
ものであり、
前記農薬を散布する際には、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像が鮮明に映る予め定められた車速範囲のうちの最高車速、及び前記散布装置による前記農薬の散布が適切に行われる予め定められた車速範囲のうちの最高車速、のうちの低い方の車速を上限として走行することを特徴とする車両。
【請求項2】
前記制御装置は、所定の基準画像の基になる前記防除対象物が撮影されたときの所定の状況と、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像の基になる前記防除対象物が撮影されたときの状況と、の違いに基づいて前記画像を補正し、前記補正した画像に基づいて、前記農薬の散布が必要であるか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御装置は、機械学習による教師あり学習にて実現される、前記画像のデータと前記農薬の散布の要否との関係を示す予め定められた学習モデルに、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像のデータを適用することで、前記農薬の散布が必要であるか否かを判断することを特徴とする請求項1
又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記学習モデルは、前記画像のデータと前記防除対象物に発生した病害虫の種類及び前記病害虫による被害の進行度との関係を更に示すものであり、
前記制御装置は、前記学習モデルに、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像のデータを適用することで、前記病害虫の種類及び前記被害の進行度を判定し、前記病害虫の種類及び前記被害の進行度に基づいて前記農薬の種類及び必要量を決定することを特徴とする請求項
3に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防除対象物に農薬を散布する車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防除対象物に農薬を散布するシステムが良く知られている。例えば、特許文献1に記載された農業支援システムがそれである。この特許文献1には、撮影装置と制御装置と散布装置とを備える農業支援システムが開示されている。特許文献1の撮影装置は、マルチコプター等の無人飛行体に設けられた、農園内を撮影する装置である。特許文献1の制御装置は、撮影装置の撮影による画像を用いて農園内の作物の生育状態を演算し、演算結果に基づいて病害虫の発生を推定し、推定結果に基づいて農薬の散布に関する作業計画を作成する装置である。特許文献1の散布装置は、病害虫の発生が推定される農場に対して農薬を散布する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防除対象物に農薬を散布するシステムでは、防除対象物の撮影、農薬を散布する要否の判断、及び農薬の散布等の機能を有する必要がある。特許文献1に記載の農業支援システムでは、上述した各機能を実現する各装置が別々に分かれて設けられている。このような農業支援システムでは、対象となる農園の全域を撮影した後に、農園内の各区域毎に農薬の散布の要否を判断し、判断結果に基づいて必要な区域に農薬を散布することになる。農薬の散布には改善の余地がある。加えて、防除対象物が果樹等の背の高いものである場合、撮影する垂直方向の位置が一律に設定されていると、農薬の散布を効率良く行うことができないおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、農薬の散布を効率良く行うことができる車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)防除対象物に農薬を散布する車両であって、(b)前記車両周辺の前記防除対象物を撮影する撮影装置と、(c)前記防除対象物が撮影されたときの画像に基づいて、前記農薬の散布が必要であるか否かを判断する制御装置と、(d)前記農薬の散布が必要であると判断された前記防除対象物に対して、前記農薬を散布する散布装置と、を備えるものであり、(e)前記撮影装置は、前記車両周辺の前記防除対象物における鉛直方向の最下端から最上端までを撮影するものであり、(f)前記農薬を散布する際には、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像が鮮明に映る予め定められた車速範囲のうちの最高車速、及び前記散布装置による前記農薬の散布が適切に行われる予め定められた車速範囲のうちの最高車速、のうちの低い方の車速を上限として走行することにある。
【0007】
また、他の発明は、前記第1の発明に記載の車両において、前記制御装置は、機械学習による教師あり学習にて実現される、前記画像のデータと前記農薬の散布の要否との関係を示す予め定められた学習モデルに、前記農薬の散布の要否判断に用いられる前記画像のデータを適用することで、前記農薬の散布が必要であるか否かを判断することにある。
【発明の効果】
【0008】
前記第1の発明によれば、防除対象物に農薬を散布する車両には、車両周辺の防除対象物を撮影する撮影装置と、農薬の散布が必要であるか否かを判断する制御装置と、農薬を散布する散布装置と、が備えられるので、病害虫の推定と防除とを同時に行うことができる。又、撮影装置によって、車両周辺の防除対象物における鉛直方向の最下端から最上端までが撮影されるので、果樹等の背の高い防除対象物に農薬を散布する場合であっても、車両として病害虫の推定と防除とを同時に行うことができる。よって、農薬の散布を効率良く行うことができる。
【0009】
また、前記他の発明によれば、機械学習による教師あり学習にて実現される、画像のデータと農薬の散布の要否との関係を示す予め定められた学習モデルに、農薬の散布の要否判断に用いられる画像のデータが適用されることで、農薬の散布が必要であるか否かが判断される。これにより、人為的な判定方法に近い見た目の違いで農薬の散布の要否を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、作業中の車両の外観を説明する図である。
【
図2】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、車両における各種の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図3】対象画像の所定範囲における色合い差の一例を示す図である。
【
図4】(a)は、農薬の散布が必要とされる所定範囲が特定された対象画像の一例を示す図であり、(b)は、補正された対象画像の一例を示す図である。
【
図6】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、農薬の散布を効率良く行う為の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1及び
図2は、各々、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図である。
図1は、作業中の車両10の外観を説明する図である。
図2は、車両10における各種の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【0013】
車両10は、例えば公知の自動運転が可能な電動車である。車両10は、農園100内における所定の経路(
図1の破線A参照)を自動運転にて無人走行する。車両10は、農園100内における防除対象物102に農薬20を散布する車両である。農園100は、果樹園等の農園である。防除対象物102は、農園100内において栽培されている果樹等の農作物である。この農作物には、例えば果物の他に、葉なども含まれる。防除対象物102は、例えば所定間隔で並ぶ列を作るように栽培されている。防除対象物102は、病害虫の予防及び駆除を行う対象となる農作物である。病害虫は、農作物の病気や害虫である。農薬20は、公知の農業用の薬剤である。尚、車両10は、エンジン車であっても良いし、自動運転にて有人走行しても良いし、手動運転が可能な車両であっても良い。
【0014】
車両10は、撮影装置12、電子制御装置14、及び散布装置16などを備えている。
【0015】
撮影装置12は、例えば車両10の前後進方向における前部に設置されている。撮影装置12は、例えば車両10周辺を撮影する単眼カメラである。撮影装置12は、車両10周辺特には前方や側方の防除対象物102を撮影する。撮影装置12は、対象画像PICsの情報を画像情報Ipicとして電子制御装置14へ出力する。対象画像PICsは、農薬20の散布に際して防除対象物102が撮影されたときの画像PICであって、農薬20の散布の要否判断に用いられる画像PICである(後述する
図4(a)参照)。
【0016】
散布装置16は、例えば車両10の前後進方向における後部に設置されている。散布装置16は、例えば農薬20を貯蔵するタンク22、及び農薬20を噴出する噴霧器24などを備えている。散布装置16は、防除対象物102に対して農薬20を散布する。
【0017】
電子制御装置14は、車両10の走行、撮影装置12、及び散布装置16などの制御に関連する車両10の制御装置つまりコントローラである。電子制御装置14は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。このCPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。
【0018】
電子制御装置14には、撮影装置12から画像情報Ipicが供給される。又、電子制御装置14には、車両10に備えられた各種センサ等(例えば車速センサ26など)による検出値に基づく各種信号等(例えば車速Vなど)がそれぞれ供給される。電子制御装置14からは、車両10周辺の防除対象物102を撮影する為の撮影指令信号Spicが撮影装置12に出力される。又、電子制御装置14からは、防除対象物102に対して農薬20を散布する為の散布指令信号Ssprが散布装置16に出力される。又、電子制御装置14からは、自動運転する為の制御指令信号が車両10に備えられた不図示の各装置に出力される。
【0019】
撮影装置12は、電子制御装置14からの撮影指令信号Spicに基づいて車両10周辺の防除対象物102を撮影すると共に、対象画像PICsの情報を含む画像情報Ipicを電子制御装置14へ出力する。電子制御装置14は、取得した画像情報Ipicに含まれる対象画像PICsに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。電子制御装置14は、農薬20の散布が必要であると判断した場合には、取得した画像情報Ipicに含まれる対象画像PICsに対応する防除対象物102に対して農薬20を散布する為の散布指令信号Ssprを散布装置16へ出力する。散布装置16は、電子制御装置14からの散布指令信号Ssprに基づいて、農薬20の散布が必要であると判断された防除対象物102に対して農薬20を散布する。
【0020】
ところで、防除対象物102が果樹等の背の高いものである場合、撮影装置12によって撮影される垂直方向の位置が一律の高さに設定されていると、農薬20の散布を効率良く行うことができないおそれがある。
【0021】
そこで、撮影装置12は、車両10周辺の防除対象物102を検出する、ライダー又は赤外線センサ等の検出センサ28などを備えている。撮影装置12は、農薬20を散布する際の車両10の走行時には、検出センサ28によって車両10周辺の防除対象物102における鉛直方向の長さ又は高さを検出する。例えば、撮影装置12は、農薬20を散布する際の車両10の走行時には、検出センサ28によって防除対象物102が存在する位置を検出する。そして、撮影装置12は、農薬20を散布する際の車両10の走行時には、防除対象物102における鉛直方向の最下端から最上端までを撮影する。
【0022】
車両10の走行時における車速Vが高い程、対象画像PICsが不鮮明になり易く、農薬20の散布の要否が判断し難くされる。車両10は、農薬20を散布する際には、撮影装置12による対象画像PICsが鮮明に映る予め定められた車速範囲Vpicで走行することが好ましい。特には、農薬20を散布する際の効率を上げるには、車速範囲Vpicのうちの最高車速Vpicmaxで走行することが好ましい。
【0023】
一方で、車両10の走行時における車速Vが高い程、農薬20が防除対象物102に散布し難くされる。車両10は、農薬20を散布する際には、散布装置16による農薬20の散布が適切に行われる予め定められた車速範囲Vsprで走行することが好ましい。特には、農薬20を散布する際の効率を上げるには、車速範囲Vsprのうちの最高車速Vsprmaxで走行することが好ましい。
【0024】
農薬20の散布の要否が判断可能であり、且つ、農薬20が適切に散布可能である車速範囲で、農薬20の散布が最大効率で行われるには、最高車速Vpicmax及び最高車速Vsprmaxのうちの低い方が選択されれば良い。つまり、車両10は、農薬20を散布する際には、最高車速Vpicmax及び最高車速Vsprmaxのうちの低い方の車速Vminを上限として走行する(
図1参照)。例えば、電子制御装置14は、車速Vminを上限として自動運転する為の制御指令信号を車両10に備えられた不図示の各装置に出力する。
【0025】
電子制御装置14による農薬20の散布の要否判断について詳述する。例えば、電子制御装置14は、対象画像PICsに対して所定の画像処理を行い、所定範囲ARにおける防除対象物102(特には葉)の色合いと、正常時の色合いと、の色合い差Dtを算出する。正常時の色合いは、例えば予め定められた色合い、農園100内の防除対象物102の平均の色合い、及び対象画像PICsの所定範囲AR以外における防除対象物102の平均の色合いなどが用いられる。電子制御装置14は、対象画像PICsの所定範囲ARにおける色合い差Dtが要否判定値THn以上であるか否かに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。色合い差Dtが要否判定値THn以上であるか否かに基づいて農薬20の散布が必要であるか否かを判断することは、色合い差Dtが要否判定値THn以上であるか否かに基づいて病害虫が発生しているか否かを推定することと同意である。要否判定値THnは、例えば農薬20の散布が必要である程に色合い差Dtが大きいことを判断する為の予め定められた農薬散布必要判定値である。電子制御装置14は、所定範囲ARにおける色合い差Dtが要否判定値THn以上であると判定した場合には、その所定範囲ARを農薬20の散布が必要であると特定する。
【0026】
図3は、対象画像PICsの所定範囲ARにおける色合い差Dtの一例を示す図である。
図4(a)は、農薬20の散布が必要とされる所定範囲ARが特定された対象画像PICsの一例を示す図である。
図3において、第3の所定範囲AR3における色合い差Dtが要否判定値THn以上とされている。
図4(a)に示すように、第3の所定範囲AR3が農薬20の散布が必要である範囲と特定される。
【0027】
撮影装置12によって防除対象物102が撮影されたときの状況STは、同じではない。撮影時の状況STは、例えば車両10の周囲の明るさ、防除対象物102の種類、防除対象物102の生育状況、防除対象物102の健康状態、農園100の場所など複数種類ある。車両10の周囲の明るさは、例えば季節、時間帯、気象条件、影などの違いによる明るさである。
【0028】
電子制御装置14は、所定の状況STfにおいて撮影装置12によって防除対象物102が撮影されたときの画像PICとしての所定の基準画像PICbを記憶している。電子制御装置14は、所定の基準画像PICbの基になる防除対象物102が撮影されたときの所定の状況STfと、対象画像PICsの基になる防除対象物102が撮影されたときの状況STsと、の違いに基づいて対象画像PICsを補正する。例えば、電子制御装置14は、予め定められた画像補正処理により、同一種類の状況STsと所定の状況STfとの差に応じて対象画像PICsを補正する。本実施例では、補正した対象画像PICsを補正後対象画像PICscと称する(
図4(b)参照)。電子制御装置14は、補正後対象画像PICscに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。例えば、電子制御装置14は、補正後対象画像PICscの所定範囲ARにおける色合い差Dtが要否判定値THn以上であるか否かに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。この場合には、電子制御装置14は、対象画像PICsの補正に必要な所定の状況STfを記憶しておれば良く、所定の基準画像PICbを記憶している必要はない。又は、電子制御装置14は、所定の基準画像PICbと補正後対象画像PICscとの差に基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断しても良い。例えば、電子制御装置14は、所定の基準画像PICbにおける色合いと補正後対象画像PICscにおける色合いとの色合い差Dtが要否判定値THn以上であるか否かに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かを判断しても良い。
【0029】
電子制御装置14による農薬20の散布の要否判断では、例えば機械学習による学習モデル30が用いられても良い。例えば、電子制御装置14は、学習モデル30に、対象画像PICsを適用することで、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。学習モデル30は、画像PICのデータと農薬20の散布の要否との関係を示す予め定められた学習済みモデルである。学習モデル30は、画像PICのデータと農薬20の散布の要否とを教師データとして用いた機械学習による教師あり学習にて実現される。農薬20の散布の要否は、病害虫の発生の有無に置き換えても良い。
【0030】
図5は、学習モデル30の一例を示す図である。
図5において、学習モデル30は、画像PICのデータ、及び画像PICの基になる防除対象物102が撮影されたときの状況STをベースとしたニューラルネットワークである。学習モデル30は、コンピュータプログラムによるソフトウエアにより、或いは電子的素子の結合から成るハードウエアにより生体の神経細胞群をモデル化して構成され得るものである。学習モデル30は、i個の神経細胞要素(=ニューロン)Pi1から構成された入力層と、j個の神経細胞要素Pj2から構成された中間層と、k個の神経細胞要素Pk3から構成された出力層とから構成された多層構造である。前記中間層は、多層構造であっても良い。又、学習モデル30では、前記入力層から前記出力層へ向かって神経細胞要素の状態を伝達する為に、重み付け値Wijを有する伝達要素Dijと、重み付け値Wjkを有する伝達要素Djkと、が設けられている。伝達要素Dijは、前記i個の神経細胞要素Pi1と前記j個の神経細胞要素Pj2とをそれぞれ結合する伝達要素である。伝達要素Djkは、前記j個の神経細胞要素Pj2と前記k個の神経細胞要素Pk3とをそれぞれ結合する伝達要素である。
【0031】
学習モデル30は、農薬20の散布の要否を判定する要否判定システムである。この要否判定システムは、病害虫推定システムでもある。学習モデル30では、重み付け値Wij、Wjkが所定のアルゴリズムによって機械学習される。学習モデル30における教師あり学習では、車両10において特定された教師データすなわち教師信号が用いられる。
図5の学習モデル30では、前記入力層に対する教師信号として、例えば画像PICのデータ、及び防除対象物102が撮影されたときの状況STのデータが与えられる。
図5の学習モデル30では、前記出力層に対する教師信号として、農薬20の散布の要否の判定結果、つまり病害虫の有無の推定結果が与えられる。電子制御装置14は、
図5の学習モデル30に、対象画像PICs、及び対象画像PICsの基になる防除対象物102が撮影されたときの状況STsを適用することで、農薬20の散布が必要であるか否かを判断する。
図5の学習モデル30を用いる場合、防除対象物102が撮影されたときの状況STについても学習されるので、対象画像PICsを補正する必要はない。
【0032】
学習モデル30は、画像PICのデータと、農薬20の散布の要否、防除対象物102に発生した病害虫の種類、及び病害虫による被害の進行度と、の関係を示す予め定められた学習済みモデルであっても良い。つまり、学習モデル30は、画像PICのデータと防除対象物102に発生した病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度との関係を更に示すものであっても良い。この場合、
図5におけるk個の神経細胞要素Pk3から構成された出力層に対する教師信号としては、農薬20の散布の要否の判定結果に加え、防除対象物102に発生した病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度の判定結果が与えられる。病害虫の種類は、例えば「べと病」等の病名などである。病害虫による被害の進行度は、例えば「小」、「中」、「大」である。病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度の判定結果は、例えば農薬20の散布が必要と判定された出力層において与えられる。電子制御装置14は、学習モデル30に、対象画像PICsを適用することで、農薬20の散布が必要であるか否かを判断すると共に、病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度を判定する。電子制御装置14は、判定した病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度に基づいて農薬20の種類及び必要量を決定する。農薬20の種類は、例えば「べと病」に対応するボルドー液である。農薬20の必要量は、例えば希釈倍率及び散布量である。電子制御装置14が出力する散布指令信号Ssprには、防除対象物102に対して農薬20を散布することに加え、農薬20の種類及び必要量が含まれる。散布装置16は、電子制御装置14からの散布指令信号Ssprに基づいて、農薬20の散布が必要であると判断された防除対象物102に対して、病害虫に対応した農薬20を必要量だけ散布する。
【0033】
電子制御装置14は、学習モデル30を用いて、病害虫の発生時期や発生場所などの傾向を推定しても良い(
図1において一点鎖線Bで囲んだ部分参照)。電子制御装置14は、その傾向の推定結果をデータとして記憶する。電子制御装置14は、次回の農薬20を散布する際に、その推定結果を用いて、例えば農薬20の散布量を補正しても良い。これにより、防除対象物102に発生する病害虫の傾向を把握することができる。又、農薬20の散布量に濃淡をつけることができる。
【0034】
図6は、電子制御装置14の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、農薬20の散布を効率良く行う為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に繰り返し実行される。
【0035】
図6において、ステップ(以下、ステップを省略する)S10では、撮影装置12からの画像情報Ipicに含まれる対象画像PICsが取得される。次いで、S20では、対象画像PICsに基づいて農薬20の散布が必要であるか否かが判断される。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合はS30において、取得された対象画像PICsに対応する防除対象物102に対して農薬20を散布する為の散布指令信号Ssprが散布装置16へ出力される。
【0036】
上述のように、本実施例によれば、車両10には、撮影装置12と電子制御装置14と散布装置16とが備えられるので、病害虫の推定と防除とを同時に行うことができる。車両10は飛行体ではないので、例えば車両10の搭載重量の増加に伴うエネルギ消費が抑制される。又、撮影装置12によって、防除対象物102における鉛直方向の最下端から最上端までが撮影されるので、果樹等の背の高い防除対象物102に農薬20を散布する場合であっても、車両10として病害虫の推定と防除とを同時に行うことができる。この際、例えば背の高い防除対象物102において低い位置で発生する病害虫を見つけることができる。よって、農薬20の散布を効率良く行うことができる。
【0037】
また、本実施例によれば、農薬20が散布される際には、最高車速Vpicmax及び最高車速Vsprmaxのうちの低い方の車速Vminを上限として車両10が走行させられる。これにより、農薬20の散布の要否が判断可能な鮮明な対象画像PICsと適正な農薬20の散布とが最大効率で行える。車両10は飛行体ではないので、例えば低い速度域の作業においてもエネルギ効率が良くされる。
【0038】
また、本実施例によれば、電子制御装置14によって、所定の状況STfと、対象画像PICsの基になる防除対象物102が撮影されたときの状況STsと、の違いに基づいて対象画像PICsが補正される。又、電子制御装置14によって、補正後対象画像PICscに基づいて、農薬20の散布が必要であるか否かが判断される。これにより、車両10の周囲の明るさ、防除対象物102の種類などの状況STsの影響を受け難い対象画像PICsを取得することができ、病害虫の推定と防除とを適切に行うことができる。
【0039】
また、本実施例によれば、電子制御装置14によって、学習モデル30に対象画像PICsが適用されることで、農薬20の散布が必要であるか否かが判断されるので、人為的な判定方法に近い見た目の違いで農薬20の散布の要否を判断することができる。
【0040】
また、本実施例によれば、電子制御装置14によって、学習モデル30に対象画像PICsが適用されることで、病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度が判定され、病害虫の種類及び病害虫による被害の進行度に基づいて農薬20の種類及び必要量が決定される。これにより、病害虫に効果がある農薬の種類や希釈倍率が選定される。又、病害虫と車両10に搭載している農薬20の種類が合っていない場合には、例えば農薬20の散布を中止して農薬20の使用量を減らすことができる。
【0041】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0042】
例えば、前述の実施例では、色合い差Dtを用いて農薬20の散布が必要であるか否かを判断したが、この態様に限らない。例えば、防除対象物102の生育状況又は健康状態などを用いて農薬20の散布が必要であるか否かを判断しても良い。このように、農薬20の散布の要否判断では、種々の方法が可能である。
【0043】
また、前述の実施例では、撮影装置12は、検出センサ28を備えており、防除対象物102における鉛直方向の長さ又は高さを検出したが、この態様に限らない。例えば、撮影装置12は、画像PICを処理して撮影範囲を認識し、防除対象物102における鉛直方向の最下端から最上端までを撮影しても良い。つまり、撮影装置12は、必ずしも車両10周辺の防除対象物102における鉛直方向の長さ又は高さを検出する必要はない。この場合、撮影装置12は、検出センサ28を備えている必要はない。要は、撮影装置12は、農薬20を散布する際の車両10の走行時に、少なくとも、防除対象物102における鉛直方向の最下端から最上端までを撮影できれば良い。
【0044】
また、前述の実施例では、散布装置16は車両10の後部に設置されていたが、この態様に限らない。例えば、散布装置16は車両10本体の前後進方向における後部に繋がれた台車に設置されても良い。この台車は、車両10本体に引っ張られて車両10本体と一体的に走行するものであり、車両10の一部を構成するものである。従って、この台車に設置された散布装置16は、車両10に備えられたものである。
【0045】
また、前述の実施例において、撮影装置12の設置は車両10の前部に限らず、又、散布装置16の設置は車両10の後部に限らない。要は、農薬20の散布が必要であると判断された防除対象物102に対して、農薬20を散布することができる構成であれば良い。
【0046】
また、前述の実施例において、学習モデル30が画像PICのデータと農薬20の散布の要否との関係を示す予め定められた学習済みモデルである場合には、
図5における入力層に対する教師信号としては、状況STのデータを含む必要はない。
【0047】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0048】
10:車両 12:撮影装置 14:電子制御装置(制御装置) 16:散布装置 20:農薬 30:学習モデル 102:防除対象物 PIC:画像 PICb:所定の基準画像 PICs:対象画像(農薬の散布の要否判断に用いられる画像) PICsc:補正後対象画像(補正した画像)