(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】樹脂集電体、及び積層電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20250729BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20250729BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250729BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250729BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20250729BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20250729BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20250729BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20250729BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M10/052
H01M10/054
(21)【出願番号】P 2022141630
(22)【出願日】2022-09-06
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】中西 真二
(72)【発明者】
【氏名】松山 拓矢
【審査官】山田 倍司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-248430(JP,A)
【文献】国際公開第2004/001772(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/092938(WO,A1)
【文献】特開2012-059418(JP,A)
【文献】特開2016-186917(JP,A)
【文献】特開2010-170833(JP,A)
【文献】特開2008-130548(JP,A)
【文献】特開2008-207404(JP,A)
【文献】特開2007-157708(JP,A)
【文献】特表2020-503639(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031688(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/007215(WO,A1)
【文献】特開2010-170832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00- 1/24
H01M 4/00- 4/84
10/00-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材樹脂及び前記母材樹脂中に分散している導電性フィラーを含む、導電性樹脂層、及び
前記導電性樹脂層に積層されている、フッ素系樹脂層、
を有
し、
前記フッ素系樹脂層におけるフッ素系樹脂以外の成分として、導電性フィラーを用いていない、
樹脂集電体(フィルム電池用包装材兼用を除く)。
【請求項2】
母材樹脂及び前記母材樹脂中に分散している導電性フィラーを含む、導電性樹脂層、及び
前記導電性樹脂層に積層されている、フッ素系樹脂層、
を有し、
前記フッ素系樹脂層におけるフッ素系樹脂の割合が、99質量%以上である、
樹脂集電体(フィルム電池用包装材兼用を除く)。
【請求項3】
1又は複数の単位電池を有する積層電池、及び前記積層電池を包装している外装としてのラミネートフィルムを有する、外装付き積層電池であって、
前記積層電池の少なくとも一方の端面の集電体が、
請求項1又は2に記載の前記樹脂集電体であり、かつ
前記樹脂集電体の前記導電性樹脂層が、前記積層電池を構成する他の層に接しており、かつ前記樹脂集電体の前記フッ素系樹脂層が、前記積層電池を構成する他の層とは反対側に向くようにして配置されている、
外装付き積層電池。
【請求項4】
前記単位電池を構成する正極層、固体電解質層、及び負極層の少なくとも1つが、硫化
物固体電解質を含有している、
請求項3に記載の外装付き積層電池。
【請求項5】
前記ラミネートフィルムが、アルミニウムラミネートフィルムである、
請求項3に記載の外装付き積層電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂集電体、及び樹脂集電体を有する積層電池、特に樹脂集電体を有する硫化物固体積層電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、積層電池のために樹脂集電体を用いることが提案されている(特許文献1及び2)。
【0003】
例えば、特許文献2では、固体電解質と正極と負極とを備え、正極と負極とがそれぞれ樹脂集電体を備える全固体リチウムイオン二次電池であって、樹脂集電体が高分子材料からなる母材と導電性フィラーと分散剤とを含む全固体リチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-038426号公報
【文献】特開2020-087922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂集電体は、軽量性、加工性等に関してメリットを有するものの、使用する用途によっては、アルミニウム箔、ステンレス箔、銅箔のような金属集電体と比較して低いガスバリア性が問題となることを、本開示の開示者らは見いだした。
【0006】
これに対して、本開示では、軽量性、加工性等の樹脂集電体のメリットを生かしつつ、上記の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
【0008】
〈態様1〉
母材樹脂及び前記母材樹脂中に分散している導電性フィラーを含む、導電性樹脂層、及び
前記導電性樹脂層に積層されている、フッ素系樹脂層、
を有する、樹脂集電体。
〈態様2〉
1又は複数の単位電池を有する積層電池であって、
前記積層電池の少なくとも一方の端面の集電体が、態様1に記載の前記樹脂集電体であり、かつ
前記樹脂集電体の前記導電性樹脂層が、前記積層電池を構成する他の層に接しており、かつ前記樹脂集電体の前記フッ素系樹脂層が、前記積層電池を構成する他の層とは反対側に向くようにして配置されている、
積層電池。
〈態様3〉
前記単位電池を構成する正極層、固体電解質層、及び負極層の少なくとも1つが、硫化物固体電解質を含有している、態様2に記載の積層電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示では、軽量性、加工性等の樹脂集電体のメリットを生かしつつ、改良されたガスバリア性を有する樹脂集電体、及びそのような樹脂集電体を有する積層電池を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の樹脂集電体の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、従来の樹脂集電体の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の積層電池の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1及び比較例1の硫化物固体積層電池についての、サイクル数と充放電効率との関係を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1及び比較例1で用いたい樹脂集電体についての、水蒸気透過度の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について、詳細に説明する。ただし、図に示される形態は本開示の例示であり、本開示を限定するものではない。
【0012】
《樹脂集電体》
本開示の樹脂集電体は、母材樹脂及び母材樹脂中に分散している導電性フィラーを含む導電性樹脂層、及びこの導電性樹脂層に積層されているフッ素系樹脂層を有する。
【0013】
このような本開示の樹脂集電体によれば、1又は複数の単位電池を有する積層電池において、積層電池の少なくとも一方の端面の集電体が、本開示の樹脂集電体であり、かつこの本開示の樹脂集電体の導電性樹脂層が、積層電池を構成する他の層に接しており、かつこの本開示の樹脂集電体のフッ素系樹脂層が、積層電池を構成する他の層とは反対側に向くようにして配置されていることによって、軽量性、加工性等の樹脂集電体のメリットを生かしつつ、フッ素系樹脂層による改良されたガスバリア性を提供し、それによって積層電池に優れた耐久性を提供することができる。
【0014】
具体的には例えば、
図1に示すように、本開示の樹脂集電体100は、母材樹脂1及び母材樹脂1中に分散している導電性フィラー2を含む導電性樹脂層10、及び導電性樹脂層10に積層されているフッ素系樹脂層20を有する。また、このような本開示の樹脂集電体の使用においては、
図3に示すように、1又は複数の単位電池を有する積層電池1000において、積層電池1000の少なくとも一方の端面の集電体が、本開示の樹脂集電体100であり、かつこの本開示の樹脂集電体100の導電性樹脂層10が、積層電池1000を構成する他の層50に接しており、かつこの本開示の樹脂集電体100のフッ素系樹脂層20が、積層電池1000を構成する他の層50とは反対側に向くようにして配置されている。このような積層電池では、樹脂集電体のフッ素系樹脂層が優れたガスバリア性を提供することによって、積層電池が優れた耐久性を有することができる。
【0015】
これに対して、
図2に示すように、従来の樹脂集電体200は、本開示の樹脂集電体のようなフッ素系樹脂層を有しておらず、母材樹脂1及び母材樹脂1中に分散している導電性フィラー2を含む導電性樹脂層10のみからなっている。したがって、このような従来の樹脂集電体では、ガスバリア性が不足し、それによってこのような樹脂集電体を用いて得られる積層電池の耐久性が劣ることを、本開示の開示者らは見いだした。
【0016】
(導電性樹脂層)
本開示の樹脂集電体を構成する導電性樹脂層は、母材樹脂及び母材樹脂中に分散している導電性フィラーを含む。この樹脂集電層は、樹脂集電体に関して知られている任意の導電性層であってよい。例えば、樹脂集電層については、特許文献1及び2の記載を参照することができる。また、導電性樹脂層は、単層であっても、2又はそれよりも多くの導電性樹脂副層の積層体であってもよい。
【0017】
母材樹脂としては、任意の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を挙げることができ、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、又はこれらの混合物等であってよい。電気的安定性の観点からは、母材樹脂は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)およびポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、又はポリメチルペンテン(PMP)、又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0018】
導電性フィラーは、導電性を有する任意の材料から選択することができる。導電性フィラーは、集電体内のイオン透過を抑制する観点から、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料であることが好ましい。具体的には、導電性フィラーは、カーボン材料、アルミニウム、金、銀、銅、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ニッケル等であってよいが、これらに限定されるものではない。これらの導電性フィラーは1種のみで用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、導電性フィラーとしては、ステンレス(SUS)等の合金材料が用いられてもよい。耐食性の観点からは、導電性フィラーは、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン材料、ニッケル、より好ましくはカーボン材料である。また、これらの導電性フィラーは、セラミック材料や樹脂材料の周りに、上記で示される金属をメッキ等でコーティングしたものであってもよい。
【0019】
導電性樹脂層は任意に、母材樹脂及び導電性フィラー以外に、導電性フィラーを母材樹脂中に分散させるための分散剤を更に含有していてもよい。また、導電性樹脂層は任意に、その他の成分、例えば着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を含有していてもよい。母材樹脂及び導電性フィラー以外の成分の合計添加量は、導電性樹脂層100重量部中、0.001重量部以上、0.01重量部以上、0.1重量部以上、1重量部以上であってよく、また20重量部以下、15重量部以下、10重量部以下、5重量部以下、又は3重量部以下であってよい。
【0020】
(フッ素系樹脂層)
本開示の樹脂集電体では、フッ素系樹脂層が導電性樹脂層に積層されている。本開示の樹脂集電体では、フッ素系樹脂が比較的高いガスバリア性を有することによって、本開示の樹脂集電体を積層電池の端面の集電体として用いたときに、周囲のガスが本開示の樹脂集電層を通って電池積層体に到達することを抑制できる。
【0021】
フッ素系樹脂層におけるフッ素系樹脂の割合は、50質量%超、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。フッ素系樹脂層におけるフッ素系樹脂以外の成分としては、導電性樹脂層の母材樹脂に関して挙げた樹脂のような任意の他の樹脂、及び着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を用いることができる。また、フッ素系樹脂層におけるフッ素系樹脂以外の成分としては、導電性樹脂層の導電性フィラーに関して挙げたフィラーのような導電性フィラー、及び酸化物、窒化物、炭化物、炭酸塩、又は硫酸塩のような絶縁性フィラーを用いることができる。
【0022】
フッ素系樹脂は、フッ素原子(F)を構造単位(繰り返し単位)中に有する任意の樹脂であってよい。
【0023】
このようなフッ素系樹脂は例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、フルオロポリエーテル(FPE)、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンークロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリビニルフルオライド(PVF)等であってよい。
【0024】
フッ素系樹脂層は、例えば、下記のようにして水蒸気透過試験を行ったときに、水蒸気等加速度が、導電性樹脂層よりも小さいものであってよい:
試験方法:JIS K 7129-4準拠(差圧法)
検知器:ガスクロマトグラフ
試験気体:水蒸気(加湿下雰囲気)
温湿度:40±2℃・90±5%(相対湿度)
差圧:1atm
【0025】
《積層電池》
本開示の積層電池は、1又は複数の単位電池を有する積層電池である。ここで、この積層電池では、積層電池の少なくとも一方の端面の集電体が、本開示の樹脂集電体であり、かつ樹脂集電体の導電性樹脂層が、積層電池を構成する他の層に接しており、かつ樹脂集電体のフッ素系樹脂層が、積層電池を構成する他の層とは反対側に向くようにして配置されている。
【0026】
すなわち、この積層電池は、例えば
図3に示すように、1又は複数の単位電池を有する積層電池1000であって、積層電池1000の少なくとも一方の端面の集電体が、本開示の樹脂集電体100であり、かつこの本開示の樹脂集電体100の導電性樹脂層10が、積層電池100を構成する他の層50に接しており、かつこの本開示の樹脂集電体100のフッ素系樹脂層20が、積層電池1000を構成する他の層50とは反対側に向くようにして配置されている。このような積層電池では、フッ素系樹脂層が優れたガスバリア性を提供することによって、優れた耐久性を有することができる。なお、本開示の積層電池は、更に外装としてのラミネートフィルム、例えばアルミニウムラミネートフィルムで更に包装されていてもよい。
【0027】
本開示の積層電池を構成する1又は複数の単位電池は、任意の電池であってよい。この単位電池は、例えばリチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、及びカルシウムイオン電池等を挙げることができる。中でも、単位電池は、リチウムイオン電池及びナトリウムイオン電池であることが好ましく、特にリチウムイオン電池であることが好ましい。
【0028】
単位電池が硫化物固体電池、すなわち単位電池を構成する正極層、固体電解質層、及び負極層の少なくとも1つが硫化物固体電解質を含有している固体電池である場合、硫化物固体電解質が湿分と反応しやすいので、湿分が存在する環境においては単位電池の性能が比較的劣化しやすい。
【0029】
これに対して、本開示の樹脂集電体は、フッ素系樹脂層による改良されたガスバリア性を提供することができる。したがって、本開示の樹脂集電体は、硫化物固体電池と組み合わせたときに特に良好に用いることができる。
【0030】
したがって、本開示の積層電池では好ましくは、単位電池が硫化物固体電池、すなわち単位電池を構成する正極層、固体電解質層、及び負極層の少なくとも1つが硫化物固体電解質を含有している固体電池である。また、この単位電池は、リチウムイオン硫化物固体電池、ナトリウムイオン硫化物固体電池、マグネシウムイオン硫化物固体電池、及びカルシウムイオン硫化物固体電池等であってよい。中でも、この単位電池は、リチウムイオン硫化物固体電池及びナトリウムイオン硫化物固体電池であることが好ましく、特にリチウムイオン硫化物固体電池であることが好ましい。
【0031】
なお、本開示の硫化物固体積層電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。二次電池は、繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。よって、本開示の硫化物固体積層電池は、リチウムイオン硫化物固体二次電池であることが好ましい。
【0032】
本開示の積層電池において、単位電池は、正極層、固体電解質層、及び負極層を、この順で積層してなる。正極層は、正極集電体層、及び正極活物質層を有していてよく、また負極層は、負極活物質層、及び負極集電体層を有していてよい。
【0033】
本開示の積層電池は、モノポーラ型の電池積層体であってもよく、バイポーラ型の電池積層体であってもよい。
【0034】
(モノポーラ型の電池積層体)
電池積層体がモノポーラ型の電池積層体である場合、積層方向に隣接する2つの単位電池は、正極集電体層又は負極集電体層を共有するモノポーラ型の構成であってもよい。
【0035】
したがって、例えば電池積層体は、負極集電体層を共有する2つの単位電池の積層体であってよく、具体的には、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層を、この順で有することができる。
【0036】
(バイポーラ型の電池積層体)
電池積層体がバイポーラ型の電池積層体である場合、積層方向に隣接する2つの単位電池は、正極及び負極集電体層の両方として用いられる正極/負極集電体層を共有するバイポーラ型の構成であってもよい。
【0037】
したがって、例えば電池積層体は、正極及び負極集電体層の両方として用いられる正極/負極集電体層を共有する3つの単位電池の積層体であってよく、具体的には、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、正極/負極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、正極/負極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層を、この順で有することができる。また、この場合において、「正極/負極集電体層」は、正極及び負極集電体層の両方として用いられるため、本開示でいう「正極集電体層」又は「負極集電体層」のいずれにも当てはまる。
【0038】
(積層電池の拘束)
本開示の積層電池は、使用時に、積層方向に拘束されていてもよい。これによれば、充放電の際に、電池積層体の各層の内部及び各層の間における、イオン及び電子の伝導性を改良して、電池反応をより促進することができる。
【0039】
この場合の拘束力は、特に限定されず、例えば、1.0MPa以上、1.5MPa以上、2.0MPa以上、又は2.5MPa以上であってもよい。なお、拘束力の上限は、特に限定されず、例えば50MPa以下、30MPa以下、10MPa以下、又は5MPa以下であってもよい。
【実施例】
【0040】
《実施例1》
(正極活物質層の作製)
ポリプロピレン(PP)製容器に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダー(クレハ社製)、正極活物質、硫化物固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミックス)、導電助剤(気相成長炭素繊維(VGCF)、昭和電工製)、及び溶媒を添加し、得られた混合物を、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、得られた混合物を、ポリプロピレン製容器を振とう器(柴田科学製、TTM-1)で3分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌して、塗工液を得た。
【0041】
得られた塗工液を、ステンレス(SUS)箔上に、アプリケーターを用いて、ブレード法により塗工し、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることで、ステンレス箔の一方の表面上に正極活物質層を有する正極活物質層用転写材を得た。
【0042】
(負極活物質層の作製)
プロピレン製容器に、ポリフッ化ビニリデン系バインダー(クレハ社製)、負極活物質(チタン酸リチウム(LTO)、上記の硫化物固体電解質、及び溶媒を添加し、得られた混合物を、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌して、塗工液を得た。
【0043】
得られた塗工液を、アプリケーターを用いて、ブレード法により、ステンレス箔上に塗工し、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることで、ステンレス箔の一方の表面上に負極活物質層を得た。
【0044】
(固体電解質層の作製)
プロピレン製容器に、酪酸ブチル及び上記の硫化物固体電解質を添加し、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、得られた混合物を、ポリプロピレン製容器を振とう器(柴田科学製、TTM-1)で30分間振とうさせ、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌して、塗工液を得た。
【0045】
得られた塗工液を、アプリケーターを用いて、ブレード法により、ステンレス箔上に塗工し、自然乾燥後、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させることにより、ステンレス箔の一方の表面上に固体電解質層を有する固体電解質層用転写材を得た。
【0046】
(樹脂集電体の作成)
導電性樹脂層上に、塗工ギャップが50μmのドクターブレードを用いて、フッ素系樹脂のコーティングを塗工して、フッ素系樹脂層/導電性樹脂層の樹脂集電体を得た。
【0047】
(評価用の硫化物固体積層電池の作製)
固体電解質層用転写材を、ステンレス箔の表面上の負極活物質層上に配置し、プレスし、そして固体電解質層用転写材のステンレス箔を剥離した。これにより、固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層体を得た。得られた積層体を、上記で得られた正極活物質層よりも大きいサイズとなるように、打ち抜いた。
【0048】
次に、正極活物質層用転写材を、上記で得た固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層体の固体電解質層上に配置し、プレスし、そして両面のステンレス箔を剥離した。これにより、正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層の構造を有する積層体を得た。
【0049】
次に、得られた正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層の積層体の両面に、導電性樹脂層を貼り合わせて、樹脂集電体/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/樹脂集電体の構造を有する実施例1の硫化物固体積層電池を得た。なお、ここでは、樹脂集電体の導電性樹脂層が、正極活物質層及び負極活物質層に接しており、かつ樹脂集電体のフッ素系樹脂層が、正極活物質層及び負極活物質層とは反対側に向くようにして、樹脂集電体を配置した。したがって、実施例1の硫化物固体積層電池は、フッ素系樹脂層/導電性樹脂層/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/導電性樹脂層/フッ素系樹脂層の積層構造を有していた。
【0050】
得られた実施例1の硫化物固体積層電池を、実施例1の評価用電池とした。なお、ここまでの操作はすべて、ドライルーム内の環境で行った。
【0051】
《比較例1》
樹脂集電体として、フッ素系樹脂層を有していない単体の導電性樹脂層を用いたことを除いて実施例1と同様にして、比較例1の評価用電池を得た。
【0052】
《評価》
(積層電池のサイクル特性)
実施例1及び比較例1の評価用電池に対して、大気中において、サイクル評価を測定した。測定は、1.5~3.0Vの範囲内で、25℃及び0.33Cで定電流定電圧充放電を行った。
【0053】
1サイクル目の充放電効率を100%としたサイクル数の増加に伴う充放電効率の変化を
図4に示す。
図4から明らかなように、両面の導電性樹脂層上にフッ素系樹脂層を有する実施例1の硫化物固体積層電池では、フッ素系樹脂層を有さない比較例1の硫化物固体積層電池と比較して、優れたサイクル特性を有していた。
【0054】
(ガスバリア性の評価)
実施例1で用いた樹脂集電体、すなわちフッ素系樹脂層/導電性樹脂層の積層構成を有する樹脂集電体、及び比較例1で用いた樹脂集電体、すなわち単独の導電性樹脂層について、ガスバリア性を評価した。
【0055】
具体的には、下記のようにして、水蒸気透過試験を行って、ガスバリア性を評価した:
試験方法:JIS K 7129-4準拠(差圧法)
検知器:ガスクロマトグラフ
試験気体:水蒸気(加湿下雰囲気)
温湿度:40±2℃・90±5%(相対湿度)
差圧:1atm
【0056】
導電性樹脂層のみからなる樹脂集電体の場合(比較例1)の水蒸気透過量を基準(1.0)として、評価結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、導電性樹脂層のみからなる樹脂集電
体の場合(比較例1)と比較して、フッ素系樹脂層及び
導電性樹脂層からなる樹脂集電体(実施例1)は、水蒸気透過に対する防御性、すなわちガスバリア性が優れていた。
【符号の説明】
【0057】
1 母材樹脂
2 導電性フィラー
10 導電性樹脂層
20 フッ素系樹脂層
50 積層電池の本開示の樹脂集電体以外の部分
100 本開示の樹脂集電体。
200 従来の樹脂集電体。
1000 本開示の積層電池