(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-28
(45)【発行日】2025-08-05
(54)【発明の名称】運転支援システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20250729BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20250729BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250729BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20250729BHJP
B62D 121/00 20060101ALN20250729BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/02
B60W60/00
B62D113:00
B62D121:00
(21)【出願番号】P 2022152507
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100187311
【氏名又は名称】小飛山 悟史
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】西郷 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】濱口 剛
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-030406(JP,A)
【文献】特開平10-066398(JP,A)
【文献】特開2016-222180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 30/02
B60W 60/00
B62D 113/00
B62D 121/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
要求量に関する出力量を出力する第1制御部と、
前記第1制御部から出力された前記出力量とアクチュエータの実測量との差分量を算出し、当該差分量とトルクマップとに基づいて前記アクチュエータを制御する第2制御部と、を備えた運転支援システムであって、
第1運転支援を行う第1運転支援制御と、前記第1運転支援とは異なる第2運転支援を行う第2運転支援制御とのいずれかを選択的に実行可能であり、
前記第1運転支援制御では、
前記第1制御部は、第1要求量を前記出力量として出力し、
前記第2制御部は、前記第1要求量と前記実測量との差分量を算出し、当該差分量と第1トルクマップとに基づいて
第1トルク演算部により前記アクチュエータで発生させるトルクを演算し、前記第1トルク演算部の演算結果を前記アクチュエータ
に出力し、
前記第2運転支援制御では、
前記第1制御部は、第2要求量と前記実測量との差分量を算出し、当該差分量を所定値で除算することで除算量を取得し、前記除算量と前記実測量との合計量を前記出力量として出力し、
前記第2制御部は、前記合計量と前記実測量との差分量を算出し、当該差分量と第2トルクマップとに基づいて
第2トルク演算部により前記アクチュエータで発生させるトルクを演算し、前記第2トルク演算部の演算結果を前記アクチュエータ
に出力し、
前記第1制御部は、第1切替部を有し、
前記第2制御部は、第2切替部を有し、
前記第1運転支援制御では、
前記第1制御部は、前記第1切替部において、前記第1要求量を出力量として前記第2制御部に出力するように切り替え、
前記第2制御部は、前記第2切替部において、前記第1要求量と前記実測量との差分量の出力先を前記第1トルク演算部へ切り替え、
前記第2運転支援制御では、
前記第1制御部は、前記第1切替部において、前記合計量を出力量として前記第2制御部に出力するように切り替え、
前記第2制御部は、前記第2切替部において、前記合計量と前記実測量との差分量の出力先を前記第2トルク演算部へ切り替える、運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
運転支援システムに関する技術として、例えば特許文献1には、運転制御が自動運転制御(第1運転支援制御)及び手動運転制御(第2運転支援制御)の間で切り替わる際に、これらの運転制御で使用される目標回転角(要求量)の差が0へ向けて徐々に減少するように演算する操舵制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術では、要求量とアクチュエータで発生させるトルクとを対応付けるトルクマップが、アクチュエータの制御に用いられる場合がある。この場合、トルクマップが第1運転支援制御と第2運転支援制御とで異なると、例えば第1運転支援制御から第2運転支援制御へ切り替えた際、要求量の変化とトルクマップの変化とが同期しないときには、当該トルクが急変する可能性がある。
【0005】
そこで、本発明の一態様は、トルクの急変を抑制できる運転支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る運転支援システムは、要求量に関する出力量を出力する第1制御部と、第1制御部から出力された出力量とアクチュエータの実測量との差分量を算出し、当該差分量とトルクマップとに基づいてアクチュエータを制御する第2制御部と、を備えた運転支援システムであって、第1運転支援を行う第1運転支援制御と、第1運転支援とは異なる第2運転支援を行う第2運転支援制御とのいずれかを選択的に実行可能であり、第1運転支援制御では、第1制御部は、第1要求量を出力量として出力し、第2制御部は、第1要求量と実測量との差分量を算出し、当該差分量と第1トルクマップとに基づいてアクチュエータを制御し、第2運転支援制御では、第1制御部は、第2要求量と実測量との差分量を算出し、当該差分量を所定値で除算することで除算量を取得し、除算量と実測量との合計量を出力量として出力し、第2制御部は、合計量と実測量との差分量を算出し、当該差分量と第2トルクマップとに基づいてアクチュエータを制御する。
【0007】
本発明の一側面に係る運転支援システムでは、第2トルクマップは、第2要求量と実測量との差分量に対してトルクを対応付ける基準第2トルクマップを所定値で積算して成るトルクマップであってもよい。要求量は、車両の舵角量に関する要求舵角量であり、実測量は、実測された車両の舵角量である実測舵角量であり、第1運転支援制御は、自動運転制御であり、第2運転支援制御は、アシスト制御であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、トルクの急変を抑制できる運転支援システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る運転支援システムを示す構成図である。
【
図2】(a)は、運転支援制御の切り替えのタイミングの一例を示すタイミングチャートである。(b)は、舵角量の時間変化の一例を示すグラフである。(c)は、出力量と実測量との差分量である舵角差の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図3】(a)は、本実施形態に係る運転支援システムにおけるアクチュエータに発生させるトルクの時間変化を示すグラフである。(b)は、比較例に係る運転支援システムにおけるアクチュエータに発生させるトルクの時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る運転支援システムを示す模式的な図である。
図1に示される運転支援システム1は、例えば、乗用車等の車両に搭載され、当該車両の運転者の運転支援制御を実行する。運転支援システム1は、第1運転支援を行う第1運転支援制御と、第1運転支援とは異なる第2運転支援を行う第2運転支援制御とのいずれかを選択的に実行可能である。本実施形態では、第1運転支援制御は、自動運転を行う自動運転制御である。第2運転支援制御は、運転者による運転のアシストを行うアシスト制御である。
【0012】
自動運転制御とは、予め設定された目的地に向かって自動で車両を走行させる車両制御である。自動運転制御では、運転者が運転操作を行うことなく、車両を自動で走行させる。アシスト制御とは、運転者による運転操作を支援する車両制御である。本実施形態では、アシスト制御において運転者による操舵のアシストが行われる。
【0013】
運転者は、自動運転制御と、アシスト制御とを切り替え可能である。運転者は、例えば、走行中の状況等に応じて、自ら運転操作を行うことなく自動運転制御を運転支援システム1に実行させるか、或いは、自ら運転操作を行いつつ運転操作の支援を受けるアシスト制御を運転支援システム1に実行させるかを選択することができる。
【0014】
本実施形態に係る自動運転制御及びアシスト制御では、車両の走行車線からの逸脱を抑制するためのレーンキープ制御が行われる。レーンキープ制御では、例えば、車両が走行車線の左右の区画線に近接すると、車両が走行車線の中央側に戻るように車両のアクチュエータ5にトルクを発生させる。運転支援システム1は、走行車線の中央側に戻る等のために要求される舵角量を取得し、当該要求量に応じたトルクをアクチュエータ5で発生させる。自動運転制御の実行時において要求される舵角量に応じたトルクは、アシスト制御の実行時において要求される舵角量に応じたトルクよりも大きい。このため、自動運転制御の実行時において要求される舵角量に対する車両の舵角量の追従性は、アシスト制御の実行時において要求される舵角量に対する車両の舵角量の追従性よりも大きい。運転支援システム1は、撮像装置2と、第1制御部3と、第2制御部4と、アクチュエータ5とを備える。
【0015】
撮像装置2は、車両の外部状況を撮像する撮像機器である。撮像装置2は、例えば、車両のフロントガラスの裏側に設けられ、車両前方を撮像する。撮像装置2は、車両の外部状況に関する撮像情報を第1制御部3に出力する。撮像情報は、例えば、走行車線の区画線と車両との距離、道路の曲率、車両の向き(ヨー角)に関する情報である。撮像装置2は、単眼カメラでもよく、ステレオカメラでもよい。撮像装置2には、撮像情報を取得するためのアプリケーションが実装されていてもよい。
【0016】
第1制御部3及び第2制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有する電子制御ユニットである。第1制御部3及び第2制御部4では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。第1制御部3及び第2制御部4のそれぞれは、複数の電子ユニットから構成されていてもよい。
【0017】
第1制御部3は、撮像装置2から撮像情報を取得する。第1制御部3は、撮像情報に基づいて、運転支援制御に要求される要求量を取得する。本実施形態では、要求量は、車両の舵角量に関する要求舵角量である。要求舵角量は、例えば、外部状況に応じて要求される車両の舵角量である。本実施形態では、第1制御部3は、第1要求量及び第2要求量を取得する。第1要求量は、自動運転制御の実行時において第1制御部3により取得される要求量である。第2要求量は、アシスト制御の実行時において第1制御部3により取得される要求量である。第1制御部3は、要求量に関する出力量を第2制御部4に出力する。当該出力量については、後述する。
【0018】
第2制御部4は、アクチュエータ5の実測量を取得する。本実施形態では、実測量は、実測された車両の舵角量である実測舵角量である。第2制御部4は、例えば、トルクセンサにより実測量を取得する。第2制御部4は、第1制御部3から出力された出力量と実測量との差分量(以下、単に「出力差分量」と称することがある。)を算出する。第2制御部4は、当該出力差分量とトルクマップとに基づいてアクチュエータ5を制御する。トルクマップは、出力差分量に対してアクチュエータ5で発生させるトルクを対応付ける制御マップである。
【0019】
アクチュエータ5は、車両の制御に用いられる機器である。本実施形態では、アクチュエータ5は、操舵アクチュエータである。操舵アクチュエータは、トルクを付与するアシストモータ(不図示)の駆動を、第2制御部4からの制御信号に応じて制御する。これにより、操舵アクチュエータは、車両のトルクを制御する。
【0020】
本実施形態では、アクチュエータ5は、アシストモータの駆動量を制御する。運転支援システム1は、例えば、アシストモータの駆動により生じる直線運動を、ラックアンドピニオン機構を介して回転運動に変換する。ラックアンドピニオン機構は、例えば、ラックが形成された転舵軸と、ピニオンが形成されたピニオン軸とを有する。ピニオン軸は、例えば、ステアリングコラムにより回転可能に支持されたステアリングシャフトに接続されており、回転運動をステアリングシャフト、及び、ステアリングシャフトに接続されたステアリングホイールに伝達する。
【0021】
第1制御部3は、第1減算器31と、除算器32と、加算器33と、第1切替部34とを有する。第1減算器31は、撮像装置2から取得した撮像情報に基づく第2要求量と実測量との差分量(以下、単に「要求差分量」と称することがある。)を算出し、除算器32に要求差分量を出力する。除算器32は、当該要求差分量を所定値で除算することで除算量を取得すると共に、加算器33に当該除算量を出力する。所定値は、1よりも大きい実数であり、一例として10である。所定値を決定する方法は、後述する。
【0022】
加算器33は、アクチュエータ5から実測量を取得する。加算器33は、除算量と実測量との合計量を算出すると共に、第2制御部4に合計量を出力量として出力する。第1切替部34は、第2制御部4に出力する出力量を切り替える。本実施形態では、第1切替部34は、第1要求量及び上記合計量のいずれを出力量として第2制御部4に出力するかを切り替える。
【0023】
第2制御部4は、第2減算器41と、第2切替部42と、第1トルク演算部43と、第2トルク演算部44と、トルク出力部45とを有する。また、第2制御部4は、トルクマップとして、自動運転制御の実行時に用いられる第1トルクマップと、アシスト制御の実行時に用いられる第2トルクマップとを記憶している。
【0024】
第2減算器41は、アクチュエータ5から実測量を取得する。第2減算器41は、出力差分量を算出する。第2切替部42は、算出した出力差分量の出力先を、第1トルク演算部43と第2トルク演算部44との間で切り替える。第1トルク演算部43は、第1トルクマップを記憶している。第1トルク演算部43は、出力差分量と第1トルクマップとに基づいて、アクチュエータ5で発生させるトルクを演算し、演算結果をトルク出力部45に出力する。第2トルク演算部44は、第2トルクマップを記憶している。第2トルク演算部44は、出力差分量と第2トルクマップとに基づいて、アクチュエータ5で発生させるトルクを演算し、演算結果をトルク出力部45に出力する。トルク出力部45は、第1トルク演算部43の演算結果及び第2トルク演算部44の演算結果のいずれかをアクチュエータ5に出力し、当該演算結果に係るトルクをアクチュエータ5で発生させる。
【0025】
第2トルクマップは、基準第2トルクマップを上述した所定値で積算して成るトルクマップである。基準第2トルクマップは、第2要求量と実測量との差分量に対してトルクを対応付けるトルクマップである。第2トルクマップにおけるトルクゲインである第2トルクゲインは、基準第2トルクマップにおけるトルクゲインである基準第2トルクゲインを所定値で積算した値である。本実施形態では、第1トルクマップのトルクゲインである第1トルクゲインは、第2トルクゲインと略等しい。一例として、第1トルクゲインと第2トルクゲインとが互いに等しくなるように所定値が決定される。換言すれば、所定値は、第1トルクゲインを基準第2トルクゲインで除算した値としてもよい。第1トルクゲインをτAとし、第2トルクゲインをτB2とし、基準第2トルクゲインをτBとし、上述した所定値をGBとすると、以下の式(1)~(3)を満たしていてもよい。
τA>>τB…(1)、 τA≒τB2…(2)、 GB≒τA/τB…(3)
【0026】
自動運転制御では、第1制御部3は、第1要求量を出力量として出力するように第1切替部34を切り替える。第2制御部4は、出力差分量と第1トルクマップとを対応付けるように第2切替部42を切り替える。この結果、第1制御部3は、第1要求量を出力量として第2制御部4に出力する。第2制御部4は、第1要求量(出力量)と実測量との差分量である出力差分量を算出し、当該出力差分量と第1トルクマップとに基づいてアクチュエータ5で発生させるトルクを演算する。そして、第2制御部4は、当該トルクをアクチュエータ5で発生させる。
【0027】
アシスト制御では、第1制御部3は、合計量を出力量として出力するように第1切替部34を切り替える。第2制御部4は、出力差分量と第2トルクマップとを対応付けるように第2切替部42を切り替える。この結果、第1制御部3は、第2要求量と実測量の要求差分量を算出し、要求差分量を所定値で除算することで除算量を取得する。第1制御部3は、除算量と実測量との合計量を出力量として第2制御部4に出力する。第2制御部4は、合計量と実測量との差分量である出力差分量を算出し、当該出力差分量と第2トルクマップとに基づいてアクチュエータ5で発生させるトルクを演算する。そして、第2制御部4は、当該トルクをアクチュエータ5で発生させる。
【0028】
次に、本実施形態に係る運転支援システム1の作用効果を説明する。
【0029】
図2(a)は、運転支援制御の切り替えのタイミングの一例を示すタイミングチャートである。
図2(a)の例では、自動運転制御の実行タイミングを「1」で示しており、アシスト制御の実行タイミングを「0」で示している。つまり、
図2の例では、運転支援システム1が、基準となる所定の時刻から4秒後に自動運転制御からアシスト制御に切り替え、当該所定の時刻から8秒後にアシスト制御から自動運転制御に切り替えた状態を示している。
【0030】
図2(b)は、舵角量の時間変化の一例を示すグラフである。
図2(b)の例では、自動運転制御の実行時において第1制御部3から第2制御部4に出力される出力量(第1要求量)を細い破線のグラフA1で図示している。また、アシスト制御の実行時において第1制御部3から第2制御部4に出力される出力量(合計量)を太い破線のグラフA2で図示している。また、実測量を細い実線のグラフBで図示している。さらに、第1制御部3から第2制御部4に出力される出力量を太い実線のグラフCで図示している。
【0031】
運転支援システム1は、いわゆるサーボ機構を含む。サーボ機構では、トルクマップのトルクゲインが大きいほど実測量と要求量との差が小さくなり、トルクマップのトルクゲインが小さいほど実測量と要求量との差が大きくなる。よって、
図2(b)に示されるように、第1要求量は、実測量と略一致する。第1要求量に対する実測量の追従性は、第2要求量に対する実測量の追従性よりも大きい。
【0032】
図2(c)は、出力量と実測量との差分量である舵角差の時間変化の一例を示すグラフである。
図2(c)の例では、第1制御部3から第2制御部4に出力される出力量と実測量との差分量をグラフDで図示している。
【0033】
図3(a)は、本実施形態に係る運転支援システムにおけるアクチュエータで発生させるトルクの時間変化を示すグラフである。
図3(b)は、比較例に係る運転支援システムにおけるアクチュエータで発生させるトルクの時間変化を示すグラフである。
図3の例では、第1切替部34の切り替えと第2切替部42の切り替えとが同期している場合における、アクチュエータ5で発生させるトルクを太い実線のグラフEで図示している。また、第2切替部42の切り替えが第1切替部34の切り替えに対して遅延した場合における、アクチュエータ5で発生させるトルクを細い破線のグラフF1で図示している。さらに、第1切替部34の切り替えが第2切替部42の切り替えに対して遅延した場合における、アクチュエータ5で発生させるトルクを太い破線のグラフF2で図示している。
【0034】
運転支援制御を切り替えるに際し、第1切替部34の切り替えと第2切替部42の切り替えとが同期することが理想的である。しかし現実的には、例えば、要求量の平坦化処理(第1切替部34を切り替えた時に要求量を漸増、又は漸減させる処理)、第1制御部3と第2制御部4との間の通信遅延等を原因として、第1切替部34の切り替え及び第2切替部42の切り替えの一方が、他方に対して遅延する可能性がある。
【0035】
本実施形態に係る運転支援システム1では、アシスト制御の実行時において、第1制御部3が合計量を出力量として第2制御部4に出力する。この場合、第2要求量を出力量として第2制御部4に出力する場合と比較して、
図2(b)に示されるように、出力量と実測量との差が小さくなる。換言すれば、アシスト制御の実行時における出力量に対する実測量の追従性を向上させることができる。この結果、自動運転制御の実行時における出力量(第1要求量)と、アシスト制御の実行時における出力量(合計量)との差を小さくすることができる。よって、第1切替部34の切り替えと第2切替部42の切り替えとが同期しない場合でも、運転支援制御の切り替えの前後で第2制御部4への出力量が急変することを抑制できる。この結果、
図2(c)に示されるように、出力量と実測量との差分量(出力差分量)が急変することを抑制できる。そして、アクチュエータ5で発生させるトルクは、トルクマップにより出力差分量と対応付けられる。よって、
図3(a)に示されるように、運転支援制御を切り替えた際に生じるトルクの急変を抑制できる。
【0036】
本実施形態に係る運転支援システム1では、第2トルクマップは、第2要求量と実測量との差分量に対してトルクを対応付ける基準第2トルクマップを所定値で積算して成るトルクマップである。この場合、第1制御部3が第2要求量と実測量との差分量を所定値で除算したことに対応して、基準第2トルクマップを所定値で積算して第2トルクマップとする。これにより、アシスト制御の実行時における第2制御部4への出力量を変化させた場合でも、アクチュエータ5で発生させるトルクの変化を抑制できる。
【0037】
本実施形態に係る運転支援システム1では、要求量は、車両の舵角量に関する要求舵角量であり、実測量は、実測された車両の舵角量である実測舵角量である。運転支援システム1では、第1運転支援制御は、自動運転制御であり、第2運転支援制御は、アシスト制御である。この場合、自動運転制御及びアシスト制御の間で実行する制御を相互に切り替えた場合でも、車両の舵角量が急変することを抑制できる。
【0038】
次に、比較例に係る運転支援システムについて説明する。以下の説明では、運転支援システム1と重複する説明は適宜省略する。比較例に係る運転支援システムでは、第1制御部が第1減算器31、除算器32及び加算器33を有していない。アシスト制御の実行時において、第1制御部は、第2要求量を出力量として第2制御部に出力する。また、第1トルクゲインと第2トルクゲインとは、互いに異なる。具体的には、第2トルクゲインは、第1トルクゲインよりも小さい。例えば、第2トルクゲインは、第1トルクゲインを上述した所定値で除算した値である。
【0039】
運転支援制御を切り替えるに際し、第2切替部の切り替えが第1切替部の切り替えに対して遅延した場合、第1制御部は、第2要求量を出力量として第2制御部に出力する。一方で、第2制御部は、出力差分量を第1トルクマップと対応付ける。このとき、第1要求量と第2要求量とが互いに異なるタイミングで運転支援制御を切り替えた場合、第2制御部に出力される出力量が急変する。そして、第2制御部への出力量が急変する結果、出力量と実測量との差分量(出力差分量)が急変する。これに加え、第1トルクゲインは、第2トルクゲインよりも大きい。よって、
図3(b)におけるグラフF1で示されるように、アクチュエータで発生させるトルクが急に増大する。
【0040】
運転支援制御を切り替えるに際し、第1切替部の切り替えが第2切替部の切り替えに対して遅延した場合、第1制御部は、第1要求量を出力量として第2制御部に出力する。一方で、第2制御部は、出力差分量を第2トルクマップと対応付ける。このとき、第1要求量と第2要求量とが互いに異なるタイミングで運転支援制御を切り替えた場合、第2制御部に出力される出力量が急変し、出力差分量も急変する。これに加え、第2トルクゲインは、第1トルクゲインよりも小さい。よって、
図3(b)におけるグラフF2で示されるように、アクチュエータで発生させるトルクが急に減少する。このような比較例に係る運転支援システムに対して本実施形態では、上述したように、出力差分量の急変を抑制でき、アクチュエータ5で発生させるトルクの急変を抑制できる。よって、本実施形態に係る運転支援システム1は有効なものである。
【0041】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、上述した例示的実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。
【0042】
上記実施形態では、運転支援システム1が車両に適用される例について説明した。しかし、運転支援システム1は、車両に限らず、種々のシステムに適用可能である。当該システムは、例えば、互いに通信可能とされた2つの演算装置を有し、当該2つの演算装置のそれぞれが2以上の機能を有すると共に当該2以上の機能が切り替わる可能性があるシステムであってもよい。この場合、一方の演算装置から出力される指令値に応じて他方の演算装置の出力が変化し、当該一方の演算装置の機能が切り替わる際の指令値を滑らかに変化させることが必要であってもよい。
【0043】
上記実施形態では、アクチュエータ5が操舵アクチュエータである例について説明した。アクチュエータ5は、第2制御部4からの制御信号に応じて所定の制御を行うものであればよい。例えば、アクチュエータ5は、車両のアクセル量を制御するアクセルアクチュエータ、車両のブレーキ量を制御するブレーキアクチュエータであってもよい。また、パワートレーンにおいても、2つ以上の機能を有し且つこれらの機能が切り替わる場合には、本発明の一態様を適用可能である。上記実施形態では、撮像装置2及び第1制御部3は、同一の装置構成により実現されてもよい。上記実施形態では、第2制御部4及びアシストモータは、同一の装置構成により実現されてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…運転支援システム、3…第1制御部、4…第2制御部、5…アクチュエータ。