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特許7719476CBP/カテニン阻害剤の肝線維症治療レジメン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-29
(45)【発行日】2025-08-06
(54)【発明の名称】CBP/カテニン阻害剤の肝線維症治療レジメン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/661 20060101AFI20250730BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250730BHJP
【FI】
A61K31/661
A61P1/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024518008
(86)(22)【出願日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2023016556
(87)【国際公開番号】W WO2023210716
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2024-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2022075421
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522266025
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立病院機構
(73)【特許権者】
【識別番号】593030071
【氏名又は名称】大原薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 公則
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122022(WO,A1)
【文献】History of Changes for Study: NCT04688034 Safety and Tolerability Study of OP-724 in Liver Cirrhosis,ClinicalTrials.gov archive [online],2022年03月16日,[retrieved on 2023.07.06], Retrieved from the Internet: <URL: https://classic.clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT04688034?A=6&B=6&C=merged#StudyPageTop>
【文献】History of Changes for Study: NCT04047160 Safety, Tolerability of OP-724 in Patients With Primary Bi,ClinicalTrials.gov archive [online],2021年12月27日,[retrieved on 2023.07.06], Retrieved from the Internet: <URL: https://classic.clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT04047160?A=7&B=7&C=merged#StudyPageTop>
【文献】肝臓,1981年,Vol.22, No.6,pp.785-802
【文献】EBioMedicine,2017年,Vol.23,pp.79-87,ISSN 2352-3964
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
280mg/ の4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週2回毎回4時間かけて静脈内に投与され、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩を含有する、肝疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物であって、
前記肝疾患が、肝線維化又は肝線維化が進行した肝硬変を伴うものであり、
前記医薬組成物が、肝組織硬度、肝予備能指標及び胆汁うっ滞指標から選択される肝疾患の評価指標の維持又は改善用であり、
前記肝疾患の評価指標を、薬剤投与中または薬剤投与終了時点において、薬剤投与開始前と比較して維持又は改善し、
更に、前記肝疾患の評価指標を、薬剤投与終了後6乃至12か月の時点において、薬剤投与終了時点と比較して維持又は改善するための、
医薬組成物
【請求項2】
肝線維化又は肝線維化が進行した肝硬変がB型若しくはC型肝炎または原発性胆汁性胆管炎(PBC)に起因する疾患であることを特徴とする請求項記載の医薬組成物。
【請求項3】
肝線維化又は肝線維化が進行した肝硬変が血友病HIV/HCV重複感染、又は非アルコール性脂肪性肝炎に起因する疾患であることを特徴とする請求項記載の医薬組成物。
【請求項4】
肝疾患が、Child-Pughスコアによる分類A、BまたはCのものである、請求項記載の医薬組成物。
【請求項5】
肝組織硬度がフィブロスキャン測定値で示される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項6】
肝組織硬度がMRエラストグラフィ測定値で示される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項7】
肝予備能指標が血清アルブミン濃度で示される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項8】
肝予備能指標が血清ビリルビン濃度、プロトロンビン活性値、又はALBIスコアで示される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項9】
肝予備能指標が、Child Pugh分類(A,B,C)の変化またはスコア(点数)の変化量で示される、請求項記載の医薬組成物。
【請求項10】
肝予備能指標が、MELDスコアで示される、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
胆汁うっ滞指標が血清中総胆汁酸濃度で示される、請求項記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肝疾患、特に肝線維症や肝硬変等の肝疾患の予防、治療用の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性的な臓器損傷は、肝臓、心臓、腎臓、肺などの患部組織の線維化を引き起こす。肝臓では、線維化は肝機能障害、食道静脈瘤、肝細胞癌を引き起こす肝硬変の発症への第一歩であり、世界中で年間100万人以上の死亡の原因となっている。肝硬変の原因としては、過度の飲酒、過食による肝脂肪症、ウイルス感染による肝炎などがあり、それぞれ禁酒、食事療法、抗ウイルス剤などで治療される。また、慢性胆汁うっ滞とその後の肝障害や肝硬変は、特定の薬剤や原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、家族性肝内胆道炎、Alagille症候群、妊娠性肝内胆道炎などの特定の疾患によって引き起こされることがある。PBCとPSCは、原因不明の自己免疫疾患による慢性進行性胆汁性肝疾患であり、現在、肝移植以外に有効な治療法はない。PBCの有病率は140症例/百万人、PSCの有病率は0~317症例/百万人である。胆汁酸性肝障害は、疎水性の胆汁酸(BA)が滞留するために肝実質細胞が破壊される結果である。最初の肝細胞の損傷は、その後の炎症反応を誘発し、肝細胞および葉内胆管損傷を悪化させ、線維化を引き起こし、最終的には肝硬変による肝不全となる。PBCの治療薬としてウルソデオキシコール酸やベザフィブラートが認知されているが、PBCやPSCに伴う肝硬変の抗線維化薬はまだ実用化されていない(非特許文献1、2)。胆汁うっ滞性肝疾患や肝線維症の治療標的として、FXRやそのトランスポーター系、線維芽細胞増殖因子19などのBA受容体が注目されている(非特許文献3、4)。しかし、BAの量そのものを低下させる治療薬は現在のところ存在しない。
【0003】
Wnt/β-カテニンシグナル伝達の異常が線維化に関与していることは、これまでに研究により報告されている(非特許文献5~7)。β-カテニン欠失は、Mdr2-KOマウスでは胆汁うっ滞による肝損傷と線維化を増加させたが、胆管結紮マウスでは胆汁うっ滞による肝損傷と線維化を抑制することが報告されている(非特許文献8、9)。
【0004】
Wnt経路における細胞内のタンパク質間相互作用の阻害に関連する低分子治療薬として4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート(foscenvivint)が知られており、当該化合物は、肝線維症の予防・治療薬として有用であることが報告されている(特許文献1)。また。当該化合物は、肝機能、特に肝臓の糖代謝機能、電子伝達系機能及び肝合成能における機能低下を改善する作用を有し肝機能改善剤として有効である(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6303112号公報
【文献】WO2020/122022
【非特許文献】
【0006】
【文献】Poupon RE, Poupon R, Balkau B. Ursodiol for the long-term treatment of primary biliary cirrhosis. The UDCA-PBC Study Group. N Engl J Med 330, 1342-1347 (1994).
【文献】Corpechot C, et al. A Placebo-Controlled Trial of Bezafibrate in Primary Biliary Cholangitis. N Engl J Med 378, 2171-2181 (2018).
【文献】Trauner M, Fuchs CD. Novel therapeutic targets for cholestatic and fatty liver disease. Gut, (2021).
【文献】Trauner M, Fuchs CD, Halilbasic E, Paumgartner G. New therapeutic concepts in bile acid transport and signaling for management of cholestasis. Hepatology 65, 1393-1404 (2017).
【文献】Logan CY, Nusse R. The Wnt signaling pathway in development and disease. Annu Rev Cell Dev Biol 20, 781-810 (2004).
【文献】Nusse R. Wnt signaling in disease and in development. Cell Res 15, 28-32 (2005).
【文献】Zhou L, et al. Multiple Genes of the Renin-Angiotensin System Are Novel Targets of Wnt/beta-Catenin Signaling. J Am Soc Nephrol 26, 107-120 (2015).
【文献】Pradhan-Sundd T, et al. Wnt/beta-Catenin Signaling Plays a Protective Role in the Mdr2 Knockout Murine Model of Cholestatic Liver Disease. Hepatology 71, 1732-1749 (2020).
【文献】Zhang R, et al. Activation of WNT/Beta-Catenin Signaling and Regulation of the Farnesoid X Receptor/Beta-Catenin Complex After Murine Bile Duct Ligation. Hepatol Commun 3, 1642-1655 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、肝疾患の予防又は治療に有用な医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
下記式:
【0009】
【化1】
【0010】
で表される化合物、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート(foscenvivint、(別名:ホスセンビビント、PRI-724、OP―724))以下「本開示の化合物」とも称する)は、がん幹細胞(CSC)の制御に不可欠なWnt経路における細胞内のタンパク質間相互作用の阻害に関連する低分子治療薬である。
本発明者は、foscenvivintの、日本人のB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスに起因する肝硬変の患者を対象とした医師主導国内治験に続き、進行性PBC患者を対象とした医師主導国内治験及び血友病合併ヒト免疫不全ウイルスとC型肝炎ウイルスの重複感染(以下、血友病HIV/HCV重複感染)に起因する肝硬変の患者を対象とした医師主導国内治験を開始し、その過程で本開示の化合物の用法用量及び評価指標を鋭意検討し、最適化することに成功し本発明を完成するに至った。
本開示は、以下の特徴を包含する。
【0011】
[1]100乃至400mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週1回または2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩を含有する、肝疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物。
[2]280mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週2回、毎回4時間かけて静脈内に投与され、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、上記[1]記載の医薬組成物。
[3]肝疾患が、肝線維化又は肝硬変を伴う、上記[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[4]肝線維化又は肝硬変がB型若しくはC型肝炎、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、に起因する疾患であることを特徴とする上記[3]記載の医薬組成物。
[5]肝線維化又は肝硬変が血友病HIV/HCV重複感染、又は非アルコール性脂肪性肝炎に起因する疾患であることを特徴とする[3]記載の医薬組成物。
[6]肝疾患が、Child-Pughスコアによる分類A、BまたはCのものである、[3]記載の医薬組成物。
[7]肝組織硬度の維持又は改善用である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]維持又は改善が、薬剤投与中または薬剤投与終了時点において、薬剤投与開始前と比較して評価されるものである、上記[7]記載の医薬組成物。
[9]維持又は改善が、薬剤投与終了後6乃至12か月の時点において、薬剤投与終了時点と比較して評価されるものである、上記[7]記載の医薬組成物。
[10]肝組織硬度がフィブロスキャン測定値で示される、上記[7]記載の医薬組成物。
[11]肝組織硬度がMRエラストグラフィ測定値で示される、[7]記載の医薬組成物。
[12]肝予備能指標の維持又は改善用である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[13]維持又は改善が、薬剤投与中または薬剤投与終了時点において、薬剤投与開始前と比較して評価されるものである、上記[12]記載の医薬組成物。
[14]維持又は改善が、薬剤投与終了後6乃至12か月の時点において、薬剤投与終了時点と比較して評価されるものである、上記[12]記載の医薬組成物。
[15]肝予備能指標が、血清アルブミン濃度、血清ビリルビン濃度、プロトロンビン活性値、又はALBIスコアで示される、上記[12]記載の医薬組成物。
[16]肝予備能指標が、血清ビリルビン濃度、プロトロンビン活性値、又はALBIスコアで示される、[12]記載の医薬組成物。
[17]肝予備能指標が、Child Pugh分類(A,B,C)の変化またはスコア(点数)の変化量で示される、上記[12]記載の医薬組成物。
【0012】
[18]胆汁うっ滞指標の維持又は改善用である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の医薬組成物。
[19]維持又は改善が、薬剤投与終了後6乃至12か月の時点において、薬剤投与終了時点と比較して評価されるものである、上記[18]記載の医薬組成物。
[20]胆汁うっ滞指標が血清中総胆汁酸濃度で示される、上記[18]記載の医薬組成物。
[21]4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩の肝疾患に対する治療効果の評価を補助する方法であって、肝組織硬度、肝予備能指標及び胆汁うっ滞指標から選択される少なくとも1つを測定することを特徴とする方法。
[22]該測定が、薬剤投与終了後6乃至12か月の時点において、薬剤投与終了時点と比較して為されるものである、上記[21]記載の方法。
[23]肝組織硬度がフィブロスキャン測定値で示される、上記[21]又は[22]記載の方法。
[24]肝予備能指標が血清アルブミン濃度で示される、上記[21]又は[22]記載の方法。
[25]胆汁うっ滞指標が血清中総胆汁酸濃度で示される、上記[21]又は[22]記載の方法。
[26]100乃至400mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週1回または2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、肝疾患の予防及び/又は治療方法。
[27]280mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週2回、毎回4時間かけて静脈内に投与され、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、上記[26]記載の肝疾患の予防及び/又は治療方法。
[28]肝疾患の予防及び/又は治療用医薬組成物の製造における、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩の使用であって、
100乃至400mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週1回または2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、使用。
[29]280mg/mの4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はその医薬上許容され得る塩が、ヒトに対して週2回、毎回4時間かけて静脈内に投与され、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられることを特徴とする、上記[28]記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート又はその医薬上許容され得る塩は、それを必要とする患者に対して100乃至400mg/m(例、280mg/m)を、週1回又は2回(例、週2回)、毎回2乃至5時間(例、4時間)かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月(例、12週間)にわたり継続されることによって、優れた肝硬変(肝線維化)治療効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本開示の化合物がMdr2-KOマウスの肝線維化を抑制する効果を有することを示す図である。Mdr2-KOマウス(MDR2KO、雄性、8~10週齢)およびFVBバックグラウンドコントロールマウスに、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)を10週間投与した。対照としては投与しないマウスを用いた。Aは処置プロトコルのスキームを示す。Bはシリウスレッド染色の結果を示す(スケールバー、上図からそれぞれ500μm、1mm、500μm)。
図2図2は本開示の化合物がBDLマウスの肝線維化を抑制する効果を有することを示す図である。野生型C57BL/6マウス(雄性、8~10週齢)にBDLまたはsham手術を施し、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSで処置した。手術後14日目に動物を安楽死させた。Aは処置プロトコルのスキームを示す。Bはヘマトキシリン・エオシン染色、シリウスレッド染色、およびCK19の免疫組織化学染色(スケールバー、上図からそれぞれ100μm、500μm、および250μm)の結果を示す。
図3図3は本開示の化合物がDDCマウスの肝線維化を抑制する効果を有することを示す図である。野生型C57BL/6マウス(雄性、8週齢)に0.1%DDC飼料を18日間与え、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSを投与した。ヘマトキシリン・エオシン染色及びシリウスレッド染色(スケールバー、上図からそれぞれ250μmと500μm)の結果を示す。
図4図4は、本開示の化合物がMdr2-KOマウスの胆汁酸(BA)合成を減少させることを示した図である。Mdr2-KOマウス(8~10週齢)およびFVBバックグラウンドコントロールマウスに本開示の化合物(20mg/kg、週3回)を10週間投与した。対照としては投与しないマウスを用いた。肝臓および血清のTBA、CA、CDCAレベル(各群n=10)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。**p<0.01;****p<0.0001、Student’s t-test。
図5図5は、本開示の化合物が、BDLマウスの胆汁酸(BA)合成を減少させることを示した図である。野生型C57BL/6(雄性、8~10週齢)マウスにBDLまたはsham手術を施し、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSで処置した。肝臓のTBA、CA、およびCDCAレベル(1群あたりn=6~9)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。*p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001、one-way ANOVA。
図6図6は、本開示の化合物が、DDCマウスの胆汁酸(BA)合成を減少させることを示した図である。野生型C57BL/6(雄性、8週齢)マウスに0.1%DDC食を18日間与え、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSを投与した。肝臓および血清のTBA、CA、CDCAレベル(各群n=6)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。**p<0.01、unpaired Student’s t-test。
図7図7は、本開示の化合物が、Mdr2-KOマウスの肝機能障害を改善することを示した図である。雄性Mdr2-KOマウスおよびFVBバックグラウンドコントロールマウスに、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)を10週間投与した。対照としては投与しないマウスを用いた。血清ALT、ALP、およびT.Bilレベル(各群n=5~7)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。**p<0.01;***p<0.005;****p<0.0001、一元配置分散分析。
図8図8は、本開示の化合物がBDLマウスの肝機能障害を改善することを示した図である。野生型C57BL/6(雄性、8~10週齢)マウスにBDLまたはsham手術を施し、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSで処置した。血清ALT、ALP、およびT.Bilレベル(各群n=6~9)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の代表である。データは平均値±SDを表す。**p<0.01;***p<0.005、one-way ANOVA。
図9図9は、本開示の化合物がDDCマウスの肝機能障害を改善することを示した図である。野生型C57BL/6(雄性、8週齢)マウスに0.1%DDC食を18日間与え、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSを投与した。血清ALT、ALP、およびT.Bilレベル(各群n=6)を示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。**p<0.01、unpaired Student’s t-test。
図10図10は、本開示の化合物が、Mdr2-KOマウスの肝線維化を改善することを示した図である。雄性Mdr2-KOマウスおよびFVBバックグラウンドコントロールマウスに、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)を10週間投与した。対照としては投与しないマウスを用いた。RT-qPCRによって決定された肝臓における所定の遺伝子(Col1a1、Col1a2)のmRNA発現レベルを示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。*p<0.05;**p<0.01、一元配置分散分析。
図11図11は、本開示の化合物が、DDCマウスの肝線維化を改善することを示した図である。野生型C57BL/6(雄性、8週齢)マウスに0.1%DDC食を18日間与え、本開示の化合物(20mg/kg、週3回)またはPBSを投与した。RT-qPCRによって決定された肝臓における所定の遺伝子(Col1a1、Col1a2、Col3a1)のmRNA発現レベルを示す。示された結果は、少なくとも3つの独立した実験の平均値±SDを表す。**p<0.01、unpaired Student’s t-test。
図12図12は、進行したPBC患者(n=5)を対象とした本開示の化合物の臨床第I相試験の結果に基づく。本開示の化合物投与前(baseline)、投与中(4週間後、8週間後)及び12週間後(投与終了)の血清TBA濃度の変化を示す。データは平均値±SDを表す。paired Student’s t-test。
図13図13は、肝硬変患者を対象とした本開示の化合物の臨床第I/IIa相試験の結果に基づく。本開示の化合物投与前(baseline)、および12週間後時(投与終了)の肝組織硬度の変化を示す。paired t-test。肝組織硬度の測定にはフィブロスキャンを用いた。
図14図14は、肝硬変患者を対象とした本開示の化合物の臨床第IIa相試験の結果に基づく。本開示の化合物投与前(baseline)、投与中(3週間後、6週間後、9週間後)及び12週間後(投与終了)の血清アルブミン濃度の変化を示す(A)。化合物投与前(baseline)、および投薬開始から9か月後の血清アルブミン濃度の変化を示す(B)。
図15図15は、肝硬変患者を対象とし、プロトコルAの投薬スケジュールで実施した臨床試験の結果に基づく。本開示の化合物投与前(baseline)、および12週間後時(投与終了)のFIB-4インデックスの変化を示す。*p<0.05
図16】左図は各患者(KOM-6, 7, 9, 10, 12, 13, 15, 17, 22, 28, 26, 30, 32)について、投薬開始時(各棒グラフ左)、投薬終了時(12週間後)(各棒グラフ中央)、投薬開始から9か月後(各棒グラフ右)のフィブロスキャン測定値を示す。右図は、投薬開始時と投薬開始から9か月後の肝組織硬度の変化を示す。**p<0.01;paired t-test。
図17図17-1は、本開示の化合物が、肝機能を改善する効果を示した図である。図17-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。
図18図18-1は、本開示の化合物が、肝機能を改善する効果を示した図である。図18-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。
図19図19-1は、本開示の化合物が、肝機能を改善する効果を示した図である。図19-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。
図20図20は、血友病HIV/HCV重複感染肝硬変患者を対象とした本開示の化合物の臨床第I相試験の結果に基づく。肝線維化を改善する効果を示した図である。
図21図21は、本開示の化合物が、肝線維化を改善する効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一部の実施形態において、本開示は、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート(foscenvivint、(別名:ホスセンビビント)、本開示の化合物あるいはPRI-724またはOP―724とも称する)又はそれらの医薬上許容され得る塩を有効成分として含む、肝疾患の予防及び/又は治療用の医薬組成物(以下、「本開示の医薬組成物」とも称する)を提供するものであり、本開示の医薬組成物は、それを必要とする患者に対してfoscenvivintとして100乃至400mg/m(例、280mg/m)を、週1回又は2回(例、週2回)、毎回2乃至5時間(例、4時間)かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月(例、12週間)にわたり継続されることによって、優れた肝硬変(肝線維化)治療効果を示す。
以下、詳細に説明する。
【0016】
本開示において、「肝疾患」とは、肝臓における任意の疾患を指す。一部の実施形態において、本発明が対象とする肝疾患は、任意の肝疾患でありうるが、肝線維化、場合によってはさらに進行した症状の肝硬変を伴う疾患であり得る。肝線維化や肝硬変は、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、自己免疫性肝障害、代謝性肝障害などの様々な肝障害により壊死した肝細胞が修復される過程でコラーゲンや複合糖質からなる細胞外マトリックスと呼ばれる線維組織の産生が促進され、炎症の進行とともに徐々にこれらの線維組織が蓄積した状態をいう。肝線維化や肝硬変を引き起こす疾患は特に限定されないが、ウイルス性肝炎(例、B型肝炎、C型肝炎)、アルコール性肝障害、自己免疫性肝障害(例、原発性胆汁性胆管炎)、薬剤性肝障害、代謝性肝障害(例、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎、ヘモクロマトーシス)などの肝障害が挙げられる。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物において予防・治療対象となる肝疾患としては、肝線維化又は肝硬変を伴うものが挙げられる。また、一部の実施形態において、B型若しくはC型肝炎原発性胆汁性胆管炎、血友病HIV/HCV重複感染、又は非アルコール性脂肪性肝炎に起因する肝線維化又は肝硬変を伴うものが挙げられる。
【0017】
本開示において、肝疾患の予防又は治療とは、一部の実施形態において、肝機能の改善・維持を意味する。
【0018】
本開示において、「肝機能」とは、肝臓の有する機能全てを意味し、特に制限はない。肝臓が有する機能としては、一部の実施形態において、血液貯蔵(循環量の調整等);血色素の処理(ヘモグロビンの処理排出等);胆汁や胆汁色素の生成と腸肝循環;血漿タンパク質(急性期タンパク質、アルブミン、血液凝固因子、ステロイド結合タンパク質、他のホルモン結合タンパク質等)の合成等の血液および循環における機能[肝合成能];栄養素とビタミン(グルコースおよび/または他の糖類、アミノ酸、脂質および/または脂肪酸、コレステロール、リポタンパク、脂溶性ビタミン、ならびに水溶性ビタミンなど)の代謝などの栄養素の代謝機能[代謝機能];種々の物質(毒素、エストロゲンおよびアンドロステロンなどのステロイド、ならびに他のホルモンなど)の不活性化などの解毒または分解機能;および免疫機能などが挙げられる。また、肝ミトコンドリアはその電子伝達系により肝臓におけるエネルギー生産に寄与している[電子伝達系機能](Sherlock’s Diseases of the Liver & Biliary System, 13th ed. S.Dooley,A.S.F.Lok, G.Garcia-Tsao他著、2018年06月発行、WILEY-BLACKWELL社、参照)。
【0019】
本開示において、肝機能の「改善・維持」とは、上記した各肝機能の改善や、老化および疾患に伴う肝機能障害による肝機能の低下を防止または抑制する(維持する)ことの他、肝機能障害の原因となる肝線維化や肝硬変に対する治療効果をも包含して言う。肝機能の「改善・維持」効果は、ひいては肝疾患に対する治療効果と言い換えることもできる。一部の実施形態において、肝機能の「改善・維持」とは、特に限定されないが、肝予備能(肝合成能)における改善・維持、胆汁の生成や腸肝循環における改善・維持が挙げられる。
【0020】
一部の実施形態において、肝予備能(肝合成能)における改善・維持は、肝臓で合成されるタンパク質の量や機能を測定する方法によって評価される。一部の実施形態において、肝予備能指標として血清アルブミン濃度を測定することによって評価することができる。一部の実施形態において、血清アルブミン濃度は、吸光光度法(例、ローリー法)、電気泳動-染色デンシトメトリー法及び高速液体クロマトグラフ-紫外吸光検出法等によって測定できる。一部の実施形態において、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリホスファターゼ(ALP)、コリンエステラーゼやコレステロールの量を測定することでも評価できる。一部の実施形態において、他の肝臓で合成されるタンパク質としてプロトロンビンが挙げられ、その機能を評価する方法として、プロトロンビン時間の測定がある。肝機能が損なわれると胆汁の分泌が少なくなり、脂溶性のビタミンKの吸収が阻害される。凝固因子の中で、II、VII、IXおよびXはビタミンK依存性で、肝臓で合成される他の因子よりも減少が早い。この中で第VII因子の半減期が一番短いので、肝合成能が低下すると第VII因子が関与するプロトロンビン時間が鋭敏に延長する。さらに、第VII因子は外因系凝固因子であるが、時間が経てば、内因系凝固因子が関与する活性化部分トロンボプラスチン時間も延長する。
【0021】
一部の実施形態において、胆汁や胆汁色素の生成や腸肝循環における改善・維持は、胆汁うっ滞を指標として血清中の総胆汁酸濃度を測定することによって評価することができる。胆汁は肝細胞でつくられ、胆道系を通って十二指腸に排泄されるが、この経路のどこかで胆汁の流れが阻害されている状態を胆汁うっ滞という。胆汁の成分が肝臓内や胆管内に停滞し、さらには血液中に漏れ出す。ビリルビンは、古くなった赤血球にあるヘモグロビンが壊れてできる黄色い色素である。ビリルビンは血流に乗ってまず肝臓に運ばれ、そこで処理された後に胆汁に排泄される。肝臓で処理される前のビリルビンを「間接ビリルビン」、処理されて胆汁に入ったビリルビンを「直接ビリルビン」と称し、両者を合わせて「総ビリルビン」という。
【0022】
一部の実施形態において、Child-Pugh score(分類)を用いて、肝予備能を評価することができる。
【0023】
Child-Pugh score(分類)は、(1)肝性脳症、(2)腹水、(3)血清ビリルビン値、(4)血清アルブミン値、(5)プロトロンビン活性の5項目による肝硬変の機能評価法である(表1)。各項目の点数の合計により、classA(5~6点)、classB(7~9点)、classC(10~15点)の3段階に評価される。
【表1】
【0024】
一部の実施形態において、肝疾患は、Child-Pughスコアによる分類A、BまたはCである。
【0025】
一部の実施形態において、肝疾患は、少なくとも5、または少なくとも6、または少なくとも7、または少なくとも8、または少なくとも9、または少なくとも10、または少なくとも11、または少なくとも12、または少なくとも13、または少なくとも14、または15のChild-Pugh分類による全スコアによって分類される。
【0026】
一部の実施形態において、肝予備能は、Child-Pugh分類のグレード(A,B,C)の改善によって評価することができる。
【0027】
一部の実施形態において、肝予備能は、Child-Pughスコアの点数(5~15点)の変化量によっても評価することができる。また、Child-Pughスコアを構成する各評価項目(肝性脳症、腹水、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、プロトロンビン活性)の評点(1~3点)の変化量によっても評価することができる。
【0028】
一部の実施形態において、ALBI gradeを用いて、肝予備能を評価することができる。
【0029】
ALBI grade(Albumin―bilirubin grade)は、アルブミン値とビリルビン値のみで計算されるALBI scoreを元に肝予備能を3段階に評価する肝予備能評価方法である。 [(0.66×log10ビリルビン(μmol/L))+(-0.085×アルブミン(g/L)):grade 1:2:3 = ≦-2.60:>-2.60 to ≦-1.39:>-1.39。
【0030】
一部の実施形態において、(MELD)scoreを用いて、肝予備能を評価することができる。
【0031】
Model for end―stage liver disease(MELD)scoreは、非代償性肝硬変患者の短期予後予測及び肝移植適応の判断に用いられる。(MELD)scoreは、(1)血清ビリルビン、(2)プロトロビン時間-国際標準化比(PT-INR)、(3)血清クレアチニン値の3項目より、算出される。
【0032】
血清ビリルビン
[基準値]0.3~1.2(mg/dL)
網内系で老廃赤血球のヘモグロビンが分解れヘムが開裂し非抱合型(間接) ビリルビンが産生れる。非抱合型ビリルビンはアルブミンと結合し、肝へ運ばれ類洞側ら肝細胞へ取り込まれる。取り込まれたビリルビンはリガンディンに結合し、小胞体に運ばれbilirubin UDP―glucuronosyl transferase(BUGT)によりグルクロン酸抱合を受け、毛細胆管側へ運ばれmultidrug resistance protein 2(MRP2)により毛細胆管から胆管を経由し十二指腸へ排泄される。このビリルビン代謝、排泄経路の異常により高ビリルビン血症が生じる。ビリルビンが上昇る疾患を表2示す。
【表2】
【0033】
プロトロビン時間(PT)
[基準値]PT:80~130(%)
プロトロビン時間(PT)は外因系凝固因子である第VII、X、V、II因子プロトロビン)、フィブリノーゲンの総合的凝固活性を反映する。(PT)は、実測値(秒)。正常血漿に対する活性%。PTはアルブミンよりも肝予備能(蛋白合成能)の鋭敏な指標であり、重症肝障害、ビタミンK欠乏症、ワルファリン内服より低値となる。
【0034】
一部の実施形態において、肝線維化や肝硬変に対する治療効果は、肝実質領域の線維化及び脱線維化の様子を観察することによって評価することができる。一部の実施形態において、病理組織学的手法を用いた組織染色(例、シリウスレッド染色)による。シリウスレッド染色は、線維化を評価するための染色であり、コラーゲン線維を赤色に染色する。一部の実施形態において、さらに、肝組織硬度を測定することによっても評価することができ、一部の実施形態において、その手法としては、例えばフィブロスキャン検査により得られる測定値を指標として肝組織硬度の改善・維持を評価することができる。フィブロスキャン検査とは、体の表面に特殊な「プローブ」をあて、そこから発せられる振動と超音波の伝わり方から肝臓の硬さや肝臓組織内の脂肪量を測ることができる検査である。MRエラストグラフィ(MRE)の基本的原理は、体外振動を起こす加配装置により肝内に生じたずり弾性波の振動位相をプロトンの回転位相に変換させ、この位相差をMRIの位相画像で検出し、ずり弾性率が得られる。肝臓内を伝搬する弾性波の速度(V)は物質のずり弾性率(μ)と密度(ρ)を用いてV=μ/ρの式で表される。
【0035】
一部の実施形態において、肝線維化をコラーゲン遺伝子の発現量を測定し評価することによっても、治療効果を確認することができる。
【0036】
一部の実施形態において、FIB-4 index(フィブフォー・インデックス)を測定し、肝臓の線維化の進展度合いを評価することができる。
【0037】
FIB-4 index(フィブフォー・インデックス)とは、肝臓の線維化の進展度合いを評価するための血液検査データを組み合わせたスコアリングシステムである。この検査方法は、血液検査AST値・ALT値・血小板数・年齢の4項目を組み合わせて計算し、得られた数値から線維化の進展の度合いを評価する。C型肝炎の肝線維化を予測するスコアである。最近ではNASHなどの他の肝疾患にも転用されており、脂肪肝の方においてFIB-4 indexを指標とし、肝線維化の進展例を早期に発見することが、NAFLD患者の経過観察において重要と考えられている。
【0038】
一部の実施形態において、APRIを測定し、肝臓の線維化の進展度合いを評価することができる。
【0039】
APRI(アプリ=aspartate aminotransferase to platelet ratio index)は、AST、ALT、血小板数を組み合わせて線維化の度合を評価する。C型肝炎の肝線維化を予測するスコアである。
【0040】
一部の実施形態において、肝機能の「改善・維持」効果、即ち、「肝疾患に対する治療効果」は上記した各指標に基づいて評価することができる。一部の実施形態において、該効果を評価する際の補助として、上記した各指標を用いることができる。一部の実施形態において、各指標を測定することによって、治療に最適な用法用量を決定することができる。一部の実施形態において、評価指標として、肝組織硬度(例、フィブロスキャン測定値)、肝予備能指標(例、血清アルブミン濃度)、胆汁うっ滞指標(例、血清中総胆汁酸濃度)の少なくとも1種、2種、又は3種全てを用いることができる。
【0041】
上記の評価指標は、通常、薬剤の投与を開始する前、薬剤の投与期間中及び薬剤の投与終了時に測定され、薬剤による肝機能の改善・維持効果(肝疾患に対する治療効果)を評価することができる。更に、薬剤の投与終了後一定期間(例えば、6乃至12か月)が経過した時点において測定することで、薬剤による肝機能の更なる改善や維持効果(肝疾患に対する治療効果)の持続性を評価することができる。
【0042】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はそれらの医薬上許容され得る塩を含む。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、有効成分として、4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェート、又はそれらの医薬上許容され得る塩を含む。
【0043】
本開示において、「医薬上許容され得る」とは、一般に安全で無毒性であり、そして生物学的にもそれ以外にも望ましくないものではない医薬組成物の調製に有用であることを意味し、且つヒトの医薬的用途のみならず獣医学的用途にも許容され得ることを含む。
【0044】
本開示において、「医薬上許容され得る塩」とは、上記で定義したように、医薬上許容され、且つ所望の薬理学的活性を有する本発明化合物の塩を意味する。一部の実施形態において、このような塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸;又は例えば、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクト-2-エン-1-カルボン酸、グルコヘプトン酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、tert-ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸及びムコン酸等の有機酸で形成された酸付加塩が挙げられる。一部の実施形態において、医薬上許容され得る塩としては、存在する酸性プロトンが無機又は有機の塩基と反応できる場合に形成され得る、塩基付加塩も挙げられる。一部の実施形態において、許容され得る無機塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム及び水酸化カルシウムが挙げられる。一部の実施形態において、許容され得る有機塩基としては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン及びN-メチルグルカミン等が挙げられる。
【0045】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、経口的に使用される剤形であってもよく、非経口的に使用される剤形であってもよい。これらの剤形は、当業者であれば、薬学的に許容される担体および添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、例えば日本薬局方または米国薬局方(USP)に記載された方法等、既知の方法に従って製造することができる。
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物の投与方法としては、静脈内投与、静脈内持続投与等が挙げられる。
【0046】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、常法により製剤化した医薬製剤(例、注射剤、点滴剤)として、ヒトに対して投与される。一部の実施形態において、前記投与は有効成分の量に換算して、100乃至400mg/mの用量である。
【0047】
一部の実施形態において、前記投与は有効成分の量に換算して、200乃至300mg/mの用量である。
【0048】
一部の実施形態において、前記投与は有効成分の量に換算して、200mg/m、210mg/m、220mg/m、230mg/m、240mg/m、250mg/m、260mg/m、270mg/m、280mg/m、290mg/m、300mg/mの用量で投与される。
【0049】
一部の実施形態において、前記投与は有効成分の量に換算して、280mg/mの用量である。
【0050】
一部の実施形態において、前記投与は週1回以上、毎回1時間以上かけて静脈内に投与される。
【0051】
一部の実施形態において、前記投与は週1回又は2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与される。一部の実施形態において、前記投与は週2回、毎回4時間かけて静脈内に投与される。
【0052】
一部の実施形態において、前記投与が1か月にわたり継続されるように用いられる。
【0053】
一部の実施形態において、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられる。一部の実施形態において、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられる。
【0054】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、常法により製剤化した医薬製剤(例、注射剤、点滴剤)として、ヒトに対して週1回または2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられる。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、常法により製剤化した医薬製剤(例、注射剤、点滴剤)として、ヒトに対して週2回、毎回4時間かけて静脈内に投与され、前記投与が12週間にわたり継続されるように用いられる。
【0055】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0056】
すべての実験は、米国科学アカデミーの機関指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って実施された。研究計画書は、東京都立駒込病院研究委員会の承認を得た。ヒト試料を用いたすべての分析は、東京都立駒込病院倫理委員会の承認を得た。この研究はヘルシンキ宣言の原則に準拠している。
すべての実験動物(マウス)は、12時間/12時間の明暗サイクルのもと、換気されたケージ内で、エンリッチメント、水、飼料に自由にアクセスできるように維持された。
【0057】
(略語一覧)
ALP: alkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ)
ALT: alanine aminotransferase(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
BA: bile acid(胆汁酸)
BDL: bile duct ligation(胆管結紮)
CA: cholic acid(コール酸)
CDCA: chenodeoxycholic acid(ケノデオキシコール酸)
CK19: cytokeratin-19(サイトケラチン19)
FXR: farnesoid X receptor(ファルネソイドX受容体)
MDR2: multidrug resistance-associated protein 2(多剤耐性関連タンパク質2)
PBC: primary biliary cholangitis(原発性胆汁性胆管炎)
PSC: primary sclerosing cholangitis(原発性硬化性胆管炎)
T.Bil: total bilirubin(総ビリルビン)
TBA: total bile acid(総胆汁酸)
【0058】
(材料と方法)
1.Mdr2-KOマウスモデル
Mdr2-KO(FVB.129P2-Abcb4tm1Bor/J, #002539)マウスはJackson Laboratory(Bar Harbor, ME, USA)から購入し、FVB/NJ背景の野生型同腹子をコントロールとして使用した。8~10週齢の雄のMdr2-KOマウスと同腹のコントロールに、PBSに溶解した20mg/kgの本開示の化合物(foscenvivint;Prism BioLab、日本、東京)またはコントロールとしてのPBSを10週間にわたり週3回腹腔内注射した。
【0059】
2.BDLマウスモデル
8~10週齢の雄の野生型(C57BL/6J)マウスを日本SLC(日本、静岡)から入手し、既報(Osawa Y, et al. Inhibition of Cyclic Adenosine Monophosphate (cAMP)-response Element-binding Protein (CREB)-binding Protein (CBP)/beta-Catenin Reduces Liver Fibrosis in Mice. eBioMedicine 2, 1751-1758 (2015).)と同様に膵臓上の総胆管を切開してBDLを施した。このマウスに20mg/kgの本開示の化合物をPBSに溶解したものを週3回腹腔内投与した。
【0060】
3.DDCマウスモデル
8週齢のC57BL/6J野生型雄マウスに、0.1%DDC濃縮飼料(Sigma-Aldrich, St.Louis, MO, USA)を18日間与えた。
【0061】
4.ビリルビン
血清ビリルビンはQuantiChrom Bilirubin Assay Kit(BioAssay Systems, Hayward, CA, USA)を用いて測定した。
【0062】
5.BA分析
血清および肝臓のTBA、CA、CDCA濃度は、それぞれTotal Bile Acid Assay Kit、Cholic Acid ELISA Kit、Chenodeoxycholic Acid ELISA Kit(Cell Biolabs, San Diego, CA, USA)を用いて、メーカーの説明書に従って解析した。
【0063】
6.RT-qPCR
肝組織および培養細胞からのRNA抽出、DNA除去、逆転写には、RNeasy and DNase Kits(Qiagen, Valencia, CA, USA)及びHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)が使用された。qPCRは、Thermo Fisher Scientificから購入したプローブとプライマーのセットとTaqPath qPCR Master Mix,CG(Applied Biosystems)を用いて、LightCycler 480(Roche Applied Science, Mannheim, Germany)により3連で実行された。標的遺伝子の発現量は、各サンプルにおけるGAPDHの発現量に対して正規化した。
(マウスプライマーセット)
【0064】
【表3】
【0065】
7.組織学的解析
マウス肝組織を10%ホルマリンで固定し、切片化し、ヘマトキシリン・エオシン(HE)で染色した。コラーゲン沈着はシリウスレッド(飽和ピクリン酸に0.1%direct red 80と0.1%Fast Green FCFを加えたもの)で染色した。さらに、サンプルを、サイトケラチン19(Abcam、ケンブリッジ、英国)に対する抗体を使って免疫組織化学的に染色した。シリウスレッド陽性領域を定量化するために、HistoQuantソフトウェア(3DHISTECH、ブダペスト、ハンガリー)を使用した。
(ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色)
HE染色は、細胞核及び細胞質を染め分け、組織の形態を観察することが可能な染色方法であり、HE染色により細胞や組織構造の全体像を把握することが可能となる。
Bouin溶液で前固定した肝組織のパラフィンブロックから切片を切り出し、Lillie-Mayer’s Hematoxylin(武藤化学株式会社、日本)及びエオシン溶液(富士フイルム和光純薬工業株式会社、日本)で染色する。
(シリウスレッド染色)
コラーゲンの沈着を可視化するために、Bouin固定された肝切片をピクロシリウスレッド溶液(Waldeck GmbH & Co., ドイツ)を用いて染色する。定量的解析には、デジタルカメラ(DFC280, Leica, ドイツ)を用いて、200倍拡大で、中心静脈付近でシリウスレッド染色された切片をキャプチャーして、1切片あたり5視野で陽性の領域をImageJ software(ImageJ, National Institute of Health, 米国)を用いて測定する。
【0066】
8.Fib-4インデックス測定
Fib-4インデックス(FIB-4 Index)は、肝線維化を予測するスコアであり、AST、ALT、血小板数、年齢の4項目を組み合わせて計算し、得られた数値から線維化の進展度合いを評価することができる。
【0067】
【数1】
【0068】
9.フィブロスキャン検査
非侵襲的検査法としてパルス振動波の組織内伝搬速度を超音波画像解析法により弾性度(kPa)で測定するtransient elastographyを原理としたフィブロスキャンでの測定。ECHOSENS社製のFibroScan等が使用される。
【0069】
10.血清アルブミン濃度
血清アルブミンは、肝臓で作られるタンパク質で肝機能の低下とともにその量が減少することが知られている。
血清アルブミンの測定は常法に従って行うことができる。例えば、アルブミンと結合することで色素を生成するような試薬を用いて、当該色素を分光学的に測定することによって検体中のアルブミン量を求める。このような色素としてはpH4.0付近でアルブミンと反応し青色のアルブミン結合色素を生成するブロモクレゾールグリーンが挙げられる。
市販の測定用試薬(シカリキッド ALB、関東化学株式会社)を用いることもできる。検体に試薬を混合し、生成した結合色素の吸光度を測定する。
【0070】
実施例1
前臨床試験(PBCのモデルマウスでの評価)1(肝線維化改善作用)
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の非臨床試験モデルとして、胆汁うっ滞により肝線維化を誘導する胆管結紮モデルマウス(BDLマウス)、MDR2ノックアウトマウス(Mdr2-KOマウス)及び胆管障害モデルマウス(DDCマウス)を用い、本開示の化合物の肝線維化改善作用を調べた。
MDR2KOマウス及びBDLマウスはそれぞれ図1A及び図2Aのプロトコルに従って本開示の化合物で処置した。DDCマウスは、野生型C57BL/6雄性の8週齢マウスに0.1%DCC飼料を18日間与えた。その間、本開示の化合物(1週間あたり3回、20mg/kg)又はPBSを腹腔内投与した。処置後肝臓を採取し、肝組織のシリウスレッド染色により本開示の化合物の抗線維化効果を調べた。シリウスレッド陽性領域はコラーゲンの沈着を示す。BDLマウス及びDDCマウスについてはヘマトキシリン・エオシン染色も同時に行った。いずれのモデルマウスに対しても、シリウスレッド陽性領域の有意な減少、即ち線維化面積の減少を認め(図1図3)、本開示の化合物の抗線維化効果が確認された。
【0071】
実施例2
前臨床試験(PBCのモデルマウスでの評価)2(胆汁うっ滞改善作用)
実施例1同様、PBCモデルマウスとして、BDLマウス、Mdr2-KOマウス及びDDCマウスを用い、本開示の化合物の胆汁うっ滞改善作用を調べた。胆汁酸(BA)代謝が胆汁うっ滞による肝線維化に関与していることから、BA量(総胆汁酸(TBA)、コール酸(CA)、ケノデオキシコール酸(CDCA))を測定した。結果を図4(Mdr2-KOマウス)、図5(BDLマウス)及び図6(DDCマウス)に示す。Mdr2-KOマウスでは、肝臓のTBAとCAレベルは本開示の化合物の影響を受けなかったが、CDCAレベルは減少した。血清のTBA、CAおよびCDCAレベルは本開示の化合物によって減少した(図4)。同様に、本開示の化合物は、BDLマウスにおいても肝臓のTBA、CA、CDCAレベルを低下させ(図5)、DDCマウスにおいても肝臓及び血清のTBA、CA、CDCAレベルを低下させた(図6)。
【0072】
実施例3
前臨床試験(PBCのモデルマウスでの評価)3(肝機能改善作用)
実施例1同様、PBCモデルマウスとして、BDLマウス、Mdr2-KOマウス及びDDCマウスを用い、本開示の化合物の肝機能改善作用を調べた。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)は肝細胞でつくられる酵素で肝細胞が破壊されると血液中に放出されるため値が上昇する。アルカリホスファターゼ(ALP)はリン酸化合物を分解する酵素で、肝臓や腎臓、腸粘膜、骨などで作られ、肝臓で処理されて胆汁中に流れ出る。胆石や胆道炎、胆道がんなどで胆道がふさがれて胆汁の流れが悪くなったり(胆汁うっ滞)、肝臓の機能が低下したりすると、胆汁中のALPは逆流して血液中に流れ込む。従って、胆汁うっ滞ではALPは大きく上昇する。ビリルビンは、肝臓で処理される前の間接ビリルビンと処理されて胆汁中に入った直接ビリルビン(併せて総ビリルビン)があり、直接ビリルビンは胆道から排泄される。肝臓の機能が障害されると間接ビリルビンを処理できなくなるため、血液中に間接ビリルビンが大量に残り、一方、胆道系の障害により胆汁の排泄が不十分になると、血液中には直接ビリルビンが増加する。
本実施例では、各PBCモデルマウスについて、血清中のALT、ALP及び総ビリルビンの量を測定した。結果を図7(Mdr2-KOマウス)、図8(BDLマウス)及び図9(DDCマウス)に示す。いずれのPBCモデルマウスにおいても、ALT、ALP、T.Bil値の低下で示されるように、肝障害の軽減が確認された。
【0073】
実施例4
前臨床試験(PBCのモデルマウスでの評価)4(コラーゲン遺伝子発現量改善作用)
PBCモデルマウスとして、Mdr2-KOマウス及びDDCマウスを用い、本開示の化合物のコラーゲン遺伝子発現量改善作用を調べた。コラーゲン、特にIV型コラーゲンは、肝線維化のマーカーとして知られている。IV型コラーゲンは基底膜を構成する。正常の肝臓の類洞には基底膜は存在しないが、肝線維化進展に伴って基底膜の増生が起こり、IV型コラーゲンの発現量が増加する。
本実施例では、各PBCモデルマウスについて、肝細胞におけるコラーゲン遺伝子の発現量を測定した。結果を図10(Mdr2-KOマウス)、図11(DDCマウス)に示す。いずれのPBCモデルマウスにおいても、コラーゲン遺伝子の発現量の低下で示されるように、肝線維化の軽減が確認された。
【0074】
実施例5
臨床試験(PBC患者での評価)(胆汁うっ滞改善作用)
本実施例は、PBC患者における本開示の化合物の安全性および忍容性を調べ、推奨用量を決定することを目的とした第I相試験の結果に基づく。
被験者は、原発性胆道胆管炎と診断され、肝臓組織検査の結果、線維化の進行(Scheuer stage III以上)と診断された患者である。投薬スケジュールとして、本開示の化合物は、12週間にわたって週2回(4時間)静脈内投与された。ただし、第1サイクル投与の7日前1回、第1サイクルに予定されていた用量を4時間の連続静脈内投与により1回投与し、投与当日から投与翌日までの安全性及び薬物動態を評価した。用量レベルは、2用量(280mg/m/4時間、380mg/m/4時間)とした。
本開示の化合物の12週間の投薬スケジュール終了後、血清総胆汁酸濃度(TBA濃度)を測定した。結果を図12に示す。
投薬治療により明らかなTBA濃度の減少が見られ、本開示の化合物の胆汁うっ滞改善作用が確認された。
【0075】
実施例6(肝炎患者での評価)(肝組織硬度改善作用)
本実施例は、HCVまたはHBV肝硬変患者に本開示の化合物を投与した場合の安全性および薬物動態を評価し、本開示の化合物の推奨用量を決定することを目的とした第I相試験、及びHCVまたはHBV肝硬変患者に投与される本開示の化合物の推奨用量の有効性および安全性を評価することを目的とした第II相試験の結果に基づく。
投薬スケジュールとしては、第I相試験では、(レベル1)140mg/m/4時間、(レベル2)280mg/m/4時間、(レベル3)380mg/m/4時間の3用量で、週2回、連続4時間静脈内投与(投与時間の許容範囲:±15分)で行った。これを単回投与と12サイクル(合計12週間)行った。単回投与は、第1サイクル投与の7日前1回、第1サイクルに予定されていた用量を連続4時間静脈内投与(投与時間の許容範囲:±15分)で行い、投与当日から投与翌日までの安全性及び薬物動態を評価した。
第II(IIa)相試験では、第I相で決定した推奨用量(レベル2)で週2回4時間の連続静脈内投与を行った。これを12サイクル(合計12週間)行った(プロトコルA)。
第I相試験において、本開示の化合物の12週間の投薬スケジュール終了後、肝組織硬度を、フィブロスキャンを用いて測定した。結果を図13に示す。
投薬治療により明らかな肝組織硬度の減少が見られ、本開示の化合物の肝組織硬度改善作用が確認された。特に、レベル2での投薬スケジュールで良好な結果が得られた。
第II相試験において、プロトコルAの投薬スケジュールで、血清アルブミン濃度を測定した。結果を図14Aに示す。本開示の化合物を投与することにより血清アルブミン濃度における改善作用が確認された。プロトコルAで本開示の化合物の投薬スケジュール終了後の血清アルブミン濃度を測定した。結果を図14Bに示す。本開示の化合物投薬開始9か月後も血清アルブミン濃度における改善作用が持続していることが確認された。
第II相試験において、プロトコルAの投薬スケジュール終了後、FIB-4インデックスを調べた。結果を図15に示す。有意に低下傾向を認めた。
プロトコルAで本開示の化合物の投薬スケジュール終了後の肝組織硬度についてフィブロスキャンを用いて測定した。結果を図16に示す。本開示の化合物投薬開始9か月後も肝組織硬度の改善効果が持続していることが確認された。
第II相試験において、プロトコルAの投薬スケジュール終了6か月後のALBIスコアを調べた。結果を図17-1に示す。図17-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。本開示の化合物の投与終了6か月後において、ALBIスコアの改善よる肝機能改善が示唆された。第II相試験において、プロトコルAの投薬スケジュール終了6か月後において、血清アルブミン値を調べた。結果を図18-1に示す。図18-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。本開示の化合物を投与中にアルブミン製剤を使用した症例(KOM-009)、本開示の化合物を投与終了6か月後に腹水穿刺を実施した症例(KOM-021)、中等量以上の腹水を合併したために本開示の化合物を投与終了28日時点までにアルブミン製剤を使用した症例(KOM-033)が含まれている。肝機能の評価に影響を及ぼすような3例及び本開示の化合物を投与終了6か月後の結果が得られなかった2例(KOM-012、KOM-018)を除いた、CP分類Bの4例のうち2例が、投与終了6か月後においてCPスコア(血清アルブミン値の評点)が2点(2.8~3.5 g/dL)から1点(3.5 g/dL超)に改善がみられた。本開示の化合物の投与終了6か月後において、血清アルブミン値の改善よる肝機能改善が示唆された。
第II相試験において、プロトコルAの投薬スケジュール終了6か月後において、プロトロンビン時間活性値を調べた。結果を図19―1に示す。図19-2は、病状がChild-Pugh(CP)分類Bの症例を示した。本開示の化合物を投与中にアルブミン製剤を使用した症例(KOM-009)、本開示の化合物を投与終了6か月後に腹水穿刺を実施した症例(KOM-021)、中等量以上の腹水を合併したために本開示の化合物を投与終了28日時点までにアルブミン製剤を使用した症例(KOM-033)が含まれている。肝機能の評価に影響を及ぼすような3例及び本開示の化合物を投与終了6か月後の結果が得られなかった2例(KOM-012、KOM-018)を除いた、CP分類Bの4例のうち3例が、投与終了6か月後においてCPスコア(プロトロンビン時間活性値の評点)が2点(40~70%)から1点(70%超)の改善がみられた。本開示の化合物の投与終了6か月後において、プロトロンビン時間活性値の改善より肝機能改善が示唆された。
【0076】
実施例7(血友病HIV/HCV重複感染に起因する肝硬変患者での評価)
本実施例は、血友病HIV/HCV重複感染に起因する肝硬変患者を対象とし、本開示の化合物を投与したときの安全性および忍容性を検討することを目的とする第I相試験の結果に基づく。
投薬スケジュールとしては、(レベル1)140mg/m2/4時間、(レベル2)280mg/m2/4時間の2用量で、週2回、連続4時間静脈内投与(投与時間の許容範囲:±15分)で行った。これを単回投与と12サイクル(合計12週間)行った。単回投与は、第1サイクル投与の14日前1回、第1サイクルに予定されていた用量を連続4時間静脈内投与(投与時間の許容範囲:±15分)で行い、投与当日から投与翌日までの安全性及び薬物動態を評価した。
本開示の化合物の12週間の投薬スケジュール終了後、フィブロスキャンを用いて肝組織硬度の測定、及びFIB-4 indexとAPRIの算出を行った。結果をそれぞれ図20図21A図21Bに示す。フィブロスキャンによる肝臓組織の硬さの測定値はFIB-4 index及びAPRIにてレベル1とレベル2のいずれもべースラインからの低下がみられ、なかでもフィブロスキャンによる肝臓組織の硬さの測定値及びAPRIではレベル2でより低下がみられた。本開示の化合物を投与した後、フィブロスキャンでの肝硬度低下、FIB-4 index及びAPRIスコアの減少傾向が確認された。
【0077】
実施例8(非代償性肝硬変患者での評価)
本実施例は、HCVまたはHBV感染に起因する非代償性肝硬変患者、及び非アルコール性脂肪肝炎(疑いを含む)に起因する非代償性肝硬変患者に本開示の化合物を投与した場合の有効性、安全性および薬物動態を評価することを目的とした第II相試験の計画に基づくものである。非代償性肝硬変の重症度は、Child-Pugh分類Bであり、HCVまたはHBV感染に起因する非代償性肝硬変患者をコホートA、非アルコール性脂肪肝炎(疑いを含む)に起因する非代償性肝硬変患者をコホートBに分けて、当該化合物又はプラセボを二重盲検下で投与する。
投与スケジュールとしては、280mg/m2の用量で、1回あたり連続3~4時間静脈内投与(投与時間の許容範囲:±15分)で行う。コホートAでは3群(当該化合物を週2回投与する群、当該化合物とプラセボを週1回ずつ投与する群、プラセボを週2回投与する群)、コホートBでは2群(当該化合物を週2回投与する群、プラセボを週2回投与する群)に無作為に割付けて、24週間投与を行い、投与開始52週間まで観察を行う。
有効性評価項目として、肝予備能指標(Child-Pughスコア、ALBIスコア、MELDスコア、Child-Pugh分類、mALBIグレード、血清アルブミン値、血清ビリルビン値、プロトロンビン活性値)、肝線維化指標(フィブロスキャン肝組織硬度、MRE肝組織硬度、血清線維化マーカー、FIB-4 index)を評価する。その他、腹水の治療で使用されるアルブミン製剤の投与量及び投与回数、非代償性肝硬変に伴うイベント(食道・胃静脈瘤出血、腹水など)、腹水及び肝性脳症の重症度についても評価する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
4-({(6S,9S,9aS)-1-(ベンジルカルバモイル)-2,9-ジメチル-4,7-ジオキソ-8-[(キノリン-8-イル)メチル]オクタヒドロ-2H-ピラジノ[2,1-c][1,2,4]トリアジン-6-イル}メチル)フェニル ジヒドロゲン ホスフェートは、100乃至400mg/mの用量で、ヒトに対して週1回または2回、毎回2乃至5時間かけて静脈内に投与され、前記投与が2乃至6か月にわたり継続されるように用いられることにより、優れた肝硬変(肝線維化)治療効果を示すことが示唆される。従って、該化合物を含有する医薬組成物は、肝疾患予防及び/又は治療に有効であることが示唆される。
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