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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-29
(45)【発行日】2025-08-06
(54)【発明の名称】減衰力制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/018 20060101AFI20250730BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20250730BHJP
【FI】
B60G17/018
B60G17/015 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024081255
(22)【出願日】2024-05-17
【審査請求日】2025-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 修
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 可南子
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 太壱
(72)【発明者】
【氏名】天池 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-62550(JP,A)
【文献】特開2021-195004(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0143786(KR,A)
【文献】中国実用新案第202608503(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
B60W 10/00
10/02
10/04-10/06
10/08
10/10
10/101-10/18
10/184-10/26
10/28
10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
F16F 9/00- 9/58
15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体の振動を検知するセンサ部と、前記車両の前記車体と車輪との間に設けられる減衰力調整可能な緩衝器の減衰力を前記センサ部で検知した振動情報に基づいて制御する制御部と、無線通信可能な通信部とを有する減衰力制御装置と、
前記減衰力制御装置と通信可能な携帯端末とを備え、
前記制御部は、前記携帯端末が検知する位置から求めた速度或いは前記携帯端末が検知する速度に基づいて前記緩衝器を制御する
ことを特徴とする減衰力制御システム。
【請求項2】
前記センサ部は、前記車体の前後方向の加速度を検知可能であって、
前記制御部は、前記携帯端末から位置或いは前記速度が得られない場合、前記センサ部が検知した前記車体の前後方向の加速度から前記車両の速度を求め、求めた速度に基づいて前記緩衝器を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰力制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、減衰力を調節可能な緩衝器は、車両のばね上部材とばね下部材との間に介装されて伸縮する緩衝器本体と、緩衝器本体内に充填される流体の流れに抵抗を与えるとともにソレノイドで駆動されて発生減衰力を調整する減衰弁とを備えて構成され、ソレノイドに対する制御は、車両に搭載された緩衝器の制御に特化した減衰力制御装置によって行われる。
【0003】
減衰力制御装置は、緩衝器の減衰力を車両の走行状態に応じて最適なものとするため、車両の速度、ばね上加速度やばね下加速度といった走行状態を認識するための各種情報を得るセンサと、当該センサからの情報を基に緩衝器が発生すべき減衰力を求める演算装置とを備えており、緩衝器に求めた減衰力を発生させるように減衰弁のソレノイドへ電流供給する。
【0004】
また、このようなシステムにおいては、減衰力制御装置は、CANバスを介して緩衝器のソレノイドを制御する制御ユニットに指令を出力するようになっているので、緩衝器に出力させる減衰力を車両の速度に感応させる制御を行う場合には車両から車両の走行中の速度を得ることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2024-015541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように減衰力制御装置は、車両の速度に感応させて緩衝器の減衰力を制御する場合、CANバスへの接続が必須となっている。よって、減衰力制御装置が元々車両に付属しておらず、車両に対してユーザーが減衰力制御装置を設置する場合、所謂、減衰力制御装置を後付けするような場合、減衰力制御装置を車両へ設置するのは非常に面倒な作業を強いられる。
【0007】
そこで、本発明は、車両の速度に減衰力を感応させた制御を行うことができるとともに、車両に対して容易に設置可能な減衰力制御システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明の減衰力制御システムは、車両の車体の振動を検知するセンサ部と、車両の車体と車輪との間に設けられる減衰力調整可能な緩衝器の減衰力をセンサ部で検知した振動情報に基づいて制御する制御部と、無線通信可能な通信部とを有する減衰力制御装置と、減衰力制御装置と通信可能な携帯端末とを備え、制御部は、携帯端末が検知する位置から求めた速度或いは携帯端末が検知する速度に基づいて緩衝器を制御する。
【0009】
このように構成された減衰力制御システムによれば、減衰力制御装置は、携帯端末から車両の位置或は車両の速度を入手でき、車両におけるCANバスに接続しなくても、車両の速度に感応させて緩衝器の減衰力を制御できるので、車両に減衰力制御装置を後付けする場合であっても、減衰力制御装置を車両への容易に設置でき、その設置作業も簡単となる。
【0010】
また、減衰力制御システムにおけるセンサ部は、車体の前後方向の加速度を検知可能であって、制御部は、携帯端末から位置或いは速度が得られない場合、センサ部が検知した車体の前後方向の加速度から車両Vの速度を求め、求めた速度に基づいて緩衝器を制御してもよい。
【0011】
このように構成された減衰力制御システムによれば、携帯端末から位置或いは速度が得られない状況になっても、シームレスに車両の速度を求めて緩衝器の減衰力を速度に感応させる制御を継続して実行できる。
【発明の効果】
【0012】
以上より、本発明の減衰力制御システムによれば、車両の速度に減衰力を感応させた制御を行うことができるとともに、車両に対して容易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車両に適用された一実施の形態における減衰力制御システムおよび減衰力制御装置を示した図である。
図2】緩衝器の概略断面図である。
図3】一実施の形態における減衰力制御装置の構成を示した図である。
図4】減衰力制御装置における電流制御部の構成を示した図である。
図5】一実施の形態の減衰力制御システムにおける携帯端末の構成を示した図である。
図6】一実施の形態の減衰力制御システムにおける減衰力制御装置の減衰力の制御の処理手順を示したフローチャートである。
図7】一実施の形態の減衰力制御システムにおける減衰力制御装置の車両の速度を求める処理手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における減衰力制御装置1は、車両Vの車体Bの所定位置における振動を検知するセンサ部2と、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に設けられる減衰力調整可能な緩衝器Dの減衰力をセンサ部2で検知した振動情報に基づいて制御する制御部3と、携帯端末30と無線通信可能な通信部5とを備えて構成されている。また、一実施の形態における減衰力制御システムSは、減衰力制御装置1と携帯端末30とを備えて構成されている。なお、本実施の形態の減衰力制御装置1は、車両Vの車体Bと車体Bの前後左右の車輪Wとの間にそれぞれ介装された4つの緩衝器Dを制御する。
【0015】
まず、減衰力制御装置1の制御対象である緩衝器Dについて説明する。緩衝器Dは、図2に示すように、筒状のシリンダ6と、シリンダ6内に摺動自在に挿入されるピストン7と、シリンダ6内に軸方向へ移動可能に挿入されるとともにピストン7に連結されるロッド8と、シリンダ6内にピストン7で区画されるとともに作動油等の液体が充填される伸側室R1と圧側室R2と、シリンダ6の外周を覆ってシリンダ6との間に環状の隙間を形成する中間筒9と、中間筒9の外周を覆って中間筒9との間に気体と液体とが充填される環状のリザーバRを形成する外筒10と、伸側室R1と圧側室R2とを連通するとともに圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを殆ど抵抗を与えずに許容する整流通路11と、圧側室R2とリザーバRとを連通するとともにリザーバRから圧側室R2へ向かう液体の流れに殆ど抵抗を与えずに許容する吸込通路12と、シリンダ6と中間筒9との間の隙間を介して伸側室R1とリザーバRとを連通する減衰通路13と、減衰力制御装置1からの指令によって緩衝器Dが発生する減衰力を調整可能な減衰力調整部15とを備えている。
【0016】
本実施の形態では、減衰力調整部15は、減衰通路13の途中に設けられたソレノイドバルブとされている。
【0017】
減衰力調整部15は、たとえば、図示したように、減衰通路13の途中に設けた弁体15aと、減衰通路13を遮断するように弁体15aを附勢するばね15bと、通電時にばね15bに対抗する推力を発生するソレノイド15cとを備えて構成されており、ソレノイド15cに供給される電流量に応じて開弁圧を変更可能である。
【0018】
そして、弁体15aに作用する減衰通路13の上流の伸側室R1内の圧力が減衰力調整部15のリリーフ圧(開弁圧)を超えると、この圧力とソレノイド15cとの弁体15aを押す力が、弁体15aを付勢するばね15bの力に打ち勝つようになり、弁体15aがばね15bを押し縮めて減衰力調整部15が減衰通路13を開放する。
【0019】
また、減衰力調整部15にあっては、ソレノイド15cに供給する電流量を増大させると、ソレノイド15cが発生する推力を増大できる。よって、ソレノイド15cに供給する電流量を最大とすると減衰力調整部15における開弁圧が最小となり、反対に、ソレノイド15cに全く電流を供給しないと減衰力調整部15における開弁圧が最大となる。なお、減衰力調整部15は、ソレノイド15cへの電流量を最大とした場合に開弁圧を最大とする構成を採用してもよい。
【0020】
減衰力調整部15は、前述したところでは、開弁圧の調節を可能としているが、ソレノイド15cが発生する推力を弁体15aに作用させて流路面積の調節を可能とするものであってもよい。このように、減衰力調整部15は、減衰力制御装置1からの指令によって、減衰通路13を通過する液体の流れに与える抵抗を変化させて緩衝器Dが発生する減衰力を調整可能であればよいので、ソレノイドバルブ以外にも、ステッピングモータを利用したバルブとされてもよいし、緩衝器D内に充填される液体が電気粘性流体、磁気粘性流体或いは電磁粘性流体である場合には減衰通路13を通過する液体に電界或いは磁界を作用させて減衰通路13を通過する液体の流れに与える抵抗を調節可能な装置を備えてもよい。また、減衰力調整部15は、緩衝器Dの伸長時と収縮時との減衰力の調整が可能であってもよいし、伸長時或いは収縮時のいずれか一方の減衰力の調整が可能であってもよい。
【0021】
このように構成された緩衝器Dでは、シリンダ6に対してロッド8が図2中上方へ移動する緩衝器Dの伸長作動時には、シリンダ6内を上昇するピストン7によって圧縮される伸側室R1から減衰通路13および減衰力調整部15を介してリザーバRへ液体が移動する。よって、伸側室R1内の圧力は、上昇して減衰力調整部15の開弁圧に等しくなる。また、緩衝器Dの伸長作動時には、シリンダ6内で上昇するピストン7によって容積が拡大される圧側室R2内にリザーバRから吸込通路12を介して液体が供給されるため、圧側室R2内の圧力はリザーバR内の圧力と略等しくなる。よって、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力よりも減衰力調整部15の開弁圧だけ高くなり、緩衝器Dは、伸長作動を妨げる減衰力を発生する。そして、減衰力調整部15の開弁圧がソレノイド15cへ供給する電流量によって変化するので、緩衝器Dの伸長作動時の減衰力をソレノイド15cへ供給する電流量に応じて高低調整できる。
【0022】
他方、シリンダ6に対してロッド8が図2中下方へ移動する緩衝器Dの収縮作動時には、シリンダ6内を下降するピストン7によって圧縮される圧側室R2から整流通路11を介して拡大する伸側室R1へ液体が移動する。緩衝器Dの収縮作動時には、シリンダ6内に侵入するロッド8の体積分の液体がシリンダ6内で過剰となるため、過剰分の液体がシリンダ6内から減衰通路13および減衰力調整部15を介してリザーバRへ排出される。よって、シリンダ6内の伸側室R1内および圧側室R2内の圧力は、ともに上昇して減衰力調整部15の開弁圧と等しくなるが、圧側室R2に面するピストン7の受圧面積がロッド8の断面積分だけピストン7の伸側室R1に面するピストン7の受圧面積よりも大きいため、緩衝器Dは収縮を抑制する減衰力を発生する。そして、減衰力調整部15の開弁圧がソレノイド15cへ供給する電流量によって変化するので、緩衝器Dの収縮作動時の減衰力をソレノイド15cへ供給する電流量に応じて高低調整できる。
【0023】
なお、緩衝器Dの構成は一例であって、前記した構成に限られず、減衰力調整部15で液体の流れに抵抗を与えて緩衝器Dの伸長および収縮を妨げる減衰力を発生可能である構成となっていればよい。よって、本実施の形態の緩衝器Dは、リザーバRを備えて液体が伸側室R1、圧側室R2およびリザーバRを順に一方通行で循環するユニフロー型に設定されているが、伸縮時に伸側室R1と圧側室R2とで液体が行き来するバイフロー型に設定されていてもよい。緩衝器Dがバイフロー型に設定される場合、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路が伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れと圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れとを許容する場合、当該減衰通路に減衰力調整装置を設ければよい。また、緩衝器Dがバイフロー型に設定される場合であって、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れのみを許容する伸側減衰通路と圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れのみを許容する圧側減衰通路とが緩衝器Dに設けられる場合、伸側減衰通路と圧側減衰通路との双方にそれぞれ減衰力調整装置を設けてもよいし、伸側減衰通路と圧側減衰通路との一方にのみ減衰力調整装置を設けてもよい。
【0024】
このように構成された緩衝器Dは、シリンダ6が車輪Wを保持するナックルやサスペンションアームに取り付けられてばね下部材としての車輪Wに連結されるとともに、ロッド8がばね上部位材としての車体Bに連結されて、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に介装される。そして、緩衝器Dは、車両Vの走行中に路面から入力される振動によって伸縮しつつ車体Bの振動を抑制する減衰力を発生する。
【0025】
つづいて、減衰力制御装置1について説明する。減衰力制御装置1は、図3に示すように、車両Vの車体Bの振動を検知するセンサ部2と、センサ部2で検知した振動情報に基づいて目標減衰力を求める制御部3と、制御部3が求めた目標減衰力に基づいて緩衝器Dにおける減衰力調整部15に供給する電流を制御する電流制御部16と、携帯端末30と無線通信可能な通信部5とを備えている。また、本実施の形態の減衰力制御装置1は、センサ部2、制御部3通信部5および電流制御部16が1つの筐体20内に収容されて、車両Vの車室内に設置されている。
【0026】
以下、減衰力制御装置1の各部について詳細に説明する。センサ部2は、本実施の形態では、車体Bの前後、左右、上下の3軸回りの角速度、つまり、車体Bのロール方向、ピッチ方向およびヨー方向の3つの角速度と、車体Bの前後、左右、上下の3軸の加速度とを車体Bの所定位置における振動情報として、当該振動情報を検知する慣性計測装置とされており、筐体20内に収容されて車体Bに筐体20とともに設置される。なお、センサ部2は、減衰力制御装置1が減衰力の制御で必要な車体Bの振動情報を検知できればよい。よって、たとえば、減衰力制御装置1が車体Bの上下方向の加速度のみを必要とする場合には、センサ部2は、車体Bの上下方向の加速度のみを検知するものであってもよい。また、本実施の形態の減衰力制御装置1では、センサ部2は、筐体20に収容されているが、筐体20とは個別に車体Bに設置されてもよい。
【0027】
筐体20は、箱型で内部にセンサ部2、制御部3および通信部5を収容している。図示はしないが、筐体20における長方形の上面の前後方向で対向する二辺の近傍に対応する方向を示す「前」と「後」との文字が表示され、長方形の上面の左右方向で対向する二辺の近傍に対応する方向を示す「右」と「左」との文字が表示されている。そして、センサ部2は、前後方向の加速度の検知軸が筐体20の前後方向に一致し、左右方向の加速度の検知軸が筐体20の左右方向に一致し、上下方向の加速度の検知軸が筐体20の上下方向に一致し、検知するロール方向の角速度の方向が筐体20の前後方向を軸とした回転方向に一致し、検知するピッチ方向の角速度の方向が筐体20の左右方向を軸とした回転方向に一致し、検知するヨー方向の角速度の方向が筐体20の上下方向を軸とした回転方向に一致するように、筐体20内に収容される。
【0028】
よって、減衰力制御装置1のユーザーが筐体20を車室内の車体中心付近に筐体20の上面の「前」、「後」、「左」および「右」の表示を頼りに、筐体20の前後左右および上下を車体Bの前後左右および上下にそれぞれ合わせて設置すると、センサ部2は、車体Bに対して筐体20が設置される設置位置におけるロール方向、ピッチ方向およびヨー方向の3つの角速度と、車体Bの前後、左右、上下の3軸の加速度とを検知できる。実際には、センサ部2の設置位置が車体Bの所定位置に一致せず、車両Vが水平な路面に停止した状態でセンサ部2の設置姿勢が水平になっていないことがあるが、その場合、キャリブレーションによってセンサ部2が検知する各角速度および各加速度が実際の車体Bの所定位置における各角速度および各加速度に一致するように補正すればよい。なお、本実施の形態の減衰力制御装置1では、センサ部2は、所定位置を車体Bの重心位置としており、車体Bの重心位置の3軸の角速度と3軸の加速度とを検知できるようにキャリブレーションされる。本実施の形態の減衰力制御装置1では、4輪各輪に設置される緩衝器Dの減衰力を制御して、車体Bの全体の振動を把握して、車体Bの振動を抑制するため、センサ部2で車体Bの重心位置の角速度と加速度とを検知するようにしているが、減衰力制御装置1での制御に適するように所定位置を定めればよいので所定位置は重心位置以外に設定されてもよい。
【0029】
なお、筐体20に表示される前後左右の表記は、筐体20に対して刻印、前後左右を表記した紙片の貼付、印刷等によって付せばよく、筐体20が合成樹脂を射出成型等によって製造される場合、前後左右の文字を型によって形成してもよい。また、筐体20の前後左右が分かればよいので、前後左右の全ての文字を表示することに代えて前後左右の文字のいずれか一字のみを表示してもよく、また、前後左右の文字に替えて記号や数字を表示してもよいし、筐体20の形状によって前後左右および上下の判別が可能であれば文字や記号による表示も省略できる。なお、前記キャリブレーションによってセンサ部2が検知する各角速度および各加速度を補正するため、筐体20への前記表記は、省略されてもよい。ただし、筐体20に前記表示をしておくと、ユーザーが筐体20を前記表示通りに車体Bの方向に合わせて設置するとセンサ部2の検知軸が大まかではあるが車体Bの前後左右および上下に一致するので好ましい。
【0030】
通信部5は、図示しないアンテナユニットを備えており、携帯端末30と双方向の通信が可能であって、本実施の形態では、IEEE802.15規格の無線通信を行うが、携帯端末30との通信が可能であればよいので、前記規格の無線通信の他、IEEE802.11規格の無線LAN(Local Area Network)通信等を行ってもよい。
【0031】
携帯端末30は、図5に示すように、スマートフォンやタブレットPCといった可搬性に優れる端末であって、筐体30a内に収容される3軸の角速度と3軸の加速度を検知可能な慣性計測ユニット30bと、筐体30aに設置されて画像等の表示と操作者の操作入力を受け付けるタッチパネル30cと、筐体30a内に収容されて外部機器との無線通信が可能な通信部としての送受信機30dと、筐体30a内に収容される記憶部としてのメモリ30eと、筐体30a内に収容されてプログラムの実行によって携帯端末30を構成する各部の制御を行う演算処理装置30fと、GPS(Global Positioning System)受信機30gと、これら各部を通信可能に接続するバス30hとを備えており、自身の位置情報を得ることができる。なお、慣性計測ユニット30bは、3軸の角速度については検知せず3軸の加速度のみを検知するものであってもよい。また、携帯端末30は、GPS受信機30gに代えて、GNSS(Global Navigation Satellite System)に類する測位に利用可能な信号を受信する受信機を備えてもよい。
【0032】
携帯端末30と減衰力制御装置1とは、互いに送受信機30dおよび通信部5を介して互いに情報のやり取りが可能である。携帯端末30は、操作者の操作によって減衰力制御装置1のパラメータの設定を行うアプリケーションプログラムが起動されると、減衰力制御装置1と通信が可能な状態となり、減衰力制御装置1におけるパラメータの設定を行うことができる。
【0033】
制御部3は、センサ部2が検知した車体Bの3つの角速度および3つの加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求める加速度演算部3aと、加速度演算部3aが求めた車体Bの4箇所の上下方向の加速度から目標減衰力を求める目標減衰力演算部3bとを備えている。
【0034】
加速度演算部3aは、センサ部2が検知した車体Bの前記設置位置における3つの角速度および3つの加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求める。加速度演算部3aは、センサ部2の3軸の加速度を検知する検知軸がそれぞれ車体Bの前後、左右および上下の各方向に完全に一致するとともにセンサ部2が車体Bの重心に一致して車体Bに設置されない場合があるため、車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向加速度を求めるために、センサ部2が検知する3つの角速度および加速度を補正し、車体Bの重心位置の3つの角速度および加速度を求める。
【0035】
また、加速度演算部3aは、センサ部2が検知する3つの角速度および加速度を補正して車体Bの重心位置における3つの角速度および加速度を求めた後、求めたこれらの角速度および加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求める。
【0036】
具体的には、加速度演算部3aは、車両Vのトレッドおよびホイールベースと、車体Bの重心位置の情報から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求める。車体Bの4つの車輪Wの直上の位置と重心位置とが既知であれば、車体Bの重心位置における3つの角速度および加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求めることができる。車体Bの重心位置と車両Vのトレッドおよびホイールベースが既知であれば、車体Bの重心位置と車体Bの4つの車輪Wの直上の位置との関係を把握できるので、加速度演算部3aは、車両Vのトレッドおよびホイールベースと、車体Bの重心位置の情報と、車体Bの重心位置における3つの角速度および加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求めることができる。
【0037】
車両Vのトレッドおよびホイールベースと車体Bの重心位置は、車両Vの諸元情報から得ることができ、後述する携帯端末30から減衰力制御装置1が搭載される車両Vのトレッドおよびホイールベースと車体Bの重心位置とを入力を受ければよい。車両Vに詳しくないユーザーは、車両Vの諸元情報にアクセスすることが難しい場合があるので、後述する携帯端末30によって実行される減衰力制御装置1のパラメータを設定するためのアプリケーションプログラムで車両Vのメーカーおよび車種の選択によって、トレッドおよびホイールベースと車体Bの重心位置の情報を得た携帯端末30から当該情報を減衰力制御装置1に送信できるようにしてもよい。また、車種や車体タイプに応じた諸元情報を減衰力制御装置1が制御部3を構成するハードウェアにおける後述のメモリに予め保有している場合には、前記アプリケーションプログラムを実行して携帯端末30から車両Vの車種や車体タイプの情報の入力を受けて、減衰力制御装置1が入力されたメーカーおよび車種に適合するトレッド、ホイールベースおよび重心位置を選択し、加速度演算部3aが選択されたトレッド、ホイールベースおよび重心位置を利用して車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求めてもよい。さらに、加速度演算部3aは、多少不正確になるが、予め決められたトレッド、ホイールベースおよび車体Bの重心位置の情報を用いて車体Bの重心位置における3つの角速度および加速度を求めた後、求めたこれらの角速度および加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度を求めてもよい。
【0038】
目標減衰力演算部3bは、本実施の形態では、スカイフック制御を行うため、加速度演算部3aが求めた4つの車輪Wの直上の車体Bの上下方向の加速度を積分或いはフィルタ処理して4つの車輪Wの直上の車体Bの上下方向の速度を求め、4つの車輪Wの直上の車体Bの上下方向の速度にそれぞれスカイフック減衰係数を乗じて、各車輪Wと車体Bとの間に介装された4つの緩衝器Dのそれぞれが発生すべきスカイフック減衰力を求める。
【0039】
また、目標減衰力演算部3bは、車体Bの重心位置における車体Bのロール方向の角速度にロール抑制ゲインを乗じてロールを抑制するロール抑制力を求めるとともに、ピッチ方向の角速度にピッチ抑制ゲインを乗じてピッチを抑制するピッチ抑制力を求める。
【0040】
さらに、目標減衰力演算部3bは、車体Bの各車輪W毎のスカイフック減衰力に4つの緩衝器D毎が出力すべきロール抑制力およびピッチ抑制力を加算して車両Vにおける乗心地の向上を目的とした乗心地制御に基づく乗心地用減衰力を求める。
【0041】
また、目標減衰力演算部3bは、車体Bの重心位置の前後方向の加速度に前後加速度用ゲインを乗じて急加速や急制動時の車体Bのノーズダイブおよびスクォートの抑制を目的とした前後方向姿勢変化抑制力を求めるとともに、車体Bの重心位置の横方向の加速度に横加速度用ゲインを乗じて旋回時の車体Bのロールの抑制を目的とした横方向姿勢変化抑制力を求めて、4つの緩衝器D毎が出力すべき前後方向姿勢変化抑制力と横方向姿勢変化抑制力とを加算して車両Vの車体Bの姿勢の安定を目的とした走行性向上制御に基づく走行性用減衰力を求める。
【0042】
そして、目標減衰力演算部3bは、乗心地用減衰力の値と走行性用減衰力の値とのうち、絶対値が大きな値を採用するハイセレクト処理を行って、当該大きな値を合成減衰力として求める。なお、合成減衰力を求めるにあたって、目標減衰力演算部3bは、乗心地用減衰力と走行性用減衰力とを決められた配分で加算して求めてもよい。たとえば、目標減衰力演算部3bは、0以上1以下の値を採って、乗心地制御に基づく乗心地減衰力の配分を決定する乗心地制御ゲインと走行性向上制御に基づく走行性用減衰力の配分を決定する走行性制御ゲインとを用い、乗心地用減衰力に乗心地配分ゲインを乗じた得た値と、走行性用減衰力に走行性配分ゲインを乗じて得た値とを合算して合成減衰力を求めればよい。
【0043】
最後に、目標減衰力演算部3bは、合成減衰力に車両Vの走行速度に比例する速度ゲインを乗じて4つの緩衝器Dが発生すべき目標減衰力を求める。速度ゲインは、車両Vの速度に速度感応係数を乗じた値となっており、走行速度に比例して大きな値を採るゲインとなっている。減衰力制御装置1は、車両Vの速度を携帯端末30から入手する。携帯端末30は、前述した通り、GPS受信機30gを備えており、GPS受信機30gで携帯端末30自身の位置情報を所定のサンプリング周期で検知しており、演算処理装置30fは、現在の位置情報と1つ前のサンプリング周期で得られた位置情報とから移動距離を求めるとともに求めた移動距離をサンプリング周期で除算して携帯端末30の移動速度を求める。携帯端末30は、前述した通りの規格の無線通信を行うため、減衰力制御装置1と近距離でしか通信できないため、車両Vとともに移動している場合に無線通信によって減衰力制御装置1に車両Vの速度情報を送信できる。このように、携帯端末30と減衰力制御装置1とが無線通信できる状態であると、携帯端末30は、車両Vの速度情報を減衰力制御装置1に継続的に送信し、減衰力制御装置1は、携帯端末30から車両Vの速度の入力を受けると、速度に速度感応係数を乗じて速度ゲインを求め、速度ゲインを合成減衰力に乗じて目標減衰力を求める。よって、本実施の形態の減衰力制御装置1では、車両VのCANバスに接続されずとも、車両Vの速度情報を得て、速度に適した目標減衰力を求め得る。
【0044】
合成減衰力に速度ゲインを乗じることに代えて、乗心地用減衰力と走行性用減衰力との一方のみに対して個別に速度ゲインを乗じてからハイセレクト処理を行うか前記配分の利用によって合成減衰力を求めてもよい。なお、車両Vの速度変化は、センサ部2で検知する加速度等の変化よりも十分に遅いため、携帯端末30から車両Vの速度情報を減衰力制御装置1で入手して目標減衰力の制御に利用しても減衰力の制御に悪影響を与えることはない。他方、減衰力制御装置1は、センサ部2を備えており、短いサンプリング周期で車体Bの加速度と角速度とを得て緩衝器Dを応答性良く制御できる。なお、減衰力制御装置1は、携帯端末30から位置情報のみを一定の周期で入手して、車両Vの速度を演算して、求めた速度を利用して速度ゲインを求めてもよい。
【0045】
前述したところでは、制御部3における目標減衰力演算部3bは、携帯端末30から位置情報を取得して車両Vの速度を演算しているが、携帯端末30から位置情報を得られない場合、センサ部2が検知した加速度から速度を求めて、これを車両Vの速度として取り扱って、目標減衰力を求めてもよい。また、制御部3における目標減衰力演算部3bは、携帯端末30から位置情報を取得できる場合であって、車両Vがトンネル内を走行中でGPS受信機30gが衛星からの信号を受信できない場合等、携帯端末30からの位置情報が途切れた際に、センサ部2が検知した加速度から速度を求めて、これを車両Vの速度として取り扱って、目標減衰力を求めてもよい。
【0046】
このようにして求められた4つの緩衝器Dの各目標減衰力は、制御部3から各緩衝器Dの減衰力調整部15へ供給する電流を制御する電流制御部16に入力される。電流制御部16は、緩衝器Dが発生する減衰力が目標減衰力通りになるように各緩衝器Dの減衰力調整部15におけるソレノイド15cに電流を供給する。
【0047】
電流制御部16は、本実施の形態では、図4に示すように、減衰力調整部15を制御するための電流指令を生成する制御演算部16aと、制御演算部16aが生成した電流指令通りにソレノイド15cへ電流供給する駆動回路16bとを備えて構成されている。駆動回路16bは、4つの緩衝器Dの減衰力調整部15に対応して4つ設けられている。なお、電流制御部16は、車両Vの図外のバッテリに接続される電源ラインを通じて電力供給を受けている。
【0048】
制御演算部16aは、制御部3から得た目標減衰力を指示する制御指令に基づいて目標電流を求める。具体的には、制御演算部16aは、制御指令が指示する目標減衰力から減衰力調整部15のソレノイド15cへ与える電流量を指示する電流指令を生成する電流指令演算部16a1と、電流指令演算部16a1から電流指令を受け取ると駆動回路16bへPWM信号を出力するPWM信号生成部16a2とを備えている。
【0049】
電流指令演算部16a1は、緩衝器Dが発生する減衰力と減衰力調整部15のソレノイド15cに供給される電流量との関係を予めマップとして保有しており、制御部3から入力される目標減衰力からマップ演算によって減衰力調整部15のソレノイド15cへ供給すべき電流量を求める。なお、電流指令演算部16a1は、マップを利用して電流量を求めているが、前記目標減衰力と前記電流量との関係を関数表現できる場合には関数を用いて電流量を求めてもよい。このように、電流指令演算部16a1は、求めた電流量を指示する電流指令を生成する。
【0050】
PWM信号生成部16a2は、電流指令演算部16a1が求めた電流指令と、ソレノイド15cへ供給している実際の電流量との偏差を求め、偏差をPI補償やPID補償を行って目標電流を求め、駆動回路16bが目標電流通りに減衰力調整部15のソレノイド15cへ電流供給を行うためのPWM信号を出力する。つまり、PWM信号生成部16a2は、電流フィードック制御によって減衰力調整部15を制御する。なお、PWM信号生成部16a2は、ソレノイド15cに流れる電流の情報を駆動回路16bが備える電流センサから得る。駆動回路16bは、配線17を通じて減衰力調整部15におけるソレノイド15cに接続されており、ソレノイド15cに与える電流量を調節するため、詳しくは図示しないが、ソレノイド15cと図外の電源との接続と遮断とが可能なスイッチング素子を備えており、PWM信号生成部16a2から受け取るPWM信号が指示するデューティ比でスイッチング素子をオンオフ動作させ、ソレノイド15cの電流量を目標電流通りに調節する。
【0051】
なお、電流制御部16の構成は一例であって、電流制御部16は、制御部3が出力する制御指令が指示する目標減衰力通りに緩衝器Dに減衰力を発生させるように減衰力調整部15に電流供給するものであればよい。
【0052】
前述した通り、制御部3における目標減衰力演算部3bでは、目標減衰力を決定するために、スカイフック減衰係数、ロール抑制ゲイン、ピッチ抑制ゲイン、前後加速度用ゲイン、横加速度用ゲインおよび速度感応係数といった各種のパラメータを利用している。このように、パラメータは、予め設定されて制御に利用されるものであって、目標減衰力を演算するために利用されるパラメータのことである。そして、本実施の形態では、減衰力制御装置1は、乗り心地の向上を目的とした乗心地制御と走行性の向上を目的とした走行性向上制御とを実行しており、携帯端末30を利用して当該制御に利用されるパラメータの設定が可能となっている。
【0053】
また、減衰力制御装置1は、前記制御を行わず緩衝器Dが伸縮速度に対して予め決められた減衰力を発生するパッシブダンパとして機能させる場合には、緩衝器Dにおける減衰係数をパラメータとして携帯端末30の利用による当該減衰係数の設定を許容する。なお、減衰力制御装置1が緩衝器Dをパッシブダンパとして機能させる場合、制御部3は、減衰係数に対応した固定の電流指令を電流制御部16へ与えて、緩衝器Dが所定の減衰係数で減衰力を発生するようにする。
【0054】
制御部3および電流制御部16における制御演算部16aは、ハードウェアとしては図示しないが、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、インターフェースと、これら装置を互いに通信可能に接続するバスとを備えている。よって、減衰力制御装置1は、通信部5を介して減衰力制御装置1外の携帯端末30と双方向の通信が可能であるとともに、駆動回路16bから減衰力調整部15へ電流を供給できる。
【0055】
CPUは、オペレーティングシステムおよび他のプログラムの実行によって減衰力制御装置1における制御部3における加速度演算部3aおよび目標減衰力演算部3bにおける各部の演算処理を実現するとともに、電流制御部16の制御演算部16aの演算処理を実現し、通信部5を制御する。メモリは、ROM(Read Only Memory)の他に、CPUの演算処理に必要な記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等を備えており、CPUの演算処理に使用されるプログラムをROMに格納している。なお、CPUの演算処理に使用されるプログラムは、メモリ以外の記憶装置に格納されていてもよい。
【0056】
このように構成された減衰力制御装置1は、車両Vにおける図外のバッテリから電源供給を受けて作動し、イグニッションスイッチのオンで起動し、緩衝器Dの減衰力を制御する処理を開始する。以下に、緩衝器Dの減衰力を制御する減衰力制御装置1の処理および携帯端末30の処理について説明する。
【0057】
減衰力制御装置1における制御部3は、図6に示すように、センサ部2から所定のサンプリング周期で入力される3軸の角速度および3軸の加速度を補正して、車体Bの重心位置における3軸の角速度および3軸の加速度を求める(ステップS101)。つづいて、制御部3は、車体Bの重心位置における3軸の角速度および3軸の加速度から車体Bの4つの車輪Wの直上の上下方向の加速度および上下方向の速度を求める(ステップS102)。
【0058】
さらに、制御部3は、本実施の形態では、スカイフック制御を行うため、4つの車輪Wの直上の車体Bの上下方向の速度にスカイフック減衰係数を乗じてスカイフック減衰力を求める(ステップS103)。また、制御部3は、車体Bの重心位置における車体Bのロール方向の角速度にロール抑制ゲインを乗じてロールを抑制するロール抑制力を求めるとともに、ピッチ方向の角速度にピッチ抑制ゲインを乗じてピッチを抑制するピッチ抑制力を求める(ステップS104)。
【0059】
つづいて、制御部3は、車体Bの各車輪W毎のスカイフック減衰力に4つの緩衝器D毎が出力すべきロール抑制力およびピッチ抑制力を加算して乗心地用減衰力を求める(ステップS105)。さらに、制御部3は、車体Bの重心位置の前後方向の加速度に前後加速度用ゲインを乗じて前後方向姿勢変化抑制力を求めるとともに、車体Bの重心位置の横方向の加速度に横加速度用ゲインを乗じて横方向姿勢変化抑制力を求め(ステップS106)、前後方向姿勢変化抑制力と横方向姿勢変化抑制力とを加算して走行性用減衰力を求める(ステップS107)。
【0060】
そして、制御部3は、乗心地用減衰力の値と走行性用減衰力の値とのうち、絶対値が大きな値を採用するハイセレクト処理を行って合成減衰力を求める(ステップS108)。さらに、制御部3は、車両Vの速度に速度感応係数を乗じて速度ゲインを求め、合成減衰力に速度ゲインを乗じて4つの緩衝器Dが発生すべき目標減衰力を求める(ステップS109)。
【0061】
このように目標減衰力を求めたら制御部3は、目標減衰力を指示する電流指令を電流制御部16へ出力する(ステップS114)。減衰力制御装置1は、ステップS101からステップS110の処理を繰り返し実行し、緩衝器Dの減衰力を制御する。
【0062】
また、目標減衰力の演算処理にあたり、減衰力制御装置1は、車両Vの速度を用いているので、減衰力の制御を実行する処理とは別に、携帯端末30から入力される位置から車両Vの速度を求める処理を実行する。減衰力制御装置1は、起動すると携帯端末30と通信を確立できる場合、携帯端末30に車両Vの位置の送信を要求し、携帯端末30は、GPS受信機30gでGPS信号を受信して位置を求めたら、求めた位置を減衰力制御装置1に入力する。携帯端末30が出力する位置は、座標として減衰力制御装置1に入力される。
【0063】
具体的には、減衰力制御装置1は、図7に示すように、携帯端末30から位置の入力を待ち、位置の入力があるか否かを判断する(ステップS201)。位置の入力がない場合、位置情報の入力を待ってから所定の待ち時間が経過したか否かを判断する(ステップS202)。位置の入力を待ってから経過した時間が所定の待ち時間未満である場合、ステップS201へ移行して位置の入力があるか否かの判断を行う。
【0064】
位置の入力があった場合、減衰力制御装置1は、入力された位置と当該位置の入力を受けた時刻より前の時刻に入力された位置であって直近の位置と、2つの位置の入力された時刻の差とに基づいて車両Vの速度を求める(ステップS203)。具体的には、減衰力制御装置1は、2つの位置の座標から車両Vの走行距離を求めるとともに、2つの時刻の差から走行時間を求めて、走行距離を走行時間で割って車両Vの速度を求める。
【0065】
ステップS202の判断で、位置の入力を待ってから所定の待ち時間が経過した場合、携帯端末30から位置を入手できないので、減衰力制御装置1は、センサ部2で検知した加速度を補正して得た車体Bの所定位置における前後方向の加速度を積分して速度を求めて、求めた速度を車両Vの速度とする(ステップS204)。
【0066】
なお、減衰力制御装置1は、イグニッションスイッチのオンによって起動すると、車体Bの所定位置における前後方向の加速度を継続的に積分して速度を求める処理を別途行っている。
【0067】
よって、車両Vが走行中にトンネル等に侵入して、携帯端末30がGPS信号を受信できなくなって減衰力制御装置1に車両Vの位置を入力できない場合や、携帯端末30に問題があって位置を入力できない場合には、減衰力制御装置1は、センサ部2で検知した加速度を利用して車両Vの速度を求める。減衰力制御装置1は、速度を求める処理を繰り返し実行して、継続して速度を求めて減衰力の制御に利用する。加速度の積分によって速度を求めるよりも、携帯端末30で検知した位置から速度を求める方が精度よく速度を求め得るので、携帯端末30から位置を得られる状況になると、減衰力制御装置1は、携帯端末30から入手した位置を用いて車両Vの速度を求める。
【0068】
なお、携帯端末30から位置を入手できない場合、入力された位置から求めることができた最新の速度を車両Vの速度としてもよい。また、携帯端末30がGPS受信機30gで受信したGPS信号から位置を検知し、さらに、検知した位置から車両Vの速度を求めて、減衰力制御装置1に位置の代わりに速度を入力してもよい。その場合、減衰力制御装置1は、ステップS203の処理を行わず、携帯端末30から入手した速度を用いて緩衝器Dの減衰力を制御すればよい。
【0069】
このように、減衰力制御装置1は、携帯端末30から位置を入手できる場合には、受信した位置に基づいて車両Vにおける速度を求め、携帯端末30から位置を入手できない場合には、自身のセンサ部2で検知した加速度を利用して車両Vの速度を求めるので、減衰力の制御にあたって緩衝器Dにシームレスに速度に感応した減衰力を発揮させ得る。
【0070】
以上、本実施の形態の減衰力制御システムSは、車両Vの車体Bの振動を検知するセンサ部2と、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に設けられる減衰力調整可能な緩衝器Dの減衰力をセンサ部2で検知した振動情報に基づいて制御する制御部3と、無線通信可能な通信部5とを有する減衰力制御装置1と、減衰力制御装置1と通信可能な携帯端末30とを備え、制御部3は、携帯端末30が検知する位置から求めた速度或いは携帯端末30が検知する速度に基づいて緩衝器Dを制御する。
【0071】
このように構成された減衰力制御システムSによれば、減衰力制御装置1は、携帯端末30から車両Vの位置或は車両Vの速度を入手でき、車両VにおけるCANバスに接続しなくても、車両Vの速度に感応させて緩衝器Dの減衰力を制御できるので、車両Vに減衰力制御装置1を後付けする場合であっても、減衰力制御装置1を車両Vへの容易に設置でき、その設置作業も簡単となる。
【0072】
また、本実施の形態の減衰力制御システムSにおけるセンサ部2は、車体Bの前後方向の加速度を検知可能であって、制御部3は、携帯端末30から位置或いは速度が得られない場合、センサ部2が検知した車体Bの前後方向の加速度から車両Vの速度を求め、求めた速度に基づいて緩衝器Dを制御する。
【0073】
このように構成された減衰力制御システムSによれば、携帯端末30から位置或いは速度が得られない状況になっても、シームレスに車両Vの速度を求めて緩衝器Dの減衰力を速度に感応させる制御を継続して実行できる。
【0074】
また、本実施の形態の減衰力制御装置1では、車体Bの振動情報を検知するセンサ部2を備えているので、携帯端末30から車体Bの振動情報を得る場合と比較して、減衰力の制御に必要な振動情報を減衰力の制御にて要求される高いサンプリングレートで入手できるので、応答性良く緩衝器Dの減衰力を制御できる。
【0075】
さらに、本実施の形態の減衰力制御装置1は、センサ部2、制御部3および通信部5を収容する筐体20を備えている。このように構成された減衰力制御装置1によれば、筐体20を車体Bに設置するだけで、車体Bの振動情報を検知するセンサ部2の設置も完了するので、車両Vへの設置が容易である。また、本実施の形態の減衰力制御装置1によれば、筐体20内にセンサ部2が収容されているので、筐体20を車体Bの重心位置付近に設置することによって、精度よく車体Bの振動情報を検知でき、緩衝器Dの減衰力の制御に際して良好な制御性を実現できる。
【0076】
なお、本実施の形態の減衰力制御装置1は、センサ部2、制御部3、通信部5および電流制御部16を1つの筐体20内に収容している。このように構成された減衰力制御装置1によれば、電源を筐体20のみに接続すれば各緩衝器Dに対して車両Vから電力供給する配線が不要になるので、減衰力制御装置1の車両Vへの設置が容易となる。ただし、電流制御部16を緩衝器D側に設置してもよいし、電流制御部16の駆動回路16bを緩衝器D側に設置してもよい。また、緩衝器Dに車輪Wの加速度を検知する加速度センサを設けて車輪Wの振動情報を得られるようにする場合、減衰力制御装置1は、車輪Wの振動情報を利用してきめ細かな減衰力の制御を行ってもよい。
【0077】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・減衰力制御装置、2・・・センサ部、3・・・制御部、5・・・通信部、30・・・携帯端末、B・・・車体、D・・・緩衝器、S・・・減衰力制御システム、V・・・車両、W・・・車輪
【要約】
【課題】車両の速度に減衰力を感応させた制御を行うことができるとともに、車両に対して容易に設置可能な減衰力制御システムの提供をする。
【解決手段】減衰力制御システムSは、車両Vの車体Bの振動を検知するセンサ部2と、車両Vの車体Bと車輪Wとの間に設けられる減衰力調整可能な緩衝器Dの減衰力をセンサ部2で検知した振動情報に基づいて制御する制御部3と、無線通信可能な通信部5とを有する減衰力制御装置1と、減衰力制御装置1と通信可能な携帯端末30とを備え、制御部3は、携帯端末30が検知する位置から求めた速度或いは携帯端末30が検知する速度に基づいて緩衝器Dを制御する。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7