(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-30
(45)【発行日】2025-08-07
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20250731BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20250731BHJP
【FI】
D06N3/14
D06N3/06
(21)【出願番号】P 2020182261
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沖野 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123290(WO,A1)
【文献】特表2013-518191(JP,A)
【文献】特開昭58-144184(JP,A)
【文献】特開2019-042992(JP,A)
【文献】特開2013-072141(JP,A)
【文献】国際公開第2019/083046(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/208685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00- 7/06
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも合成樹脂からなる層と繊維布帛基材とを有してなる合成皮革であって、合成樹脂からなる層は3層以上から構成され、表面側から表皮層、補強層、接着層の順で積層されるものであり、
表皮層、補強層、接着層はポリウレタン系樹脂またはポリ塩化ビニル系樹脂から構成され、
表皮層および接着層は常温で固体の添加剤を含有してなり、
表皮層における常温で固体の添加剤は、導電剤、抗菌剤、消臭剤のいずれか1つまたはその組み合わせと、顔料からなり、
接着層における常温で固体の添加剤は、難燃剤と顔料であり、
表皮層における常温で固体の添加剤の含有割合は15~70質量%であり、
接着層における常温で固体の添加剤の含有割合は20~70質量%であり、
補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が表皮層および接着層における常温で固体の添加剤の含有割合よりも小さいことを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が15質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
合成樹脂からなる層の全体の厚さに対して、補強層の厚さの割合が20%~80%であることを特徴とする請求項1または2に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関するものであり、特に常温で固体の添加剤を高充填させたとしても機械的強度を担保する合成皮革に関するものである。
【0002】
天然皮革は古くより日常生活に密着するものとして利用されており、皮革生地の有する性状により吸湿、耐熱、耐寒特性と共に強靭な材料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、天然皮革は、供給に限界があり、膨潤に伴う脆弱化、変色等の問題を有し、これに代わるものとして、合成皮革、人工皮革が用いられている。
合成皮革や人工皮革は天然皮革に似せたものであるが、天然皮革と比べて軽量で取り扱いやすいため、座席シート等の車輌用内装材、ソファーや椅子の座面などの家具用途、或いはジャケット、コートなどの衣料用途等、多岐にわたって使用されている。
このように合成皮革は多岐にわたって使用されることから、用途によっては様々な機能が求められる。
求められる機能としては、例えば、抗菌性、消臭性、防汚性、耐摩耗性、導電性、帯電防止性、滑性、吸湿性、難燃性などが挙げられる。
【0003】
機能性を有する合成皮革として、特許文献1では難燃性を有する合成皮革が開示されており、特許文献2では防汚性を有する合成皮革が開示されている。
【0004】
合成皮革に機能性を付与しようとすると、自ずと各種の添加剤を含有することになる。添加剤は常温で液体のものと固体のものとがある。常温で固体の添加剤は、経時での変性あるいは揮発、合成皮革を構成する他の成分と予期しない反応による合成皮革の劣化を引き起こしにくい点で好適である。しかしながら、常温で固体の添加剤は、合成樹脂からなる層に高充填すると、合成樹脂からなる層の機械的強度が損なわれ、結果として合成皮革が強度不足となるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特再公表WO15/166659号公報
【文献】特開2011-231421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはかかる問題に鑑みて、合成樹脂からなる層に常温で固体の添加剤を高充填する場合であっても機械的強度が担保できる合成皮革を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下を要旨とする。
(1)少なくとも合成樹脂からなる層と繊維布帛基材とを有してなる合成皮革であって、合成樹脂からなる層は3層以上から構成され、表面側から表皮層、補強層、接着層の順で積層されものであり、表皮層、補強層、接着層はポリウレタン系樹脂またはポリ塩化ビニル系樹脂から構成され、表皮層および接着層は常温で固体の添加剤を含有してなり、表皮層における常温で固体の添加剤は、導電剤、抗菌剤、消臭剤のいずれか1つまたはその組み合わせと、顔料からなり、接着層における常温で固体の添加剤は、難燃剤と顔料であり、表皮層における常温で固体の添加剤の含有割合は15~70質量%であり、接着層における常温で固体の添加剤の含有割合は20~70質量%であり、補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が表皮層および接着層における常温で固体の添加剤の含有割合よりも小さいことを特徴とする合成皮革。
(2)補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が15質量%以下であることを特徴とする(1)に記載の合成皮革。
(3)合成樹脂からなる層の全体の厚さに対して、補強層の厚さの割合が20%~80%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の合成皮革。
【発明の効果】
【0009】
本発明の合成皮革は、合成皮革を構成する合成樹脂からなる層に常温で固体の添加剤を高充填させても、機械的強度を損ねることがない。
そのため、さまざまな機能を備えた合成皮革を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の合成皮革の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の合成皮革について、
図1を用いて説明する。
図1における断面は、いずれも合成皮革の厚み方向に切断した際の断面図を示す。
【0012】
本発明の合成皮革100は、少なくとも合成樹脂からなる層と繊維布帛基材20とを有してなるものであり、合成樹脂からなる層は3層以上から構成され、表面側から表皮層10、補強層50、接着層40の順で積層される。
なお、本発明において、「合成樹脂からなる層」とは、「30質量%以上が合成樹脂から構成された層」を意味するものであり、合成樹脂のみからなる層に限定されるものではない。
また、本発明において、「常温で固体の添加剤」とは、有機系、無機系を問わず、「常温20℃±15℃(5~35℃)で固体の添加剤」を意味するものである。固体としては、粉粒物が挙げられ、その粒径としては100μm以下であることが好ましい。なお、本発明において「添加剤」とは、最終製品の機能や用途、成形上の都合などにより添加される物質の総称であり、合成樹脂自体を形成するモノマー、オリゴマー、ポリマー、架橋剤などはこれに該当するものではない。
本発明の合成樹脂からなる層を構成する合成樹脂は、合成皮革に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、またはポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0013】
上記ポリウレタン系樹脂としては、合成皮革の表皮層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0014】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、合成皮革の表皮層に用いられ得るものであればいずれも使用できるが、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0015】
合成樹脂からなる層をポリ塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0016】
[表皮層]
本発明の表皮層10は、常温で固体の添加剤を含んでなる。合成皮革100に機能性を付与しようとした場合、表面側に機能性を有する常温で固体の添加剤を含有していれば、効果的に常温で固体の添加剤の特性が発揮されるためである。
常温で固体の添加剤は、表皮層10中に15~70質量%の割合で含有されることが好ましい。表皮層10における常温で固体の添加剤の含有割合が15質量%未満であると、常温で固体の添加剤の有する機能が十分に発揮されない場合がある。一方で、表皮層10における常温で固体の添加剤の含有割合が70質量%を超えると、表皮層10が硬くなったり脆くなったりするため、後述の補強層50を設けたとしても合成皮革100の機械的強度を担保することができなくなる傾向になる。
【0017】
常温で固体の添加剤の種類については限定されないが、例えば導電性を有するものとしては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、銀、銅、ニッケル、錫、酸化錫、酸化インジウム、銅メッキ繊維などが挙げられる。
抗菌性を有する常温で固体の添加剤としては、銀、銅、亜鉛等の金属を各種担持体に保持させたもの、例えば、銀をガラス担持体に保持させたものや、銀-亜鉛をゼオライト担持体に保持させたものなどが挙げられる。
消臭性を有する常温で固体の添加剤としては、活性炭、活性炭素繊維、ゼオライト、ベントナイト、シリカなどが挙げられる。
そのほか、防汚性、耐摩耗性、滑性、吸湿性、難燃性等を付与できる常温で固体の添加剤であってもよい。
【0018】
表皮層10の厚みは特に限定されないが、10μm以上300μm以下の厚みに形成することが好ましく、10μm以上200μm以下の厚みに形成することがより好ましい。
【0019】
[接着層]
本発明の接着層40は後述の繊維布帛基材20との密着性を向上させるために設けられる層である。接着層40は、繊維布帛基材20に接する層であるため、繊維布帛基材20が有さないあるいは繊維布帛基材20の不足する性能を補うために、各種の常温で固体の添加剤が含有される。
また、本発明においては、上記のように、表面層10に機能性を持たせるために各種の常温で固体の添加剤を含有させるが、表面層10に含有させられる常温で固体の添加剤の量には限度があるため、表皮層10に含有させることができなかった常温で固体の添加剤を接着層40に含有させるケースもある。
これについて、合成皮革100に導電性と難燃性を付与するケースを挙げて具体的に説明する。合成皮革に導電性と難燃性を付与しようとすると、導電性を有する常温で固体の添加剤は合成皮革のより表面に近い層に含有されているほうが効果的であるため、表皮層10に含有される。表皮層10に含有される導電性を有する常温で固体の添加剤の割合が大きくなるにしたがって、表皮層10には他の常温で固体の添加剤の添加が難しくなるため、難燃性を有する常温で固体の添加剤は他の層に添加することが検討される。
ここで、難燃性を有する常温で固体の添加剤について、添加量が大きくなると、導電性を有する常温で固体の添加剤が高充填された表面層10と隣接した場合、合成皮革100としての機械的強度が担保できなくなる。そのため、表面層10と隣接しない接着層40に難燃性を有する常温で固体の添加剤が含有されることで、導電性と難燃性とを備えた合成皮革を得ることができる。
【0020】
接着層40における常温で固体の添加剤の含有割合は20~70質量%であることが好ましい。接着層40における常温で固体の添加剤の含有割合が20質量%未満であると、常温で固体の添加剤の有する機能が十分に発揮されない場合がある。一方で、接着層40における常温で固体の添加剤の含有割合が70質量%を超えると、接着層40が硬くなったり脆くなったりするため、後述の補強層50を設けたとしても合成皮革100の機械的強度を保ちにくくなるばかりでなく、繊維布帛基材20との接着不良を引き起こす傾向にある。
【0021】
接着層40に添加する常温で固体の添加剤としては、難燃性を付与できるものが好ましい。接着層が難燃性を有すると、合成皮革100の表面側に難燃効果がない場合であっても、合成皮革100としては難燃性を有するためである。
難燃性を有する常温で固体の添加剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水和金属系、赤リン、リン酸塩などのリン系、炭酸アンモニウムなどの窒素系、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物などが挙げられる。
【0022】
接着層40の厚みは特に限定されないが、10μm以上300μm以下の厚みに形成することが好ましく、10μm以上200μm以下の厚みに形成することがより好ましい。
【0023】
[補強層]
本発明の補強層50は、合成皮革の合成樹脂からなる層の強度を担保するために設けられる層であり、補強層50における常温で固体の添加剤の含有割合は、表皮層10および接着層40における常温で固体の添加剤の含有割合よりも小さいものである。
表皮層10と接着層40の間に表皮層10および接着層40よりも常温で固体の添加剤の含有割合が小さい補強層50を介在させることによって、合成皮革として求められる機械的強度を担保することが可能となる。
補強層50は、合成樹脂を主成分とすることが好ましいが、必要に応じて常温で固体の添加剤を含有してもよい。このとき、常温で固体の添加剤の含有量は、補強層50において15質量%以下とすることが好ましい。
補強層50は発泡させた層(発泡層)であっても発泡させていない層(非発泡層)であってもよい。
補強層50を発泡させる手段としては、機械攪拌による物理的発泡、発泡剤の添加による化学的発泡、中空微粒子の添加による擬似発泡などが挙げられる。
【0024】
補強層50は単層であっても二層以上の複層であってもよい。複層の場合、それぞれの層が表皮層10および接着層40よりも常温で固体の添加剤の含有割合が小さければ差し支えない。
【0025】
補強層50の厚みは特に限定されないが、10μm以上300μm以下の厚みに形成することが好ましく、10μm以上200μm以下の厚みに形成することがより好ましい。
【0026】
上記表皮層10、接着層40、補強層50を有する合成樹脂からなる層において、補強層50の厚さは合成樹脂からなる層の全体の厚さに対して、20%~80%であることが好ましい。補強層50の厚さが20%未満の場合は、合成皮革として求められる機械的強度を担保することが難しくなる傾向にある。また、補強層50の厚さが80%を超える場合は、相対的に表皮層10および接着層40の厚さが小さくなるため、常温で固体の添加剤を表皮層10および接着層40中に高充填したとしても、合成皮革100全体に対する常温で固体の添加剤の含有割合が小さくなるため、合成皮革100に所望の機能性を付与することが難しくなる傾向にある。
【0027】
上記表皮層10、接着層40、補強層50には、各々の物性を阻害しない範囲で、各種常温で液体の添加剤を含有してもよい。
【0028】
[繊維布帛基材]
繊維布帛基材20は、特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布材であればいずれのものであってもよい。繊維布帛基材20を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができるがこれに限定されない。
また、繊維布帛基材20を構成する繊維として、難燃化処理された繊維、導電化処理された繊維を用いてもよく、部分的に金属繊維等を用いてもよい。
繊維布帛基材20の厚みは特に限定されないが、合成皮革100の機械的強度や風合い等を考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、300μm以上1000μm以下であることがより好ましい。繊維布帛基材20の目付けについても特に限定されないが、上記厚みと同様に、合成皮革の機械的強度や風合い等を考慮すれば、30g/m2以上800g/m2以下であることが好ましく、50g/m2以上500g/m2以下であることがより好ましい。
【0029】
[表面処理層]
本発明の合成皮革100は、表皮層10上に表面処理層30を設けてもよい。
表面処理層30は、合成皮革100の艶出し/艶消し、耐摩耗性の付与、触感の付与、防汚性の付与等の目的で設けられる。表面処理層30は、例えばポリウレタン樹脂、シリコン、各種添加剤を有機溶媒や水に分散させた塗工液を表皮層10の表面にコーティングすることにより設けることができる。
【0030】
表面処理層30と表皮層10との間に、両者の密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもよい。プライマー層は、樹脂からなる層であり、必要に応じて顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、触媒、各種添加剤を添加してもよい。
【0031】
次に、本発明の合成皮革100の製造方法を、第一実施形態に基づいて説明する。なお、以下に記載する製造方法は一例であって、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0032】
まず離型紙等の離型性担体上に表皮層10を構成するための表皮層形成用組成物を塗布し、反応・固化させて表皮層10を形成する。表皮層形成用組成物Aの塗布には、ナイフコーター、コンマドクター、ロールコーター、リバースロールコーター、ロータリースクリーンコーター、グラビアコーター、その他適宜の手段が採用される。離型性担体は、表皮層形成用組成物が塗布される側の表面が平滑なものであっても、絞模様が付されたものであっても良い。絞模様等が付された離型性担体を使用すると、離型性担体の紋模様が合成皮革100の表皮層10の表面に転写され、絞模様による意匠が現出した合成皮革100を得ることができる。
【0033】
次いで、表皮層10上に補強層形成用組成物を塗布する。補強層形成用組成物の塗布は、表皮層形成用組成物の塗布と同様の方法を採用することができる。塗布された補強層形成用組成物は乾燥されて補強層50を形成する。
次いで、補強層50上に接着層形成用組成物を塗布する。接着層形成用組成の塗布は表皮層形成用組成物および補強層形成用組成物と同様の方法を採用することができる。塗布された接着層形成用組成物が半ゲル状になるまで乾燥させた後、繊維布帛基材20を積層させる。
しかる後、離型性担体を剥離し、必要に応じて表皮層10の表面に表面処理層30を設けることにより、
図1に示す合成皮革100を得ることができる。表面処理層30は、グラビアコーター、リバースロールコーター、スプレーコーター等の方法で形成することができる。
また、上記のようにして得られた合成皮革100にエンボス加工を施し、紋模様を付してもよい。
【0034】
以上、本発明の合成皮革100について説明した。本発明の合成皮革100は、種々の用途に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。
実施例1~7、比較例1~2で用いた合成皮革の構成成分については以下のとおりである。
【0036】
<表皮層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンNY335FT」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:酢酸エチル
・導電剤:酸化亜鉛 株式会社アムテック製 パナテトラ
・抗菌剤:ガラス-銀抗菌剤(石塚硝子株式会社製 イオンピュアNDC-K)
・消臭剤:リン酸ジルコニウム(東亜合成社製 ケスモン NS-10 )
・顔料:黒顔料(DIC株式会社製 ダイラックL-1770)
【0037】
<接着層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC株式会社製「クリスボンTA205FT 」)
・架橋剤:イソシアネート系化合物(DIC株式会社製「バーノックDN950」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:MEK
・触媒:DIC株式会社製「クリスボン アクセルT81-E」
・顔料:黒顔料(DIC株式会社製 ダイラックL-1770)
・難燃剤:リン系難燃剤(クラリアントジャパン社製 ペコフレームHFC)
【0038】
<補強層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(DIC株式会社製 TA215FT)
・架橋剤:イソシアネート系化合物(DIC株式会社製「バーノックDN950」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:MEK
・触媒:DIC株式会社製「クリスボン アクセルT81-E」
・導電剤:酸化亜鉛 株式会社アムテック製 パナテトラ
・顔料:黒顔料(DIC株式会社製 ダイラックL-1770)
【0039】
<繊維布帛基材>
丸編機にて150デニールのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製生地
【0040】
(実施例1)
主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分20質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、導電剤:13質量部、顔料:20質量部(樹脂固形分10質量%、顔料相当分(常温で固体の添加剤に相当)8質量%)とからなる表皮層用樹脂組成物を、離型紙上にコンマコータにて塗布し、80℃から120℃まで徐々に温度を上げ、120℃到達後、5分間乾燥し、厚さ30μmの表皮層を得た。
続いて、主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分50質量%)、架橋剤:10質量部(樹脂固形分75質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:20質量部、触媒:2質量部(樹脂固形分15質量%)、導電剤:3質量部、顔料:20質量部(樹脂固形分10質量%、顔料相当分(常温で固体の添加剤に相当)8質量%)とからなる補強層用樹脂組成物を、表皮層の上にコンマコータにて塗布し、120℃で乾燥し、厚さ50μmの補強層を得た。
続いて、主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分70質量%)、架橋剤:12質量部(樹脂固形分75質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、触媒:2質量部(樹脂固形分15質量%)、顔料:20質量部(樹脂固形分10質量%、顔料相当分(常温で固体の添加剤に相当)8質量%)、難燃剤:52質量部とからなる接着層用樹脂組成物を、補強層の上にコンマコータにて塗布し、70℃で乾燥し、厚さ約50μmの接着層を得た。
続いて、接着層に接着性が発現しているタイミングで、基材1の貼り合わせを行った。
続いて、ロール状に巻き取りを行い、これを50℃、48時間かけて熟成させた後、離型紙を剥離して、表皮層、接着層、繊維布帛基材の順で積層された合成皮革を得た。
なお、上記配合処方によると、表皮層における常温で固体の添加剤である導電剤と顔料の合計量の含有割合は40質量%、補強層における常温で固体の添加剤である導電剤と顔料の含有割合は7.1質量%、接着層における常温で固体の添加剤である難燃剤と顔料の合計量の含有割合は40質量%である。
【0041】
(実施例2)
表皮層における常温で固体の添加剤の含有割合が20質量%になるように、表皮層の導電剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0042】
(実施例3)
表皮層における常温で固体の添加剤の含有割合が70質量%になるように、表皮層の導電剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0043】
(実施例4)
補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が15質量%になるように、補強層の導電剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0044】
(実施例5)
補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が20質量%になるように、補強層の導電剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0045】
(実施例6)
表皮層の導電剤12質量部を抗菌剤12質量部に変更し、表皮層における常温で固体の添加剤(抗菌剤と顔料の合計)の含有割合を40質量%とした以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0046】
(実施例7)
表皮層の導電剤12質量部を消臭剤12質量部に変更し、表皮層における常温で固体の添加剤(消臭剤と顔料の合計)含有割合を40質量%とした以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0047】
(比較例1)
補強層を設けなかった以外は、実施例1と同様に合成皮革を得た。
【0048】
(比較例2)
補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が50質量%になるように導電剤を増量した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0049】
各実施例および比較例で得られた合成皮革について、次の評価を行った。
【0050】
<耐屈曲性>
実施例1~7、比較例1~2で得られた合成皮革について、革の耐寒性試験方法JISK 6542に準拠して耐屈曲性の評価を行った。長さ70mm、幅45mmに裁断した試験片を、-20℃に調整した低温槽付フレキシオメーターに配し、5000回毎に割れの有無をチェックし、割れるまでに要した回数を記録した。
その結果を表1に示す。
ここで、耐屈曲性が5,000回以上であれば、合成皮革としての機械的強度が担保できているものであり、10,000回以上あれば、耐屈曲性において優れる合成皮革であるといえる。一方で、耐屈曲性が5000回未満の場合は、合成皮革としての機械的強度が担保できていないものである。
なお、表中、「2.0~2.5」と表記されたものは、20,000回の観察時における割れはなく、25,000回の観察時に割れが確認されたことを示すものであり、他の表記も同様である。また、「<0.5」と表記されたものは、5,000回の観察時において割れが確認されたことを示すものである。
【0051】
<難燃性>
実施例1~7、比較例1~2で得られた合成皮革について、難燃性の評価を行った。
各合成皮革を幅10cm×長さ30cmサイズの試験片にカットした。各試験片を、垂直方向に上から吊下げ、試験片の下端の中心部にバーナーの火炎を60秒間当て、バーナーを移動することにより火炎を試験片から離した。離した後に試験片が炎を上げて燃焼し続ける時間(以下、「火炎時間」とする)と、下端から燃焼した長さ(以下、「燃焼長さ」とする)とを測定した。
火炎時間が15秒以下かつ燃焼長さが15.2cm(6inch)未満のものを「○」、火炎時間が15秒を超えるあるいは燃焼長さが15.2cm(6inch)以上のものを「×」と評価するが、各試験片はいずれも「○」であった。
【0052】
<導電性>
実施例1~5、比較例1~2で得られた合成皮革について、導電性の評価を行った。
表皮層側の表面抵抗値をIEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した。
測定装置は、プロスタット株式会社製、商品名「PRS-801」を用い、測定プローブは5ポンド電極(PRS-801-W)を用いて、電極間距離は60mm、印加電圧は100Vとした。
なお、表面抵抗値は1.0×1011Ω未満であれば、導電性を有するとみなす。
【0053】
<抗菌性>
実施例6で得られた合成皮革について、抗菌性の評価を行った。
JIS Z2801に準拠し、耐水区分1、耐光区分1の条件で抗菌性試験を行った結果、黄色ぶどう球菌の抗菌活性値は3.2であった。
なお、抗菌活性値が2.0以上であれば、抗菌性を有するとみなす。
【0054】
<消臭性>
実施例7で得られた合成皮革について、消臭性の評価を行った。試験方法は以下のとおりである。
・ 試験容器:5LスマートバッグPA
・ 使用ガス:アンモニア
・ 容器内のガス量:3L
・ アンモニア初期濃度:100ppm
・ ガス測定方法:ガス検知管
・ サンプルサイズ:100cm2
・ サンプリング:120分後のアンモニア濃度を測定
・ 空試験:サンプルを入れずに120分後のアンモニア濃度を測定
上記試験で、アンモニアの減少率(%)を以下の基準で評価した。なお、減少率については、下式で求めた値である。
減少率(%)=(空試験の残存ガス濃度-各試験のサンプルのガス濃度)/空試験×100
減少率は85%であった。
なお、減少率が70%以上であれば、消臭性を有するとみなす。
【0055】
【0056】
表1からわかるように、実施例1~7は表皮層および接着層に常温で固体の添加剤が高充填されているが、補強層を備えているため耐屈曲性を有し、合成皮革としての機械的強度が担保できていることがわかる。
また、実施例1~5においては導電性、実施例6においては抗菌性、実施例7においては消臭性がそれぞれ発現していることがわかる。
一方で、補強層を有さない比較例1や、補強層における常温で固体の添加剤の含有割合が表皮層および接着層よりも大きい比較例2については、合成皮革として機械的強度が担保できているとはいえないことがわかる。
【符号の説明】
【0057】
10・・・表皮層
20・・・繊維質基材層
30・・・表面処理層
40・・・接着層
50・・・補強層
100・・・合成皮革