(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-30
(45)【発行日】2025-08-07
(54)【発明の名称】レンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20250731BHJP
B60R 1/20 20220101ALI20250731BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20250731BHJP
G03B 17/02 20210101ALI20250731BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20250731BHJP
H04N 23/55 20230101ALI20250731BHJP
H04N 23/57 20230101ALI20250731BHJP
【FI】
G02B7/02 F
B60R1/20
G02B7/02 A
G03B15/00 V
G03B17/02
G03B30/00
H04N23/55
H04N23/57
(21)【出願番号】P 2021091018
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩輔
【審査官】飯田 光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025974(JP,A)
【文献】特開昭58-093011(JP,A)
【文献】国際公開第2010/061604(WO,A1)
【文献】特開2005-308999(JP,A)
【文献】特開2021-092742(JP,A)
【文献】特開2009-199072(JP,A)
【文献】特開2005-215503(JP,A)
【文献】特開2018-085580(JP,A)
【文献】特開2008-197584(JP,A)
【文献】特開平07-272645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/08
B60R 1/20-1/31
G03B 15/00
G03B 17/02
G03B 30/00
H04N 23/55
H04N 23/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを収容保持するための内側収容空間を形成する筒状の鏡筒と、前記鏡筒の前記内側収容空間内に組み込まれ、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群とを備えるレンズユニットであって、
前記レンズ群を構成する少なくとも
2つのレンズが樹脂により形成される樹脂レンズであり、該樹脂レンズは、その線膨張係数が前記鏡筒のそれよりも大きいとともに、
互いに積み重ねられるようにして前記内側収容空間内に圧入により組み込まれ、
前記樹脂レンズの径方向外側の周面と前記鏡筒の内面との間には、径方向内側に向けて前記樹脂レンズに作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層が介在され、
前記緩衝層は、
互いに積み重ねられたすべての前記樹脂レンズが位置する前記鏡筒の内面の全体にわたって該内面の形状に適合するように連続して延在していることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記鏡筒が樹脂製であり、前記緩衝層の曲げ弾性率が前記鏡筒の曲げ弾性率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記樹脂レンズの曲げ弾性率が前記鏡筒の曲げ弾性率よりも小さく、前記緩衝層の曲げ弾性率が前記樹脂レンズの曲げ弾性率よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記緩衝層の曲げ弾性率が550~2500MPaであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項5】
前記緩衝層は、前記鏡筒または前記樹脂レンズと一体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のレンズユニット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のレンズユニットと、前記レンズユニットのレンズ群を通じて集光される光を電気信号に変換する撮像素子とを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【請求項7】
車両に搭載される車載システムであって、
請求項6に記載のカメラモジュールと、前記カメラモジュールを制御するとともに前記カメラモジュールの前記撮像素子から出力される電気信号を処理する制御部とを有する撮像装置と、
前記撮像装置により取得される画像信号を処理する処理装置と、
前記処理装置により処理されて出力される画像を表示する表示装置と、
を有することを特徴とする車載システム。
【請求項8】
請求項7に記載の車載システムを搭載して成ることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車等の車両に搭載される車載カメラを構成するレンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび車載システムを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に車載カメラを搭載し、駐車をサポートしたり、画像認識により衝突防止を図ったりすることが行なわれており、さらにそれを自動運転に応用する試みもなされている。また、このような車載カメラ等のカメラモジュールは、一般に、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群と、このレンズ群を収容保持する鏡筒(バレル)と、レンズ群の少なくとも一個所のレンズ間に配置される絞り部材とを有するレンズユニットを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
レンズユニットでは、一般に、複数のレンズが積み重ねられるように鏡筒内に組み込まれ、最後に、鏡筒の物体側端部にキャップを取り付け、または、鏡筒の物体側端部をカシメることによって、積層構造のレンズから成るレンズ群が鏡筒内に光軸方向で保持される。この場合、特に車載カメラでは、外部に露出し得る最も物体側に位置されるレンズがガラス製であり、それ以外の内側のレンズが樹脂製であることが多く、とりわけ、樹脂製の鏡筒内に樹脂製のレンズを組み込む場合には、振動や衝撃等によってレンズがずれて解像性能劣化や光軸ずれが生じないように、一般にレンズが鏡筒内に所定の直径差を伴って軽圧入状態で嵌合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、樹脂製の鏡筒内に樹脂製のレンズが圧入嵌合されて成るレンズユニットでは、そのレンズ組み込み状態で、径方向内側に向かう圧縮応力がレンズに対して常に作用する。そのため、このような応力作用状態で、鏡筒の線膨張係数(熱膨張率)とレンズのそれとの間に差異があると、特に、一般的なケースのように、鏡筒の材質として例えば繊維強化ポリアミド等が使用され、レンズの材質として例えば非強化のポリカーボネート樹脂等が使用されることにより、レンズの線膨張係数が鏡筒のそれよりも大きく、曲げ弾性率もレンズの方が小さいと、そのような差異に伴って、高温環境下で、レンズの外径が鏡筒の内径よりも大きくなるようにレンズが膨張し、径方向で変形の行き場をなくしたレンズは、光軸方向に面する表面が光軸方向で永久変形(塑性変形)を起こすようになる。このような高温時のレンズの変形は、所望の解像性能が得られなくなったり、焦点がずれるなど、光学特性に悪影響を及ぼし得る。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、鏡筒とレンズとの線膨張係数の差異に伴うレンズの光軸方向での変形を低減できるレンズユニット、カメラモジュール、車載システムおよび車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、レンズを収容保持するための内側収容空間を形成する筒状の鏡筒と、前記鏡筒の前記内側収容空間内に組み込まれ、複数のレンズが光軸に沿って並べられて成るレンズ群とを備えるレンズユニットであって、
前記レンズ群を構成する少なくとも1つのレンズが樹脂により形成される樹脂レンズであり、該樹脂レンズは、その線膨張係数が前記鏡筒のそれよりも大きいとともに、前記内側収容空間内に圧入により組み込まれ、
前記樹脂レンズの径方向外側の周面と前記鏡筒の内面との間には、径方向内側に向けて前記樹脂レンズに作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層が介在されることを特徴とする。
【0008】
本発明の上記構成によれば、樹脂レンズの径方向外側の周面と鏡筒の内面との間に、径方向内側に向けて樹脂レンズに作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層が介在されているため、鏡筒の内側収容空間内に圧入されて径方向内側に向かう圧縮応力を常に受けるとともに線膨張係数が鏡筒のそれよりも大きい樹脂レンズは、高温環境下で径方向外側に膨張変形しようとする場合であっても、その変形でさえ緩衝層により少なくとも部分的に吸収され、そのため、径方向で変形の行き場をなくして光軸方向に永久変形(塑性変形)を起こすまで大きく変形するようなことがなくなる。すなわち、樹脂レンズが光軸方向で変形することが抑制(低減)され、したがって、高温時であっても、所望の光学特性を維持できる。
【0009】
なお、緩衝層は、樹脂レンズの光軸方向での変形を生起する径方向内側に向かう圧縮応力を緩和できさえすれば、その素材はどのようなものであっても構わないが、圧縮応力を効果的に且つ確実に緩和できるように、エラストマー、ゴム等の低弾性率素材、軟質素材により形成されて、耐熱温度が高い(好ましくは130℃以上)ものであることが好ましい。この場合、緩衝層は、鏡筒および樹脂レンズと別体であってもよく、あるいは、一体であってもよい。また、緩衝層は、樹脂レンズと別体の場合、樹脂レンズが位置する鏡筒部位に対応して個別に設けられてもよく、あるいは、鏡筒の内面のほぼ全体にわたって(例えば、レンズ群の最も物体側にある例えばガラス製のレンズが位置される鏡筒部位を除く鏡筒の内面の全体にわって)設けられてもよい。さらに、緩衝層の厚さは、樹脂レンズの光軸方向の寸法(厚さ寸法)および径方向の寸法(外径)、鏡筒内での樹脂レンズの位置、鏡筒の外径等によって決まり、例えば0.6~1.5mmに設定され、全体にわたって一定の寸法を維持してもよく、あるいは、物体側から像側に向かって次第に(連続的に、または、段階的に)増大または減少してもよい。
【0010】
また、本発明の上記構成では、鏡筒が樹脂製である場合、緩衝層の曲げ弾性率が鏡筒の曲げ弾性率よりも小さいことが好ましい。この場合、樹脂レンズの曲げ弾性率が鏡筒の曲げ弾性率よりも小さく、緩衝層の曲げ弾性率が樹脂レンズの曲げ弾性率よりも小さいことがさらに好ましく、すなわち、曲げ弾性率の大小関係は、鏡筒の曲げ弾性率>樹脂レンズの曲げ弾性率>緩衝層の曲げ弾性率の関係を成すことがさらに好ましい。これによれば、樹脂レンズに作用する径方向内側に向かう圧縮応力を緩衝層によって確実に且つ十分に吸収して緩和できる。ここで、鏡筒の「樹脂製」とは、樹脂を主成分(重量で少なくとも20%以上含む)とすることを意味し、ガラスフィラー等、他の素材を含んでもよい。
【0011】
また、本発明の上記構成では、緩衝層の曲げ弾性率が550~2500MPa(N/mm2)であることが好ましい。これにより、樹脂レンズの形状にもよるが、樹脂レンズの光軸方向の変形量を最低限でも2%程度低減できる。なお、曲げ弾性率は、JIS規格(JIS K7171)に基づいて測定できる。
【0012】
また、本発明の上記構成において、緩衝層は、鏡筒または樹脂レンズと一体であってもよい。これによれば、鏡筒に対するレンズの組み込み性が良く、緩衝層の確実で安定した位置決めも可能になる。なお、鏡筒と緩衝層との一体化は、例えばインサート成形によって実現でき、この場合、鏡筒が基材層と緩衝層との2層構造を成すことになる。
【0013】
また、本発明は、前述のレンズユニットを有するカメラモジュール、該カメラモジュールを有する車載システム、および、車載システムを搭載して成る車両も提供する。このようなカメラモジュール、車載システムおよび車両によっても前述したレンズユニットと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂レンズの径方向外側の周面と鏡筒の内面との間に、径方向内側に向けて樹脂レンズに作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層が介在されているため、鏡筒とレンズとの線膨張係数の差異に伴うレンズの光軸方向での変形を低減できる
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るレンズユニットの概略断面図(光軸に沿う断面図)である。
【
図3】インサート成形により緩衝層を鏡筒の内面に設ける実施例を示し、緩衝層を形成する緩衝部材を可動側金型に装着する状態を示す断面図である。
【
図4】
図3の実施例において金型が閉じられて溶融樹脂が流し込まれるキャビティが画定された状態を示す断面図である。
【
図5】鏡筒、樹脂レンズおよび緩衝層の材料物性の一例を示す表である。
【
図6】樹脂レンズの中心の光軸方向変位量の試験結果を示す表である。
【
図7】
図1のレンズユニットを有するカメラモジュールの概略断面図である。
【
図8】本発明の一実施の形態に係るカメラモジュールを備える車載システムが搭載される車両の概略図である。
【
図9】
図8の車載システムを構成する撮像装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明するが、本実施の形態は、特にセンシングシステムにおいて信頼性の高いシステムを実現でき、強靭なインフラの開発に貢献するものであり、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の、「9.1 すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラを開発する。」をターゲットとするものである。
なお、以下で説明される本実施の形態のレンズユニットは、特に車載カメラ等のカメラモジュール用のものであり、例えば、自動車の外表面側に固定して設置され、配線は自動車内に引き込まれてディスプレイやその他の装置に接続される。また、
図1および
図7において複数のレンズについてはハッチングを省略している。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズユニット11を示している。図示のように、本実施の形態のレンズユニット11は、円筒状の鏡筒(バレル)12と、鏡筒12の段付きの内側収容空間S内に配置される複数のレンズ、例えば、第1のレンズ13、第2のレンズ14、第3のレンズ15、第4のレンズ16および第5のレンズ17から成る5つのレンズと、絞り部材22とを備えている。絞り部材は、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する「開口絞り」またはゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する「遮光絞り」である。このようなレンズユニット11を備える車載カメラは、レンズユニット11と、図示しないイメージセンサを有する基板と、当該基板を自動車等の車両に設置する図示しない設置部材とを備えるものである。なお、本実施の形態では、外部に露出され得る第1のレンズ13がガラス製のレンズであり、それ以外の内側の第2~第5のレンズ14,15,16,17が全て樹脂(プラスチック)によって形成される樹脂レンズであるが、これに限定されない。また、これらのレンズ13,14,15,16,17を収容する鏡筒12は、本実施の形態では樹脂製であるが、金属製であっても構わない。また、鏡筒およびレンズの形状、レンズの数等については用途等に応じて任意に設定できる。
【0018】
鏡筒12に固定されて支持されている複数のレンズ13,14,15,16,17は、それぞれの光軸を一致させた状態で配置されており、1つの光軸Oに沿って各レンズ13,14,15,16,17が並べられた状態となって、撮像に用いられる一群のレンズ群Lを構成している。このうち、最も像側(内側収容空間Sの最も内奥側)に位置される2つの第4および第5のレンズ16,17は例えば貼り合わせレンズである。また、これらのレンズ13,14,15,16の表面には、必要に応じて、反射防止膜、親水膜、撥水膜等が設けられる。
【0019】
鏡筒12の物体側の端部(
図2において上端部)には、当該端部を径方向内側にカシメてなるカシメ部23が設けられており、このカシメ部23によってレンズ群Lの最も物体側に位置される第1のレンズ13が鏡筒12の物体側の端部に固定されている。
【0020】
また、鏡筒12の像側の端部(
図2において下端部)には、第5のレンズ17よりも径の小さい開口部を有する内側フランジ部24が設けられている。この内側フランジ部24とカシメ部23とにより、鏡筒12内にレンズ群Lを構成する複数のレンズ13、14、15、16,17と絞り部材22とが保持されている。
【0021】
最も物体側に位置される第1のレンズ13の外周面には、当該レンズ13の像側部分に径が小さくなった縮径部が設けられ、当該縮径部にシール部材としてのOリング26が設けられ、レンズ13の外周面と鏡筒12の内周面との間を、鏡筒12の物体側端部で封止した状態となっている。これにより、レンズユニット11の物体側の端部から鏡筒12内に水や塵埃等の微粒子が浸入するのを防止している。なお、第1のレンズ13と鏡筒12との間に介挿されるシール部材は、Oリングに限定されず、第1のレンズ13と鏡筒12との間をシールできる環状体であればどのような形態であっても構わない。
【0022】
鏡筒12は、その内径および外径が物体側から像側に向かって段階的に小さくなっている。すなわち、鏡筒12は、第1および第2のレンズ13,14を収容保持する大径部12Aと、第3~第5のレンズ15,16,17を収容保持する小径部12Bとを有する。また、このような鏡筒12の段付き形状に対応して、レンズ13,14,15,16,17は、物体側から像側に向かうにつれて、外径が小さくなっている。なお、鏡筒12の外周面には、鏡筒12を車載カメラに設置する際に用いられる外側フランジ部25が鏡筒12の外周面に鍔状に設けられている。
【0023】
また、本実施の形態において、樹脂レンズ14,15,16,17は、その線膨張係数が鏡筒12のそれよりも大きいとともに、貼り合わせレンズの物体側の樹脂レンズ16を除いて鏡筒12の内側収容空間S内に圧入により組み込まれている。そして、
図2にも拡大して示されるように、圧入される樹脂レンズ14,15,17の径方向外側の周面14a,15a,17aと鏡筒12の内面12aとの間には、径方向内側に向けて樹脂レンズ14,15,17に作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層30が介在されている。
【0024】
この場合、
図5の表にも示されるように、鏡筒12は、繊維強化ポリアミド(PA)から成る異方性材料によって形成され、その線膨張係数が流動方向で約6×10
-5/℃、直行方向(直角方向)で約1×10
-5/℃(平均で約3.5×10
-5/℃)であるとともに、130℃以上の耐熱温度を有する。また、樹脂レンズ(プラスチックレンズ)14,15,16,17は、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)等から成る等方性材料によって形成され、その線膨張係数が約6×10
-5/℃であるとともに、130℃以上の耐熱温度を有する。また、緩衝層30は、エラストマー、ゴム等の低弾性率素材、軟質素材から成る等方性材料によって形成され、その線膨張係数が約20×10
-5/℃であるとともに、130℃以上の耐熱温度を有する。なお、ここで、「耐熱温度」とは、荷重撓み温度またはガラス遷移温度のうち、温度が高い方を言いうものとする
【0025】
緩衝層30は、レンズ13-17および鏡筒12とは別体であり、内側収容空間S内に圧入される樹脂レンズ14,15,17が位置する鏡筒12内部位に対応して個別に設けられてもよいが、本実施の形態では、鏡筒12の内面12aのほぼ全体にわたって、具体的には、レンズ群Lの最も物体側にあるガラス製の第1のレンズ13が位置される鏡筒12内部位を除く鏡筒12の内面12aの全体にわって延在して設けられている。特に本実施の形態に係る緩衝層30は、鏡筒12の内面12aの形状に適合するようにその内径および外径が物体側から像側に向かって段階的に小さくなる段差を有する略筒状の緩衝部材によって形成されており、また、その厚さは、樹脂レンズ14,15,16,17の光軸方向の寸法(厚さ寸法)および径方向の寸法(外径)、鏡筒12内での樹脂レンズ14,15,16,17の位置、鏡筒の外径等によって決まり、例えば0.6~1.5mmに設定されるが、特に本実施の形態では、全体にわたって一定の寸法を維持している。しかしながら、例えば、物体側から像面側に向かうにつれてレンズ13-17の外径が小さくなるのに合わせて緩衝層(緩衝部材)30の厚さが物体側から像側に向かって次第に(連続的に、または、段階的に)増大または減少してもよい。
【0026】
なお、本実施の形態では、緩衝層30がレンズ13-17および鏡筒12と別体であるが、緩衝層30は、鏡筒12またはレンズ13-17と一体であってもよい。特に、鏡筒12と緩衝層30との一体化は、例えばインサート成形によって実現できる。インサート成形により緩衝層30を鏡筒12の内面12aに設ける実施例が
図3および
図4に示されている。このようなインサート成形では、
図3に示されるように、予め準備された緩衝層としての緩衝部材30が金型40の可動側金型部40Bに装着され、その後、可動側金型部40Bを固定側金型部40Aに組み付けることにより、
図4に示されるように金型40を閉じて溶融樹脂が流し込まれるキャビティCが画定される。この状態で、今度は、固定側金型部40Aのゲート42からキャビティC内に溶融樹脂を流し込み、硬化後に可動側金型部40Bを外して図示しない押し出しピン等により成形品を固定側金型部40Aから押し出すことにより、鏡筒基材層と緩衝層30との2層構造を成す鏡筒12が完成する。
【0027】
また、本実施の形態では、緩衝層30の曲げ弾性率が鏡筒12の曲げ弾性率よりも小さく、樹脂レンズ14,15,16,17の曲げ弾性率が鏡筒12の曲げ弾性率よりも小さく、緩衝層30の曲げ弾性率が樹脂レンズ14,15,16,17の曲げ弾性率よりも小さくなっている。すなわち、曲げ弾性率の大小関係が、鏡筒12の曲げ弾性率>樹脂レンズ14,15,16,17の曲げ弾性率>緩衝層30の曲げ弾性率の関係を満たすようになっている。具体的には、本実施の形態では、鏡筒12の曲げ弾性率が13900MPa(N/mm2)に設定され、樹脂レンズ14,15,16,17の曲げ弾性率が2540MPaに設定されるとともに、緩衝層30の曲げ弾性率が550~2500MPaに設定されている。
【0028】
緩衝層30の曲げ弾性率がこのような範囲内に設定されると、樹脂レンズ14,15,16,17の形状にもよるが、樹脂レンズ14,15,16,17の光軸方向の変形量を最低限でも2%程度低減できる。これを実証する試験結果が
図6に示されている。この試験では、主成分であるポリアミド(PA)にガラスフィラー(GF)を重量で30%混入させた樹脂素材(本実施の形態では「RENNY」(商標名)を使用)によって鏡筒12を形成するとともに、高耐熱エラストマー(本実施の形態では「ハイトレル7247」(商標名)を使用)によって緩衝層30を形成し、また、緩衝層30を伴わない鏡筒12内に圧入された第3のレンズ15および第5のレンズ17の物体側表面の中心(
図1の位置A,C)および像側(結像面側)表面の中心(
図1の位置B,D)のそれぞれにおいてレンズを圧入しなかった場合と比べた光軸方向の変位量を125℃および25℃の温度条件下でそれぞれ測定する(
図6の表中の1段目)とともに、緩衝層30を伴う鏡筒12内に圧入された第3のレンズ15および第5のレンズ17の物体側表面の中心(
図1の位置A,C)および像側(結像面側)表面の中心(
図1の位置B,D)のそれぞれにおいて光軸方向の変位量を125℃および25℃の温度条件下でそれぞれ測定した(
図6の表中の2段目)。なお、変位量の下側に示される百分率の値(%)は、緩衝層30を伴わない鏡筒12における各レンズ15,17のそれぞれの変位量を100%としたときの値であり、符号は変位量の減少をマイナスで示している。例えば、緩衝層30を伴わない鏡筒12における第5のレンズ17の像側表面の中心(位置D)においては、25℃の温度条件下で、ある変位量を示し、これを100%とする(緩衝層30がないときの変位量を100%とする)と、緩衝層30を伴う鏡筒12における第5のレンズ17の像側表面の中心(位置D)においては、25℃の温度条件下で、変位量が69.3%減少している(マイナスの符号は変位量の低減効果を示す)。
【0029】
また、この試験では、鏡筒12の曲げ弾性率が13900N/mm2であり、緩衝層30の曲げ弾性率が550N/mm2であり、また、緩衝層30の厚さを0.7mmとした。さらに、緩衝層30を伴う鏡筒12にあっては、緩衝層30の曲げ弾性率を1000N/mm2、1500N/mm2、2500N/mm2にそれぞれ変えたシミュレーションも行なって、第3のレンズ15および第5のレンズ17の物体側表面および像側表面のそれぞれの中心における変位量を125℃および25℃でそれぞれ計算した(表の3段目)。
【0030】
図6の結果からも分かるように、緩衝層30を伴う場合、その曲げ弾性率が少なくとも550~2500MPaの範囲内では、緩衝層30を伴わない場合と比べて、樹脂レンズの光軸方向の変位が抑制されており、その抑制効果は、曲げ弾性率が小さいほど(柔らかいほど)、大きくなっている。
【0031】
また、
図7には、以上のような構成を成すレンズユニット11を有する本実施の形態のカメラモジュール300の概略断面図が示されている。図示のように、このカメラモジュール300は、フィルタ100が装着された
図2のレンズユニット11を含んで構成される。
【0032】
カメラモジュール300は、外装部品である上ケース(カメラケース)301と、レンズユニット11を保持するマウント(台座)302とを備えている。また、カメラモジュール300は、シール部材303およびパッケージセンサ(撮像素子)304を備えている。
【0033】
上ケース301は、レンズユニット11の物体側の端部を露出させるとともに他の部分を覆う部材である。マウント302は、上ケース301の内部に配置されており、レンズユニット11の雄ねじ11aと螺合する雌ねじ302aを有する。シール部材303は、上ケース301の内面とレンズユニット11の鏡筒12の外周面12bとの間に介挿された部材であり、上ケース301の内部の気密性を保持するための部材である。
【0034】
パッケージセンサ304は、マウント302の内部に配置されており、かつ、レンズユニット11により形成される物体の像を受光する位置に配置されている。また、パッケージセンサ304は、CCDやCMOS等を備えており、レンズユニット11を通じて集光されて到達する光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、カメラにより撮影された画像データの構成要素であるアナログデータやデジタルデータに変換される。
【0035】
図8には、
図7のカメラモジュール300を含む撮像装置50を備える車載システムが搭載される車両40が概略的に示されている。図示のように、撮像装置50は車両40に搭載することができ、
図8は、車両40における撮像装置50の搭載位置を例示する配置例である。車両40に搭載される撮像装置50は、車載カメラと呼ぶこともでき、車両40の種々の場所に設置することができる。例えば、第1の撮像装置50aは、車両40が走行する際の前方を監視するカメラとして、フロントバンパー又はその近傍に配置されてもよい。また、前方を監視する第2の撮像装置50bは、車両40の車室内のルームミラー(Inner Rearview Mirror)の近傍に配置されてもよい。第3の撮像装置50cは、運転者の運転状況を監視するカメラとしてダッシュボード上又はインスツルメントパネル内等に配置されてもよい。第4の撮像装置50dは、車両40の後方モニター用に車両40の後部に設置されてもよい。撮像装置50a,50bはフロントカメラと呼ぶことができる。第3の撮像装置50cは、インカメラと呼ぶことができる。第4の撮像装置50dはリアカメラと呼ぶことができる。撮像装置50は、これらに限られず、左後ろ側方を撮像する左サイドカメラおよび右後ろ側方を撮像する右サイドカメラ等、種々の位置に設置される撮像装置を含む。
【0036】
撮像装置50により撮像された画像の画像信号は、車両40内の情報処理装置42および/または表示装置43等に出力され得る。これらの情報処理装置42および表示装置43は、撮像装置50と共に車載システムを構成する。車両40内の情報処理装置42は、撮像装置50により取得される画像信号を処理し、画像を認識して運転者の運転を支援する装置を含む。また、情報処理装置42は、例えば、ナビゲーション装置、衝突被害軽減ブレーキ装置、車間距離制御装置、および、車線逸脱警報装置等を含むが、これらに限定されない。表示装置43は、情報処理装置42により処理されて出力される画像を表示するが、撮像装置50から直接に画像信号を受信することもできる。また、表示装置43は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、および、無機ELディスプレイを採用し得るが、これらに限定されない。表示装置43は、リアカメラ等の運転者から視認しづらい位置の画像を撮像する撮像装置50から出力された画像信号を、運転者に対して表示することができる。
【0037】
図9には、
図8の車載システムを構成する撮像装置の構成が示される。図示のように、一実施の形態に係る撮像装置50は、制御部52と、記憶部54と、前述した
図7のカメラモジュール300とを備える。
【0038】
制御部52は、カメラモジュール300を制御するとともに、カメラモジュール300の撮像素子304から出力される電気信号を処理する。この制御部52は例えばプロセッサとして構成されてもよい。また、制御部52は1つ以上のプロセッサを含んでもよい。プロセッサは、特定のプログラムを読み込ませて特定の機能を実行する汎用のプロセッサ、および、特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでもよい。専用のプロセッサは、特定用途向けIC(Integrated Circuit)を含んでもよい。特定用途向けICは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)とも称される。プロセッサは、プログラマブルロジックデバイスを含んでもよい。プログラマブルロジックデバイスは、PLD(Programmable Logic Device)とも称される。PLDは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を含んでもよい。制御部52は、1つ以上のプロセッサが協働するSoC(System-on-a-Chip)、および、SiP(System In a Package)のいずれかであってもよい。
【0039】
記憶部54は、撮像装置50の動作に係る各種情報又はパラメータを記憶する。記憶部54は、例えば半導体メモリ等で構成されてもよい。記憶部54は、制御部52のワークメモリとして機能してもよい。記憶部54は、撮像画像を記憶してもよい。記憶部54は、制御部52が撮像画像に基づく検出処理を行なうための各種パラメータ等を記憶してもよい。記憶部54は制御部52に含まれてもよい。
【0040】
前述したように、カメラモジュール300は、レンズユニット11を介して結像する被写体像を撮像素子304で撮像し、撮像した画像を出力する。カメラモジュール300で撮像された画像は、撮像画像とも称される。
【0041】
撮像素子304は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ又はCCD(Charge Coupled Device)等で構成されてよい。撮像素子304は、複数の画素が並ぶ撮像面を有する。各画素は、入射した光量に応じて電流又は電圧で特定される信号を出力する。各画素が出力する信号は、撮像データとも称される。
【0042】
撮像データは、全ての画素についてカメラモジュール300で読み出され、撮像画像として制御部52に取り込まれてもよい。全ての画素について読み出された撮像画像は、最大撮像画像とも称される。撮像データは、一部の画素についてカメラモジュール300で読み出され、撮像画像として取り込まれてもよい。言い換えれば、撮像データは、所定の取り込み範囲の画素から読み出されてもよい。所定の取り込み範囲の画素から読み出された撮像データは、撮像画像として取り込まれてもよい。所定の取り込み範囲は、制御部52によって設定されてもよい。カメラモジュール300は、制御部52から所定の取り込み範囲を取得してもよい。撮像素子304は、レンズユニット11を介して結像する被写体像のうち所定の取り込み範囲の画像を撮像してもよい。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態によれば、樹脂レンズ14,15,17の径方向外側の周面14a,15a,17aと鏡筒12の内面12aとの間に、径方向内側に向けて樹脂レンズ14,15,17に作用する圧縮応力を吸収して緩和する緩衝層30が介在されているため、鏡筒12の内側収容空間S内に圧入されて径方向内側に向かう圧縮応力を常に受けるとともに線膨張係数が鏡筒12のそれよりも大きい樹脂レンズ14,15,17は、高温環境下で径方向外側に膨張変形しようとする場合であっても、その変形でさえ緩衝層30により少なくとも部分的に吸収され、そのため、径方向で変形の行き場をなくして光軸方向に永久変形(塑性変形)を起こすまで大きく変形するようなことがなくなる。すなわち、樹脂レンズ14,15,17が光軸方向で変形することが抑制(低減)され、したがって、高温時であっても、所望の光学特性を維持できる。
【0044】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明において、レンズや鏡筒などの形状は、前述した実施の形態に限定されない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、前述した実施の形態の一部または全部を組み合わせてもよく、あるいは、前述した実施の形態のうちの1つから構成の一部が省かれてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 レンズユニット
12 鏡筒
12a 内面
14,15,16,17,18 樹脂レンズ
14a,15a,17a 径方向外側の周面
30 緩衝層
40 車両
42 情報処理装置(処理装置)
43 表示装置
50 撮像装置
52 制御部
300 カメラモジュール
304 撮像素子
L レンズ群
S 内側収容空間