(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-30
(45)【発行日】2025-08-07
(54)【発明の名称】水処理装置、水処理装置における生物膜の洗浄方法、水処理装置における生物膜の膜厚評価方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/06 20230101AFI20250731BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20250731BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20250731BHJP
【FI】
C02F3/06
B01D53/22
B01D63/02
(21)【出願番号】P 2021136750
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】江崎 聡
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0022625(US,A1)
【文献】特開2006-101805(JP,A)
【文献】特表2020-508215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C02F3/00-3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液が供給される処理槽と、
前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた
中空糸膜と、
前記中空糸膜の一端側から前記中空糸膜内に酸素含有の気体を供給する配管と、
前記
中空糸膜の外表面に形成されて前記
中空糸膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、
を備え、
前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置であって、
前記
中空糸膜の下方に位置して洗浄気体を吐出することによって前記生物膜を洗浄する洗浄部と、
前記中空糸膜の一端側から供給され、前記
中空糸膜内を膜面に沿った方向に通過後の
気体であって、前記中空糸膜の他端側膜内の気体中の酸素濃度を計測する計測部と、
を備え、
前記洗浄部は、前記生物膜に対する洗浄強度が、前記計測部が計測する前記酸素濃度に基づいて制御されること
を特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記洗浄部は、
前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を強め、
前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を弱めること
を特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記洗浄部は、前記生物膜に対する洗浄強度が、前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出頻度、前記生物膜に対する単位時間当たりの前記洗浄気体の吐出量、及び前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出時間のうちの少なくとも1つの要件を変化させることによって制御されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記計測部が計測する前記酸素濃度に基づいて、前記
中空糸膜の外表面に対する前記生物膜の膜厚を評価する膜厚評価装置を備えること
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項5】
被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた
中空糸膜と、
前記中空糸膜の一端側から前記中空糸膜内に酸素含有の気体を供給する配管と、前記
中空糸膜の外表面に形成されて前記
中空糸膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置における生物膜の洗浄方法であって、
前記
中空糸膜の下方から洗浄気体を吐出することによって前記生物膜の洗浄を行い、
前記中空糸膜の一端側から供給され、前記
中空糸膜内を膜面に沿った方向に通過後の
気体であって、前記中空糸膜の他端側膜内の気体中の酸素濃度を計測し、
計測した前記酸素濃度に基づいて、前記生物膜に対する洗浄強度を制御すること
を特徴とする水処理装置における生物膜の洗浄方法。
【請求項6】
前記中空糸膜の一端側から供給され、前記
中空糸膜内を膜面に沿った方向に通過後の
気体であって、前記中空糸膜の他端側膜内の気体中の酸素濃度を、前記生物膜の洗浄の前後で計測し、
計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を強め、
計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を弱めること
を特徴とする請求項5に記載の水処理装置における生物膜の洗浄方法。
【請求項7】
前記生物膜に対する洗浄強度を、前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出頻度、前記生物膜に対する単位時間当たりの前記洗浄気体の吐出量、及び前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出時間のうちの少なくとも1つの要件を変化させることによって制御すること
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載の水処理装置における生物膜の洗浄方法。
【請求項8】
被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた
中空糸膜と、
前記中空糸膜の一端側から前記中空糸膜内に酸素含有の気体を供給する配管と、前記
中空糸膜の外表面に形成されて前記
中空糸膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置における生物膜の膜厚評価方法であって、
前記中空糸膜の一端側から供給され、前記
中空糸膜内を膜面に沿った方向に通過後の
気体であって、前記中空糸膜の他端側膜内の気体中の酸素濃度
を計測し、
計測した酸素濃度が、生物膜の膜厚が適正である場合の酸素濃度より少ない場合は、生物膜の膜厚が適正な膜厚より厚いと判断し、
計測した酸素濃度が、生物膜の膜厚が適正である場合の酸素濃度より多い場合は、生物膜の膜厚が適正な膜厚より薄い、或いは適正な膜厚より肥大化し過ぎていると判断すること
を特徴とする水処理装置における生物膜の膜厚評価方法。
【請求項9】
被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた中空糸膜と、前記中空糸膜の一端側から前記中空糸膜内に酸素含有の気体を供給する配管と、前記中空糸膜の外表面に形成されて前記中空糸膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置における生物膜の膜厚評価方法であって、
前記
中空糸膜の下方から洗浄気体を吐出することによって前記生物膜の洗浄を行い、
前記中空糸膜の一端側から供給され、前記
中空糸膜内を膜面に沿った方向に通過後の
気体であって、前記中空糸膜の他端側膜内の気体中の酸素濃度を、前記生物膜の洗浄の前後で計測し、
計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜の膜厚が前記被処理液の処理に適した膜厚より厚いと判断し、
計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜の膜厚が前記被処理液の処理に適した膜厚より薄いと判断すること
を特徴とす
る水処理装置における生物膜の膜厚評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理槽内の被処理液中に浸漬させた気体透過性を有する気体透過膜と、気体透過膜の外表面に形成されて気体透過膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備える水処理装置、その水処理装置における生物膜の洗浄方法及び膜厚評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水処理装置としては、特許文献1に示すような中空糸膜型バイオリアクターがある。特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターは、処理槽内の被処理液に浸漬され上下が開口したケーシングと、ケーシングの内部に配置されたガス透過性を有する複数の中空糸膜と、中空糸膜の内部にガスを供給するガス供給手段と、ケーシングの下方に設置され中空糸膜の外部にガスを供給する散気手段とを有するものである。特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターは、中空糸膜の外表面に、中空糸膜の内部に供給されるガスを利用する生物膜が形成されている。また、特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターは、中空糸膜の外部に供給されるガスによって、ケーシングの内部に上向流が生じる構成となっている。
【0003】
特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターでは、中空糸膜面への気泡の接触によって、肥大化した生物膜を効率良く洗浄することができ、長期間にわたって安定した高い処理性能を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターでは、中空糸膜面へ付着する微生物の量(生物膜の膜厚)或いはその代替指標をリアルタイムにモニタリングする手法が確立されていないため、中空糸膜面へ付着する微生物の量(生物膜の膜厚)を、被処理液の流入の負荷変動に追従させて管理することができない。そのため、特許文献1の中空糸膜型バイオリアクターでは、中空糸膜面へ付着する微生物の量(生物膜の膜厚)を適切に維持できない場合に、処理能力が大幅に低下し、所望の処理水質が得られないという問題があった。また、微生物量(生物膜の膜厚)の管理が不十分なために、中空糸膜における酸素移動効率が低下し、MABR(メンブレンエアレーションバイオリアクター)の省エネ利点を十分に生かすことができないとともに、中空糸膜に必要な膜面積が大きくなり装置が大型化するという問題があった。なお、中空糸膜に必要な膜面積が大きくなることで、中空糸膜に供給されるガスの量が増加するという問題もある。
【0006】
本発明は、気体透過膜に形成される生物膜の膜厚を適正に維持して被処理液の負荷変動に追従した高い処理性能を発揮可能な水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の水処理装置は、被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた気体透過性を有する気体透過膜と、前記気体透過膜の外表面に形成されて前記気体透過膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置であって、前記気体透過膜の下方に位置して洗浄気体を吐出することによって前記生物膜を洗浄する洗浄部と、前記気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度を計測する計測部と、を備え、前記洗浄部は、前記生物膜に対する洗浄強度が、前記計測部が計測する前記酸素濃度に基づいて制御されるものである。
【0008】
これによると、計測部が計測する酸素濃度から、生物膜の生物による酸素の消費量の増減を把握し、生物膜の膜厚の適否を判断した上で、生物膜に対する洗浄強度を制御することができるため、気体透過膜の外表面に形成される生物膜を適正な膜厚で維持することができる。
【0009】
本発明の水処理装置では、前記洗浄部は、前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を強め、前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を弱めるものである。
【0010】
これによると、生物膜の洗浄前後での酸素濃度の増減に応じて生物膜に対する洗浄強度を制御していることから、生物膜を精度よく適正な膜厚で維持することができる。
【0011】
本発明の水処理装置では、前記洗浄部は、前記生物膜に対する洗浄強度が、前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出頻度、前記生物膜に対する単位時間当たりの前記洗浄気体の吐出量、及び前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出時間のうちの少なくとも1つの要件を変化させることによって制御されるものである。
【0012】
これによると、生物膜に対する洗浄強度の制御方法を、生物膜の状況に応じて変化させることができる。
【0013】
本発明の水処理装置は、前記計測部が計測する前記酸素濃度に基づいて、前記気体透過膜の外表面に対する前記生物膜の膜厚を評価する膜厚評価装置を備えるものである。
【0014】
これによると、計測部が計測する酸素濃度から、生物膜の生物による酸素の消費量の増減を把握した上で、生物膜の膜厚の適否を判断することができる。
【0015】
本発明の水処理装置における生物膜の洗浄方法は、被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた気体透過性を有する気体透過膜と、前記気体透過膜の外表面に形成されて前記気体透過膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置における生物膜の洗浄方法であって、前記気体透過膜の下方から洗浄気体を吐出することによって前記生物膜の洗浄を行い、前記気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度を計測し、計測した前記酸素濃度に基づいて、前記生物膜に対する洗浄強度を制御する方法である。
【0016】
これによると、気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度から、生物膜の生物による酸素の消費量の増減を把握し、生物膜の膜厚の適否を判断した上で、生物膜に対する洗浄強度を制御することができるため、気体透過膜の外表面に形成される生物膜を適正な膜厚で維持することができる。
【0017】
本発明の水処理装置における生物膜の洗浄方法では、前記気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度を、前記生物膜の洗浄の前後で計測し、計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を強め、計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜に対する洗浄強度を弱める。
【0018】
これによると、生物膜の洗浄前後での酸素濃度の増減に応じて生物膜に対する洗浄強度を制御していることから、生物膜を精度よく適正な膜厚で維持することができる。
【0019】
本発明の水処理装置における生物膜の洗浄方法では、前記生物膜に対する洗浄強度を、前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出頻度、前記生物膜に対する単位時間当たりの前記洗浄気体の吐出量、及び前記生物膜に対する前記洗浄気体の吐出時間のうちの少なくとも1つの要件を変化させることによって制御する。
【0020】
これによると、生物膜に対する洗浄強度の制御方法を、生物膜の状況に応じて変化させることができる。
【0021】
本発明の水処理装置における生物膜の膜厚評価方法は、被処理液が供給される処理槽と、前記処理槽内の前記被処理液中に浸漬させた気体透過性を有する気体透過膜と、前記気体透過膜の外表面に形成されて前記気体透過膜内に供給される酸素含有の気体を利用する生物膜と、を備え、前記生物膜によって前記被処理液を処理する水処理装置における生物膜の膜厚評価方法であって、前記気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度に基づいて、前記気体透過膜の外表面に対する前記生物膜の膜厚を評価する方法である。
【0022】
これによると、気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度から、生物膜の生物による酸素の消費量の増減を把握した上で、生物膜の膜厚の適否を評価することができることから、気体透過膜の外表面に形成される生物膜を適正な膜厚で維持することができる。
【0023】
本発明の水処理装置における生物膜の膜厚評価方法では、前記気体透過膜の下方から洗浄気体を吐出することによって前記生物膜の洗浄を行い、前記気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度を、前記生物膜の洗浄の前後で計測し、計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より減少する場合には、前記生物膜の膜厚が前記被処理液の処理に適した膜厚より厚いと判断し、計測した前記生物膜の洗浄後の前記酸素濃度が前記生物膜の洗浄前の前記酸素濃度より増加する場合には、前記生物膜の膜厚が前記被処理液の処理に適した膜厚より薄いと判断する。
【0024】
これによると、生物膜の洗浄前後での酸素濃度の増減に応じて生物膜の膜厚の適否を評価できることから、生物膜を精度よく適正な膜厚で維持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水処理装置、水処理装置における生物膜の洗浄方法、水処理装置における生物膜の膜厚評価方法によれば、気体透過膜を通過後の一次側気体中の酸素濃度に基づいて生物膜に対する洗浄強度が制御されることから、生物膜の生物による酸素の消費量の増減を把握した上で、気体透過膜の外表面に形成される生物膜を適正な膜厚で維持することができる。そのため、被処理液の負荷変動に追従した高い処理性能を発揮可能な水処理装置を設けることができる。また、中空糸膜における酸素移動効率が向上するため、中空糸膜に必要な膜面積を最小化にして水処理装置を小型化することができるとともに、中空糸膜に供給する気体の量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水処理装置の概略構成図である。
【
図2】同水処理装置における中空糸膜及び生物膜の部分拡大断面図であり、(A)は、生物膜が中空糸膜に適正に形成されている場合、(B)は、生物膜が中空糸膜に対して肥大化している場合、(C)は、生物膜が中空糸膜に対して肥大化傾向にある場合、(D)は、生物膜が中空糸膜に対して薄膜化している場合である。
【
図3】水処理装置における被処理液の処理時間(経過時間)に対する酸素濃度計にて計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)の変化であって、生物膜の洗浄(スカーリング)後に酸素濃度が低下する場合を示す図である。
【
図4】水処理装置における被処理液の処理時間(経過時間)に対する酸素濃度計にて計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)の変化であって、生物膜の洗浄(スカーリング)後に酸素濃度が上昇する場合を示す図である。
【
図5】水処理装置における被処理液の処理時間(経過時間)に対する酸素濃度計にて計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の水処理装置について説明する。
【0028】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る水処理装置10は、被処理液Sが供給される処理槽11と、処理槽11内の被処理液S中に浸漬させた中空糸膜12(「気体透過膜」の一例)と、中空糸膜12の下方に位置して洗浄用空気(「洗浄気体」の一例)を吐出する散気管13(「洗浄部」の一例)と、中空糸膜12を通過後の排出空気(「一次側気体」の一例)中の酸素濃度を計測する酸素濃度計14(「計測部」の一例)と、から主に構成されている。
【0029】
処理槽11では、被処理液S(原水)が処理槽11の下部から供給され、処理された被処理液S(処理水)が処理槽11の上部から流出される。被処理液S(原水)は、初沈流出水路15から原水槽16を経て第1配管17を介して処理槽11に供給される。供給された被処理液Sは、循環ポンプ18によって循環される。処理槽11で処理された被処理液S(処理水)は、第2配管19を介して処理水槽20に流出される。
【0030】
中空糸膜12は、処理槽11の上下方向に延びるように複数並設されている。中空糸膜12は、気体透過性を有しており、空気中の酸素を選択的に透過させることができる。中空糸膜12は主に非多孔性膜によって構成されるが、非多孔質と多孔質の複合膜等でもよい。
図1及び
図2に示すように、中空糸膜12の内部には、処理槽11の外部に設けられる第1ブロワ21から第3配管22を介して空気(「酸素含有の気体」の一例)が供給される。第1ブロワ21によって供給される空気は、気泡となることなく、中空糸膜12の膜面を透過して処理槽11内の被処理液Sに溶解する。中空糸膜12を通過後の排出空気は、第4配管23を介して排出される。
【0031】
図2に示すように、中空糸膜12の外表面には、生物膜30が形成されている。生物膜30では、生物膜30の生物が、中空糸膜12からの空気中に含まれる酸素を利用して被処理液S中の被処理物質(例えば、有機物、窒素化合物等)を生物学的に除去する。
【0032】
図2(A)に示すように、生物膜30は、中空糸膜12の外表面から所定の膜厚Mで形成されている。生物膜30は、膜厚Mの増加に比例して生物膜30に存在する生物の量が増加する。
【0033】
例えば、
図2(B)に示すように、生物膜30の膜厚Mより厚い膜厚M1の生物膜30Aの場合、生物膜30Aの生物量は、膜厚の増加分、生物膜30より多くなる。そのため、生物膜30Aにおける被処理液Sの処理性能は生物膜30より向上する。しかしながら、生物膜30Aは、膜厚の増加分、その外表面側が中空糸膜12の外表面から離れることとなる。そのため、生物膜30Aの外表面側は、中空糸膜12からの酸素が供給され難く、酸素との接触効率が低下する。それゆえに、生物膜30Aは、酸素の移動効率が生物膜30より低下し、空気の供給量に対して被処理液Sの処理効率が悪い。
【0034】
一方、
図2(C)に示すように、生物膜30の膜厚Mより厚く且つ生物膜30Aの膜厚M1より薄い膜厚M2の生物膜30Bの場合、生物膜30Bの外表面側と中空糸膜12の外表面との距離は、生物膜30Aと比べて近くなるため、生物膜30Aの外表面側は、生物膜30Aと比べて中空糸膜12からの酸素が供給され易く、酸素との接触効率が向上する。しかしながら、生物膜30Bの生物量は、膜厚の増加分、生物膜30より多くなる。そのため、生物膜30Bでは、生物による酸素の消費量が生物膜30と比べて増大する。それゆえに、中空糸膜12(生物膜30B)に供給すべき空気量(酸素量)を生物膜30と同一とした場合、生物膜30Bに供給される酸素量が不足する。
【0035】
また、
図2(D)に示すように、生物膜30の膜厚Mより薄い膜厚M3の生物膜30Cの場合、生物膜30Cの生物量は、膜厚の減少分、生物膜30より少なくなる。そのため、生物膜30Cでは、生物による酸素の消費量が生物膜30と比べて減少する。それゆえに、中空糸膜12(生物膜30C)に供給すべき空気量(酸素量)を生物膜30と同一とした場合、生物膜30Cに充分な酸素が供給される。しかしながら、生物膜30Cは、被処理液Sを処理すべき生物が生物膜30より少ないため、被処理液Sの処理性能は生物膜30より低下する。また、生物膜Cには、生物膜30Cの生物が消費する酸素量以上の酸素が供給されることとなるため、酸素の移動効率が生物膜30より低下する。
【0036】
このように、生物膜30の膜厚Mは、生物膜30(生物膜30中の生物)と酸素との接触効率、生物膜30における酸素の移動効率等の条件を考慮して設定されている。
【0037】
図1に示すように、散気管13は、中空糸膜12の下方から洗浄用空気を間欠的に吐出する。散気管13から吐出される洗浄用空気は、処理槽11の外部に設けられる第2ブロワ24から第5配管25を介して散気管13に供給される。散気管13は、洗浄用空気を気泡として被処理液S中に供給する。散気管13は、供給する気泡及び気泡の供給によって生じる上向流によって、生物膜30の表面で乱流或いは剪断力を作り出すことで、生物膜30の洗浄を行う。なお、散気管13から吐出されるガスは洗浄用空気に限定されるものではなく、生物膜30を洗浄可能なガスであれば、例えば、窒素ガス、バイオガス、第4配管23を流れる排気空気(オフガス)の再利用等であっても構わない。
【0038】
酸素濃度計14は、第4配管23に設けられ、第4配管23を流れる排出空気中の酸素濃度を計測する。水処理装置10では、酸素濃度計14によって計測される酸素濃度に基づいて、生物膜30の生物による酸素の消費量の増減を判断し、中空糸膜12の外表面に形成される生物膜30の膜厚の増減を評価する。
【0039】
上述のように、生物膜30では、生物膜30の生物が、中空糸膜12から供給される酸素を利用して被処理液S中の被処理物質を生物学的に除去する。そのため、生物膜30が肥大化傾向(生物膜30の生物量が増加傾向)にある場合(
図2(C)の場合)は、生物膜30の生物による酸素の消費量が増加するため、中空糸膜12を通過後の排気空気中に含まれる酸素の濃度が減少する。
【0040】
一方で、生物膜30が肥大化し過ぎる場合(
図2(B)の場合)及び生物膜30が薄くなり過ぎた(生物膜30の生物量が減少し過ぎる)場合(
図2(D)の場合)は、生物膜30の生物による酸素の消費量が減少するため、中空糸膜12を通過後の排気空気中に含まれる酸素の濃度が増加する。
【0041】
このようなことから、水処理装置10では、中空糸膜12を通過後の排気空気中に含まれる酸素の濃度を酸素濃度計14によって計測することで、生物膜30の生物による酸素の消費量の増減を判断し、中空糸膜12の外表面に形成される生物膜30の膜厚の増減を判断する。すなわち、酸素濃度計14によって計測される酸素濃度が、所定の酸素濃度(生物膜30の膜厚Mが適正な膜厚である場合の酸素濃度)より少ない場合は、生物膜30の膜厚が適正な膜厚Mより厚く、生物膜30が肥大化傾向にあると判断できる。また、酸素濃度計14によって計測される酸素濃度が、所定の酸素濃度より多い場合は、生物膜30の膜厚が適正な膜厚Mより薄く、生物膜30が剥離され過ぎて薄膜化傾向にあると判断でき、或いは、生物膜30の膜厚が適正な膜厚Mより充分に厚く、生物膜30が肥大化し過ぎていると判断できる。
【0042】
さらに、水処理装置10では、酸素濃度計14の計測結果からの判断した生物膜30の膜厚の増減に基づいて、生物膜30の膜厚の適否を評価した上で、散気管13による生物膜30の洗浄強度が制御される。ここで、生物膜30の洗浄強度は、散気管13から生物膜30に対して吐出される洗浄用空気の吐出頻度、散気管13から生物膜30に対して吐出される洗浄用空気の単位時間当たりの吐出量、及び散気管13から生物膜30に対して吐出される洗浄用空気の吐出時間のうちの少なくとも1つの要件を変化させることによって制御される。
【0043】
図3に示すように、散気管13によって生物膜30を洗浄(スカーリング)した(
図3中の矢印部分)後、酸素濃度計14によって計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)が減少する場合には、中空糸膜12に形成される生物膜30の生物量が増加して生物による酸素の消費量が増大したと考えられる。そのため、生物膜30の膜厚Mが過多であると示唆される。そこで、水処理装置10では、散気管13による生物膜30の洗浄強度を上げることで肥大化した生物膜30を剥離させ、生物膜30の膜厚を適切な膜厚Mとする。
【0044】
一方で、
図4に示すように、散気管13によって生物膜30を洗浄(スカーリング)した(
図4中の矢印部分)後、酸素濃度計14によって計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)が増加する場合には、中空糸膜12に形成される生物膜30の生物量が減少して生物による酸素の消費量が減少したと考えられる。そのため、生物膜30の膜厚Mが過少であると示唆される。そこで、水処理装置10では、散気管13による生物膜30の洗浄強度を下げることで膜厚が薄くなった生物膜30が適切な膜厚Mとなるまで、生物膜30の成長を促す。
【0045】
次に、散気管13による生物膜30の洗浄強度の制御について説明する。
図5は、水処理装置10における被処理液Sの処理時間(経過時間)に対する酸素濃度計14によって計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)の変化を示している。すなわち、
図5は、水処理装置10における被処理液Sの処理時間(経過時間)に対する酸素濃度計14にて計測される酸素濃度(オフガス酸素濃度)の変化(生物膜30の生物による酸素の消費量の変化、生物膜30の生物量の変化)を示している。水処理装置10においては、散気管13による生物膜30の洗浄を、所定時間毎(例えば、6時間に1回)に行うことによって、生物膜30の膜厚を適切な膜厚Mに制御する。なお、
図5では、図中の矢印の時間において散気管13による生物膜30の洗浄(スカーリング)を行っている。
【0046】
図5の(a)に示すように、スカーリング後にオフガス酸素濃度が増加する場合、すなわち、スカーリング後に生物膜30の生物量が減少する場合、生物膜30は、スカーリングによって適正な膜厚Mより剥離され過ぎていると判断される。これによって、
図5の(b)に示すように、スカーリングの洗浄強度を下げることで、膜厚が薄くなった生物膜30が適切な膜厚Mとなるまで、生物膜30の成長を促す。例えば、6時間に1度のスカーリングの頻度(生物膜30に対する洗浄用空気の吐出頻度)を、12時間に1度に変更することで、スカーリングの洗浄強度を下げる。
【0047】
スカーリングの頻度を下げることで、生物膜30が剥離されずに成長するため、
図5の(c)に示すように、生物膜30の膜厚Mが増加する方向に進み、オフガス酸素濃度が減少する。
【0048】
図5の(d)に示すように、スカーリング後にオフガス酸素濃度がさらに減少する場合には、スカーリングによる生物膜30の剥離が不十分なために、生物膜30の膜厚が適正な膜厚Mより厚く、生物膜30の生物量が適正量より多くなる。
【0049】
さらに、
図5の(e)に示すように、スカーリング後に減少したオフガス酸素濃度が増加する場合には、
図2(B)に示すように、生物膜30が肥大化し過ぎて、生物膜30の生物と酸素との接触効率が悪く、生物膜30の生物が酸素を消費しないためにオフガス酸素濃度が上昇する。そのため、散気管13における洗浄用空気の単位時間当たりの吐出量を増やし又は散気管13における洗浄用空気の吐出時間を長くすることで、生物膜30の膜厚を適切な膜厚Mに制御する。
【0050】
さらにまた、
図5の(f)に示すように、スカーリング後にオフガス酸素濃度が増加する場合、すなわち、スカーリング後に生物膜30の生物量が減少する場合、生物膜30は、スカーリングによって適正な膜厚Mより剥離され過ぎた状態となる。ここで、処理槽11に高い負荷の被処理液Sが流入することで、
図5の(g)に示すように、生物膜30において酸素を消費する反応が進んでオフガス酸素濃度が低下するとともに、生物膜30が成長する。
【0051】
さらに、
図5の(h)に示すように、スカーリング後にオフガス酸素濃度が
図5の(d)のように低下することなく増加する場合、生物膜30は肥大化することなく剥離して適正な膜厚Mより薄膜化した状態となる。なお、
図5の(i)に示すように、オフガス酸素濃度が上昇傾向にあることから、生物膜30は肥大化することなく適正な膜厚Mより薄膜化していることがわかる。
【0052】
このように、
図5(a)に示すような、酸素濃度計14において、所定量以上のオフガス酸素濃度を計測する水処理装置10においては、
図5(b)に示すように、スカーリングの頻度(スカーリングの洗浄強度)を下げて、オフガス酸素濃度を減少させることで、生物膜30における酸素の消費効率を向上させることができる。
【0053】
以上のように、本実施の形態によると、中空糸膜12を通過後の空気中の酸素濃度に基づいて生物膜30の洗浄強度が制御されることから、生物膜30の生物による酸素の消費量の増減を把握した上で、中空糸膜12の外表面に形成される生物膜30を適正な膜厚Mで維持することができる。そのため、被処理液Sの負荷変動に追従した高い処理性能を発揮可能な水処理装置10を設けることができる。また、中空糸膜12における酸素移動効率(酸素消費効率)が向上するため、中空糸膜12に必要な膜面積を最小化にして水処理装置10を小型化することができるとともに、中空糸膜12に供給する空気の量を削減することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 水処理装置
11 処理槽
12 中空糸膜(気体透過膜)
13 散気管(洗浄部)
14 酸素濃度計(計測部)
30 生物膜
S 被処理液