(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-07-31
(45)【発行日】2025-08-08
(54)【発明の名称】血圧測定システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20250801BHJP
【FI】
A61B5/022 400F
A61B5/022 C
(21)【出願番号】P 2021576764
(86)(22)【出願日】2020-08-14
(86)【国際出願番号】 US2020046480
(87)【国際公開番号】W WO2021030737
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-08-14
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520470523
【氏名又は名称】カーディオ リング テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】シー,ウェン ピン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ウェイ チン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,レン チュン
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-189917(JP,A)
【文献】特開昭61-253038(JP,A)
【文献】特開2007-098002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022-5/0235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押圧部(1)および生体情報測定装置(2)に結合された制御部(3)を備え、
前記制御部(3)が、第1の押圧期間(P1)中および第2の押圧期間(P2)中に、前記押圧部(1)によってヒトの身体部位に加えられる圧力を段階的に増加させ、前記身体部位を圧迫して、前記押圧部(1)が前記生体情報測定装置(2)によって測定される下流側の血管に対して上流側の血管に圧力を及ぼすように構成され、
前記生体情報測定装置(2)が、前記第1の押圧期間(P1)中に前記下流側の血管から血圧活動を示す第1の波信号(W1)を生成し、前記第1の波信号(W1)を前記制御部(3)に送信するように構成され、
前記制御部(3)が、上限および下限を有するエンベロープ信号(E1)を生成し、前記エンベロープ信号(E1)の前記上限は、前記第1の波信号(W1)の隣接する山をつなぐことによって生成され、前記エンベロープ信号(E1)の前記下限は、前記第1の波信号(W1)の隣接する谷をつなぐことによって生成され、
前記制御部(3)が、前記第2の押圧期間(P2)中に前記下流側の血管から血圧活動を示す第2の波信号(W2)を生成し、前記第2の波信号(W2)を前記制御部(3)に送信するように構成され、前記生体情報測定装置(2)が前記下流側の血管からの前記血圧活動を検知しなくなったときに前記第2の押圧期間(P2)が開始され、
前記制御部(3)は、前記第2の波信号(W2)の波形が前記エンベロープ信号(E1)の波形と交差する第1のタイムポイント(T1a)を決定し、前記制御部(3)は、前記第1のタイムポイント(T1a)において前記押圧部(1)が前記上流側の血管に及ぼす第1の圧力値を決定することによって収縮期血圧値(Sa)を決定し、
前記制御部(3)は、前記エンベロープ信号(E1)が予め定められた振幅(A2)を有する箇所を決定することによって、第2のタイムポイント(T2a)を決定し、前記制御部(3)は、前記第2のタイムポイント(T2a)において前記押圧部(1)が前記上流側の血管に及ぼす第2の圧力値を決定することによって拡張期血圧値(Da)を決定し、
前記制御部(3)は、
前記第2の波信号(W2)の平均線(W2’)を取得し、
前記エンベロープ信号(E1)を平滑化して修正エンベロープ信号(E1’)を取得し、
前記修正エンベロープ信号(E1’)の上限が前記平均線(W2’)と交差する時間として第1のタイムポイント(T1b)を決定することによって、前記第1のタイムポイント(T1b)を決定するように構成されている、ヒトの血圧を測定するシステム。
【請求項2】
前記第1の波信号(W1)は複数の周期波(C1、C2、…、Cn)を有し、前記制御部(3)は、各周期波(C1、C2、…、Cn)の山と各周期波(C1、C2、…、Cn)の谷とをつないで前記エンベロープ信号(E1)を生成する(S306)、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記エンベロープ信号(E1)の前記予め定められた振幅(A2)は、前記エンベロープ信号(E1)の最大振幅(A1)の50%乃至90%の間にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記押圧部(1)が腕または手首に装着されるように構成され、前記制御部(3)が、前記第1の押圧期間(P1)および前記第2の押圧期間(P2)中に前記押圧部(1)に圧力を加えさせるように構成され、前記生体情報測定装置(2)が、指からの前記第1の波信号(W1)および前記第2の波信号(W2)を検知するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
ウェアラブル押圧部(1)の第1の押圧期間(P1)中に生体情報測定装置(2)を用いて下流側の血管から血圧活動を示す第1の圧力波信号(W1)を検知するステップであって、前記ウェアラブル押圧部(1)は前記血管に対して上流側の血管に圧力を及ぼす、第1の圧力波信号(W1)を検知するステップと、
前記第1の圧力波信号(W1)に応じて、前記第1の圧力波信号(W1)のエンベロープ信号(E1)を生成するステップであって、前記エンベロープ信号(E1)は上限および下限を有し、前記エンベロープ信号(E1)の前記上限は、前記第1の圧力波信号(W1)の隣接する山をつなぐことによって生成され、前記エンベロープ信号(E1)の前記下限は、前記第1の圧力波信号(W1)の隣接する谷をつなぐことによって生成される、エンベロープ信号(E1)を生成するステップと、
前記ウェアラブル押圧部(1)の第2の押圧期間(P2)中に、前記生体情報測定装置(2)を用いて、前記下流側の血管から血圧活動を示す第2の圧力波信号(W2)を検知するステップであって、前記生体情報測定装置(2)が前記下流側の血管からの前記血圧活動を検知しなくなったときに前記第2の押圧期間(P2)が開始される、第2の圧力波信号(W2)を検知するステップと、
前記第2の圧力波信号(W2)の波形が前記エンベロープ信号(E1)の波形と交差する第1のタイムポイント(T1a)を決定するステップと、
前記第1のタイムポイント(T1a)において、前記ウェアラブル押圧部(1)が前記上流側の血管に及ぼす圧力値を収縮期血圧値(Sa)として出力するステップと、
前記エンベロープ信号(E1)が予め定められた振幅(A2)を有する第2のタイムポイント(T2a)を決定するステップと、
前記第2のタイムポイント(T1b)において、前記ウェアラブル押圧部(1)が前記上流側の血管に及ぼす圧力値を拡張期血圧値(Da)として出力するステップと、
前記第2の圧力波信号(W2)の平均線(W2’)を取得するステップと、
前記エンベロープ信号(E1)を平滑化して修正エンベロープ信号(E1’)を取得するステップと、
前記修正エンベロープ信号(E1’)の上限が前記平均線(W2’)と交差する時間として第1のタイムポイント(T1b)を決定することによって、前記第1のタイムポイント(T1b)を決定するステップと、
を含む、血圧測定方法。
【請求項6】
前記第1の圧力波信号(W1)は複数の周期波(C1、C2、…、Cn)を有し、前記エンベロープ信号(E1)を生成するステップは、各周期波(C1、C2、…、Cn)の山と各周期波(C1、C2、…、Cn)の谷とをつなぐことで前記エンベロープ信号(E1)を得るステップをさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のタイムポイント(T1b)を決定するステップは、
前記第2の圧力波信号(W2)の平均線(W2’)を取得するステップと、
前記エンベロープ信号(E1)を平滑化することで修正エンベロープ信号(E1’)を取得するステップと、
前記修正エンベロープ信号(E1’)の上限が前記平均線(W2’)と交差する時間として前記第1のタイムポイント(T1b)を決定するステップと、
をさらに含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記エンベロープ信号(E1)の前記予め定められた振幅(A2)は、前記エンベロープ信号(E1)の最大振幅(A1)の50%乃至90%の間にある、請求項
5に記載の方法。
【請求項9】
前記ウェアラブル押圧部(1)は、前記第1の押圧期間(P1)および前記第2の押圧期間(P2)中に腕または手首に圧力をかけ、前記生体情報測定装置(2)は、指からの前記第1の圧力波信号(W1)および前記第2の圧力波信号(W2)を検知する、請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許明細書は、血圧測定方法および装置の分野にあり、より具体的には、血圧測定時の誤差を低減する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心血管疾患(CVD)は、世界的に見ても死亡者数の相当数を占めている。CVDには、CVDによる死亡の大半を占める冠動脈心疾患のほか、脳卒中および心不全などが含まれる。CVDは病原性因子および生活習慣と密接な関係がある。健康的な生活習慣を維持することに加えて、血圧、血糖値、コレステロールのモニタリングを頻繁に行うことも、CVDの予防に重要な役割を果たす。CVDの予防や制御の需要を満たすために、ユーザーが自分の心拍数、血圧、血糖値などを測定できる多くの携帯型生体情報モニタリング装置が登場している。
【0003】
動脈圧は血圧計で測定するのが一般的である。従来、患者の血圧を監視する場合、各心拍の間に血圧は収縮期血圧と拡張期血圧との間で変化する。収縮期血圧とは、心周期または収縮の終わり近くに発生する動脈内のピーク圧力のことである。拡張期血圧とは、心臓が血液で満たされているときに、心周期の最初の頃に発生する動脈内の最低圧力のことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血圧を測定する従来の携帯型生体情報モニタリング装置では、まず平均血圧を測定し、収縮期血圧、拡張期血圧と測定した平均血圧との統計的関係から収縮期血圧および拡張期血圧を推定するのが一般的であった。しかしながら、収縮期血圧、拡張期血圧、および平均血圧の関係は、特定の患者のさまざまな変化によって異なる可能性がある。例えば、年齢、個人の生理機能、または生活環境などが挙げられる。そのため、従来の生体情報モニタリング装置では、どうしても測定誤差が生じてしまう。いくつかの変形例では、携帯型の生体情報モニタリング装置は、従来の血圧測定用カフとフィンガークリップセンサーを組み合わせたものである。これらの装置は、従来のように動脈に圧縮圧力をかけて流れを止めた後に、圧力を取り除く方法で収縮期血圧を測定する。しかしながら、この方法でもなお、モーションアーチファクトおよび被検者の呼吸の変化に起因する測定誤差が生じる。そのため、誤差を低減し、実際の血圧の測定精度を高めることができる、改良された血圧測定装置を製造する必要性がある。
【0005】
このような観点から、本明細書に記載されているシステムおよび方法は、正確な血圧測定値を生成する血圧測定システムを含む。本システムの一態様は、携帯型の装置構成で血圧を直接測定し、さらにモーションアーチファクトおよび呼吸による血圧変動に起因する誤差を効果的に低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の実施例において、本システムは、ヒトの血圧測定を可能にするものであり、押圧部および生体情報測定装置に結合された制御部を備え、制御部が、第1の押圧期間中に、押圧部によってヒトの身体部位に加えられる圧力を段階的に増加させ、身体部位を圧迫して、身体部位内の上流側の血管の血流に影響を与えるように構成され、生体情報測定装置が、第1の押圧期間中に下流側の血管から血液活動を示す第1の波信号を生成し、第1の波信号を制御部に送信するように構成され、 制御部が、第1の波信号を使用してエンベロープ信号を生成し、制御部が、生体情報測定装置が血液活動を検知しなかったことを判断することによって、第2の押圧期間を確立するように構成され、生体情報測定装置が、第2の押圧期間中に生体情報測定装置を用いて血管の第2の波信号を生成するように構成され、制御部が、第2の波信号の波形がエンベロープ信号の波形と交差する第1のタイムポイントを決定し、同第1のタイムポイントにおいて押圧部が上流側の血管に及ぼす第1の圧力値を用いて収縮期血圧値を確立し、制御部が、エンベロープ信号が予め定められた振幅を有する第2のタイムポイントをさらに決定し、同第2のタイムポイントにおいて押圧部が上流側の血管に及ぼす第2の圧力値を用いて拡張期血圧値を確立する。
【0007】
本明細書に記載されているシステムの変形例には、個別の生体情報装置および/または押圧部と連携するように構成された制御部のみを備えたシステムが含まれ得る。例えば、このような血圧測定システムは、生体情報測定装置および押圧部と組み合わせて使用するように構成された制御部を含むことができ、このシステムでは、制御部が、押圧部および生体情報測定装置と電子的に通信して、本明細書で説明する機能を実行するように構成されている。
【0008】
一態様による本システムは、複数の周期波を有する第1の波信号を含み、エンベロープ信号を生成する本システムは、第1の波信号の各周期波の平均値を計算することと、対応する各周期波の振幅から平均値を減算することにより第1修正波信号を得ることと、第1の修正波信号の複数の山と第1の修正波信号の複数の谷とをつなぐことによりエンベロープ信号を得ることとをさらに含む。
【0009】
別の変形例では、第1の波信号は複数の周期波を有しており、制御部は各周期波の山と谷とをつなぐことでエンベロープ信号を生成する。
【0010】
別例による本システムは、ウェアラブル押圧部の非押圧期間中に生体情報測定装置を用いて血管からの第3の波信号を検知し、第3の波信号は連続波であり、第3の波信号の山の最初の山値として収縮期血圧値を出力し、第3の波信号における山に時間的に隣接する、第3の波信号における谷の最初の谷値として拡張期血圧値を出力し、収縮期血圧値および拡張期血圧値に応じて、第3の波信号に残っている複数の山および谷の複数の追加の山値および複数の追加の谷値をそれぞれ計算するようにさらに構成される制御部を備える。
【0011】
変形例による制御部は、第2の波信号の平均線を取得し、エンベロープ信号を平滑化して修正エンベロープ信号を取得し、修正エンベロープ信号の上限値が平均線と交差する時間として第1のタイムポイントを決定することによって、第1のタイムポイントを決定することができる。
【0012】
別例では、制御部は、エンベロープ信号の最大振幅の50%乃至90%の間の予め定められた振幅を使用する。
【0013】
本明細書に開示される押圧部は、腕または手首に装着するように構成することができ、制御部が、第1の押圧期間および第2の押圧期間中に押圧部に圧力を加えさせるように構成され、生体情報測定装置が、指からの第1の波信号および第2の波信号を検知するように構成される。
【0014】
また、本開示は、血圧測定方法を含む。方法は、ウェアラブル押圧部の第1の押圧期間中に生体情報測定装置を用いて血管からの第1の波信号を検知するステップであって、ウェアラブル押圧部は血管に対して上流側の血管に圧力を及ぼす、第1の波信号を検知するステップと、第1の波信号に応じて、第1の波信号のエンベロープ信号を生成するステップと、ウェアラブル押圧部の第2の押圧期間中に、生体情報測定装置を用いて、血管の第2の波信号を検知するステップと、第2の波信号の波形がエンベロープ信号の波形と交差する第1のタイムポイントを決定するステップと、第1のタイムポイントにおいて、ウェアラブル押圧部が上流側の血管に及ぼす圧力値を収縮期血圧値として出力するステップと、エンベロープ信号が予め定められた振幅を有する第2のタイムポイントを決定するステップと、第2のタイムポイントにおいて、ウェアラブル押圧部が上流側の血管に及ぼす圧力値を拡張期血圧値として出力するステップと、を含む。
【0015】
別例による血圧測定装置は、ウェアラブル押圧部と、生体情報測定装置と、ウェアラブル押圧部および生体情報測定装置に接続する信号を備える制御部とを備え、制御部が本明細書に開示された方法のいずれかを実行する。
【0016】
本明細書に開示されている押圧部は、上流側の血管内の流れを低減する機能を果たす血圧測定用カフなどの任意のタイプの装置であってもよい。加えて、生体情報測定装置は、第1の波信号、第2の波信号、および第3の波信号を検知するための圧力センサーを有するフィンガークリップ装置であってもよい。フィンガークリップ装置は、光学センサーや、下流側の血管からの波信号を検知することができる任意のセンサーを備えてもよい。
【0017】
一態様において、本システムおよび方法は、血圧測定を提供し、測定において、ウェアラブル押圧部の第1の押圧期間中に血管からの第1の波信号を検知し、ウェアラブル押圧部は、第1の押圧期間中に血管に対して上流側の血管に圧力を及ぼし、また、第1の波信号に応じて、第1の波信号のエンベロープ信号を生成し、ウェアラブル押圧部の第2の押圧期間中に血管の第2の波信号を検知し、第2の波信号の波形がエンベロープ信号の波形と交差する第1のタイムポイントを決定し、第1のタイムポイントにおいて、ウェアラブル押圧部が上流側の血管に及ぼす圧力値を収縮期血圧値として出力し、エンベロープ信号が予め定められた振幅を有する第2のタイムポイントを決定し、第2のタイムポイントにおいて、ウェアラブル押圧部が上流側の血管に及ぼす圧力値を拡張期血圧値として出力する。
【0018】
本発明の他の提案は、ウェアラブル押圧部、生体情報測定装置、および制御部を含む、血圧測定装置を提供することである。制御部の信号は、上述した血圧測定方法を実行するために、ウェアラブル押圧部および生体情報測定装置に接続する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による血圧測定方法の流れを示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態による血圧測定装置を示す図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、ウェアラブル押圧部にかかる圧力を時間の関数として表したものである。
【
図4】
図4は、第1の実施形態の第1および第2の波信号を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態のエンベロープ信号の生成の一態様を示す図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態におけるエンベロープ信号および修正エンベロープ信号の変形例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態において、ウェアラブル押圧部にかかる圧力を時間の関数として表したものの変形例である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態におけるエンベロープ信号の生成の流れを示す図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態のエンベロープ信号を示す図である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態のエンベロープ信号とそれに伴う修正エンベロープ信号とを示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態において、ウェアラブル押圧部にかかる圧力を時間の関数として表したものである。
【
図12】
図12は、本発明の第3の実施形態の血圧測定方法の流れを示す図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態の血圧測定方法による連続的な血圧測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、血圧を測定するための新規かつ改良された方法を提供するものであり、誤差を低減し、実際の血圧を測定する精度を高める改良された血圧測定値を生成することがなお必要とされている。
【0021】
図1は、血圧測定値を得るための処理の一例を示す図である。
図2は、改善された血圧測定プロセスで使用するための血圧測定装置の例示的な構成を示している。
図2の血圧測定装置は、ヒトNの腕N1を圧迫する血圧測定用カフなどのウェアラブル押圧装置1と、生体情報測定装置2と、制御部3とを備える。本実施例では、制御部3は、ウェアラブル押圧部1および生体情報測定装置2に接続して、
図1に概略的に示した血圧測定方法を実行する1つ以上の信号を提供する。
図1において、第1の態様による血圧測定方法は、生体情報測定装置2を用いて、血管からの第1の波信号を検知するステップS100を含む。波信号は一般的に、心臓が血管内に血液を送り出す際に体内で生成される血圧の波形である。本実施例では、測定装置2は、ウェアラブル押圧部1が、測定装置2で測定される血管に対して上流側の血管に圧力を加える、ウェアラブル押圧部1の第1の押圧期間P1の間に、第1の波信号を検知する。具体的には、ウェアラブル押圧部1は、制御部3によって制御される方法で膨張および収縮する血圧測定用カフとすることができ、生体情報測定装置2は、圧力の測定を行うことができる任意のセンサー(例えば、圧力センサー)を含むフィンガークリップ装置とすることができる。そのため、システムは腕N1の上流側の血管の圧力を測定する。加えて、測定装置2は、指N2の血管からの血圧信号である第1の波信号を測定する。
【0022】
図1、
図5、および
図8に示すフローチャートは、システムおよび/または方法に関する動作を詳細に説明することを意図していることに留意されたい。図中で特定されている各項目やボックスは、便宜上のものにすぎない。特に断りのない限り、フローチャートの特徴は、個別に識別された要素で発生する動作を組み合わせることができ、また、要素を異なる順序で配置することができるものと考えられる。
【0023】
本開示の方法は、上述した血圧測定装置とは別の装置を含むことができる。いくつかの例では、ウェアラブル押圧部1は、上流側の血管に制御可能に圧力を加えることができる限り、血圧測定用カフ以外の任意の押圧装置であってもよい。追加の変形例では、ウェアラブル押圧部1の設置場所は、腕N1に限定されない。例えば、生体情報測定装置2が、押圧部1によって圧迫される血管の下流側の血管N2からの血圧信号を検知する限り、押圧位置はヒトNの手首N3であってもよい。追加の変形例として、フィンガークリップのセンサーは、圧力センサー、光学センサー、超音波センサー、電磁センサーなど、またはそれらの組み合わせとすることができる。
【0024】
図4は、第1の押圧期間P1(すなわち、押圧部1が動脈を圧迫している段階)において、制御部3がウェアラブル押圧部1の膨張を制御する場合の波信号を示している。この第1の押圧期間P1において、生体情報測定装置2は、指N2からの第1の波信号W1を検知する。
図3は、ウェアラブル押圧部1が腕N1に与える圧力を、時間の関数として示したものである。第1の押圧期間P1において、ウェアラブル押圧部1が腕N1の上流側の血管に与える圧力は、線形に増加する。その結果、上流側の血管を流れる血流は時間とともに徐々に減少する。これにより、下流側の血管で指N1が受ける血流も、
図4の第1の波信号W1の振幅の減少に示されるように、時間とともに徐々に減少する。
【0025】
図1に示すように、第1の実施形態の血圧測定方法は、ステップS102:第1の波信号W1に応じて、第1の波信号W1のエンベロープ信号E1を生成するステップと、ステップS104:ウェアラブル押圧部1の第2の押圧期間P2中に、生体情報測定装置2を用いて、血管の第2の波信号W2を検知するステップと、ステップS106:第2の波信号W2の波形がエンベロープ信号E1の波形と交差する第1のタイムポイントT1aを決定するステップと、ステップS108:第1のタイムポイントT1aにおいてウェアラブル押圧部1が上流側の血管に与える圧力値を収縮期血圧値として出力するステップと、をさらに有する。
図2乃至4は、ステップS102乃至S108に関連している。
図4に示すように、第1の実施形態の第1の波信号W1は、複数の周期波(C1、C2、...、Cn)を含んでいる。
図4では、本実施例における周期波の定義を説明するために、C1、C2、Cnのみを示している。具体的には、この変形例における各周期波は、第1の波信号W1の隣り合う2つの谷間の信号として定義される。さらに、エンベロープ信号E1の生成は、すべての周期波の隣接する山と谷とをつなぐことで行われる。
【0026】
第1の態様のステップS104において、ウェアラブル押圧部1が上流側の血管に及ぼす圧力が、生体情報測定装置2が波形を検知しないような一定のレベルを超えると、ウェアラブル押圧部1は、第2の押圧期間P2に入る。
図4に例示するように、第2の押圧期間P2中に生体情報測定装置2で検知された血圧信号は、第2の波信号W2である。続いてステップS106、S108では、エンベロープ信号E1の波形と第2の波信号W2の波形とが交差する瞬間を第1のタイムポイントT1aと定義する。さらに、
図3の時間の関数としての、押圧装置1が及ぼす圧力のグラフによれば、第1のタイムポイントT1aにおいて、圧力値Saが得られる。そして、圧力値Saは、収縮期血圧値として設定される。具体的には、第1の押圧期間P1が終了するとエンベロープ信号E1が終了し、第2の押圧期間P2が開始されると第2の波信号W2の波形が開始される。ステップS106において、第2のタイムポイントT2aは、エンベロープ信号E1の延長線と第2の波信号W2の波形とが交差する瞬間と定義される。なお、この変形例では、第1の押圧期間P1が終了した直後に第2の押圧期間P2が開始されることに留意すべきである。そのため、ウェアラブル押圧部1の1回の押圧期間内に、第1の波信号W1および第2の波信号W2が検知される。しかしながら、この方法では追加の変形例が制限されるものではない。これに代えて、第1の波信号W1および第2の波信号W2を個別の押圧期間で検知することができる。特に、第1の押圧期間P1と第2の押圧期間P2との大きな相違点は、生体情報測定装置2が第1の押圧期間P1中に収縮期血圧波形および拡張期血圧波形を検知できることにある。一方、生体情報測定装置2は、ウェアラブル押圧部1による上流側の血管での圧迫により、血管内の血流が悪くなるため、第2の押圧期間P2中に血圧波形を検知することができない。なお、本発明は、第2の押圧期間P2中において、ウェアラブル押圧部2が圧力を増加させるか、低減するか、あるいは一定の圧力を維持するかに限定されるものではない。さらに、本実施形態では、ステップS102およびS104の順序はこれに限定されるものではない。エンベロープ信号E1は、第1の波信号W1および第2の波信号W2がともに検知された後に生成することができる。
【0027】
ステップS108の後に、血圧測定処理は、ステップS110:エンベロープ信号E1が予め定められた振幅A2を有する第2のタイムポイントT2aを決定するステップと、ステップS112:第2のタイムポイントT2aにおいてウェアラブル押圧部1が上流側の血管に及ぼす圧力値を拡張期血圧値として出力するステップと、をさらに含む。本変形例では、エンベロープ信号E1の予め定められた振幅A2は、最大振幅A1の85%である。すなわち、エンベロープ信号E1の振幅が最大振幅A1の85%に減少した瞬間を、本変形例では第2のタイムポイントT2aと定義する。ただし、追加の変形例では、予め定められた振幅A2は最大振幅の50%乃至90%とすることができる。他の変形例では、その人が属するサンプル群に応じて予め定められた振幅A2を決定することができる。例えば、心拍数、血圧波形、年齢、性別、身長、体重などでサンプル群を分類することができる。続いて、
図3の圧力-時間曲線によれば、第2のタイムポイントT2aにおいてウェアラブル押圧部1が腕N1に及ぼす圧力Daが、拡張期血圧値として出力される。
【0028】
この変形例では、拡張期血圧値および収縮期血圧値を制御部3のモニターに表示することができる。しかしながら、拡張期血圧および収縮期血圧を表示または送信する代替的手段は、本開示の範囲内にある。いくつかの変形例では、生体情報測定部2は、拡張期血圧値および収縮期血圧値を表示する小型のディスプレイを含んでもよい。
【0029】
本発明は、上記の方法により、被検者Nの血管から検知された第1の波信号W1に応じて収縮期血圧を直接測定することができる。従来の血圧測定方法と比較して、本発明は、平均血圧から収縮期血圧を算出する必要がなく、これにより、血圧測定の精度を向上させることができる。
【0030】
図5および
図6は、ステップS102が、ステップS200:第2の波信号の平均線W2’を取得するステップと、ステップS202:エンベロープ信号E1を平滑化して修正エンベロープ信号E1’を取得するステップと、ステップS204:修正エンベロープ信号E1’の上限値が平均線W2’と交差する瞬間として第1のタイムポイントT1bを決定するステップと、をさらに含むことができる、本明細書に記載の方法の変形例を示している。
図6に示すように、ステップS200では、平均線W2’は、第2の波信号W2の平均をとって得られた信号強度を持つ線分である。ステップS202では、エンベロープ信号E1を回帰曲線または補間曲線でフィッティングすることにより、エンベロープ信号E1の平滑化を行うことができる。
図6では、エンベロープ信号E1を破線で、修正エンベロープ信号E1’を実線で図示している。ステップS202およびS204により、ヒトNのモーションアーチファクトおよび呼吸変動による第1の波信号W1の誤差を低減することができる。第2の波信号W2が検知されると上流側の血管が閉塞されるので、被検指の血管内の血流が低減する。そのため、第2の波信号W2はモーションアーチファクトおよび呼吸変動の影響を受けにくくなっている。したがって、ステップS204では、修正エンベロープ信号E1’および第2の波信号W2の平均線W2’から得られる第1のタイムポイントT1bを、誤差を抑制した後の収縮期血圧のタイムポイントとする。
【0031】
さらに、
図6および
図7に示すように、S108が実施された場合には、ステップS200乃至S204に従って、第1のタイムポイントT1bからより正確な収縮期血圧値Sbを得ることができる。加えて、この変形例では、第2のタイムポイントT2bは、修正エンベロープ信号E1’の予め定められた振幅A2のタイムポイントから求めることができる。修正エンベロープ信号E1’は、モーションアーチファクトおよび呼吸変動に起因する誤差を低減するので、修正エンベロープ信号E1’から得られる第2のタイムポイントT2bは、拡張期血圧の実際のタイムポイントにより近い。したがって、第2のタイムポイントT2bから得られる拡張期血圧値Dbの方がより正確である。
【0032】
図8乃至11は、別例による血圧を測定する方法を示している。また、本変形例では、ステップS102:変形例における第1の波信号のエンベロープ信号を得るステップは、ステップS302:第1の波信号W1の各周期波の平均値を算出するステップと、ステップS304:対応する各周期波の振幅から平均値を減算することで第1の修正波信号W1’を得るステップと、ステップS306:第1の修正波信号W1’の全ての山から次に全ての谷をつなぐことで第1の波信号W1のエンベロープ信号E2を得るステップと、を含む。具体的には、本実施形態では、まず、
図4の第1の波信号W1の各周期波(C1、C2、…、Cn)の平均値を算出する。そして、対応する各周期波(C1、C2、...、Cn)の振幅から、算出した平均値を減算することで、第1の修正信号W1’が得られる。例えば、周期波C1の振幅から周期波C1の平均値を差し引く、周期波C2の振幅から周期波C2の平均値を差し引くなどである。そして、第2の実施形態のエンベロープ信号E2は、第1の修正波信号W1’の全ての山、そして全ての谷をつなぐことで得られる。
【0033】
ステップS302およびS304は、ハイパスフィルタとして機能し、
図4の第1の波信号W1のベースラインドリフトを除去するための処理を行う。具体的には、
図2および
図4によって参照されるように、ウェアラブル押圧部1が押圧期間P1中に連続して押圧を行うと、腕N1の上流側の血管が所定の程度を超えて圧迫される。これにより、下流側の指N2の血管は動脈血の測定値が取得できなくなり、相対的に下流側の静脈血が上流側の血管を通って心臓に戻ることができなくなる。その結果、相対的に下流側に滞留した静脈血によって、
図4の20秒よりも後の第1の波信号W1で示されるように、第1の波信号W1のベースラインが上方にドリフトしてしまう。第2の押圧期間P2が始まると、相対的に下流側の静脈血中の水分が徐々に血管外に拡散していく。そのため、第2の波信号W2のベースラインは、徐々に下向きにドリフトしていく。加えて、呼吸の変動、血管の動き、および組織内の流体のドリフトなどの低周波の変動が、第1の波信号W1のベースラインドリフトの原因となることがある。この変形例のステップS302、304を経て、
図9に例示するように、ベースラインドリフトをフィルタリングして第1の修正波信号W1’を得ることができる。そして、第2の実施形態のエンベロープ信号E2は、第1の修正波信号W1’の全ての山と全ての谷とをつなぐことで得られる。
【0034】
さらに、エンベロープ信号E2を取得した後に、
図5に詳述した変形を行うことができる。
図8および
図10に示すように、第1の修正波信号W1の曲線フィッティングを行うことで、第1のタイムポイントT1cを得ることができる。具体的には、ステップS310では、第2の波信号W2の平均値を算出して平均線W2’を得る。続いて、ステップS312では、エンベロープ信号E2を平滑化することにより、修正エンベロープ信号E2’が得られる。そして、ステップS314は、平均線W2’と修正エンベロープ信号E2’とが交差する第1のタイムポイントT1cを決定する。
【0035】
変形例において、ステップS314乃至310はステップS106乃至S112と同様である。第2の変形例の修正エンベロープ信号E2’は、第1のタイムポイントT1cおよび第2のタイムポイントT2cを決定するために、第1の実施形態のエンベロープ信号E1を置き換える。この変形例において、第1の修正信号W1’は、低周波の変動による誤差を低減し、修正エンベロープ信号E2’は、モーションアーチファクトおよび呼吸変動を受けた第1の修正信号W1’のノイズをさらに低減する。モーションアーチファクトおよび呼吸変動による平均線W2’のノイズは無視できるレベルである。したがって、修正エンベロープ信号E2’と平均線W2’との交点で得られる第1のタイムポイントT1cは、実際の収縮期血圧のタイムポイントにより近い。
【0036】
さらに、ステップS318では、修正エンベロープ信号E2’の予め定められた振幅A2にある得られた第2のタイムポイントT2cは、モーションアーチファクト、呼吸変動、および信号ドリフトによる誤差が低減されるため、拡張期血圧の実際のタイムポイントにより近い。
図11に示すように、第2の変形例では、第1のタイムポイントT1cおよび第2のタイムポイントT2cにおいてウェアラブル押圧部1がそれぞれ上流側の血管に及ぼす圧力値ScおよびDcが、被検者の実際の収縮期血圧および拡張期血圧に近い値となる。このような観点から、第2の実施形態のステップS302乃至S306は、第1の波信号のドリフトによる誤差を低減することで、血圧測定の精度を向上させる。
【0037】
図12および
図13は、血圧測定方法の追加の変形例を表している。本変形例では、上述の血圧測定装置Dを使用しており、第1の実施形態の後に適用することができる。本変形例の血圧測定方法は、ステップS400:ウェアラブル押圧部の非押圧期間中に生体情報測定装置を用いて血管からの第3の波信号を検知するステップ(第3の波信号は連続波である)と、ステップS402:第3の波信号における山の山値として収縮期血圧値Scを出力するステップと、ステップS404:第3の波信号における前記山に時間的に隣接する谷の谷値として拡張期血圧値Dcを出力するステップと、ステップS406:収縮期血圧値および拡張期血圧値に応じて、第3の波信号における残りの山および谷の山値および谷値をそれぞれ算出するステップと、を含む。
【0038】
また、
図2および
図13は、ウェアラブル押圧部1が上流側の血管を押圧していないときに、生体情報測定装置2が指N2で第3の波信号W3を検知するステップS400を具体的に示している。ステップS402では、本実施形態 は、第2の実施形態で得られた収縮期血圧値Scを、第3の波信号W3における第1の山の山値として出力する。ステップS404では、 本変形例 は、第2の変形例で得られた拡張期血圧値Dcを、第3の波信号W3における第1の谷の谷値として出力する。続いて、ステップS406において、本変形例では、収縮期血圧値Scおよび拡張期血圧値Dcに応じて、第3の波信号W3の縦軸を線形にスケーリングする。したがって、第3の波信号W3の残りの山および谷の値を算出することができる。収縮期血圧値Scおよび拡張期血圧値Dcは、血圧波形の信号処理によって直接測定されるため、収縮期血圧値Scおよび拡張期血圧値Dcに基づいて計算すれば、連続した血圧波形の残りの収縮期血圧値および拡張期血圧値がより正確になる。なお、他の実施形態のステップS402では、収縮期血圧値Scを、第3の波信号W3の任意の山の山値として出力してもよい。他の実施形態のステップS404では、拡張期血圧値Dcを、第3の波信号W3の任意の谷の谷値として出力してもよい。本発明は、図 13に例示した実施形態に限定されるものではない。
【0039】
周知の構造体、材料、または操作は、記載の装置の態様を不明瞭にしないように、詳細に示されたり説明されたりしていない。当業者であれば、本発明の趣旨や範囲から逸脱することなく、説明した実施形態を様々な異なる方法で変更することができる。矛盾することなく、本発明の実施の形態において、要素の例は互いに組み合わせることができることに留意すべきである。したがって、本明細書に記載されている実施形態は、本開示に従って可能なすべての実施形態を網羅することを意図したものではなく、本明細書に開示されている主題に基づいて追加の実施形態が考えられることを理解すべきである。