(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-01
(45)【発行日】2025-08-12
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20250804BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250804BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250804BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250804BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2022566878
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043267
(87)【国際公開番号】W WO2022118737
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2024-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020202073
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】澤 勝一郎
(72)【発明者】
【氏名】守田 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】池田 智季
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0302375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/62
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体上に設けられ、正極活物質及び導電材を含む正極合材層と、を備え、
前記導電材は、カーボンナノチューブを含み、
前記正極合材層を厚み方向において2等分した場合、表面側の上半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は、前記正極集電体側の下半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率より小さい、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質は、一般式:Li
aNi
xM
yO
2-b(式中、MはAl、Co、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W及びZnから選択される少なくとも1種の元素であり、0≦a<1.05、0.7<x≦0.95、0≦y≦0.3、0≦b<0.05、x+y=1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記表面側の上半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は、0.05質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極集電体側の下半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は、0.01質量%以上、1質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極合材層に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は、0.005質量%以上、0.5質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記導電材は粒子状の導電材を含み、
前記表面側の上半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記粒子状の導電材の質量比率は、0.05質量%以上、1.2質量%以下であり、前記正極集電体側の下半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記粒子状の導電材の質量比率は、0.5質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記正極は、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極である、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力、高エネルギー密度の二次電池として、正極、負極、及び非水電解質を備え、正極と負極との間でリチウムイオン等を移動させて充放電を行う非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1~3には、正極活物質と、導電材としてのカーボンナノチューブとを含む正極合材層を備える正極を用いた非水電解質二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/114590号
【文献】特開2019-061734号公報
【文献】特表2018-501602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、カーボンナノチューブを正極合材層に添加することで、正極合材層の電子伝導性を高めることができるため、電池の容量や出力を向上させることができるが、内部短絡時の電池の発熱は大きくなる。内部短絡時の電池の発熱を抑えるには、カーボンナノチューブの添加量を少なくすることが考えられるが、そうすると、電池の容量や出力が低下してしまう。
【0006】
そこで、本開示は、電池の容量や出力の低下を抑えつつ、内部短絡時の電池の発熱を抑えることを可能とする非水電解質二次電池用正極及び当該非水電解質二次電池用正極を備える非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に設けられ、正極活物質及び導電材を含む正極合材層と、を備え、前記導電材は、カーボンナノチューブを含み、前記正極合材層を厚み方向において2等分した場合、表面側の上半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は、前記正極集電体側の下半分の領域に含まれる前記正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率より小さいことを特徴とする。
【0008】
また、本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極、負極、非水電解質を備え、前記正極は、上記非水電解質二次電池用正極であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、電池の容量や出力の低下を抑えつつ、内部短絡時の電池の発熱を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照しながら、実施形態の一例について説明する。なお、本開示の非水電解質二次電池は、以下で説明する実施形態に限定されない。また、実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものである。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
図1に示す非水電解質二次電池10は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板18,19と、上記部材を収容する電池ケース15と、を備える。電池ケース15は、有底円筒形状のケース本体16と、ケース本体16の開口部を塞ぐ封口体17とにより構成される。なお、巻回型の電極体14の代わりに、正極及び負極がセパレータを介して交互に積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、電池ケース15としては、円筒形、角形、コイン形、ボタン形等の金属製外装缶、樹脂シートと金属シートをラミネートして形成されたパウチ外装体などが例示できる。
【0013】
ケース本体16は、例えば有底円筒形状の金属製外装缶である。ケース本体16と封口体17との間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。ケース本体16は、例えば側面部の一部が内側に張出した、封口体17を支持する張り出し部22を有する。張り出し部22は、ケース本体16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。
【0014】
封口体17は、電極体14側から順に、フィルタ23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。内部短絡等による発熱で非水電解質二次電池10の内圧が上昇すると、例えば下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断し、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0015】
図1に示す非水電解質二次電池10では、正極11に取り付けられた正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極12に取り付けられた負極リード21が絶縁板19の外側を通ってケース本体16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の底板であるフィルタ23の下面に溶接等で接続され、フィルタ23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21はケース本体16の底部内面に溶接等で接続され、ケース本体16が負極端子となる。
【0016】
以下、非水電解質二次電池10の各構成要素について詳説する。
【0017】
[正極]
図2は、実施形態の一例である正極の断面図である。正極11は、正極集電体40と、正極集電体40上に設けられた正極合材層42と、を備える。正極集電体40には、アルミニウム等の正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層42は、正極活物質及び導電材を含む。導電材はカーボンナノチューブを含む。正極合材層42は、さらに、結着材等を含むことが好ましい。
【0018】
正極11は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体40上に塗布、乾燥して正極合材層42を形成した後、圧延ローラ等により、正極合材層42を圧延することにより作製される。なお、正極合材層42の作製方法の詳細は後述する。
【0019】
本実施形態では、
図2に示す正極合材層42を厚み方向において2等分した場合、表面側の上半分の領域42bに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率が、正極集電体40側の下半分の領域42aに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率より小さい。ここで、正極合材層42の厚み方向において2等分したとは、正極集電体40と正極合材層42の積層方向を正極合材層42の厚み方向としたとき、正極合材層42の厚みの中間Zで半分に分割することを意味している。そして、正極集電体40の両面に正極合材層42が形成されている場合でも、正極合材層42を厚み方向において2等分した2つの領域のうち、正極集電体40側の領域を下半分の領域42aとし、正極集電体40から離れて位置する正極合材層42の表面側の領域を上半分の領域42bとする。
【0020】
従来のように、正極合材層内に均一にカーボンナノチューブが存在する場合、正極合材層の電子伝導性が高まるため、電池の容量や出力が向上する反面、内部短絡時における正極と負極との間の短絡電流も増加し、電池の発熱も大きくなる。しかし、本実施形態では、表面側の上半分の領域42bに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率が小さいので、正極表面の電子伝導性が下がり、内部短絡時における正極と負極との間の短絡電流を抑えることができるため、正極合材層42内に均一にカーボンナノチューブが存在する場合と比べて、内部短絡時の電池の発熱を抑制できる。また、本実施形態では、正極集電体40側の下半分の領域42aに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は大きいので、正極集電体40と正極合材層42との間の抵抗は低く抑えられるため、電池の安全性確保のためにカーボンナノチューブの添加量を単純に減らした場合より、電池の容量や出力の低下を抑えることができる。
【0021】
表面側の上半分の領域42bに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は、例えば、内部短絡時の電池の発熱を抑制する点で、0.05質量%以下であることが好ましく、0.03質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
正極集電体40側の下半分の領域42aに含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は、例えば、電池の容量や出力の低下を抑制する点で、0.01質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以上、0.08質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
正極合材層42に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は、例えば、電池の容量や出力の低下を抑制する点で、0.005質量%以上、0.5質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上、0.04質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブが挙げられる。単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、グラフェンシートが1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体であり、2層カーボンナノチューブは、グラフェンシートが2層、同心円状に積層して1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体であり、多層カーボンナノチューブは、グラフェンシートが3層以上、同心円状に積層して1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体である。なお、グラフェンシートとは、グラファイト(黒鉛)の結晶を構成するsp2混成軌道の炭素原子が正六角形の頂点に位置する層のことを指す。カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形態が挙げられる。
【0025】
カーボンナノチューブの繊維長は、例えば、500nm以上、200μm以下であることが好ましく、1μm以上、100μm以下であることが好ましい。なお、カーボンナノチューブの繊維長は電界放出型走査顕微鏡(FE-SEM)により任意のカーボンナノチューブ50個の長さを測定し、算術平均により求めることができる。
【0026】
カーボンナノチューブの最外周径(すなわち繊維径)は、例えば、0.5nm以上、20nm以下であることが好ましく、1nm以上、10nm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの最外周径は、電界放出型走査顕微鏡(FE-SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)により任意のカーボンナノチューブ50個の外径を測定し、算術平均により求めることができる。
【0027】
導電材は、カーボンナノチューブの他に、粒子状の導電材が含まれていてもよい。粒子状の導電材は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。粒子状の導電材を使用する場合、その1次粒子径が5nm以上100nm以下であることが好ましく、アスペクト比が10未満であることが好ましい。
【0028】
表面側の上半分の領域42bに含まれる正極活物質に対する粒子状の導電材の質量比率は、電池の容量や出力の低下を抑制する点で、0.05質量%以上、1.2質量%以下であることが好ましく、正極集電体40側の下半分の領域42aに含まれる正極活物質に対する粒子状の導電材の質量比率は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
正極活物質は、Co、Mn、Ni等の遷移金属元素等を含有するリチウム金属複合酸化物等が挙げられる。リチウム金属複合酸化物は、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(M;Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb、Bのうち少なくとも1種、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3)等が挙げられる。正極活物質は、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0030】
また、非水電解質二次電池の高容量化を図ることができる点で、正極活物質は、LiaNixMyO2-b(式中、Mは、Al、Co、Mn、Fe、Ti、Si、Nb、Mo、W及びZnから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0≦a<1.05、0.7<x≦0.95、0≦y≦0.3、0≦b<0.05、x+y=1、なお、aは充放電により変動する)のリチウムニッケル複合酸化物を含むことが好ましい。上記リチウムニッケル複合酸化物のように、ニッケル比率の高い正極活物質を用いることで、電池の高容量化を図ることができるが、その反面、内部短絡時の電池の発熱が大きくなり易い。しかし、本実施形態のように、正極11の表面側のカーボンナノチューブの含有量を小さくすることで、ニッケル比率の高い正極活物質を用いても、内部短絡時の電池の発熱を効果的に抑えることができる。
【0031】
結着材は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
正極合材層42の作製方法の一例を説明する。例えば、正極活物質と、結着材、カーボンナノチューブを含む導電材等を、溶媒と共に混合して、下半分の領域42a用の正極合材スラリーを調製する。また、当該スラリーとは別に、正極活物質と、結着材、カーボンナノチューブを含まない或いは少量含む導電材等を、溶媒と共に混合して、上半分の領域42b用の正極合材スラリーを調製する。そして、正極集電体40の両面に、下半分の領域42a用の正極合材スラリーを塗布、乾燥した後、下半分の領域42a用の正極合材スラリーによる塗膜の上に、上半分の領域42b用の正極合材スラリーを塗布、乾燥することにより、正極合材層42を形成することができる。上記方法では、下半分の領域42a用の正極合材スラリーを塗布、乾燥させてから、上半分の領域42b用の正極合材スラリーを塗布したが、下半分の領域42a用の正極合材スラリーを塗布後、乾燥前に、上半分の領域42b用の正極合材スラリーを塗布する方法でもよいし、下半分の領域42a用の正極合材スラリーと上半分の領域42b用の正極合材スラリーを同時に塗布してもよい。
【0033】
[負極]
負極12は、負極集電体と、負極集電体上に設けられた負極合材層と、を有する。負極集電体は、例えば、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等が用いられる。
【0034】
負極合材層は、負極活物質を含み、さらに、結着材や導電材等を含むことが好ましい。負極12は、例えば、負極活物質、結着材等を含む負極合材スラリーを調製し、この負極合材スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥して負極合材層を形成し、この負極合材層を圧延することにより作製できる。
【0035】
負極活物質は、例えば、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであり、天然黒鉛、人造黒鉛等の炭素材料、ケイ素(Si)、錫(Sn)等のリチウムと合金化する金属、又はSi、Sn等の金属元素を含む合金、複合酸化物等が挙げられる。
【0036】
結着材としては、例えば、フッ素系樹脂、PAN、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩(PAA-Na、PAA-K等、また部分中和型の塩であってもよい)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
導電材は、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、黒鉛等のカーボン系材料などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
[セパレータ]
セパレータ13には、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【0039】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。
【0040】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0041】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテル類などが挙げられる。
【0042】
上記ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステル等を用いることが好ましい。
【0043】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li(B(C2O4)F2)等のホウ酸塩類、LiN(SO2CF3)2、LiN(C1F2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l,mは1以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPF6を用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、溶媒1L当り0.8~1.8molとすることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウムをモル比で87:9:4となるように水溶液中で混合し、共沈させることで前駆体物質である(Ni、Co、Al)(OH)2を得た。その後、この前駆体物質と、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)とをモル比で1:1.03となるように混合した。この混合粉を、酸素雰囲気下の電気炉中で、750℃、12時間焼成することにより、正極活物質を得た。
【0046】
上記正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率が0.05質量%となるように、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びポリフッ化ビニリデンを混合し、その混合物にN-メチルピロリドン(NMP)を適量添加してスラリーを調製した。これを正極合材スラリーAとした。
【0047】
また、上記正極活物質に対するカーボンブラックの質量比率が1.0質量%となるように、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びポリフッ化ビニリデンを混合し、その混合物にN-メチルピロリドン(NMP)を適量添加してスラリーを調製した。これを正極合材スラリーBとした。
【0048】
上記正極合材スラリーAを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布・乾燥し、第1塗膜を形成した後、第1塗膜上に上記正極合材スラリーBを塗布・乾燥して、第2塗膜を形成した。その後、圧延ローラにより塗膜を圧延することにより、正極集電体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。第1塗膜と第2塗膜の厚み比は75:25であった。
【0049】
スラリーの組成、厚み比等から計算すると、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0.05質量%、カーボンブラックの質量比率は0質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0.025質量%、カーボンブラックの質量比率は0.5質量%であった。
【0050】
[負極の作製]
黒鉛、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、スチレン-ブタジエン共重合体の質量比が98:1:1となるように混合し、当該混合物を水と共に混練して、負極合材スラリーを調製した。この負極合材スラリーを、厚さ8μmの銅箔の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、圧延ローラにより圧延することにより、負極集電体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。
【0051】
[非水電解質の作製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)とからなる混合溶媒(体積比で、EC:MEC=1:3)に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解した。これを非水電解質とした。
【0052】
[二次電池の作製]
(1)正極と負極との間に、厚さ20μmのセパレータ(ポリエチレンとポリプロピレンの複合フィルム)を介して巻回し、巻回型の電極体を作製した。正極と負極それぞれにリードを取り付けた。
(2)電極体をケース本体に挿入し、負極側のリードをケース本体の底に溶接し、正極側のリードを封口体に溶接した。
(3)ケース本体内に非水電解質を注入した後、ケース本体の開口端部を、ガスケットを介して封口体にかしめた。これを非水電解し二次電池とした。
【0053】
<実施例2>
第1塗膜と第2塗膜の厚み比を95:5としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0.05質量%、カーボンブラックの質量比率は0質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0.045質量%、カーボンブラックの質量比率は0.1質量%であった。
【0054】
<実施例3>
第1塗膜と第2塗膜の厚み比を50:50としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0.05質量%、カーボンブラックの質量比率は0質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0質量%、カーボンブラックの質量比率は1質量%であった。
【0055】
<実施例4>
第1塗膜と第2塗膜の厚み比を25:75としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0.025質量%、カーボンブラックの質量比率は0.5質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0質量%、カーボンブラックの質量比率は1質量%であった。
【0056】
<比較例1>
第1塗膜と第2塗膜の厚み比を100:0としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0.05質量%、カーボンブラックの質量比率は0質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0.05質量%、カーボンブラックの質量比率は0質量%であった。
【0057】
<比較例2>
第1塗膜と第2塗膜の厚み比を0:100としたこと以外は、実施例1と同様に非水電解質二次電池を作製した。正極合材層を厚み方向において2等分した場合の正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率は0質量%、カーボンブラックの質量比率は1質量%であった。また、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対する前記カーボンナノチューブの質量比率は0質量%、カーボンブラックの質量比率は1質量%であった。
【0058】
[電池容量の測定]
各実施例及び各比較例の非水電解質二次電池に対して、25℃の温度環境下、最大電流値を0.3Itとして、電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行った後、電流値が0.05Itに低下するまで4.2Vで定電圧充電を行った。その後、放電終止電圧を2.5Vに設定して、0.2Itの電流で定電流放電を行った。このときの放電容量を測定した。表1に、比較例1の放電容量を基準(100)として、その他の実施例及び比較例の放電容量を相対値で示した。
【0059】
[出力の測定]
各実施例及び各比較例の非水電解質二次電池に対して、25℃の温度環境下、最大電流値を0.3Itとして、電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行った後、電流値が0.05Itに低下するまで4.2Vで定電圧充電を行った。その後、1.0Itで30秒間放電させて得られた電力量(出力)を測定した。表1に、比較例1の出力を基準(100)として、その他の実施例及び比較例の出力を相対値で示した。
【0060】
[内部短絡時の電池温度の測定]
各実施例及び各比較例の非水電解質二次電池に対して、25℃の温度環境下、0.3Itの定電流で電圧が4.2Vになるまで充電した後、電流値が0.05Itになるまで4.2Vの定電圧で充電した。次いで、各電池をコンクリートブロック上に配置し、電池の軸方向中央部を横切るように直径15,8mmの丸棒を電池の上に配置し、重さ9.1kgの重りを電池の直上61cmの高さから丸棒の上に落下させて電池を内部短絡させ、その時の電池表面の最高到達温度を測定した。表1に、比較例1の最高到達温度を基準(100)として、その他の実施例及び比較例の最高到達温度を相対値で示した。
【0061】
【0062】
カーボンナノチューブを含まない比較例2は、カーボンナノチューブが正極合材層に均一に含まれる比較例1と比べて、内部短絡時の発熱は抑えられるものの、電池の容量及び出力は、比較例1と比べてかなり低下した。一方、正極合材層を厚み方向において2等分した場合の表面側の上半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率が、正極集電体側の下半分の領域に含まれる正極活物質に対するカーボンナノチューブの質量比率より小さい実施例1~4は、比較例1と比べて内部短絡時の発熱は抑えられ、また、比較例1と比べて、電池の容量及び出力は低下するものの、その低下度合は、比較例2と比べて抑えられていた。
【符号の説明】
【0063】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 電池ケース、16 ケース本体、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 張り出し部、23 フィルタ、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、40 正極集電体、42 正極合材層、42a 下半分の領域、42b 上半分の領域。