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特許7721804ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-01
(45)【発行日】2025-08-12
(54)【発明の名称】ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/086 20060101AFI20250804BHJP
   H01M 8/1016 20160101ALI20250804BHJP
   H01G 11/58 20130101ALI20250804BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALN20250804BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20250804BHJP
【FI】
C01B21/086
H01M8/1016
H01G11/58
H01M10/0568
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024523377
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 KR2022009210
(87)【国際公開番号】W WO2023277515
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0085426
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0136110
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523487427
【氏名又は名称】チュンボ カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHUNBO CO.,LTD
(73)【特許権者】
【識別番号】523487438
【氏名又は名称】チュンボ アドバンスド マテリアルズ カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHUNBO ADVANCED MATERIALS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リ,サン ユル
(72)【発明者】
【氏名】パク,イル ソン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,チョン サン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0114962(KR,A)
【文献】特表2019-501858(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1982602(KR,B1)
【文献】特許第5729885(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/169874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/086
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiPF 1gとビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩(MFSI)1gを水50gとエチレンカーボネート(EC)50gの混合溶媒に溶かして溶液Aiを製造する段階、
イオンクロマトグラフィー法で溶液Aiの中でのPF の濃度(Ci)を測定する段階、
常温で24時間撹拌して溶液Atを得る段階、及び
イオンクロマトグラフィー法で溶液Atの中でのPF の濃度(Ct)を測定する段階によって測定され、下記式(1)で計算されたLiPFの分解安定性が95%以上になるLiPFの分解安定性を持ち、
前記イオンクロマトグラフィー法は内部標準物質として、LiOSO CF (LiOTf)1重量%溶液1gと前記溶液Ai 1gを混合してピーク強度(PF のピーク強度/OTfのピーク強度)を比べて測定する方法であり、
スルファミン酸誘導体を500重量ppm以下に含み、
前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を水に10重量%の濃度で溶解させた時、溶液のpHが6‐8になるものであるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩。
式(1)
LiPFの分解安定性%=Ct/Ci×100
【請求項2】
(a)窒素雰囲気下でビス(クロロスルホニル)イミドとNHFを溶媒1の中で反応させてアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドを製造する段階;
(b)前記(a)段階で得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドをアルカリ金属塩と反応させてビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を製造する段階;
(c)前記(b)段階の反応溶液に逆溶媒(antisolvent)として溶媒2を投入して沈殿物を得る段階;
(d)前記(c)段階の溶液を濾過して沈殿物を回収してビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を得る段層を含んで製造され、
前記溶媒1が水分を500重量ppm以下含み、
(a)段階の反応中または反応後、(b)段階前に窒素ガスをバブリングしてHFを取り除くことを特徴とし、
前記溶媒1は、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル‐t‐ブチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び酢酸ブチルからなる群から選択された1種以上であることとし、
前記溶媒2は、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム及びジクロロメタンからなる群から選択される1種以上であることとし、
前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHが6‐8になり、
LiPF 1gと前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩1gを水50gとエチレンカーボネート(EC)50gの混合溶媒に溶かして溶液Aiを製造する段階、
イオンクロマトグラフィー法で溶液Aiの中でのPF の濃度(Ci)を測定する段階、
常温で24時間撹拌して溶液Atを得る段階、及び
イオンクロマトグラフィー法で溶液Atの中でのPF の濃度(Ct)を測定する段階によって測定され、下記式(1)で計算されたLiPF の分解安定性が95%以上になるLiPF の分解安定性を持ち、
前記イオンクロマトグラフィー法は内部標準物質として、LiOSO CF (LiOTf)1重量%溶液1gと溶液Ai 1gを混合してピーク強度(PF のピーク強度/OTfのピーク強度)を比べて測定する方法であり、
スルファミン酸誘導体を500重量ppm以下に含むことを特徴とするLiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩の製造方法。
式(1)
LiPF の分解安定性%=Ct/Ci×100
【請求項3】
(b)段階は、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの固体への回収なしに、(a)段階の反応液にアルカリ金属塩を追加することを特徴とする請求項に記載のLiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF)に対する分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩(MFSI)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器の大衆化、電気自動車の商用化及び電気貯蔵装置に対する需要の増加につれ、高出力、高エネルギー密度、高放電電圧などの性能を取り揃えた二次電池が開発されている。
【0003】
リチウム二次電池は、負極、正極、分離膜及び電解液を含む。
【0004】
電解液は、正極と負極との間でリチウムイオンの移動のための媒質の役目をしながら電池の熱的、電気的、物理的安全性を向上させる機能をするもので、溶媒(solvent)、塩(salt)と一緒に多様な添加剤(additive)からなっている。塩(salt)として主にリチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF)が使われ、これはイオン伝導度(ionic conductivity)、熱安全性(thermal stability)、電気化学的安全性(electrochemical stability)に係って、最も重要なリチウム供給源である。溶媒(solvent)は塩を解離(dissociation)させる役目をし、カーボネート(carbonate)系とエステル系が主に使われ、どの種類の溶媒を使うのかによってバルクイオン伝導度(bulk ionic conductivity)、粘度(viscosity)、密度(density)、濡れ性(wettability)が決まる。添加剤(additive)は数多く存在しSEI(solid electrolyte interphase)生成と関連がある。
【0005】
一方、リチウム塩としてリチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF)は優れる性能を取り揃えていて、比較的に安価によって電解液内の電解質として使われているが、フッ化水素酸気体の形態に分解される短所を持つ。
【0006】
前記短所を克服するために、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)及びLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)が開発された。このような塩は、自発的分解を若干示したり、または示さず、LiPFより加水分解にもっと安定する。
【0007】
したがって、最近電解質、特に電気車用電解質としては、LiPFとLiFSI、LiPO、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiDFOP)、リチウムビス(オキサラート)ホウ酸(LiBOB)などが一緒に使われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者らは、二次電池用電解質としてLiPFが他の電解質、特にLiFSIと一緒に使われる場合、LiPFの加水分解が促進されることを見つけた。
【0009】
ここで、本発明は、LiPFの分解を促進させないビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を提供しようとした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために努力し、本発明は、LiPF 1gとビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩(MFSI)1gを水50gとエチレンカーボネート(EC)50gの混合溶媒に溶かして溶液Aiを製造する段階、
イオンクロマトグラフィー法で溶液Aiの中でのPF の濃度(Ci)を測定する段階、
溶液Aiを常温で24時間撹拌して溶液Atを得る段階、及び
イオンクロマトグラフィー法で溶液Atの中でのPF の濃度(Ct)を測定する段階によって測定され、下記式(1)で計算されたLiPFの分解安定性が95%以上になる、LiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を提供する。
【0011】
式(1)
LiPFの分解安定性%=Ct/Ci×100
【0012】
本発明は、前記LiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHが6‐8になることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のLiPFの分解に対する安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、電解液でLiPFの分解を促進させずに安定性を高める効果がある。本発明は、電解液内でHFの発生を減少させることにより、正極及び負極の被膜の破壊を防ぐ効果がある。本発明は、電池の充放電能力の減少を沮止する効果があり、その結果、電池の寿命を延ばせる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0015】
本発明は、LiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩に関する。
【0016】
本発明は、電解液でLiPFと一緒に使われてもLiPFの分解安定性を高めることができるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を提供するために努力し、LiPF 1gと前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩(MFSI)1gを水50gとエチレンカーボネート(EC)50gの混合溶媒に溶かして溶液Aiを製造する段階、イオンクロマトグラフィー法で溶液Aiの中でのPF の濃度(Ci)を測定する段階、溶液Aiを常温で24時間撹拌して溶液Atを得る段階、及びイオンクロマトグラフィー法で溶液Atの中でのPF の濃度(Ct)を測定する段階によって測定され、下記式(1)で計算されたLiPFの分解安定性が95%以上であるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩の場合、LiPFの分解安定性を高めることができることを見つけて本発明を完成した。
【0017】
式(1)
LiPFの分解安定性%=Ct/Ci×100
【0018】
前記アルカリ金属(M)は、Li、Na、KまたはCsであってもよく、好ましくはLiである。
【0019】
ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩1gとLiPF61gとを、水とエチレンカーボネート(EC)とを1:1の重量比で混合した溶媒に溶解させ、常温で24時間撹拌した以後のPF の濃度が初期PF 濃度と対比して95%以上である場合、前記ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩をLiPFと一緒に電解液に使ってもLiPFが分解されず、安定して正極及び負極の被膜の破壊を防ぎ、電池の充放電能力の減少を沮止し、その結果、電池の寿命を延ばせることができる。一方、前記値が95%未満である場合、電解液内のLiPFが分解されて正極及び負極の被膜を破壊することができ、その結果、電池の寿命を短縮させることができる。
【0020】
本発明のイオンクロマトグラフィー法は内部標準物質として、LiOSOCF(LiOTf)1重量%溶液(水50gとエチレンカーボネート50gとの混合溶媒を使用)1gと前記溶液Ai 1gを混合してピーク強度(PF のピーク強度/OTfのピーク強度)を比べて測定する方法であってもよい。
【0021】
ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、ビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びNHFを利用してアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NHFSI)を製造する段階、及び前記アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びアルカリ金属塩化合物を利用してビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を製造する段層を含んで製造されることができる。
【0022】
しかし、前記方法は副産物として下記化学式(1)のスルファミン酸誘導体が発生され、これがビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩の品質を低下させる原因として作用するようになる。化学式(1)のスルファミン酸誘導体は、HCSIの加水分解によって生成されると予想される。
【0023】
【化1】
【0024】
このようなスルファミン酸誘導体を含むMFSIがLiPFと一緒に電解液に含まれる場合、スルファミン酸誘導体は強酸としてLiPFの加水分解を促進させる触媒の役目をし、下記反応式によって二次電池内にはHFが生成される。生成されたHFは、正極または負極のSEI膜に作用してSEI膜の分解を促進させ、結果的に電池の寿命を短縮させる。LiFSIを例えて説明すれば、下記式(2)のとおりである。
【0025】
【0026】
したがって、MFSI内のスルファミン酸誘導体の含量が調節される必要がある。
【0027】
本発明は、スルファミン酸誘導体の含量が調節されたMFSIを提供するために努力した結果、MFSIの製造に使われる溶媒内に存在する水の含量を減少させたり、または反応溶液中のHFの含量を減少させる場合、スルファミン酸誘導体の含量が減少されたMFSIを提供することができ、その結果、電解液内でLiPFの分解を防止することができることを見つけ出した。特に、MFSI製造反応の反応溶媒内に存在する水の含量が500重量ppm以下である場合、HCSIなどの加水分解が減少してスルファミン酸誘導体の生成が減少し、その結果、LiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を提供することができる。
【0028】
本発明は、前記LiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩がスルファミン酸誘導体を500重量ppm以下に含むことを特徴とする。スルファミン酸誘導体が500重量ppm以下で含まれる場合、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩をLiPFと一緒に電解液に含ませてもLiPFの分解が促進されない効果がある。
【0029】
本発明のLiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、ビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びNHFをビス(クロロスルホニル)イミドの加水分解を抑制しながら溶媒1で反応させてアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NH4FSI)を製造する段階、及び前記アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びアルカリ金属塩化合物を利用してビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を製造する段層を含んで製造されることができる。
【0030】
本発明は、ビス(クロロスルホニル)イミドの加水分解を抑制するために溶媒1の水分の含量を500重量ppm以下にすることができる。
【0031】
本発明のLiPFの分解安定性を高めるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、
(a)窒素雰囲気下でビス(クロロスルホニル)イミドとNHFを、ビス(クロロスルホニル)イミドの加水分解を抑制しながら溶媒1の中で反応させてアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドを製造する段階;
(b)前記(a)段階で得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドをアルカリ金属塩と反応させてビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を製造する段階;
(c)前記(b)段階の反応溶液に逆溶媒(antisolvent)として溶媒2を投入して沈殿物を得る段階;及び
(d)前記(c)段階の溶液を濾過して沈殿物を回収して、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を得る段層を含んで製造される。
【0032】
(a)段階の反応は下記反応式のとおりである。
【0033】
【0034】
前記反応において、NHFは、ビス(クロロスルホニル)イミド1モルに対して2ないし10モル、好ましくは2.5ないし5モル反応させることができる。この場合、ビス(クロロスルホニル)イミドの中の塩素を充分フッ素で置換させることができる。
【0035】
前記式(3)の工程では様々な酸が生成される。そのうち、HFも生成されるが、これを窒素ガスバブリングによって反応溶液の中で取り除いたら、HFがかなり除去された状態で次の工程を進行することができるので、出発物質または中間生成物の加水分解を減らすことができる。前記反応溶液に、窒素ガスバブリングは反応中にすることもでき、反応完了後(b)段階の前にすることもできる。窒素ガスのバブリングは反応溶液から排出されるガスのpHが6‐8になるまでバブリングを実施することができる。前記pHが6.5‐7.5になる時点で窒素ガスバブリングを中断することがより好ましく、pHが6.8‐7.2になる時点で窒素ガスバブリングを中断することがさらに好ましい。
【0036】
前記(a)段階の溶媒1は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を溶解させることができる溶媒であって、好ましくは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル‐t‐ブチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0037】
本発明者らは、前記溶媒が水分を多量含む場合、反応物または生成物の加水分解を起こすことができ、特に、反応溶液にHFのような酸が存在する場合、下記式(4)のような加水分解反応が促進されることができることを認識した。このような加水分解反応の結果、反応溶液の中にスルファミン酸誘導体が生成されることができる。
【0038】
【0039】
したがって、本発明は、反応物または生成物の加水分解反応を防止するために反応溶液中のHF含量を減らし、また溶媒1内の水分の含量を500重量ppm以下、好ましくは200重量ppm以下にする必要がある。
【0040】
(a)段階のフッ素化反応時の温度は、反応の進行状況に応じて適宜調整することができ、好ましくは‐40℃‐200℃、より好ましくは‐20℃‐100℃である。反応に要する時間は反応規模によって相異であるが、好ましくは0.1時間‐48時間、より好ましくは0.5時間‐24時間である。
【0041】
(a)段階以後、(b)段階前に反応結果物を常温まで冷却させてNHClなどの不溶性物質を濾過して取り除いて、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含む濾過液を得る段層をさらに含むことができる。
【0042】
(b)段階は、得られたアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドをアルカリ金属塩と反応させてビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を製造する段階である。前記反応は、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドを固体で回収した後でアルカリ金属塩と反応させることもできるが、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの固体への回収なしに、(a)段階の反応結果物にアルカリ金属塩を追加する場合、別途のアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの回収工程が必要ないため、工程時間及び努力を短縮することができ、生成物の損失を減らすことができる長所がある。
【0043】
前記アルカリ金属塩は、MF、MOH、MCOなどであってもよく、好ましくはMOHで、より好ましくはLiOHである。
【0044】
アルカリ金属塩の使用量は、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド1モルに対して、好ましくは1モル‐10モル、より好ましくは1モル‐5モルである。
【0045】
アルカリ金属塩への反応時の温度は特に限定されないが、好ましくは0℃‐200℃、より好ましくは10℃‐100℃である。反応に要する時間は反応規模によって相違であるが、好ましくは0.1時間‐48時間、より好ましくは0.5時間‐24時間である。
【0046】
反応は常圧下でも実施可能であるが、減圧下で実施すれば副生するアンモニアが除去されて目的物が合成されやすい。減圧する場合、反応圧力は特に限定されないが、大気圧未満の‐0.01torrが好ましく、0℃‐100℃で溶媒が還流するほどの減圧度がより好ましい。
【0047】
本発明のビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩の製造のための反応容器はフッ素樹脂やポリエチレン製などの樹脂製がより好ましい。
【0048】
前記(b)段階以後、副産物で生成される塩などの除去のために水で抽出する段層を含むことができる。
【0049】
(c)段階の溶媒2は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩を溶解させない逆溶媒(antisolvent)であって、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、クロロホルム、ジクロロメタンなどからなる群から選択される1種以上のものであってもよい。(b)段階後、反応溶液から一部の溶媒を取り除いた後、溶媒2を投入することもできる。
【0050】
前記(c)段階において、逆溶媒(antisolvent)は、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩100重量部を基準にして50‐500重量部で投入されることができ、より好ましくは80‐300重量部で投入されることができる。逆溶媒の投入量が上述した範囲未満である場合、ビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩が充分に収得されないおそれがあって好ましくないし、上述した範囲を超過する場合、効果は増加せず、その他不要な副産物も一緒に沈澱されることがあるので好ましくない。
【0051】
本発明の前記方法で製造された、LiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、スルファミン酸の含量が500重量ppm以下であってもよい。前記スルファミン酸の含量が500重量ppm以下であるLiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、水に10重量%の濃度で溶解させた時、溶液のpHが6‐8になることを特徴とする。
【0052】
本発明の製造方法によって得られるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、LiPFの分解に対する安定性を高めるので、電解液でLiPFと一緒に使われることができる。よって、一次電池、リチウムイオン二次電池などの二次電池、電解コンデンサー、電気二重層キャパシタ、燃料電池、太陽電池、エレクトロクロミック素子などの電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好ましく使うことができる。
【0053】
(発明を実施するための形態)
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明なことであり、このような変更及び修正が本発明の特許請求範囲に属することも当然である。
【0054】
実施例1.ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩の合成1
撹拌装置、コンデンサー及び温度計が附着された反応器に窒素雰囲気下で水分を精製したフッ化アンモニウム79.6g(2.15mole)及び水分の含量が100重量ppmである酢酸ブチル600gを常温で投入した。前記混合物を撹拌しながらビス(クロロスルホニル)イミド100g(0.47mole)をゆっくり投入した後、80℃に昇温した後、2時間反応させた。
【0055】
前記反応物で固相を取り除かない状態で温度を60℃まで冷却させ、窒素ガスバブリングを実施した。飛んでいくガスのpHを5分おきにpHペーパーを使って確認し(初期pH約3)、pHが7になる時点で窒素ガスのバブリングを中断した。反応物の温度を10℃以下に冷却させて、濾過した。
【0056】
前記濾過したアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むろ液に水酸化リチウム一水物25.5g(0.61mole)を投入して撹拌した。以後、5℃未満で反応を4時間進行した後、反応を終決した。
【0057】
蒸溜水75gを入れて撹拌した後、層を分離して蒸溜水層を取り除いた。また蒸溜水23gを入れて撹拌した後、層を分離して蒸溜水層を取り除いた。得られた有機層を濾過して濃縮した後、トルエン208gを投入し、濾過して固体を収得して、真空乾燥してLiPFの分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を収得した。前記ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を水に10重量%の濃度で溶解させた時、溶液のpHは7.4であった。
【0058】
実施例2.ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩の合成2
水分の含量が200重量ppmである酢酸ブチルを使うことを除いては、実施例1と同様に遂行してLiPF分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を収得した。前記ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHは7.2であった。
【0059】
実施例3.ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩の合成3
水分の含量が400重量ppmである酢酸ブチルを使うことを除いては、実施例1と同様に遂行してLiPF分解安定性を持つビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を収得した。前記ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHは7.1であった。
【0060】
比較例1.
ガスバブリングを実施せず、水分の含量が650重量ppmである酢酸ブチルを使ったことを除いては、実施例1と同様に遂行してビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を収得した。前記ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHは5.9であった。
【0061】
比較例2.
ガスバブリングを実施せず、水分の含量が2,000重量ppmである酢酸ブチルを使ったことを除いては、実施例1と同様に遂行してビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を収得した。前記ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を水に10重量%の濃度で溶解した時、溶液のpHは5.7であった。
【0062】
実験例1.LiPFの分解安定性試験
実施例1で製造したビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩1g及びLiPF 1gを水50gとエチレンカーボネート(EC)50gの混合溶媒に溶かして溶液Aiを製造し、イオンクロマトグラフィー法で溶液Aiの中でのPF の濃度(Ci)を測定した。
【0063】
前記溶液Aiを常温で24時間撹拌して溶液Atを得て、イオンクロマトグラフィー法で溶液Atの中でのPF の濃度(Ct)を測定し、下記式(1)でLiPFの分解安定性を得て、これを下記表1に示す。
【0064】
式(1)
LiPFの分解安定性%=Ct/Ci×100
【0065】
実施例2、実施例3、比較例1及び比較例2で得たビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩を利用して同様に遂行し、LiPFの分解安定性を測定してこれを下記表1に示す。
【0066】
[イオンクロマトグラフィー法]
本発明で利用したイオンクロマトグラフィー法は、次のとおりである。
【0067】
濃度の測定時には非加水分解性リチウム塩を内部標準物質として、LiOSOCF(LiOTf)1重量%溶液(水50gとエチレンカーボネート50gの混合溶媒を使用)1gと前記溶液Ai 1gを混合してピーク強度(PF のピーク強度/OTfのピーク強度)を比べて測定した。
【0068】
炭酸水素ナトリウム0.252gと炭酸ナトリウム0.2544gを水に溶かして1Lに製造した溶液を展開溶媒として使用し、カラムはサーモフィッシャーサイエンティフィック社のDionex IonPac AS23‐4μm ICカラムを使った。
【0069】
【表1】
【0070】
本発明の方法で測定されたPF分解安定性が実施例1ないし3で製造されたビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩の場合95%以上であるため、前記物質をLiPFと混合して電解質で使う場合、LiPFの分解を防止して効率的に使われることができる。一方、比較例で製造されたビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム塩の場合、90%以下で示され、この場合、前記物質をLiPFと混合して電解質として使う場合、LiPFの分解を促進する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法によって得られるビス(フルオロスルホニル)イミドアルカリ金属塩は、LiPFの分解に対する安定性を高めるので、電解液でLiPFと一緒に使われることができる。よって、一次電池、リチウムイオン二次電池などの二次電池、電解コンデンサー、電気二重層キャパシタ、燃料電池、太陽電池、エレクトロクロミック素子などの電気化学デバイスに使われることができる。