(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】電動制動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/22 20060101AFI20250805BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20250805BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20250805BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20250805BHJP
F16D 125/48 20120101ALN20250805BHJP
【FI】
F16D65/22
B60T13/74 G
F16D121:24
F16D125:40
F16D125:48
(21)【出願番号】P 2021160606
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2024-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/199237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/22
B60T 13/74
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 125/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールシリンダと電動アクチュエータとの夫々がバッキングプレートに組付けられていて、前記電動アクチュエータが前記ホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置であって、
前記バッキングプレートは、同バッキングプレートの一部を構成するプレート本体に、同バッキングプレートの残りの部分を構成するサブプレートが組付けられていることで構成されていて、
前記サブプレートには、第1面側に前記ホイールシリンダが組付けられていて、前記第1面側の裏面側である第2面側に前記電動アクチュエータが組付けられて
おり、
前記サブプレートは、前記バッキングプレートの外周部を含み、
前記サブプレートにおいて前記プレート本体との境界部に沿って形成されているスリットに、前記プレート本体において前記サブプレートとの境界部である縁部が挿入されている
電動制動装置。
【請求項2】
ホイールシリンダと電動アクチュエータとの夫々がバッキングプレートに組付けられていて、前記電動アクチュエータが前記ホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置であって、
前記バッキングプレートは、同バッキングプレートの一部を構成するプレート本体に、同バッキングプレートの残りの部分を構成するサブプレートが組付けられていることで構成されていて、
前記サブプレートには、第1面側に前記ホイールシリンダが組付けられていて、前記第1面側の裏面側である第2面側に前記電動アクチュエータが組付けられて
おり、
前記プレート本体において、前記サブプレートが固定された状態で前記ホイールシリンダが位置する側の面を同プレート本体の第1面とし、もう一方の面を同プレート本体の第2面とした場合、
前記プレート本体には、前記ホイールシリンダが通過可能な開口が形成されており、
前記サブプレートは、前記開口を覆う状態で前記プレート本体の第2面に組付けられている
電動制動装置。
【請求項3】
各々がバッキングプレートに組付けられたホイールシリンダと電動アクチュエータとを備え、前記電動アクチュエータが前記ホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置を製造する方法であって、
前記バッキングプレートの一部を構成するサブプレートは、前記バッキングプレートの外周部を含むものであり、
前
記サブプレートの第1面側に前記ホイールシリンダを組付ける工程と、前記第1面の裏面側である第2面側に前記電動アクチュエータを組付ける工程と、を含む第1工程と、
前記第1工程において前記ホイールシリンダ及び前記電動アクチュエータが組付けられた前記サブプレートを、前記バッキングプレートの残りの部分を構成するプレート本体に組付ける第2工程と、
を含
み、
前記第2工程では、前記サブプレートにおいて前記プレート本体との境界部に沿って形成されているスリットに、前記プレート本体において前記サブプレートとの境界部である縁部を挿入することによって、前記サブプレートを前記プレート本体に組付ける
電動制動装置の製造方法。
【請求項4】
各々がバッキングプレートに組付けられたホイールシリンダと電動アクチュエータとを備え、前記電動アクチュエータが前記ホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置を製造する方法であって、
前記バッキングプレートの一部を構成するサブプレートの第1面側に前記ホイールシリンダを組付ける工程と、前記第1面の裏面側である第2面側に前記電動アクチュエータを組付ける工程と、を含む第1工程と、
前記第1工程において前記ホイールシリンダ及び前記電動アクチュエータが組付けられた前記サブプレートを、前記バッキングプレートの残りの部分を構成するプレート本体に組付ける第2工程と、
を含
み、
前記プレート本体において、前記サブプレートが固定された状態で前記ホイールシリンダが位置する側の面を同プレート本体の第1面とし、もう一方の面を同プレート本体の第2面とした場合、
前記プレート本体は、前記ホイールシリンダが通過可能な開口が形成されたものであり、
前記第2工程では、前記ホイールシリンダを、前記プレート本体の第2面側から前記開口を通過させて、前記サブプレートを前記プレート本体の第2面に接触させた状態で前記開口を覆うように前記プレート本体の第2面に前記サブプレートを組付ける
電動制動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッキングプレートに組付けられたホイールシリンダを、同バッキングプレートに組付けられた電動アクチュエータにより駆動して車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。ホイールシリンダは、減速機構及び直動変換機構と共にハウジング内に収容されている。
【0003】
こうした従来の電動制動装置では、ホイールシリンダ及び電動アクチュエータを、下記の手順でバッキングプレートに組付けている。なお、以下の説明では、バッキングプレートにあって、ホイールシリンダが位置する側の面を同バッキングプレートの第1面と記載し、電動アクチュエータが位置する側の面を同バッキングプレートの第2面と記載する。上記組付けに際しては、まず、バッキングプレートに形成された開口を通じて上記ハウジングの一部が第2面側に突出した状態で、同ハウジングをバッキングプレートの第1面に固定する。そして、ハウジングにおける第2面側に突出した部分に、電動アクチュエータを固定することで、ホイールシリンダ及び電動アクチュエータをバッキングプレートに組付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の電動制動装置では、ホイールシリンダ及び電動アクチュエータの組付に際して、体格が大きくて取り回しが難しいバッキングプレートの第1面側、第2面側のそれぞれにおいて、部品の固定作業を行う必要がある。そのため、製造に際しての部品の組付け作業が煩雑となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電動制動装置は、ホイールシリンダと電動アクチュエータとの夫々がバッキングプレートに組付けられていて、電動アクチュエータがホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置である。同電動制動装置におけるバッキングプレートは、同バッキングプレートの一部を構成するプレート本体に、同バッキングプレートの残りの部分を構成するサブプレートが組付けられていることで構成されている。そして、サブプレートには、第1面側にホイールシリンダが組付けられていて、第1面側の裏面側である第2面側に電動アクチュエータが組付けられている。
【0007】
上記電動制動装置では、プレート本体にサブプレートが組付けられている。さらに、サブプレートの第1面側にホイールシリンダが組付けられていて、第2面側に電動アクチュエータが組付けられている。そのため、サブプレートを、ホイールシリンダ及び電動アクチュエータが固定された状態のまま、プレート本体に固定することも可能である。そのため、上記電動制動装置では、その製造に際して、ホイールシリンダ及び電動アクチュエータを纏めてバッキングプレートに組付けることが可能である。よって、上記電動制動装置によれば、製造時の部品組付の作業性を向上することが可能となる。
【0008】
上記課題を解決する電動制動装置の製造方法は、各々がバッキングプレートに組付けられたホイールシリンダと電動アクチュエータとを備え、前記電動アクチュエータが前記ホイールシリンダを駆動することで車輪に制動力を発生させるドラム式の電動制動装置の製造に関する。同製造方法は、バッキングプレートの一部を構成するサブプレートの第1面側にホイールシリンダを組付ける工程と、第1面の裏面側である第2面側に電動アクチュエータを組付ける工程と、を含む第1工程と、第1工程においてホイールシリンダ及び電動アクチュエータが組付けられたサブプレートを、バッキングプレートの残りの部分を構成するプレート本体に組付ける第2工程と、を含む。
【0009】
上記製造方法では、予めホイールシリンダ及び電動アクチュエータが組付けられたサブプレートをプレート本体に固定することで、バッキングプレートの異なる面にホイールシリンダ及び電動アクチュエータがそれぞれ組付けられる。バッキングプレートへのホイールシリンダ及び電動アクチュエータを纏めて行えるため、製造時の部品組付の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の電動制動装置の平面図である。
【
図3】同電動制動装置におけるバッキングプレートへの駆動部の組付時の状態をバッキングプレートの正面側から見た図である。
【
図4】同組付時の状態をバッキングプレートの側方から見た図である。
【
図5】第2実施形態の電動制動装置のプレート本体の平面図である。
【
図7】同電動制動装置におけるバッキングプレートへの駆動部の組付時の状態をバッキングプレートの側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、電動制動装置、及びその製造方法を具体化した第1実施形態を、
図1~
図4に従って説明する。本実施形態の電動制動装置10は、電動により車輪に制動力を発生させるドラム式の制動装置である。
【0012】
<電動制動装置10の構成>
まず、
図1を参照して、電動制動装置10の構成を説明する。
図1に示すように、電動制動装置10は、ブレーキドラム11、及びバッキングプレート12を備えている。ブレーキドラム11は、電動制動装置10が車両に組付けられた際に、車輪と一体となって回転するように車軸に固定される。また、バッキングプレート12は、電動制動装置10が車両に組付けられた際に車体に固定される。
【0013】
バッキングプレート12は、車軸を通すための軸穴13が中央に形成された円環形状の金属板である。以下の説明では、電動制動装置10が車両に組付けられた際に、バッキングプレート12から見てブレーキドラム11が位置する側をバッキングプレート12の表側、その反対側をバッキングプレート12の裏側と記載する。バッキングプレート12の表側の面には、ホイールシリンダ14が組付けられている。また、バッキングプレート12の表側の面にあって、ホイールシリンダ14との間に軸穴13が位置する部分には、アンカー部材15が固定されている。
【0014】
電動制動装置10は、一対のブレーキシュー16、17と、駆動部20と、を有している。ブレーキシュー16、17は、ブレーキドラム11の内周面の形状に倣った円弧状の外周面を有している。ブレーキシュー16、17の外周面には、摩擦材18がそれぞれ取り付けられている。そして、両ブレーキシュー16、17の一端は、ホイールシリンダ14にそれぞれ係合されている。また、両ブレーキシュー16、17のもう一方の端は、回動自在にアンカー部材15に支持されている。ホイールシリンダ14に係合した端同士の間隔が広がるように両ブレーキシュー16、17が回動すると、ブレーキドラム11の内周面に摩擦材18が押圧される。電動制動装置10は、このときの押圧により、ブレーキドラム11の内周面と摩擦材18との間に発生する摩擦で、車輪に制動力を発生させる。なお、2つのブレーキシュー16、17の間には、戻しばね19が掛け渡されている。そして、両ブレーキシュー16、17は、この戻しばね19により、ブレーキドラム11の内周面から摩擦材18が離間する方向に付勢されている。駆動部20は、ブレーキシュー16、17を駆動する。
【0015】
<駆動部20の構成及び動作>
次に、
図2を併せ参照して、駆動部20の構成を説明する。駆動部20には、ホイールシリンダ14、電気モータ21、コントローラ22、ハウジング23が含まれる。電気モータ21は、給電に応じて動力を発生する電動アクチュエータである。コントローラ22は、車輪に発生させる制動力の調整のため、電気モータ21の制御する電子制御装置である。コントローラ22は、マイクロプロセッサ及びメモリが実装された電気回路と、電気モータ21の駆動回路と、を有している。ハウジング23は、ホイールシリンダ14、及び、電気モータ21からホイールシリンダ14に動力を伝達するための機構を収容する筐体である。
【0016】
ハウジング23の内部には、第1小径ギア30、第1大径ギア31、第2小径ギア32、及び第2大径ギア33の4つのギアが配置されている。第1小径ギア30は、電気モータ21の回転軸29に一体となって回転するように連結されている。また、第1小径ギア30には、同第1小径ギア30よりもギア歯数の多い第1大径ギア31が噛み合わされている。第1大径ギア31には、第2小径ギア32が一体となって回転するように連結されている。第2小径ギア32は、同第2小径ギア32よりもギア歯数の多い第2大径ギア33に噛み合わされている。これら第1小径ギア30、第1大径ギア31、第2小径ギア32、及び第2大径ギア33は、電気モータ21の回転を減速してホイールシリンダ14に伝達する。
【0017】
ホイールシリンダ14は、ハウジング23の内部に形成されたシリンダ24と、シリンダ24内に配置された第1ピストン25及び第2ピストン26と、を有している。第1ピストン25は、ハウジング23の外部に突出して、ブレーキシュー16の一端に係合される押圧部27を有している。また、第2ピストン26は、ハウジング23の外部に突出して、もう一方のブレーキシュー17の一端に係合される押圧部28を有している。これらの押圧部27、28は、両ブレーキシュー16、17に掛け渡された戻しばね19により、ハウジング23からの突出量が減少する側への押圧が加わっている。この押圧により、第1ピストン25は、ねじ軸35の端部に当接されている。なお、第1ピストン25及び第2ピストン26は、ブレーキシュー16、17との係合等を通じて回り止めされている。
【0018】
シリンダ24における第1ピストン25と第2ピストン26との間の部分には、第2大径ギア33が配置されている。第2大径ギア33の内周には、軸方向に延びる内歯スプライン34が形成されている。また、シリンダ24の内部には、第2大径ギア33に挿通された状態でねじ軸35が配置されている。ねじ軸35は、軸方向に延びる外歯スプライン36を有している。ねじ軸35は、内歯スプライン34への外歯スプライン36の係合を通じて、一体となって回転する一方で、軸方向に移動自在に第2大径ギア33に連結されている。ねじ軸35は、第2ピストン26の内周に形成された雌ねじ部38に噛み合う雄ねじ部37を、第2ピストン26側の端部に有している。以上のようにホイールシリンダ14は、シリンダ24内に配置された第2大径ギア33、第1ピストン25、第2ピストン26及びねじ軸35と、ハウジング23におけるシリンダ24が形成された部分と、により構成されている。
【0019】
以上のように構成された駆動部20の第2大径ギア33には、第1小径ギア30、第1大径ギア31、及び第2小径ギア32を通じて減速された電気モータ21の回転が伝えられる。第2大径ギア33が回転すると、内歯スプライン34及び外歯スプライン36を通じて係合されたねじ軸35が回転する。ねじ軸35には、第2ピストン26の雌ねじ部38に噛み合う雄ねじ部37が形成されている。一方、第2ピストン26は回り止めされている。そのため、ねじ軸35の回転運動は、同ねじ軸35に対する第2ピストン26の直線運動に変換される。そして、ねじ軸35に対する第2ピストン26の直動に応じて、第1ピストン25、第2ピストン26間の距離が変化する。第1ピストン25、第2ピストン26間の距離が拡大すると、押圧部27、28を通じてブレーキシュー16、17に押圧が加わり、それらの外周面に設けられた摩擦材18がブレーキドラム11の内周面に押し付けられる。そして、摩擦材18とブレーキドラム11の内周面との摩擦により、車輪に制動力が発生する。一方、第1ピストン25、第2ピストン26間の距離が縮小すると、ブレーキドラム11の内周面への摩擦材18の押し付け力が減少して、車輪の制動力が減少する。なお、以下の説明では、第1ピストン25、第2ピストン26間の距離が拡大する側の電気モータ21の回転方向を同電気モータ21の正回転方向と記載する。また、第1ピストン25、第2ピストン26間の距離が縮小する側の電気モータ21の回転方向を同電気モータ21の逆回転方向と記載する。コントローラ22は、電気モータ21が発生する正回転方向のトルクを制御することで、運転者のブレーキペダルの操作に応じたサービスブレーキでの車輪の制動力を制御している。
【0020】
<EPB機構43の構成及び動作>
さらに、駆動部20は、EPB(電動パーキングブレーキ)機構43を備えている。EPB機構43は、ハウジング23に組付けられた電磁ソレノイド44と、ハウジング23の内部に配置されたラチェットギア45と、を有している。ラチェットギア45は、電気モータ21の回転軸29に、一体となって回転するように連結されている。
【0021】
また、EPB機構43は、ラチェットギア45と共にワンウェイクラッチを構成する爪部材46を備えている。爪部材46は、電磁ソレノイド44の通電に応じてラチェットギア45に噛み合わされる。ラチェットギア45に爪部材46が噛み合わされた状態では、電気モータ21の正回転方向の回転は許容されるが、逆回転方向の回転は禁止される。なお、ラチェットギア45への爪部材46の噛み合いは、電磁ソレノイド44が非通電の状態で電気モータ21を正回転方向に回転することで解除される。パーキングブレーキの作動に際して、コントローラ22は、電気モータ21を正回転方向に回転させて車輪に制動力を発生させた後、電磁ソレノイド44に通電して、ラチェットギア45に爪部材46を噛み合わせる。これにより、電気モータ21及び電磁ソレノイド44が非通電の状態となっても、車輪に制動力が発生した状態が保持される。一方、コントローラ22は、パーキングブレーキの作動解除を、電磁ソレノイド44が非通電の状態で電気モータ21を正回転方向に回転することで行っている。
【0022】
<バッキングプレート12の部品組付け>
本実施形態の電動制動装置10では、バッキングプレート12が、同バッキングプレート12の一部を構成するプレート本体40と、同バッキングプレート12の残りの部分を構成するサブプレート39とで構成されている。
図3に示すように、プレート本体40には切り欠き部41が形成されている。切り欠き部41は、円盤状のバッキングプレート12のうち、ホイールシリンダ14等の駆動部20の構成部品が設置される部分を含んだ外周部が、矩形状に切り欠かれた部分に相当する。サブプレート39は、切り欠き部41を塞ぐようにプレート本体40に取り付けられる。こうしたプレート本体40に取り付けられたサブプレート39は、バッキングプレート12の外周部の一部を構成している。
【0023】
バッキングプレート12でのプレート本体40及びサブプレート39の境界部は、3つの直辺によって構成される。ここで、それら3つの直辺のうち、バッキングプレート12の外周の一部を構成する円弧部分に対向する直辺を除く2つの直辺を側辺とする。サブプレート39の側辺を構成する部分の縁部には、プレート本体40との境界部に沿って延びるスリット42が形成されている。スリット42の溝幅は、プレート本体40の側辺を構成する部分の縁部41Aを挿入可能な大きさとされている。本実施形態では、スリット42の溝幅は、プレート本体40の厚みよりも若干狭い大きさとしている。
【0024】
こうした本実施形態でのバッキングプレート12への駆動部20の構成部品の組付けは次の態様で行われる。
まず、駆動部20の構成部品をサブプレート39に組付ける。具体的にはまず、ハウジング23の内部に配置される駆動部20の構成部品をハウジング23内に組付ける。続いて、サブプレート39に形成された開口部39Aにハウジング23の一部を挿通した状態で、ハウジング23をサブプレート39に固定する。サブプレート39へのハウジング23の固定は、例えばボルト締結により行われる。これにより、ハウジング23の内部に配置されたホイールシリンダ14がサブプレート39に組付けられる。次に、電気モータ21及び電磁ソレノイド44をハウジング23に固定する。これにより、ホイールシリンダ14と電気モータ21との間にサブプレート39が位置した状態で、ホイールシリンダ14及び電気モータ21がサブプレート39に組付けられる。なお、電気モータ21及びコントローラ22は、サブプレート39に固定するようにしてもよい。本実施形態では、こうしたサブプレート39への駆動部20の構成部品の組付工程が、第1工程に対応している。
【0025】
続いて、
図3及び
図4に示すように、駆動部20の構成部品を組付けたサブプレート39を、プレート本体40に固定する。具体的には、切り欠き部41の縁部41Aをスリット42に挿入しつつ、プレート本体40の切り欠き部41に、その径方向外側からサブプレート39を差し込む。プレート本体40の縁部41Aは、サブプレート39をプレート本体40に組付ける際のガイドとなる。
【0026】
また、上記のように、スリット42は、プレート本体40の厚みよりも若干狭い幅に形成されている。縁部41Aの厚みはスリット42に圧入可能な程度である。スリット42への縁部41Aの挿入により、プレート本体40とサブプレート39とが固定される。
【0027】
なお、こうして駆動部20の構成部品を組付けたバッキングプレート12では、駆動部20の構成部品が一体に組付けられた状態のまま、プレート本体40からサブプレート39を分離可能となる。本実施形態では、こうしたプレート本体40へのサブプレート39の固定工程が、第2工程に対応している。
【0028】
<第1実施形態の作用効果>
上記実施形態では、ホイールシリンダ14及び電気モータ21が予め組付けられたサブプレート39をプレート本体40に固定することで、バッキングプレート12の異なる面にホイールシリンダ14及び電気モータ21をそれぞれ組付けている。そのため、体格が大きく、取り回しが難しいバッキングプレート12の異なる面に対して、ホイールシリンダ14及び電気モータ21をそれぞれ個別に固定する必要がない。そのため、製造時のバッキングプレート12への部品組付の作業性が向上する。
【0029】
プレート本体40へのサブプレート39の固定を、ボルト等の締結により固定を行う場合には、締結用の工具が必要となる。その点、サブプレート39に形成されたスリット42へのプレート本体40の縁部41Aの差し込みにより、サブプレート39をプレート本体40に固定している。そのため、工具を用いずとも、バッキングプレート12への駆動部20の構成部品の組付を行うことが可能となる。
【0030】
なお、ハウジング23における電気モータ21の連結部分には、回転軸29を通すための開口部が形成されている。特許文献1の場合のように、バッキングプレート12へのハウジング23の組付後に、ハウジング23への電気モータ21の組付を行う場合、電気モータ21の組付完了までハウジング23の開口部が外部に開放されたままとなる。そのため、ハウジング23の内部に異物が混入し易くなる。これに対して、本実施形態では、予めハウジング23に電気モータ21が組付けられた状態で、バッキングプレート12への組付作業が行われる。サブプレート39への部品の組付けは、バッキングプレート12への部品の組付けよりも狭い作業スペースで行うことができる。一方、作業スペースの清浄性は、狭い方が保ち易い。そのため、本実施形態によれば、ハウジング23の内部への異物の混入が抑えられる。
【0031】
なお、こうした本実施形態では、サブプレート39の表側の面が、ホイールシリンダ14が組付けられる同サブプレート39の第1面に対応し、サブプレート39の裏側の面が、同サブプレート39の第2面に対応する。また、本実施形態では、プレート本体40の表側の面が、サブプレート39が固定された状態でホイールシリンダ14が位置する側の面である同プレート本体40の第1面に対応する。さらに、プレート本体40の裏側の面が、第1面の裏面側である同プレート本体40の第2面に対応する。
【0032】
(第2実施形態)
次に、電動制動装置及びその製造方法の第2実施形態を、
図5~
図7を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0033】
本実施形態においても、サブプレート50とプレート本体51とにバッキングプレート12を分割形成している。そして、駆動部20の構成部品をサブプレート39に一体に組付けている。なお、駆動部20は、第1実施形態のものと同様の構成である。
【0034】
図5に示すように、本実施形態におけるプレート本体51には、開口52が形成されている。開口52が形成された部位は、バッキングプレート12においてホイールシリンダ14が設置される部分を含んでいる。なお、
図5における開口52の内側の部分には、ホイールシリンダ14の外形が二点鎖線で示されている。開口52は、ホイールシリンダ14が通過可能な形状、寸法に形成されている。また、プレート本体51における開口52の周辺の部分には、通孔55が形成されている。
【0035】
図6には、駆動部20の構成部品が組付けられた状態のサブプレート50の平面構造を示す。
図6には、プレート本体51に形成された開口52の外形が二点鎖線で示されている。サブプレート50は、開口52よりも一回り大きい寸法形状に形成されている。なお、サブプレート50におけるホイールシリンダ14の組付け位置の周辺の部分には、ねじ穴53が形成されている。ねじ穴53は、サブプレート50をプレート本体51に固定した際に、プレート本体51の通孔55と重なる位置に形成されている。
【0036】
本実施形態においても、バッキングプレート12への駆動部20の構成部品の組付けに際しては、まずサブプレート50に駆動部20の構成部品を組付ける第1工程を行う。そして、第1工程において駆動部20の構成部品が組付けられたサブプレート50をプレート本体51に固定する第2工程を行うことで、駆動部20の構成部品をバッキングプレート12に組付けている。
【0037】
図7には、第2工程でのプレート本体51へのサブプレート50の固定作業の状態が示されている。固定作業に際してはまず、サブプレート50に組付けられたホイールシリンダ14を、プレート本体51の裏側から開口52を通過させる。そして、サブプレート50をプレート本体51の裏側の面に接触させた状態で、プレート本体51の表側からボルト54を、通孔55を通してねじ穴53に締結することで、サブプレート50とプレート本体51とを固定する。こうしてサブプレート50は、プレート本体51の裏側の面において開口52とその周縁を覆う状態で、プレート本体51に固定される。こうしてプレート本体51に固定されたサブプレート39は、ボルト54をねじ穴53から外してプレート本体51への固定を解除した場合に、ホイールシリンダ14及び電気モータ21が一体に組付けられた状態のまま、プレート本体51から分離可能である。
【0038】
こうした本実施形態でも、ホイールシリンダ14及び電気モータ21をバッキングプレート12の異なる面に対してそれぞれ個別に固定する必要がない。そのため、製造時のバッキングプレート12への部品組付の作業性が向上する。また、予め電気モータ21をハウジング23に組付けた後、プレート本体51にサブプレート50を固定しているため、ハウジング23の内部への異物の混入を抑えられる。
【0039】
なお、本実施形態では、サブプレート50の表側の面が、ホイールシリンダ14が組付けられる同サブプレート50の第1面に対応し、サブプレート50の裏側の面が、同サブプレート50の第2面に対応する。また、本実施形態では、プレート本体51の表側の面が、サブプレート50が固定された状態でホイールシリンダ14が位置する側の面である同プレート本体51の第1面に対応する。さらに、プレート本体51の裏側の面が、第1面の裏面側である同プレート本体51の第2面に対応する。
【0040】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0041】
・第1実施形態では、スリット42への縁部41Aの差し込みにより、サブプレート39をプレート本体40に固定していたが、ボルト締結等の他の方法で固定するようにしてもよい。また、第2実施形態でのプレート本体51へのサブプレート50の固定を、ボルト締結以外の方法で行うようにしてもよい。
【0042】
・サブプレート39、50をハウジング23に一体化してもよい。
・ハウジング23を、ホイールシリンダ14を構成する部分と、第1小径ギア30、第1大径ギア31、第2小径ギア32、ラチェットギア45を収容する部分と、に分割形成してもよい。
【0043】
・駆動部20にパーキングブレーキの機能を持たせない場合には、EPB機構43を省略してもよい。
・サービスブレーキとしては動作せず、パーキングブレーキとしてのみ動作するように駆動部20を構成してもよい。その場合には、シリンダ24内にブレーキ液を導入して、ホイールシリンダ14を液圧によっても動作するように構成したり、液圧により動作する湿式のホイールシリンダを追加したりして、液圧によりサービスブレーキの動作を行うようにするとよい。
【0044】
・第1実施形態において、切り欠き部41の形状は矩形状でなくてもよい。例えば、プレート本体40とサブプレート39の境界は3つの直辺が互いに接続する部分は丸みを帯びた形状でもよい。具体的には、3つの直辺のうち、バッキングプレート12の外周の一部を構成する円弧部分に対向する直辺と2つの側辺は、直角ではなく円弧状に接続されていてもよい。またプレート本体40とサブプレート39の境界は3辺ではなく、1つの円弧状を有する扇形状でもよい。この場合、サブプレート39の形状も扇形状に形成されていればよい。
【0045】
・スリット42に縁部41Aが圧入されることで、プレート本体40にサブプレート39が取り付けられていたが、取付方法はこれに限らない。例えば、スリット42内と縁部41Aの少なくとも一方に予め液状のシール部材を塗布してから、スリット42に縁部41Aを挿入してもよい。この場合、シール部材は時間と共に固まるような材料であればよい。またこの場合、スリット42の厚みと縁部41Aの厚みはほぼ同じであってもよい。すなわちスリット42と縁部41Aの互いの厚みは、スリット42に縁部41Aが圧入されることなく挿入されるような厚みであってもよい。
【0046】
・サブプレート39において、スリット42は側辺に対応する部位だけではなく、2つの側辺と直交する方向に延びる辺に対応する部位にも形成されていてよい。
・スリット42の長手方向において、スリット42の厚みは一定でなくてもよい。例えばバッキングプレート12の径方向外側に向かうにつれて、スリット42の厚みが小さくなるようにスリット42が形成されていてもよい。この場合、サブプレート39がプレート本体40に挿入されるにつれて徐々に圧入され始める。そのため挿入初期は挿入しやすくすることができる。また、プレート本体40は、縁部41Aの厚みが径方向外側に向かうにつれて小さくなるように構成されていてもよい。この場合、スリット42の幅が長手方向において一定でもよい。
【0047】
・スリット42の長手方向において、スリット42の幅は一定ではなくてもよい。幅方向とは、
図3における左右方向に相当する。例えば、スリット42の幅はバッキングプレート12の径方向外側に向けて狭くなっていてもよい。この場合、スリット42の幅はバッキングプレート12の中心に近いほど広いので、挿入初期においてサブプレート39をプレート本体40に挿入しやすい。
【0048】
・サブプレート39とプレート本体40の夫々において、スリット42と縁部41Aが互いに接する部分に複数の凹凸形状が形成されていてもよい。サブプレート39がプレート本体40に挿入されることで、サブプレート39とプレート40本体が擦れて屑が生じる可能性がある。この場合であっても、複数の凹凸形状のうち隣接する凹凸間である隙間に屑を溜めることが可能となる。
【0049】
・スリット42はサブプレート39に直接形成されていたが、それに限らない。例えば、スリット42が形成されていないサブプレート39に、スリット42に相当するスリットが形成された部材が取り付けられてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10…電動制動装置
11…ブレーキドラム
12…バッキングプレート
13…軸穴
14…ホイールシリンダ
15…アンカー部材
16、17…ブレーキシュー
18…摩擦材
19…戻しばね
20…駆動部
21…電気モータ
22…コントローラ
23…ハウジング
24…シリンダ
25…第1ピストン
26…第2ピストン
27、28…押圧部
29…回転軸
30…第1小径ギア
31…第1大径ギア
32…第2小径ギア
33…第2大径ギア
34…内歯スプライン
35…ねじ軸
36…外歯スプライン
37…雄ねじ部
38…雌ねじ部
39、50…サブプレート
39A…開口部
40、51…プレート本体
41…切り欠き部
41A…縁部
42…スリット
43…EPB機構
44…電磁ソレノイド
45…ラチェットギア
46…爪部材
52…開口
53…ねじ穴
54…ボルト
55…通孔