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特許7722232正極活物質、正極活物質の製造方法、正極合材、非水系リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】正極活物質、正極活物質の製造方法、正極合材、非水系リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20250805BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20250805BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G49/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022045891
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023140050
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】由淵 想
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107844(JP,A)
【文献】特開2019-048727(JP,A)
【文献】特開平08-078019(JP,A)
【文献】特開平10-241667(JP,A)
【文献】特開平10-116616(JP,A)
【文献】特開2001-196059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 49/00
C01D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表され、結晶子径が50Å以上100Å以下である、正極活物質を製造する方法であって、
Fe とLi CO とを第1のボールミル法によって混合して、混合物粉末を得ること、
前記混合物粉末を焼成すること、及び
前記焼成した前記混合物粉末を第2のボールミル法によって粉砕すること、
を含む、正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質、正極活物質の製造方法、正極合材、非水系リチウムイオン二次電池及び全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、組成式Li2-xTi1-zFe3-y(0≦x<2、0≦y≦1、0.05≦z≦0.95)で表され、立方晶岩塩型構造を有するリチウムフェライト系酸化物を開示している。
【0003】
特許文献2は、集電体、及び前記集電体上に設けられた、正極活物質及びバインダーを含有する正極活物質層を有し、前記正極活物質が、組成式Li2-x(Mn1-m-nFeNi)O3-y(但し、0≦x<2、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1)で表され、かつ層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物であり、前記バインダーが(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合単位、酸成分を有するビニルモノマーの重合単位及びα,β不飽和ニトリルモノマーの重合単位を含む重合体であり、前記酸成分を有するビニルモノマーの重合単位の含有割合が重合体の全重合単位中1.0~3.0重量%である二次電池用正極を開示している。
【0004】
特許文献3は、水溶性鉄塩、水酸化鉄、酸化水酸化鉄及び金属鉄の少なくとも1種を水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムとを含む水溶液中で130~300℃で水熱処理することを特徴とする層状岩塩型構造を有するLiFeOの製造方法を開示している。
【0005】
特許文献4は、(a)鉄イオン(III)とNiイオン(II)とを含む混合溶液をアルカリ処理する工程、(b)生成した共沈物を空気酸化させる工程、(c)生成した酸化物を100℃以下で熟成する工程、および(d)熟成物をLi化合物含有アルカリ溶液中400℃以下で水熱処理する工程を備えたことを特徴とする組成式LiFe1-xNi(0<x<0.5)で示される層状岩塩型リチウム鉄酸化物の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-48717号公報
【文献】国際公開第2011/078212号
【文献】特開平10-139593号公報
【文献】特開2002-338251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池の可逆容量を向上させることが求められている。
【0008】
本開示は、リチウムイオン二次電池の可逆容量を向上させることができる正極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表され、結晶子径が200Å以下である、正極活物質。
《態様2》
0.95≦x≦1.05かつ0.95≦y≦1.05である、態様1に記載の正極活物質。
《態様3》
立方晶岩塩構造を有している、態様1又は2に記載の正極活物質。
《態様4》
結晶子径が170Å以下である、態様1~3のいずれか一つに記載の正極活物質。
《態様5》
FeとLiCOとを第1のボールミル法によって混合して、混合物粉末を得ること、
前記混合物粉末を焼成すること、及び
前記焼成した前記混合物粉末を第2のボールミル法によって粉砕すること、
を含む、態様1~3のいずれか一つに記載の正極活物質の製造方法。
《態様6》
態様1~4のいずれか一つに記載の正極活物質を含有している、リチウムイオン二次電池用の正極合材。
《態様7》
正極電極体、セパレータ、及び負極電極体がこの順になるようにして、非水系電解液で満たされている外装体内に収容されており、かつ
前記正極電極体は、態様1~4のいずれか一つに記載の正極活物質を含有している、
非水系リチウムイオン二次電池。
《態様8》
正極層、固体電解質層、及び負極層がこの順に積層されており、
前記正極層は、態様1~4のいずれか一つに記載の正極活物質を含有している、
全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、リチウムイオン二次電池の可逆容量を向上させることができる正極活物質及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に従う非水系リチウムイオン二次電池100の模式図である。
図2図2は、本開示の第1の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池200の模式図である。
図3図3は、各例の正極活物質のX線結晶回折スペクトルを示すグラフである。
図4図4は、各例の正極活物質の結晶子径と各例の非水系リチウムイオン二次電池の放電容量との関係を示すグラフである。
図5図5は、比較例1の非水系リチウムイオン二次電池の充放電試験結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1の非水系リチウムイオン二次電池の充放電試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
《正極活物質》
本開示の正極活物質は、組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表され、結晶子径が200Å以下である、正極活物質である。
【0014】
組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表される正極活物質の可逆容量を向上させる手段としては、従来、異種元素での置換や結晶構造を変化させる等の試みがなされてきた。
【0015】
これに対して、本開示の正極活物質は、組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表され正極活物質の結晶子径を200Å以下とすることで、可逆容量を向上させている。これは、結晶子径が小さくなることで、リチウムイオンの拡散距離が短くなるためであると考えられる。
【0016】
なお、一般的には、層間化合物である正極活物質は、層間にリチウムイオンをインターカレートさせる観点から、結晶子径が大きい程、可逆容量が大きくなると考えられている。
【0017】
組成式LiFeにおいて、0<x<2かつ0<y<2である。ここで、xは、0超、0.05以上、0.10以上、0.50以上、又は0.95以上であってよく、2.00未満、1.95以下、1.50以下、又は1.05以下であってよい。0.95≦x≦1.05であることが好ましい。同様に、yは、0超、0.05以上、0.10以上、0.50以上、又は0.95以上であってよく、2.00未満、1.95以下、1.50以下、又は1.05以下であってよい。0.95≦y≦1.05であることが好ましい。
【0018】
また、本開示の正極活物質は、立方晶岩塩構造を有していることができる。
【0019】
本開示の正極活物質の結晶子径は、200Å以下である。
【0020】
組成式LiFe(式中、0<x<2かつ0<y<2である)で表される正極活物質の結晶子径が200Å以下であると、高い放電容量を得ることができる。
【0021】
正極活物質の結晶子径は、200Å以下、170Å以下、150Å以下、120Å以下、又は100Å以下であってよく、10Å以上、30Å以上、40Å以上、又は50Å以上であってよい。
【0022】
《正極活物質の製造方法》
本開示の正極活物質の製造方法は、以下の工程(A)~(C)を有している。
(A)FeとLiCOとを第1のボールミル法によって混合して、混合物粉末を得ること、
(B)混合物粉末を焼成すること、及び
(C)焼成した混合物粉末を第2のボールミル法によって粉砕すること。
【0023】
〈工程(A)〉
工程(A)は、FeとLiCOとを第1のボールミル法によって混合して、混合物粉末を得ることである。
【0024】
第1のボールミル法は、湿式ボールミル法又は乾式ボールミル法のいずれであってもよいが、容器への混合粉末の付着を抑制する観点から、湿式ボールミル法が好ましい。
【0025】
第1のボールミル法における回転数、回転時間、並びにボールの大きさ及び数は、特に限定されない。
【0026】
回転数は、例えば200rpm~2000rpmであってよい。回転数は、200rpm以上、300rpm以上、又は500rpm以上であってよく、2000rpm以下、1500rpm以下、1000rpm以下、又は500rpm以下であってよい。
【0027】
回転時間は、5分~10時間であってよい。回転時間は、5分以上、10分以上、15分以上、30分以上、又は1時間以上であってよく、10時間以下、5時間以下、2時間以下、1時間以下、又は30分以下であってよい。
【0028】
ボールの大きさは、例えば直径0.1mm~50mmのものを採用することができる。ボールの大きさは、0.1mm以上、1mm以上、又は5mm以上であってよく、50mm以下、25mm以下、又は10mm以下であってよい。
【0029】
ボールは、複数の大きさのものを組み合わせて用いてよい。例えば、ボールは、直径10mmのもの、5mmのもの、及び1mmのものを組み合わせて用いてよい。
【0030】
〈工程(B)〉
工程(B)は、混合物粉末を焼成することである。
【0031】
焼成は、混合物粉末に対して不活性な雰囲気、例えば窒素雰囲気や希ガス雰囲気、より具体的にはAr雰囲気において行ってよい。
【0032】
焼成温度は600℃~1200℃であってよい。焼成温度は、600℃以上、750℃以上、又は900℃以上であってよく、1200℃以下、1000℃以下、又は900℃以下であってよい。
【0033】
《正極合材》
本開示の正極合材は、本開示の正極活物質を含有している、リチウムイオン二次電池用の正極合材である。
【0034】
本開示の正極合材は、随意に固体電解質、導電助剤、及びバインダを含有していることができる。本開示の正極合材は、例えば本開示の正極活物質と、随意のこれらの材料を混合することで得ることができる。
【0035】
〈固体電解質〉
固体電解質は、無機固体電解質であることが好ましい。無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び窒化物固体電解質が挙げられる。
【0036】
硫化物固体電解質の例として、硫化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、又はアルジロダイト型固体電解質等が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な硫化物固体電解質の例として、LiS-P系(Li11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl等;又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0037】
酸化物固体電解質の例として、LiLaZr12、Li7-xLaZr1-xNb12、Li7-3xLaZrAl12、Li3xLa2/3-xTiO、Li1+xAlTi2-x(PO、Li1+xAlGe2-x(PO、LiPO、又はLi3+xPO4-x(LiPON)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
固体電解質は、ガラスであっても良く、ガラスセラミックスであっても良く、結晶材料であっても良い。ガラスは、原料組成物(例えばLiS及びPの混合物)を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止できるからである。また、ガラスセラミックスは、ガラスを熱処理することにより得ることができる。また、結晶材料は、例えば、原料組成物に対して固相反応処理することにより得ることができる。
【0039】
固体電解質の形状は、粒子状であることが好ましい。また、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上である。一方、固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、10μm以下であり、5μm以下であっても良い。固体電解質の25℃におけるリチウムイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であることが好ましい。
【0040】
〈導電助剤〉
導電助材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、VGCF、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。金属粒子としては、ニッケル、銅、鉄、及びステンレス鋼等の粒子が挙げられる。
【0041】
〈バインダ〉
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ブタジエンゴム(BR)若しくはスチレンブタジエンゴム(SBR)等の材料、又はこれらの組合せであってよいが、これらに限定されない。
【0042】
《非水系リチウムイオン二次電池》
本開示の非水系リチウムイオン二次電池は、正極電極体、セパレータ、及び負極電極体がこの順になるようにして、非水系電解液で満たされている外装体内に収容されており、かつ正極電極体は、本開示の正極活物質を含有している、非水系リチウムイオン二次電池である。
【0043】
図1は、本開示の第1の実施形態に従う非水系リチウムイオン二次電池100の模式図である。
【0044】
図1に示すように、本開示の第1の実施形態に従う非水系リチウムイオン二次電池100は、正極電極体110、セパレータ120、及び負極電極体130がこの順になるようにして、非水系電解液140で満たされている外装体150内に収容されている。ここで、正極電極体110は、正極集電体層111の両面を正極活物質層112が被覆した形状を有している。また、負極電極体130は、負極集電体層131の両面を負極活物質層132が被覆した形状を有している。正極活物質層112は、本開示の正極活物質を含有している。
【0045】
〈正極電極体〉
正極電極体は、正極集電体及び正極活物質を有している。正極電極体は、例えば層状又は棒状等の正極電極体の表面を正極活物質を含有する層、即ち正極活物質層が部分的に又は全体にわたって被覆している形状であってよい。
【0046】
正極電極体は、本開示の正極活物質を含有している。より具体的には、本開示の正極活物質は、正極電極体を構成している正極活物質層に含有されていることができる。
【0047】
(正極集電体層)
正極集電体層に用いられる材料は、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、チタン、又はカーボン等であってよいが、これらに限定されない。なかでも、正極集電体層の材料は、アルミニウムであることが好ましい。
【0048】
正極集電体層の形状は、特に限定されず、例えば、棒状、箔状、板状、又はメッシュ状等を挙げることができる。これらの中で、箔状が好ましい。
【0049】
(正極活物質層)
正極活物質層は、本開示の正極活物質を含有していることができる。正極活物質層は、本開示の正極合材及び随意の他の材料によって形成されていることができる。
【0050】
〈セパレータ層〉
セパレータ層は、多孔質の樹脂の層、例えばポリプロピレン又はポリエチレンの層であってよい。
【0051】
セパレータ層としては、多孔性ポリエチレン膜(PE)、多孔性ポリプロピレン膜(PP)、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜を用いることができる。また、セパレータ層としては、リチウムイオン導電性ポリマー電解質膜を用いることもできる。これらのセパレータ層は、単独で又は組み合わせて使用することができる。電池出力を高める観点からは、多孔性ポリエチレン膜(PE)を上下二層の多孔性ポリプロピレン膜(PP)で挟んだ三層コートセパレータ層を用いることが好ましい。
【0052】
〈負極電極体〉
負極電極体は、負極集電体及び負極活物質を有している。負極電極体は、例えば層状又は棒状等の負極電極体の表面を負極活物質を含有する層、即ち負極活物質層が部分的に又は全体にわたって被覆している形状であってよい。
【0053】
(負極集電体層)
負極電体層に用いられる材料は、正極集電体層に用いられる材料と同様のものを用いてよいが、銅であることが好ましい。
【0054】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質、及び随意に固体電解質を含有している。その他、使用用途や使用目的等に合わせて、例えば、導電助剤又はバインダ等の、リチウムイオン電池の負極活物質層に用いられる添加剤を含有していてよい。
【0055】
負極活物質は、例えば金属リチウムであってよく、リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料であってよい。リチウムイオン等の金属イオンを吸蔵及び放出可能な材料としては、例えば、負極活物質は、合金系負極活物質又は炭素材料等であってよいが、これらに限定されない。
【0056】
合金系負極活物質としては、特に限定されず、例えば、Si合金系負極活物質、又はSn合金系負極活物質等が挙げられる。Si合金系負極活物質には、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Si合金系負極活物質には、ケイ素以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn、又はTi等を含むことができる。Sn合金系負極活物質には、スズ、スズ酸化物、スズ窒化物、又はこれらの固溶体等がある。また、Sn合金系負極活物質には、スズ以外の元素、例えば、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Ti、又はSi等を含むことができる。これらの中で、Si合金系負極活物質が好ましい。
【0057】
炭素材料としては、特に限定されず、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、又はグラファイト等が挙げられる。
【0058】
導電助剤及びバインダは、上記の《正極合材》に関して記載したものを適宜採用することができる。
【0059】
(非水系電解液)
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物であってよい。非水溶媒としては、有機電解質、フッ素系溶媒、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びそれらの二種以上の組合せからなる群より選択される材料を挙げることができる。
【0060】
非水溶媒としては、フッ素系溶媒、例えばフッ素化炭酸エステルが好ましい。具体的なフッ素化炭酸エステルとしては、炭酸メチル-2,2,2-トリフルオロエチル(MFEC;Carbonic acid, methyl 2,2,2-trifluoroethyl ester;CAS 156783-95-8)、及び/又はジフルオロジメチルカーボネート(DFDMC)が好ましく、これらを体積比50対50で混合したものが特に好ましい。
【0061】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiIのリチウム化合物(リチウム塩)、及びそれらの二種以上の組合せからなる群より選択される材料を挙げることができる。電池電圧の向上及び耐久性の観点からは、LiPFが支持塩として好ましい。
【0062】
(外装体)
外装体は、非水系電解液に対して不活性な材料、例えば樹脂から構成されていることができる。
【0063】
《全固体リチウムイオン二次電池》
本開示の全固体リチウムイオン二次電池は、正極層、固体電解質層、及び負極層がこの順に積層されており、正極層は、本開示の正極活物質を含有している、全固体リチウムイオン二次電池である。
【0064】
図2は、本開示の第1の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池200の模式図である。
【0065】
図2に示すように、本開示の第1の実施形態に従う全固体リチウムイオン二次電池200は、正極集電体層210、正極活物質層220、固体電解質層230、負極活物質層240、及び負極集電体層250がこの順に積層されており、正極活物質層220は、本開示の正極活物質を含有している。ここで、正極活物質層220と正極集電体層210とを合わせて正極層といい、負極活物質層240と負極集電体層250とを合わせて負極層という。
【0066】
本開示の全固体リチウムイオン二次電池において、正極層、及び負極層は、上記の《非水系リチウムイオン二次電池》の記載を参照することができる。
【0067】
また、固体電解質層は、上記の《正極合材》において記載した固体電解質を含有していることができる。また、固体電解質層は、随意にバインダを含有していてよい。
【実施例
【0068】
《実施例1~3並びに比較例1及び2》
〈正極活物質の調整〉
実施例1~3及び比較例1について、以下の表1に示す条件にて、エタノール中でFeとLiCOとを湿式ボールミル法によって混合した。得られた混合物粉末をペレット成型した(工程(A))。
【0069】
次いで、成型したペレットを置いた舟形アルミボートをCu箔で包み、Ar雰囲気中で900℃、12h間焼成した(工程(B))。
【0070】
最後に、得られた粉末を表1の条件で乾式ボールミル法で粉砕した(工程(C))。結晶子サイズはボールミル時間を調整することで制御した。具体的には、表1に示すように、乾式ボールミル法におけるセット数は、各例に応じて異なる。
【0071】
【表1】
【0072】
また、比較例2について、ボールミル処理したLiCoOを正極活物質とした。
【0073】
〈X線回折試験〉
各例の正極活物質について、それぞれ無反射試料板を用いてX線回折試験を行い、X線回折スペクトルを解析した。結果を図3に示した。得られたX線回折スペクトルにおける(200)面を示すピークの半値幅から結晶子径を算出した。
【0074】
より具体的には、結晶子径(nm)をD、シェラー定数をK、X線の波長をλ、半値幅をB、ブラッグ角をθとし、以下の計算式より算出した:
D=Kλ/BCosθ
【0075】
算出結果を図4に示した。
【0076】
なお、半値幅は、回折線強度の1/2高さにおける回折線の幅である。
【0077】
〈充放電特性の評価〉
各例の正極活物質を用いて、コイン型リチウムイオン電池セル(CR2032)を調製した。具体的には、各例の正極活物質/AB/PVdF=85/15/5の重量比で秤量し、N-メチル-2-ピロリドンに分散混合させ、スラリーとした。スラリーを正極集電体層としてのアルミニウム集電箔上に塗工し、120℃で一晩真空乾燥させ、正極集電体層上に正極活物質層を形成した。これを正極電極体とした。
【0078】
電解液としてTDDK-217(ダイキン)、負極電極体として金属Li箔を用いた。
【0079】
充放電特性の評価は、60℃に保持した恒温槽にて、電圧範囲1.5-5V、0.1Cレート(1C=185mA/g)で評価した。比較例1及び実施例1の評価結果を図5及び6にそれぞれ示した。
【0080】
〈結果〉
各例における結晶子径(Å)と放電容量(mAh/g)との関係を、表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、組成がLiFeであり、かつ結晶子径がそれぞれ55Å、109Å、及び167Åであった実施例1~3の正極活物質を用いたリチウムイオン電池では、放電容量がそれぞれ順に180mAh/g、98mAh/g、及び81mAh/gであった。これに対して、組成がLiFeであり、かつ結晶子径が830Åであった比較例1の正極活物質を用いたリチウムイオン電池では、放電容量が5mAh/gであり、実施例1~3の正極活物質を用いたリチウムイオン電池よりもはるかに低かった。
【0083】
また、組成がLiCoであり、かつ結晶子径が200以下である比較例2の正極活物質を用いたリチウムイオン電池では、放電容量が5mAh/gであり、実施例1~3の正極活物質を用いたリチウムイオン電池よりもはるかに低かった。
【符号の説明】
【0084】
100 非水系リチウムイオン二次電池
110 正極電極体
111 正極集電体層
112 正極活物質層
120 セパレータ
130 負極電極体
131 負極集電体層
132 負極活物質層
140 非水系電解液
150 外装体
200 全固体リチウムイオン二次電池
210 正極集電体層
220 正極活物質層
230 固体電解質層
240 負極活物質層
250 負極集電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6