(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20250805BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20250805BHJP
【FI】
F02N11/08 L
F02N11/08 X
F02N11/08 M
F02D29/02 321A
(21)【出願番号】P 2022152759
(22)【出願日】2022-09-26
【審査請求日】2024-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水口 祐介
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-230679(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027337(WO,A1)
【文献】特開2016-118124(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0072300(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/08
F02D 29/02
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドリングストップしているエンジンの再始動を行うモーターと、前記モーターに電力を供給する第1電池と、前記第1電池から充電電力が供給される第2電池と、を備える車両に搭載される、制御装置であって、
前記アイドリングストップ中の前記第1電池の低下電力を導出する導出部と、
前記第1電池の低下電力に基づいて、前記第1電池が前記エンジンの再始動に必要な電力を前記モーターに供給可能か否かを判定する第1判定部と、
前記第1判定部が、前記第1電池が前記エンジンの再始動に必要な電力を前記モーターに供給不可能であると判定した場合、前記第2電池の充電が必要であるか否かを判定する第2判定部と、
前記第2判定部が、前記第2電池の充電が不要であると判定した場合、前記第1電池から前記第2電池への充電電力の供給を制限する制御部と、を備える、制御装置。
【請求項2】
前記導出部は、前記アイドリングストップ中に生じる分極抵抗によって降下する電圧と、前記第1電池から前記第2電池へ出力される平均電流と、に基づいて、前記第1電池の低下電力を導出する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1判定部は、前記第1電池が出力可能な電力から前記第1電池の低下電力を減じた電力を前記エンジンの再始動に必要な電力として、前記モーターに供給可能か否かを判定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第2判定部は、前記第2電池の電圧が、充電を必要とする所定の閾値を超えるか否かによって、前記第2電池の充電が必要であるか否かを判定する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2判定部が、前記第2電池の充電が必要であると判定した場合、スタータを用いて前記エンジンを再始動させる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1判定部が、前記第1電池が前記エンジンの再始動に必要な電力を前記モーターに供給可能であると判定した場合、実行している前記第1電池から前記第2電池への充電電力の供給制限を解除する、請求項1に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両のエンジンの再始動を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、アイドリングストップ中に推定した蓄電素子の電圧低下量に基づいて、エンジン再始動中の蓄電素子の最低電圧を推定し、推定した最低電圧が閾値未満になるとエンジンを再始動させる制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、蓄電素子の最低電圧がエンジンの再始動に必要な値を下回った時点でエンジンを再始動させるため、アイドリングストップの実行時間が短くなり、アイドリングストップによって得られる効果(燃費の向上、排出ガスの低減)が小さくなるという課題がある。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、アイドリングストップの実行時間を長くすることができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、アイドリングストップしているエンジンの再始動を行うモーターと、モーターに電力を供給する第1電池と、第1電池から充電電力が供給される第2電池と、を備える車両に搭載される、制御装置であって、アイドリングストップ中の第1電池の低下電力を導出する導出部と、第1電池の低下電力に基づいて、第1電池がエンジンの再始動に必要な電力をモーターに供給可能か否かを判定する第1判定部と、第1判定部が、第1電池がエンジンの再始動に必要な電力をモーターに供給不可能であると判定した場合、第2電池の充電が必要であるか否かを判定する第2判定部と、第2判定部が、第2電池の充電が不要であると判定した場合、第1電池から第2電池への充電電力の供給を制限する制御部と、を備える、制御装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記本開示の制御装置によれば、アイドリングストップの実行時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係る制御装置及びその周辺部の機能ブロック図
【
図2】制御装置が実行するエンジンの再始動制御の処理フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の制御装置は、第1電池の電力がアイドリングストップ復帰後のエンジン再始動に必要な電力に足りない場合、第1電池から充電電力の供給を受ける第2電池の状態に基づいて、第1電池に生じている分極抵抗による電力低下を解消させることによって、アイドリングストップの実行時間を長くする。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
[実施形態]
<構成>
図1は、本開示の一実施形態に係る制御装置100及びその周辺部の機能ブロック図である。
図1に例示した機能ブロックは、エンジン10と、スタータ20と、モータージェネレータ(MG)30と、電子負荷40と、DCDCコンバータ(DDC)50と、第1電池60と、第2電池70と、制御装置100と、を備えている。本実施形態に係る制御装置100は、エンジン10を動力源とする車両などに搭載される。
【0011】
エンジン10は、車両の動力源であり、スタータ20又はモータージェネレータ30によって始動される。
【0012】
スタータ20は、車両のイグニッションスイッチがオン(IG-ON)されたときに、エンジン10をクランキングして始動させる始動装置である。また、スタータ20は、アイドリングストップ復帰後の再始動時にモータージェネレータ30によって始動が不可能な場合にも、エンジン10を始動させる。このスタータ20は、第2電池70から供給される電力で作動する。
【0013】
モータージェネレータ(MG)30は、車両がアイドリングストップ制御によってエンジン10を停止させている状態から通常の状態に復帰してエンジン10を再始動させるときに、エンジン10をクランキングして始動させるための電動機である。この電動機として機能するモータージェネレータ30は、第1電池60から供給される電力で作動する。また、このモータージェネレータ30は、エンジン10の動力(又は回生動作)によって駆動して発電する発電機として機能し、発生した電力を第1電池60に出力することができる。
【0014】
電子負荷40は、車両に搭載された電力を消費する各種の機器やシステムである。この電子負荷40は、DCDCコンバータ50を介して第1電池60から供給される電力及び/又は第2電池70に蓄えられた電力で動作するように構成されている。第2電池70に接続される電子負荷40としては、車両を駆動させるため以外の補機的な機器を例示できる。
【0015】
DCDCコンバータ(DDC)50は、第1電池60と第2電池70との間に配置されており、入力側となる第1電池60の電力を、所定の電圧に変換して、出力側となる第2電池70へ出力する電圧変換器である。
【0016】
第1電池60は、例えば、リチウムイオン電池などの充放電可能に構成された二次電池である。第1電池60は、モータージェネレータ30が出力する電力を蓄えたり、自らが蓄えている電力をDCDCコンバータ50に出力したりする。この第1電池60としては、いわゆるマイルドハイブリッドシステムに用いられる定格電圧48Vのバッテリーを例示できる。
【0017】
第2電池70は、例えば、鉛蓄電池やリチウムイオン電池などの充放電可能に構成された二次電池である。第2電池70は、DCDCコンバータ50を介して第1電池60の電力を蓄えたり(充電)、自らが蓄えている電力を電子負荷40などに供給したり(放電)する。この第2電池70としては、補機的な電子負荷40に必要な電力を供給する定格電圧12Vの補機バッテリーを例示できる。
【0018】
制御装置100は、アイドリングストップ機能やDCDCコンバータ50の動作を制御するための構成である。制御装置100は、スタータ20、モータージェネレータ30、DCDCコンバータ50、第1電池60、及び第2電池70の各構成と、図示しない信号線によって通信可能に接続されており、各構成に対する様々な指示(始動指示、電圧値指示)や、各構成の状態(電圧、電流、温度、蓄電量(SOC:State Of Charge))の監視、検出、及び取得などを行うことができる。
【0019】
本実施形態に係る制御装置100は、導出部110、判定部120、及び制御部130を含む。
【0020】
導出部110は、アイドリングストップ中の第1電池60の低下電力を導出する。この第1電池60の低下電力は、アイドリングストップの実行中(エンジン10の停止中)に第1電池60に生じる分極抵抗によって降下する電圧と、第1電池60から第2電池70及び電子負荷40へ出力される電流の平均値(平均電流)と、に基づいて導出される。この導出方法の詳細については、後述する。
【0021】
判定部120は、導出部110が導出したアイドリングストップ中の第1電池60の低下電力に基づいて、アイドリングストップ中のエンジン10を再始動させるために必要な電力を、第1電池60がモータージェネレータ30に供給可能であるか否かを判定する(第1判定部)。また、判定部120は、エンジン10の再始動に必要な電力を第1電池60がモータージェネレータ30に供給できない場合には、第2電池70の状態が充電を必要とする状態であるか否かを判定する(第2判定部)。これらの判定方法の詳細については、後述する。
【0022】
制御部130は、判定部120が、第2電池70の充電が不要であると判定した場合、第1電池60から第2電池70への充電電力の供給を制限することを行う。また、制御部130は、判定部120が、第2電池70の充電が必要であると判定した場合、スタータ20を用いてエンジン10を再始動させることを行う。また、制御部130は、判定部120が、エンジン10の再始動に必要な電力を第1電池60がモータージェネレータ30に供給可能であると判定した場合、現在実行している第1電池60から第2電池70への充電電力の供給制限を解除することを行う。
【0023】
上述した制御装置100の一部又は全部は、典型的にはマイコンなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスなどを含んだ電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)によって構成され得る。この電子制御装置は、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが読み出して実行することによって、上述した導出部110、判定部120、及び制御部130が行う一部又は全部の機能を実現することができる。
【0024】
<制御>
次に、
図2をさらに参照して、本実施形態に係る制御装置100が実施する制御を説明する。
図2は、制御装置100の各構成が行うエンジン10の再始動制御の処理手順を説明するフローチャートである。
【0025】
図2に例示したエンジン10の再始動制御は、アイドリングストップ制御によってエンジン10が一時的に停止した状態になり、かつ、第1電池60から第2電池70に向けて放電電流が流れている場合に、開始される。
【0026】
(ステップS201)
制御装置100の導出部110は、アイドリングストップ中の第1電池60の分極抵抗によって低下する電力(以下「分極低下電力」という)を導出する。この分極低下電力は、次のようにして導出が可能である。
【0027】
まず、アイドリングストップ中に第1電池60から放電される電流が積算され、この放電電流と第1電池60の電圧及び温度とに基づいて、分極抵抗が推定される。次に、アイドリングストップ中に発生した分極抵抗分で低下する電圧ΔVが、DCDCコンバータ50へ放電する前の第1電池60の電圧Vcurrent、DCDCコンバータ50への放電を開始した後の第1電池60の電圧Vdischarge、及び電流積算によって求まる変動蓄電量ΔSOCから第1電池60のOCV-SOC特性に基づいて算出される変動電圧ΔVsocを用いて、下記の式[1]から求められる。
ΔV = Vcurrent - Vdischarge - ΔVsoc … [1]
【0028】
そして、分極低下電力ΔWpola-dropが、上記式[1]で求めた分極抵抗分で低下する電圧ΔVと、第1電池60からDCDCコンバータ50へ放電を行っている間における第1電池60から流出する平均の電流値Iaverageとに基づいて、下記の式[2]から求められる。
ΔWpola-drop = ΔV × Iaverage … [2]
【0029】
導出部110によって、アイドリングストップ中の第1電池60の分極低下電力が導出されると、ステップS202に処理が進む。
【0030】
(ステップS202)
制御装置100の判定部120は、第1電池60の電力が、エンジン10の始動に必要な電力以上であるか否かを判定する。この第1電池60の電力Woutには、下記の式[3]で示すように、第1電池60から実際に出力可能な電力Wpossibleから、上記ステップS201で求めた分極低下電力ΔWpola-dropを減算した電力が用いられる。なお、第1電池60が出力可能な電力Wpossibleは、第1電池60の蓄電量(SOC)、所定の電池温度軸の電力マップ、及び電池の保証年数までの劣化を考慮した電池出力保証電力など、に基づいて適切に決定される。
Wout = Wpossible - ΔWpola-drop … [3]
【0031】
判定部120が、第1電池60の電力がエンジン10の始動に必要な電力以上であると判定した場合は(ステップS202、はい)、ステップS205に処理が進む。一方、判定部120が、第1電池60の電力がエンジン10の始動に必要な電力未満であると判定した場合は(ステップS202、いいえ)、ステップS203に処理が進む。
【0032】
(ステップS203)
制御装置100の判定部120は、第2電池70の充電が必要であるか否かを判定する。この判定は、第2電池70の電圧が所定の充電必要電圧を超えるか否かで行われる。充電必要電圧とは、第2電池70が充電を必要とする蓄電量における電圧であり、第2電池70の性能や容量などに基づいて適切に設定される。
【0033】
判定部120が、第2電池70の充電が必要であると判定した場合は(ステップS203、はい)、ステップS207に処理が進む。一方、判定部120が、第2電池70の充電が必要ではないと判定した場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS204に処理が進む。
【0034】
(ステップS204)
制御装置100の制御部130は、DCDCコンバータ50の降圧動作を制限する。具体的には、現在実行している第1電池60の48V電圧の電力を12V電圧の電力に変換して第2電池70や電子負荷40に供給(充電)する降圧動作について、第1電池60からの放電電流量を減少させたり、降圧動作自体を停止させたりすることによって、制限する。このように、DCDCコンバータ50の降圧動作を制限することによって、第1電池60に生じる分極抵抗を解消させることができ、上記ステップS202の判断時よりも分極低下電力が小さくなる。従って、実際に出力可能な電力から分極低下電力を減算して得られる第1電池60の電力(式[3]を参照)として、エンジン10の始動に必要な電力以上を確保することができる。制御部130によってDCDCコンバータ50の降圧動作が制限されると、ステップS208に処理が進む。
【0035】
(ステップS205)
制御装置100の制御部130は、DCDCコンバータ50の降圧動作を制限している状態か否かを判断する。つまり、上記ステップS204によるDCDCコンバータ50の降圧動作制限をすでに行ったか否かを判断する。
【0036】
制御部130が、DCDCコンバータ50の降圧動作を制限中であると判断した場合は(ステップS205、はい)、ステップS206に処理が進む。一方、制御部130が、DCDCコンバータ50の降圧動作を制限中ではないと判断した場合は(ステップS205、いいえ)、ステップS208に処理が進む。
【0037】
(ステップS206)
制御装置100の制御部130は、DCDCコンバータ50に対して行っている降圧動作の制限を解除する。制御部130によってDCDCコンバータ50の降圧動作制限が解除されると、ステップS208に処理が進む。
【0038】
(ステップS207)
制御装置100の制御部130は、直ちにスタータ20を用いてエンジン10を始動させる。これにより、エンジン10で発電された電力を、DCDCコンバータ50を介して第2電池70に充電することができる。制御部130によってスタータ20を用いたエンジン10の始動がなされると、本エンジン10の再始動制御が終了する。
【0039】
(ステップS208)
制御装置100の制御部130は、アイドリングストップが終了して通常の制御に復帰するのを待ってから、エンジン10の始動に必要な電力以上を確保できている第1電池60からの電力供給によりモータージェネレータ30を用いてエンジン10を始動させる。制御部130によってモータージェネレータ30を用いたエンジン10の始動がなされると、本エンジン10の再始動制御が終了する。
【0040】
[作用・効果]
以上のように、本開示の一実施形態に係る制御装置100によれば、第1電池60がエンジン10の再始動に必要な電力をモータージェネレータ30に供給不可能である場合であっても、第2電池70の充電が不要であれば第1電池60から第2電池70への電力供給(充電電流)の供給を制限する。
【0041】
この処理によって、第1電池60の放電に伴って発生している分極抵抗が解消される方向に制御されるので、アイドリングストップ状態を継続しつつ、第1電池60がエンジン10の再始動に必要な電力を確保することが可能となる。よって、アイドリングストップの実行時間を長くすることができる。
【0042】
以上、本開示の一実施形態を説明したが、本開示は、制御装置だけではなく、プロセッサやメモリなどを備えた制御装置が実行する方法、この方法を実行するためのプログラム、プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的記憶媒体、及び制御装置を搭載した車両として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示の制御装置は、エンジンのアイドリングストップ機能を搭載した車両に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 エンジン
20 スタータ
30 モータージェネレータ(MG)
40 電子負荷
60 DCDCコンバータ(DDC)
60 第1電池
70 第2電池
100 制御装置
110 導出部
120 判定部
130 制御部