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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20250805BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20250805BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20250805BHJP
【FI】
F02D41/04
F01N3/20 B
F01N3/24 U
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022193525
(22)【出願日】2022-12-02
(65)【公開番号】P2024080381
(43)【公開日】2024-06-13
【審査請求日】2024-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】竹島 伸一
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/035622(WO,A1)
【文献】特開昭62-63116(JP,A)
【文献】国際公開第2014/033836(WO,A1)
【文献】特開2009-24521(JP,A)
【文献】特開2010-236450(JP,A)
【文献】特開2003-49681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に制御するリッチ処理と、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に制御するリーン処理と、を交互に繰り返し実行し、
前記空燃比制御部は、前記リッチ処理中に、1回の前記リーン処理の期間よりも短い期間に亘って、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を前記リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高いリーン空燃比に制御するリーンパルス処理を実行し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に担持された酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量に関連する析出パラメータの値に基づいて、前記リーンパルス処理の実行時期、前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理において前記排気浄化触媒に流入する排気ガスのリーン度合いのうちの少なくともいずれか一つを設定する、空燃比制御装置。
【請求項2】
前記空燃比制御部は、前記析出パラメータの値が、前記酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量が予め定められた基準析出量以上であることを表す値である場合に、前記リーンパルス処理を実行する、請求項に記載の空燃比制御装置。
【請求項3】
前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理におけるリーン度合いは、前記基準析出量の炭素含有物質が前記酸素吸蔵剤上から全て除去されるように設定された固定値である、請求項に記載の空燃比制御装置。
【請求項4】
前記空燃比制御部は、予め定められた周期で、定期的に、前記リーンパルス処理を実行する、請求項に記載の空燃比制御装置。
【請求項5】
前記空燃比制御部は、前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理におけるリーン度合いの少なくともいずれか一方を、前記リーンパルス処理が実行されるときの前記析出パラメータの値に基づいて設定する、請求項に記載の空燃比制御装置。
【請求項6】
前記析出パラメータの値を算出する析出量算出部を更に有し、
前記析出量算出部は、前記排気浄化触媒の温度が予め定められた基準温度以上であって且つ前記排気浄化触媒における酸素吸蔵量がゼロであるときに前記排気浄化触媒に流入する過剰な還元剤の積算値に比例するように前記析出パラメータの値を算出する、請求項1~のいずれか1項に記載の空燃比制御装置。
【請求項7】
前記析出量算出部は、前記内燃機関の作動中に該内燃機関への燃料の供給が一時的に停止される燃料カット制御が実行されると、前記析出パラメータの値を、前記酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量がゼロであることを表す値にリセットする、請求項に記載の空燃比制御装置。
【請求項8】
内燃機関の排気通路に設けられた酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に制御するリッチ処理と、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に制御するリーン処理と、を交互に繰り返し実行し、
前記空燃比制御部は、前記リッチ処理中に、1回の前記リーン処理の期間よりも短い期間に亘って、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を前記リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高いリーン空燃比に制御するリーンパルス処理を実行し、
前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する推定部を更に有し、
前記空燃比制御部は、前記推定部によって推定された前記酸素吸蔵量が最大酸素吸蔵量に到達する前に、前記リーン処理から前記リッチ処理へ切り替える、空燃比制御装置。
【請求項9】
内燃機関の排気通路に設けられた酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に制御するリッチ処理と、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に制御するリーン処理と、を交互に繰り返し実行し、
前記空燃比制御部は、前記リッチ処理中に、1回の前記リーン処理の期間よりも短い期間に亘って、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を前記リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高いリーン空燃比に制御するリーンパルス処理を実行し、
前記リーンパルス処理は、前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量がゼロであるときに行われる、空燃比制御装置。
【請求項10】
内燃機関の排気通路に設けられた酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に制御するリッチ処理と、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に制御するリーン処理と、を交互に繰り返し実行し、
前記空燃比制御部は、前記リッチ処理中に、1回の前記リーン処理の期間よりも短い期間に亘って、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を前記リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高いリーン空燃比に制御するリーンパルス処理を実行し、
前記リーンパルス処理は、前記排気浄化触媒の温度が、前記排気浄化触媒に担持された酸素吸蔵剤上に炭素含有物質が析出するような温度であるときに行われる、空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の排気通路内に三元触媒を設けると共に、三元触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御することが知られている(特許文献1~3)。特に、特許文献1に記載の装置では、三元触媒に流入する排気ガスの空燃比をリーン空燃比とリッチ空燃比との間で変動させると共に、このように空燃比を変動させたときの平均空燃比が理論空燃比となるように空燃比が制御される。また、特許文献3には、排気ポートに2次空気を導入して排気ガスを酸素過剰雰囲気とし、炭素の析出に伴う排気浄化触媒の劣化を低下させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-090880号公報
【文献】特開2010-236450号公報
【文献】特開2006-112300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高温で排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比をリッチ空燃比にしている期間があると、その期間中に排気浄化触媒の酸素吸蔵剤上に炭素又は炭化水素等の炭素を含有する物質(以下、「炭素含有物質」という)が析出する場合がある。そして、このような炭素含有物質が酸素吸蔵剤の表面上に析出してこの表面上を広く覆うと、酸素吸蔵剤に酸素が吸蔵されなくなり、結果的に排気浄化触媒による浄化性能が低下する。
【0005】
また、上述したように、特許文献3には、排気ポートに2次空気を導入して排気ガスを酸素過剰雰囲気とし、炭素の析出に伴う排気浄化触媒の劣化を低下させることが開示されている。ここで、酸素吸蔵剤の表面上に析出した炭素をNOxの還元に利用することができれば、その分、NOxを還元するのに必要な炭化水素量(すなわち燃料量)を削減することができる。しかしながら、2次空気を導入して排気ガスを酸素過剰雰囲気とした場合には、析出した炭素はNOxの還元反応に利用されず、よって燃費の悪化を招いてしまう。
【0006】
上記課題に鑑みて、本開示の目的は、燃費の悪化を抑制しつつ酸素吸蔵剤における酸素吸蔵能力の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)内燃機関の排気通路に設けられた酸素吸蔵能力を有する排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置であって、
前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部を有し、
前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリッチなリッチ空燃比に制御するリッチ処理と、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンなリーン空燃比に制御するリーン処理と、を交互に繰り返し実行し、
前記空燃比制御部は、前記リッチ処理中に、1回の前記リーン処理の期間よりも短い期間に亘って、前記排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を前記リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高いリーン空燃比に制御するリーンパルス処理を実行する、空燃比制御装置。
(2)前記空燃比制御部は、前記排気浄化触媒に担持された酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量に関連する析出パラメータの値に基づいて、前記リーンパルス処理の実行時期、前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理において前記排気浄化触媒に流入する排気ガスのリーン度合いのうちの少なくともいずれか一つを設定する、上記(1)に記載の空燃比制御装置。
(3)前記空燃比制御部は、前記析出パラメータの値が、前記酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量が予め定められた基準析出量以上であることを表す値である場合に、前記リーンパルス処理を実行する、上記(2)に記載の空燃比制御装置。
(4)前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理におけるリーン度合いは、前記基準析出量の炭素含有物質が前記酸素吸蔵剤上から全て除去されるように設定された固定値である、上記(3)に記載の空燃比制御装置。
(5)前記空燃比制御部は、予め定められた周期で、定期的に、前記リーンパルス処理を実行する、上記(2)に記載の空燃比制御装置。
(6)前記空燃比制御部は、前記リーンパルス処理の実行期間及び前記リーンパルス処理におけるリーン度合いの少なくともいずれか一方を、前記リーンパルス処理が実行されるときの前記析出パラメータの値に基づいて設定する、上記(5)に記載の空燃比制御装置。
(7)前記析出パラメータの値を算出する析出量算出部を更に有し、
前記析出量算出部は、前記排気浄化触媒の温度が予め定められた基準温度以上であって且つ前記排気浄化触媒における酸素吸蔵量がゼロであるときに前記排気浄化触媒に流入する過剰な還元剤の積算値に比例するように前記析出パラメータの値を算出する、上記(2)~(6)のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
(8)前記析出量算出部は、前記内燃機関の作動中に該内燃機関への燃料の供給が一時的に停止される燃料カット制御が実行されると、前記析出パラメータの値を、前記酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量がゼロであることを表す値にリセットする、上記(7)に記載の空燃比制御装置。
(9)前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量を推定する推定部を更に有し、
前記空燃比制御部は、前記推定部によって推定された前記酸素吸蔵量が最大酸素吸蔵量に到達する前に、前記リーン処理から前記リッチ処理へ切り替える、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
(10)前記リーンパルス処理は、前記排気浄化触媒の酸素吸蔵量がゼロであるときに行われる、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
(11)前記リーンパルス処理は、前記排気浄化触媒の温度が、前記排気浄化触媒に担持された酸素吸蔵剤上に炭素含有物質が析出するような温度であるときに行われる、上記(1)~(10)のいずれか1つに記載の空燃比制御装置。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、燃費の悪化を抑制しつつ酸素吸蔵剤における酸素吸蔵能力の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一つの実施形態に係る空燃比制御装置が用いられている内燃機関を概略的に示す図である。
図2図2は、プロセッサの機能ブロック図である。
図3図3は、空燃比制御を行った場合における目標空燃比等のタイムチャートである。
図4図4は、排気浄化触媒において炭素質の析出が生じる様子を模式的に示した図である。
図5図5は、酸素吸蔵剤としてセリアが用いられている場合における酸素吸蔵剤周りの状態を模式的に表す図である。
図6図6は、空燃比制御部において実行される空燃比制御の流れを概略的に示すフローチャートである。
図7図7は、一つの変形例に係る空燃比制御を行った場合における、目標空燃比等の、図3と同様なタイムチャートである。
図8図8は、比較制御1における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比等のタイムチャートである。
図9図9は、比較制御2における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比等の図8と同様なタイムチャートである。
図10図10は、比較制御3における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比等の図8と同様なタイムチャートである。
図11図11は、炭素質の単位析出量辺りにおけるNOxの還元速度の比を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0012】
<内燃機関全体の説明>
図1は、一つの実施形態に係る空燃比制御装置が用いられる内燃機関100を概略的に示す図である。図1に示されるように、内燃機関100の機関本体1は、シリンダブロック2と、シリンダブロック2内で往復動するピストン3と、シリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド4と、ピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室5と、を有する。本実施形態では、シリンダブロック2には複数の気筒が形成され、各気筒内で一つのピストン3が往復動する。シリンダヘッド4には吸気ポート7が形成され、吸気ポート7は吸気弁6により開閉される。同様に、シリンダヘッド4には排気ポート9が形成され、排気ポート9は排気弁8によって開閉される。
【0013】
図1に示されるようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。点火プラグ10は、点火信号に応じて火花を発生させるように構成される。また、燃料噴射弁11は、噴射信号に応じて、所定量の燃料を燃焼室5内に噴射する。なお、燃料噴射弁11は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように配置されてもよい。また、本実施形態では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンが用いられる。しかしながら、内燃機関は、ガソリン以外の燃料、或いはガソリンとの混合燃料を用いてもよい。
【0014】
内燃機関100は、各気筒の吸気ポート7にそれぞれ対応する吸気枝管13を介して連結されたサージタンク14と、サージタンク14に連結された吸気管15と、吸気管15に連結されたエアクリーナ16と、を有する。吸気ポート7、吸気枝管13、サージタンク14、吸気管15は吸気通路を形成する。また、吸気管15内にはスロットル弁駆動アクチュエータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。スロットル弁18は、スロットル弁駆動アクチュエータ17によって回動されることで、吸気通路の開口面積を変更することができる。
【0015】
一方、内燃機関100は、各気筒の排気ポート9に連結された排気マニホルド19と、排気マニホルド19に連結されて上流側排気浄化触媒(以下、「上流側触媒」という)20を内蔵した上流側ケーシング21と、上流側ケーシング21に連結された第1排気管22と、第1排気管22に連結されて下流側排気浄化触媒(以下、「下流側触媒」という)24を内蔵した下流側ケーシング23と、下流側ケーシング23に連結された第2排気管25と、を有する。第2排気管25は例えばマフラ(図示せず)を介して大気と連通する。排気ポート9、排気マニホルド19、上流側ケーシング21、第1排気管22、下流側ケーシング23及び第2排気管25は、排気通路を形成する。なお、本実施形態では、排気系に上流側触媒20及び下流側触媒24の2つの排気浄化触媒が設けられているが、排気系には1つの排気浄化触媒のみ又は3つ以上の排気浄化触媒が設けられてもよい。
【0016】
また、内燃機関100は、電子制御ユニット(ECU)31を有する。ECU31は、双方向性バス32を介して相互に接続された入力ポート33、出力ポート34、メモリ35、及びプロセッサ36を有する。
【0017】
入力ポート33は、様々なセンサに接続される。吸気管15には、吸気管15内を流れる空気流量を検出するためのエアフロメータ40が配置される。エアフロメータ40は、対応するAD変換器37を介して入力ポート33に接続され、エアフロメータ40の出力は入力ポート33に入力される。
【0018】
また、排気マニホルド19には排気マニホルド19内を流れる排気ガス(すなわち、上流側触媒20に流入する排気ガス)の空燃比を検出する上流側空燃比センサ41が配置される。加えて、第1排気管22内には第1排気管22内を流れる排気ガス(すなわち、上流側触媒20から流出して下流側触媒24に流入する排気ガス)の空燃比を検出する下流側空燃比センサ42が配置される。これら空燃比センサ41、42は、対応するAD変換器37を介して入力ポート33に接続され、空燃比センサ41、42の出力は入力ポート33に入力される。
【0019】
本実施形態では、空燃比センサ41、42として、限界電流式の空燃比センサが用いられる。したがって、空燃比センサ41、42は、空燃比センサ41、42周りの排気ガスの空燃比が高くなるほど(すなわちリーンになるほど)、空燃比センサ41、42からの出力電流が大きくなるように構成される。したがって、上流側空燃比センサ41の出力値に相当する空燃比(以下、「出力空燃比」と称する)は、上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比を表している。また、下流側空燃比センサ42の出力空燃比は、下流側触媒24に流入する排気ガスの空燃比を表している。
【0020】
なお、本実施形態では、空燃比センサ41、42として限界電流式の空燃比センサを用いているが、排気ガスの空燃比に応じて出力が変化するセンサであれば限界電流式の空燃比センサ以外の空燃比センサを用いてもよい。斯かる空燃比センサとしては、例えば、センサを構成する電極間に電圧が印加されずに理論空燃比近傍で急激に出力が変化する酸素センサ等が挙げられる。
【0021】
また、上流側触媒20には上流側触媒20の温度を検出する上流側温度センサ43が配置される。加えて、下流側触媒24には下流側触媒24の温度を検出する下流側温度センサ44が配置される。これら温度センサ43、44は、対応するAD変換器37を介して入力ポート33に接続され、温度センサ43、44の出力は入力ポート33に入力される。
【0022】
また、アクセルペダル45にはアクセルペダル45の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ46が接続される。負荷センサ46は対応するAD変換器37を介して入力ポート33に接続され、負荷センサ46の出力は入力ポート33に入力される。クランク角センサ47は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生する。クランク角センサ47は入力ポート33に接続され、クランク角センサ47の出力パルスが入力ポート33に入力される。プロセッサ36ではこのクランク角センサ47の出力パルスから機関回転速度が計算される。
【0023】
一方、出力ポート34は、様々なアクチュエータに接続される。具体的には、出力ポート34は、例えば、対応する駆動回路38を介して、点火プラグ10、燃料噴射弁11及びスロットル弁駆動アクチュエータ17に接続され、出力ポート34から出力される駆動信号によってこれらアクチュエータの作動が制御される。
【0024】
メモリ35は、例えば、揮発性の半導体メモリ(例えば、RAM)及び不揮発性の半導体メモリ(例えばROM)を有する。メモリ35は、プロセッサ36において各種処理を実行するためのコンピュータプログラムや、プロセッサ36によって各種処理が実行されるときに使用される各種データ等を記憶する。
【0025】
プロセッサ36は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有する。プロセッサ36は、論理演算ユニット又は数値演算ユニットのような演算回路を更に有していてもよい。プロセッサ36は、メモリ35に記憶されたコンピュータプログラムに基づいて、各種処理を実行する。
【0026】
図2は、プロセッサ36の機能ブロック図である。図2に示されるように、プロセッサ36は、上流側触媒20又は下流側触媒24の酸素吸蔵剤における酸素吸蔵量を推定する吸蔵量推定部361と、上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御部362と、上流側触媒20又は下流側触媒24の酸素吸蔵剤上への炭素含有物質の析出量を算出する析出量算出部363と、を有する。プロセッサ36のこれら各部は、例えば、プロセッサ36上で動作するコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。或いは、プロセッサ36のこれら各部は、プロセッサ36に設けられる専用の演算回路であってもよい。なお、これら各機能ブロックの詳細については、後述する。
【0027】
なお、プロセッサ36は、負荷センサ46によって検出された負荷に基づいてスロットル弁18の開度を制御し(駆動回路38を介して制御信号をスロットル弁駆動アクチュエータ17に送信、燃焼室5への空気の供給量を制御する。加えて、プロセッサ36は、排気ガスの空燃比が目標空燃比になるように、燃料噴射弁11からの燃料噴射量を制御する(駆動回路38を介して制御信号を燃料噴射弁11に送信する)。したがって、プロセッサ36を有するECU31は、排気浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御装置として機能する。
【0028】
<排気浄化触媒の構成>
排気浄化触媒(上流側触媒20及び下流側触媒24)は、酸素吸蔵能力を有する触媒であり、特に本実施形態では三元触媒である。具体的には、排気浄化触媒20、24は、セラミックから成る担体に、触媒作用を有する触媒貴金属(例えば、白金(Pt))及び酸素吸蔵能力を有する酸素吸蔵剤(例えば、セリア(CeO2))を担持させた三元触媒である。三元触媒は、三元触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に維持されていると、未燃HC、CO及びNOxを同時に浄化する機能を有する。加えて、排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤に或る程度の酸素が吸蔵されている場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、CO及びNOxとが同時に浄化される。
【0029】
すなわち、排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤が酸素を吸蔵可能な状態であると、すなわち排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量よりも少ないと、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも若干リーンになったときには、排気ガス中に含まれる過剰な酸素が排気浄化触媒20、24内に吸蔵される。酸素吸蔵剤としてセリアが用いられているときには、下記式(1)で表される反応が生じる。このときのセリウムイオンの原子価は4価である。
CeO2-X+x/2 O2 → CeO2 …(1)
【0030】
このように排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤によって酸素が吸蔵されることにより、排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、CO及びNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
【0031】
一方、排気浄化触媒20、24が酸素を放出可能な状態にあると、すなわち排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵量が0よりも多いと、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりも若干リッチになったときには、排気ガス中に含まれている未燃HC、COを還元させるのに不足している酸素が排気浄化触媒20、24から放出される。酸素吸蔵剤としてセリアが用いられているときには、下記式(2)で表される反応が生じる。このときのセリウムイオンの原子価は3価である。
CeO2 → CeO2-X+x/2 O2 …(2)
【0032】
このように排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤から酸素が放出されることにより、排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、CO及びNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
【0033】
なお、より厳密には、セリアは、水素等の還元種により還元されてCeO2からCeO2-Xへ変化する。したがって、セリアから酸素が放出されるというよりも、セリアの酸素が水素等の還元種と反応してH2O等に変化する。本明細書では、説明を分かり易くするために、上記式(2)のようにしてセリアから酸素が放出されるものとして説明する。
【0034】
このように、排気浄化触媒20、24に或る程度の酸素が吸蔵されている場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、CO及びNOxとが同時に浄化され、排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
【0035】
<基本的な空燃比制御>
次に、本実施形態に係る空燃比制御装置において行われる基本的な空燃比制御について概略的に説明する。本実施形態における空燃比制御では、上流側空燃比センサ41の出力空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁11からの燃料噴射量を制御するフィードバック制御が行われる。
【0036】
また、本実施形態の基本的な空燃比制御では、下流側空燃比センサ42の出力空燃比等に基づいて目標空燃比が設定される。以下では、図3を参照して、基本的な空燃比制御における目標空燃比の設定処理について説明する。図3は、本実施形態に係る空燃比制御を行った場合における目標空燃比AFT、上流側空燃比センサ41の出力空燃比AF1、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAup、下流側空燃比センサ42の出力空燃比AF2、及び炭素質の析出量PCのタイムチャートである。
【0037】
図3に示される例では、時刻t1以前において、機関本体1から排出される排気ガスの目標空燃比AFTを理論空燃比よりもリーンな空燃比(以下、「リーン空燃比」と称する)に制御するリーン処理が行われている。この結果、機関本体1から排出されて上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比に制御される。特に、本実施形態におけるリーン処理では、目標空燃比AFTが、理論空燃比よりも僅かにリーンな予め定められた空燃比(例えば、14.65~15.5程度)である第1リーン設定空燃比AFTlean1に設定される。
【0038】
リーン処理が行われて上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比になっていると、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupが徐々に増大する。上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupは、ECU31のプロセッサ36の吸蔵量推定部361において算出される。
【0039】
ここで、本実施形態では、吸蔵量推定部361は、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupを、上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量又は不足する酸素の量(すなわち、過剰となる還元剤(未燃HC、CO等)の量)に基づいて算出する。吸蔵量推定部361は、上流側触媒20に流入する排気ガスにおいて酸素が過剰である場合には、過剰な酸素量に相当する酸素が上流側触媒20に吸蔵されるものとして酸素吸蔵量を算出する。また、吸蔵量推定部361は、上流側触媒20に流入する排気ガスにおいて酸素が不足している場合(還元剤が過剰である場合)には、不足する酸素量に相当する酸素が上流側触媒20から放出されるものとして酸素吸蔵量を算出する。
【0040】
具体的には、吸蔵量推定部361は、例えば、上流側空燃比センサ41の出力空燃比AF1、及びエアフロメータ40の出力等に基づいて算出される燃焼室5内への吸入空気量の推定値又は燃料噴射弁11からの燃料供給量等に基づいて、上流側触媒20に吸蔵される酸素の量又は放出される酸素の量(以下、「酸素吸放出量」と称する)OSRを算出する。吸蔵量推定部361は、例えば、下記式(3)により、上流側触媒20の酸素吸放出量OSRを算出する。
OSR=0.23×Qi×(AF1-AFR) …(3)
ここで、0.23は空気中の酸素濃度、Qiは燃料噴射量、AF1は上流側空燃比センサ41の出力空燃比、AFRは理論空燃比をそれぞれ表している。
【0041】
そして、吸蔵量推定部361は、このようにして算出された酸素吸放出量OSRを積算することによって、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupを推定する。なお、このようにして算出された上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupが負の値になった場合には、酸素吸蔵量OSAupはゼロに維持される。
【0042】
本実施形態では、このようにして算出された上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupが、予め定められた切替基準値Crefに到達したとき(時刻t1、時刻t5、時刻t9)には、機関本体から排出される排気ガスの目標空燃比AFTを理論空燃比よりもリッチな空燃比(以下、「リッチ空燃比」と称する)に制御するリッチ処理が開始される。この結果、機関本体1から排出されて上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比に制御される。特に、本実施形態におけるリッチ処理では、目標空燃比AFTが、理論空燃比よりも僅かにリッチな予め定められた空燃比(例えば、13.4~14.55程度)であるリッチ設定空燃比AFTrichに設定される。なお、切替基準値Crefは、上流側触媒20が吸蔵できる酸素量の最大値である最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも少ない量に設定される。したがって、本実施形態では、空燃比制御部362は、吸蔵量推定部361によって推定された上流側触媒20の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に到達する前にリーン処理からリッチ処理へ切り替える。このため、本実施形態では、上流側触媒20の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍に到達して上流側触媒20から酸素やNOxが流出する前に、リッチ処理が開始される。
【0043】
リッチ処理が行われて上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比になっていると、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupは徐々に減少し、やがてゼロになる(時刻t2、t6)。上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupがゼロになると、排気ガス中の未燃HCやCOが上流側触媒20において浄化されず、よって上流側触媒20からリッチ空燃比の排気ガスが流出する。この結果、時刻t2、t6以降、下流側空燃比センサ42の出力空燃比がリッチ空燃比へと変化する。
【0044】
本実施形態では、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupがゼロになった後の所定のタイミング(時刻t3、t7)において、リーンパルス処理が実行される。リーンパルス処理の詳細については後述する。
【0045】
リーンパルス処理が終了して、リッチ処理が開始され、目標空燃比AFTがリッチ空燃比に制御された後(時刻t4、t8)に、再び、リーン処理が開始され、その後、同様な操作が繰り返される。このように本実施形態の基本的な空燃比制御では、リッチ処理とリーン処理とが交互に繰り返される。換言すると、本実施形態における空燃比制御では、機関本体1から排出される排気ガスの空燃比が、基本的に、リッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に切り換えられる。
【0046】
上述した本実施形態における基本的な空燃比制御が行われることにより、時刻t2~t4、t6~t8において一時的に上流側触媒20から未燃HCやCOなどが流出するものの、上流側触媒20からは基本的にNOxは流出しない。また、上流側触媒20から流出した未燃HC、COは下流側触媒24において浄化される。また、下流側触媒24の酸素吸蔵量は、燃料を供給せずに内燃機関100を作動させる燃料カット制御中に最大吸蔵可能酸素量Cmaxまで増大し、その後、上流側触媒20から未燃HC、COが流出してこれら未燃HC、COを浄化するときに減少する。
【0047】
<リーンパルス処理>
ところで、上述したようなリーン処理とリッチ処理とが交互に繰り返し実行される基本的な空燃比制御(リーンパルス処理は含まない制御)が行われると、全体的な平均空燃比としては僅かにリッチ空燃比となる。これは、時刻t2や時刻t6において上流側触媒20の酸素吸蔵量がほぼゼロになっても、リッチ処理が継続されるためである。
【0048】
本発明者の実験により、このように全体的な平均空燃比が僅かにリッチ空燃比であると、リッチ空燃比の排気ガス中に含まれる未燃HCが酸素吸蔵剤であるセリア上で脱水素して、セリア上に炭素又は炭化水素等の炭素を含有する炭素含有物質(以下、「炭素質」と称する)として析出することが判明した。より詳細には、このような酸素吸蔵剤上への炭素質の析出は、排気浄化触媒20、24の温度が450℃~650℃であって、排気浄化触媒20、24を流れる排気ガス中の酸素が少ないときに生じる。
【0049】
このようにセリア上に炭素質が析出しても、燃料を供給せずに内燃機関100を作動させる燃料カット制御を行うことにより、析出した炭素質は除去される。燃料カット制御を行うと、燃焼室5に供給された空気がそのまま燃焼室5から排出されるため、排気浄化触媒20、24には空気が流入することになる。排気ガスに比べて空気の酸素濃度は非常に高いため、析出した炭素質の酸化性(反応性)はそれほど高くないながらも、排気浄化触媒20、24の温度が高ければ、炭素質は空気中の酸素と反応して除去される。
【0050】
一方、内燃機関100が定常運転を行っている場合(例えば、内燃機関100を搭載した車両が高速定常走行を行っているような場合)等には、長期間に亘って燃料カット制御が行われない。このように長期間に亘って燃料カット制御が行われない場合には、排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤上に析出した炭素質は除去されないため、徐々に増大していく。
【0051】
炭素質の析出は、排気浄化触媒20、24の下流側から順に生じる。図4は、排気浄化触媒20、24において炭素質の析出が生じる様子を模式的に示した図である。図4(A)に示されるように、燃料カット制御後に徐々に炭素質が析出すると、まず、下流側触媒24の後段に炭素質が析出する。その後、燃料カット制御が実行されずに基本的な空燃比制御が行われると、図4(B)に示されるように下流側触媒24全体において炭素質が析出し、やがて上流側触媒20の後段において炭素質が析出する。このように、排気浄化触媒20、24の下流側から順に炭素質が析出するのは、排気ガス中に含まれる酸素が上流側において消費され、下流側にまで到達しないためである。
【0052】
図5は、酸素吸蔵剤としてセリアが用いられている場合における酸素吸蔵剤周りの状態を模式的に表す図である。図5(A)は、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスがリッチ空燃比であって、酸素吸蔵剤であるセリア上に炭素質が析出した状態を示している。このように、セリア上に炭素質が析出すると、セリアがそれ以上酸素を吸蔵することができなくなり、よって酸素吸蔵剤の酸素吸蔵能力が低下する。図4(A)に示される状態では、下流側触媒24は、その後段において酸素を吸放出することができない。そして図4(C)に示される状態では、下流側触媒24はその全体において、上流側触媒20はその後段において酸素を吸放出することができない。この結果、図4(C)に示される状態では、両排気浄化触媒20、24を含む排気系における酸素吸蔵能力が低くなっている。
【0053】
ここで、排気浄化触媒20、24へのリッチ空燃比の排気ガスの流入が継続している状態で、すなわちセリウムイオンの原子価が3価になっている状態で、比較的リーン度合いの大きいリーン空燃比の排気ガスが排気浄化触媒20、24に一時的に流入してセリアに酸素が供給されると、図5(B)に示されるように、セリアから活性酸素が放出される。このようにして放出された活性酸素は、セリア上に析出している炭素質に吸着し、これによって炭素質の酸化性(反応性)が高くなる。特に、炭素の二重結合を有する炭素質では、活性酸素のより二重結合に欠陥が生じ、この結果、炭素質の酸化性(反応性)が高くなる。このように炭素質の酸化性が高くなると、図5(C)に示されるように、炭素質は排気浄化触媒20、24に流入する排気ガス中のNOxを還元してNOxを浄化することができるようになり、これに伴ってセリア上に析出している炭素質が除去される。すなわち、排気ガス中のNOxを浄化しつつセリア上に析出している炭素質を除去することができる。
【0054】
そこで、本実施形態では、図3に示されるように、リッチ処理の実行中であって、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupがゼロであるときに、リーンパルス処理が実行される。したがって、本実施形態では、図3に示されるように、各リッチ処理の期間中に1回、リーンパルス処理が行われる。リーンパルス処理では、目標空燃比AFTが、リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高い予め定められた一定の第2リーン設定空燃比AFTlean2(例えば、15.0~25.0程度)に制御される。この結果、機関本体1から排出されて上流側触媒20に流入する排気ガスの空燃比が、リーン処理中における空燃比よりもリーン度合いの高い空燃比となる。なお、リーンパルス処理においては、一時的に燃料の供給が停止されてよい。したがって、リーンパルス処理における目標空燃比AFTは、極めて大きい値であってもよい。
【0055】
また、リーンパルス処理は、1回のリーン処理の期間(例えば、時刻t4~t5)よりも短い期間に亘って実行される。例えば、リーンパルス処理は、燃焼室5における燃焼が1回から数十回までの任意の回数行われる期間に亘って実行される。特に、本実施形態では、リーンパルス処理の実行期間は、リーンパルス処理を開始するときの炭素質の析出量PCに基づいて設定される。具体的には、炭素質の析出量が多くなるほど、リーンパルス処理の実行期間が長く設定される。本実施形態では、このようにリーンパルス処理の実行期間が設定される結果、1回のリッチ処理及び1回のリーン処理から成る1回のリッチ・リーンサイクル(酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Crefからゼロを経て再び切替基準値Crefに到達するまでのサイクル。図3において、時刻t1~t5のサイクル)において、上流側触媒20に流入する排気ガス中の過剰な酸素量と不足する酸素量とが等しくなり、よって上流側触媒20に流入する全体的な平均空燃比はほぼ理論空燃比となる。
【0056】
炭素質の析出量PCは、ECU31のプロセッサ36の析出量算出部363によって算出される。上述したように、炭素質の析出は、排気浄化触媒20、24の温度が450℃~650℃であって、排気浄化触媒20、24を流れる排気ガス中の酸素が少ないときに生じる。そこで、本実施形態では、析出量算出部363は、上流側温度センサ43によって検出された上流側触媒20の温度及び下流側温度センサ44によって検出された下流側触媒24の温度が第1基準温度以上(例えば、450℃以上)且つ第2基準温度以下(例えば、650℃以下)であって且つ吸蔵量推定部361によって推定された上流側触媒20の酸素吸蔵量がゼロであるときに、上流側触媒20に流入する排気ガス中の不足する酸素量(すなわち、過剰な還元剤量)を積算することによって両排気浄化触媒20、24における炭素質の析出量を算出する。なお、本実施形態では、両排気浄化触媒20、24の温度を、温度センサ43、44によって検出しているが、例えば内燃機関100を搭載した車両が高速道路を定常走行しているときなど、機関負荷が高い状態が継続すると、排気浄化触媒20、24の温度は高くなる。したがって、負荷センサ46の出力等に基づいて排気浄化触媒20、24の温度を推定もよい。
【0057】
なお、上流側触媒20の温度が第1基準温度以上且つ第2基準温度以下であって且つ上流側触媒20の酸素吸蔵量がゼロであっても、流入する還元剤の全てが上流側触媒20において析出するわけではない。したがって、析出量算出部363は、上流側触媒20に流入する排気ガス中の不足する酸素量(すなわち、過剰な還元剤量)の積算値に所定の1未満の係数を乗算した値を炭素質の析出量として算出してもよい。よって、析出量算出部363は、上流側触媒20に流入する排気ガス中の不足する酸素量(すなわち、過剰な還元剤量)の積算値に比例するように炭素質の析出量を算出してもよい。
【0058】
また、上述したように、析出した炭素質は、燃料カット制御が行われると除去される。したがって、析出量算出部363は、燃料カット制御が実行されると、算出している炭素質の析出量をゼロにリセットする。
【0059】
なお、リーンパルス処理は、リーンパルス処理を開始するときの炭素質の析出量PCに基づいて設定される。したがって、リーンパルス処理は、炭素質が析出しているような場合に実行される。よって、結果的に、本実施形態では、リーンパルス処理は、炭素質が析出するような条件下、例えば、排気浄化触媒20、24の温度が炭素質の析出するような温度(例えば、450℃~650℃程度)であって、排気浄化触媒20、24を流れる排気ガス中の酸素が少ないときに実行される。
【0060】
以上のように、本実施形態では、リーンパルス処理が行われることにより、図5(B)及び図5(C)に示されるように、排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵剤上に析出していた炭素質を除去することができるため、酸素吸蔵剤における酸素吸蔵能力の低下を抑制することができる。加えて、除去された炭素質によって排気ガス中のNOxを還元浄化することができる。このため、NOxを還元浄化させるのに必要な未燃HC等を低減させることができ、よってNOxを還元浄化するのに必要な燃料量を削減することができ、ひいては燃費の悪化を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、燃費の悪化を抑制しつつ酸素吸蔵剤における酸素吸蔵能力の低下を抑制することができ、ひいてはエミッションの悪化を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上流側触媒20に流入する全体的な平均空燃比をほぼ理論空燃比にすることができる。この結果、両排気浄化触媒20、24を含む排気系から流出する排気ガス中の未燃HCや、NH3、N2O等の成分を抑制することができる。
【0062】
<フローチャートの説明>
図6は、空燃比制御部362において実行される空燃比制御の流れを概略的に示すフローチャートである。特に、図6は、1回のリッチ処理及び1回のリーン処理から成る1回のリッチ・リーンサイクルにおける空燃比制御の流れを示している。したがって、図6に示される空燃比制御は、前回のリッチ・リーンサイクルにおけるリーン処理が終了したとき、又は燃料カット制御が終了したとき等に開始される。
【0063】
図6に示されるように、空燃比制御部362は、まず、リッチ処理を実行する(ステップS11)。したがって、空燃比制御部362は、目標空燃比AFTをリッチ設定空燃比AFTrichに設定する。このとき、吸蔵量推定部361は、上流側空燃比センサ41の出力空燃比及び燃料噴射弁11からの燃料噴射量等に基づいて上流側触媒20の酸素吸蔵量を推定する。また、吸蔵量推定部361によって推定された酸素吸蔵量がゼロになると、上流側温度センサ43によって検出された上流側触媒20の温度及び上流側空燃比センサ41の出力空燃比等に基づいて析出量算出部363によって炭素質の析出量が算出される。
【0064】
空燃比制御部362は、リッチ処理の実行中に、リーンパルス処理の実行条件が成立しているか否かを判定する(ステップS12)。本実施形態では、リーンパルス処理の実行条件は、吸蔵量推定部361によって推定された酸素吸蔵量がゼロになってから予め定められた所定の第時間(又は内燃機関100の所定の第1燃焼サイクル数)が経過したときに成立する。
【0065】
ステップS12においてリーンパルス処理の実行条件が成立していると判定された場合には、空燃比制御部362は、リーンパルス処理を実行する(ステップS13)。本実施形態では、空燃比制御部362は、所定の実行期間に亘って、目標空燃比AFTを、リーン処理中における第1リーン設定空燃比AFTlean1よりもリーン度合いの高い第2リーン設定空燃比AFTlean2に設定する。また、空燃比制御部362は、析出量算出部363によって算出された炭素質の析出量に基づいて、リーンパルス処理の実行期間を設定する。リーンパルス処理が終了すると、空燃比制御部362は、再び、リッチ処理を開始する。
【0066】
その後、空燃比制御部362は、吸蔵量推定部361によって推定された酸素吸蔵量がゼロになってから、予め定められた所定の第2時間(又は、内燃機関100の所定の第2燃焼サイクル数)が経過したか否かを判定する(ステップS14)。ステップS14において、所定の第2時間が経過していないと判定された場合には、ステップS11~S13が繰り返される。
【0067】
一方、ステップS13において所定の第2時間が経過したと判定された場合には、空燃比制御部362はリーン処理を実行する(ステップS15)。したがって、空燃比制御部362は、目標空燃比AFTを第1リーン設定空燃比AFTlean1に設定する。空燃比制御部362は、リーン処理の実行中に、吸蔵量推定部361によって推定された酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Cref以上であるか否かを判定する(ステップS16)。ステップS16において酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Cref未満であると判定された場合には、ステップS15が繰り返し実行され、リーン処理の実行が維持される。一方、ステップS16において酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Cref以上であると判定された場合には、空燃比制御における1回のリッチ・リーンサイクルが完了し、再び、ステップS11からの操作が開始される。
【0068】
<変形例>
上記実施形態では、析出量算出部363は、排気浄化触媒20、24における炭素質の析出量を算出している。しかしながら、析出量算出部363は、炭素質の析出量ではなく、炭素質の析出量に応じて変化する別の析出パラメータの値を算出してもよい。例えば、炭素質の析出量は、排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵量がゼロであるときの排気ガスの流量に1から当量比を減算した値を乗算した値に比例することから、析出量算出部363は炭素質の析出量を表す析出パラメータとして、斯かるパラメータの値を算出してもよい。また、この場合でも、析出量算出部は、燃料カット制御が実行されると、析出パラメータの値を、酸素吸蔵剤上への炭素質の析出量がゼロであることを表す値にリセットする。
【0069】
また、上記実施形態では、空燃比制御部362は、各リッチ処理毎に、リーンパルス処理を実行している。しかしながら、空燃比制御部362は、複数のリッチ処理に対して1回のリーンパルス処理を実行してもよい。すなわち、空燃比制御部362は、予め定められた一定の周期で定期的に(所定の数のリッチ・リーンサイクル毎に1回)リーンパルス処理を実行してもよい。この場合、析出量算出部363は、過去の複数のリッチ処理のそれぞれにおける炭素質の析出量を積算して現在の炭素質の析出量を算出する。そして、析出量算出部363は、このように算出された炭素質の析出量(リーンパルス処理を実行するときの析出量)に基づいて、リーンパルス処理の実行期間を設定する。
【0070】
さらに、上記実施形態では、析出量算出部363は、炭素質の析出量に基づいて、リーンパルス処理の実行期間を設定している。しかしながら、析出量算出部363は、炭素質の析出量に基づいて、リーンパルス処理の実行期間の代わりに又はリーンパルス処理の実行期間に加えて、リーンパルス処理中の目標空燃比AFTのリーン度合いを設定してもよい。この場合、析出量算出部363は、炭素質の析出量が多いほど、リーンパルス処理中の目標空燃比AFTのリーン度合いが高くなるように目標空燃比AFTのリーン度合いを設定する。この場合であっても、リーンパルス処理における目標空燃比は、リーン処理における第1リーン設定空燃比AFTlean1よりもリーンな空燃比とされる。したがって、析出量算出部363は、リーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理におけるリーン度合いの少なくともいずれか一方を、リーンパルス処理が実行されるときの炭素質の析出量に基づいて設定する。
【0071】
加えて、上記実施形態では、一定の周期で定期的にリーンパルス処理が実行されており、リーンパルス処理が実行されるときの炭素質の析出量に基づいてリーンパルス処理の実行期間又はリーンパルス処理におけるリーン度合いが設定される。しかしながら、リーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理におけるリーン度合いを固定値とすると共に、炭素質の析出量に基づいてリーンパルス処理の実行時期を設定してもよい。
【0072】
図7は、一つの変形例に係る空燃比制御を行った場合における、目標空燃比AFT等の、図3と同様なタイムチャートである。
【0073】
図7に示される例でも、図3に示される例と同様に、時刻t1以前においてリーン処理が行われている。そして、時刻t1において、上流側触媒20における酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Crefに到達すると、リッチ処理が開始される。その後、時刻t2において、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupがゼロになり、上流側触媒20における炭素質の析出量が徐々に増大する。その後、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupがゼロになってから或る程度の時間(運転サイクル)が経過した時刻t3において、再びリーン処理が開始される。このように、本変形例においてもリッチ処理とリーン処理とが交互に繰り返される基本的な空燃比制御が行われる。
【0074】
そしてこのような基本的な空燃比制御を行った結果、時刻t6において、析出量算出部363によって算出された炭素質の析出量PCが、基準析出量PCrefに到達する。ここで、基準析出量PCrefは、予め定められた任意の一定の析出量であり、例えば、それ以上析出量が多くなると、排気浄化触媒20、24を含む排気系から流出する排気エミッションが急激に増加するような量である。
【0075】
このように時刻t6において炭素質の析出量PCが基準析出量PCref以上になると、リーンパルス処理が開始される。したがって、本変形例では、リーンパルス処理の実行時期は、炭素質の析出量PCに基づいて設定される。
【0076】
また、このときのリーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理におけるリーン度合いは、予め設定された固定値である。特に、本変形例では、リーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理におけるリーン度合いは、基準析出量PCrefの炭素質を上流側触媒20から除去することができるように設定される。なお、本変形例では、リーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理におけるリーン度合いは、予め設定された固定値であるが、排気浄化触媒20、24の温度等に基づいて変更されてもよい。
【0077】
以上より、上記実施形態及びその変形例では、排気浄化触媒20、24に担持された酸素吸蔵剤上への炭素質の析出量に基づいて、リーンパルス処理の実行時期、リーンパルス処理の実行期間及びリーンパルス処理において排気浄化触媒に流入する排気ガスのリーン度合いのうちの少なくともいずれか一つが設定される。
【0078】
<効果の検証>
上述したように、上記実施形態及びその変形例によれば、酸素吸蔵剤上に析出していた炭素質を除去することができるため、酸素吸蔵剤における酸素吸蔵能力の低下を抑制することができる。加えて、除去された炭素質によって排気ガス中のNOxを還元浄化することができる。このため、排気エミッションの悪化を抑制することができる。このような排気エミッションの悪化抑制の効果について、本実施形態及びその変形例に係る空燃比制御とは異なる空燃比制御をした場合と比較した。
【0079】
図8は、比較制御1における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比AFT、上流側空燃比センサ41の出力空燃比AF1、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupのタイムチャートである。図8に示されるように、比較制御1では、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達すると(時刻t1、t3)、空燃比制御がリーン処理からリッチ処理に切り替えられる。また、比較制御1では、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupがゼロになると(時刻t2、t4)、空燃比制御がリッチ処理からリーン処理に切り替えられる。したがって、比較制御1では、1回のリッチ・リーンサイクルにおいて、上流側触媒20に流入する排気ガス中の過剰な酸素量と不足する酸素量とは等しく、よって全体的な平均空燃比は理論空燃比となる。
【0080】
図9は、比較制御2における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比AFT等の図8と同様なタイムチャートである。図9に示されるように、比較制御2では、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupが、最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも少ない切替基準値Crefに到達すると(時刻t1、t4)、空燃比制御がリーン処理からリッチ処理に切り替えられる。また、比較制御2では、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupがゼロになってから(時刻t2、t5)所定の期間が経過すると(時刻t3、t6)、空燃比制御がリッチ処理からリーン処理に切り替えられる。したがって、比較制御2では、1回のリッチ・リーンサイクルにおいて、上流側触媒20に流入する排気ガス中の過剰な酸素量の方が不足する酸素量よりも少なく、よって全体的な平均空燃比はリッチ空燃比となる。
【0081】
図10は、比較制御3における空燃比制御を行った場合における、目標空燃比AFT等の図8と同様なタイムチャートである。図10に示されるように、比較制御3でも、比較制御2と同様に、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupが切替基準値Crefに到達すると(時刻t1、t4、t7、t10、t13)、空燃比制御がリーン処理からリッチ処理に切り替えられる。また、比較制御3でも、上流側触媒20の酸素吸蔵量OSAupがゼロになってから所定の期間が経過すると(時刻t3、t6、t9、t12)、空燃比制御がリッチ処理からリーン処理に切り替えられる。ただし、比較制御3では、リーン処理における目標空燃比AFTが、第1リーン設定空燃比よりもリーン度合いの高い空燃比に設定されており、また、リッチ処理における目標空燃比AFTが、リッチ設定空燃比よりもリッチ度合いの高い空燃比に設定されている。
【0082】
表1は、上述した実施形態に係る空燃比制御(図3に記載の制御)、変形例に係る空燃比制御(図7に記載の制御)及び比較制御1~3を行ったときに排気浄化触媒20、24を含む排気系から流出する各種成分の流量の比較を表している。表1において、本制御1は、上述した実施形態に係る空燃比制御を、本制御2は、変形例に係る空燃比制御をそれぞれ示している。また、HCの流量及びNOxの流量は、比較制御1における流量を1としたときの比によって表されている。加えて、図中の過渡モードは、燃料カット制御を含む運転モードであり、定常モードは、燃料カット制御を含まずに一定の高速で内燃機関100が運転される運転モードである。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示されるように、比較制御2、3を行った場合には、比較制御1を行った場合に対して、過渡モードでのNOxの排出量を抑制することができる。しかしながら、比較制御2、3を行った場合には、定常モードでは過渡モードに比べてNOxの排出量が増加してしまう。これに対して、本制御1、2を行った場合には、定常モードにおいても過渡モードと同程度に、NOxの排出量を抑制することができる。加えて、本制御1、2では、結果的に平均的な空燃比がほぼ理論空燃比になることから、HCの排出量も抑制することができる。
【0085】
また、比較制御2を行った場合と、本制御2を行った場合とで、炭素質の単位析出量当たりにおけるNOxの還元速度を比較した。図11は、炭素質の単位析出量当たりにおける500℃でのNOxの還元速度の比を示す図である。図11は、酸素吸蔵剤によるNOxの還元速度、すなわち排気浄化触媒に担持された貴金属においてNOが解離されることによって生じた酸素が酸素吸蔵剤に取り込まれてNOxの還元が生じるときのNOxの還元速度を1とした場合を示している。図11に示されるように、本制御2におけるNOxの還元速度は、比較制御2におけるNOxの還元速度よりも極めて速いことがわかる。このように、炭素質によるNOxの還元速度が速い結果、表1に示されるように、本制御2では、定常モードにおいてもNOxの排出量を抑制することができると考えられる。
【0086】
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0087】
1 機関本体
20 上流側触媒
24 下流側触媒
31 ECU
40 エアフロメータ
41 上流側空燃比センサ
42 下流側空燃比センサ
43 上流側温度センサ
44 下流側温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11