(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20250805BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20250805BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
(21)【出願番号】P 2023191022
(22)【出願日】2023-11-08
【審査請求日】2025-03-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 寛和
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-72463(JP,A)
【文献】特開2012-33313(JP,A)
【文献】特開2006-138500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/04
F26B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極ペーストを集電体上に塗工する工程と、
塗工された前記電極ペーストを乾燥する工程と、を備え、
前記乾燥する工程は、
前記電極ペーストに熱風を送風しつつ、前記電極ペーストにレーザを照射する工程と、
前記熱風の温度を測定する工程と、を含み、
前記レーザを照射する工程において、前記熱風から前記電極ペーストに付与される単位面積あたりの熱出力と前記レーザから前記電極ペーストに付与される単位面積あたりの熱出力との総和が、前記電極ペーストを乾燥させるために必要な単位面積あたりの熱出力となるように、前記測定する工程において測定された前記熱風の温度情報に基づいて前記レーザを調節する、電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極の製造方法として特開2023-531013号公報(特許文献1)には、スラリー(電極ペースト)が塗布された集電体を熱風および中波の赤外線を利用して乾燥させた後に、レーザ熱源を利用して当該集電体を追加で乾燥させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、集電体に熱風を吹き付けてスラリーを乾燥させる場合に、熱風照射装置から送風される熱風の温度が十分に高くなるまで相当程度時間がかかる。このため、スラリーを乾燥させるのに時間がかかることが懸念される。
【0005】
本開示は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、電極ペーストの乾燥時間を短縮可能な電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に基づく電極の製造方法は、電極ペーストを集電体上に塗工する工程と、塗工された上記電極ペーストを乾燥する工程と、を備える。上記乾燥する工程は、上記電極ペーストに熱風を送風しつつ、上記電極ペーストにレーザを照射する工程と、上記熱風の温度を測定する工程と、を含む。上記レーザを照射する工程において、上記熱風から上記電極ペーストに付与される単位面積あたりの熱出力と上記レーザから上記電極ペーストに付与される単位面積あたりの熱出力との総和が、上記電極ペーストを乾燥させるために必要な単位面積あたりの熱出力となるように、上記測定する工程において測定された上記熱風の温度情報に基づいて上記レーザを調節する。
【0007】
上記構成によれば、空気の温度が所定の温度に加熱されるまで時間がかかり、所定の温度よりも低い空気が電極ペーストに送風される場合であっても、レーザ側から電極ペーストに付与される単位面積あたりの熱出力を調整することで、電極ペーストに十分な熱量を与えることができる。これにより、送風される空気の温度が低い場合であっても、電極ペーストの乾燥時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電極ペーストの乾燥時間を短縮可能な電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。
【
図2】実施の形態に係る電極の製造工程を示すフロー図である。
【
図3】実施の形態に係るレーザから電極ペーストに付与される単位あたりの熱出力と熱風の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る電極の製造方法を説明するための模式図である。
図2は、実施の形態に係る電極の製造工程を示すフロー図である。
図1および
図2を参照して、実施の形態に係る電極の製造方法について説明する。
【0012】
実施の形態に係る電極は、塗工装置10で集電体3に塗工された電極ペースト5を、レーザ照射装置20および熱風照射装置30を用いて乾燥させることにより形成される。
【0013】
集電体3は、搬送ローラ2を用いて搬送方向(AR1方向)に搬送される。集電体3としては、公知のリチウムイオン二次電池用の集電体を用いることができる。集電体3は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層及び負極活物質層に電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。集電体3の材料は、例えば、金属材料、導電性樹脂材料又は導電性無機材料等である。
【0014】
塗工装置10は、電極ペースト5を集電体3の主面に塗布する。塗工装置10としては、たとえば、ダイコータ等を採用することができる。
【0015】
電極ペースト5は、活物質と、溶媒(分散媒)とを含有する。電極ペーストの構成は、電極ペーストの塗工と乾燥とを含む公知の電極の製造方法に用いられる電極ペーストと同様であってよい。
【0016】
電極ペースト5がリチウムイオン二次電池用の正極ペーストである場合には、正極ペーストは、正極活物質と溶媒とを含有する。正極活物質としては、たとえば、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造を有する金属酸化物、ポリアニオン系化合物等が挙げられる。正極活物質は、リチウムイオン二次電池に使用可能なものであればよい。
【0017】
正極ペーストは、導電材、バインダ等をさらに含有していてもよい。導電材としては、たとえば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料等が挙げられる。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
【0018】
電極ペースト5がリチウムイオン二次電池用の負極ペーストである場合には、負極ペーストは、負極活物質と溶媒とを含有する。負極活物質としては、例えば、Li、炭素、金属化合物等が挙げられる。負極活物質は、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等であってもよい。炭素としては、たとえば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。溶媒としては、例えば水等が挙げられる。
【0019】
負極ペーストは、バインダ、増粘剤等をさらに含有していてもよい。バインダとしては、たとえば、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が挙げられる。増粘剤としては、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
【0020】
なお、ペーストは、固形分の少なくとも一部が分散した分散液のことを指し、スラリー、インク等を包含する。
【0021】
レーザ照射装置20は、レーザ熱源を含み、面発光形態でレーザを電極ペースト5を照射する。レーザ照射装置20は、電極ペースト5に与える単位面積あたりの熱出力を調整可能に設けられている。当該レーザ照射装置20の熱出力は、制御部50によって調整される。制御部50は、レーザ照射装置20内に設けられていてもよし、レーザ照射装置20外に設けられていてもよい。
【0022】
熱風照射装置30は、空気を加熱する加熱装置と、空気を送風する送風装置を含む。加熱装置は、炉内の空気を加熱し、送風装置は、送風経路を介して加熱された空気(熱風)を電極ペースト5に向けて送風する。
【0023】
熱風は、所定の温度に昇温されるまで一定程度の時間を要する。このため、熱風の温度を測定する温度センサ40が設けられている。温度センサ40としては、たとえば熱電対を採用することができる。温度センサ40は、搬送される集電体3および当該集電体3上に塗工された電極ペースト5と干渉しない位置に設置されている。
【0024】
電極の製造方法は、電極ペースト5を集電体3上に塗工する工程(S10)と、塗工された電極ペースト5を乾燥する工程(S10)とを備えている。
【0025】
電極を製造するに際して、まず工程(S10)にて、塗工装置10を用いて、電極ペースト5を集電体3上に塗工する。電極ペースト5は、たとえば、集電体3の主面3a上に塗工される。
【0026】
続いて、工程(S20)に、集電体3上に塗工された電極ペースト5を乾燥する。具体的には、まず、工程(S21)において、塗工された電極ペースト5に熱風を送風しつつ、当該電極ペースト5にレーザを照射する。熱風は、上記熱風照射装置30から送風され、レーザは、上記レーザ照射装置20から照射される。なお、電極ペースト5は、集電体3が搬送されることにより、搬送方向に移動しながら乾燥される。
【0027】
続いて、工程(S22)において、熱風の温度を測定する。具体的には、上記温度センサ40を用いて熱風照射装置30からの熱風の温度を測定する。測定された熱風の温度情報は、制御部50に入力される。
【0028】
制御部50は、上記温度情報に基づいて、工程(S21)において、熱風から電極ペースト5に付与される単位面積あたりの熱出力とレーザから電極ペースト5に付与される単位面積あたりの熱出力との総和が、電極ペースト5を乾燥させるために必要な単位面積あたりの熱出力となるように、レーザを調節する。
【0029】
なお、電極ペースト5を乾燥させるために必要な単位面積あたりの総熱出力A1(W/cm2)、レーザから付与されるべき上記単位面積あたりの熱出力A2(W/cm2)は、以下のように算出される。
【0030】
上記総熱出力A1は、下記(式1)から下記(式3)に示すように、溶媒目付から算出される、電極ペースト5を乾燥させるのに必要な乾燥エネルギー(必要乾燥エネルギー)を、乾燥時間で割ることにより算出される。
【0031】
溶媒目付(mg/cm2)={目付(mg/cm2)×(100-NV(wt%))}/NV(wt%)・・・(式1)
必要乾燥エネルギー(J/cm2)=溶媒目付(mg/cm2)×N・・・(式2)
乾燥に必要な単位面積あたりの総熱出力A1(W/cm2)=必要乾燥エネルギー(J/cm2)/乾燥時間(s)・・・(式3)
上記(式1)において、NVとは、ある物質または混合物の中に含まれる固形分の質量パーセント濃度を示す。たとえば、ある液体の固形分50wt%であれば、その液体の重量の50%が固体成分であり、残りの50%が溶媒や水分であることを意味する。上記(式2)において、Nは、経験則による数字であり、たとえば、3.2である。
【0032】
続いて、調整されるレーザからの上記単位面積あたりの熱出力A2(W/cm2)は、下記(式4)にて算出することができる。
【0033】
レーザから電極ペースト5に付与されるべき単位面積あたりの熱出力A2(W/cm2)=乾燥に必要な単位面積あたりの総熱出力A1(W/cm2)-熱風から電極ペースト5に付与される単位面積あたりの熱出力A3(W/cm2)・・・(式4)
ここで、熱風から電極ペースト5に付与される単位面積あたりの熱出力A3は、乾燥時間、送風速度、および熱風の温度T(℃)に基づいて、予め決定された関係式から算出することができる。乾燥時間(s)、送風速度(m/s)は、任意に設定することができる。
【0034】
図3は、実施の形態に係るレーザから電極ペーストに付与される単位あたりの熱出力と熱風の温度との関係を示す図である。
【0035】
図3に示すように、製造で使用される乾燥時間および送風速度の所定の値において、熱風の温度℃とレーザから電極ペースト5に付与されるべき単位面積あたりの熱出力A2(W/cm
2)との関係について、予め実験等により求められている。これにより、熱風の温度を測定することで上記熱出力A2が決定され、制御部50は、当該熱出力A2となるようにレーザを調整する。
【0036】
上述のように熱風の温度に基づきレーザが調節されることにより、熱風の温度が所定の温度に加熱されるまで時間がかかり、所定の温度よりも低い熱風が電極ペースト5に送風される場合であっても、電極ペースト5に十分な熱量を与えることができる。これにより、熱風の温度が低い場合であっても、電極ペーストの乾燥時間を短縮することができる。特に、熱風を昇温している際に効果的に電極ペーストの乾燥時間を短縮することができる。
【0037】
電極ペースト5を乾燥する工程の実施によって、集電体3上に活物質層が形成され、電極を得ることができる。活物質層の厚み、密度等の調整を目的として、電極ペーストを乾燥する工程の後に、活物質層をプレス処理する工程を行ってもよい。当該プレス処理は、公知方法に従い行うことができる。さらに、電極を所定のサイズに裁断する工程を行ってもよい。
【0038】
上記の電極の製造方法は、バイポーラ電極の製造、およびモノポーラ電極の製造に適用することができる。
【0039】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極は、公知方法に従い、リチウムイオン二次電池等の二次電池の電極として好適に用いることができる。したがって、本実施形態に係る電極の製造方法は、好適には、二次電池(特にリチウムイオン二次電池)用の電の製造方法である。
【0040】
本実施形態に係る製造方法により得られる電極を用いて作製された二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV等の車両に搭載される駆動用電源;小型電力貯蔵装置等の蓄電池などが挙げられる。
【0041】
以上、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0042】
2 搬送ローラ、3 集電体、3a 主面、5 電極ペースト、10 塗工装置、20 レーザ照射装置、30 熱風照射装置、40 温度センサ、50 制御部。