(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】新規抗糖鎖抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20250805BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250805BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20250805BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250805BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20250805BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20250805BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250805BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20250805BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20250805BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250805BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20250805BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20250805BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250805BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250805BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250805BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20250805BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20250805BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250805BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250805BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250805BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250805BHJP
C12N 5/12 20060101ALI20250805BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250805BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250805BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20250805BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K35/76
A61K39/395 N
A61K48/00
A61P1/04
A61P3/10
A61P9/10 101
A61P11/02
A61P11/06
A61P17/00
A61P17/06
A61P19/02
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P37/08
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2022555517
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036893
(87)【国際公開番号】W WO2022075337
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2024-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020169966
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」「糖鎖利用による革新的創薬技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】川島 博人
(72)【発明者】
【氏名】松村 龍志
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】平川城太朗,川島博人,新規抗糖鎖モノクローナル抗体を用いたリンパ球体内動態の解析,生化学,2018年,Vol. 90, No. 2,pp. 221-224
【文献】MATSUMURA, R. et al.,Novel antibodies reactive with sialyl lewis X in both humans and mice define its critical role in leukocyte trafficking and contact hypersensitivity responses,J. Biol. Chem.,2015年,Vol. 290, No. 24,pp. 15313-15326
【文献】HIRAKAWA, J. et al., Novel anti-carbohydrate antibodies reveal the cooperative function of sulfated N- and O-glycans in lymphocyte homing,J. Biol. Chem.,2010年,Vol. 285, No. 52,pp. 40864-40878
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片であって、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;
及び
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
を含む重鎖可変領域と、以下の:
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
を含む軽鎖可変領域とを含む、抗体又はその断片。
【請求項2】
重鎖可変領域が、配列番号
15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列
を含み、軽鎖可変領域が配列番号18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、請求項
1に記載の抗体又はその断片。
【請求項3】
以下に示す重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせのいずれか:
(1)配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(2)配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;
(3)配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は
(4)配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、
を含む、請求項
1に記載の抗体又はその断片。
【請求項4】
配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項
1に記載の抗体又はその断片。
【請求項5】
以下に示す重鎖と軽鎖の組み合わせのいずれか:
(1)配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
(2)配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;又は
(3)配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、
を含む、請求項
1に記載の抗体又はその断片。
【請求項6】
6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現する高内皮細静脈とL-セレクチンの結合を阻害する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の抗体又はその断片。
【請求項7】
定常領域がヒト由来である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗体又はその断片。
【請求項8】
ヒト化されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗体又はその断片。
【請求項9】
Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv及び一本鎖抗体から成る群から選択される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の抗体又はその断片。
【請求項10】
一本鎖抗体が、配列番号21~24のいずれかに記載のアミノ酸配列
を含む、請求項
9に記載の抗体又はその断片。
【請求項11】
抗体又はその断片が、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対して1×10
-6M以下の解離定数(K
D値)を示す、請求項1~
10のいずれか一項に記載の抗体又はその断片。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項
12に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項14】
請求項
13に記載の発現ベクターによりトランスフェクトされた、宿主細胞。
【請求項15】
真核細胞である、請求項
14に記載の宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の抗体を産生する、ハイブリドーマ。
【請求項17】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の抗体又はその断片、請求項
12に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項
13に記載の発現ベクターを含む、リンパ球ホーミング阻害剤。
【請求項18】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の抗体又はその断片、請求項
12に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項
13に記載の発現ベクターを含む、医薬組成物。
【請求項19】
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患を治療又は予防するための、請求項
18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、請求項
19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、請求項
20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
免疫関連疾患が、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、請求項
21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択される自己免疫疾患である、請求項
21に記載の医薬組成物。
【請求項24】
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、請求項
23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、請求項
23又は
24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防のための薬剤を更に含む、請求項
19~
25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の抗体又はその断片を製造する方法であって、請求項
14又は
15に記載の宿主細胞、又は請求項
16に記載のハイブリドーマを培養する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く、糖鎖を標的とする新規抗体、特に、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合は6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する抗体又はその断片、及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫関連疾患の多くは未だに病態メカニズムが不明であり、中でも、自己免疫疾患はアンメットメディカルニーズの高い疾患の一つである。自己免疫疾患のうち、多発性硬化症の治療に関しては、炎症細胞の中枢神経系への浸潤を司る接着分子であるVLA-4インテグリンに対する抗体ナタリズマブは病態改善効果を示したが、JCウイルス感染による進行性多巣性白質脳症を引き起こすことがある。また、低分子医薬であるフィンゴリモド(FTY720)は多発性硬化症治療薬としての有効性が認められているが、感染症や徐脈性不整脈等の副作用も知られており、作用機序の異なる新規治療薬の開発が望まれる。FTY720は抗原感作を受けたリンパ球をリンパ節内にとどめることを作用機序とするが、リンパ球がリンパ節内に移行する過程(リンパ球ホーミング)を抑制することが出来れば、リンパ節内における抗原感作を抑制し、多発性硬化症をはじめとする種々の免疫関連疾患の根本治療に繋がる可能性が考えられる。しかしこれまでに、リンパ節へのリンパ球ホーミングの阻害によって、自己免疫疾患等の免疫関連疾患の治療が可能か明らかではない。
【0003】
免疫系では数多くの免疫細胞が血液・リンパ液を介して生体内を循環し、外来抗原に対する監視を行っている。なかでも末梢血を循環するリンパ球が二次リンパ組織へと遊走する現象はリンパ球ホーミングと呼ばれ、多段階の接着分子カスケードにより厳密に制御されている。そのため、これら接着分子カスケードを理解することは、リンパ球の体内動態と組織指向性を理解するために重要である。
【0004】
リンパ球ホーミングは効率よく免疫応答を誘導するために備わった生体防御機構であり、リンパ球が末梢リンパ節、腸間膜リンパ節、パイエル板等の二次リンパ組織へと移行する際には、サイコロ状の特殊な形態の内皮細胞から成る高内皮細静脈(high endothelial venule:HEV)に接着した後に組織内へと浸潤する。
【0005】
リンパ球ホーミングを阻害することにより、このリンパ球とHEVとの特異的な接着を抑制することができれば、例えば生体のアレルギー応答を制御でき、種々の疾患の治療に役立つ可能性が考えられる。しかし、自己免疫疾患やアレルギー疾患等の免疫関連疾患の発症には様々な要因が関与するため、リンパ球ホーミングを阻害することにより、それらの免疫関連疾患の治療が可能かどうかは明らかではない。
【0006】
接着分子カスケードにおいて、6-スルホシアリルルイスXは、リンパ球の浸潤を媒介する高内皮細静脈への初期接着を担うことから、リンパ球ホーミングに必須な糖鎖構造である。本発明者らは、糖鎖に硫酸基を転移する硫酸基転移酵素の遺伝子欠損マウスを作製し、HEVに特異的に発現する硫酸化糖鎖である6-スルホシアリルルイスXがリンパ球の二次リンパ組織へのホーミング及び接触性皮膚炎の発症に必須の役割を果たすことを証明している(非特許文献1:Kawashima et al.,Nat.Immunol.,11:1096-1104,2005)。
【0007】
HEVを認識する抗体も知られているが、生体内に発現する糖鎖は微量且つ多様な結合様式を持つため、抗体によって認識する糖鎖構造は異なる。例えば、末梢リンパ節のHEVを特異的に染色するMECA-79(非特許文献2:Streeter et al.,J.Cell Biol.,107:1853-1862,1988)は、伸長型コア1構造と呼ばれる特殊なO-型糖鎖上に存在する場合にのみ6-スルホシアリルルイスXを認識する。また、その認識には6-スルホシアリルルイスX中の硫酸基を要するが、6-スルホシアリルルイスXを構成する糖鎖のうち、リンパ球ホーミングに重要な働きをするフコースやシアル酸を要しない。また、S1抗体およびS2抗体(非特許文献3:Hirakawa et al.,J.Biol.Chem.,285:40864-40878,2010)も6-スルホシアリルルイスXを認識するが、その認識には6-スルホシアリルルイスX中の硫酸基及びシアル酸を要し、フコースを要しない。したがってこれらの抗体は、HEVのみでなくフコースを欠く6-スルホシアリルLacNAc糖鎖を発現する組織とも結合し、生体にリンパ球ホーミングの阻害以外の思わぬ副作用を及ぼす可能性が否定できない。さらに、抗シアリルルイスXモノクローナル抗体であるF1抗体およびF2抗体(非特許文献4:Matsumura et al.,J.Biol.Chem.,290:15313-15326,2015)も6-スルホシアリルルイスXを認識するが、その認識には6-スルホシアリルルイスX中の硫酸基を要さず、硫酸化されていないシアリルルイスXを認識する。したがってこれらの抗体は、HEVに結合してリンパ球ホーミングを阻害するのに加えて、シアリルルイスXを発現する白血球とも結合し、P-セレクチンやE-セレクチン依存的な白血球のローリングをも阻害する。
【0008】
S1抗体、S2抗体はいずれもIgMクラスの抗体であるため、高純度で大量調製するのは困難であることから、頻回投与が必要な自己免疫疾患等の免疫関連疾患に対する治療効果を検証することは困難であり、自己免疫疾患等の免疫関連疾患に対する治療効果は不明である。
【0009】
また、S1抗体、S2抗体以外にも6-スルホシアリルルイスXに結合性を持つ抗体は知られているものの(非特許文献2,4,5,6)、それらの抗体の自己免疫疾患等の免疫関連疾患に対する治療効果も不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Kawashima et al.,Nat.Immunol.,11:1096-1104,2005
【文献】Streeter et al.,J.Cell Biol.,107:1853-1862,1988
【文献】Hirakawa et al.,J.Biol.Chem.,285:40864-40878,2010
【文献】Matsumura et al.,J.Biol.Chem.,290:15313-15326,2015
【文献】Mitsuoka et al.,J.Biol.Chem.,273:11225-11233,1998
【文献】松浦寛明ら,日本薬学会第135年会要旨集(CD-ROM),ページ:ROMBUNNO.27X-PM05S,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、多発性硬化症等の免疫関連疾患の有効な治療標的となる糖鎖を発見するとともに、同糖鎖を標的とする新規抗体、特に、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合は6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する抗体又はその断片、及びその用途等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、糖鎖合成酵素欠損マウスに糖鎖合成酵素を過剰発現させた細胞を免疫するという本発明者らが考案した手法を用いて複数の抗体を作製した。その中から、免疫組織化学的検討により、6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現するHEVと特異的に結合するIgG1クラスの抗糖鎖モノクローナル抗体(SF1抗体)を選別し、その結合特異性と配列解析を行った。その結果、得られた抗糖鎖抗体は配列が新規であり、6-スルホシアリルルイスXを認識し、その認識には6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸の3つを同時に要求し、厳格に6-スルホシアリルルイスXを他の糖鎖構造から識別することが明らかとなった。バイオレイヤー干渉法による解析の結果、SF1抗体と6-スルホシアリルルイスXとの結合のKD値は、6.09×10-9(M)であることが示された。
【0013】
本発明者は、SF1抗体がリンパ球ホーミングレセプターであるL-セレクチンとHEVの結合を阻害するとともに、6-スルホシアリルルイスX発現細胞上におけるリンパ球のL-セレクチン依存的なローリングを阻害する活性を持ち、リンパ球ホーミングを阻害するのに有効であることを明らかにした。
【0014】
次に本発明者は、リンパ球ホーミングに関与する糖鎖が多発性硬化症等の免疫関連疾患の有効な治療標的となり得る可能性に着目し、リンパ球ホーミングに関与する6-スルホシアリルルイスX糖鎖の合成不全によってリンパ球ホーミングが顕著に低下する硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-1/2二重欠損マウスを用いて、実験的自己免疫性脳脊髄炎の解析を行った。その結果、GlcNAc6ST-1/2によって合成される6-スルホシアリルルイスX糖鎖が、多発性硬化症等の免疫関連疾患の治療標的となることを発見した。
【0015】
そこで本発明者は、動物モデルを用いた非臨床試験により、SF1抗体の免疫関連疾患に対する治療効果を多面的に検討した。その結果、実験的自己免疫性脳脊髄炎の顕著な予防効果および治療効果を持つことを発見した。さらにリウマチ様関節炎モデルおよびアレルギー性鼻炎モデルにおいても疾患抑制効果を持つことを明らかとした。以上より、SF1抗体は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖と特異的に結合し、リンパ節へのリンパ球ホーミングを特異的に阻害することによって、自己免疫疾患およびアレルギー疾患等の免疫関連疾患に対する顕著な治療効果を発揮することを明らかにした。
【0016】
本発明者は、SF1抗体を用いてヒト正常組織の免疫組織染色を行い、SF1抗体がヒトの末梢リンパ節および扁桃HEVと特異的に結合することを明らかにした。
【0017】
SF1抗体はマウス抗体であるためヒト免疫関連疾患の治療に用いるためには、抗体のヒト化が重要である。そこで本発明者はさらに、SF1抗体の超可変部の配列をヒト抗体可変部のフレーム配列に移植したヒト化一本鎖SF1抗体を作製したところ、HEVとの特異的な結合性を保持することを明らかにした。そこでその可変部配列をヒトIgG1重鎖およびヒトκ軽鎖に置き換えた完全型のヒト化SF1抗体を作製したところ、HEVと硫酸基、フコース依存的に特異的な結合性を示し、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対する特異的な結合特異性を保持することを明らかにした。
【0018】
次に本発明者は、ヒト化SF1抗体が、マウスSF1抗体と同様に、リンパ球ホーミングの阻害と実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症抑制に有効であることを明らかにした。
【0019】
さらに本発明者は、Fc部分の配列を、抗体のFc部分を介するエフェクター活性を低下させ、副作用リスクを低減させることが知られている配列に改変したヒト化SF1抗体を作製し、特異的な組織結合性を保持することを見出した。これらのFc部分の配列を改変したヒト化SF1抗体は、自己免疫疾患やアレルギー疾患等の免疫関連疾患の治療抗体として有用と考えられる。
【0020】
すなわち、本願発明は以下の発明を包含する。
[1]
6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片であって、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
から成る群から選択される少なくとも1つ以上のCDRを含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRを少なくとも1つ以上含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRを少なくとも1つ以上含む、抗体又はその断片。
[2]
以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;及び
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
を含む重鎖可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域を含む、[1]に記載の抗体又はその断片。
[3]
重鎖可変領域が、配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも90個の連続したアミノ酸を含む、[2]に記載の抗体又はその断片。
[4]
重鎖可変領域が、配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列、配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[2]又は[3]に記載の抗体又はその断片。
[5]
重鎖が、配列番号25、27又は28に記載のアミノ酸配列、配列番号25、27又は28に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号25、27又は28に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[2]~[4]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[6]
以下の:
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
を含む軽鎖可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[7]
軽鎖可変領域が、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも80個の連続したアミノ酸を含む、[6]に記載の抗体又はその断片。
[8]
軽鎖可変領域が、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[6]又は[7]に記載の抗体又はその断片。
[9]
軽鎖が、配列番号26に記載のアミノ酸配列、配列番号26に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号26に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[6]~[8]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[10]
以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
から成るCDRを含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む、[1]~[9]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[11]
6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現する高内皮細静脈とL-セレクチンの結合を阻害する、[1]~[10]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[12]
定常領域がヒト由来である、[1]~[11]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[13]
ヒト化されている、[1]~[12]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[14]
Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv及び一本鎖抗体から成る群から選択される、[1]~[13]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[15]
一本鎖抗体が、配列番号21~24のいずれかに記載のアミノ酸配列における1~117番目及び133~238番目のアミノ酸配列、配列番号21~24のいずれかに記載のアミノ酸配列における1~117番目及び133~238番目のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号21~24のいずれかに記載のアミノ酸配列における1~117番目及び133~238番目のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む、[14]に記載の抗体又はその断片。
[16]
抗体又はその断片が、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対して1×10-6M以下の解離定数(KD値)を示す、[1]~[15]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[17]
[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド。
[18]
[17]に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
[19]
[18]に記載の発現ベクターによりトランスフェクトされた、宿主細胞。
[20]
真核細胞である、[19]に記載の宿主細胞。
[21]
[1]~[16]のいずれかに記載の抗体を産生する、ハイブリドーマ。
[22]
[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片、[17]に記載のポリヌクレオチド、あるいは[18]に記載の発現ベクターを含む、リンパ球ホーミング阻害剤。
[23]
[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片、[17]に記載のポリヌクレオチド、あるいは[18]に記載の発現ベクターを含む、医薬組成物。
[24]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患を治療又は予防するための、[23]に記載の医薬組成物。
[25]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、[24]に記載の医薬組成物。
[26]
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、[25]に記載の医薬組成物。
[27]
免疫関連疾患が、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、[26]に記載の医薬組成物。
[28]
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択される自己免疫疾患である、[26]に記載の医薬組成物。
[29]
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、[28]に記載の医薬組成物。
[30]
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、[28]又は[29]に記載の医薬組成物。
[31]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防のための薬剤を更に含む、[24]~[30]のいずれかに記載の医薬組成物。
[32]
[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片を製造する方法であって、[19]又は[20]に記載の宿主細胞、又は[21]に記載のハイブリドーマを培養する工程を含む、方法。
[33]
6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片、当該抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド、あるいは該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む、リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患を治療又は予防するための医薬組成物。
[34]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、[33]に記載の医薬組成物。
[35]
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、[34]に記載の医薬組成物。
[36]
免疫関連疾患が、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、[35]に記載の医薬組成物。
[37]
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択されるいずれかの自己免疫疾患である、[35]に記載の医薬組成物。
[38]
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、[37]に記載の医薬組成物。
[39]
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、[38]に記載の医薬組成物。
[40]
抗体又はその断片が、6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現する高内皮細静脈とL-セレクチンの結合を阻害する、[33]~[39]のいずれかに記載の医薬組成物。
[41]
抗体又はその断片が、[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片である、[33]~[40]のいずれかに記載の医薬組成物。
[42]
対象におけるリンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患を治療又は予防するための方法であって、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片、当該抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド、あるいは当該ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを有効量当該対象に投与する工程を含む、方法。
[43]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、[42]に記載の方法。
[44]
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、[43]に記載の方法。
[45]
免疫関連疾患がアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、[44]に記載の方法。
[46]
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択されるいずれかの自己免疫疾患である、[44]に記載の方法。
[47]
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、[46]に記載の方法。
[48]
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、[46]又は[47]に記載の方法。
[49]
抗体又はその断片が、[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片である、[42]~[48]のいずれかに記載の方法。
[50]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防のための薬剤を投与する工程を更に含む、[42]~[49]のいずれかに記載の方法。
[51]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防において使用するための、[1]~[16]のいずれかに記載の抗体又はその断片。
[52]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、[51]に記載の抗体又はその断片。
[53]
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、[52]に記載の抗体又はその断片。
[54]
免疫関連疾患が、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、[53]に記載の抗体又はその断片。
[55]
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択される自己免疫疾患である、[53]に記載の抗体又はその断片。
[56]
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、[55]に記載の抗体又はその断片。
[57]
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、[55]又は[56]に記載の抗体又はその断片。
[58]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患を治療又は予防するための医薬の製造のための、[1]~[16]のいずれか一項に記載の抗体又はその断片の使用。
[59]
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患が免疫関連疾患である、[58]に記載の使用。
[60]
免疫関連疾患がアレルギー疾患又は自己免疫疾患である、[59]に記載の使用。
[61]
免疫関連疾患が、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択されるアレルギー疾患である、[59]に記載の使用。
[62]
免疫関連疾患が、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)から成る群から選択される自己免疫疾患である、[59]に記載の使用。
[63]
自己免疫疾患が多発性硬化症又は膠原病である、[62]に記載の使用。
[64]
膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症及びSAPHO症候群から成る群から選択される1又は複数の疾患である、[62]又は[63]に記載の使用。
【発明の効果】
【0021】
本発明の抗糖鎖抗体によれば、リンパ球上に発現するL-セレクチンと高内皮細静脈(HEV)上の糖鎖の結合を阻害し、リンパ球ホーミングの阻害による免疫関連疾患(例えば、多発性硬化症等の自己免疫疾患)の治療が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は6-スルホシアリルルイスX糖鎖の構造の模式図である。
【
図2】
図2は蛍光免疫染色によるSF1抗体およびMECA-79抗体のマウスリンパ節高内皮細静脈(HEV)への反応性を解析した免疫染色結果を示す。
【
図3】
図3は蛍光免疫染色によるSF1抗体、F2抗体およびS2抗体のマウスリンパ節高内皮細静脈(HEV)への反応性を解析した免疫染色結果を示す。
【
図4】
図4は、シアリダーゼ処理がSF1抗体のマウスリンパ節HEVへの反応性に及ぼす影響を解析した免疫染色結果を示す。
【
図5】
図5は、Glycan Arrayにより、SF1抗体の各種糖鎖に対する反応性を解析した結果を示す。
【
図6】
図6は、SF1抗体と6-スルホシアリルルイスXの結合の解離定数をバイオレイヤー干渉法で測定した結果を示す。
【
図7】
図7は、SF1抗体の重鎖及び軽鎖可変部の超可変部アミノ酸配列を示す。
【
図8】
図8は、SF1抗体の重鎖可変部のアミノ酸配列を示す。
【
図9】
図9は、SF1抗体の軽鎖可変部のアミノ酸配列を示す。
【
図10】
図10は、L-セレクチン-Fcのマウスリンパ節HEVへの結合に及ぼすSF1抗体の阻害効果を示す。
【
図11】
図11は、L-セレクチン依存的リンパ球ローリングに及ぼすSF1抗体の阻害効果を示す。
【
図12】
図12は、SF1抗体によるリンパ球ホーミングの阻害効果を解析した結果を示す。
【
図13】
図13は、GlcNAc6ST-1/2二重欠損マウスと野生型マウスのEAEクリニカルスコアを比較したグラフである。
【
図14】
図14は、抗原感作時におけるSF1抗体投与がEAEクリニカルスコアに及ぼす影響を示すグラフである。
【
図15】
図15は、EAE発症後におけるSF1抗体投与(初回抗原感作後8日目からSF1抗体投与)がEAEクリニカルスコアに及ぼす影響を示すグラフである。
【
図16】
図16は、EAE発症後におけるSF1抗体投与(初回抗原感作後21日目からSF1抗体投与)がEAEクリニカルスコアに及ぼす影響を示すグラフである。
【
図17】
図17は、SF1抗体投与がコラーゲン誘導関節炎(CIA)発症率(左)及びクリニカルスコア(右)に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図18】
図18は、マウスアレルギー性鼻炎モデルにおけるSF1抗体によるくしゃみ(左図)および鼻かき行動(右図)の抑制効果を示すグラフである。
【
図19】
図19は、SF1抗体による正常ヒト組織の免疫染色結果を示す。
【
図20】
図20は、
図19の免疫染色写真のうち、リンパ節及び扁桃の結果を拡大したものである。
【
図21】
図21は、ヒト化SF1抗体の重鎖可変部および軽鎖可変部のアミノ酸配列を示す。
【
図22】
図22は、ヒト化SF1一本鎖抗体(scFv)のアミノ酸配列を示す。
【
図23】
図23は、ヒト化SF1一本鎖抗体(scFv)によるマウスリンパ節の蛍光免疫染色結果を示す。
【
図24】
図24は、ヒト化SF1抗体の重鎖の全長アミノ酸配列を示す。
【
図25】
図25は、ヒト化SF1抗体の軽鎖の全長アミノ酸配列を示す。
【
図26】
図26は、
図24、
図25に示されるヒト化SF1抗体の重鎖及び軽鎖から構成されるヒト化SF1抗体によるマウスリンパ節の蛍光免疫染色結果を示す。
【
図27】
図27は、ヒト化SF1抗体(HSF1抗体)によるリンパ球ホーミングの阻害効果を解析した結果を示す。
【
図28】
図28は、抗原感作時におけるヒト化SF1抗体(HSF1抗体)投与がEAEクリニカルスコアに及ぼす影響を示すグラフである。
【
図29】
図29は、ヒト化SF1抗体の重鎖IgG1-LALA体の全長アミノ酸配列を示す。
【
図30】
図30は、ヒト化SF1抗体の重鎖IgG4-SPLE体の全長アミノ酸配列を示す。
【
図31】
図31は、
図29、
図30に示されるヒト化SF1抗体の重鎖改変体及び
図25に示される軽鎖から構成される、ヒト化SF1抗体-IgG1-LALA体(HSF1-LALA)及びヒト化SF1抗体-IgG4-SPLE体(HSF1-G4PE)によるマウスリンパ節の蛍光免疫染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(抗糖鎖抗体)
第一の態様において、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合は6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片が提供される。本明細書では以降、この抗体を単に抗糖鎖抗体ともいう。本明細書で使用する場合、6-スルホシアリルルイスXとの結合又は6-スルホシアリルルイスXの認識に「6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求」するとは、抗体が6-スルホシアリルルイスXとの結合にフコース、硫酸基及びシアル酸の3つを必要とし、6-スルホシアリルルイスX糖鎖からフコース、硫酸基又はシアル酸のいずれか一つでも欠損した糖鎖への結合活性が6-スルホシアリルルイスXへの結合活性と比較して低下することを意味する。
【0024】
6-スルホシアリルルイスX糖鎖と抗体との反応性は常法により測定することができ、例えば、糖鎖が基板上に固定された糖鎖アレイを用いて行うことができる。糖鎖アレイは、例えば米国Consortium for Functional GlycomicsのGlycan Arrayを用いて実施可能である。6-スルホシアリルルイスX糖鎖と抗体との反応性は、表面プラズモン共鳴や等温滴定型カロリメトリーを用いて評価することもできる。
【0025】
一実施形態において、抗原抗体反応における、本発明の抗体またはその断片の6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対する結合親和性についての解離定数(KD値)は、通常1×10-6M以下(例えば、1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下、1×10-11M以下)である。
【0026】
一実施形態において、6-スルホシアリルルイスX糖鎖から、フコース、硫酸基又はシアル酸の少なくとも一つを欠損して得られる糖鎖(例、6-スルホルイスX、6-スルホシアリルLacNAc、シアリルルイスX)に対する本発明の抗体またはその断片の結合親和性についてのKD値は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対するKD値と比較して、通常10倍以上(例えば、102倍以上、103倍以上、104倍以上、105倍以上)大きい値である。
【0027】
一実施形態において、6-スルホルイスX、6-スルホシアリルLacNAc、及びシアリルルイスXに対する本発明の抗体またはその断片の結合親和性についてのKD値は、いずれも6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対するKD値と比較して、通常10倍以上(例えば、102倍以上、103倍以上、104倍以上、105倍以上)大きい値である。
【0028】
抗体またはその断片の糖鎖抗原に対する結合親和性についてのKD値は、後述の実施例に準じ、ストレプトアビジンバイオセンサーに結合したビオチン化した糖鎖に対する抗体またはその断片の結合特性を、Octet RED96(Pall-Fortebio社製)を用いたバイオレイヤー干渉法により解析することにより測定することができる。
【0029】
6-スルホシアリルルイスXは、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)で構成されるN-アセチルラクトサミン(LacNAc)構造にシアル酸、フコース及び硫酸基が付加した糖鎖である(
図1)。6-スルホシアリルルイスXの生合成にはN-アセチルグルコサミンの6位の硫酸化が必要であり、硫酸化を触媒する硫酸基転移酵素(ST)としてマウスではN-アセチルグルコサミン-6-O-スルホトランスフェラーゼ(GlcNAc6ST)-1~GlcNAc6ST-4がクローニングされている。
【0030】
リンパ球ホーミングにおいて、リンパ球は、リンパ球上に発現するL-セレクチンと高内皮細静脈(HEV)内腔に発現する6-スルホシアリルルイスXとの特異的結合を介したHEV上でのローリング(リンパ球ローリング)を経由してリンパ節内へ浸潤する。このように、硫酸化糖鎖である6-スルホシアリルルイスXはリンパ球の浸潤を媒介するHEVへの初期接着を担うことからリンパ球ホーミングに必須な糖鎖構造である。
【0031】
L-セレクチンと6-スルホシアリルルイスX糖鎖との結合には、フコース、硫酸基、シアル酸が関与する。フコース、硫酸基、シアル酸はリンパ球のホーミングにおいて重要な役割を果たすため、フコース、硫酸基及びシアル酸の3つを同時に認識する抗糖鎖抗体又はその断片はリンパ球ホーミング、特に6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現する細胞、例えば末梢リンパ節や腸管膜リンパ節等のリンパ節、又は扁桃の高内皮細静脈からのリンパ球ホーミングを高効率に阻害し、ひいてはリンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防に有効であると考えられる。好ましい実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片は、ホーミングの過程のうち、L-セレクチン依存的なリンパ球のローリングを阻害する。
【0032】
6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する抗体は、例えば、HEVに発現するシアリルルイスXの硫酸化を担う硫酸基転移酵素、GlcNAc6ST-1及びGlcNAc6ST-2を欠損したマウス(以下、硫酸基転移酵素二重欠損マウス又はDKOマウス、ともいう。)を、フコース転移酵素及び硫酸基転移酵素の遺伝子導入により硫酸化糖鎖を発現させた細胞で免疫し、抗体産生細胞をミエローマと融合することで得られるハイブリドーマを用いて産生することができる。硫酸基転移酵素二重欠損マウスは当業者に公知の手法、例えばKawashima et al.,(上掲)に記載の手法を用いて作製することができる。産生した抗体は回収の前に更に精製工程等の追加の工程にかけてもよく、例えば純度を高めるために、塩析、フィルター濾過、遠心分離を用いた清澄化、アフィニティーによる回収、イオン交換による中間精製、ゲルろ過による最終精製を行うことが好ましい。
【0033】
このようにして得られる抗糖鎖抗体の例として、6-スルホシアリルルイスXを認識する相補性決定領域(CDR)を有する抗体、例えば、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列(GFSLTSYA)から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列(IWGGGST)から成るCDRH2;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列(AKHEKLGRFPY)から成るCDRH3;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列(SSVSY)から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列(EIS)から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列(QQWNYPLAT)から成るCDRL3;
から成る群から選択される少なくとも1つ以上のCDR、好ましくは6つ全てのCDRを含む抗体が例示される。抗体は通常2つの重鎖と2つの軽鎖がジスルフィド結合により共有結合した構造を有し、各重鎖は重鎖可変領域と重鎖定常領域に、そして各軽鎖は軽鎖可変領域と軽鎖定常領域に分けられる。CDRは各可変領域に3つずつ含まれる。ここで、CDRH1、CDRH2、CDRH3は重鎖の相補性決定領域を重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側から順に表記したものであり、CDRL1、CDRL2、CDRL3は軽鎖の相補性決定領域を軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側から順に表記したものである。
【0034】
従って、抗糖鎖抗体またはその断片は、好ましくは、
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列(GFSLTSYA)から成るCDRH1、
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列(IWGGGST)から成るCDRH2、及び
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列(AKHEKLGRFPY)から成るCDRH3を含む重鎖可変領域を含むか、そして/あるいは
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列(SSVSY)から成るCDRL1、
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列(EIS)から成るCDRL2、及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列(QQWNYPLAT)から成るCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む。
【0035】
各CDRのアミノ酸配列は、抗糖鎖抗体またはその断片が、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する限り、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有していてもよい。本明細書で使用する場合、「数個」とは、配列の長さによっても異なるが、2~10個、好ましくは2~5個、より好ましくは2又は3個を指す。
【0036】
置換後のアミノ酸は、以下の分類のような元のアミノ酸側鎖の性質が保存されているアミノ酸であることが望ましい。しかしながら、アミノ酸置換は保存的置換に限定されない。
疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V);
親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T);
脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P);
水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y);
硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M);
カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q);
塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H);
芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)
【0037】
一実施形態において、アミノ酸置換は、天然のヒト抗体において対応する位置に存在するアミノ酸であってよい。
【0038】
一実施形態において、アミノ酸置換は、相補性決定領域(CDR)の外側に存在していてもよい。
【0039】
一実施形態において、アミノ酸置換は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域に存在していてもよい。
【0040】
あるいは、各CDRのアミノ酸配列は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する限り、各配列番号に示される配列と80%以上の相同性、好ましくは80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から構成されていてもよい。配列の相同性又は同一性は、好ましくは81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%以上、より好ましくは99%以上である。
【0041】
一実施形態において、抗糖鎖抗体は、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
から成る群から選択される少なくとも1つ以上のCDRを含む可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRを含む可変領域を少なくとも1つ以上含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRを含む可変領域を少なくとも1つ以上含む、抗体又はその断片が結合するエピトープと結合する抗体又はその断片であってもよい。
【0042】
本明細書で使用する場合、「エピトープ」とは、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合は6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片が結合する6-スルホシアリルルイスX糖鎖の部分構造を意味する。エピトープが立体構造エピトープの場合、X線結晶構造解析等により抗体に結合している6-スルホシアリルルイスX糖鎖の構造を解析することによりエピトープを特定することができる。
【0043】
一実施形態において、抗糖鎖抗体は、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;及び
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
を含む重鎖可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域を含む、抗体又はその断片であってもよい。
【0044】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における重鎖可変領域は、配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも90個の連続したアミノ酸を含んでもよい。
【0045】
本明細書で使用する場合、「配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも90個の連続したアミノ酸」とは、配列番号13、15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列における90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116又は117個の連続したアミノ酸を意味する。そのような連続したアミノ酸は、順に、26~33番目のアミノ酸、51~57番目のアミノ酸、96~106番目のアミノ酸で表されるCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含むことが好ましい。
【0046】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における重鎖可変領域は、配列番号15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列、配列番号15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号15~17のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0047】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における重鎖は、配列番号25、27又は28に記載のアミノ酸配列、配列番号25、27又は28に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号25に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0048】
一実施形態において、抗糖鎖抗体は、以下の:
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
を含む軽鎖可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域を含む、抗体又はその断片であってもよい。
【0049】
一実施形態において、抗糖鎖抗体は、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3;
を含む可変領域を含むか、
各CDRのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む可変領域を含むか、あるいは
各CDRのアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成るCDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む可変領域を含む、抗体又はその断片であってもよい。
【0050】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における軽鎖可変領域は、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも80個の連続したアミノ酸を含んでもよい。
【0051】
本明細書で使用する場合、「配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列の少なくとも80個の連続したアミノ酸」とは、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列における80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105又は106個の連続したアミノ酸を意味する。そのような連続したアミノ酸は、順に、27~31番目のアミノ酸、49~51番目のアミノ酸、88~96番目のアミノ酸で表されるCDRL1、CDRL2及びCDRL3を含むことが好ましい。
【0052】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における軽鎖可変領域は、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列、配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号14、18~20のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0053】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片における軽鎖は、配列番号26に記載のアミノ酸配列、配列番号26に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列、あるいは配列番号26に記載のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。
【0054】
抗糖鎖抗体は上記CDRを有する限り、その他の構造、例えばCDR以外の可変領域や定常領域の構造は特に限定されないが、上記のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域と、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域とをそれぞれコードするアミノ酸配列の例として、それぞれ、配列番号13、15、16、17のアミノ酸配列および配列番号14、18、19、20のアミノ酸配列が挙げられる。
【0055】
好ましい実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片は、配列番号13、15、16又は17のいずれかのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号14、18、19又は20のいずれかのアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含んでもよい。
【0056】
好ましい実施形態において、ヒト化抗糖鎖抗体又はその断片は、配列番号15、16又は17のいずれかのアミノ酸配列を有する重鎖可変領域と、配列番号18、19又は20のいずれかのアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域とを含んでもよい。
(組み合わせの例:配列番号15と配列番号18、配列番号15と配列番号19、配列番号15と配列番号20、配列番号16と配列番号18、配列番号16と配列番号19、配列番号16と配列番号20、配列番号17と配列番号18、配列番号17と配列番号19、配列番号17と配列番号20)
【0057】
より好ましい実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片は、以下に示す重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせのいずれかを含んでもよい:
・配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号14で表されるアミノ酸配列(配列番号4)を含む軽鎖可変領域(SF1);
・配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(H1)と配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(L1);
・配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(H1)と配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(L2);
・配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(H2)と配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(L1);
・配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(H3)と配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(L3)。
【0058】
本明細書で使用する場合、「抗体」は、天然のものであるか、あるいは全体的又は部分的に合成により製造された人工の免疫グロブリン又はその断片を意味する。抗体はIgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれのアイソタイプであってもよい。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。
【0059】
抗体の由来は問わず、任意の哺乳類、例えばヒトや、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ等の非ヒト動物であってもよい。ヒト抗体のみならず、ヒト化抗体、キメラ抗体等の組み換え抗体を使用することもできる。本明細書で使用する場合、「ヒト化抗体」とは、ヒト抗体のCDRを、非ヒト動物抗体由来のCDRで置き換えたものである。CDR以外に一部のフレームワークのアミノ酸残基をヒト抗体に移植してもよい。非ヒト動物抗体由来のCDRをヒトに使用する場合、ヒト抗体の定常領域と組み合わせることが好ましい。抗体はポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0060】
抗糖鎖抗体には、所望とする効果が奏される限り、化学的又は生物学的な修飾が施されていてもよい。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖の化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合への糖鎖付加、N末端又はC末端のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによりN末端にメチオニン残基が付加したもの等が含まれ得る。
【0061】
修飾体は更に、その重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等であってもよい。
【0062】
Eu番号(KabatのEuナンバリング)で、IgG1のLeu234-Leu235のアミノ酸は、抗体とFc受容体および補体との結合によるエフェクター活性発現に影響を与える部位であることが知られている。IgG1のこの領域に含まれるLeuをAlaに置換する(得られる変異体を「IgG1-LALA体」という)ことで抗体のFc部分を介するエフェクター活性を低下させ、副作用リスクを低減させることができる場合があり(米国特許公報 US5885573)、必要に応じて抗体のFc部分にこのような改変を施しても良い。これらの変異に加えて、Pro329をGlyに置換する(得られる変異体を「IgG1-P329G LALA体」という)ことで抗体のFc部分を介するエフェクター活性を低下させ、副作用リスクをさらに低減させることができる場合があり(米国特許公報 US8969526、Protein Eng. Des Sel., 29:457-466, 2016)、必要に応じて抗体のFc部分にこのような改変を施しても良い。IgG1-LALA体の重鎖の例として、配列番号27に記載のアミノ酸配列を含む重鎖が挙げられる。
【0063】
Eu番号で、IgG4のSer228をProに置換することにより、IgG4がhalf antibodyとなるのを阻害することが知られている。また、IgG4のLeu235をGluに置換することにより抗体とFc受容体との結合によるエフェクター活性発現を低減させることが知られている。IgG4のこの領域に含まれるSer228をProに、Leu235をGluに置換する(得られる変異体を「IgG4-SPLE体」という)ことで抗体のFc部分を介するエフェクター活性を低下させ、副作用リスクを低減させることができる場合があり(Newman et al., Clin. Immunol., 98:164-174, 2001)、必要に応じて抗体のFc部分にこのような改変を施しても良い。IgG4-SPLE体の重鎖の例として、配列番号28に記載のアミノ酸配列を含む重鎖が挙げられる。
【0064】
別の態様では、抗体のFc部分を介するエフェクター活性発現を低減させることが知られているその他のアミノ酸置換もしくは欠失(例えば、Eu番号で、Asp265のAlaへの置換、Glu294の欠失、Asn297のAlaへの置換、Lys322のAlaへの置換、Ala330のLeuへの置換、Pro331のSerへの置換)を、抗体のFc部分に施しても良い。
【0065】
抗糖鎖抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種の組み合わせからなるものであってもよいし、いずれか二種の組み合わせからなるものであってもよい。各欠失体の量比は抗糖鎖抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、抗糖鎖抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0066】
本明細書で使用する場合、抗体の「断片」とは、断片化される前の抗体が奏する機能の少なくとも一部を奏する機能的な断片を意味し、その例としては、Fab、F(ab’)2、scFv、Fab’、一本鎖抗体(scFv)等が挙げられる。断片はこれらの分子に限定されず、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求していればどのような断片であってもよい。例えば、抗糖鎖抗体は、単一ドメイン抗体やナノボディのように、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さない抗体であってもよい。
【0067】
想定される抗糖鎖抗体の機能の例としては、6-スルホシアリルルイスX糖鎖の認識、リンパ球ホーミング阻害等が挙げられる。抗体又はその断片は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖以外の他の1又は複数の抗原に対して特異性を有する多特異性抗体であってもよい。複数の特異性の付与に加え、所望等する用途に応じて抗癌剤等による修飾、結合親和性の向上を目指した多価化を抗糖鎖抗体に対して行うこともできる。
【0068】
抗糖鎖抗体は目的に応じてGly-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号29)の3回繰り返し配列等のリンカーを含んでいてもよく、例えば一本鎖抗体等のように抗体の抗原結合部位を構成する複数の可変領域が結合されている場合にはその間にリンカーが介在しうる。例えば、重鎖可変部と軽鎖可変部とをリンカーを介して連結することにより一本鎖抗体を得る。リンカーの配列は当業者が適宜決定することができる。
【0069】
上記のCDRH1、CDRH2及びCDRH3を含む重鎖可変領域と、CDRL1、CDRL2及びCDRL3を含む軽鎖可変領域とをコードするアミノ酸配列を含む一本鎖抗体の例として、配列番号21、22、23又は24に記載のアミノ酸配列における1~117番目及び133~238番目のアミノ酸配列を含む抗体が挙げられる。該一本鎖抗体は、例えば、配列番号21、22、23又は24に記載のアミノ酸配列を含む。
【0070】
抗糖鎖抗体の断片は、抗体タンパク質の全長分子をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することで得ることができる。あるいは、所望の断片をコードする遺伝子を適当な宿主細胞において発現することで産生してもよい。宿主細胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子と軽鎖配列遺伝子は、同一の発現ベクターに挿入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能である。宿主細胞は原核細胞又は真核細胞のいずれでもよい。原核細胞の例としては、大腸菌や枯草菌等の細菌細胞が挙げられる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が使用できる。動物細胞の例としては、次のような細胞を例示することができる。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Vero、HEK293、Ba/F3、HL-60、Jurkat、SK-HEP1等。
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞等。
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5等。
【0071】
好ましい実施形態において、抗糖鎖抗体は、以下に示す重鎖と軽鎖の組み合わせのいずれかを含んでもよい:
・配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
・配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;及び
・配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖。
【0072】
(ポリヌクレオチド)
第二の態様において、上記本発明の抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)が提供される。
【0073】
本発明のポリヌクレオチドは、抗糖鎖抗体又はその断片のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列及び/又はその相補鎖を含む1本鎖又は2本鎖のポリヌクレオチド(DNA(cDNA等)、RNA(mRNA、cRNA等))であってもよい。
【0074】
抗糖鎖抗体又はその断片の重鎖可変領域(又は重鎖)と軽鎖可変領域(又は軽鎖)は、同一のポリヌクレオチド上にコードされていてもよく、別々のポリヌクレオチドにコードされて、その組み合わせとして提供されてもよい。重鎖可変領域(又は重鎖)コードするポリヌクレオチドと、軽鎖可変領域(又は軽鎖)をコードするポリヌクレオチドの組み合わせも、「抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチド」に包含される。
【0075】
抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドの例として、
以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1をコードする塩基配列;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2をコードする塩基配列;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3をコードする塩基配列;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1をコードする塩基配列;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2をコードする塩基配列;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3をコードする塩基配列;
から成る群から選択される少なくとも1つ以上のCDRをコードする塩基配列、好ましくは6つ全てのCDRをコードする塩基配列を有するものが例示される。
【0076】
(a)~(f)の塩基配列の例は、順に配列番号7~12で表される。抗体又はその断片の遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、配列番号7~12のいずれかで表される塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有するものであってもよい。配列番号7~12のいずれかで表される塩基配列と実質的に同一の塩基配列とは、配列番号7~12のいずれかで表される塩基配列と80%以上の相同性、好ましくは80%以上の同一性、例えば81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%以上、好ましくは99%以上の同一性を有する配列から成るポリヌクレオチド、あるいはもしくは、配列番号7~12のいずれかで表される塩基配列に相補的な配列から成るポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるポリヌクレオチドであって、そのポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質が、所望の機能を有するもの、例えば6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求するもののことである。
【0077】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーションの条件のことであり、一般的に核酸の塩基長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な実験条件である。一般に、塩基が長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、塩基が短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補鎖がその融点よりやや低い環境における再アニール能力に依存する。
【0078】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドは、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1をコードする塩基配列;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2をコードする塩基配列;及び
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3をコードする塩基配列;
を有するか、
各CDRをコードする塩基配列において、1又は数個の塩基の欠失、置換又は付加を有する塩基配列から成る、CDRH1、CDRH2及びCDRH3をコードする塩基配列を有するか、あるいは
各CDRをコードする塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列から成る、CDRH1、CDRH2及びCDRH3をコードする塩基配列を有してもよい。
【0079】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドは、以下の:
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1をコードする塩基配列;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2をコードする塩基配列;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3をコードする塩基配列;
を有するか、
各CDRをコードする塩基配列において、1又は数個の塩基の欠失、置換又は付加を有する塩基配列から成る、CDRL1、CDRL2及びCDRL3をコードする塩基配列を有するか、あるいは
各CDRをコードする塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列から成る、CDRL1、CDRL2及びCDRL3をコードする塩基配列を有してもよい。
【0080】
一実施形態において、抗糖鎖抗体又はその断片の遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、以下の:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列から成るCDRH1をコードする塩基配列;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列から成るCDRH2をコードする塩基配列;
(c)配列番号3に記載のアミノ酸配列から成るCDRH3をコードする塩基配列;
(d)配列番号4に記載のアミノ酸配列から成るCDRL1をコードする塩基配列;
(e)配列番号5に記載のアミノ酸配列から成るCDRL2をコードする塩基配列;及び
(f)配列番号6に記載のアミノ酸配列から成るCDRL3をコードする塩基配列;
を含むか、
各CDRをコードする塩基配列において、1又は数個の塩基の欠失、置換又は付加を有する塩基配列から成る、CDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3をコードする塩基配列を有するか、あるいは
各CDRをコードする塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列から成る、CDRH1、CDRH2及びCDRH3並びにCDRL1、CDRL2及びCDRL3をコードする塩基配列を有してもよい。
【0081】
(ベクター及び宿主細胞)
第三の態様において、抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、発現ベクター、及び該発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞が提供される。該発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞は、抗糖鎖抗体又はその断片を産生し得る。
【0082】
抗糖鎖抗体又はその断片の重鎖可変領域(又は重鎖)をコードするポリヌクレオチドと、抗糖鎖抗体又はその断片の軽鎖可変領域(又は軽鎖)をコードするポリヌクレオチドは、同一の発現ベクター中に含まれていてもよいし、別々の発現ベクター中に組み込まれて、その組み合わせとして提供されてもよい。重鎖可変領域(又は重鎖)をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(重鎖可変領域(又は重鎖)の発現ベクター)と、軽鎖可変領域(又は軽鎖)をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター(軽鎖可変領域(又は軽鎖)の発現ベクター)の組み合わせも、「抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、発現ベクター」に包含される。
【0083】
抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び該発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞は当業者に公知の手法により得ることができる。例えば、一本鎖の抗糖鎖抗体をコードするポリヌクレオチド等を、その発現に適したベクターに組み込み、これを宿主に導入することによって、抗糖鎖抗体又はその断片が発現する。発現ベクターは抗糖鎖抗体又はその断片の宿主細胞における発現に適したプロモーターやターミネーター等を含んでいることが好ましい。発現ベクターは更にエンハンサー等のその他の適当な制御配列を含むことができる。
【0084】
ベクターは宿主細胞の種類、抗糖鎖抗体又はその断片の発現効率等を考慮して、当業者が周知の発現ベクターから適宜選択することができ、その種類はプラスミドベクターであっても、レトロウイルスやアデノウイルスに由来するウイルスベクターであってもよい。
【0085】
宿主細胞としては、発現ベクターから抗糖鎖抗体又はその断片を発現できる細胞であれば制限されず、大腸菌のような原核細胞や、CHO、COS、NIH3T3、HEK293、HEK293T、COS-7等の哺乳動物由来の細胞、F9等の昆虫由来の細胞、酵母細胞等の真核細胞であってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター等のげっ歯類が挙げられる。
【0086】
発現ベクターの宿主細胞へのトランスフェクションは、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法等の当業者に周知の方法や市販の試薬を用いた方法を用いて行うことができる。
【0087】
抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、発現ベクターをトランスフェクトした宿主細胞(トランスフェクタント)には、
・該発現ベクターを含み、抗糖鎖抗体又はその断片を発現するトランスフェクタント;及び
・抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドが発現可能な態様で宿主細胞の染色体上に組み込まれることにより、抗糖鎖抗体又はその断片を発現するトランスフェクタント(ステーブルトランスフェクタント)
が包含される。該ステーブルトランスフェクタントには、抗糖鎖抗体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを含む、発現ベクターが含まれていてもいなくてもよい。該トランスフェクタントは、好ましくは、CHO、COS、NIH3T3、HEK293、HEK293T、COS-7等の哺乳動物由来の細胞である。
【0088】
(ハイブリドーマ)
第四の態様において、抗糖鎖抗体を産生するハイブリドーマが提供される。
【0089】
抗糖鎖抗体を産生するハイブリドーマは、6-スルホシアリルルイスX糖鎖の付加した糖タンパク質を注射したり、あるいは6-スルホシアリルルイスX糖鎖をコードするベクターであって、免疫動物内で6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現することができるように設計されたベクターを投与することにより免疫動物を免疫し、免疫動物から得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知のミエローマ細胞と融合させることにより得ることができる。このようなハイブリドーマの中から、抗糖鎖抗体を産生する細胞がスクリーニングされる。免疫動物の例としては、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ等のげっ歯類や、サル等の哺乳類が挙げられる。
【0090】
一実施形態において、抗糖鎖抗体を産生するハイブリドーマは、HEVに発現する6-スルホシアリルルイスXの硫酸化を担う硫酸基転移酵素、GlcNAc6ST-1及びGlcNAc6ST-2を欠損したマウスを、フコース転移酵素及び硫酸基転移酵素の遺伝子導入により6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現させた細胞で免疫したマウスから脾細胞を調製し、ミエローマと細胞融合して得る複数のハイブリドーマの中から、その培養上清を用いてマウス末梢リンパ節の免疫蛍光染色を行い、野生型マウスのHEVと特異的に結合性を示すIgGクラスの抗体を分泌するハイブリドーマの選別を行うことで得られる。
【0091】
(抗糖鎖抗体の製造方法)
第五の態様において、抗糖鎖抗体又はその断片の製造方法が提供される。抗糖鎖抗体又はその断片の製造は、上記の宿主細胞、トランスフェクタントやハイブリドーマを培養することで行ってもよいし、組換えDNA技術を用いて行ってもよい。
【0092】
組換えDNA技術により組換えタンパク質として製造される抗体として、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などが挙げられる。これらの抗体は、例えば、抗体や、その重鎖又は軽鎖をコードする組換えベクターにより形質転換された宿主細胞を培養することで製造することができる。組換え抗体は、所望の抗体をコードする遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用いて製造することもできる。
【0093】
宿主細胞、トランスフェクタントやハイブリドーマの培養条件は所望とする抗糖鎖抗体又はその断片や宿主細胞の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。製造方法は、培養工程で得られた培養物から、6-スルホシアリルルイスX糖鎖に特異的に結合し、その結合が6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸を要求する、抗体又はその断片を回収する工程を更に含んでもよい。
【0094】
製造された抗体又はその断片は回収の前に更に精製工程等の追加の工程にかけてもよく、例えば純度を高めるために、塩析、フィルター濾過、遠心分離を用いた清澄化、アフィニティーによる回収、イオン交換による中間精製、ゲルろ過による最終精製を行うことが好ましい。
【0095】
(リンパ球ホーミング阻害剤)
第六の態様において、抗糖鎖抗体又はその断片を含む、リンパ球ホーミング阻害剤が提供される。
【0096】
リンパ球ホーミングは効率よく免疫応答を誘導するために備わった生体防御機構であり、リンパ節へのリンパ球ホーミングは以下の三つのステップで制御されている。すなわち、ステップ1:リンパ球上に発現するL-セレクチンとHEV内腔に発現する硫酸化糖鎖6-スルホシアリルルイスXとの結合を介したリンパ球ローリング、ステップ2:HEV内腔のヘパラン硫酸に提示されたケモカインとケモカイン受容体との結合を介したシグナル伝達による接着分子インテグリンの活性化、ステップ3:活性化インテグリンと免疫グロブリンスーパーファミリーの接着分子ICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)、VCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)との強固な接着とリンパ組織への浸潤であり、これら三つのステップを経てリンパ球はリンパ組織実質へと移行する。
【0097】
このうちステップ1では、HEV内腔に発現する硫酸化糖鎖6-スルホシアリルルイスXが、ステップ2ではヘパラン硫酸が重要な機能を担っている。そのため、6-スルホシアリルルイスX糖鎖を構成するフコース、硫酸基及びシアル酸に特異的に結合する抗体又はその断片を有効成分として使用することによりリンパ球ホーミング阻害剤が調製される。リンパ球ホーミング阻害剤は、特に6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現するリンパ節、例えば末梢リンパ節、腸間膜リンパ節又は扁桃の高内皮細静脈からのリンパ球ホーミングを阻害し、より具体的にはL-セレクチン依存的なリンパ球のローリングを阻害することが好ましい。
【0098】
(医薬組成物)
第七の態様において、抗糖鎖抗体又はその断片の医薬用途、例えば抗糖鎖抗体又はその断片を含む医薬組成物が提供される。
【0099】
抗糖鎖抗体又はその断片の医薬用途として、リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防が挙げられる。具体的には、抗糖鎖抗体又はその断片を疾患の発症前に投与することによる疾患予防効果、疾患発症後に投与することによる疾患治療効果、再発-寛解を繰り返す慢性的な疾患の再発防止効果が挙げられる。リンパ球ホーミングによってもたらされる過剰な免疫応答のうち、抗糖鎖抗体の投与が特に有効と考えられる免疫応答が生じる組織として、末梢リンパ節、腸間膜リンパ節、扁桃が挙げられる。リンパ球ホーミング、特にリンパ球とHEVとの特異的な接着によってもたらされる免疫応答が通常のレベルを超えて過剰に作用することによって生じる疾患の例には、自己免疫疾患等の免疫関連疾患がある。免疫関連疾患は、例えば、再発寛解型多発性硬化症、一次進行型多発性硬化症及び二次進行型多発性硬化症を含む多発性硬化症;乾癬;関節リウマチ;乾癬性関節炎;全身性エリテマトーデス(SLE);潰瘍性大腸炎;クローン病;良性リンパ球性血管炎;血小板減少性紫斑病;突発性血小板減少症;特発性自己免疫性溶血性貧血;赤芽球ろう;シェーグレン症候群;リウマチ性疾患;結合組織疾患;炎症性リウマチ;変形性リウマチ;非関節性リウマチ;若年性関節リウマチ;筋肉リウマチ;慢性多発性関節炎;クリオグロブリン血管炎;ANCA関連血管炎;抗リン脂質症候群;重症筋無力症;自己免疫性溶血性貧血;ギラン・バレー症候群;慢性免疫性多発ニューロパチー;自己免疫性甲状腺炎;インスリン依存性糖尿病;1型糖尿病;アジソン病;膜性糸球体腎症;グッドパスチャー病;自己免疫性胃炎;自己免疫性萎縮性胃炎;悪性貧血;天疱瘡;尋常性天疱瘡;肝硬変;原発性胆汁性肝硬変;皮膚筋炎;多発性筋炎;線維筋炎;筋硬症;セリアック病;免疫グロブリンA腎症;ヘノッホ・シェーンライン紫斑病;エバンス症候群;乾癬;関節症性乾癬;グレーブス病;グレーブス眼症;強皮症;全身性強皮症;進行性全身性強皮症;原発性胆汁性肝硬変;橋本甲状腺炎;原発性粘液水腫;交感性眼炎;自己免疫性ぶどう膜炎;肝炎;慢性活動性肝炎;膠原病;強直性脊椎炎;肩関節周囲炎;結節性汎動脈炎;軟骨石灰化症;ヴェーゲナー肉芽腫症;顕微鏡的多発血管炎;慢性じんま疹;水疱性皮膚疾患;類天疱瘡;デビック病;小児自己免疫性溶血性貧血;難治性または慢性自己免疫性血球減少症;後天性血友病A;寒冷凝集素病;視神経脊髄炎;全身硬直症候群;膵炎;心筋炎;血管炎;胃炎;痛風;痛風性関節炎;乾癬;正補体血症性蕁麻疹様血管炎;心膜炎;筋炎;抗合成酵素症候群;強膜炎;マクロファージ活性化症候群;ベーチェット症候群;PAPA症候群;Blau症候群;成人および若年性スティル病;クリオピリン関連周期性症候群;マックル-ウェルズ症候群;家族性寒冷自己炎症性症候群;新生児期発症多臓器性炎症性疾患;家族性地中海熱;慢性乳児期発症神経皮膚関節症候群;全身型若年性特発性関節炎;高IgD症候群;シュニッツラー症候群;自己免疫性網膜症;アテローム性動脈硬化症;慢性前立腺炎;ならびにTNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)からなる群から選択される自己免疫疾患である。
【0100】
自己免疫疾患は、多発性硬化症又は膠原病であってもよい。膠原病は、例えば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、シェーグレン症候群、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、過敏性血管炎、ベーチェット病、コーガン症候群、RS3PE、巨細胞性動脈炎、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛症、線維筋痛症、SAPHO症候群等であってもよい。自己免疫疾患は、上記疾患以外にも、その他の過剰な免疫応答が自己を傷害する疾患から成る群から選択される1又は複数の疾患であってもよい。
【0101】
リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じるその他の疾患の例にはアレルギー疾患等の免疫関連疾患がある。免疫関連疾患は、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、口腔アレルギー症候群、薬剤アレルギー、花粉症、アレルギー性結膜炎、好酸球性肺炎、アレルギー性胃腸炎、蕁麻疹、光線過敏症、金属アレルギー、ネコアレルギー、ダニアレルギー、及び喘息から成る群から選択される1又は複数の疾患であってもよい。
【0102】
医薬組成物は有効成分としての抗糖鎖抗体又はその断片に加え、投与経路や適用疾患等に応じて更に追加の成分、例えば薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤、補助剤等を含んでもよい。抗糖鎖抗体の投与量は疾患の種類や、患者の年齢、性別、体重、疾患及び治療の程度等に応じて適宜決定され得る。医薬組成物は、抗糖鎖抗体以外の、リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防する効果が知られている薬剤を更に含んでもよい。
【0103】
医薬組成物の剤形は、液剤、凍結乾燥製剤等があり、医薬組成物の投与経路の例として、例えば点滴静脈注射、皮下注射又は筋肉注射等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
別の態様において、リンパ球ホーミング、特にリンパ球とHEVとの特異的な接着によってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防する方法であって、治療又は予防を必要とする対象に抗糖鎖抗体又はその断片を投与する工程を含む方法が提供される。抗糖鎖抗体又はその断片は、それ以外の、リンパ球ホーミングによってもたらされる免疫応答が過剰に作用することによって生じる疾患の治療又は予防について効果が知られている薬剤と併用してもよい。
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0106】
1.抗糖鎖抗体の作製
6-スルホシアリルルイスX糖鎖に対するモノクローナル抗体の作製を行った。はじめに、フコース転移酵素FucT-VII及び硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-2をコードする遺伝子を導入することによりChinese hamster ovary(CHO)細胞に6-スルホシアリルルイスX糖鎖を発現させた。このCHO細胞で硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-1及びGlcNAc6ST-2を欠損した硫酸基転移酵素二重欠損マウス(Kawashima et al.(上掲))を免疫した。その脾臓細胞をP3X63Ag8.653ミエローマ細胞とポリエチレングリコールを用いて細胞融合し、免疫組織染色によるスクリーニングにより、野生型(WT)マウスの高内皮細静脈(HEV)に反応性をもつ抗硫酸化糖鎖モノクローナル抗体SF1(mouse IgG1, kappa)を産生するハイブリドーマを樹立した。得られた抗体は、後述するとおり硫酸化かつフコシル化された糖鎖に対して反応性を有することから、SF1抗体と命名された(Sは硫酸基、Fはフコースを認識するクローンであることを意味する。)。
【0107】
2.SF1抗体のHEVへの反応性の解析
SF1抗体を精製し、常法に従ってビオチン標識を行い、WTマウス、フコース転移酵素(FucT)-IV及びFucT-VII遺伝子二重欠損マウス(FucT DKO)、硫酸基転移酵素(GlcNAc6ST)-1及びGlcNAc6ST-2二重欠損マウス(G6ST DKO)のリンパ節凍結切片を4℃で一晩インキュベートし、切片をPBSで洗浄後、蛍光物質であるAlexaFluor 594標識ストレプトアビジンを室温で1時間さらにインキュベートし、蛍光免疫染色を行った(
図2)。
【0108】
その結果、SF1抗体はWTマウスのリンパ節HEVと強く反応したが、FucT DKO及びG6ST DKOのHEVとは全く反応しなかった。このことから、SF1抗体のマウスリンパ節への反応にフコース及び硫酸基の双方が関与することがわかる。一方、既知の抗体であるMECA-79(Streeter et al.,(上掲))はマウスリンパ節HEVに反応するが、FucT DKOで反応性が消失しなかったことから、リンパ球ホーミングに重要な働きをするフコースは反応性に関与しない。
【0109】
さらにその他のHEV上の糖鎖を認識する抗体を用いて、蛍光免疫染色を行った。上記と同様に、SF1抗体はWTマウスのリンパ節HEVと強く反応したが、FucT DKO及びG6ST DKOのHEVとは全く反応しなかった。一方、既知の抗体であるF2抗体(Matsumura et al.,(上掲))は、WTマウスリンパ節HEVに反応し、FucT DKOとは反応しないが、G6ST DKOで反応性が消失しなかったことから、リンパ球ホーミングに重要な働きをする硫酸基は反応性に関与しない。これとは対照的に、既知の抗体であるS2抗体(Hirakawa et al.,(上掲))は、WTマウスリンパ節HEVに反応し、G6ST DKOとは反応しないが、FucT DKOで反応性が消失しなかったことから、リンパ球ホーミングに重要な働きをするフコースは反応性に関与しない。結果を
図3に示す。
【0110】
続いて、WTマウスのリンパ節凍結切片をシアリダーゼ処理することで、HEVに対する反応性におけるシアル酸の関与を検討した。結果を
図4に示す。
【0111】
シアリダーゼ処理により、SF1抗体の反応性が消失したことから、SF1抗体のマウスリンパ節への反応性に、フコース及び硫酸基に加えて、リンパ球ホーミングに重要な働きをするシアル酸も関与することがわかる。一方、既知の抗糖鎖モノクローナル抗体MECA-79の反応性にはシアル酸は関与しない。以上の免疫蛍光染色の結果より、本研究で得たSF1抗体は、マウスリンパ節HEV上のフコース、硫酸基、シアル酸を含む糖鎖構造を特異的に認識する抗糖鎖モノクローナル抗体であることがわかる。
【0112】
3.SF1抗体の合成糖鎖への反応性の解析
次に、米国Consortium for Functional GlycomicsのGlycan Arrayを用いて、SF1抗体の各種糖鎖への反応性を解析した。その結果、SF1抗体は、Glycan Array上の611種類の糖鎖のうち、6-スルホシアリルルイスX糖鎖とのみ特異的に結合した。
図5にGlycan Array上に存在する6-スルホシアリルルイスX糖鎖および同糖鎖と部分的に構造の類似する9種類の糖鎖の結果を抜粋して示す。図中の括弧内の数字は、Glycan Arrayにおける各糖鎖のID番号を示す。
図5から、SF1抗体は、LacNAc(ID番号170)、シアリルLacNAc(ID番号261)と全く結合しないことが分かる。また、SF1抗体は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖からフコースがはずれた6-スルホシアリルLacNAc(ID番号252)、6-スルホシアリルルイスX糖鎖から硫酸基がはずれたシアリルルイスX(ID番号255)、および6-スルホシアリルルイスX糖鎖からシアル酸がはずれた6-スルホルイスX(ID番号291)のいずれとも結合せず、6-スルホシアリルルイスX(ID番号253)と特異的に結合することが分かる。さらに、SF1抗体は、硫酸基がGlcNAcではなくガラクトースに付加した6’-スルホシアリルルイスX(ID番号231)、6-スルホシアリルルイスXの末端のα2-3結合したシアル酸(Neu5Ac)の代わりに硫酸基がガラクトースの3位に付加した糖鎖(ID番号220)、α2-3結合したNeu5Acの代わりにフコースがα1-2結合でガラクトースに付加した糖鎖(ID番号222)、およびガラクトースの6位とGlcNAcの6位がともに硫酸化された6,6’-ジスルホLacNAc(ID番号445)のいずれとも結合しなかった。以上から、SF1抗体は、6-スルホシアリルルイスX糖鎖と特異的に結合することが分かった。
【0113】
4.SF1抗体と6-スルホシアリルルイスXの結合の解離定数の決定
次に、Octet RED96(Pall-Fortebio社製)を用いたバイオレイヤー干渉法により、SF1抗体と6-スルホシアリルルイスXの結合の解離定数(K
D)の測定を行った。ストレプトアビジンバイオセンサーにビオチン標識6-スルホシアリルルイスXを結合させたのちに、SF1抗体との結合および解離をリアルタイムに解析した。結果を
図6に示す。
【0114】
その結果、SF1抗体と6-スルホシアリルルイスXとの結合のKD値は、6.09×10-9(M)であることが分かった。ネガティブコントロールとしてビオチン標識シアリルルLacNAcを使用した場合には、全く結合が認められなかった。
【0115】
5.抗糖鎖抗体のアミノ酸配列の決定
次に、SF1抗体を産生するハイブリドーマから抗体遺伝子を取得し、その塩基配列の解析を行い、SF1抗体の重鎖および軽鎖可変部の超可変部のアミノ酸配列を決定した。SF1抗体の重鎖CDR1、CDR2,CDR3をそれぞれ、配列番号1(CDRH1)、配列番号2(CDRH2)、配列番号3(CDRH3)とし、SF1抗体の軽鎖CDR1、CDR2,CDR3をそれぞれ、配列番号4(CDRL1)、配列番号5(CDRL2)、配列番号6(CDRL3)として
図7に示した。このような超可変部を持つ抗体はこれまでに報告されていないことから、新規の配列を持つ抗体であることが分かる。
【0116】
SF1抗体の重鎖可変部の全アミノ酸配列を配列番号13とし、
図8に示す。CDRH1、CDRH2、CDRH3の配列を太字で示す。
【0117】
SF1抗体の軽鎖可変部の全アミノ酸配列を配列番号14とし、
図9に示す。CDRL1、CDRL2、CDRL3の配列を太字で示す。
【0118】
6.L-セレクチンとHEVの結合に及ぼすSF1抗体の阻害作用の解析
マウスリンパ節凍結切片を室温で2時間、緩衝液A(0.1 % BSA, 20 mM HEPES-NaOH, 0.15 M NaCl, 1mM CaCl
2, 1mM MgCl
2, pH7.4)のみもしくは緩衝液Aに溶解したSF1抗体と室温で2時間インキュベートした後に、緩衝液Aに溶解したL-セレクチンとヒトIgGの融合タンパク質(L-selectin-Fc)と4℃で一晩インキュベートし、切片を緩衝液Aで洗浄後、ビオチン標識抗ヒトIgG抗体と室温で2時間インキュベートした。切片を緩衝液Aで洗浄後、蛍光物質であるAlexaFluor 594標識ストレプトアビジンを室温で1時間さらにインキュベートし、蛍光免疫染色を行った(
図10)。
【0119】
その結果、SF1抗体はL-セレクチン-FcとHEVの結合を強く阻害した。このことから、SF1抗体は、リンパ球ホーミングレセプターであるL-セレクチンとHEV上に発現するリガンドの相互作用を阻害することがわかる。
【0120】
7.L-セレクチン依存的なリンパ球のローリングに及ぼすSF1抗体の阻害作用の解析
コアタンパク質CD34および6-スルホシアリルルイスX糖鎖を安定発現する、HEV上に発現するL-セレクチンのリガンドを再構成したCHO細胞をシャーレで培養し、これをフローチャンバーにセットした。次にマウス脾臓から調製したリンパ球を様々なずり応力(0.5、1.0、1.5、2.0 dynes/cm
2)で流し、L-セレクチンのリガンドを再構成した細胞上におけるローリング細胞数の測定を行った。その際に、未処理(図中、None)、L-セレクチンのリガンドを再構成した細胞を予めSF1抗体とインキュベーションした群(図中、SF1)およびリンパ球を予め抗L-セレクチン抗体とインキュベーションした群(図中、MEL-14)の3群に分けて測定を行った。結果を
図11に示す。
【0121】
その結果、観察されたローリングは抗L-セレクチン抗体で阻害されたことからL-セレクチン依存的であることが確認され、SF1抗体はL-セレクチン依存的なローリングを抑制する作用を持つことが分かった。
【0122】
8.SF1抗体のリンパ球ホーミング阻害効果の解析
WTマウスにSF1抗体またはPBSを尾静脈内注射したのちに蛍光物質CFSEで標識したリンパ球(腸間膜リンパ節および脾臓由来)を尾静脈内注射し、2時間後に各リンパ組織を採取し、それぞれの組織に浸潤(ホーミング)したCFSE標識リンパ球数を調べた(
図12)。
【0123】
その結果、SF1抗体はマウス末梢リンパ節へのリンパ球のホーミングを90%以上抑制する活性を持つ抗体であることが分かった。また、腸間膜リンパ節へのホーミングも約60%抑制した。一方で、SF1抗体によって認識される糖鎖を5%以下のHEVにおいてのみ発現するパイエル板および同糖鎖を全く発現しない脾臓へのホーミングに対しては、有意な阻害効果を示さない特異性の高い抗体であることが分かった。パイエル板では腸管内の微生物や食物由来抗原に対する腸管免疫応答が起こり、脾臓では血液中に侵入した外来異物に対する免疫応答が起こることから、SF1抗体は、パイエル板および脾臓におけるそれらの正常な免疫応答を抑制することによって生じる副作用を引き起こすことなく、末梢リンパ節及び腸間膜リンパ節における過剰な免疫応答によって生じる免疫関連疾患の治療又は予防に有用であると予想された。
【0124】
9.EAEモデルにおけるSF1抗体の効果の解析
難治性自己免疫関連疾患の一種である多発性硬化症の動物モデルとして知られている実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)モデルを用い、SF1抗体の免疫関連疾患に対する効果の解析を行った。このモデルでは、マウスをmyelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG)ペプチドで免疫することにより、リンパ節へのリンパ球ホーミングを介して免疫応答が誘導され、自己免疫性の脳脊髄炎が発症する。はじめに、WTマウス及びG6ST DKOマウスにおけるEAEの症状の比較検討を行った(
図13)。
【0125】
その結果、G6ST DKOマウスにおいて発症の遅延、ピーク時の症状の低下、及び再発時の症状の低下が認められたことから、HEVにおいてGlcNAc6ST-1およびGlcNAc6ST-2によって合成される6-スルホシアリルルイスX糖鎖が多発性硬化症の治療標的となることが分かった。
【0126】
そこで、同糖鎖に特異的に結合するSF1抗体によるEAEの発症の抑制実験を行った。MOGペプチドによる感作を行ったDay 0及びDay 2に2回SF1抗体をEAEモデルマウスに投与したところ、上記のDKOマウスと同様に、発症の遅延、ピーク時の症状の低下、及び再発時の症状の低下が認められた(
図14)。
【0127】
このことから、SF1抗体によりEAEの発症が抑制されることが分かった。
【0128】
更に、SF1抗体をEAEの症状が現れ始めた初回抗原感作後8日目の時点からに3日ごとに12回投与することにより、30日目以降に見られる再発が顕著に抑制され、抗体投与を中断した42日目以降も再発が抑制された状態が維持された(
図15)。同様に、SF1抗体をEAEの初発ピークを過ぎた初回抗原感作後21日目の時点から3日ごとに12回投与することにより、30日目以降に見られる再発が顕著に抑制され、抗体投与を中断した54日目以降も再発が抑制された状態が維持された(
図16)。
【0129】
多発性硬化症は再発と寛解を繰り返すことが知られている。上記の結果より、SF1抗体は再発の抑制効果を持つことから、多発性硬化症の治療に適用可能な抗体と考えられる。
【0130】
10.マウスリウマチ様関節炎モデルおけるSF1抗体の効果の解析
次に、EAE以外の自己免疫関連疾患モデルにおけるSF1抗体の効果を検討した。具体的には、マウスリウマチ様関節炎モデルであるコラーゲン誘導関節炎モデルにおいて、1回目の抗原皮下投与を行うDay0及び2回目の抗原皮下投与を行うDay21、及びDay24,27,30,33にPBSまたはSF1を投与して検討を行った(
図17)。
【0131】
その結果、関節炎症状の発症率及びクリニカルスコアともに、SF1抗体投与群で阻害されることが示された。
【0132】
11.マウスアレルギー性鼻炎モデルおけるSF1抗体の効果の解析
次に、マウスアレルギー性鼻炎モデルにおけるSF1抗体の効果を検討した。具体的には、抗原である卵白アルブミン(ovalbumin,OVA)とアジュバント作用を持つコレラ毒素(CT)を1週間おきに4回マウスに経鼻投与することによって引き起こすアレルギー性鼻炎モデルにおいて、PBSまたはSF1抗体を1週間に2回腹腔内投与して検討を行った(
図18)。
【0133】
その結果、OVAとCTの4回目の経鼻投与直後から12分間に認められるマウスのくしゃみの回数、および鼻かき行動の回数が、SF1抗体投与群で有意に阻害された。
【0134】
12.SF1抗体による正常ヒト組織の免疫染色
SF1抗体による正常ヒト組織の免疫組織染色を行ったところ、大動脈、乳腺、小脳、大脳、心臓、肺、小腸、大腸、皮膚、脾臓には染色が見られなかったが、リンパ節及び扁桃に染色が認められた(
図19,20)。
【0135】
図20の拡大写真から、SF1抗体は、リンパ球がこれらのリンパ組織に移行する際に通り抜ける血管である高内皮細静脈HEV(図中矢印)に特異的に結合することが分かった。
【0136】
13.ヒト化一本鎖SF1抗体の調製及びそれを用いた免疫染色
図8に示すマウスSF1抗体の重鎖可変部フレーム配列と相同性の高いヒト抗体重鎖可変部フレーム配列の中から、試行錯誤の結果IGHV4-59を用いたときに活性が良好に維持されることを見出した。具体的には、
図7に示したSF1抗体の重鎖超可変部配列を、IGHV4-59に移植したヒト化配列SF1重鎖可変部配列H1、H2を設計し、活性評価に用いた。H1の配列は、H2の配列中のヒト重鎖可変部フレーム配列部分の2カ所のアミノ酸をマウスSF1抗体のものにバックミューテーションさせた配列である。さらに試行錯誤の結果、これとは別の配列の例として、
図8に示すSF1抗体の重鎖可変部フレーム配列と相同性の高いヒト抗体重鎖可変部フレーム配列の中から、IGHV3-43を用い、その2カ所のアミノ酸をマウスSF1抗体のものにバックミューテーションさせたときにも活性が良好に維持されることを見出した。具体的には、
図7に示した重鎖超可変部配列をそのような重鎖可変部フレーム配列を持つIGHV3-43に移植したヒト化配列SF1重鎖可変部配列H3を設計し、活性評価に用いた。
【0137】
同様にして、
図9に示すマウスSF1抗体の軽鎖可変部フレーム配列と相同性の高いヒト抗体軽鎖可変部フレーム配列の中から、試行錯誤の結果IGKV1-39を用いたときに活性が良好に維持されることを見出した。具体的には、
図7に示したSF1抗体の軽鎖超可変部配列をIGKV1-39に移植したヒト化配列SF1軽鎖可変部配列L1、L2を設計し、活性評価に用いた。L1の配列は、L2の配列中のヒト軽鎖可変部フレーム配列部分の1カ所のアミノ酸をマウスSF1抗体のものにバックミューテーションさせた配列である。さらに試行錯誤の結果、これとは別の配列の例として、
図9に示すSF1抗体の軽鎖可変部フレーム配列と相同性の高いヒト抗体軽鎖可変部フレーム配列の中から、IGKV6-21を用い、その1カ所のアミノ酸をマウスSF1抗体のものにバックミューテーションさせたときにも活性が良好に維持されることを見出した。具体的には、
図7に示した軽鎖超可変部配列をそのような軽鎖可変部フレーム配列を持つIGKV6-21に移植したヒト化配列SF1軽鎖可変部配列L3を設計し、活性評価に用いた。
【0138】
以上のヒト化SF1重鎖可変部H1、H2、H3およびヒト化SF1軽鎖可変部L1、L2、L3のアミノ酸配列を
図21に示す。CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、CDRL3の配列を太字で示す。
【0139】
次に、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系を用いて、
図21に示すヒト化SF1重鎖可変部H1~H3およびヒト化SF1軽鎖可変部L1~L3を、様々な組合せで含むヒト化SF1一本鎖抗体(scFv)を作製した。作製した各種のヒト化SF1 scFvの全アミノ酸配列を
図22に示す。下線部のGly-Gly-Gly-Gly-Ser(GGGGS)の3回繰り返し配列(G4Sリンカー)は重鎖と軽鎖のリンカー配列で、C末端側の二重下線部のGly-Leu-Gln-Gln-Gly-Gly-Thr-His-His-His-His-His-His(GLQQGGTHHHHHH)配列は、ビオチン化抗(His)
6 抗体と結合させるためのタグ配列である。太字の配列はN末端側からそれぞれ、CDRH1、CDRH2、CDRH3、CDRL1、CDRL2、CDRL3の配列を示す。ヒト化SF1-scFv-H1L1はヒト化SF1重鎖可変部H1およびヒト化SF1軽鎖可変部L1を、ヒト化SF1-scFv-H1L2はヒト化SF1重鎖可変部H1およびヒト化SF1軽鎖可変部L2を、ヒト化SF1-scFv-H2L1はヒト化SF1重鎖可変部H2およびヒト化SF1軽鎖可変部L1を、ヒト化SF1-scFv-H3L3はヒト化SF1重鎖可変部H3およびヒト化SF1軽鎖可変部L3を含む配列である。
【0140】
予めビオチン化抗(His)
6 抗体とインキュベーションして複合体を作らせたヒト化SF1-scFvを、マウスリンパ節凍結切片と4℃で一晩インキュベートし、切片をPBSで洗浄後、蛍光物質であるAlexaFluor 594標識ストレプトアビジンを室温で1時間さらにインキュベートし、蛍光免疫染色を行ったところ、いずれの組み合わせで作製したヒト化SF1-scFvにおいても、HEVに対して特異的な染色性を示した(
図23)。以上から、
図7に示したSF1抗体の超可変部の配列は、ヒト抗体およびマウス抗体の様々な可変部フレーム配列と連結した際にも活性を持つ、汎用性のある配列であることが分かった。
【0141】
14.ヒト化SF1抗体の調製及びそれを用いた免疫染色
図21に示したヒト化SF1重鎖可変部配列H1をヒト抗体重鎖IgG1定常部と連結し、ヒト化SF1重鎖全長アミノ酸配列を設計した(
図24)。同様にして、
図21に示したヒト化SF1軽鎖可変部配列L1をヒト抗体軽鎖であるκ鎖定常部と連結し、ヒト化SF1軽鎖全長アミノ酸配列を設計した(
図25)。これらのヒト化SF1重鎖全長アミノ酸配列およびヒト化SF1軽鎖全長アミノ酸配列をコードする遺伝子を、ヒト由来細胞株であるHEK293T細胞に導入し、ヒト化SF1抗体を作製した。
ヒト化SF1抗体の重鎖全アミノ酸配列を配列番号25とし、
図24に示す。CDRH1、CDRH2、CDRH3の配列を太字で示す。
【0142】
ヒト化SF1抗体の軽鎖可変部の全アミノ酸配列を配列番号26とし、
図25に示す。CDRL1、CDRL2、CDRL3の配列を太字で示す。
【0143】
ヒト化SF1抗体を用いてマウスリンパ節の蛍光免疫染色を行ったところ、ヒト化SF1抗体は、野生型(WT)マウスの高内皮細静脈に特異的に結合し、6-スルホシアリルルイスXの硫酸基を欠損するG6ST DKOマウス及びフコースを欠損するFucT DKOとは全く反応しなかった(
図26)。これは、ヒト化SF1抗体の6-スルホシアリルルイスXに対する特異性が高いことを示す。
【0144】
上記の結果から、SF1抗体の重鎖及び軽鎖可変部の超可変部アミノ酸配列を持つヒト化抗体は、マウスSF1抗体と同様に6-スルホシアリルルイスXに対する特異的な糖結合特異性を保持していることが確認された。
【0145】
15.ヒト化SF1抗体のリンパ球ホーミング阻害効果の解析
次に、WTマウスにヒト化SF1抗体またはPBSを尾静脈内注射したのちに蛍光物質CFSEで標識したリンパ球(腸間膜リンパ節および脾臓由来)を尾静脈内注射した。2時間後に各リンパ組織を採取し、それぞれの組織にホーミングしたCFSE標識リンパ球数を調べた(
図27)。
【0146】
その結果、ヒト化SF1抗体は、マウスSF1抗体と同様に、マウス末梢リンパ節へのリンパ球のホーミングを約90%以上抑制した。また、腸間膜リンパ節へのホーミングも約70%抑制した。一方で、パイエル板および脾臓へのホーミングに対しては、有意な阻害効果を示さなかった。
【0147】
16.EAEモデルにおけるヒト化SF1抗体の効果の解析
ヒト化SF1抗体によるEAEの発症の抑制実験を行った。MOGペプチドによる感作を行ったDay 0及びDay 2に2回ヒト化SF1抗体をEAEモデルマウスに投与したところ、マウスSF1抗体と同様に、発症の遅延、ピーク時の症状の低下、及び再発時の症状の低下が認められた(
図28)。
【0148】
このことから、ヒト化SF1抗体によりEAEの発症が抑制されることが分かった。
【0149】
17.Fc部分の配列を改変したヒト化SF1抗体の調製
さらに、Fc部分の配列を改変したヒト化SF1抗体の調製を行った。すなわち、
図24に示したヒト化SF1重鎖IgG1定常部に関して、Eu番号でLeu234-Leu235をAla234-Ala235に置換したヒト化SF1重鎖IgG1-LALA体の全長アミノ酸配列を設計した(
図29)。また同様に、
図24に示したヒト化SF1重鎖IgG1定常部をIgG4定常部に置換した後、Eu番号でSer228をProに、Leu235をGluに置換したヒト化SF1重鎖IgG4-SPLE体の全長アミノ酸配列を設計した(
図30)。これらのFc部分の配列を改変したヒト化SF1重鎖全長アミノ酸配列をコードする遺伝子をそれぞれ、
図25に示したヒト化SF1軽鎖全長アミノ酸配列をコードする遺伝子とともにHEK293T細胞に導入し、ヒト化SF1抗体-IgG1-LALA体(HSF1-LALA)及びヒト化SF1抗体-IgG4-SPLE体(HSF1-G4PE)を作製した。
【0150】
ヒト化SF1抗体の重鎖IgG1-LALA体の全アミノ酸配列を配列番号27とし、
図29に示す。CDRH1、CDRH2、CDRH3の配列を太字で示す。
【0151】
ヒト化SF1抗体の重鎖IgG4-SPLE体の全アミノ酸配列を配列番号28とし、
図30に示す。CDRH1、CDRH2、CDRH3の配列を太字で示す。
【0152】
次に、
図29、
図30に示されるヒト化SF1抗体の重鎖改変体及び
図25に示される軽鎖から構成される、ヒト化SF1抗体-IgG1-LALA体(HSF1-LALA)及びヒト化SF1抗体-IgG4-SPLE体(HSF1-G4PE)を含有する293T細胞の培養上清を用いて、マウスリンパ節の蛍光免疫染色を行った。その結果、遺伝子導入を行っていない293T細胞の培養上清のみでは全く染色は見られなかったが、HSF1-LALA含有培養上清およびHSF1-G4PE含有培養上清によってマウスリンパ節高内皮細静脈に特異的な結合が認められた(
図31)。
【0153】
上記の結果から、Fc部分の配列を改変したヒト化SF1抗体も、特異的な組織結合性を保持していることが確認された。これらのようなFc部分の配列を改変したヒト化抗体は、抗体のFc部分を介するエフェクター活性を低下させ、副作用リスクを低減させることが知られている。以上より、ヒト化SF1抗体およびFc部分の配列を改変したヒト化SF1抗体は、マウスSF1抗体と同様に特異的な組織結合性により高効率なリンパ球ホーミング阻害作用を有し、自己免疫疾患やアレルギー疾患等の免疫関連疾患に対して治療効果を発揮する治療用抗体として有用と考えられる。
【0154】
本願は、特願2020-169966を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
【配列表フリーテキスト】
【0155】
配列番号1:SF1抗体のCDRH1のアミノ酸配列を示す。
配列番号2:SF1抗体のCDRH2のアミノ酸配列を示す。
配列番号3:SF1抗体のCDRH3のアミノ酸配列を示す。
配列番号4:SF1抗体のCDRL1のアミノ酸配列を示す。
配列番号5:SF1抗体のCDRL2のアミノ酸配列を示す。
配列番号6:SF1抗体のCDRL3のアミノ酸配列を示す。
配列番号7:SF1抗体CDRH1の塩基配列を示す。
配列番号8:SF1抗体CDRH2の塩基配列を示す。
配列番号9:SF1抗体CDRH3の塩基配列を示す。
配列番号10:SF1抗体CDRL1の塩基配列を示す。
配列番号11:SF1抗体CDRL2の塩基配列を示す。
配列番号12:SF1抗体CDRL3の塩基配列を示す。
配列番号13:SF1抗体の重鎖可変部のアミノ酸配列を示す。
配列番号14:SF1抗体の軽鎖可変部のアミノ酸配列を示す。
配列番号15:ヒト化SF1抗体の重鎖可変部H1のアミノ酸配列を示す。
配列番号16:ヒト化SF1抗体の重鎖可変部H2のアミノ酸配列を示す。
配列番号17:ヒト化SF1抗体の重鎖可変部H3のアミノ酸配列を示す。
配列番号18:ヒト化SF1抗体の軽鎖可変部L1のアミノ酸配列を示す。
配列番号19:ヒト化SF1抗体の軽鎖可変部L2のアミノ酸配列を示す。
配列番号20:ヒト化SF1抗体の軽鎖可変部L3のアミノ酸配列を示す。
配列番号21:ヒト化SF1-scFv-H1L1のアミノ酸配列を示す。
配列番号22:ヒト化SF1-scFv-H1L2のアミノ酸配列を示す。
配列番号23:ヒト化SF1-scFv-H2L1のアミノ酸配列を示す。
配列番号24:ヒト化SF1-scFv-H3L3のアミノ酸配列を示す。
配列番号25:ヒト化SF1抗体の重鎖全長のアミノ酸配列を示す。
配列番号26:ヒト化SF1抗体の軽鎖全長のアミノ酸配列を示す。
配列番号27:ヒト化SF1抗体の重鎖IgG1-LALA体全長のアミノ酸配列を示す。
配列番号28:ヒト化SF1抗体の重鎖IgG4-SPLE体全長のアミノ酸配列を示す。
配列番号29:G4Sリンカーのアミノ酸配列を示す。
【配列表】