(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/10 20170101AFI20250805BHJP
A01K 67/60 20250101ALI20250805BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20250805BHJP
C12Q 1/6827 20180101ALI20250805BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20250805BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20250805BHJP
【FI】
A01K61/10 ZNA
A01K67/60
C12Q1/686 Z
C12Q1/6827 Z
C12N15/11 Z
C12Q1/6888 Z
A01K61/10
(21)【出願番号】P 2024226361
(22)【出願日】2024-12-23
【審査請求日】2024-12-23
(31)【優先権主張番号】202410662082.X
(32)【優先日】2024-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508135448
【氏名又は名称】南京師範大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 涛
(72)【発明者】
【氏名】沈 超群
(72)【発明者】
【氏名】尹 紹武
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲瑩▼
(72)【発明者】
【氏名】▲チュー▼ 鵬
(72)【発明者】
【氏名】謝 駿
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112322758(CN,A)
【文献】GenBank,2018年04月10日,登録番号PRJNA449558
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/65;61/80-63/10
A01K 67/30-67/368
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00ー15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法であって、
性転換したタキフグ・オブスキュラス仔魚を性判別分子マーカーで選別し、偽雄タキフグ・オブスキュラスを取得して正常な雌タキフグ・オブスキュラスと交配させて全雌タキフグ・オブスキュラスを取得する操作ステップ(1)と、
ステップ(1)において取得された全雌タキフグ・オブスキュラスから、低温耐性性状を持つ個体をSNP部位の塩基配列がSEQ ID NO.2に示される低温耐性性状分子マーカーで選別し、
少量の尾びれ組織を切ってDNAを抽出し、150bpのストリップをPCR増幅し
、PCR増幅に用いられるプライマー配列は、SEQ ID NO.3~4に示され、且つ
、SEQ ID NO.2の250-251位の遺伝子型がGGとして検出される場合、全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスである操作ステップ(2)とを含
み、
ステップ(1)における前記性判別分子マーカーのSNP部位の塩基配列は、SEQ ID NO.1に示され、
PCR増幅結果が250bp及び330bpの2つのストリップである場合、個体は、正常な雌魚又は偽雄魚であり、
PCR増幅結果が1本の330bpのストリップである場合、個体は、正常な雄魚であり、
PCR増幅に用いられるプログラムは、以下のとおりであり、
step1:95℃で3分予め変性し、
step2:95℃で30秒変性し、
step3:51.5℃で30秒アニールし、
step4:72℃で30秒延ばし、
step2~4を35回繰り返し、
step5:72℃で5分延ばす、
ことを特徴とする低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【請求項2】
ステップ(1)における前記性転換は、ホルモン誘導方法によって達成される、ことを特徴とする請求項1に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【請求項3】
前記ホルモン誘導方法は、飼料に17α-メチルテストステロンを添加することである、請求項2に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【請求項4】
15日齢前の孵化から体長3.33cmまでのタキフグ・オブスキュラスに給餌するために、前記17α-メチルテストステロンを用いて使用量30-60mg/Lで輪虫を浸漬し、
15~40日齢のタキフグ・オブスキュラス苗に給餌するために、30-60mg/Lでアルテミアを浸漬し、
40~100日齢のタキフグ・オブスキュラスに給餌するために、30-60μg/gで飼料に添加する、ことを特徴とする請求項3に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【請求項5】
ステップ(1)において偽雄魚と正常な雌タキフグ・オブスキュラスとを交配させる時、手動で産卵促進し、
具体的には、雌魚にHCG 180U/kg+排卵誘発LRH-A2 0.8μg/kgを1回目に注射し、偽雄魚の場合、使用量を半減し、
24時間後に2回目の注射を行い、雌魚の注射量は、HCG 360U/kg+排卵誘発LRH-A2 1.6μg/kgであり、偽雄魚の場合、使用量を半減する、ことを特徴とする請求項1に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成
方法。
【請求項6】
ステップ(2)におけるPCR増幅に用いられるプライマー配列は、SEQ ID NO.5~6に示される、ことを特徴とする請求項1に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【請求項7】
ステップ(2)におけるPCR増幅に用いられるプログラムは、以下のとおりであり、
step1:94℃で4分予め変性し、
step2:94℃で30秒変性し、
step3:51.5℃で1分アニールし、
step4:72℃で40秒延ばし、
step2~4を30回繰り返し、
step5:72℃で10分延ばす、ことを特徴とする請求項1に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産動物の育種分野に属し、より具体的には、低温耐性性状を持つ全雌タキフグ・オブスキュラス新種育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中国の伝統的で貴重な食用魚類として、長江の三大水産物の1つであるタキフグ・オブスキュラス(Takifugu fasciatus)は、これまでおいしくてやさしくて、刺が少なく滑らかな食感によって、多くの食いしん坊を征服してきた。特に中国の長江デルタ、日本や韓国などでは、この魚を食べる歴史が長い。タキフグ・オブスキュラスの養殖と毒性抑制技術の成熟に伴い、農業農村部弁公庁と国家食品医薬品監督管理総局は、2016年に共同で「養殖トラフグと養殖タキフグ・オブスキュラスの加工経営を条件付きで開放することに関する通知」を発表し、タキフグ・オブスキュラスは、中国の広東、福建や江蘇省などの省での養殖面積が徐々に拡大し、中国の重要な養殖経済魚類となっている。近年、中国のタキフグ・オブスキュラスの養殖規模が拡大していることに伴い、魚苗の需要量は、ますます増大している。しかし、タキフグ・オブスキュラスの親魚養殖と魚苗の繁殖に関する企業は、親本の更新と選択育成を重視せず、親魚の老化、近親繁殖と品質の衰退現象を引き起こし、累代の繁殖を経て稚魚の成長が遅く、活着率が低く、飼料の利用効率が低下する。また、タキフグ・オブスキュラスの最適な成長温度範囲は、23-32℃であり、19℃で摂食リズムが低下し、13℃で凍傷死した。現在、タキフグ・オブスキュラスの養殖新品種であるタキフグ・オブスキュラス「中洋1号」(中国品種審査認定GS-01-003-2018)が耐えることができる最も低い温度は、7~8度に達しているが、タキフグ・オブスキュラスの養殖地域の範囲を拡大し、冬の時間を減らし、経済効果を高めるには、低温耐性をさらに強化する必要がある。従って、成長が速く、低温耐性がより強いタキフグ・オブスキュラスの新種を育成することが特に重要である。
【0003】
トラフグ属の魚類の中で、タキフグ・オブスキュラスは、明らかな性的二形を持っており、つまり雌個体の成長速度は、雄より速く、性成熟した雌個体は、より大きく、体重、体長がいずれも雄を上回り、より高い飼料転化率を持っている。しかし、性成熟前にタキフグ・オブスキュラスの性別を外観的に区別することはできず、性成熟後にのみ、魚類の腹部を押して精液や卵子を観察することで雌雄を同定することができ、この方法は、時間がかかり、魚類の養殖コストが高い。もう1つの方法は、魚類の性腺を解剖し、性腺組織の切片観察を行い、幼魚段階で性別同定を完了することができるが、魚類に不可逆的な傷害を与え、一般的には、実験室の研究にのみ用いられる。どちらの方法も実際の生産需要を満たすことは、難しい。そのため、タキフグ・オブスキュラスを同定する性判別分子マーカーを開発し、全雌タキフグ・オブスキュラスを育成することでタキフグ・オブスキュラスの成長速度の低下を解決することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明目的:本発明の目的は、成長速度が速く、従来の中国品種審査認定新品種である低温耐性タキフグ・オブスキュラス「中洋1号」の耐えられる温度より2~3℃向上するタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
技術的解決手段:本発明に記載の低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法であって、
性転換したタキフグ・オブスキュラス仔魚を性判別分子マーカーで選別し、偽雄タキフグ・オブスキュラスを取得して正常な雌タキフグ・オブスキュラスと交配させて全雌タキフグ・オブスキュラスを取得する操作ステップ(1)と、
ステップ(1)において取得された全雌タキフグ・オブスキュラスから、低温耐性性状を持つ個体をSNP部位の塩基配列がSEQ ID NO.2に示される低温耐性性状分子マーカーで選別し、150bpのストリップをPCR増幅し且つ遺伝子型がGGとして検出される場合、全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスである操作ステップ(2)とを含む。
【0006】
ステップ(1)における前記性転換は、ホルモン誘導方法によって達成される。
【0007】
前記ホルモン誘導方法は、飼料に17α-メチルテストステロンを添加することである。
【0008】
15日齢前の孵化から体長3.33cmまでのタキフグ・オブスキュラスに給餌するために、前記17α-メチルテストステロンを用いて使用量30-60mg/Lで輪虫を浸漬し、15~40日齢のタキフグ・オブスキュラス苗に給餌するために、30-60mg/Lでアルテミアを浸漬し、40~100日齢のタキフグ・オブスキュラスに給餌するために、30-60μg/gで飼料に添加する。
【0009】
ステップ(1)における前記性判別分子マーカーのSNP部位の塩基配列は、SEQ ID NO.1に示され、PCR増幅結果が250bp及び330bpの2つのストリップである場合、個体は、正常な雌魚又は偽雄魚であり、PCR増幅結果が1本の330bpのストリップである場合、個体は、正常な雄魚である。
【0010】
PCR増幅に用いられるプライマー配列は、SEQ ID NO.3~4に示される。
【0011】
PCR増幅に用いられるプログラムは、以下のとおりであり、step1:95℃で3分予め変性し、step2:95℃で30秒変性し、step3:51.5℃で30秒アニールし、step4:72℃で30秒延ばし、step2~4を35回繰り返し、step5:72℃で5分延ばす。
【0012】
ステップ(1)において偽雄魚と正常な雌タキフグ・オブスキュラスとを交配させる時、手動で産卵促進し、具体的には、雌魚にHCG 180U/kg+排卵誘発LRH-A2 0.8μg/kgを1回目に注射し、偽雄魚の場合、使用量を半減し、24時間後に2回目の注射を行い、雌魚の注射量は、HCG 360U/kg+排卵誘発LRH-A2 1.6μg/kgであり、偽雄魚の場合、使用量を半減する。
【0013】
ステップ(2)におけるPCR増幅に用いられるプライマー配列は、SEQ ID NO.5~6に示される。
【0014】
ステップ(2)におけるPCR増幅に用いられるプログラムは、以下のとおりであり、
step1:94℃で4分予め変性し、step2:94℃で30秒変性し、step3:51.5℃で1分アニールし、step4:72℃で40秒延ばし、step2~4を30回繰り返し、step5:72℃で10分延ばす。
【発明の効果】
【0015】
有益な効果:従来技術と比較して、本発明は、以下のような顕著な利点を有する。本発明が開発したタキフグ・オブスキュラス性判別マーカーと低温耐性性状マーカーは、遺伝子性別と低温耐性を正確に判別することができ、速度が速く、操作が簡単一で、コストが低い特徴があり、実際の操作の中で少量の尾びれ組織を切り取ってDNAを抽出するだけで魚の遺伝子性別と低温耐性を大量に同定することができ、性状の優れた個体を効率的に選別し、迅速に成長でき且つ低温耐性を持つタキフグ・オブスキュラス新品種の育成プロセスを加速することができ、育種効率を高め及び性状改良プロセスを速め、それによりタキフグ・オブスキュラスの優れた養殖品種のカバレージを高め、産業競争力を高め、産業の安定した持続可能な発展を推進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】タキフグ・オブスキュラス遺伝子の性別同定図である。
【
図4】全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスと一般的なタキフグ・オブスキュラスとの実物比較図である。
【
図5】全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスの低温耐性実験図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の技術的解決手段についてさらに説明する。
【0018】
実施例1 低温耐性性状を持つタキフグ・オブスキュラスの全雌新種育成方法
(1)タキフグ・オブスキュラス仔魚の性転換をホルモン誘導した。
ホルモン誘導方法:孵化から体長3.33cmまでのタキフグ・オブスキュラスに15日齢開口前に輪虫を投与し、輪虫を収集して濃度30mg/Lの17α-メチルテストステロンに移して1時間浸漬した後に投与することができた。15~40日齢に特製のアルテミアのノープリウスを投与し、特製のノープリウスの製造方法は、以下のとおりであった。1.5%の塩水を調製し、アルテミア卵を投入し、25℃の水温と光照条件において孵化を行い、1-2日目にノープリウスを孵化させた後、濃度30mg/Lの17α-メチルテストステロンに移して1時間浸漬した後に投与することができた。40日齢の後、17α-メチルテストステロンをその飼料に混ぜて投与し、100日齢後に添加を停止し、通常の飼育モードに変えた。調製方法及び使用量は、以下のとおりであった。所定量の粉剤を秤取して純エタノールに溶解し、使用時にうなぎ粉を混ぜて水を加えて丸め、丸められた飼料中の17α-メチルテストステロンの濃度は、30μg/gであり、丸められた飼料を日陰換気場に置いてエタノール揮発後に投与し、1日に午前午後に2回投与した。100日齢後に性判別分子マーカーで性別を同定し、性転換発生率の後期統計を容易にした。2年後、繁殖シーズンに性腺がVI期末まで発育した(すなわち、繁殖孔から生殖液が流出できる)個体を捕獲して、専門的な方法を通じて腹部を軽く絞って繁殖孔から精液が流出するかどうかを観察し、遺伝的性別が雌であるかどうかを性判別分子マーカーで同定し、偽雄魚(遺伝子性別が雌で、生理的表現が雌の個体)を選別した。
【0019】
上記用いられる性判別分子マーカーの開発:
後期に親魚の遺伝子性別を判断するために、タキフグ・オブスキュラス個体群中の雌雄個体に対してゲノム解
析を行い、タキフグ・オブスキュラスの遺伝的性別を同定するSNP部位を取得し、SNP部位の塩基配列は、SEQ ID NO.1(CGTTCTTTCCTGGAGGAGAAGCGGCGTCTACTATCTGCCCTGCTGCTGAGGGAGATCTGGATGTGCTGCTCTGATTTCAGTCATCTAACGGTGGGCAGGGTGTGAAGGTTGTGTGTAACACGCACGACATTTCCCCCATAGTTTGTTTTTCGGATCCTGTTTACGGGCGGTGATGCTCCTCCACGGATTCAGTTGCCATATGATGCTGAGCTGGCCGCCAATGTCTCCATAAAAAGCCTCATTTTGTTAGAGTGTGACATGGTCATGACACCTTACAAATATAAAAACACTGGTGTATTGCCCATTTCTTCCTCCGGAGGGGGAATTTTAGACTTTTCTCGTTCAGAAAAAGACATTAATTTGGAGAGAGAGCGAGGTATTGGCCTCTTCTGCTTACCCTCCAACAGAAGACGATGCCGGAACCTCATCAGGACGAGGGCTGCAGATCACTACCACTGCAGACCAGATAGTCTGAATTATGGAATAAGTATCCCCCATTCCTACCTCCCAGGACGACATACGTTCTCCCTCTTTACAGTTATTTAATAA)に示された。タキフグ・オブスキュラスの遺伝的性別のSNP部位に設計された、塩基配列がSEQ ID NO.3 F(5’-3’):TCCTGGAGACGCTTGTCG、SEQ ID NO.4 R(5’-3’):AGTGTGTCGTGATGTAAGGであるタキフグ・オブスキュラス性判別マーカーPCRプライマーペアとSEQ ID NO.1のようなDNA分子とを塩基対結合した。具体的な検出ステップは、以下のとおりであった。少量のびれ組織を切ってDNAを抽出し、PCR増幅反応体は、2×Rapid Taq Master Mix 10μLであり、上下流プライマーは、それぞれ0.8μLで、滅菌水は、7.4μLで、テンプレートDNAは、1μLであり、増幅プログラムステップは、順に以下のとおりであり、step1:95℃で3分予め変性し、step2:95℃で30秒変性し、step3:51.5℃で30秒アニールし、step4:72℃で30秒延ばし、step2~4を35回繰り返し、step5:72℃で5分延ばし、増幅生成物のゲル電気泳動の後、2本のストリップが現れた個体は、正常な雌魚又は遺伝子型雌性すなわち偽雄魚であり、1本のストリップが現れた個体は、遺伝子型雄性すなわち正常な雄魚であり、結果は、
図3に示された。
【0020】
(2)性判別分子マーカーで選別して取得された偽雄タキフグ・オブスキュラス(XX♂)と正常な雌タキフグ・オブスキュラス(XX♀)とを交配させて全雌タキフグ・オブスキュラスを取得した。
【0021】
ステップ(1)で選別された適切な偽雄魚5尾(遺伝子性別が雌で、生理的表現が雌の個体)と正常な雌魚5尾に手動で産卵促進及び授精を行い、受精卵に定圧で給水し、酸素を定水温25-28℃で流水にて充填して孵化し、仔魚が出膜した後に全雌タキフグ・オブスキュラス苗を得ることができ、合計143尾の仔魚を後続実験に用いて獲得した。産卵促進用薬及び使用量は、以下のとおりであった。雌魚にヒト絨毛性ゴナドトロピンHCG(寧波第二激素場)180U/kg+排卵誘発LRH-A2(寧波第二激素場)0.8μg/kgを1回目に注射し、偽雄魚の場合、使用量を半減し、24時間後に親魚に2回目の注射を行い、雌魚の注射量は、HCG 360U/kg+LRH-A2 1.6μg/kgであり、偽雄魚の場合、使用量を半減した。
【0022】
(3)低温耐性分子マーカーを使用して、全雌タキフグ・オブスキュラスから、低温耐性性状を持つ個体を選別した。
【0023】
低温耐性性状マーカーの開発:
タキフグ・オブスキュラス個体群の降温実験を展開し、実験に用いたタキフグ・オブスキュラスは、江蘇省南通市中洋集団股ふん有限公司から入手したもので、池で養殖した。池での養殖環境は、同じで、毎日の午前と午後の同じ時間に同じ量で2回給餌した。低温ストレス実験を行う前に、魚の養殖を循環システムで1週間適応させた。低温ストレス実験は、まず養殖システムによって制御され、水温は、1時間に1℃低下した。水温が13℃に達すると、降温速度が遅くなり、循環システムに氷を加えることで降温を続けた。水温を13℃から6.8℃に下げるのは5.5時間経た。タキフグ・オブスキュラス個体が低温に耐えられないのは、水底でバランスを失うことにより判断され、1匹の魚がバランスを失うのに必要な時間とアンバランス温度を記録した。タキフグ・オブスキュラスの尾びれを約1センチ切り、尾びれ組織中のゲノムDNAを抽出し、プライマー塩基対基配列SEQ ID NO.5 F(5’-3’):AATCGCTCTGAAGGACAAT、SEQ ID NO.6 R(5’-3’):CAGCCGTGTTTTACTTGAGを含む複数の一般的なPCRプライマーを設計し、そして増幅を行い、増幅プログラムのステップは、順に以下のとおりであり、step1:94℃で4分予め変性し、step2:94℃で30秒変性し、step3:51.5℃で1分アニールし、step4:72℃で40秒延ばし、step2~4を30回繰り返し、step5:72℃で10分延ばした。アガロースゲル電気泳動検出を行い、明るくて単一のストリップを選んで双方向配列測定を行った。配列測定結果のピーク図(
図2)に基づいて、ピーク図を通じて単一塩基における単一ピーク又は二重ピークを判断して検出個体の遺伝子型を確定することができた。単一ピークは、ヘテロ接合型で、二重ピークは、ホモ接合型であった。二重ピークが明らかなのは、潜在的なターゲット部位であり、蛍光定量PCR及び多型性解析により部位を検証し、部位のジェノタイピング結果に基づいて、各遺伝子型頻度及び遺伝子頻度を統計して関連性解析を行い、タキフグ・オブスキュラスの低温耐性性状のSNP部位を取得し、塩基配列は、SEQ ID NO.2(ACAAAAGTGACATTACGCTGCTTTTAAACCCTGACTGTTGGAAAATAAAGACATTTTGTTGCCTTTTATCTGGAAAATTCTGATAATCTTACTGCGGCTCAAAGTTAAAAATCCTGCAACACATATTTATAAAGGCTTTGAAACACTAGAAAGGAGCTCTTCGTCCCAGAACTGCCTTCTTAATCGCTCTGAAGGACAATTAACTCTTGACCTAAAATAATTGTATTATTACAAGGTTCAACTTGCCTT[G/C]GCGGCCCTTAAATTTGGGCCCCGCGGCAGCAAAAGTCGCCCGTGAAAGACGACGCTGTAGCTTTTTCTGCAATCAGACTTTGTTTTTCTTGACACCTTTTTCTGTGTTGACACATTTTTGTATTTTATTTATTTTTTTCAAACGTCAGCTCAAGTAAAACACGGCTGCGCGTCAGCATTAAGGGGGAATATTTAGAAAGGGTATTAGTCTGCTGGTGCCAGATTACCCCTTACAGCTGGGGCAATTTGATA)に示された。SEQ ID NO.5及びSEQ ID NO.6をタキフグ・オブスキュラスの低温耐性性状のSNP部位のタキフグ・オブスキュラス低温耐性性状マーカーPCRプライマーペアとして低温耐性性状を持つ仔魚個体を選別した。
【0024】
低温耐性性状を持つ個体を選別する具体的な操作は、以下のとおりであった。少量の尾びれ組織を切ってDNAを抽出し、PCR増幅反応体は、2×Taq Plus Master Mix II 10μLで、上下流プライマーは、それぞれ1μLで、滅菌水は、6μLで、テンプレートDNAは、2μLであり、増幅プログラムステップは、順に以下のとおりであり、Step1:94℃で4分予め変性し、step2:94℃で30秒変性し、step3:51.5℃で1分アニールし、step4:72℃で40秒延ばし、step2~4を30回繰り返し、step5:72℃で10分延ばし、増幅生成物のゲル電気泳動の後、明るく明瞭なストリップを切り出し、遺伝子配列測定を行った。SEQ ID NO.2の250-251位がGG型である場合、低温耐性雌魚であった。すべての仔魚に対してSNP部位と低温耐性性状の関連解析を行い、結果は、表1に示された。
【0025】
【0026】
遺伝子型GGの低温耐性雌魚及び一般的なタキフグ・オブスキュラス(中洋1号)をそれぞれ30尾飼育し、飼育条件は、魚に体重4~5%の粉材を1日2回投与することであった。それぞれ50-100日目に魚の体長及び体重を測定し、結果は、表2に示された。
【0027】
【0028】
冬に200日齢の全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスを屋外水槽に1日置き、そのまま生存させ、水温を5.2℃と測定した。
【0029】
上記結果をまとめて、本発明において育成された全雌低温耐性タキフグ・オブスキュラスは、成長速度が一般的なタキフグ・オブスキュラスより15%~30%向上し、低温耐性が5.2℃であり(
図5)、従来の中国品種審査認定新品種である低温耐性タキフグ・オブスキュラス「中洋1号」(7~8℃で)新品種の耐えられる温度より2~3度向上した。
【0030】
上記は、本特許の好適な実施例にすぎず、本特許の特許請求の範囲による均等な変化と修飾は、すべて本特許のカバー範囲に属すべきである。
【要約】 (修正有)
【課題】低温耐性性状を持つ全雌タキフグ・オブスキュラス新種育成方法を開示する。
【解決手段】本発明の育成方法では、タキフグ・オブスキュラスの性転換をホルモン誘導して性判別分子マーカーと組み合わせて偽雄タキフグ・オブスキュラスを取得し、偽雄魚と正常な雌タキフグ・オブスキュラスとを交配させて全雌タキフグ・オブスキュラスを取得し、最終的に全雌タキフグ・オブスキュラスから、低温耐性性状を持つ個体を低温耐性分子マーカーで選別し、低温耐性性状の全雌新品種を取得する。本発明では、タキフグ・オブスキュラス性別及び低温耐性のSNP分子マーカーを発見し、これら2つの重要な要素を共同利用して総合的な選別育成を行うことにより、全雌新品種を短時間に大量選別育成することができる。また、本発明で得られた低温耐性性状を持つ全雌タキフグ・オブスキュラスは、新品種の育成に優れた母体資源を提供し、広い応用見通しを有する。
【選択図】
図1
【配列表】