(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-04
(45)【発行日】2025-08-13
(54)【発明の名称】ヘッドレスト及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/888 20180101AFI20250805BHJP
B60N 2/865 20180101ALI20250805BHJP
【FI】
B60N2/888
B60N2/865
(21)【出願番号】P 2021194892
(22)【出願日】2021-11-30
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上木 昌徳
【審査官】丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011068(JP,A)
【文献】特開2014-028600(JP,A)
【文献】特開2008-006911(JP,A)
【文献】実開昭63-172366(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックの上端部に連結されるヘッドレストステーと、
前記ヘッドレストステーに支持されるヘッドレスト本体と、
板状に形成され、板厚方向がヘッドレスト前後方向に沿う姿勢で前記ヘッドレスト本体内に配置され、前記ヘッドレストステーに支持され、板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がることにより、前記ヘッドレスト本体の前面をヘッドレスト前方側へ膨出させる板状部材と、
車両が後面衝突した場合に前記板状部材を前記直交する方向に圧縮させる圧縮部と、
を備え
、
前記圧縮部は、
前記板状部材を付勢力によって前記直交する方向に圧縮するばねと、
前記板状部材の前記圧縮を規制するロック部と、
車両が後面衝突した場合に前記規制を解除する解除部と、
を有するヘッドレスト。
【請求項2】
車両用シートのシートバックの上端部に連結されるヘッドレストステーと、
前記ヘッドレストステーに支持されるヘッドレスト本体と、
板状に形成され、板厚方向がヘッドレスト前後方向に沿う姿勢で前記ヘッドレスト本体内に配置され、前記ヘッドレストステーに支持され、板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がることにより、前記ヘッドレスト本体の前面をヘッドレスト前方側へ膨出させる板状部材と、
車両が後面衝突した場合に前記板状部材を前記直交する方向に圧縮させる圧縮部と、
を備え、
前記板状部材が曲がった状態では、前記板状部材の側面及び背面の少なくとも一方に設けられた複数の補強リブが互いに係合するように構成されているヘッドレスト。
【請求項3】
前記
板状部材は、前記直交する方向に並ぶ複数のヒンジ部を有し、前記圧縮により前記複数のヒンジ部において折れ曲がる請求項1又は請求項2に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
前記
ヘッドレストステーは、
前記シートバックの上端部に連結される左右の脚部と、
前記左右の脚部の上端部からヘッドレスト前方側へ延びる左右の前延部と、
前記左右の前延部の前端部からヘッドレスト下方側へ延びる左右の下延部と、
を有し、
前記ヘッドレスト本体は、
前記左右の前延部が埋め込まれた上部と、
前記上部の前端部からヘッドレスト下方側へ延び、前記左右の下延部が埋め込まれた下部と、
を有し、
前記板状部材は、前記下部に埋め込まれ、前記左右の下延部に支持されている請求項1~請求項3の何れか1項に記載のヘッドレスト。
【請求項5】
前記解除部は、
前記シートバック内に配置され、車両が後面衝突した場合に乗員から荷重を受ける受圧部と、
前記受圧部が受ける荷重を前記ロック部に伝達し、前記規制を解除させる荷重伝達部と、
を有する請求項
1に記載のヘッドレスト。
【請求項6】
シートクッション及びシートバックと、
前記シートバックの上端部に前記ヘッドレストステーが連結される請求項1~請求項5の何れか1項に記載のヘッドレストと、
を備える車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関し、特に車両用シートのヘッドレストに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、所謂アクティブヘッドレストを備えた車両用シート構造が開示されている。この車両用シート構造は、ヘッドレスト本体の下端部を中心にヘッドレスト本体を前方へ回動させる回動機構と、ヘッドレスト本体の上端部の前方への回動を付勢する付勢手段と、付勢手段の付勢に抗してヘッドレスト本体の回動をロックするロック手段と、シートバックに加わる乗員の後方荷重が所定大きさ以上になったときにロック手段によるロックを解除する応動手段とを備えている。車両の後面衝突時には、ヘッドレスト本体が前方へ回動して乗員の頭部を支持する。これにより、乗員の鞭打ちを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば所謂ミニバンタイプの車両の3列目シートや軽自動車の2列目シートでは、ヘッドレスト本体の小型化が必要となることから、アクティブヘッドレストの機構部をヘッドレスト本体の内部に収容することが困難な場合がある。特に、所謂鞍型のヘッドレストでは、ヘッドレスト本体の下部がシート前後方向に薄く形成されるため、アクティブヘッドレストの機構部の収容スペースの確保が困難である。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、乗員の鞭打ちを防止可能で且つヘッドレスト本体の小型化に寄与するヘッドレスト及び車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様のヘッドレストは、車両用シートのシートバックの上端部に連結されるヘッドレストステーと、前記ヘッドレストステーに支持されるヘッドレスト本体と、板状に形成され、板厚方向がヘッドレスト前後方向に沿う姿勢で前記ヘッドレスト本体内に配置され、前記ヘッドレストステーに支持され、板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がることにより、前記ヘッドレスト本体の前面をヘッドレスト前方側へ膨出させる板状部材と、車両が後面衝突した場合に前記板状部材を前記直交する方向に圧縮させる圧縮部と、を備える。
【0007】
第1態様のヘッドレストでは、車両用シートのシートバックの上端部に連結されるヘッドレストステーにヘッドレスト本体が支持される。ヘッドレスト本体内には、板状部材が配置されている。板状部材は、板状に形成され、板厚方向がヘッドレスト前後方向に沿う姿勢でヘッドレスト本体内に配置されている。車両が後面衝突した場合、板状部材が圧縮部によって板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がることにより、ヘッドレスト本体の前面がヘッドレスト前方側へ膨出する。これにより、乗員の頭部がヘッドレスト本体に早期に支持されるので、乗員の鞭打ちを防止することができる。しかも、板状部材が上記のような板状に形成されているので、ヘッドレスト本体内での板状部材の配置スペースをヘッドレスト前後方向に薄く設定することができる。これにより、ヘッドレスト本体の小型化に寄与する。
【0008】
第2の態様2のヘッドレストは、第1の態様において、前記板状部材は、前記直交する方向に並ぶ複数のヒンジ部を有し、前記圧縮により前記複数のヒンジ部において折れ曲がる。
【0009】
第2態様のヘッドレストでは、車両が後面衝突した場合、板状部材が圧縮部によって板厚方向と直交する方向に圧縮されることにより、板状部材が複数のヒンジ部において折れ曲がる。これら複数のヒンジ部により、板状部材を設定通りに折り曲げることが容易になる。
【0010】
第3の態様のヘッドレストは、第1の態様又は第2の態様において、前記ヘッドレストステーは、前記シートバックの上端部に連結される左右の脚部と、前記左右の脚部の上端部からヘッドレスト前方側へ延びる左右の前延部と、前記左右の前延部の前端部からヘッドレスト下方側へ延びる左右の下延部と、を有し、前記ヘッドレスト本体は、前記左右の前延部が埋め込まれた上部と、前記上部の前端部からヘッドレスト下方側へ延び、前記左右の下延部が埋め込まれた下部と、を有し、前記板状部材は、前記下部に埋め込まれ、前記左右の下延部に支持されている。
【0011】
第3の態様のヘッドレストでは、ヘッドレストステー及びヘッドレスト本体が上記のような構成、すなわち所謂鞍型ヘッドレストの構成とされている。鞍型のヘッドレストでは、ヘッドレスト本体の下部がヘッドレスト前後方向に薄く形成されるが、この下部に埋め込まれる板状部材は、板厚方向がヘッドレスト前後方向に沿う姿勢でヘッドレスト本体の下部内に配置されるので、下部内での板状部材の配置スペースの確保が容易である。
【0012】
第4の態様のヘッドレストは、第1の態様~第3の態様の何れか1つの態様において、前記圧縮部は、前記板状部材を付勢力によって前記直交する方向に圧縮するばねと、前記板状部材の前記圧縮を規制するロック部と、車両が後面衝突した場合に前記規制を解除する解除部と、を有する。
【0013】
第4の態様のヘッドレストでは、車両が後面衝突した場合、解除部がロック部の規制を解除する。これにより、ばねの付勢力によって板状部材が板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がる。このように、ばねの付勢力によって板状部材を曲げるので、例えばアクチュエータの駆動力を用いて板状部材を曲げる場合と比較して、構成を簡素化することができる。
【0014】
第5の態様のヘッドレストは、第4の態様において、前記解除部は、前記シートバック内に配置され、車両が後面衝突した場合に乗員から荷重を受ける受圧部と、前記受圧部が受ける荷重を前記ロック部に伝達し、前記規制を解除させる荷重伝達部と、を有する。
【0015】
第5の態様のヘッドレストでは、車両が後面衝突した場合、シートバック内に配置された受圧部が乗員から荷重を受ける。受圧部が受けた荷重は、荷重伝達部によってロック部に伝達され、ロック部の規制が解除される。このように、乗員からの荷重によってロック部の規制を解除するため、例えば衝突センサによって後面衝突を検知した際にアクチュエータを作動させてロック部の規制を解除する場合と比較して、構成を簡素化することができる。
【0016】
第6の態様のヘッドレストは、第1の態様~第5の態様の何れか1つの態様において、前記板状部材が曲がった状態では、前記板状部材の側面及び背面の少なくとも一方に設けられた複数の補強リブが互いに係合するように構成されている。
【0017】
第6の態様のヘッドレストでは、板状部材が曲がった状態では、板状部材の側面及び背面の少なくとも一方に設けられた複数の補強リブが互いに係合することで剛性が得られる。これにより、ヘッドレスト前方側へ膨出するヘッドレスト本体の前面により乗員の頭部を良好に保持することが可能となる。
【0018】
第7の態様の車両用シートは、シートクッション及びシートバックと、前記シートバックの上端部に前記ヘッドレストステーが連結される第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様のヘッドレストと、を備える。
【0019】
第7の態様の車両用シートでは、ヘッドレストが備えるヘッドレストステーがシートバックの上端部に連結される。このヘッドレストは、第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した作用及び効果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係るヘッドレスト及び車両用シートでは、乗員の鞭打ちを防止可能で且つヘッドレスト本体の小型化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るヘッドレストの主要部の構成を示す側面図である。
【
図2】板状部材が曲がった状態を示す
図1に対応した側面図である。
【
図3】実施形態に係るヘッドレストにおける板状部材周辺の構成を示す斜視図である。
【
図4】板状部材が曲がった状態を示す
図3に対応した側面図である。
【
図5】実施形態に係るヘッドレストの解除部が有する荷重伝達部の一部を含む周辺の構成を示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係るヘッドレストの解除部が有する受圧部周辺の構成を示す側面図である。
【
図7】実施形態に係るヘッドレストの解除部が有する受圧部周辺の構成を示す正面図である。
【
図8】実施形態の第1変形例に係るヘッドレストの主要部の構成を示す平面図である。
【
図9】板状部材が曲がった状態を示す
図8に対応した平面図である。
【
図10】実施形態の第2変形例に係るヘッドレストの主要部の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の一実施形態に係る車両用シート10及びヘッドレスト20について説明する。なお、各図中においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜記載された矢印FR、LH及びUPは、車両用シート10及びヘッドレスト20の前方、左方及び上方をそれぞれ示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、車両用シート10及びヘッドレスト20に対する方向を示すものとする。
【0023】
図7に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、車両の乗員が着座するシートクッションと、同乗員が背中を凭れ掛けるシートバック14とを備えている。シートバック14の下端部は、シートクッション12の後端部に周知のリクライニング機構を介して連結されている。
図6に示されるように、シートバック14の上端部には、左右一対のヘッドレストサポート16(
図6では右側のヘッドレストサポート16のみを図示)が設けられている。左右のヘッドレストサポート16は、シートバック14のフレーム15の上端部に固定された左右一対のヘッドレストサポートブラケット18(
図6では右側のヘッドレストサポートブラケット18のみを図示)に取り付けられている。左右のヘッドレストサポート16には、車両用シート10の構成要素であるヘッドレスト20が連結される。
【0024】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係るヘッドレスト20は、所謂鞍型のヘッドレストであり、ヘッドレストステー22と、ヘッドレスト本体26と、板状部材30と、圧縮部34とを備えている。ヘッドレストステー22は、例えば金属製のパイプが曲げ加工されて製造されたものである。このヘッドレストステー22は、左右のヘッドレストサポート16に連結される左右一対の脚部22Aと、左右の脚部22Aの上端部から前方側へ延びる左右一対の前延部22Bと、左右の前延部22Bの前端部から下方側へ延びる左右一対の下延部22Cと、左右の下延部22Cの下端部を左右方向に繋いだ横延部22Dとによって構成されている。なお、
図3及び
図4では、ヘッドレストステー22の前部側及びその周辺の構成が図示されており、
図5では、ヘッドレストの後部側及びその周辺の構成が図示されている。これらの
図3~
図5では、説明の都合上、ヘッドレストステー22が切断された状態で図示されている。
【0025】
ヘッドレスト本体26は、ウレタンフォーム等の発泡体からなるヘッドレストパッドが、布材、皮革、合成皮革等からなるヘッドレスト表皮28によって覆われた構成とされており、ヘッドレストステー22に支持されている。このヘッドレスト本体26は、ヘッドレストステー22の左右の前延部22Bが埋め込まれた上部26Aと、上部26Aの前端部から下方側へ延び、左右の下延部22Cが埋め込まれた下部26Bとによって構成されており、左右方向視で略逆L字状をなしている。上部26Aは、上下方向を厚さ方向とする板状をなしており、下部26Bは、略前後方向を板厚方向とする板状をなしている。
【0026】
板状部材30は、例えば樹脂の射出成形によって製造されたものであり、板状すなわち薄く平たい形状に形成されている。この板状部材30は、板厚方向が前後方向に沿う姿勢でヘッドレスト本体26内に配置されている。詳細には、板状部材30は、ヘッドレスト本体26の下部26B内に埋め込まれており、左右の下延部22Cの前側に配置されている。板状部材30の上側で左右の下延部22Cの上端部には、左右方向を軸線方向とする円柱状の軸部材24が配置されている。軸部材24は、例えば溶接によって左右の下延部22Cに固定されている。
【0027】
板状部材30の上端部には、左右方向に沿って上側連結部30Aが形成されている。上側連結部30Aは、板状部材30の上端部から上側へ突出しており、左右方向視で上方側に開口したC字状をなしている。上側連結部30Aの内側には、軸部材の左右方向両端部が回転自在に嵌合している。これにより、板状部材30の上端部がヘッドレストステー22に対して軸部材24回り(すなわち左右方向に沿った軸線回り)に回転可能に連結されている。
【0028】
板状部材30の下部には、左右一対の下側連結部30Bが形成されている。左右の下側連結部30Bは、板状部材30の下部から後側へ突出しており、略上下方向視で後方側に開口したC字状をなしている。左右の下側連結部30Bの内側には、左右の下延部22Cが嵌合している。左右の下側連結部30Bは、左右の下延部22Cに沿って略上下方向に摺動可能とされている。これにより、板状部材30の下部がヘッドレストステー22に対して略上下方向に摺動可能に連結されている。
【0029】
上側連結部30Aと左右の下側連結部30Bとの間で板状部材30の上下方向中間部には、複数(ここでは3つ)のヒンジ部32が略上下方向に並んで形成されている。これらのヒンジ部32は、所謂インテグラルヒンジであり、左右方向に延在している。このように複数のヒンジ部32が形成された板状部材30は、板厚方向と直交する方向(ここでは略上下方向)に圧縮されることで、複数のヒンジ部32において折れ曲がる。具体的には、板状部材30の下部に対して上方側への荷重が作用すると、左右の下延部22Cに対する左右の下側連結部30Bの上方側への摺動を伴いつつ、板状部材30の下部が板状部材30の上端部側に接近する。この際には、
図2及び
図4に示されるように、板状部材30が複数のヒンジ部32において折れ曲がることにより、板状部材30の上下方向中間部が左右方向視で略台形状に前方側へ膨出する。これにより、
図2に二点鎖線で示されるように、ヘッドレスト本体26の前面が前方側へ膨出する。板状部材30が複数のヒンジ部32において折れ曲がった状態では、板状部材30の側面及び背面に設けられた複数の補強リブ33(裏面の補強リブ33は図示省略)の歯型形状が
図2及び
図4に示されるように互いに係合するように構成されている。
【0030】
圧縮部34は、ヘッドレストステー22の左右の下延部22Cに取り付けられた左右一対の引張りコイルスプリング36を有している。左右の引張りコイルスプリング36は、本発明における「ばね」に相当するものであり、左右の下延部22Cが内側に挿通された状態で配置されている。左右の引張りコイルスプリング36の上端部は、軸部材24に係止されており、左右の引張りコイルスプリング36の下端部は、左右の下側連結部30Bに係止されている。これらの引張りコイルスプリング36によって板状部材30の下部が上方側へ付勢されている。板状部材30の下部は、圧縮部34に含まれるロック部38(
図3及び
図4参照)によって上方側への変位を規制されている。つまり、左右の引張りコイルスプリング36の付勢力は、板状部材30を板厚方向と直交する方向に圧縮するように作用しているが、当該圧縮がロック部38によって規制されている。
【0031】
図3及び
図4に示されるように、ロック部38は、一例として、板状部材30の下部に設けられたロック片40と、ヘッドレストステー22の横延部22Dに固定されたフック42とによって構成されている。ロック片40は、板状部材30の下部30Cから後方側へ向けて一体に延出されており、略上下方向を板厚方向とし略前後方向を長手方向とする板状の弾性部40Aと、弾性部40Aの前後方向中間部から下方側へ延出されたロック爪部40Bとを一体に有している。ロック爪部40Bは、左右方向視で略J字状に形成されている。フック42は、例えば金属板が曲げ加工されて製造されたものであり、横延部22Dの左右方向中間部に溶接等の手段で固定されている。このフック42は、左右方向視で略逆J字状に形成されており、横延部22Dから上方側に突出している。このフック42の上端部にロック爪部40Bの下端部が引っ掛かることで、板状部材30の下部30Cが上方側への変位を規制されている。弾性部40Aの後端部に対して上方側への荷重が作用すると、弾性部40Aが上方側へ弾性変形し、フック42の上端部に対するロック爪部40Bの下端部の引っ掛かりが解除されるように構成されている。弾性部40Aの後端部には、ケーブル48の一端部が係止されている。このケーブル48は、圧縮部34が有する解除部44の構成要素である荷重伝達部46の一部を構成している。
【0032】
図5に示されるように、荷重伝達部46は、ケーブル48の他、ヘッドレストステー22の左右の脚部22Aの上端部に取り付けられたベース板50と、ベース板50に取り付けられたプーリ52と、プーリ52に各一端部が係止された左右一対のケーブル54とを有している。ベース板50は、例えば金属板によって形成されたものであり、上下方向を板厚方向とする矩形板状をなしており、ヘッドレスト本体26の上部26A内に配置されている。このベース板50の後部には、左右の脚部22Aの上端部が貫通しており、溶接等の手段でベース板50が左右の脚部22Aの上端部に固定されている。ベース板50の前部の上面には、ケーブル48の他端側が挿通されたガイド51が固定されている。
【0033】
プーリ52は、ベース板50の後部の上面側で且つ左右の脚部22Aの上端部の間に配置されている。このプーリ52は、上下方向を軸線方向とする円板状をなしており、ベース板50に対して回転可能に支持されている。プーリ52の外周部には、ケーブル48の他端部が係止されており、ケーブル48の他端側がプーリ52の外周面に巻き掛けられている。このプーリ52は、このプーリ52とベース板50との間に掛け渡された捩りコイルスプリング53によって軸線回りの一方(ケーブル48を巻き取らない方向;
図5の矢印Rと反対方向)に付勢されている。なお、
図5では説明の都合上、捩りコイルスプリング53がプーリ52及びベース板50から取り外された状態が図示されている。
【0034】
プーリ52の上面には、左右のケーブル48の一端部が係止されている。左右のケーブル54は、左右の脚部22Aの上端付近でヘッドレストステー22に形成された左右の貫通孔(図示省略)を通して左右の脚部22Aの内部に挿入されており、左右の脚部22Aの下端からシートバック14内へ配索されている。
図6及び
図7に示されるように、シートバック14内には、解除部44に含まれる受圧部56が設けられている。
【0035】
シートバック14内に配索された左右のケーブル54の他端部は、受圧部56が有する受圧板58の下端部に連結されている。受圧部56は、受圧板58に対して前方側から対向して配置された当接部材60を有している。受圧板58は、無負荷状態において当接部材60側へ突出した湾曲状に形成され、ブラケット62を介してシートバック14のフレーム15に固定されている。この受圧板58は、左右のケーブル54の他端部が係止された下端部がフリーの状態となっている。
【0036】
当接部材60は、受圧板58から前方側に適宜離間した位置に配設されたブロック状の部材であり、通常の使用状態において車両用シート10に着座した乗員がシートバック14に凭れ掛かる程度では、受圧板58に接触しないように配設されている。車両の後面衝突時には、シートバック14にめり込む乗員の背中からの荷重が当接部材60に加わる。この荷重が予め設定された大きさ以上の場合、当接部材60が湾曲状の受圧板58に当接し、受圧板58を略真直な形状に変形する。これにより、受圧板58の下端部が下方側へ移動し、左右のケーブル54の他端部が下方側へ引っ張られる。その結果、左右のケーブル54の一端部が係止されたプーリ52が軸線回りの他方(
図5の矢印R方向)へ回転し、プーリ52の外周部にケーブル48の他端側が巻き取られる。これにより、ケーブル48の一端部が係止されたロック片40の弾性部40Aが上方側へ引き上げられ、フック42の上端部に対するロック爪部40Bの下端部の引っ掛かりが解除される。つまり、受圧部56が受ける荷重が荷重伝達部46によってロック部38に伝達され、ロック部38の規制が解除さされる。その結果、左右の引張りコイルスプリング36の付勢力によって板状部材30が略上下方向に圧縮されて前方側へ折れ曲がり、ヘッドレスト本体26の前面が前方側へ膨出されるように構成されている。
【0037】
(作用及び効果)
上記構成の車両用シート10が備えるヘッドレスト20では、シートバック14の上端部に連結されるヘッドレストステー22にヘッドレスト本体26が支持される。ヘッドレスト本体26内には、板状部材30が配置されている。板状部材30は、板状に形成され、板厚方向が前後方向に沿う姿勢でヘッドレスト本体26内に配置されている。車両が後面衝突した場合、板状部材30が圧縮部によって板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がることにより、ヘッドレスト本体26の前面が前方側へ膨出する(
図2参照)。これにより、
図2に矢印Sで示す距離だけヘッドレスト本体26の前面が乗員の頭部に近づき、乗員の頭部がヘッドレスト本体26に早期に支持されるので、乗員の鞭打ちを防止することができる。しかも、板状部材30が上記のような板状に形成されているので、ヘッドレスト本体26内での板状部材30の配置スペースを前後方向に薄く設定することができる。これにより、ヘッドレスト本体26の小型化に寄与する。
【0038】
また、このヘッドレスト20では、車両が後面衝突した場合、板状部材30が圧縮部34によって板厚方向と直交する方向に圧縮されることにより、板状部材30が複数のヒンジ部32において折れ曲がる。これら複数のヒンジ部32により、板状部材を設定通りに折り曲げることが容易になる。
【0039】
また、このヘッドレスト20は、所謂鞍型とされている。鞍型のヘッドレスト20では、ヘッドレスト本体26の下部26Bが前後方向に薄く形成されるが、この下部26Bに埋め込まれる板状部材30は、板厚方向が前後方向に沿う姿勢で下部26B内に配置されるので、下部26B内での板状部材30の配置スペースの確保が容易である。
【0040】
また、このヘッドレスト20では、車両が後面衝突した場合、解除部44がロック部38の規制を解除する。これにより、引張りコイルスプリング36の付勢力によって板状部材30が板厚方向と直交する方向に圧縮されて曲がる。このように、ばねである引張りコイルスプリング36の付勢力によって板状部材30を曲げるので、例えばアクチュエータの駆動力を用いて板状部材30を曲げる場合と比較して、構成を簡素化することができる。
【0041】
また、このヘッドレスト20では、車両が後面衝突した場合、シートバック14内に配置された受圧部56が乗員から荷重を受ける。受圧部56が受けた荷重は、荷重伝達部46によってロック部38に伝達され、ロック部38の規制が解除される。このように、乗員からの荷重によってロック部38の規制を解除するため、例えばアクチュエータを制御してロック部38の規制を解除する場合と比較して、構成を簡素化することができる。
【0042】
また、このヘッドレスト20では、板状部材30が複数のヒンジ部32において折れ曲がった状態では、板状部材30の側面及び背面に設けられた複数の補強リブ33が互いに係合することで剛性が得られる。これにより、前方側へ膨出するヘッドレスト本体26の前面により乗員の頭部を良好に保持することが可能となる。
【0043】
なお、上記実施形態では、板状部材30に複数のヒンジ部32が略上下方向に並んで形成された構成にしたが、これに限らず、
図8及び
図9に示される第1変形例のように、板状部材30に複数のヒンジ部32が左右方向に並んで形成された構成にしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、所謂鞍型のヘッドレスト20に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限らず、通常のヘッドレストに対しても本発明は適用可能である。その場合、
図10に示される第2変形例のようにヘッドレストステー70を構成してもよい。このヘッドレストステー70は、逆U字状をなす第1ステー72と、第1ステー72の左右の脚部72Aに固定された左右の第2ステー74とを備えている。左右の第2ステー74の上部は左右方向の中央側へ曲がり且つ開口している。そして、一方の第2ステー74内には、ケーブル54が配索されており、当該ケーブル54の一端部がロック片40の弾性部40Aに係止されている。この第2変形例では、左右の第2ステー74を左右のヘッドレストサポート16に連結させるようにすればよい。
【0045】
また、上記実施形態では、板状部材30が複数のヒンジ部32において折れ曲がる構成にしたが、これに限るものではない。例えば、左右方向視で前方側へ凸をなして緩やかに湾曲した板状部材が上下方向に圧縮されることにより、上記湾曲の曲率半径が小さくなるように板状部材が曲がる構成にしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ばねである引張りコイルスプリング36の付勢力によって板状部材30を曲げる構成にしたが、これに限らず、例えば電動アクチュエータの駆動力を用いて板状部材30を曲げる構成にしてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、車両が後面衝突した場合に、乗員からの荷重によってロック部38の規制を解除する構成にしたが、これに限るものではない。例えば衝突センサによって後面衝突を検知した際にソレノイド等のアクチュエータを作動させてロック部38の規制を解除する構成にしてもよい。
【0048】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
10 車両用シート
12 シートクッション
14 シートバック
20 ヘッドレスト
22A 脚部
22B 前延部
22C 下延部
26 ヘッドレスト本体
26A 上部
26B 下部
30 板状部材
32 ヒンジ部
33 補強リブ
34 圧縮部
36 コイルスプリング(ばね)
38 ロック部
44 解除部
46 荷重伝達部
56 受圧部
70 ヘッドレストステー