(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-05
(45)【発行日】2025-08-14
(54)【発明の名称】腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養
(51)【国際特許分類】
C12N 5/09 20100101AFI20250806BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250806BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20250806BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250806BHJP
【FI】
C12N5/09
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2019506267
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010247
(87)【国際公開番号】W WO2018169007
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-04
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017051612
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523261322
【氏名又は名称】メディフォード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 秀明
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕章
(72)【発明者】
【氏名】森川 崇
【合議体】
【審判長】中村 浩
【審判官】荒木 英則
【審判官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/077894(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047801(WO,A1)
【文献】J. Biomol. Screen, 2006, Vol.11, pp.922-932
【文献】BMC Biology, 2012, Vol.1, No.29, pp.1-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N5/00-5/28
C12Q1/00-3/00
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法であって、
低接着性の細胞培養基材上に、0.1v/v%以上5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む培地中で、該腫瘍組織から得られた細胞を浮遊状態で培養する3次元培養工程を含む、方法。
【請求項2】
腫瘍組織が異種移植腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培地がゾル状である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の細胞塊の作製方法により初代がん細胞の細胞塊を作製する工程と、
該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、
該被験物質による該細胞塊への作用を評価する工程と、を含む、
細胞塊に作用を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の細胞塊の作製方法により初代がん細胞の細胞塊を作製する工程と、
該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、
該被験物質による該細胞塊への効果を評価する工程と、を含む、
該細胞塊に対する物質の効果の判定方法。
【請求項6】
腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊を作製するためのキットであって、
低接着性の細胞培養基材と、
該腫瘍組織から得られた細胞を浮遊状態で培養するための、0.1v/v%以上5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む3次元培養工程用の培地とを、備えるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法、細胞塊、スクリーニング方法、判定方法、キットに関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍を生体外で評価する手法として、株化されたがん細胞(がん細胞株)が従来用いられてきた。しかしながら、がん細胞株は生体外の環境に適応したほぼ均一の細胞集団であること、長期間維持されてきたことによって遺伝子変異の蓄積が認められること等から、基となった腫瘍の性質の多くが失われていると指摘されている。また、腫瘍は多様な遺伝背景を持ったがん細胞で構成されていることが明らかとなっており、この不均一性という点からも限られた数しか無いがん細胞株では病態を十分に説明することができないと指摘されている。そこで、より正しく腫瘍を理解するために、腫瘍の初代細胞を用いた培養系が注目されている。腫瘍には患者から得られた腫瘍の他に、その腫瘍を免疫不全動物に移植して作製した異種移植(Patient-Derived Xenograft、PDX)腫瘍が用いられている。
【0003】
腫瘍の初代細胞の培養の基本は、摘出した腫瘍を物理的または酵素的に分散し、得られた分散細胞を培地と一緒に培養容器に播種して、CO2インキュベーター内で増殖させることである(非特許文献1:第三版組織培養の技術-基礎編-、株式会社朝倉書店、1996年)。がん細胞の増殖を良くするために、または非がん細胞(特に線維芽細胞)の過剰な増殖を抑えるために、密度勾配遠心分離法による細胞の分離や、培養容器の細胞外マトリックスによるコーティング、無血清培地の使用、トリプシン酵素や抗生物質に対する感受性の違いによる細胞分離等が行われてきた。しかしながら、このような工夫を以てしてもがん細胞を高確率で増殖させることは困難であり、より確実な培養法が望まれていた。
【0004】
近年、細胞を3次元的に培養する手法が初代がん細胞の培養方法として注目されている。その1つは、Hubrecht InstituteのCleversらが開発したオルガノイド培養法である(非特許文献2: Sato, Toshiro, et al. "Single Lgr5 stem cells build crypt villus structures in vitro without a mesenchymal niche." Nature 459.7244 (2009): 262-265.、非特許文献3: Sato, Toshiro, et al. "Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett's epithelium." Gastroenterology 141.5 (2011): 1762-1772.)。オルガノイド培養とは、生体幹細胞の自己組織化によって細胞塊(オルガノイド)を形成する培養法のことであり、具体的には、生体幹細胞を細胞外マトリックスのゲル内に包埋し至適培地を用いて培養を行っている。この手法を初代がん細胞に適用することで、彼らは大腸がん(非特許文献3)、前立腺がん(非特許文献4:Gao, Dong, et al. "Organoid cultures derived from patients with advanced prostate cancer." Cell 159.1 (2014): 176-187.)および膵臓がん(非特許文献5:Boj, Sylvia F., et al. "Organoid models of human and mouse ductal pancreatic cancer." Cell 160.1 (2015): 324-338.)の培養法を確立している。しかしながら、この方法は低温下で細胞をゲルに包埋する必要がありハイスループット性に欠けていて、医薬品開発等における汎用性が十分でない。
【0005】
2つめは、Molecular Response社らが開発した3D-tumour growth assay(3D-TGA)法である。細胞外マトリックスのゲル内に包埋し至適培地を用いて培養する点で1つめの方法と同様であるが、その前段階に細胞外マトリックスでコーティングされた培養容器で前培養を行う点と、オプションとして増殖させた癌関連線維芽細胞(Cancer Associated Fibroblast, CAF)または間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell, MSC)を細胞外マトリックスのゲル内にがん細胞と一緒に包埋する点が異なっている(非特許文献6:Saunders, John H., et al. "Individual patient oesophageal cancer 3D models for tailored treatment." Oncotarget (2016).)。本法も1つめの方法と同様に低温下で細胞をゲルに包埋する必要性がありハイスループット性に欠けている。
【0006】
3つめは、成人病センターの井上らが開発した、単一に分散されていない直径が40~100μmの細胞塊(Cancer Tissue-Originated Spheroid, CTOS)を用いた培養法(CTOS法)である(非特許文献7:Kondo, Jumpei, et al. "Retaining cell-cell contact enables preparation and culture of spheroids composed of pure primary cancer cells from colorectal cancer." Proceedings of the National Academy of Sciences 108.15 (2011): 6235-6240.)。具体的には、得られたCTOSを非接着性プレートに播種し至適培地を用いて浮遊させながら培養を行っている。CTOSは細胞外マトリックスのゲル内に包埋しなくてもがん細胞が増殖することから、1つめや2つめの方法と比べて温度管理した操作の手間が少ない。しかしながら、薬剤感受性試験にはサイズが均一なCTOSを選んで配置しなおすという煩雑な工程が必要であり、ハイスループット性が低いこと、また、細胞外マトリックスへ包埋する方法と比べてがん細胞の増殖性が低いことから、実用性が十分でない。
【0007】
4つめは、国立がん研究センターの中面らが開発した、単一に分散されたがん細胞と接着性を抑制する処理を施した細胞培養プレートを用いた培養法である(特許文献1:WO2016/047801)。具体的には、単一に分散されたがん細胞を1体積%以上の血清を含む培地と一緒に、ORGANOGENIX社製の3次元培養プレートであるNanoCulture Plateへ播種して細胞塊を培養する方法であり、ORGANOGENIX社から培養キット(がんオルガノイド培養キット)が販売されている。この方法は細胞外マトリックスのゲル内に包埋しなくてもがん細胞が増殖することから、1つめや2つめの方法と比べて温度管理した操作の手間が少ない。また、単一に分散されたがん細胞を用いることから、特別な操作を必要とせずに細胞を均一に播種することが可能であり、3つめの方法と比べてハイスループット性が高い。しかしながら、ヒト肺がん腫瘍と乳がん異種移植腫瘍(非特許文献8:Sakamoto, Ruriko, et al. "Time‐lapse imaging assay using the BioStation CT: A sensitive drug‐screening method for three‐dimensional cell culture." Cancer science 106.6 (2015): 757-765.)の報告のみで、特に乳がん異種移植腫瘍においては、明瞭に細胞塊が増殖していることが確認できず、また汎用性の検証が十分ではなく、実用性に疑問がある。
【0008】
これらのように、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の培養は3次元培養法によって培養性の確実さが増しているが、どの手法も、がん細胞の増殖能・取扱いの容易性・ハイスループット性・汎用性等のいずれかに問題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】第三版組織培養の技術-基礎編-、株式会社朝倉書店、1996年
【文献】Sato, Toshiro, et al. "Single Lgr5 stem cells build crypt villus structures in vitro without a mesenchymal niche." Nature 459.7244 (2009): 262-265.
【文献】Sato, Toshiro, et al. "Long-term expansion of epithelial organoids from human colon, adenoma, adenocarcinoma, and Barrett's epithelium." Gastroenterology 141.5 (2011): 1762-1772.
【文献】Gao, Dong, et al. "Organoid cultures derived from patients with advanced prostate cancer." Cell 159.1 (2014): 176-187.
【文献】Boj, Sylvia F., et al. "Organoid models of human and mouse ductal pancreatic cancer." Cell 160.1 (2015): 324-338.
【文献】Saunders, John H., et al. "Individual patient oesophageal cancer 3D models for tailored treatment." Oncotarget (2016).
【文献】Kondo, Jumpei, et al. "Retaining cell-cell contact enables preparation and culture of spheroids composed of pure primary cancer cells from colorectal cancer." Proceedings of the National Academy of Sciences 108.15 (2011): 6235-6240.
【文献】Sakamoto, Ruriko, et al. "Time‐lapse imaging assay using the BioStation CT: A sensitive drug‐screening method for three‐dimensional cell culture." Cancer science 106.6 (2015): 757-765.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、発明者らは、腫瘍組織を出発材料として、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の増殖を抑制しつつ、初代がん細胞を主成分とする細胞塊の、高い増殖能を有し、且つ、取扱いの容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた、初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、患者異種移植(以下、PDXと略する場合がある)腫瘍を出発材料として、単一に分散された細胞を用いて、最適な培養基材と3次元培養培地の組合せにより、浮遊状態で培養することによって、各種試験に使用可能ながん細胞の、高い増殖能を有し、且つ、取扱いの容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた、初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊が作製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
[0013] すなわち、本発明は以下のとおり例示できる。
[1] 腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法であって、
低接着性の細胞培養基材上に、5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む培地中で、腫瘍組織から得られた細胞を浮遊状態で培養する3次元培養工程を含む、方法。
[2] 腫瘍組織が異種移植腫瘍である、[1]に記載の方法。
[3] 前記培地がゾル状である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の細胞塊の作製方法により作製された、腫瘍組織から得られた初代がん細胞の細胞塊。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の細胞塊の作製方法により初代がん細胞の細胞塊を作製する工程と、
該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、
該被験物質による該細胞塊への作用を評価する工程と、を含む、
細胞塊に作用を及ぼす物質のスクリーニング方法。
[6] [1]~[3]のいずれかに記載の細胞塊の作製方法により初代がん細胞の細胞塊を作製する工程と、
該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、
該被験物質による該細胞塊への効果を評価する工程と、を含む、
該細胞塊に対する物質の効果の判定方法。
[7] 腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊を作製するためのキットであって、
低接着性の細胞培養基材と、
該腫瘍組織から得られた細胞を浮遊状態で培養するための、5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む3次元培養工程用の培地とを、備えるキット。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、腫瘍組織を出発材料として、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の増殖を抑制しつつ、初代がん細胞を主成分とする細胞塊の、高い増殖能を有し、且つ、取扱いの容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた、初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例2の培養結果を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。培養培地はStemPro hESC SFMに終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。※2:紡錘形状の細胞がプレート底面に認められた場合,線維芽細胞の接着ありと判断した。
【
図2】実施例3の培養結果を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。PrimeSurfaceを使用した。※2:ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に,細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は不可とした。
【
図3-1】実施例4の培養結果(Corningマトリゲル)を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。PrimeSurfaceを使用した。※2:ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に,細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は不可とした。
【
図3-2】実施例4の培養結果(Cultrex BME)を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。PrimeSurfaceを使用した。※2:ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に,細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は不可とした。
【
図3-3】実施例4の培養結果(Cultrex RGF BME)を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。PrimeSurfaceを使用した。※2:ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に,細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は不可とした。
【
図3-4】実施例4の培養結果(Cellmatrix Type I-A)を示す図(写真)。※1: 膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。PrimeSurfaceを使用した。※2:Day 14の2v/v%のウェルは,顕微鏡で焦点が合わなかったため肉眼的に観察した。※3:ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に,細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は不可とした。
【
図4】実施例5の培養結果を示す図(写真)。※1:膵がん(1) PDX腫瘍を使用した。培養培地は基礎培地に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。培養プレートはPrimeSurfaceを使用した。
【
図5】実施例6の培養結果を示す図(写真)。※1:培養培地はStemPro hESC SFMに終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。培養プレートはPrimeSurfaceを使用した。
【
図6】実施例7の培養結果を示す図(写真)。※1:培養培地はStemPro hESC SFMに終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。培養プレートはPrimeSurfaceを用いた。Day 14の細胞塊を用いた。
【
図7】実施例8の培養結果を示す図(写真)。※1:培養培地はStemPro hESC SFMに終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。培養プレートはPrimeSurfaceを用いた。
【
図8】実施例9の培養結果を示す図(写真)。※1:培養培地はStemPro hESC SFMに終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFRを添加したものを使用した。培養プレートはPrimeSurfaceを用いた。Day 7にGemcitabineを添加した培養培地で半量培地交換を行った。Day 10および12には終濃度が変わらないように濃度調製したGemcitabine添加培養培地で半量培地交換を行った。Day 14にATPアッセイを行い,Gemcitabine濃度が0 μmol/Lの結果を細胞生存率100%とした場合の各ゲムシタビン濃度群の結果の比を算出し,細胞生存率曲線を作成した。
【
図10-1】実施例11の培養結果(新鮮腫瘍)を示す図(写真)。
【
図10-2】実施例11の培養結果(凍結腫瘍)を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法は、3次元培養工程として、実質的に低接着性の細胞培養基材上で、5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む培地中で、該腫瘍組織から得られた初代がん細胞を培養することを特徴とする。
一般的には、浮遊状態で該初代がん細胞が3次元培養される際には、特殊な手法を使用しないと、細胞塊を形成しにくいと考えられていた。また、細胞外マトリックスを含む培地を使用する場合には、ゲル状の培地中で固定状態で培養されることにより高い増殖能を有する細胞塊が得られると考えられていた。しかし、後述する実施例に記載するように、実質的に低接着性の細胞培養基材上で、ゾル状の細胞外マトリックスを含む培地で、初代がん細胞を浮遊状態で培養することで、線維芽細胞等のがん細胞以外の細胞の増殖を抑制しつつ、該初代がん細胞を高い増殖能を有して3次元培養できたことは意外な効果であった。
これにより、各種試験に使用可能ながん細胞の高い増殖能を有しつつ、且つ、特には浮遊状態で培養されることから、取扱い容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製ができる。浮遊状態とは、細胞培養基材に接着していたり、ゲル状の培養液中で動かない状態であったりするものではなく、例えば、ピペッティング等の操作で容易に動く状態であることを言う。本発明の方法で作製される細胞塊のサイズは特に制限されないが、例えば、平均直径100μm以上であり、好ましくは平均直径100μm~300μmである。
【0017】
以下、本発明の培養法を用いた腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製法の一態様を元に説明する。
【0018】
本発明に使用可能な実質的に低接着性である細胞培養基材としては、細胞の浮遊3次元培養が可能とされる低接着性培養基材が挙げられる。実質的に低接着性である細胞培養基材とは、3次元培養法に使用するために、全体として低接着性を持たせた細胞培養基材であれば良く、親水性の表面を有する細胞培養基材や表面が親水性化合物で処理された培養基材などが挙げられるが、具体的には、例えば、PrimeSurface(住友ベークライト社)、Corning ULA Round-bottom(コーニング社)、Corning ULA Flat-bottom(コーニング社)、Elplasia(クラレ社)等が挙げられる。また、接着性がある細胞培養基材に対し、接着性を抑制する処理を行い、低接着性培養基材にしても良い。該接着性を抑制する処理としては、公知の親水処理法や疎水処理等が使用できる。また、低接着性であるかは、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養を行い、基材上の細胞塊以外の場所に線維芽細胞等のがん細胞以外の細胞が進展増殖しないことを確認することで判断できる。また、実質的に低接着性である細胞培養基材である限り、基材の形状や加工や素材等は限定されない。
【0019】
本発明に使用可能な該腫瘍組織としては、公知のがん細胞を含む組織片であれば良く、例えば、リンパ腫、骨髄腫、脳腫瘍、乳癌、子宮体癌、子宮頚癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫、喉頭癌、口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌、唾液腺癌、副鼻腔癌、上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌、甲状腺癌、腎臓癌、肺癌、骨肉腫、前立腺癌、精巣腫瘍、腎細胞癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、皮膚癌、肛門癌、その他各種がん細胞、各種幹細胞、各種前駆細胞、閏葉系前駆細胞および、ES細胞、iPS細胞等が挙げられる。なお、細胞は単一の細胞に限らず、複数の細胞種の集合体であってもよい。腫瘍組織の由来としては特に限定はないが、ヒトやサル等を含む霊長類に属する動物、マウス、ラットなどのげっ歯目に属する動物、ウサギ目に属する動物、イヌ、ネコなどのネコ目、ブタなどの偶蹄目、ウシ、ウマなどの奇蹄目に属する動物が挙げられる。また、上記のように患者から得られた腫瘍組織の他に、その腫瘍組織を免疫不全動物に移植して作製した異種移植(Patient-Derived Xenograft、PDX)腫瘍を使用することもできる。該患者由来異種移植腫瘍は、公知の手法を利用し作製することができる(非特許文献9:Cho, Sung-Yup, et al. "An integrative approach to precision cancer medicine using patient-derived xenografts." Molecules and cells 39.2 (2016): 77.)。
本発明によれば、PDX腫瘍でも、各種試験に使用可能ながん細胞の高い増殖能を有しつつ、且つ、取扱い容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製ができるので、特にPDX腫瘍を対象とすることが好ましい。PDX腫瘍は、患者由来の腫瘍を用いた臨床予測性が高い抗がん剤の開発が可能となり、治療効果の判定にも広く使用できることから、PDX腫瘍を対象とできることは特に好ましい。
また、本発明で使用可能な腫瘍組織としては、外科的に摘出して組織保存液(生理食塩水、HBSS等)に浸漬した新鮮腫瘍でも、新鮮腫瘍を凍結保存液(CELLBANKER 1等)に浸漬して細胞を生かしたまま凍結した凍結腫瘍でも使用することができる。保存方法は、当業者であれば、公知の方法から適宜選択して使用することができる。
【0020】
本発明で使用可能な3次元培養法としては、特に断りの無い限り、公知の方法を使用することができ、当業者であれば、適宜選択して使用することができる。
【0021】
本発明に使用可能な腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法における初代がん細胞の準備工程としては、公知の方法を使用することができる。例えば、がん細胞を含む組織片から細胞を分取する方法や、該組織片をそのまま使用する方法が挙げられるが、取扱いの容易性や試験の再現性等から、細胞を分取する方法が好ましい。
前記がん細胞を含む組織片から細胞を分取する方法としては、例えば、生体から摘出した腫瘍組織片を必要に応じて酵素処理、密度勾配遠心分離処理、フィルター処理、磁気ビーズ、フローサイトメータ一等の処理により分離精製することが挙げられる。酵素処理は、処理方法が簡便で、容易にシングルセルに分散されたがん細胞を得ることができるので好ましい。なお、これらの細胞群は、同じ組織に由来し、分化段階の異なる細胞の集合体であってもよい。
【0022】
本発明で使用可能な3次元培養法としては、前記実質的に低接着性である細胞培養基材上で、5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む培地中で腫瘍組織から得られた初代がん細胞を培養することが挙げられる。該細胞外マトリックス、該培地及び該初代がん細胞は、いずれの順番で混合されてもよいが、該5v/v%以下の細胞外マトリックスをゾル状態で含む培地を調製し、それに該初代がん細胞を混合したものを、該実質的に低接着性である培養プレート上に播種することが挙げられる。細胞外マトリックスが5v/v%以下であれば、該初代がん細胞は、浮遊状態で培養されることになる。
浮遊状態で培養可能なことにより、取扱いが容易となり、各種試験に使用し易くなり、また、機械的な操作が可能となるためハイスループットな試験にも使用し易くなるので好ましい。
【0023】
[0023] 本発明で使用可能な細胞外マトリックスとしては、公知の3次元培養法で使用可能なものが挙げられる。例えば、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミ
ニン、ビトロネクチン、エンタクチン、ゼラチン、エラスチン、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、マトリゲル(商標:コーニング社)、マトリゲルGFR(商標:コーニング社
)、Cultrex BME(商標:TREVIGEN社)、Cultrex RGF BME(商標:TREVIGEN社)、Cellmatrix Type I-A(商標:新田ゼラチン社)が挙げられる。
本発明で使用可能な細胞外マトリックスの濃度としては、腫瘍組織から得られた初代がん細胞が、浮遊状態で3次元培養される濃度であれば良く、5v/v%以下が挙げられ、2.5v/v%以下でもよく、下限は特に制限されないが、好ましくは0.1v/v%以上、更に好ましくは0.2v/v%以上、特に好ましくは0.5v/v%以上が挙げられるが、該初代がん細胞の種類等により、当業者であれば、適宜、設定することができる。
【0024】
本発明で使用可能な播種する細胞密度は、腫瘍組織から得られた初代がん細胞が3次元培養法で作製された細胞塊として正常に生存可能であればよい。該初代がん細胞の細胞密度は通常は3×103~7×104cells/cm2の密度で播種され得るが、培養条件や使用する培養器具などに合わせて、適宜、好ましい細胞密度を設定することができる。また、培養条件としては、公知の条件が使用できるが、例えば、培養温度は20~45℃、30~42℃がより好ましく、35~39℃が特に好ましく、培養液のpHはpH7~8が好ましい。また、培養期間としては、目的とする試験法に応じて、適宜設定することができるが、2日以上30日以下、より好ましくは7日以上14日以下が挙げられ、特に長期間(約10日以上)でも安定して高い状態で維持できるので利用価値が高い。
【0025】
本発明で使用可能な培地としては、任意の細胞培養基本培地や分化培地、初代培養専用培地等を用いることができる。例えば、ダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)やグラスゴーMEM(GMEM)、RPMI1640、ハムF12、無血清培地(MCDB培地等)等が挙げられる。さらに、これらの培地に血清や各種増殖因子(インスリン・トランスフェリン・セレニウム塩、デキサメタゾン)や分化誘導因子を添加した培地を用いることができる。
【0026】
本発明の腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養方法により作製可能な細胞塊は、以下に限定されないが、各種試験法、例えば、該細胞塊に作用を及ぼす物質のスクリーニング方法や、該細胞塊に対する物質の効果の判定方法等に利用することができる。該細胞塊は、各種試験法に利用可能な高い細胞増殖能を有しつつ、且つ、浮遊状態で存在するため、取扱いの容易性や汎用性やハイスループット性を有するため、様々な試験法に利用し易いという利点がある。
【0027】
本発明の該細胞塊に作用を及ぼす物質のスクリーニング方法としては、当業者であれば、公知の方法を適宜変更して実施できる。例えば、本発明に従って、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養方法により細胞塊を作製する工程と、該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、該被験物質による該細胞塊への作用を評価する工程とを含む、該細胞塊に作用を及ぼす物質のスクリーニング方法が挙げられる。前記作用を及ぼす物質としては、該細胞塊に直接的又は間接的、又は、直接的及び間接的に作用を及ぼす物質、例えば、抗がん剤や各種化合物、抗体、抗体薬物複合体、核酸、ペプチド、ウイルス、細胞(NK細胞、TCR-T細胞、CAR-T細胞等)等が挙げられる。例えば、該細胞塊の増殖を抑制可能な物質をスクリーニングすることができるため、抗がん剤の開発に使用することができる。
【0028】
本発明の該細胞塊に対する物質の効果の判定方法としては、当業者であれば、公知の方法を適宜変更して実施できる。例えば、本発明に従って、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養方法により細胞塊を製造する工程と、該細胞塊に対して被験物質を投与する工程と、該被験物質による効果を評価する工程とを含む、該細胞塊に対する物質の効果の判定方法が挙げられる。前記効果を判定するための被験物質としては、例えば、抗がん剤や各種化合物、抗体、抗体薬物複合体、核酸、ペプチド、ウイルス、細胞(NK細胞、TCR-T細胞、CAR-T細胞等)等が挙げられる。例えば、各種抗がん剤の中から、該細胞塊の増殖を抑制することができる抗がん剤を判定することで、その抗がん剤を該細胞塊の由来である患者に投与することで治療効果を高めることができる等、治療法の選択を補助することができる。なお、該細胞塊とその由来の患者の組合せに限定することなく、該細胞塊と同様な種類の細胞が由来される患者に適用することもできる。
【0029】
抗がん剤としては、公知のものが使用することが可能であり、例えば、アクチノマイシンD、メルファラン、ブスルファン、力ルボプラチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、オキサリプラチン、プロ力ルバジン、テモゾロミド、イホスファミド、リポソーマルドキソルビシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトキサン卜ロン、クラドリビン、フルオロウラシル、メル力プ卜プリン、ペメ卜レキサド、メ卜卜レキサー卜、シタラビン、ネララビン、カペシタビン、フルダラビン、ゲムシタビン、ペントスタチン、ピンクリスチン、エリブリン、パクリタキセル、ビンブラスチン、イリノテ力ン、ドセタキセル、エトポシド、ビノレルビン、ノギテ力ン、パクリタキセル、卜レチノイン、ベバシズマブ、卜ラスツズマブ、パニツムマブ、セツキシマブ、イブリツモマブチウキセタン、リツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、エベロリムス、エルロチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、ソラフエ二ブ、ポルテゾミブ、タミバロテン、ニムスチン、ラニムスチン、エノシタビン、力ルモフール、シタラビンオクフォスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルハミド、ソブゾキサン、ビンデシン、アクラルビシン、アムルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ピラルビシン、ペプロマイシン、ネダプラチン等が挙げられる。
【0030】
また、該細胞塊は、前記3次元培養方法で培養終了後、そのままその培養液中で各種試験に使用されてもよいし、別の容器に移されて各種試験に使用されてもよい。別の容器に移す場合には、その回収方法は、公知の方法で行うことができる。これらは、当業者であれば、適宜選択して、実施することができる。また、該細胞塊は浮遊状態で培養されるため、回収が容易であるという利点がある。
【0031】
各種試験法としては、公知の試験法が挙げられるが、例えば、細胞増殖試験(MTTアッセイ、ATPアッセイ等)、生死細胞染色解析、フェノタイプスクリーニング(細胞形態変化の検査等、例えば上皮間葉転換の解析)、病理組織学的解析(HE染色、免疫組織化学染色等)、生化学的解析(遺伝子変異解析、mRNA発現解析、蛋白質発現解析、エクソソーム解析等)等が挙げられる。当業者であれば、前記物質のスクリーニング方法や、前記物質の効果の判定方法等の目的に応じて、試験法を適宜設定して使用することができる。
【0032】
本発明によれば、各種試験法は、一般的な自動分注装置を用いて実施することが可能となり、96ウェルや384ウェルプレートへの細胞の播種や、培地交換、薬液添加、アッセイ試薬添加、その後の発光または蛍光測定装置を用いた電子データの取得、または自動画像解析装置を用いた画像解析電子データの取得等において、容易に、あるいは、ハイスループットに行うことができる。
【0033】
本発明の腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法によって作製された細胞塊が、線維芽細胞等のがん細胞以外の細胞の増殖を抑制しつつ、初代がん細胞を主成分とする細胞塊の高い増殖能を有し、生体を反映して様々な用途に使用できることは、当業者であれば公知の手法を用いて容易に確認することができる。例えば、細胞塊の形成を視覚的に確認したり、細胞の増殖性を評価したり、既知の物質を利用して細胞塊に対する効果を評価したり、動物から得られた細胞塊を再度動物に移植して造腫瘍性があるかを評価したりすることで、生体中の腫瘍と同様な機能を有するか確認することができる。
【0034】
本発明のキットとしては、腫瘍組織を用いた初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊を作製するためのキットであって、実質的に低接着性の細胞培養基材と、5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む3次元培養工程用の培地とを、備えるものが挙げられる。該5v/v%以下の細胞外マトリックスを含む3次元培養工程用の培地は、キットの使用前に用事調製するように細胞外マトリックスと培地が別々に備えられてもよいし、細胞外マトリックスと培地が混合されて備えられていてもよい。また、取扱い説明書等に、キットの使用者が入手できるように、本発明の細胞塊の作製方法に使用可能な、実質的に低接着性の細胞培養基材や細胞外マトリックスや培地を記載することも含まれる。また、細胞培養基材や培地や細胞外マトリックス等の材料、または、キットの使用方法等は、上記の本発明の細胞塊の作製方法に使用可能なものが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0036】
<実施例1:腫瘍組織の採取およびがん細胞の分散処理>
常法に従って免疫不全マウス[スーパーSCIDマウス(系統名:C3H/HeJ/NOs-scid; LPS-nonresponder)]の皮下で増大させたヒトがん患者由来のPatient-Derived Xenograft(以下、「PDX」という)腫瘍を安全キャビネット内で無菌的に摘出し、腫瘍の壊死領域を外科用ハサミで取り除いた。腫瘍を速やかに日本薬局方生理食塩液に浸し、氷上にて保存した。次に、腫瘍から日本薬局方生理食塩液を取り除き、検体処理液(がんオルガノイド培養キット付属品、ORGANOGENIX社)で腫瘍を3回繰り返して洗浄した。
3次元培養のための準備工程として、以下のようにがん細胞の分散処理を行った。洗浄後の腫瘍を氷上の10cmシャーレに取り、外科用ハサミで約1mm角になるまで細切した後、これを50mLチューブに回収した。チューブ内に分散溶液(がんオルガノイド培養キット付属品、ORGANOGENIX社)を添加し、ウォーターバスで振とうさせながら37℃、60min、腫瘍片を酵素処理した。反応液の2倍量の検体処理液を加えて反応を弱め、100μmのセルストレーナーを通し、未分散の残渣を除去した。適量の検体処理液でチューブおよびセルストレーナーを洗い込み、細胞を回収して300×g、5min遠心分離した。上清を除去した後、細胞ペレットに検体処理液を加えて再懸濁し、300×g、5min遠心分離した。その後、細胞ペレットに適量の検体処理液で再懸濁し、細胞数のカウントを行った。シングルセルになっていることを確認し、以下の実験に使用した。
【0037】
<実施例2:3次元培養プレートへの細胞の播種および培養>
まず初めに、初代がん細胞の3次元培養が可能と記載されている、がんオルガノイド培養キット(ORGANOGENIX社)を使用して、PDX腫瘍を用いた3次元培養が可能か検討した。がんオルガノイド培養キットは、がん細胞の細胞塊を形成するために低接着プレートに凹凸の足場構造を持たせたプレートと、1体積%以上の血清を含む培地で培養する方法である。
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、NanoCulture Medium P type(がんオルガノイド培養キット付属品、ORGANOGENIX社)で、細胞数が1×105cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。3次元培養プレートであるNanoCulture Plate(がんオルガノイド培養キット付属品、ORGANOGENIX社)にNanoCulture Medium P typeを150μL添加し、700×g、5min遠心分離した後、37℃、10min静置してプレウェッティングした。プレートに細胞懸濁液を100μL添加し、37℃、5%CO2に設定したCO2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×104cells/250μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、適宜行った。その結果、明瞭な細胞塊は形成されず、紡錘形状の線維芽細胞のプレート底面への接着が認められたことから、膵がん(1)PDX腫瘍に対してORGANOGENIX社のがんオルガノイド培養キットをそのまま適用することは困難であることが判明した。
【0038】
浮遊状態で培養することを達成するため、通常はゲル状で使用する細胞外マトリックスをゾル状の条件で培地に含むように調製し、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、初代がん細胞が細胞塊を形成できるか検討した。
上記と同様に、カウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLを一般的な低接着プレートの3次元培養プレートであるPrimeSurface(住友ベークライト社)、Corning ULA Round-bottom(コーニング社)、Corning ULA Flat-bottom(コーニング社)、Elplasia(クラレ社)、または、一般的な接着性の平面(2次元)培養プレートである96ウェルマイクロプレート(コーニング社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。同様に、NanoCulture Plateへは、1×10
5cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製し、150μLの培地でプレウェッティングしたプレートに細胞懸濁液を100μL添加して播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/well(NanoCulture Plate以外)または1×10
4cells/250μL/well(NanoCulture Plate)であり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、適宜行った。
結果を
図1に示す。位相差顕微鏡で形態を確認し、その形態から細胞塊であるか否か、また、紡錘形状の細胞がプレート底面に認められた場合、線維芽細胞の接着ありと判断した。その結果、一般的な低接着性プレートの3次元培養プレートであるPrimeSurface、Corning ULA Round-bottom、Corning ULA Flat-bottom、Elplasiaでは、いずれにおいても、線維芽細胞のプレート底面への接着は認められず、100μm以上の大きさの初代がん細胞の細胞塊が形成できることが認められた。一方、一般的な接着性の平面培養プレートである96ウェルマイクロプレートや低接着性プレートに細胞塊の形成の足場となる凹凸構造を有するNanoCulture Plateでは、細胞塊の形成は認められたが、線維芽細胞のプレート底面への接着が認められた。以上の結果により、低接着性の培養プレートとゾル状の細胞外マトリックスを含む培地で培養することで、浮遊培養であっても、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、十分な大きさの初代がん細胞の細胞塊を形成できることが示された。
【0039】
<実施例3:培地に添加する細胞外マトリックスの濃度の検討>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が0、0.5、1、2、5、10、20または50v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は実施せず、Day 14に半量培地交換の実施可能性を評価した。結果を
図2に示す。位相差顕微鏡で形態を確認し、CorningマトリゲルGFR濃度が0.5v/v%以上5v/v%以下において、浮遊状態であっても、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、十分な大きさの細胞塊の形成が認められた。また、ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に、十分にゾル状態で無く細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は半量培地交換不可とした。半量培地交換は2v/v%以下の場合に実施可能であり、細胞塊の取り扱いが容易で、各種試験に使用し易いことがわかった。
【0040】
<実施例4:培地に添加する細胞外マトリックスの種類の検討>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が0、0.5、1、2、5、10または20v/v%となるようにCorningマトリゲル(コーニング社)、Cultrex BME(TREVIGEN社)、Cultrex RGF BME(TREVIGEN社)またはCellmatrix Type I-A(新田ゼラチン社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は実施せず、Day 14に半量培地交換の実施可能性を評価した。結果を
図3に示す。位相差顕微鏡または肉眼で形態を確認し、Corningマトリゲル、Cultrex BME、Cultrex RGF BMEまたはCellmatrix Type I-Aのいずれの細胞外マトリックスにおいても、濃度が0.5v/v%以上5v/v%以下において、浮遊状態であっても、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、十分な大きさの細胞塊の形成が認められた。また、ピペッティングでウェル内の半量の培地を吸い取る際に、十分にゾル状態で無く細胞または細胞塊も共に吸い取ってしまう場合は半量培地交換不可とした。半量培地交換は細胞外マトリックスの種類によって異なり、2~5v/v%以下の場合に実施可能であることがわかった。
【0041】
<実施例5:基礎培地の種類の検討>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、基礎培地としてStemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)またはStemFit AK02N(タカラバイオ社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、適宜行った。結果を
図4に示す。位相差顕微鏡で形態を確認し、StemPro hESC SFMまたはStemFit AK02Nのどちらの基礎培地においても、浮遊状態であっても、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、十分な大きさの細胞塊の形成が認められた。
【0042】
<実施例6:PDX腫瘍の種類の検討>
実施例1に従って、各種PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。各種PDX腫瘍としては、膵がん(1)、膵がん(2)、肺扁平上皮がん(1)、肺扁平上皮がん(2)、肺扁平上皮がん(3)、胃がん(1)および大腸がん(1)を用いた。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、適宜行った。結果を
図5に示す。位相差顕微鏡で形態を確認し、いずれのがん種由来、もしくは、いずれの患者由来のPDX腫瘍においても、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の進展増殖が無く、浮遊状態であっても、十分な大きさの細胞塊の形成が認められた。
【0043】
<実施例7:病理組織学的解析>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)に播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、適宜行った。Day 14に細胞塊を1.5mLチューブに回収し、iPGell(ジェノスタッフ社)を用いてゼリー状に固め、10%中性緩衝ホルマリン液で一晩固定処理した。常法に従って、ホルマリン固定後の細胞塊を用いてパラフィン包埋標本を作製し、HE染色および抗ヒトHLA免疫組織化学染色を行った。比較対照として、膵がん(1)PDX腫瘍のホルマリン固定パラフィン包埋標本を作製し、同様にHE染色および抗ヒトHLA免疫組織化学染色を行った。結果を
図6に示す。染色結果から、膵がん(1)PDX腫瘍から作製した細胞塊はヒトがん細胞で構成されていることを確認した。また、膵がん(1)PDX腫瘍と、それから作製した細胞塊は、同様な構造を有していることを確認した。
【0044】
<実施例8:細胞増殖の検討>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)にN=4(同条件を4カ所ずつ)で播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。培地交換は半量での実施とし、Day 1、7、10および12に行った。Day 1、3、7、10および14においてCellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いたATPアッセイを行い、Day 1の結果に対する各測定日の結果の比を算出し、増殖曲線を作成した。結果を
図7に示す。膵がん(1)PDX腫瘍から作製した細胞塊の生細胞数は時間依存的に増加し、Day 1と比べてDay 7では約4倍、Day 14では7倍以上に直線的に増加した。このことから、高い増殖能を有することが示された。
【0045】
<実施例9:抗がん剤感受性試験>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて初代がん細胞を調製した。In vivo抗がん剤感受性試験は、公知の方法を参照し、以下の手順で実施した。免疫不全マウス[スーパーSCIDマウス(系統名:C3H/HeJ/NOs-scid; LPS-nonresponder)]の皮下で増大させた膵がん(1)PDX腫瘍を安全キャビネット内で無菌的に摘出し、腫瘍の壊死領域を外科用ハサミで取り除いた。その後、約2~3mm角の移植腫瘍片を作製し、12匹以上の免疫不全マウスに皮下移植した。平均腫瘍体積が約200mm
3に達した時点で、腫瘍体積による群分けを行い、コントロール群およびゲムシタビン投与群に割り付けた(N=6:同条件を6匹ずつ)。ゲムシタビン(60mg/kg/time)を週2回の頻度で4週間投与した。週2回の頻度で腫瘍径を測定し、腫瘍体積を求め、腫瘍増殖曲線を作成した。結果を
図8左図に示す。
【0046】
In vitro抗がん剤感受性試験は以下の手順で実施した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)にN=4(同条件を4カ所ずつ)で播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。Day 1に半量培地交換を行った。Day 7にゲムシタビンの終濃度が0、0.001、0.01、0.1、1または10μmol/Lとなるようにゲムシタビンを添加した培地を用いて半量培地交換を実施した。Day 10および12にゲムシタビンの終濃度が変わらないように濃度調製した培地を用いて半量培地交換を実施した。Day 14にCellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いたATPアッセイを行い、ゲムシタビン濃度が0μmol/Lの結果を細胞生存率100%とした場合の各ゲムシタビン濃度群の結果の比を算出し、細胞生存率曲線を作成した。結果を
図8右図に示す。
ゲムシタビンはin vivoおよびin vitroのどちらの感受性試験においても膵がん(1)PDX腫瘍の増殖を抑制した。
【0047】
<実施例10:凍結腫瘍組織を用いた検討>
実施例1に従って、膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を摘出した。腫瘍をCELLBANKER 1(タカラバイオ社)に浸漬してプログラムディープフリーザー(ネッパジーン社)で凍結し、凍結腫瘍を調製した。凍結腫瘍を37℃の温浴で融解し、HBSS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)で洗浄後、実施例1に従って、初代がん細胞を調製した。分散処理後にカウントした細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mLとなるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)にN=4(同条件を4カ所ずつ)で播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/wellであり、播種日をDay 0とした。Day 3にゲムシタビンの終濃度が0、0.001、0.01、0.1、1または10μmol/Lとなるようにゲムシタビンを添加した培地を50μLずつ添加した(250μL/well)。Day 0、3および7においてCellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いたATPアッセイを行い、Day 0の結果に対する各測定日の結果の比を算出し、増殖曲線を作成した。ゲムシタビン濃度が0μmol/Lの結果を細胞生存率100%とした場合の各ゲムシタビン濃度群の結果の比を算出し、細胞生存率曲線を作成した。これらの結果を
図9に示す。
一度凍結させた膵がん(1)PDX腫瘍から作製した細胞塊の生細胞数は時間依存的に増加し、Day 0と比べてDay 7では約4倍に増加した。一度凍結させた腫瘍組織を用いても、実施例9と同様に、ゲムシタビンは膵がん(1)PDX腫瘍を由来とする細胞塊の増殖を抑制した。
【0048】
<実施例11:継代培養の検討>
膵がん(1)PDX腫瘍(医薬基盤研より入手)を用いて、実施例1に従って新鮮腫瘍由来の細胞塊を、実施例10に従って凍結腫瘍由来の細胞塊をそれぞれ得た。細胞塊を50mLチューブにそれぞれ回収し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、TrypLE(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に懸濁して、37℃の温浴で細胞塊を酵素処理した。反応液の10倍量のHBSS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を加えて反応を弱め、100μmのセルストレーナーを通し、未分散の残渣を除去した。適量のHBSSでチューブおよびセルストレーナーを洗い込み、細胞を回収して300×g、5min遠心分離した。上清を除去した後、細胞ペレットにHBSSを加えて再懸濁し、300×g、5min遠心分離した。その後、細胞ペレットに適量のHBSSで再懸濁し、細胞数のカウントを行った。シングルセルになっていることを確認し、以下の実験に使用した。
細胞を15mLチューブに必要量分取し、300×g、5min遠心分離して上清を除去した後、StemPro hESC SFM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に終濃度が2v/v%となるようにCorningマトリゲルGFR(コーニング社)を添加した培地を用いて、細胞数が5×10
4cells/mL(新鮮腫瘍由来)または2×10
4cells/mL(凍結腫瘍由来)となるように細胞懸濁液を調製した。その200μLをPrimeSurface(住友ベークライト社)にN=4(同条件を4カ所ずつ)で播種し、37℃、5%CO
2に設定したCO
2インキュベーター内で静置培養を開始した。播種細胞数は1×10
4cells/200μL/well(新鮮腫瘍由来)または4×10
3cells/200μL/well(凍結腫瘍由来)であり、播種日をDay 0とした。Day 3にゲムシタビンの終濃度が0、0.001、0.01、0.1、1または10μmol/Lとなるようにゲムシタビンを添加した培地を50μLずつ添加した(250μL/well)。Day 0、3および7においてCellTiter-Glo 3D Cell Viability Assay(プロメガ社)を用いたATPアッセイを行い、Day 0の結果に対する各測定日の結果の比を算出し、増殖曲線を作成した。ゲムシタビン濃度が0μmol/Lの結果を細胞生存率100%とした場合の各ゲムシタビン濃度群の結果の比を算出し、細胞生存率曲線を作成した。これらの結果を
図10に示す。
膵がん(1)PDX腫瘍を由来とする細胞塊の細胞から再作製された細胞塊(継代培養ともいう)は、新鮮腫瘍由来か凍結腫瘍由来かを問わずに、生細胞数は時間依存的に増加し、Day 0と比べてDay 7では約2倍に増加した。実施例9および実施例10と同様に、ゲムシタビンは膵がん(1)PDX腫瘍を由来とする再作製された細胞塊の増殖を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、ヒト腫瘍組織を出発材料として、線維芽細胞などのがん細胞以外の細胞の増殖を抑制しつつ、初代がん細胞を主成分とする細胞塊の高い増殖能を有し、且つ、取扱いの容易性や汎用性やハイスループット性を兼ね備えた、初代がん細胞の3次元培養法による細胞塊の作製方法を提供することが可能となった。そのため、簡便かつ安価に生体内組織に細胞塊を作製することが可能となり、薬剤スクリーニング、薬剤の薬効評価、薬品の安全性評価、再生医療等に寄与できる。