(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-08-05
(45)【発行日】2025-08-14
(54)【発明の名称】防汚フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/18 20150101AFI20250806BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20250806BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20250806BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20250806BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B1/113
C23C14/34 V
C23C14/08
(21)【出願番号】P 2023218366
(22)【出願日】2023-12-25
【審査請求日】2024-11-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】長命 翔太
【審査官】清水 督史
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-010726(JP,A)
【文献】特開2003-014904(JP,A)
【文献】特開2009-139530(JP,A)
【文献】特開2023-121785(JP,A)
【文献】特開2021-120738(JP,A)
【文献】国際公開第2019/202942(WO,A1)
【文献】特開2014-224979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/18
G02B 1/113
C23C 14/34
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムを基材とするワークフィルムをロールトゥロール方式で搬送しながら、前記ワークフィルムの一方の主面に真空蒸着法により防汚層を形成する、防汚フィルムの製造方法であって、
前記防汚層を形成する前に、フッ素系溶媒を含む防汚剤組成物を、温度150℃以上250℃以下の減圧雰囲気下において脱気する工程Saを備え、
前記防汚剤組成物は、防汚剤としてフッ素含有化合物を含み、
前記工程Saで脱気された前記防汚剤組成物を蒸着材料として、前記防汚層を形成する、防汚フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物は、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物である、請求項
1に記載の防汚フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ワークフィルムは、無機酸化物層を含み、
前記無機酸化物層の一方の主面に前記防汚層を形成する、請求項1に記載の防汚フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記無機酸化物層は、酸化シリコン層を含み、
前記酸化シリコン層の一方の主面に前記防汚層を形成する、請求項
3に記載の防汚フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記防汚層を形成する際の真空度が、9.0×10
-3Pa以下である、請求項1に記載の防汚フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記工程Saにおいて、圧力40Pa以下の前記減圧雰囲気下で脱気する、請求項1に記載の防汚フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程Saの前に、前記防汚剤組成物の周囲の雰囲気を、温度30℃以下で減圧する工程を更に備える、請求項1に記載の防汚フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット端末、スマートフォン等の携帯端末機器の普及に伴い、汚れ等からこれらの機器を保護する要求が増加している。例えば、タッチパネルを備えたディスプレイの表面には、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減しつつ視認性を確保するため、通常、防汚層を備えた防汚フィルムが貼付されている。
【0003】
特許文献1には、防汚フィルムの一例として、反射防止層上に防汚層が設けられた反射防止フィルムが開示されている。特許文献1には、防汚層の形成方法として、フッ素含有珪素化合物(防汚剤)をパーフルオロヘキサンで希釈した防汚剤組成物を使用し、反射防止層上に真空蒸着法により防汚層を成膜する方法が記載されている。また、このような防汚フィルムは、例えば、ロールトゥロール方式でワークフィルムを搬送しながら製造される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-69995号公報
【文献】特開2022-63374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パーフルオロヘキサンのようなフッ素系溶媒を含む防汚剤組成物を使用する場合、通常、防汚剤組成物中のフッ素系溶媒の少なくとも一部を脱気により除去した後、脱気後の防汚剤組成物を蒸着材料として真空蒸着法により防汚層を成膜する。また、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する場合、搬送開始(蒸着開始)から搬送終了(蒸着終了)に至るまでに真空蒸着装置内の蒸着材料が徐々に減少するが、蒸着温度を徐々に上げることによって、蒸着材料の減少に伴う蒸着量の低減を抑制し、防汚層の膜厚を一定に保っている。
【0006】
しかし、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成すると、蒸着温度が比較的低い段階(搬送開始から初期段階)で成膜された防汚層の防汚特性が低下する傾向がある。ロールトゥロール方式の製法で得られた防汚フィルム巻回体において、防汚特性が低下した箇所は、品質管理基準に適合しない場合、廃棄される。このため、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する場合、歩留まりの低下を抑制することが困難である。
【0007】
上記に鑑み、本発明は、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する際の歩留まりの低下を抑制できる防汚フィルムの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0009】
[1]ワークフィルムをロールトゥロール方式で搬送しながら、前記ワークフィルムの一方の主面に真空蒸着法により防汚層を形成する、防汚フィルムの製造方法であって、
前記防汚層を形成する前に、フッ素系溶媒を含む防汚剤組成物を、温度150℃以上250℃以下の減圧雰囲気下において脱気する工程Saを備え、
前記工程Saで脱気された前記防汚剤組成物を蒸着材料として、前記防汚層を形成する、防汚フィルムの製造方法。
【0010】
[2]前記防汚剤組成物は、防汚剤としてフッ素含有化合物を含む、前記[1]に記載の防汚フィルムの製造方法。
【0011】
[3]前記フッ素含有化合物は、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物である、前記[2]に記載の防汚フィルムの製造方法。
【0012】
[4]前記ワークフィルムは、無機酸化物層を含み、
前記無機酸化物層の一方の主面に前記防汚層を形成する、前記[1]~[3]のいずれか一つに記載の防汚フィルムの製造方法。
【0013】
[5]前記無機酸化物層は、酸化シリコン層を含み、
前記酸化シリコン層の一方の主面に前記防汚層を形成する、前記[4]に記載の防汚フィルムの製造方法。
【0014】
[6]前記防汚層を形成する際の真空度が、9.0×10-3Pa以下である、前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の防汚フィルムの製造方法。
【0015】
[7]前記工程Saにおいて、圧力40Pa以下の前記減圧雰囲気下で脱気する、前記[1]~[6]のいずれか一つに記載の防汚フィルムの製造方法。
【0016】
[8]前記工程Saの前に、前記防汚剤組成物の周囲の雰囲気を、温度30℃以下で減圧する工程を更に備える、前記[1]~[7]のいずれか一つに記載の防汚フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する際の歩留まりの低下を抑制できる防汚フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る防汚フィルムの製造方法において使用可能な真空蒸着装置の一例を示す構成図である。
【
図2】本発明に係る防汚フィルムの製造方法において使用可能なワークフィルムの一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の製造方法で得られる防汚フィルムの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0020】
まず、本明細書中で使用される用語について説明する。「屈折率」は、温度23℃の雰囲気下における波長550nmの光に対する屈折率である。「ワークフィルム」とは、防汚層が形成される直前の層構成を有するフィルムをさす。層状物(より具体的には、ワークフィルム、透明フィルム基材、ハードコート層、プライマー層、反射防止層、防汚層等)の「主面」とは、層状物の厚み方向に直交する面をさす。防汚フィルムを構成する各層の「厚み(膜厚)」の数値は、何ら規定していなければ、層を厚み方向に切断した断面の画像から無作為に測定箇所を10箇所選択し、選択した10箇所の測定箇所の厚みを測定して得られた10個の測定値の算術平均値である。「真空度」とは、理想的な真空(圧力:0Pa)にどの程度接近しているかを示す目安であり、残留気体の圧力で表される。
【0021】
粒子の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトウェア(例えば、アメリカ国立衛生研究所製「ImageJ」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。
【0022】
「固形分」とは、組成物中の不揮発成分であり、例えば、溶媒以外の成分である。
【0023】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、何ら規定していなければ、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリレート及びメタクリレートを包括的に「(メタ)アクリレート」と総称する場合がある。
【0024】
本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0026】
<防汚フィルムの製造方法>
本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法は、ワークフィルムをロールトゥロール方式で搬送しながら、ワークフィルムの一方の主面に真空蒸着法により防汚層を形成する工程(以下、「蒸着工程」と記載することがある)を備える。また、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法は、蒸着工程の前に、フッ素系溶媒を含む防汚剤組成物を、温度150℃以上250℃以下の減圧雰囲気下において脱気する工程Saを更に備える。以下、工程Saを、「脱気工程」と記載することがある。また、本実施形態では、蒸着工程において、脱気工程で脱気された防汚剤組成物を蒸着材料として、防汚層を形成する。
【0027】
本実施形態に係る製造方法で得られる防汚フィルムとしては、例えば、防汚層を備える反射防止フィルム、防汚層を備えるガスバリアフィルム、防汚層を備える透明導電性フィルム等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法によれば、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する際の歩留まりの低下を抑制できる。その理由は、以下のように推測される。
【0029】
一般的なロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成すると、上述したように、蒸着温度が比較的低い段階(搬送開始から初期段階)で成膜された防汚層の防汚特性(より具体的には、防汚性、耐摺動性、耐擦傷性等)が低下する傾向がある。防汚特性の低下は、蒸着材料中に残留するフッ素系溶媒及びフッ素系溶媒由来の不純物(以下、これらをまとめて「残留成分」と記載することがある)が、成膜される防汚層中に取り込まれることに起因するものと考えられる。つまり、蒸着温度が比較的低い段階では、蒸着材料中に残留成分が比較的多く残存しているため、蒸着温度が比較的低い段階で成膜された防汚層中の残留成分の量は、比較的多くなる傾向がある。このため、蒸着温度が比較的低い段階で成膜された防汚層は、残留成分の影響により、防汚特性が低下する傾向がある。
【0030】
これに対し、本実施形態では、蒸着工程の前に、フッ素系溶媒を含む防汚剤組成物を温度150℃以上の減圧雰囲気下において脱気する、脱気工程を実施するため、残留成分を十分に除去できる。また、脱気工程の加熱温度の上限を250℃に設定しているため、脱気工程において、防汚剤組成物中の有効成分(防汚剤)が除去されることを抑制できる。これらのことから、本実施形態では、蒸着温度が比較的低い段階で形成される防汚層についても、防汚特性を確保できる。よって、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法によれば、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する際の歩留まりの低下を抑制できる。
【0031】
本実施形態の脱気工程において、防汚剤組成物中の有効成分の除去量をより低減するためには、脱気工程の加熱温度(脱気温度)が、240℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましく、220℃以下であることが更に好ましく、210℃以下、200℃以下、190℃以下、180℃以下、170℃以下又は160℃以下であってもよい。
【0032】
本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法は、脱気工程及び蒸着工程以外の工程(他の工程)を備えていてもよい。他の工程としては、例えば、後述する「排気工程」及び「防汚剤の余剰分の除去工程」が挙げられる。以下、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法の一例について、適宜図面を参照しつつ説明する。参照する
図1は、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法において使用可能な真空蒸着装置の一例を示す構成図である。
【0033】
[真空蒸着装置]
図1に示す真空蒸着装置は、ロールトゥロール方式の真空蒸着装置であり、チャンバー10と、チャンバー10内に配置された、ガイドロール11、成膜ロール12、ガイドロール13及びルツボ14とを備える。ルツボ14は、成膜ロール12の鉛直方向の下方に設けられている。ルツボ14内には、防汚剤組成物15が配置される。
【0034】
ワークフィルム20に防汚層を形成する際は、成膜ロール12が駆動部(不図示)により反時計回りに回転することによって、ワークフィルム20がガイドロール11に案内されて成膜ロール12まで搬送される。そして、ワークフィルム20の成膜ロール12側とは反対側の主面20aに防汚層が形成された後、防汚層形成後のワークフィルム20がガイドロール13に案内されてチャンバー10の外部へ搬送される。ワークフィルム20の例については後述する。
【0035】
防汚剤組成物15は、有効成分(防汚剤)と、フッ素系溶媒とを含む。防汚性を高めるためには、防汚剤としてはフッ素含有化合物が好ましい。防汚剤がフッ素含有化合物である場合、防汚剤組成物15において、フッ素系溶媒が防汚剤の分解を抑制する役割を果たす。フッ素含有化合物の中でも、撥水性に優れ、高い防汚性を発揮できることから、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物としては、例えば、炭素原子数1以上4以下の直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキレンオキシド単位を複数有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。炭素原子数1以上4以下の直鎖状又は分枝鎖状のパーフルオロアルキレンオキシド単位としては、例えば、パーフルオロメチレンオキシド単位(-CF2O-)、パーフルオロエチレンオキシド単位(-CF2CF2O-)、パーフルオロプロピレンオキシド単位(-CF2CF2CF2O-)、パーフルオロイソプロピレンオキシド単位(-CF(CF3)CF2O-)等が挙げられる。
【0036】
防汚剤組成物15に含まれるフッ素系溶媒としては、例えば、パーフルオロアルカン(より具体的には、パーフルオロヘキサン等)、ハイドロフルオロエーテル等が挙げられる。ハイドロフルオロエーテルとしては、例えば、C4F9OCH3、C4F9OC2H5、C6F13OCH3、C3HF6-CH(CH3)O-C3HF6等が挙げられる。
【0037】
後述する排気工程を実施する前の防汚剤組成物15における有効成分(防汚剤)の含有率は、防汚剤組成物15の全量に対して、例えば、5重量%以上80重量%以下であり、好ましくは10重量%以上50重量%以下である。
【0038】
以上、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法において使用可能な真空蒸着装置の一例について説明したが、本発明で使用可能な真空蒸着装置は、
図1に示す真空蒸着装置に限定されない。本発明では、例えば特開2022-63374号公報に記載の真空蒸着装置を使用してもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法の一例が備える各工程について説明する。なお、以下の例において、排気工程及び脱気工程は、ワークフィルム20を搬送せずに実施される。
【0040】
[排気工程]
排気工程は、防汚剤組成物15の周囲の雰囲気(チャンバー10内の雰囲気)を温度30℃以下で減圧する工程であり、この工程により、チャンバー10内の気体がチャンバー10外へ排気される。排気工程は、脱気工程の前に実施される。排気工程により、チャンバー10内の雰囲気から水蒸気等を除去できるため、有効成分(例えば、フッ素含有化合物)の水分による分解を抑制することができる。
【0041】
有効成分の分解をより抑制するためには、排気工程におけるチャンバー10内の雰囲気温度としては、25℃以下が好ましい。排気工程におけるチャンバー10内の雰囲気温度の下限は、特に限定されないが、例えば10℃以上である。
【0042】
排気工程の減圧条件は、チャンバー10内の雰囲気から水蒸気等を除去できる条件である限り、特に限定されないが、水蒸気等を効果的に除去するためには、チャンバー10内の雰囲気を、圧力40Pa以下の条件で減圧することが好ましく、圧力35Pa以下の条件で減圧することがより好ましい。また、排気工程において、減圧時間(常圧から所定の減圧条件まで減圧する時間)を短縮することにより生産性を高めるためには、チャンバー10内の雰囲気を、圧力20Pa以上の条件で減圧することが好ましく、圧力25Pa以上の条件で減圧することがより好ましい。なお、排気工程は、例えば、チャンバー10内の圧力を連続的又は段階的に下げながら実施される。
【0043】
[脱気工程]
脱気工程は、ルツボ14内の防汚剤組成物15を、温度150℃以上250℃以下の減圧雰囲気下において脱気する工程である。脱気工程の減圧条件は、防汚剤組成物15中の残留成分を除去できる条件である限り、特に限定されないが、残留成分を効果的に除去するためには、チャンバー10内の雰囲気を、圧力40Pa以下の条件で減圧することが好ましく、圧力30Pa以下の条件で減圧することがより好ましい。また、脱気工程において、減圧時間(所定の減圧条件まで減圧する時間)を短縮することにより生産性を高めるためには、チャンバー10内の雰囲気を、圧力5Pa以上の条件で減圧することが好ましい。なお、脱気工程は、チャンバー10内の圧力を連続的又は段階的に下げながら実施してもよく、チャンバー10内の圧力を一定の減圧条件に維持した状態で実施してもよい。
【0044】
防汚剤組成物15中の残留成分を効果的に除去しつつ生産性を高めるためには、脱気工程における脱気時間は、100分以上500分以下であることが好ましい。なお、チャンバー10内の圧力を連続的又は段階的に下げながら脱気工程を実施する場合、脱気時間は、ルツボ14内の温度が所定温度(150℃以上250℃以下)に到達した後からチャンバー10内の圧力が所定の目標圧力に到達するまでの時間である。
【0045】
[蒸着工程]
蒸着工程では、ワークフィルム20をロールトゥロール方式で搬送しながら、ワークフィルム20の成膜ロール12側とは反対側の主面20aに、真空蒸着法により防汚層を形成する。詳しくは、脱気工程において脱気された防汚剤組成物15の固化物を蒸着材料として使用し、ワークフィルム20の主面20a上に、蒸気化された蒸着材料(防汚剤)を蒸着させて、主面20a上に防汚層を蒸着膜として形成する。
【0046】
防汚特性に優れる防汚層を形成するためには、蒸着工程におけるチャンバー10内の真空度は、9.0×10-3Pa以下であることが好ましく、8.0×10-3Pa以下であることがより好ましい。蒸着工程におけるチャンバー10内の真空度の下限は、特に限定されないが、製造コスト低減の観点から、1.0×10-3Pa以上であることが好ましい。また、防汚特性に優れる防汚層を形成するためには、蒸着工程におけるチャンバー10内の水分圧が、1Pa以下であることが好ましい。
【0047】
蒸着工程におけるルツボ14内の加熱温度(蒸着温度)は、蒸着材料の種類に応じて適宜設定することができる。なお、ロールトゥロール方式の真空蒸着法で防汚層を連続的に形成する場合、搬送開始(蒸着開始)から搬送終了(蒸着終了)に至るまでにルツボ14内の蒸着材料が徐々に減少するため、蒸着材料が昇華しにくくなる。よって、連続的に形成される防汚層の厚みを一定に保つためには、蒸着工程において、搬送開始から搬送終了に至るまで蒸着温度を徐々に上げて、蒸着材料の昇華を促進させることが好ましい。
【0048】
[防汚剤の余剰分の除去工程]
防汚剤の余剰分の除去工程は、ワークフィルム20に防汚層を形成した後、防汚層の表層に存在する防汚剤の余剰分(例えば、未定着の防汚剤)を除去する工程である。防汚剤の余剰分を除去することにより、防汚剤の余剰分に起因するフィルムの外観不良(例えば、白濁等)を抑制できる。防汚剤の余剰分の除去方法としては、例えば、形成された防汚層上に、保護フィルムの粘着面を貼り合わせた後、防汚層から保護フィルムをはく離することにより粘着面に上記余剰分を付着させて、防汚層から上記余剰分を除去する方法を採用できる。
【0049】
[ワークフィルム]
次に、ワークフィルム20の一例について説明する。本実施形態において、防汚層を備える反射防止フィルムを製造する場合、ワークフィルム20としては、反射防止層を備えるフィルムが使用される。また、本実施形態において防汚層を備えるガスバリアフィルムを製造する場合、ワークフィルム20としては、ガスバリア層を備えるフィルムが使用される。また、本実施形態において防汚層を備える透明導電性フィルムを製造する場合、ワークフィルム20としては、透明導電層を備えるフィルムが使用される。反射防止層、ガスバリア層及び透明導電層としては、いずれも無機酸化物層が好ましい。つまり、ワークフィルム20としては、無機酸化物層を備えるワークフィルムが好ましい。ワークフィルム20として無機酸化物層を備えるワークフィルムを使用する場合、防汚層は、例えば、上記無機酸化物層の一方の主面に形成される。この場合、得られる防汚フィルムにおいて、防汚層と無機酸化物層とは接している。
【0050】
以下、ワークフィルム20の一例として、反射防止層を備えるフィルムについて説明する。
図2は、反射防止層を備えるワークフィルム20の断面図である。
図2に示すワークフィルム20は、透明フィルム基材101、ハードコート層102、プライマー層103及び反射防止層104をこの順に有する積層体である。
図2に示すワークフィルム20を用いて、上述した蒸着工程においてワークフィルム20の主面20a(反射防止層104の主面)に防汚層105(
図3参照)を形成することにより、
図3に示す防汚フィルム100(防汚層105を備える反射防止フィルム)が得られる。
【0051】
図3に示す防汚フィルム100では、防汚層105は、防汚フィルム100の最表層である。最表層として防汚層105が設けられることにより、例えば、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減できるとともに、防汚フィルム100の表面に付着した汚染物質の除去が容易となる。
【0052】
反射防止層104は、プライマー層103側から、高屈折率層106、低屈折率層107、高屈折率層108及び低屈折率層109の4層をこの順に有する。高屈折率層及び低屈折率層の詳細については、後述する。なお、反射防止層は、反射防止層104のような4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、又は6層以上の積層構成であってもよい。また、反射防止層は、単層構成であってもよい。反射防止層は、好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層との交互積層体である。
【0053】
反射防止層104の主面20a側の表層である低屈折率層109としては、酸化シリコン層が好ましい。酸化シリコン層は、防汚層105との屈折率差が比較的小さいため、酸化シリコン層上に防汚層105を設けても、反射防止層104の反射防止性能の低下を抑制できる。なお、低屈折率層109が酸化シリコン層である場合、上述した蒸着工程において、上記酸化シリコン層の一方の主面(主面20a)に防汚層105が形成される。
【0054】
[防汚フィルムの要素]
次に、防汚フィルム(詳しくは、防汚層を備える反射防止フィルム)の要素について説明する。
【0055】
(透明フィルム基材)
透明フィルム基材は、例えば可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。透明フィルム基材を構成する材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアリレート樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。セルロース樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)が挙げられる。これらの材料は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。透明フィルム基材の材料としては、透明性及び強度の観点から、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びセルロース樹脂からなる群より選択される一種が好ましく、PET、COP、及びTACからなる群より選択される一種がより好ましく、PETが更に好ましい。つまり、透明フィルム基材としては、ポリエステル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム、及びセルロース樹脂フィルムからなる群より選択される一種のフィルムが好ましく、PETフィルム、COPフィルム、及びTACフィルムからなる群より選択される一種のフィルムがより好ましく、PETフィルムが更に好ましい。
【0056】
透明フィルム基材の厚みは、強度の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上である。透明フィルム基材の厚みは、取扱い性の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0057】
透明フィルム基材の一方の主面又は両主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0058】
透明フィルム基材の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、防汚フィルムの透明性を向上させる観点から、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上100%以下である。
【0059】
(ハードコート層)
ハードコート層は、ワークフィルムの硬度や弾性率等の機械的特性を高める層である。ハードコート層は、例えば、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)の硬化物からなる。ハードコート層の形成方法としては、例えば、透明フィルム基材上に硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)を塗布し、必要に応じて溶媒の除去及び樹脂の硬化を行う方法を採用できる。硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。これらの硬化性樹脂は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。ハードコート層の硬度を高める観点から、硬化性樹脂としては、アクリル樹脂及びウレタンアクリレート系樹脂からなる群より選択される一種以上が好ましく、ウレタンアクリレート系樹脂がより好ましい。
【0060】
また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、及び熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。ワークフィルムの生産性向上の観点から、硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化型の樹脂組成物が好ましい。紫外線硬化型の樹脂組成物には、紫外線硬化型モノマー、紫外線硬化型オリゴマー及び紫外線硬化型ポリマーからなる群より選択される一種以上が含まれる。紫外線硬化型の樹脂組成物の具体例としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0061】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm以上の粒子(以下、「マイクロ粒子」と記載することがある)を含有してもよい。つまり、ハードコート層は、マイクロ粒子を含有してもよい。硬化性樹脂組成物にマイクロ粒子を配合することにより、ハードコート層における、硬さの調整、表面粗さの調整、屈折率の調整及び防眩性の調整が可能となる。マイクロ粒子としては、例えば、金属(又は半金属)の酸化物粒子、ガラス粒子、及び有機粒子が挙げられる。金属(又は半金属)の酸化物粒子の材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、及び酸化アンチモンが挙げられる。有機粒子の材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、(メタ)アクリレート系化合物-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリメチルシルセスキオキサン及びポリカーボネートが挙げられる。
【0062】
ハードコート層の防眩性を容易に調整するためには、マイクロ粒子の個数平均一次粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上4.0μm以下であることがより好ましい。
【0063】
ハードコート層の防眩性を容易に調整するためには、ハードコート層におけるマイクロ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ハードコート層におけるマイクロ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0064】
また、硬化性樹脂組成物は、個数平均一次粒子径が0.5μm未満の粒子(以下、「ナノ粒子」と記載することがある)を含んでいてもよい。ハードコート層がナノ粒子を含む硬化性樹脂組成物の硬化物からなる場合、ハードコート層の表面に、微細な凹凸が形成され、ハードコート層と、その上に形成される層との密着性が向上する傾向がある。
【0065】
密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の個数平均一次粒子径は、20nm以上80nm以下であることが好ましく、25nm以上70nm以下であることがより好ましく、30nm以上60nm以下であることが更に好ましい。
【0066】
ナノ粒子の材料としては、無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化シリコン(シリカ)、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化マグネシウム等の金属(又は半金属)の酸化物が挙げられる。無機酸化物は、複数種の(半)金属の複合酸化物でもよい。例示の無機酸化物の中でも、密着性向上効果が高いことから、酸化シリコンが好ましい。つまり、ナノ粒子としては、酸化シリコンの粒子(シリカ粒子)が好ましい。ナノ粒子としての無機酸化物粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0067】
ハードコート層におけるナノ粒子の量は、硬化性樹脂100重量部に対して、5重量部以上であることが好ましく、10重量部以上、20重量部以上又は30重量部以上であってもよい。ナノ粒子の量が5重量部以上であれば、ハードコート層上に形成される層との密着性をより向上させることができる。ハードコート層におけるナノ粒子の量の上限は、硬化性樹脂100重量部に対して、例えば90重量部であり、80重量部であることが好ましく、70重量部であってもよい。
【0068】
硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、例えば、上述した硬化性樹脂、及び重合開始剤(例えば光重合開始剤)を含み、必要に応じてこれらの成分を溶解又は分散可能な溶媒を含む。また、硬化性樹脂組成物(ハードコート層形成用組成物)は、上記成分の他に、マイクロ粒子、ナノ粒子、レベリング剤、粘度調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0069】
ハードコート層の厚みは、ハードコート層の硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。ハードコート層の厚みは、防汚フィルムの柔軟性確保の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下、更により好ましくは30μm以下である。
【0070】
ハードコート層の透明フィルム基材側とは反対側の主面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、及びカップリング剤処理が挙げられる。
【0071】
(プライマー層)
ハードコート層と反射防止層との密着性を高めるためには、ハードコート層と反射防止層との間にプライマー層が設けられることが好ましい。プライマー層の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属(又は半金属);これらの金属(又は半金属)の合金;これらの金属(又は半金属)の酸化物、フッ化物、硫化物又は窒化物等が挙げられる。プライマー層を構成する酸化物は、酸化インジウムスズ(ITO)等の複合酸化物でもよい。中でも、プライマー層の材料としては、無機酸化物が好ましく、酸化シリコン、酸化インジウム又はITOがより好ましく、ITOが更に好ましい。
【0072】
ハードコート層と反射防止層との密着性を高めつつ、プライマー層の光透過性を確保するためには、プライマー層の厚みは、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、0.5nm以上10nm以下であることがより好ましく、1.0nm以上10nm以下であることが更に好ましい。
【0073】
プライマー層の形成方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。また、生産性を高める観点から、プライマー層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0074】
ロールトゥロール方式のスパッタ法では、長尺のフィルム(例えば、ハードコート層が形成された透明フィルム基材)を長手方向(MD方向)に搬送しながら、例えば、プライマー層及び反射防止層を連続成膜できる。スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、及び必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら成膜が行われる。プライマー層として酸化物層を成膜する場合、スパッタ法による酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタのいずれでも実施できる。スパッタ法を実施するための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、RF電源、及び、MFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が挙げられる。
【0075】
(反射防止層)
反射防止層は、屈折率の異なる2層以上の薄膜からなることが好ましい。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。反射防止層を、屈折率の異なる2層以上の薄膜の多層積層体とすることにより、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0076】
反射防止層を構成する薄膜の材料としては、金属(又は半金属)の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体である。
【0077】
高屈折率層は、屈折率が、例えば1.9以上であり、好ましくは2.0以上である。高屈折率層の材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ(Nb2O5等)、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、ITO、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタン及び酸化ニオブからなる群より選択される一種以上が好ましい。低屈折率層は、屈折率が、例えば1.6以下であり、好ましくは1.5以下である。低屈折率層の材料としては、酸化シリコン(SiO2等)、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6超1.9未満の中屈折率層が設けられてもよい。
【0078】
高屈折率層及び低屈折率層の膜厚は、それぞれ、5nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚を設計すればよい。
【0079】
反射防止層が、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と、低屈折率層としての酸化シリコン薄膜とを交互に積層させた、4層の交互積層体である場合、反射防止層の構成としては、ハードコート層側から、厚み5nm以上20nm以下の酸化ニオブ薄膜、厚み10nm以上40nm以下の酸化シリコン薄膜、厚み65nm以上120nm以下の酸化ニオブ薄膜、及び厚み60nm以上100nm以下の酸化シリコン薄膜をこの順に備える構成が挙げられる。
【0080】
耐屈曲性に優れる防汚フィルムを得るためには、反射防止層の厚みは、140nm以上280nm以下であることが好ましく、170nm以上280nm以下であることがより好ましく、180nm以上260nm以下であることが更に好ましく、190nm以上250nm以下であることが更により好ましい。なお、本明細書において、「反射防止層の厚み」は、反射防止層を構成する各層の厚みの合計(合計厚み)である。
【0081】
反射防止層の形成方法は、特に限定されず、ウェットコーティング法及びドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着法、CVD法、スパッタ法等のドライコーティング法が好ましい。また、生産性を高める観点から、反射防止層の成膜方法としては、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いて成膜する方法(ロールトゥロール方式のスパッタ法)が好ましい。
【0082】
反射防止層として酸化物層を成膜する場合、スパッタ法による酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、及び金属(又は半金属)ターゲットを用いる反応性スパッタのいずれでも実施できる。スパッタ法を実施するための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、RF電源、及び、MFAC電源(周波数帯が数kHz~数MHzのAC電源)が挙げられる。
【0083】
(防汚層)
防汚層の厚みは、例えば、2nm以上50nm以下である。防汚層の厚みが大きいほど、防汚性が向上する傾向がある。防汚層の厚みは、5nm以上であることが好ましく、6nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることが更に好ましい。一方、外光の映り込みを抑制するためには、防汚層の厚みは、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることが更に好ましい。なお、本明細書において、「防汚層の厚み」は、真空蒸着装置内に設置した水晶振動子型膜厚モニタで測定される厚み、又は配管内気圧センサによる膜厚モニタで測定される厚みである。
【0084】
外光の映り込みを抑制するためには、防汚層の反射防止層側とは反対側の主面(以下、単に「防汚層表面」と記載することがある)の最大高さRzは、0.40μm以上であることが好ましく、0.45μm以上であることがより好ましく、0.50μm以上であることが更に好ましい。放電痕の発生を抑制するためには、防汚層表面の最大高さRzは、1.50μm以下であることが好ましく、1.40μm以下であることがより好ましく、1.30μm以下であることが更に好ましく、1.20μm以下であることが更により好ましい。なお、「放電痕」とは、防汚層表面と、帯電した使用者の手指等との間で発生する静電気放電に起因する欠陥をさす。
【0085】
以上、本実施形態の製造方法で得られる防汚フィルムの一例について説明したが、本実施形態の製造方法で得られる防汚フィルムは、上記例には限定されない。例えば、本実施形態の製造方法で得られる防汚フィルムは、無機酸化物層を含まない防汚フィルムであってもよい。
【0086】
[防汚フィルムの製造方法の好ましい態様]
生産性を高めつつ、防汚層を形成する際の歩留まりの低下を更に抑制するためには、本実施形態に係る防汚フィルムの製造方法は、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましい。
条件1:脱気工程において、防汚剤組成物の周囲の雰囲気を、圧力5Pa以上40Pa以下の条件で減圧する。
条件2:上記条件1を満たし、かつ脱気工程の前に排気工程を更に備える。
条件3:上記条件2を満たし、かつ排気工程において、防汚剤組成物の周囲の雰囲気を、圧力20Pa以上40Pa以下の条件で減圧する。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
<実施例1の防汚フィルムの作製>
[ハードコート層形成工程]
ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂の溶液(DIC社製「ユニディック17-806」、固形分濃度:80重量%)100重量部(固形分換算)と、光重合開始剤(BASF社製「IRGACURE906」)5重量部と、レベリング剤(DIC社製「GRANDIC PC4100」)0.01重量部とを混合した。得られた混合物を、シクロペンタノン(CPN)及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)の混合溶媒(重量比:CPN/PGM=45/55)で希釈して、固形分濃度36重量%のハードコート層形成用組成物を調製した。次いで、透明フィルム基材としてのPETフィルム(厚み:50μm)の一方の主面に、上記ハードコート層形成用組成物を塗布し、塗膜を形成した。次に、この塗膜を、温度90℃で60秒間加熱することにより乾燥させた後、紫外線照射により硬化させた。紫外線照射する際は、光源として高圧水銀ランプを使用し、波長365nmの紫外線を用い、積算光量を300mJ/cm2とした。これにより、PETフィルム上に厚み5μmのハードコート層を形成した。
【0089】
[ハードコート層の表面処理工程]
次いで、ロールトゥロール方式のプラズマ処理装置により、圧力1.0Paの真空雰囲気下、ハードコート層が形成されたPETフィルムを搬送しながら、ハードコート層の表面をプラズマ処理した。プラズマ処理する際は、不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、放電電力を780Wとした。これにより、PETフィルムと、プラズマ処理されたハードコート層とを備える積層体(以下、「光学フィルムF1」と記載することがある)を得た。
【0090】
[プライマー層形成工程]
上記手順で得られた光学フィルムF1を、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、成膜室内を1×10-4Paまで減圧した。次いで、光学フィルムF1を搬送しながら、反応性スパッタ法により、ハードコート層の一方の主面に、プライマー層として厚み1.5nmのITO層を形成(成膜)した。プライマー層の形成には、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを90:10の重量比で含有するITOターゲットを用いた。また、反応性スパッタ法により成膜する際は、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とし、不活性ガスとしてのアルゴンガス100体積部と、酸素ガス10体積部とを用い、放電電圧を400Vとし、成膜室内の圧力を0.2Paとした。
【0091】
[反射防止層形成工程]
プライマー層の形成に続いて、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を用いてプライマー層形成後の光学フィルムF1を搬送しながら、反応性スパッタ法により、プライマー層の一方の主面に、第1層:厚み12nmの酸化ニオブ層(屈折率:2.33)、第2層:厚み28nmの酸化シリコン層(屈折率:1.46)、第3層:厚み100nmの酸化ニオブ層、及び第4層:厚み85nmの酸化シリコン層をこの順に成膜した。これにより、プライマー層の一方の主面に、4層構成(第1層、第2層、第3層及び第4層からなる4層構成)の反射防止層を形成し、PETフィルム、ハードコート層、プライマー層及び反射防止層をこの順に有するワークフィルムを得た。なお、第1層~第4層の各層の成膜では、いずれも、電源をMFAC電源(周波数:40kHz)とした。また、第1層の成膜では、Nbターゲットを用い、100体積部のアルゴンガス及び5体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を415Vとし、成膜室内の圧力を0.42Paとした。第2層の成膜では、Siターゲットを用い、100体積部のアルゴンガス及び30体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を350Vとし、成膜室内の圧力を0.3Paとした。第3層の成膜では、Nbターゲットを用い、100体積部のアルゴンガス及び13体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を460Vとし、成膜室内の圧力を0.5Paとした。第4層の成膜では、Siターゲットを用い、100体積部のアルゴンガス及び30体積部の酸素ガスを用い、放電電圧を340Vとし、成膜室内の圧力を0.25Paとした。
【0092】
次いで、以下に示す、排気工程、脱気工程及び蒸着工程をこの順に行い、反射防止層の表面に防汚層を形成した。
【0093】
[排気工程]
まず、防汚剤組成物として、コーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」、有効成分濃度:20重量%)を準備した。使用したコーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」)の有効成分(防汚剤)は、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するアルコキシシラン化合物(フッ素含有化合物)であった。また、使用したコーティング剤(信越化学工業社製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903-1」)に含まれる溶媒は、ハイドロフルオロエーテルであった。このコーティング剤500gを、ロールトゥロール方式の真空蒸着装置のチャンバー内に配置されたルツボに投入した。次いで、チャンバー内の雰囲気を、温度23℃に維持しつつ、真空ポンプにより常圧から圧力30Paに到達するまで減圧し、チャンバー内を排気した。
【0094】
[脱気工程]
次いで、上記ルツボに備えられた加熱機構を作動させ、ルツボ内の温度を150℃まで上げるとともに、真空ポンプによりチャンバー内の雰囲気を減圧した。そして、チャンバー内の圧力が30Paに到達した段階で脱気工程を完了した。なお、脱気時間(ルツボ内の温度が150℃に到達した後からチャンバー内の圧力が30Paに到達するまでの時間)は、480分であった。
【0095】
[蒸着工程]
次いで、上記ロールトゥロール方式の真空蒸着装置を用いて、上記ワークフィルムを搬送しながら、上記ワークフィルムの反射防止層の表面(詳しくは、反射防止層のプライマー層側とは反対側の主面)に、真空蒸着法により厚み12nmの防汚層を形成した。詳しくは、チャンバー内の真空度を8.0×10-3Paとし、ルツボ内の温度を195℃まで上昇させた後、ワークフィルムの搬送を開始し、ルツボ内において脱気されたコーティング剤の固化物を蒸着材料として使用し、ワークフィルムの反射防止層の表面に防汚層を連続的に形成した。上記防汚層を連続的に形成する際、防汚層の厚みが目標厚み(12nm)を維持できるように、ルツボ内の加熱温度(蒸着温度)をPID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)した。蒸着温度は、ワークフィルムの搬送開始から終了に至るまで徐々に上昇し、搬送終了時(蒸着工程の終了時)における蒸着温度は300℃であった。
【0096】
[防汚剤の余剰分の除去工程]
次いで、形成された防汚層上に、保護フィルム(日東電工社製「RP300C」)を貼り合わせた後、24時間放置した。そして、防汚層から保護フィルムをはく離することにより、防汚層の表層に存在するフッ素含有化合物の余剰分を除去した。以上の手順により、実施例1の防汚フィルム(長さ1000mかつ幅1330mmの反射防止フィルムの巻回体)を得た。
【0097】
<比較例1の防汚フィルムの作製>
脱気工程において、ルツボ内の加熱温度を100℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ作製方法により、比較例1の防汚フィルムを得た。
【0098】
<評価方法>
以下、実施例1及び比較例1の防汚フィルムの評価方法について説明する。なお、いずれの評価項目についても、各防汚フィルムにおいて、蒸着温度が195℃、200℃、205℃、210℃、250℃及び300℃の際に防汚層が形成された箇所(各防汚フィルムにつき合計6箇所)をサンプリングし、評価用試料として用いた。
【0099】
[水接触角]
接触角測定装置(協和界面科学社製「DMo-501」)を用いて、評価用試料の防汚層表面(防汚層の反射防止層側とは反対側の主面)に1μLの水を滴下し、滴下から2秒後に防汚層表面と液滴端部の接線との角度を測定した。水接触角が110°以上であった場合、「防汚性に優れている」と評価した。一方、水接触角が110°未満であった場合、「防汚性に優れていない」と評価した。
【0100】
[耐摺動性]
評価用試料の防汚層表面に対して、以下の条件で消しゴム摺動試験を実施し、その後に、防汚層表面の水接触角を、上記[水接触角]の項で説明した方法で測定した。消しゴム摺動試験では、Minoan社製の消しゴム(6mmφ)を使用し、防汚層表面に対する消しゴムの荷重を1kg/6mmφとし、防汚層表面上の消しゴムの摺動距離(往復動における片道)を20mmとし、消しゴムの摺動速度を40往復/分とし、防汚層表面に対して消しゴムを往復動させる回数を3000往復とした。消しゴム摺動試験後の水接触角が100°以上であった場合、A(耐摺動性に優れている)と評価した。一方、消しゴム摺動試験後の水接触角が100°未満であった場合、B(耐摺動性に優れていない)と評価した。
【0101】
[動摩擦係数]
自動摩擦摩耗解析装置(協和界面科学社製「TSf-503」)を用いて、滑り片として10mmφのフェルトを使用し、荷重500g、摺動距離50mm、速度1.67mm/分の条件で、評価用試料の防汚層表面を一方向に擦過し、得られた摩擦係数(摩擦力/荷重)の平均値を防汚層の動摩擦係数とした。動摩擦係数が0.160以下であった場合、「耐擦傷性に優れている」と評価した。一方、動摩擦係数が0.160を超えていた場合、「耐擦傷性に優れていない」と評価した。
【0102】
<評価結果>
実施例1及び比較例1について、水接触角、耐摺動性及び動摩擦係数の評価結果を表1に示す。
【0103】
【0104】
実施例1では、脱気工程における加熱温度が150℃であった。表1に示すように、実施例1では、蒸着温度195℃~300℃のいずれについても、水接触角が110°以上であった。よって、実施例1の防汚フィルムは、長手方向の全域にわたって防汚性に優れていた。実施例1では、蒸着温度195℃~300℃のいずれについても、耐摺動性がAであった。よって、実施例1の防汚フィルムは、長手方向の全域にわたって耐摺動性に優れていた。実施例1では、蒸着温度195℃~300℃のいずれについても、動摩擦係数が0.160以下であった。よって、実施例1の防汚フィルムは、長手方向の全域にわたって耐擦傷性に優れていた。
【0105】
比較例1では、脱気工程における加熱温度が100℃であった。表1に示すように、比較例1では、蒸着温度が195℃及び200℃の際に防汚層が形成された箇所の水接触角が110°未満であった。よって、比較例1の防汚フィルムの一部は、防汚性に優れていなかった。比較例1では、蒸着温度が195℃及び200℃の際に防汚層が形成された箇所の耐摺動性がBであった。よって、比較例1の防汚フィルムの一部は、耐摺動性に優れていなかった。比較例1では、蒸着温度が195℃及び200℃の際に防汚層が形成された箇所の動摩擦係数が0.160を超えていた。よって、比較例1の防汚フィルムの一部は、耐擦傷性に優れていなかった。
【0106】
また、実施例1及び比較例1について、下記式にて歩留まり率(単位:%)を計算した結果、実施例1の歩留まり率は、比較例1の歩留まり率よりも10%高かった。なお、以下の式において、「防汚特性が確保された箇所の長さ」とは、水接触角が110°以上であり、耐摺動性がAであり、動摩擦係数が0.160以下である箇所の長さ(単位:m)を意味する。また、以下の式において、「全体の長さ」は、1000mである。
歩留まり率=100×防汚特性が確保された箇所の長さ/全体の長さ
【0107】
以上の結果から、本発明によれば、ロールトゥロール方式の真空蒸着法により防汚層を形成する際の歩留まりの低下を抑制できることが示された。
【符号の説明】
【0108】
15 :防汚剤組成物
20 :ワークフィルム
100 :防汚フィルム
105 :防汚層